<リプレイ>
●宵を待つ村 その村は、昼間だと言うのに物音一つしない。 何かが動く気配もなく。 生活していた跡をそのままに残し、朽ちていく家々。 その間を、ぬめるような生暖かい風が吹いて。 「かつての村が今ではアンデッドの住処、か。虚しいものだな」 「な、何か薄気味悪いですね……」 廃墟になりつつある村を見つめて呟く月夜の守護者・カズハ(a00073)の後ろからオドオドと顔を出して辺りの様子を伺う天使のち時ドキ小悪魔・ショコラ(a02448)。 「そりゃあ、アンデッドの大群ですからねぇ。向こうは死者、こっちは死神……ふふ。似合いです♪」 それに答える微笑む死神・ラヴィス(a00063)は何だか楽しげで。 「死の国か……。アンデッドの仲間入りをすれば行けそうな感じがするな。そうならぬよう最善を尽くす必要はあるがね」 そして、遠眼鏡で村の様子を伺いつつ苦笑交じりに呟く蒼浄の牙・ソルディン(a00668)と、反応は様々だ。 「……アヤノ? いい加減機嫌を直した方がいいと思うぞ」 その横で、月夜の剣士・アヤノ(a90093)の顔を覗き込む月華の舞姫・アリア(a00742)。 出発してから一言も喋らない彼女。仲間達もアヤノを見つめて。 「……皆がアヤノさんを守っています。冒険者の仲間なのだから。互いの背中を守るのは当然の事だね」 「大丈夫。皆アヤノの事を信頼してるし、頼りにもしてるよ……。ただ、アヤノの事が大切だからちょっと心配してしまうだけだよ」 「ごめんなさい……子供っぽいな、私」 ソルディンとアリアの真摯な言葉に、自分が恥ずかしくなったのか俯くアヤノ。 それに、ソルディンはいいや、と首を振って続ける。 「焦る気持ちは判らなくもないよ……そうだね。アヤノさんなりに、皆を守る事を考えたら良いと思うよ」 「じゃあ、行こうか。皆で、ここの人達を穏やかに眠れる場所におくってあげような」 「ルシエラも頑張るんだよー!」 アヤノが真剣な表情で頷いたのを見て、微笑む暁月の豹牙・ナイジェル(a02553)と星影・ルシエラ(a03407)。 ナイジェルの肩を軽く叩く手と、ルシエラのにぱぱっとした笑顔が、力み過ぎるなと彼女に言っているようで。 「その前に。アヤノちゃん、これだけは肝に命じておきな。今からご対面する奴らが男でも女でも爺さんでも色男でも……そして子供でも、それは形だけのこと。みんな、魂の無い肉の塊にすぎないんだ」 歩き出そうとしたアヤノを引き止めて緋炎乱舞・ゴウラン(a05773)が呟く。それにはどこか、自分に言い聞かせるような響き。 「情けや迷いは太刀筋を鈍らせ、アンタや仲間の命を危うくすることになるよ。いいね?」 彼女はそう締めくくると、振り返ることなく歩き出す。 「……先日の怪我は俺の不覚。お前が気にする事じゃない」 それに頷き、後を追おうとしたアヤノに囁くカズハ。 その言葉に素直に頷けないのか、彼女は黙ったままで。 「まぁ、甘いんだろうな、俺も。どうも女に怪我させるのは嫌でな」 「……こう言う時くらい女だってことを忘れたらどうだ?」 苦笑を向けるアヤノに、彼は気にする様子もなく。 「それは無理な相談だな。……それと、あの事は謝るつもりは無いぞ」 それが何を指しているのかすぐに判って。アヤノの頬が朱に染まる。 「別に謝って欲しいとは思ってない。だけど……」 初めてだったのに……。 仲間を追うように歩き始めたカズハの背に向かって呟く。 それは、湿った風に流され……。
●乱戦 「んー。ちょっくら誘惑して来ようかと思ってたけど……その必要ないみたいだねぇ」 「そんなに魅力的でしたかね。私達♪」 そんな軽口を叩くゴウランとラヴィスの目線の先にはどこからともなく続々と現れるアンデッド。 「……こりゃまた随分な歓迎振りだ」 村に入るなり、引き寄せられるように寄って来るそれらに目を細めるソルディン。 「予定変更、かな。ルシエラ、屋内は後回し。こいつらを先に叩く」 「はぁーい!」 そんな状況でも冷静なナイジェルの声に、ルシエラが元気良くお返事をしつつツインソードを抜き放って。 「……先手必勝! 行きますよ!」 「ハァァアァ!」 そうしている間にラヴィスと鎧進化をかけたゴウランがアンデッドの群れの中へ深く切り込んで行く。 「俺達も出る。援護頼む!」 ルシエラを伴って走り出すナイジェルに頷いて。ソルディンが咥えていた煙草をもみ消す。 「任せて下さい〜。でも……恐いのであまり近づけないようにお願いしますね〜」 「大丈夫なのか、ショコラ……」 そんな彼の背後に隠れるようにしているショコラにアヤノが苦笑を向けて。 「……他人の心配より、まず自分の心配だ。行くぞ!」 「アヤノ。背中は任せた!」 続いて走り出すカズハとアリア。それにアヤノも続いて……。
乱戦だった。 直線的なゴウランと、縦に横に羽のように舞うラヴィスの動きは何だか対象的で。 「……ふふ。貴方達に恨みは無いですけど。あははっ……死んじゃえばいいんだ♪」 こみ上げて来る笑いを堪えることなく、蠢く影の様に深い紫の刀を振るうラヴィスは既に常軌を逸している。 「全く、無茶するね……!!」 身軽になると言う理由から、鎧を着けていない割に我が身を省みない彼女に苦笑を向けるゴウラン。 大上段の構えからの強烈な一撃。大鉄球を振るい、アンデッドの攻撃がラヴィスに届く前に叩き潰す。 「大丈夫ですよー。昔みたいに、ぜーんぶ殺してあげますから♪」 そう呟くラヴィスが本当に斬りたいものは、過去の己自身。 それが叶うはずもなく……零れ落ちそうな想いと消えない願いに揺れて、疾る。 彼女の素早い連撃は残像を伴い、アンデッド達に打ち込まれ。彼らを肉塊へと変えて行く。
「ルシエラ、今回とっても真面目なんだから!」 「はいはい。無茶はするなよ」 張り切って武器の攻撃力を高めるルシエラに、ナイジェルが笑って。 彼女の大振りな横凪ぎ。攻撃を受けたアンデッドは大きく身体を傾げつつも倒れず、その腕を大きく振り下ろして。 「させるか……っ」 何があってもルシエラは必ず護る。 そう心に誓ったナイジェルから繰り出される破鎧掌。彼の腕から放たれた気をまともに喰らったアンデッドは、数体を巻き込み後方へ大きく吹き飛ぶ。 「あ、ありがとー! ナイジェルさん〜」 「礼は後で聞くよ。来るぞ!」 こんな時でもお礼を忘れないルシエラに背中を預けて。2人は一撃離脱を繰り返し、確実に敵を仕留めて行き。
「うひゃぁ。気持ち悪いですよぉ!」 目前に迫って来るアンデッド達を見て思わず顔を顰めるショコラ。 エプロンや、作業着姿のそれらを見ていると、つい先日までここで普通の生活が営まれていたことが伺えて。 そして、杖を持つような老人、猫や犬までもが白濁した目を剥いて向かって来る非現実的な光景。 それは否応なしに生理的嫌悪感を伴った恐怖を呼び起こす。 「恐いなら下がっていて構わないですよ」 そう呟き、仲間達の戦況を冷静に見つめるソルディン。 今回のパーティーは前衛職ばかり。戦いにおいては心強いが、乱戦になれば消耗して行くのは間違いない。 敵を内側に入れぬようにしなければ……。 彼の振るったアームブレードから生み出される円盤状の衝撃派。それは生き物のように舞い飛び……仲間達の間をすり抜けて来ようとするアンデッド達を次々と切り裂いて行く。 「だ、大丈夫ですよ!」 そして、慌てて言い返すショコラが描き出す紋章。そこから光が溢れ……幾筋もの光の雨が降り注ぐ。 「その調子だ。続けますよ!」 「……はい!」 ソルディンの言葉に頷くショコラ。仲間の手薄な所に次々とリングスラッシャーとエンブレムシャワーを打ち込んで行く。
「……大丈夫か?」 カズハの声でふと我に返るアヤノ。 見るも無残なアンデッド達の姿に、気がつかぬうちに泣いていたらしい。 「大丈夫だよ」 そう気丈に答える彼女に、アリアが切なげな笑みを向けて。 きっとアヤノは、兄のことを思い出していたのだろう。それが判るだけに、やり切れない。 「彼らを早く解放してあげよう……」 命尽きても天に召されることのない哀れな魂……アンデットになって生かされ続けることはきっと辛いと思うから……。 祈るようなアリアの言葉に、カズハが無言で頷いて、武器を構え直す。 解放するには、彼らをもう一度屠るしかない。 目の前のものがいかな姿だろうと倒す事は躊躇わない。 アヤノは肉親に剣を振るったのだ。それに比べたら何てことはない……。 「行くぞ!」 カズハの声に答えるようにアリア、アヤノが同時に踏み込み……一呼吸置いて、アンデッド達の振り下ろされた腕を避け、流れるような動きで凪ぎ払う。 3人の息の合った攻撃はアンデッド達に次々と吸い込まれるように決まって行く。
「なかなかやるじゃないか」 微笑みを浮かべて仲間達を見つめるソルディン。 その間も、攻撃の手は緩めない。 冒険者達の一撃一撃に飛ばされ、倒れるアンデッド達。 しかし、既に命の無いそれは、腕を飛ばされ、胸を突かれても止まらない。 「キリがないな……イチかバチか」 そう呟いたカズハの裂帛の気合が篭った叫び。それは辺りに響き……アンデッド達の動きを止める。 冒険者達はその好機を逃さず、一気に畳み掛ける。 一撃、また一撃……。それは、アンデッド達が完全に動きを止めるまで続いた。
●待っていたもの 「全く。ミュリンの霊査もアテにならないね」 「鶏もアンデッド化してるなんて聞いてませんよ〜!」 犬猫などの家畜を含めたら、『25体』なんて軽く超えていると。 飛びかかって来た鶏を両断しつつぼやくゴウランに激しく同意するショコラ。 村に入って来るなり襲って来たアンデッド達を一掃した冒険者達は、村を隅々まで調べ、残存するものを掃討して回っていた。 「残るはここだけか……」 ソルディンが見上げるのは村の中で一番大きな建物。恐らく、集会場として使われていたであろう場所で。 「はーい! ルシエラまた行って来るよー!」 それに、元気に挙手をするルシエラ。 これまでの建物の中の探索、アンデッドの追跡もナイジェルとルシエラが担当し、着実にアンデッド討伐に貢献していた。 「……ルシエラは追跡とかが得意なんだね」 「いや、失礼だけど……ちょっと意外だったものだからね」 言い難そうに切り出すアヤノとアリアに、ルシエラは……普段とは違う、寂しそうな笑みを浮かべて。 「……うん。ルシエラがこういうの得意なのは、生き延びるのに必要だったからなの。アンデッドの国って聞いて、すこーし思い出しちゃった」 「ああ、全てが死んでしまった場所……。こんな所から逃げてきた昔もあったね」 彼女の言葉に、遠い目をするナイジェル。 少し遠い昔。 彼とルシエラと出会ったのも、こんな場所。 その時は力がなくて……祖母やみんながアンデッドに変わってしまったと、泣いている彼女を引きずるようにして逃げ出すしかなかった。 「そんなことが……」 うめくアヤノ。2人の凄惨な過去に、仲間達も言葉を無くす。 しかし、ルシエラはにっこりと嬉しそうに笑って。 「でもね。今はルシエラ、みんなを止められる。だから行くの」 今は、逃げないで済むだけの力がある。そのことに感謝して。 「そうだな。じゃあ、行こうか」 信頼しきった眼差しを向けてくるルシエラの頭を少し撫でて、ナイジェルが最後の廃屋へ向かう。 「これが、最後になるはずだな」 「ああ。しかし、念のために外にも警戒を……」 考え込むアリアに頷くソルディン。 「待て。……すぐ向こうにいる」 五感を澄ませ、扉の向こうの気配を読み、その言葉を遮るナイジェルの呟き。 「命に誘われて来たか。……開けたら来るぞ。各員迎撃準備」 愛刀を抜きつつ言うカズハに応えるように、仲間達もそれぞれの武器を構えて。 「どりゃああ!!」 気合一発。ドアを破壊するゴウラン。 巻き上がる煙が治まると、そこには……。 「な……」 「い、いやぁっ」 恐らく、村が襲われた時にここに逃げ込み、そのまま息絶えたのだろう。 現れたアンデッドが年端も行かぬ子供ばかりであることに気付いて、凍りつくアヤノとショコラ。 「迷うな! 討て!」 ゴウランの叫びで我に返るが、どうしても遅れる反応。 アリアとカズハがとっさに飛び出し、2人を庇い……細い腕が容赦なく襲いかかる。 そこに駆けつける、蒼と紫の疾風。 ソルディンの連撃がアンデッドを薙ぎ払い、ラヴィスは素早い動きで……嘲いながら、敵を容赦なく叩き伏せる。 「……アヤノさん、前も言ったでしょ? 『私みたいにならないで』って。それって、こういうことなんですよ?」 どす黒い返り血を浴び、艶っぽい笑みを浮かべるラヴィス。 黒く蠢く心。それに引きずられる自分。 「私自身、嫌いですけどねー。こんな自分は」 自嘲的に呟く彼女に、アヤノは首を横に振って。 「……それでも。ラヴィスは私の大切な友人だよ」 「……お人好しですね。アヤノさんは……」 その言葉に、ラヴィスは嬉しいのか悲しいのか分からなくなって……。 そして、なおも何かを求めるようにこちらにやって来る小さなアンデッド達。 「……ゴメン。アタシは坊やのお母さんじゃないんだ。こんなとこで遊んでないで、早くお母さんの所に帰りな……」 「待ってるのは生きてる命じゃなくて、止めてくれる人だったんだよね。遅くなって、ごめんね……」 彼らに向けて呟くゴウランとルシエラ。それと同時に、思い切り武器を振り下ろす。 一撃で楽にする。それが自分達に出来る、せめてもの供養。 再び向かって来るかと、拳を握りしめるナイジェル。 しかし、崩れ落ちたアンデッドは2度と起き上がることはなかった。
●眠り 村に、本当の意味での静寂が訪れた。 アンデッドの掃討が終わると亡骸を埋葬しようと集めて回る冒険者達。 大人も子供も、犬も猫も……。 ゴウランは、子供達の亡骸を母親らしき亡骸に寄り添わせてやった。 こうすることに何の意味があるのかは判らない。 ただ……この子が安心して眠れればいいと。 また、偽りの生に引き戻されたりしないように。 死の国ではなく天に召されるように。 「もう待たなくていいんだよ、おやすみなさい……」 ちりん、と見送りの鈴をならすルシエラ。 立ち上る紫色の煙が、冒険者達の祈りを乗せて。 「『地獄の穴』なんて恐ろしい場所が本当にあるのか判らないけれど……。必ず、確かめるから」 手を合わせるアリアの呟き。カズハの手向けた花が、風に揺れて。 「さて……帰ろうか。何だか飲みたい気分だよ」 例え屍体でも、子供を殺るのは辛い……そう呟くゴウランに、ナイジェルとソルディンが頷いて。 「付き合うよ」 「奢ってくれるのかい?」 そんな軽口を叩きながら、帰路につく冒険者達。 ――勝利の酒の味は、苦いものになりそうだった。

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参加者:8人
作成日:2004/08/21
得票数:冒険活劇22
戦闘1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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