潮風と太陽と〜Side A



   


<オープニング>


●れっつあばんちゅー。
 街中で大きな人の賑わいを見せた一角を見つけた白銀の霊査士・アズヴァル(a90071)が足を向けると、そこではテンションの高い、胡散臭い男が出店を広げ、大きな声を上げていた。どうやら、売り込みか何かのようだ。
「夏、きらめいて! 貴方も海でバカンスを楽しもう? 平和な夏の海でアバンチュールってのも乙な物Death。独り者、ソロプレイ大好きっ子の方も新たな出会いを求めて、老若男女問わず、是非に?」
「……何で疑問系なんですか?」
 アズヴァルの霊査の腕輪を見て、霊査士と見た男がビラを手渡す。ひとまず受け取るも、アズヴァルは少し訝しげな顔になってしまう。それ以前に、喋っている内容がどこをどう取っても胡散臭い事この上ない。
「いや、新たな出会いだけは運と本人の努力次第であるし。上手くいけばポロリもあるよ?(首がな)」
 目の前の男がぎすりと呟いた、微妙に不穏当な言葉を取り敢えずスルーしながら、ビラに目を通すアズヴァル。どうやら村興しの一環として、海辺に住むこの胡散臭い男が一役買って出たらしい。
 街でこうして営業活動を行い、冒険者達が来ればしめたもの。そうなれば、冒険者達がやってくる美しい海! 老若男女が集うパラ磯(パラダイス☆磯の略)さ行くだーみたいなキャッチをつけて更に拍車をかける積りのようだ。
「……よくわかりませんね」
「パライソってこのおじさんの住んでいる村だと『楽園』って意味みたいね」
 丁度そこを通りかかった白月の霊査士・ミニュイ(a90031)がアズヴァルの呟きに突っ込みをいれた。その手には同じく、男から渡されたビラ。
「おやミニュイさん。先日の星祭りではどうも」
「……私、山育ちだから、海で泳いだ事無いです」
 礼を述べるアズヴァルの袖を掴み、じーっと顔を見上げるミニュイ。これは若しかして、連れて行きなさい。と言う事なのだろうか。少しの間思案するが、彼女が指を放す様子は返答するまでなさそうに見える。
「あー……はい。分かりました。では皆さんで行きましょうか、こういうのは人が多い方が楽しいですし」
 彼がそう告げると、ミニュイは楽しげに頷いて酒場に向かい、駆け出すのだった。

●夏の楽園?
 そんなやり取りをしていた2人の銀髪の霊査士と少し離れた場所。
 街中を歩く黒髪に紅い瞳の男が2人……。
「ねえねえ、シギルさん。海だって。海ー」
「はいはい。海が何だって?」
 怪しげな男から貰ったチラシに目を通し、連れに声をかける春風駘蕩・クロト(a90034)。
 声をかけられた白夜の射手・シギル(a90122)は、暑さのためかちょっと不機嫌だ。
「ボクも海に行きたいな〜♪ って思って。ねえ、行こうよ」
「だぁっ! くっつくな暑苦しい! 大体何で野郎のお前を連れて行かなきゃなんねーんだ!」
 腕をくいくい、と引っ張るクロトの手を大袈裟に振り払うシギル。
 そんな彼の態度を気にもせず、クロトは続ける。
「えー。海、楽しいよ♪ 輝く太陽の下、スイカ割りとか、潮干狩りとか……」
「だから、お前と2人で行くのは嫌だって言ってんだよ」
 シギルにそう返されて……少し考え込んだクロトは、ぽむ、と手を打って顔を上げる。
「じゃあ、ミュリンさんとかアヤノさんを誘おうよ」
「海に子連れで行くつもりか? 誘うなら独身女性にしてくれ」
「……? ミュリンさんもアヤノさんも独身じゃない」
 シギルの言葉の意味が分からず、首を傾げるクロト。
 それに彼は、指を振って答える。
「ミュリンなんて連れて行ったら子守りになるに決まってるし、アヤノには男がいるだろうよ」
 要するに。シギルの中では、恋人がいる女性は『独身』ではないらしい。
 彼の大雑把な理論に、クロトが思わず苦笑する。
「ミュリンさんはともかく、アヤノさんが聞いたら卒倒しそうだね……」
「とにかく、だ。海に行くのは構わんが、お前と2人って言うのは寒い。寒すぎる。誰か他に行くヤツ見繕って来いよ」
「うーん。しょうがないなー」
 シギルの言葉に面倒臭そうな声をあげつつも、クロトの足は冒険者の酒場に向かう。
 あそこなら、きっと一緒に行ってくれる楽しい仲間がいるに違いないから……。

「ねえ、みんな。私達と一緒に海に遊びに行かない?」
「ねえ、みんな。ボク達と一緒に海に遊びに行かない?」

 酒場に入った第一声。
 それが同じものだったことに驚いて、ミニュイとクロトはお互いの顔を見合わせる。
 そして、手にしたチラシが同じものであることに気がついて……2人は声をあげて笑うのだった。

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参加者
NPC:白銀の霊査士・アズヴァル(a90071)



<リプレイ>

●序章
「輝く波! 夏の日差しの中で、水着を着たうら若きヲトメ達が波打ち際で戯れる姿は健康的であるなぁー。――野郎は邪魔(ペッ)」
 街角にいた胡散臭い男が、浜辺で遊ぶ冒険者達を見て絶景と満足げに頷く。一瞬ツバ吐いたのは気のせい。
「ってそこなMr.チェリー! ワタクシの許可無く一体何を焼いてますか!?」
「海ってイイナァ……って思ってな!」
 男の前にはベルゼベル。彼は絹のテントを建て、勝手に出店しているのだ。ちなみに店は焼肉屋。何の肉出してるかは不明。
「ヒャヒャヒャ、大丈夫! 喰えるってぇー」
 耳障りな笑い声と共に皿に乗せた肉を見せた。美味そうだが、デンジャラスな気がする。丁度その様子を見たアルベルは、無言ですてすてと歩き去ってしまう。それくらい、2人の間は微妙だった。
「どーみてもアレは人選ミスだよな……」
 彼らのやり取りを見て、短パンを穿いたティキが呟く。だが変なヤツが好きな事が多い冒険者の習性を考えれば、見事と言えなくも無い。
「よし来い、海に入れてやるぞ」
 ティキは一緒に連れてきていた、眉が書かれた間抜け顔のノソリンと共に波打ち際に向かった。

「よっし、海に着いたぞー!」
 赤いビキニを来たカーナが海に向かって元気に叫ぶ。一方、そんな彼女と対照的に、リューリアは物静かだ。
「リースくん、私の水着ど、どうかな……?」
 彼女はなけなしの勇気を振り絞ってリースレッドに尋ねた。
 荷物持ちでスイカを2個も担いでいた彼だったが、彼は彼女の青いワンピース姿を暫し見て。
「いいと思うぞ?」
「ねぇ、スイカ割りはー?」
 海に来たのが初めてなキールは何もかもが目新しい。黄色のワンピースを着た彼女は海の家にも興味を示している。カーナからお小遣いを貰った事もあり、テンションがうなぎのぼりなのだ。
「木刀なら持ってきているし、他にも何人か集めてみるか?」
 リースレッドが眠そうな瞳をしながらも、提案する。すると、キールとカーナは飛び上がるかのように万歳をして。
「わかった、皆に声かけてみるよー!」
 溌剌とした声を上げて人集めに向かっていった。

「セイ、この食材は……」
 空の蒼に海の碧。山育ちのアズフェルが抱いた感慨を吹き飛ばすように、彼の前には文字通り山のような食材が積まれていた。出店でもさせるのかと思った刹那。
「安心してくれ、許可取ってるから問題ない。王子、めし。早くー」
 元凶のセイが思考を呼んだかの様に、清々しい笑顔で肩を叩いた。どうやら嵌める気満々らしいです。
「……仕方ないな」
 皆に振舞えば量も減るだろう。早く済ませて初めての海を堪能したいとアズフェルは思うのだった。

「随分人出がありますね、クーナンさんっ」
「ちょっと私達も頑張らないといけませんね」
 クーナンが周囲を見ると、チラシを見ていた冒険者達の大半が居た。他にも結構な人出があり、村興しの初めとしては申し分ない。
「何事も無く、一日が終わるようにね」
「任せてください! 私、船の上で育ってて泳ぎは得意ですから!」
 元気いっぱいに答える黒のセパレート姿のキナ。既に準備運動がてらに気が済むまで泳いできており、更には尻尾がふさふさと揺れていて色々な意味でやる気は充分だ。
「そうね、私は少し日陰でお昼寝しようかしら」
 櫓の傍にある休息所を見るクーナン。櫓は村人達が交代で客の様子を見守っているので問題は無い。体を休めるのも仕事のうちだ。
 彼女が空き場所を確保してうとうとし始めると、ラジスラヴァの弾くリュートの音が聞こえて来て、ゆるゆると心地よい眠りへと誘った。

「にしても。美人さんが多いから目の保養に困らないね〜♪」
 フィルの心の中からカップルの数も多い現実はさておき。実際の所、女性陣が多いのは事実である。白いセパレーツを着たリューシャやリツ、グリンダやミライと、水際でのんびりと楽しんでいる女性達を見て、満喫するフィル。
「しかし、あんまり見ていると身の危険が降りかかってきそうだな」
 ふと保身を考えてしまうフィルだったが、保身とはまた別の欲求もあって。泳ぎながら水中の魚を観察するのも良いと思案して、海に入ったのだった。

「ひょ〜、海は広ぇわー」
 青く澄んだ空の下で、デュラシアははしゃぎつつ足早に海へと向かう。一緒に来ているアヤも同じくらいにはしゃいでおり、既に浮き輪をつけて海の上に浮かんでいた。
「デュラシアさん、こっちですよー!」
 大きな百合の花が描かれた水着姿のアヤが、彼に向けて手を振る。楽しそうな彼女を見て、デュラシアは、幸せな気分を満喫していた。

「海ってしょっぱいじゃないっ! もー!」
「……初っ端から私、こんなですか」
 海について早々、ミニュイに勢い良く頭から水をかけられるアズヴァル。微妙に切ない顔になっているよーな。
「ミニュイちゃん、一緒に泳がない? 大丈夫ならだけど♪」
「うん、大丈夫。あんまり遠くにいくのはちょっと怖いけど」
 ミライと一緒にシャチさん浮き輪を抱え、ざぶざぶと波を掻き分けて泳ぐミニュイ。
「大丈夫よ、いざとなったら助けるから」
 心強い一声をルティスは自信を込めて放つ。そんな彼女達をそっと、リツは波打ち際で見守るのだった。

「し、師匠……まってくださいよぅー」
 フユカさんとだとあんなにゆっくりなのにー! と心中で叫ぶが、それは届かず。追いつこうと駆け出そうとしたその途端。メディスは砂に足を取られて顔からつんのめってしまう。
「転ぶのはいつもの事だけど……砂でよかったです」
 鼻の頭についた砂を落としながらも、ほんのり涙ぐむ。
「おい、大丈夫か」
 師匠であるレオニードが傍に立ち、メディスに手を差し伸べる。いつものペースで歩いていた事を謝ると、ゆっくりとメディスを立ち上がらせた。
「み……大丈夫、です」
 ちょっと泣き顔になりつつも、堪える彼女の様子にレオニードは苦笑して。
「それじゃ、海の家にでも寄って何か食べるか。メディスも少し休んで落ち着こうな」

●海の家
「夏ですか。結構好きですよ、開放的な気持ちにもなれますしね」
 イチゴ味のカキ氷を食べながら、ファオの問いかけに答えるアズヴァル。
「そうなんですか、それは良かったです」
 彼と同じものをゆっくりと食べるファオ。ハーフパンツと白い上着を身に付けた彼女は実に、らしさを感じられる。
「それにしても上着、脱がないんですか?」
 アズヴァルはアティフの姿を見て問う。彼女は熱帯系の艶やかな花々が描かれたパレオの上に、シャツを着ているのだ。
「ちょっと……人前に肌を出すのが恥ずかしいですの」
 師匠と思う彼の言葉に、恥ずかしさで頬が赤くなる。踏ん切りがつけばとは本人も思うのだが、なかなかそうも行かず。レモン味の氷を少し口に運ぶが、頬の熱が下がる気配は中々ない。
「アティフさんはもっと自信を持つべきなのにゃ♪」
 ウィスタリアがそんな彼女を見て、びしっと指摘を入れた。赤地に白い大きな花柄の水着を着たウィスタリアは折角着てる水着がもったいないにゃー! などと更につっこんでくる。
「あまり突っ込んでばかりでも困ってしまいますよ」
「あ、アティフさんだー!」
 不意に聞き覚えのある声が上がった。ふと顔を向けるとメディスとレオニードの姿。
「ふむ……これはまた」
 思いもよらぬ光景に遭遇し、一瞬、メディスと見比べた後に感嘆の瞳をしつつ、目を逸らすレオニード。
「皆さん、楽しそうですね」
 アズヴァルの隣にかけたファオが、彼らの様子を見て楽しそうに微笑んだ。
「それにしても、ポロリ。なさそうですね」
「ポロリ、お化け屋敷でもあるのかと思ってましたが……違うみたいです」
 キナとラジスラヴァが溜息混じりに言うが、流石にお化け屋敷は無いだろう。などと思う。何せ誰もお化け屋敷をやらなかったのだから、無いのは寧ろ当たり前である。
「お化け屋敷以外のポロリは、女の子の敵なのねっ♪」
 ぎゅっと握りこぶしを作ってウィスタリアは力説する。水着のポロリを画策する者は死あるべし、と言いそうな位の勢いだ。その勢いのお陰か知らないが、ポロリはそのまま立ち消えたとか。なんとか。

「きゃ、う、浮き輪がっ」
「なんだ、大丈夫かアヤちゃんっ!」
 彼女の異変を察知したデュラシアは慌てて傍まで向かうと、彼女の浮き輪が破けてしまっていた。
 どうにかわたふたとするアヤに手を貸して、浜辺までどうにか誘導すると、2人はぺたりと砂浜に座り込む。
「あ、ありがとうございます、デュラシアさん……」
 呼吸が整わない彼に、そっと助けられた礼にと口付けるアヤ。その途端、デュラシアの頬は真っ赤になってしまうのだった。

●みんなでビーチバレー
「アズフェル、そっち行ったぜー」
「よし、返すぞ」
「リースおにいちゃん、がんばってー!」
「あたいが居れば絶対勝てるってー!」
 村の青年集に混じって、冒険者達はビーチバレーを楽しんでいた。のんびりとしたペースでトスが上がり、オレンジ色のワンピースを着たミニュイが飛んで、アタック。
「ナイスアタック、ミニュイちゃん〜♪」
「うわ、何これ痛いって!」
 ミライの可愛らしい応援にミニュイが応える様に顔を向けたと同時に、レシーブしたセイガが腕に痛みを感じて叫ぶ。そこには何故かクラゲがへばりついていた。よく見かける青いふちの着いた奴です。
「だぁー! クラゲかよ!」
「大丈夫だ」
 青年の1人が泣きながらトスをあげると、カーナがアタックをかける。勢いよく放たれるが、アズフェルは的確にレシーブして繋げる。幾度かの応酬の後、ルティスは大きくジャンプして、太陽を背にする。
「ミラージュアターック!」 
 2体の分身を伴って、力強い叫びと共に、ルティスがボールをミニュイに向けて放つ。って、アビリティなんか使ったら。
「ルティスさんひどい〜……」
 ミニュイはぽてりと崩れ落ちた。ボールはコートから飛び出して、明後日の方向に飛んでいく。
「ミニュイさん、大丈夫ですか?」
 観戦していたリツが声をかけつつ近づき、気絶した彼女に膝枕をする。
「すみません、リツさん。……ボールは私が取ってきますね」
 ルティスが申し訳ないと一つ頭を下げるのを気遣いつつ、アズヴァルはボールを取りに行くのだった。

「不機嫌そう、ですね」
「只でさえ潮風で髪が荒れるのに、海になぞ入れるか」
 村で手に入れたキッパーを齧りつつ、椅子に横たわって本を読みつつ酒を呑むトール。髪の長い彼は色々と面倒なので海は敬遠したいらしい。
「それよりも貴様だ。他の奴らと少しは楽しんで来たらどうだ」
 パラソルの下、白いワンピースを着たヒヅキは、困りましたね、と少し眉をひそめる。
「海に入るのはちょっと……」
 困った顔をして手に持った日傘の柄を玩ぶ。エヴィルマのお目付けの積りの彼女は、水に入る気は無いようだ。
「なんだ、アンタも来てたんだ」
 トールの姿を見かけ、水着姿のエヴィルマが声をかけた。今の今まで、海で泳いでいた彼女にヒヅキがジト目になるが、意にも介さずにパラソルの下に入る。
「あまり無理すると体に障りますよ」
「言うだけ無駄だ。どうせ聞きやせん」
 珍しく注意をするヒヅキだが、事実、エヴィルマは彼女の制止を振り切って入っていたのだから今更だ。
「夏の似合わない男に言われるのってちょっと癪ね。ま、ヒヅキ的には居た方が良いんだろうけど?」
 濡れた髪をかきあげる彼女に、ヒヅキが抗議の視線を向ける。トールは2人の話に気付かないのか、そのまま呑みながら本を読む。
「色々とおありなのですね」
 その様子を見て、レンリは苦笑する。
「ま、いいわ。あたしは泳いでくるからさ。水泳教えないといけないし」
「そう言えば、スージーさんはどちらに?」
 また海に足を向けたエヴィルマを、彼らの傍にいたレンリが呼び止める。あっち、と彼女が指差した方に視線を向けると、スージーとハーフパンツ姿のバーミリオンが見えた。
「見ててくださいねー♪ ほらー……」
 バーミリオンと一緒にいたスージーは体の力を抜いてぷかーと海に浮く。だが。
「わぁ、浮いてるーって……スージーさんが流されてるーっ!」
 言ったとおりと思ったのもつかの間。彼女はただ浮いているだけなので当然、引き潮に引かれて沖に流される。バーミリオンは足早に波を蹴立てて彼女の腕を掴む。
「危ないからもっと砂浜の傍じゃないとダメなのねー」
「わ、ご、ごめんなさいですよー」
 謝る彼女を見て、バーミリオンはきちんと見てないとダメかなあ……と心配になるのだった。

●其々に
「リースっ!」
 周りから人が少なくなった頃を見計らって、カーナが真正面から飛び込む。
「呼び出してすまなかったな」
 これを渡したかったんだ、とリースは包みを彼女に渡す。開くと、中からは貝を模った銀製のイヤリングがあった。
「うわぁ、ありがとーっ!」
 感激のあまり、舞い上がってカーナはそのままキスをする。そんな2人を夕焼けはそっと、見守っていた。

「たまにはって思ったんやけど、よかったなあ」
 夕焼けが赤く染める浜辺で、抹茶色のトランクスを身に付けたアルフィルクは満足気に頷く。目の前には白いタンクビキニを身に付けたグリンダが居た。
「私、海は初めてだったんですけど……広かったですね」
 にこりと微笑むグリンダ。ふとアルを砂に埋めた事を思い、つい笑いが込み上げる。
「どうしたんや、いきなり」
「いえ、ちょっと思い出してしまって」
 思い当たり、とほほーと脱力気味になるアルフィルク。だがそれも過ぎてしまえば良い思い出な訳で。
「ごめんなさい。でも、すごく楽しかったわ」
 毅然と、メリハリのついた口調で満面の笑顔になるグリンダ。そんな彼女の表情を見て、アルフィリクはそっと彼女の肩に上着をかけながら。
「……グリンダにはいつも自分の隣に居て欲しいんや」
「今、傍にいるじゃない。おかしい事言うのね?」
 ああ、いつもの彼女だなあと。返事を聞いた彼はしみじみ思うのだった。

 同じく、夕焼けの中に歩く影が2つ。動くたびに影はゆらゆらと長く伸び、重なる。影の主は帰路に着いたリューシャとヤヨイだった。
「海、誘ってくれてちょっと嬉しかったです。可愛い貝殻も見つけられたし」
「そうか、そう言って貰えると……俺も嬉しい」
 ほんの少し。戸惑いを覚えながらも笑みを見せるリューシャに、ヤヨイは率直に可愛いと思った。自分の中何かが早鐘の様に動悸を打たせるが、彼女には聞こえてはいないだろうか?
「夕日が綺麗ですよね」
 海の向こうに沈む夕日を見ると、赤々とした姿はもう半分になっていた。
 姿を半分にした太陽の様に、体も疲れを訴える。
 けれど。
「体は疲れちゃったけど、心は軽いです」
 ありがとう、と。戸惑いつつ、言葉にする白いワンピースを着た彼女の手を、ヤヨイはきゅっと握り締めた。
「……ああ。また、一緒に来ような」
 影に少しだけ、追いついた一瞬だった。


マスター:石動幸 紹介ページ
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作成日:2004/08/11
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