ミーティアの誕生日



<オープニング>


「暑い……」
 テーブルに突っ伏してミーティアが呻いていた。暑さに弱いという訳ではないが、ここ最近の暑さにはうんざりしているらしい。
「ここの所、こんな感じなんですよ」
「お姉ちゃんったら……」
 ドリアッドの医術士・フレア(a90098)の話を受けて、酒場を訪れて来たミーティアの妹ホーリィがくすくすと笑った。以前、冒険者達の助けを借りて結婚指輪を受け取りに行った女性だ。その後無事に式を挙げ、今は新婚生活を満喫中とのこと。その彼女が何故酒場を訪れたかというと、依頼があるという訳でもなく、ただ姉の所へ遊びに来ただけらしい。
「どうせなら依頼の一つも持ってくればいいのに……」
「無茶言わないでよね。何だか急に会いたくなっただけなんだから……それにほら、もうすぐお姉ちゃんの誕生日だし」
 ぼやく姉に返されたホーリィの言葉。
 それを聞いてフレアは目を丸くし、ミーティアは……硬直する。
「そういえば、ミーティアさんの誕生日は知りませんでした」
「そうなの? お姉ちゃんの誕生日は8月15日なのよ」
「もうすぐじゃないですか。おめでたいですね、お祝いをしなくては……」
「……めでたくなんかないわよ……」
 盛り上がる2人を尻目に、ミーティアは沈み込む。その様子に首を傾げるホーリィ。
「……どうして?」
「そりゃ、だって……」
「?」
「……だって、30になるのよ!? 三十路よ、三十路! ああ、考えたくない……」
 自分で年の話をしておいて、更に沈み込む。まさしく自爆。
「あなた達は若くていいわねぇ……お肌だって綺麗だし、ホーリィなんか良い人捕まえるし……」
 しかも何やら僻みだすと来た。
 もう若くないという意識が強いらしい……見た目はそう捨てたものでもないのだが。
「えっと……まあ、それはそれとして……折角の誕生日ですからお祝いしたいですし、皆さんにも知らせますね」
「ちょっと、あなたは鬼!?」
 恨めしそうなミーティアの言葉を見事にスルーして、フレアは酒場を訪れる冒険者達に事情を話して回るのだった。
 かくしてミーティアの誕生日を祝おうという話が持ち上がったのである。

 で、当のミーティア本人はというと……
「ああ……絶対、オバサンとか言われる……」
 ……という具合に嘆いていたそうな。

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参加者
NPC:ヒトの霊査士・ミーティア(a90100)



<リプレイ>

「『誕生日おめでとう、都合でどうしても行けなくてごめん』だそうです」
「了解よ……はぁ」
 フレアから蒼天を擁く翠樹・セレストの言伝を受けると、ミーティアは深く溜息をついた。
 8月15日。とうとうこの日が来てしまった。

「はい、誕生日プレゼントねー」
「あー、うん……どうもありがとね」
 複雑な顔で礼を言いながら、ミーティアは蒼の閃剣・シュウが差し出したべりーめろんを受け取った。
「あ、中にゼリーが入ってるからね」
「手が込んでるわね」
 と、シュウがしげしげと彼女の顔を覗き込む。
「……何?」
「充分若いと思うが、やはり30という数字は気になるものなのかね……ぐお!?」
 脳天に霊査の腕輪の硬い部分がヒットした。これは痛い。
「その位置から堂々と言うとは勇気あるわね」
 呆れたようなミーティアの呟きに、思わず幸せを望む歌い手・リフィアが苦笑する。
「おめでたい事だと思うのですが……難しいですね」
 そんなに気になるのだろうか。まあでも、今日はお誕生日会なのだし。
「私は料理の用意をしますね……フレアさん、少しお手伝い願えますか?」
「あ、はい。いいですよ」
 蹲ったシュウを気の毒そうに見つめながら、二人は調理場へと姿を消す。
「お、料理なら俺にも手伝わせてくれ。腕には自信があるんだ」
 好みが分からなくてプレゼントを用意できなかった分働きたいと、ストライダーの忍び・ユンも二人の後を追った。
 一方。
「お姉ちゃん、折角来てくれた人に暴力は駄目でしょ?」
「そうは言ってもねぇ」
 ホーリィに窘められて頬杖をついたミーティアに、小さな向日葵が差し出される。
「えっと……ミーティアさんおめでとう」
「おめでとうございます。もっと早く分かっていればちゃんとケーキを作ってきたのですけど……」
 桜花の舞姫・フィオーレと風に乗る微笑みの歌姫・フルールの姉妹だった。
「あら、あなた達……ふふ、どうもありがと」
 花を受け取り、可愛らしい姉妹に微笑み返す。
「おや、この嬢ちゃん達も持って来てたのか」
「結構考える事って似るんですね」
 声のした方を見ると、蒼穹の疾風・ワスプとヒトの翔剣士・アスコットが小さな向日葵の束を手にして立っていた。
「あなた達は花束?」
「ああ、見た目はイマイチかも知れねえが、ちょいと調べたら誕生花がこれだったんでな」
「私もそれでヒメヒマワリを探して来たんです」
「へえ……」
 感心するミーティア。その肩をぽんと叩き、ワスプは優しく語りかけた。
「誕生日なんて、めでたいじゃねえか。素直に喜びなよ」
「……ええ、そうね」
「それに、たまたま30年前に生まれただけじゃねえか。オバサン呼ばわりは気にすることねえって」
 その瞬間、ミーティアは顔からテーブルにダイブした。励ますと見せかけてしっかり落とされた。そんな彼女を尻目に、ワスプは傍らの姉妹に「な?」と同意を求め……フィオーレは首を傾げつつ呟く。
「……おばさん?」
「やめてェ〜!」
 両耳を塞いで首を振る。と、その顔を新しくやって来た男が覗き込んだ。
「ん〜、30なんて何とやら……見ればまだちゃんとしたお嬢ちゃんじゃねえか」
 ヒトの武人・ザルフィンはにやっと笑ってみせる。
「気楽に祝おうぜ。歳なんて気にしたら負けだ。俺を見ろ、俺は心が少年だからな」
「姉妹のお姉さんの方。こういう人は何て言うの?」
「おじさん?」
「うぐっ」
 少女の無垢な言葉が27歳男の胸を抉る。してやった形のミーティアだが、空しいだけだった。そんな彼女を蒼い雷帝・カインは腕組みして見つめる。
(「年なんか気にせずに、胸張っていればいいのにね」)
 見た目は十分若いし、魅力的な人だと思う。変に気にする事ないのに。そう考えていると、いつの間にかホーリィが傍に近付いて来ていた。
「お久し振りです。指輪の件の時はどうもありがとう」
「あ……いえ、気にしないで。それより、その後はどう? 幸せに暮らしてる?」
「ええ、おかげさまで」
 微笑むホーリィに、それは良かったと微笑み返す。少し気になっていたので、気掛かりが一つ消えた気分だった。
 それにしても……
「ミーティアって、あんななの?」
「うーん、たまにね」
 姉の様子を見てホーリィも苦笑する。変にお堅いよりは面白いけれど……
「30が嫌って、そこまで気にする必要もないと思うんだけどね?」
 今度は夏の華火女帝・エヴィルマがミーティアに話しかけていた。
「嫌なものよ。ほら、19から20になる時は大人になったっていう感慨が湧くじゃない。同じように29から30って……歳取ったんだって痛感してしまうのよ」
 しみじみと呟いたミーティアはふと傍に人の気配を感じ、何気なく水を向ける。
「ねえ、この気持ち分からない? ……あ」
「ううん、よく分からないですぅ」
 そこにいたのは淡き薄光を包む翼・フィリアだった。外見11歳の少女が困ったように首を傾げる。
「あのね……ドリアッドに年齢なんて有って無い様なモンなんだから」
「いや、今のは気付かなかっただけだってば」
 やれやれと溜息をつくエヴィルマの前でミーティアは頭を抱えた。その様子を見かねたのか、酒場の飾り付けをしていた朽澄楔・ティキが口を挟む。
「歳も恋愛も気にした者の負けだろう……ともかく、歳に関してはどうしようもないからな。ある種、諦めて前向きに切り替えて考えてくといい結果になるんでない? ……まあ、そう言えるのも10代の余裕かもしれないけど」
「本当にね。ああ、若いっていいわね……」
「……これは重症ですね……」
 思わず楽風の・ニューラも苦笑を漏らす。取りあえず、このままにしては置けない……そう考えていると、テーブルに近付いた紅き剣閃・ルティスがミーティアの向かいに座り、語りかけ始めた。
「ねえ、そんなにいじけないで。少なくともあなたを見てオバサンだなんて思わないわ」
「そうかしら……」
「そうよ。本当に綺麗だし……格好いい部類の人だから男は近寄りがたいって面もあるかもしれないけど、十分引く手数多の容姿だと思うわ」
「そう言われると悪い気はしないけど……」
 そこへ白衣の男が割って入った。
「お誕生日おめでとう! うん……金髪碧眼の美女。見た目よければ全て良し! という事で……」
 そう言い、風の魔法騎士・カナタはバサァッと音を立てて白衣を脱いでみせた。どういう訳か体にリボンが巻きつけられている。
「誕生日プレゼントに、私をプレゼントってのはどうですかな♪」
「……」
「……」
 沈黙。
「数多の引く手って、こういう奴?」
「ノーコメントという事で」
 ……気を取り直して。
「いつもお世話になってます」
「お誕生日おめでとう〜♪」
「あら、あなた達は……」
 今度は闇を斬る白き翼・アルヴァと煌く銀砂・グラリアが話しかけてきた。その姿に見覚えがあったホーリィが近付いてくるのに気付くと、グラリアはぴょこっと頭を下げる。
「いつかの依頼ではお世話になりました。ほら、こんなに綺麗な指輪も作ってもらったんだよ」
「へえ、それは良かったわね」
「それに……あの依頼が縁で僕達、お付き合いするようになったんです」
「あ、ちょ、ちょっと……」
 和やかなムードだったのだが、恋人の発言にグラリアが慌てだす。だってミーティアは『30歳で独身』なのだ。そんな話は危険だから伏せておきたかったのに。
「こ、こうなったら……お酒飲ませて誤魔化しちゃえ! ほらホーリィも手伝って……あ、言い忘れてたね、ご結婚おめでとう♪ ……って、ああん、それどころじゃなかったよ〜」
 あっさりパニックに陥ったらしい。ころころと変わる表情が可愛らしくて、ミーティアは思わず噴き出した。
「大丈夫よ、それで恨んだりはしないから。気にせず仲良くしてなさい」
「おや……今日はまた随分と賑やかですね」
 声のする方を見ると、紅の奇術師・シンが酒場に入って来た所だった。
「フレアさんに会いに来ただけだったんですけどね……一体何があるんです?」
「ミーティアさんのお誕生日なんですよ〜♪」
 カウンター奥から現れた夕暮れにまどろむ白い月・カレリアがそう答えた。心なしか足取りが危なっかしい。目もとろんとしているような……
「ちょっと、あなた酔ってるでしょ!」
「酔ってませんよぉ〜♪ 実は最近クラブで働き出して……それで、折角だからオトナの女性向のカクテルを作ってたんです♪」
「それはいいけど、どれだけ味見してたの?」
「覚えてませ〜ん♪」
 完全に酔っている。こういうカレリアも珍しい……そうでもないか?
 その時、ヒトの紋章術士・ユアが思いついたように言った。
「丁度いいじゃん。酒場なんだからお酒沢山使わないと。それでさ、余興に大酒飲み大会とかどうかな? 僕はあまりお金ないけど、フレアちゃんにも協力して貰って……」
「あの子も金持ちじゃないわよ?」
「えー、どうしよ……」
 沈み込んでしまった彼を見かね、ミーティアは腕組みした後に言った。
「ホーリィ、あなたのツケでお願い」
「ちょっと待って、何よそれ!?」
「こんな日位良いじゃないの、裕福な新婚さん」
「まったくもう……」
 何だかんだで結局、大量のお酒が振舞われることに。
「な、何の騒ぎですか?」
 そこへ料理を終えたフレアが様子を見に戻ってきた。その姿を見るや否や、カレリアがすっと歩み寄りグラスを差し出す。
「フレアさんもどうですか? お茶もあるんですよ〜♪」
「それは思い切りお酒のような気がするんですけど……」
 不自然な程鮮やかなブルーグリーンの液体を見つめ、フレアは困ったように呟いた。

 数時間後。
「こんなのはどうです?」
「へえ、凄いじゃない」
 シンの手品に酒場の一角が盛り上がっていた。
「では最後に……どうぞ、受け取って下さい」
 マントで覆われた手の中からバラの花束が現れた。受け取ったミーティアは思わず数を数える。……30本。
「飛び入りのあなたが何故知ってるの!」
「まあまあ。これでもどうぞ〜」
 横から宥めに入ったフィリアがボトルを差し出した。ラベルには銘酒『猿殺し』。
「その外見でよく買えたわね」
 とりあえず折角のプレゼントなのでキープしておくことにして……ふと酒場を見回した。
「しかし、意外と集まったものね」
「これだけの人が来てくれるんだから。幸せに思いなさいよ」
「祝いに来たのがどれだけいるか疑わしいけどね」
 エヴィルマに苦笑を返す彼女にアスコットが声を掛ける。
「そんな。私は貴女に会えた事を感謝したいですよ。そうだ、今日だけはこの世に迎えてくれた御両親に感謝してみては?」
「まあ、それ位はいいかも……ね」
 曖昧に微笑むミーティアに、今度はカインとニューラが語りかけた。
「まあ、ミーティアの事が好きで集まったのには違いない筈よ。いい女性に歳は関係ないわ」
「大きな真珠を育てるにも年月がかかるもの。ミーティアさんも、経験を重ねただけ美しさに深みが出てより素敵になると思いますよ」
「そうだと良いわね」
「そう思わなくちゃ。……ねえ、例えばこれからの目標なんてない?」
「特に考えた事ないわね。より一層あなた達の手助けを、かな」
 ルティスの質問も軽く流し、再度酒場を見回した。
「しかし、好きに騒いでるわね」
 酒が出回ったせいもあるだろう。
「何かふらふらすると思ったら……これはストレートでやったらイカン奴だったか……」
 豪快に酒を呷っていたザルフィンが潰れた。言い出した責任を取らされたのか、ユアも既に酔い潰れている。
「うふふ〜……♪」
 カレリアなどはとうに、隅の方で眠りこけていた。
「この子は何しに来たんだか……」
 苦笑しつつミーティアは彼女に青い上着を掛けてやる。
「まあ良いだろ。ミーティアも楽しんどけば?」
 冷えたフルーツを渡してくるティキに頷き返すと、テーブルに戻った。いつの間にかユンがテーブルに突っ伏している。
「どうしたの?」
「お酒を飲まされたそうです」
 介抱してあげたリフィアが苦笑していた。料理に使うだけならともかく、飲むのは駄目らしい。
「だ、大丈夫、片付けまでには復活するから」
「無理はしないようにね」
 軽く頭を撫でてやり、傍の席につく。
「そうそう、料理ありがとね。美味しかったよ」
「いえ、フレアさん達のお陰で……私はまだまだです」
 照れたように手を振ると、リフィアは離れた所でフィオーレと話すフレアを見た。
「この間はありがとう……お陰で助かった。私の命も、ルルの笑顔も」
「そんな、畏まらないで下さい」
 そんな声が聞こえてくる。詳しい話は知らないけれど、また何かを護る事が出来たのだろう。
「そういえば……ミーティアさんとフレアさんはどのように知り合ったのですか?」
 ふと気になって尋ねてみる。
「別に、酒場で一緒になって話してたら気があったって位ね。あなた程強い結びつきじゃないわ」
 肩を竦め、ミーティアはもう一言。
「あの子の力になってあげてね?」
「え? ……はい」
 急な話でリフィアには頷く事しか出来なかった。と、その時。
「うう……酔いましたぁ」
「うわ、何事!?」
 突然背後から、アルヴァが二人に抱きついて来たのだった。……酒臭い。
「ちょっと、何やってるの!」
 慌ててグラリアがアルヴァの耳を引っ張って二人から引き剥がす。
「ごめんなさい、こんなに酒癖悪いなんて知らなかったよ」
「……彼氏の管理はしっかりね」
 怒っても仕方ないとばかりに、笑って二人を見送る。その目は少し寂しそうでもあった。
「お姉ちゃん……」
 様子を気にして近付いてきたホーリィだが、そこをフルールに呼び止められた。
「すいません、呼び止めて。でもあの依頼で指輪を直せなかったら多分お姉ちゃんに会えなかったと思うから……どうしてもお礼を言いたくて」
「あら、わざわざありがとう。お姉さん、大切にしてね?」
 微笑むホーリィに確りと頷き返した。それを見ていたワスプも話しかけてくる。
「俺も詫びなきゃな。偵察の俺がしっかりしてなかったから目の前で戦闘する羽目になっちまって」
「いいのよ。私は気にしてないから、一生懸命やった事を後悔しないで」
「おう。あ、それと」
 そしてワスプはミーティアの元へと歩み寄り、小声で尋ねた。
「昔の恋のお相手って、今どうしてんだ?」
「何で知ってるの」
「ホーリィにちらっと聞いてさ」
「まったく……」
 溜息をつくミーティアに冒険者達の視線が集中する。恋人がいた事を知らなかった者も多いのだ。
「それで?」
「……さあね。生きてるんだか死んでるんだか」
 別れてそれきり、という事だろうか。けれどその時のミーティアは、努めて淡白に振舞おうとしているようだった。
「それなのに僕は貰ってくれないので?」
「本気で口説く気もない男をまともに相手出来ますか」
 カナタを軽くあしらうと、もうさっきの感じは消え失せていたが。
(「この分だと……今出すのはまずいかねぇ」)
 そしてシュウはこっそり考えてきた見合いの話を胸の奥に仕舞い込むのだった。


マスター:御司俊 紹介ページ
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