死の国へ向かえ:屍の群



<オープニング>


●死の国へ向かえ
「さぁ、みんな、お仕事よ!」
 ヒトの霊査士・リゼルは気合を入れて、酒場に集っていた冒険者を呼び集めた。

「モンスター地域解放戦の時にアンデッドが群れてた西方について覚えてる?」
 リゼルの問いに、数人が頷いた。
 西方については、ソルレオン領と接する地域であった為、手出しを控えていた地域であった筈。
 その後、アンデッドによって作られた骨の城の存在や、統率されたアンデッドの存在が確認されており、アンサラー護衛士団による調査も行われているが……。

「この地域について、東方ソルレオンの聖域で救出したソルレオンの少年から重要な情報がもたらされたの」
 その情報は『ランドアース大陸の下には別の世界がある』という衝撃的なものだった。
 彼がいうには、ランドアース大陸の地下には地獄のような世界があり、その地獄とランドアースとを繋ぐ『地獄の穴』が開こうとしているというのだ。

「ソルレオンの冒険者達が、リザードマンに聖域を奪われたのは、この『地獄の穴』に対する大作戦を行う為に聖域が手薄になっていた隙を衝かれたからなのですって」
 リゼルはそう説明すると、改めて、冒険者達を見渡した。

「東方ソルレオンがリザードマンに滅ぼされてから、1年以上が経過しているわ。状況は、時間の分だけ悪化していると考えて間違いは無いわね。
 もしかしたら、もう一刻の猶予も無いかもしれない……」

 死の国と呼ばれる地域は、骨の城を抜けて西に進んだ場所にある。
 冒険者達よ、死の国を護るように防御を固めるアンデッド達を切り伏せ叩き潰すのだ!

「今回の目的は、死の国への進路上のアンデッドを駆逐する事。切って切って切りまくって……活路を開いてちょうだい!」
 最後に、リゼルはそう付け加えたのだった。

●屍の群
「犬グドンの群れがアンデッドになって徘徊しているの。その退治を頼むわ。数は2百匹くらいね。集団でただ移動しているだけで連携した動きをする訳じゃないんだけれど、数が多いから十分気をつけてちょうだい」
 リゼルの言葉に頷く冒険者たち。確かにたかがアンデッドと侮ってはかかれない数字だ。
「群れは昼間、暗い森の中をゆっくり歩く位のスピードで移動してるわ。夜になると森から出て広い道を進んでいるみたい。生物の気配を求めてね」
 そう言うとリゼルは選択肢を告げた。アンデッドを襲撃する道はふたつ。
 昼間に深い森で叩くか、夜に広い場所で戦うか。
「昼間ならアンデッドの動きは鈍いけれど、暗い森の中での戦闘は木や藪が邪魔で動きが制限されるし、不意打ちを受ける可能性もあるわ。夜に開けた場所でだったら思いっきり戦えるでしょうけど敵の動きも昼間より早いから、いっぺんに多くのアンデッドと戦わざるを得ないでしょうね」
 それぞれのメリット、デメリットを伝えてリゼルは冒険者達の顔を見回した。
「良く話し合って戦う時間と場所を決めてちょうだい。あ、昼も夜も戦うなんて無理よ? 戦力を分散したら危ないし、ぶっ通しで戦うなんていくら冒険者でも倒れちゃうからね! まぁ、最終的にどうするかはみんなに任せるわ…… 頑張ってね、期待してるわよ!」

!注意!
 このシナリオは同盟諸国の命運を掛けた重要なシナリオ(全体シナリオ)となっています。全体シナリオは、通常の依頼よりも危険度が高く、その結果は全体の状況に大きな影響を与えます。
 全体シナリオでは『グリモアエフェクト』と言う特別なグリモアの加護を得る事ができます。このグリモアエフェクトを得たキャラクターは、シナリオ中に1回だけ非常に強力な力(攻撃或いは行動)を発揮する事ができます。

 グリモアエフェクトは参加者全員が『グリモアエフェクトに相応しい行為』を行う事で発揮しやすくなります。
この『グリモアエフェクトに相応しい行為』はシナリオ毎に変化します。
 霊査士リゼルの『グリモアエフェクトに相応しい行為』は『協力(consensus)』となります。

※グリモアエフェクトについては、図書館の<霊査士>の項目で確認する事ができます。

マスターからのコメントを見る

参加者
朽葉の八咫狐・ルディ(a00300)
明告の風・ヒース(a00692)
蒼天の幻想・トゥバン(a01283)
柳緑花紅・セイガ(a01345)
星刻の牙狩人・セイナ(a01373)
ニュー・ダグラス(a02103)
焔銅の凶剣・シン(a02227)
剣舞姫・カチェア(a02558)
沙海蜥蜴・パステル(a07491)



<リプレイ>

●宵待ち黄泉路
 死の国で迎える夜は、闇の色が幾分濃いように思われた。ねっとりと纏わり付く生温い風を頬に感じながら、焔銅の凶剣・シン(a02227)は大地に突き刺した大剣に背中を預け、悠然と空を見上げる。ぶ厚い雲に閉ざされた天空に星は無い、月も見えない。ただ自らの手で木に吊り下げたランタンが炎を宿して赤く光っていた。
 戦闘を夜に定めた冒険者達は昼間に準備を整えた後、アンデッドを待つ間は各々休息を取っていた。彼らの表情や態度に2百有余の大群を相手にする緊張感や気負いは無い。回復要員として戦列に加わったオリエを見て何やら相好を崩している臥龍の武人・トゥバン(a01283)に、呆れながらその耳を引っ張る剣舞姫・カチェア(a02558)。見張りの為に登った木の上では星刻の牙狩人・セイナ(a01373)が「何故、101匹じゃないのですか!!」と妙な事に憤慨していたり。ニュー・ダグラス(a02103)は相棒にニッカリ漢笑顔でこんな事を言う。
「どっちがより多く倒せるか勝負しねぇか?」
「いいですよ、望む所です」
 明告の風・ヒース(a00692)は秀麗な顔立ちに茶目っ気たっぷりな笑顔を浮かべてそう答えた。彼らが陣を張る場所は赤茶けた土を剥き出しにした幅広い道の中心で、整備された街道では無いのだが、何処までも続く森林を割くように一直線に走っている。もし彼らに翼があったのなら、まるで巨大な『何か』に削り取られたかのような赤い一本の軌道が上空から見られただろう。
「し。聞こえます……」
 朽葉の八咫狐・ルディ(a00300)が唇に指を当てて仲間の注意を促した。風に乗って聞こえるのは木々のざわめきと不吉な振動だった。それが近付いてくる。そう、道に溢れ出したアンデッドの群れが蠢きながら進む音だった。闇に目を凝らしていたセイナが警告の声を発するより早く、柳緑花紅・セイガ(a01345)らが仕掛けた鳴子が静寂を切り裂き鳴り響く。
 休息は終わった。

●激闘の果てに
 ヒースの放った火矢が油を染み込ませた櫓に当たると篝火が周囲を照らし出す。2度、3度。続けて灯された頃にはアンデッドの先陣は目と鼻の先だ。もとより、アンデッドに怯みは無い。生物の気配を感じて押し寄せてくる一群の前方に飛び出した沙海の萌竜・パステル(a07491)は仲間を巻き込まない位置から砂礫陣奥義を放った。
 大地を削った赤茶の砂礫が視界を覆う。砂煙に乗じて打ち出されたルディのニードルスピア奥義。幾本もの鋭い針が腐肉に突き刺さるとアンデッドは悲鳴も上げずに崩れ落ちた。だがそれはまだ群れの一角に過ぎない。砂礫をものともせず次々と現れる屍は前衛に出た冒険者達目掛けて一斉に武器を振るった。一度に数体もの攻撃を受けたパステルは2回までかわし、一撃を受け、4度目の攻撃はシンの大剣が阻んだ。赤く輝く刃が炎を映して煌く。
「団体さんのお出ましか。つまらねぇもんだが、持っていけよ」
 あの世にな、と低く呟いた彼が横薙ぎに払った斬撃が視界にいた全ての屍を押し返したがそれも一瞬のこと。動かなくなったアンデッドを踏み潰してさらに群れは押し寄せる。後方からバラバラと降る矢の雨はカチェアの展開したストリームフィールドが阻んだ。その援護を受けて盾で矢を返したトゥバンは相棒の咆哮で動きを止めた敵を流水撃奥義で切り伏せる。飛び散った肉片は強烈な臭気を振り撒いた。
「次から次へとまったく……。犬グドンのゾンビなんぞ何百匹行進しても可愛くないぞ」
 匂いに辟易しながらセイガが言うと、まったくだとトゥバンも頷く。
「孤立しないように気をつけろよ」
「おう、行くぜ相棒」
「ああ」
 再び上がったセイガの紅蓮の咆哮に頼もしげな笑みを返してトゥバンは想剣 『ESPERANZA』を握りなおした。

 長い戦いになった。
 群れの後方で上がった爆音はセイナの放ったナパームアロー奥義だろう。仲間に被害が及ばないよう、高い木の上から遠方に向けて慎重に射られた矢はアンデッドが密集する地点で業火を燃え上がらせた。だが、その身を炎に舐められながらも、アンデッドは動きを止めない。冒険者が一度攻撃すれば、十の反撃が返ってくる。戦場は彼らの思惑よりもずっと、乱戦の様相を呈してきた。次第に体力は削られ、徐々に押され始める。
「オリエ、頼む!」
 戦況を見ながら戦っていたカチェアはミラージュアタックで一体を沈めながら後方で待機する医術士に声を掛けた。頷いた彼女の宝珠が輝き、周囲に癒しの光が溢れる。その瞬間にはもう、次の敵が討ちかかってくるのだ。
 ダグラスの作り出した土塊の下僕が敵の一撃で粉砕される。その隙に描かれた紋章から解き放たれた光弾がアンデッドの一塊へ光の軌跡を描いて吸い込まれ、数体が倒れる。難を逃れた敵にはヒースのホーミングアローが止めを刺した。
 互いに背中を預けて戦う彼らに死角は無いが、圧倒的な数の差に無傷ではいられない。視界の悪さもその要因だった。ランタンや篝火の及ばない闇の中からアンデッドは忽然と現れる。鳴子の音に反応して振り向いたパステルは練った気を刃に変えて、迫る屍へと飛燕刃奥義を叩き付けた。
「!!」
 息を整える間に襲い掛かってきたアンデッドの攻撃を避けきれず左肩を刺される。痛みと衝撃に座り込みそうになったパステルの瞳に初めての友達から貰った武器……凶牙・月下惨花が映った。
「また、逢いたいりゅ。逢って一緒に遊ぶでちゅ! だから、ここで倒れるわけにはいきまちぇん!!」
 決意を言葉に込めて。握りなおした太刀から突然、輝くオーラが迸った。煌きは渦を巻いてパステルの体を包み込む。それは、彼女だけではなく全ての冒険者達の身に起こっていた。希望のグリモアの加護が、光となって彼らを祝福している。
(「こんなの、酷いでちゅ。どうして、死んでまで戦わなくちゃならないのでちゅか!!」)
 怯えも、痛みも感じない体で。ただ彷徨い、殺す。その存在の哀れを思うと、パステルには泣きたいような、それでいて猛然とした怒りが湧き起こって来るのだ。
「もう、止めてくだちゃい!!」
 凝縮された輝きが太刀から放たれた。飛燕刃奥義は燦然としたオーラを纏ってアンデッドを真っ二つに切り裂く。崩れ落ちた屍から手離され、ガランと音を立てて大地に落ちた血錆びた剣を、パステルは荒い息の下、涙の滲む瞳で見ていた。

「ルディ、まだいけるか?」
「おかげさまで……余裕ですよ」
 自分を庇って傷だらけな狂戦士に呆れたような視線を投げかけて、少年は吼龍荒を掲げた。澄んだ水のごとき色合いの水晶玉が緋色に染まり、込められた力を開放する。オーラは幻獣……竜の姿を模って、屍の群れに黄金色の針を幾千と浴びせかけた。その攻撃に息を合わせてシンが動く。金と真紅のオーラを纏った凶剣アクター・ネファリウスが一閃すると、アンデッドの集団は溶岩に襲われ一瞬にして蒸発したかのように薙ぎ払われた。
「いくですね!」
 二人の壮絶な破壊力を誇る攻撃で空いた空間に、セイナの放った赤い矢が吸い込まれる。黄金の炎が爆発と共に巻き起こり、屍を燃やし尽くした。
業火と土煙を割ってカチェアは進む。オーラを放つ醒刀『蜃楼龍』がまるで自らの意思を持ったように躍動している気がして、彼女は躊躇わずその熱を解き放った。超高速の一撃を受けたアンデッドにはもう一人の彼女が現れ、同時に剣を振るったかのように見えただろう。一寸刻みに断たれる屍。煙の中から背後に現れた別の一体には、前もって召還していたリングスラッシャーが2対同時に襲いかかった。
「眠れ……」
 熱風に髪をなびかせ、振り返らず呟く。回転する金色の衝撃波に体を三つに裂かれた屍はもう動かなかった。
 炎から逃れるように押し寄せるアンデッドの群れを、額から流れる血にも構わずヒースは余裕の微笑で迎えた。
「僕達の恐ろしい波長のシンクロ、味わいますか? 遠慮なくです」
「いくぜぇ!」
 ダグラスが紋章を描くと黄金色の絢爛たる印が浮かび上がる。中央に『漢』という文字が見えるのは気のせいだろう。ヒースの番えた金色の矢には凝縮された熱が宿っている。紋章から輝く閃光が放たれるのと同時に、ヒースは矢を渾身の力で射た。
 数十もの光りの軌道に付き従うように添って届く爆矢。着弾した瞬間、そこに小さな太陽が現れたようだった。その場にいたアンデッド全てを消炭にした白炎は視界を焼いて、やがて黄金の炎を渦巻かせる。烈風に煽られ、満身創痍の二人は揃って藪の中に倒れこんだ。

「やるねぇ……」
「こっちも負けてらんねぇな、相棒」
 短く口笛を吹いて賞賛の意を表したトゥバンにセイガの瞳が語りかける。「当たり前だ」と不敵な笑みを浮かべた武人は、敵を引き付けるべく前方に躍り出た。虚ろな屍は生者の息吹を感じて折り重なり、もつれ合いながら迫る。
「みんな、まとめてブッ倒す!!」
 十分引き付けたのを見計らったセイガが喉を震わせ叫んだ。それに応えた金色の猛虎がオーラと共に現れ、猛々しい咆哮を轟かせる。何十もの敵はその凄まじき裂帛の気合を受けて一度に動きを止めた。
「これで……最後だ」
 想いを託されたトゥバンの長剣が、金色の煌きを放った。旋風が彼を中心に巻き起こる。彼は何かに思いを馳せるような揺らぎを瞳に浮かべると……ゆっくりと振り上げ、下ろした。黄金の衝撃波は放たれると同時に熱風を裂いてどこまでも伸びる。壮絶な光の斬撃は死へ誘う優しき輝きとなって、残った骸を一層した。
「渇かず飢えず・・・・・夢に還れ」
 圧倒的な力の前に塵となった屍に向けて、臥龍の唇から小さな呟きがこぼれ落ちた。

●勇者よ、剣を抱いて眠れ
「礼は言いませんよ」
 大樹に体を預けて座り込んだシンに、肩膝を付いて覗き込んだルディが言った。
「……いらねぇよ」
 立ち上がる気力はないのか、それでもいつもの悠然とした態度を崩さずシンが答える。体中に出来た裂傷から流れる血を一瞥して、少年は最後のヒーリングウェーブを使った。瞬く間に塞がる傷口を見守ってから、その場に腰を下ろす。
「?」
「これで、今日はもう、店じまいです……」
 眠そうな声で言われた一言に、シンは傷の痛みも忘れて笑った。
 全員が満身創痍で座り込む中、仲良く並んで大の字に伸びているダグラスとヒースは賭けの結果でひと悶着起こしている。
「二十はやったんだが……その後は忘れたな」
「僕は、五十は倒しましたよ」
「んなワケあるか! サバ読みすぎだっつーの!」
 ヒースの言葉に思わず体を起こしたダグラスだった。
「え? よんでませんよ、言いがかりです」
 とぼけたヒースの言葉もだいぶ眠そうだった。空は白々と明け、黎明が勇者達に降り注ぐ。今日も暑くなりそうだと考えたトゥバンは、両端を陣取って眠るカチェアとセイナを見て、頭をかくと苦笑を浮かべた。
「ま、いいか……」
 埃だらけの服を見下ろして。彼もいつしか、夢の住人になった。


マスター:有馬悠 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:9人
作成日:2004/08/16
得票数:戦闘29  ダーク3 
冒険結果:成功!
重傷者:明告の風・ヒース(a00692)  ニュー・ダグラス(a02103)  焔銅の凶剣・シン(a02227)  沙海蜥蜴・パステル(a07491) 
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。