<リプレイ>
「えー、お土産ないのぉ?」 それが、エルフの医術士・ミリアム(a03132)の第一声だった。ミリアムに苦笑する、二つお下げの戦乙女・シフォン(a90090)。 「だって、今回の依頼はモンスターに占拠された水源を取り返すのが仕事だもの」 「そうだぞ、ミリアム」 したり顔でニュー・ダグラス(a02103)が言った。 「水は生活の基盤だからな。村人たちは困ってるみてえだし、早くなんとかしてやらねえとな」 「水源を占拠するとは、はた迷惑な話もあったもんじゃのう」 氷輪に仇成す・サンタナ(a03094)が頷く。見知らぬ旅人・ラファエル(a02286)が、水源を奪われた村に立ち寄った時に、水源を取り返してほしいと、頭を下げた村人の姿を思い出す。 「希望のグリモアの名にかけて、水源を取り返すわよ!」 「私も、二つ名の『癒しの雨』の通りに、潤いをもたらす存在になりたいですね」 癒しの雨・メイ(a02387)の言葉に、微笑む白き一陣の旋風・ロウハート(a04483)。視線に気づいたメイが真っ赤になってうつむく。 「メイさんロウくんらぶらぶですか……羨ましいですにゃ」 ラファエルの呟きに、くすくす笑う凛花姫・シャルラハ(a05856)。 「水源を占領してるモンスターって、ウーズに人の上半身が付いてるんですよね?」 「アリシューザさんは、女王と重騎士って言ってたっすね」 野に咲く木春菊・クラリス(a02367)の問いに、山峰を護る誇り高き獣・ラフティーン(a04085)が答えた。 「あう……ちょっと怖い姿の気もしますけど」 考えるクラリス。 「グリモアの加護を失う前は、仲のいい恋人さんだったんでしょうか?」 「女王と騎士……まるでヒロイックサーガですね」 ロウハートの言葉に、風来の冒険者・ルーク(a06668)が言った。 「というより、悪の女王と、それを守る悪の騎士って感じだけどね」 「じゃあ、私たちは悪の女王を倒す正義の冒険者たちですね」 「ていうかそれ、まんまにゃり」 クラリスの言葉に突っ込む、シャルラハのせりふに笑う一同。 「ダグラス殿、この道じゃないかのう?」 森の奥に続く脇道の前で、サンタナが立ち止まる。足元に、「この先、水源」と書かれた色あせた看板が、うち捨てられていた。ダグラスが無言でそれを拾い上げると、再び立て直す。 「よし、行くぞ」 全員が頷くと水源へと続く道に足を踏み入れた。
森の中を続く小道を歩き、小さな橋を渡る。綺麗な水が流れているはずの小川は干上がっており、シャルラハがそれを見て苦い表情を浮かべた。まもなく、森が急に開けた。 枯れ果てた水源の底に、2匹のモンスターはいた。皆が女王と呼んだ、巨大なウーズを見て、ミリアムは息を飲んだ。真っ赤なウーズの小山の頂上に、胸から上だけの女。白目のない深紅の瞳は人間のそれではなかった。ウーズの上に鎧が載ったような重騎士が、4本腕の剣をひらめかせると、立ちふさがるように前に出た。 「みんな気を付けて。くれぐれも無理はしないようにね」 マントの奥から、氷女神の魔剣を引き抜くルーク。 「行きます! 鎧進化!!」 クラリスが両手の拳を握りしめて、鎧進化を発動させる。けん制するように、重騎士の前に展開するラファエルとルーク。ラフティーンが、弓を構えたまま女王の側面へと回り込む。それを見た重騎士が、女王とラフティーンの間に割って入ろうとする。クラリスが、重騎士目掛けて突進した。 「はあっ!」 重騎士は、クラリスが自信を持って蹴り上げた旋空脚を、やすやすと一本の腕で受け止めると、剣と一体化している2本の腕を振り下ろした。切っ先をすんででかわすクラリス。その隙をついて、ラフティーンが女王へホーミングアローを放った。 「あんなデカイ的、外しっこないっすよ!」 だが、命中したホーミングアローは、ほとんど効いていないようだった。女王の体が大きく震えると、矢をつがえようとした、ラフティーン目掛けて数発の粘液の塊が放たれた。 「おわぁっ!」 次々と足元に炸裂し、飛びずさるラフティーン。女王の方へ、ロウハートが駆け出す。それを見た重騎士が、下半身がウーズとは思えないほどの早さで回り込む。 「これでもくらいやがれッ!」 ダグラスが放った気高き銀狼は、重騎士に命中こそしたものの、拘束には至らず、かき消えた。 「ち、外した!」 接近してきた重騎士に、ロウハートの目が光った。 「引っ掛かりましたね」 その矛先を重騎士に変えるや、ロウハートが電刃衝をたたき付ける。 「なにっ?」 重騎士は、2本の腕でロウハートの攻撃を受け止めた。受け止められたヴィントが光を放つも、命中には至らなかった。横合いからなぎ払うようにして飛んできた重騎士の攻撃を、ロウハートはかわしたものの、重騎士が不意に突き出した別の腕が、ロウハートを数メートル後方へ吹っ飛ばした。 「ロウハートさん!」 悲鳴をあげるメイ。重騎士が、倒れ込むロウハートに迫る。 「させないですじゃ!」 サンタナが、ロウハートの前に飛び出すと、すれ違いざまに飛燕刃で重騎士を斬った。明らかにダメージを与えたのか、重騎士が後ずさる。重騎士の背後で、女王の体が大きく震えるのを見たメイが怒鳴った。 「攻撃が来ますッ!」 メイは、女王が粘液を放つ予兆を一発で見抜いた。 「させないなりよ!」 シャルラハが放ったエンブレムシャワーが、粘液を撃とうした女王の出ばなをくじいた。それでも、数発の粘液の塊が放たれ、全員がそれをかわした。ルークの矢返しの剣風は、粘液の塊には効果がないことがわかった。 「女王の注意はこっちに引きつけるっす!」 ラフティーンは、女王へナパームアローを放った。狙いは外れることなく女王の巨体に命中すると、派手に炸裂して赤い体液をぶちまいた。瞳しかない女王の顔がラフティーンに向けられると、別方向からメイのスキュラフレイムが命中し、女王の体を黒い炎が包んだ。双方向からの攻撃に、重騎士の動きが躊躇するかのように鈍くなるや、横合いから再び放たれたダグラスの気高き銀狼が重騎士を組み伏せた。それを見て、飛び出したのはルークだった。 「疾風の如く……斬るッ!」 ルークの流水撃が、重騎士を真一文字になぎ払う。追い打ちを掛けるように、シフォンが大きく傾いだ重騎士に一撃を叩き込む。動けない重騎士にもう一撃を加えようと、シフォンが剣を構え直した時だった。 「シフォン、危ないッ!」 ミリアムの悲鳴。シャルラハとメイの攻撃で、怒り狂った女王が粘液の塊を雨あられのように撃ち、一発がシフォンを地面にたたき付けた。マヒして動けなくなったシフォンに、重騎士の4本の腕が振り下ろされようとした。が、クラリスの破鎧掌が重騎士の横っ面を張り倒し、よろめく間に、ロウハートがシフォンをかっさらった。すぐに体勢を立て直した重騎士が、クラリスと入れ違いに重騎士の前に立ちふさがったルーク目掛けて、4本のしなる腕を振り下ろそうとする。 「抜き打ちの速度なら、負けはしない!」 氷女神の魔剣の鍔を切るや、ルークの居合斬りが、重騎士に命中した。ぐらりと傾きつつも、苦し紛れの重騎士の一撃が、ルークに命中した。マヒして倒れ込むルークをサンタナが受け止めると、すぐに引き離す。ラファエルが、重騎士との間合いを一気に詰めると、その懐に飛び込んだ。 「死に神と……踊れ」 ソードラッシュが、重騎士に次々と炸裂する。 「地の果てまで」 最後の一撃が重騎士の鎧を砕いた。ラファエルの背後で、重騎士はその動きを止めると、崩れ落ちた。振り返ると、笑顔で呟いた。 「このせりふ、一度言って見たかったのよね」
重騎士が倒れ、女王が残された。 「残すはおめえだけだ」 ダグラスの言葉と共に女王を取り囲む冒険者達。 「シフォンさん、しっかりして下さい」 マヒしたシフォンを抱きかかえて後退するロウハート。メイは、毒消しの風でシフォンと、サンタナに担ぎ込まれたルークのマヒを回復させた。 「シフォン、回復してあげるね」 ミリアムのヒーリングウエーブがルークとシフォンを包む。 「大丈夫?」 「ありがとう、メイちゃん、ミリアムちゃん」 立ち上がったシフォンは、すぐさまロウハートと並んで、戦いへと戻っていく。それをメイは複雑な思いで見送り、その表情を見て取ったミリアムが言った。 「鈍感だよね、ロウハートも」 「いいんです」 え?となるミリアム。メイは言った。 「これが私の戦い方ですから」
「観念してもらうわよ!」 ラファエルの言葉に返ってきたのは、女王が次々と放つ粘液の塊だった。 「くそ、これじゃ近づけぬですじゃ!」 足元で砕け散る粘液の塊をよけつつ、サンタナが悲鳴をあげた。間断なく放たれる粘液の攻撃に、全員が近づくことが出来ない。 「動きを止めなきゃ」 シャルラハが描く紋章から、淡く光る無数の蝶が現れると、女王を取り囲んだ。舞飛ぶ胡蝶は女王を覆い尽くし、紋章の決めの手を打ち鳴らすと、音もなく消えた次の瞬間、女王が飛ばす粘液は、あきらかにその数が増えた。 「効いてない?」 「いや、そんなことはないっす!」 ラフティーンは、その攻撃があきらかに乱れていることに気づいた。 「奴は混乱してるっすよ!」 ためらうことなく、ラフティーンは矢をつがえた。 「当たれっす!」 ナパームアローが、女王の上半身に至近弾で命中して炸裂した。混乱の度合いを増したかのように、放たれる粘液の数は増えたものの、それらはほとんどあさっての方向に飛んでいった。 「シフォンさん、行きますよ!」 飛び出すロウハートとシフォン。めくら撃ちとなりつつある粘液の攻撃を巧みにかわすと、ロウハートは間合いに飛び込んだ。 「そろそろカーテンコールですよ! 下がりなさい!」 ロウハートの電刃衝が、女王の体を大きく切裂いた。それに続くように、シフォンの攻撃が命中する。 「おめえもエンブレムシャワーをくらいやがれ!」 ダグラスのエンブレムシャワーが、女王の体を次々と貫くと、女王の攻撃が、散発的になった。 「相手は弱ってる。一気にとどめを!」 ルークの言葉に、ラファエルとクラリスが間合いに飛び込んだ。 「希望のグリモアの名に掛けて!」 「行きますッ!!」 ラファエルのソードラッシュが、女王の体を何度も切裂き、クラリスの旋空脚が女王の巨体を震わせた。 「とどめだ!」 ルークの流水撃が、女王の巨体に命中する。だが、致命傷を与えるには至らなかった。粘液の塊を撃とうとした女王の胸に、ラフティーンのホーミングアローが命中した。断末魔の悲鳴をあげるかのようにひときわ大きく体を震わせた女王に、サンタナのカラミティエッジが一閃した。 「これで、終いですじゃ」 サンタナの槍が、急所を一撃で貫いた。飛びずさったサンタナの背後で、女性の形をしていた上半身が、みるみる溶けるように崩れ落ちていく。 「チェックメイト、かな」 呟いたルークの言葉に、「いや、相手は王様じゃないし」と喉まで出かかったラファエルは、その言葉を飲み込んだ。ぐすぐずと体を泡立たせながら、重騎士の亡きがらを飲み込み、悪臭を残して、その姿を失った。後には、何も残らなかった。 「倒せた……なりね」 シャルラハが息をついてへたりこむ。 「強かったですね」 クラリスの言葉に、剣を収めるルーク。 「俺は、女王と重騎士が合体するかと思ったっす」 ラフティーンの言葉に苦笑する一同。 「ねえ、モンスターを倒したら、水源が復活するんじゃないの?」 ミリアムの言葉に、あ、となる一同。周囲を見回したが、水が噴き出す気配はどこにもなかった。 「水源なんてどこにもないじゃない」 口をとがらせるミリアム。 「私は、モンスターを倒したら水が噴き出てくるものと思ってました」 クラリスの言葉に、同意するかのように頷くラファエル。 「これは困ったですじゃ……ん? ああっ!!」 サンタナがすっとんきょうな声を挙げたので、何事かと一同が振り返る。 「め、メイ殿! 足元、足元ですじゃ!」 メイの足元に小さな水たまりが出来ていた。シャルラハが杖で、水溜まりの中を突いてみると、澄んだ水が、高さ三十センチほどの水柱と共に地面から湧き出してきた。 「出たにゃり!」 「やったぁ!」 シャルラハとシフォンが抱きあって大喜びする。 「これで水源が復活するわね」 広がり始めた水たまりを見て、ラファエルは笑みを浮かべた。 「時間はかかりそうだけど、これで村人が水に困ることはなくなるね」 「良かったっす!」 ルークの言葉に、喜ぶラフティーン。湧き出る水をダグラスは口に含んだ。 「冷たくて美味いぞ」 にかっと漢笑いを浮かべたダグラス。その様子を微笑みながら見ていたメイの肩に、ロウハートはそっと手を置いた。 「良かった、ですね」 「はい」 メイは、満面の笑みを浮かべた。
森の木陰の合間から差し込む太陽の光が、水源の水面に反射し、穏やかなせせらぎの音が、涼しげに流れていく。 枯れた水源が、再び満々とした水を湛えるようになったのは、それから程なくのことであった。

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参加者:10人
作成日:2004/07/29
得票数:冒険活劇14
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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