【月夜見奇譚】死の国へ向かえ:待宵



<オープニング>


●死の国へ向かえ
「さぁ、みんな、お仕事よ!」
 ヒトの霊査士・リゼルは気合を入れて、酒場に集っていた冒険者を呼び集めた。

「モンスター地域解放戦の時にアンデッドが群れてた西方について覚えてる?」
 リゼルの問いに、数人が頷いた。
 西方については、ソルレオン領と接する地域であった為、手出しを控えていた地域であった筈。
 その後、アンデッドによって作られた骨の城の存在や、統率されたアンデッドの存在が確認されており、アンサラー護衛士団による調査も行われているが……。

「この地域について、東方ソルレオンの聖域で救出したソルレオンの少年から重要な情報がもたらされたの」
 その情報は『ランドアース大陸の下には別の世界がある』という衝撃的なものだった。
 彼がいうには、ランドアース大陸の地下には地獄のような世界があり、その地獄とランドアースとを繋ぐ『地獄の穴』が開こうとしているというのだ。

「ソルレオンの冒険者達が、リザードマンに聖域を奪われたのは、この『地獄の穴』に対する大作戦を行う為に聖域が手薄になっていた隙を衝かれたからなのですって」
 リゼルはそう説明すると、改めて、冒険者達を見渡した。

「東方ソルレオンがリザードマンに滅ぼされてから、1年以上が経過しているわ。状況は、時間の分だけ悪化していると考えて間違いは無いわね。
 もしかしたら、もう一刻の猶予も無いかもしれない……」

 死の国と呼ばれる地域は、骨の城を抜けて西に進んだ場所にある。
 冒険者達よ、死の国を護るように防御を固めるアンデッド達を切り伏せ叩き潰すのだ!

「今回の目的は、死の国への進路上のアンデッドを駆逐する事。切って切って切りまくって……活路を開いてちょうだい!」
 最後に、リゼルはそう付け加えたのだった。

●待宵
 その村は、ずっと待ち続けている。
 時の流れから外れたように、眠ることなく。
 老人も、子供も、男も、女も、犬までも。
 夏の日差しを避けるような薄暗がりの中。瞬きを忘れた虚ろな目。
 その村には、命あるものは1つとしてなく――。
 ただ、ずっと待ち続けている――自分達の刻である宵闇。
 そして……命あるものの訪れを。

「みんなにお願いがあるの」
 そう切り出した金狐の霊査士・ミュリン(a90025)。
 その表情には、いつものほややんとした雰囲気はなく。
「あのね、村を占拠したアンデッドを退治して欲しいの」
「占拠……と言うことは、結構な数がいるんだね?」
 真剣な眼差しで確認をする冒険者に、彼女が頷いて続ける。
 死の国へと続く街道。その程近くにある小さな村。
 そこは今、大量のアンデッド達の住処になっていて。
 今のうちに駆逐しておかねば、後々障害になるのは間違いない。
 そこで、今回の依頼となる訳だが……。
「念の為に確認したいんだけど。村の中に生存者がいる可能性は?」
 ふと冒険者の口から出た問いに、ミュリンはふるふると首を横に振って。
「いないと思うよ。……その村、もう何ヶ月も前にアンデッドに襲われて、全滅してるから……」
「じゃあ、今その村にいるアンデッドって……もしかして……」
 顔を曇らせる彼女に、月夜の剣士・アヤノ(a90093)の顔も辛そうに歪む。
 そう。いるのは……元々そこに住み、無残に命を奪われた村人達なのだ。
 突然幸せな生活を踏み躙られ、悔恨を戴いたままそこに在り続ける……。
「うん。だから……早く開放してあげて欲しいの」
 祈るように続けるミュリンに、冒険者達は言葉少なに頷いて、出立の準備を始める。
 それに、アヤノが当たり前のように続いて。
「……アヤノ?」
「何だよ。止めても無駄だぞ」
 ムスっとして答えるアヤノに、冒険者達が苦笑する。
「いえ、アンデッド……見たくないんじゃないかと思ったんですよ」
 そう呟く冒険者達の脳裏に、以前の出来事……アヤノの兄の事件が去来する。
 アンデッドを見れば、どうしてもあのことを思い出すだろう、そう思って。
 それに、アヤノはそっと目を伏せて……。
「……だから、行くんだよ。兄さんも苦しんでいたと思うから。村人達を助けたい」
 既に死んだものを『助ける』と言うのはおかしいかな……と苦笑交じりに言う彼女に、冒険者達は首を振って。
「……分かった。早いところ助けてあげよう」
「ただし、無理は絶ーーーーっ対にダメだからね!」
 忘れずに言い含められて、アヤノはまたムッとする。
「守られてばかりなんて嫌だ! 私だって……!」
 そう言って酒場を飛び出して行こうとする彼女の腕を慌てて捕まえて、冒険者達は溜息をついて。
「こらこら。村の場所も聞かないで何処に行く気だ。……早速で悪いが。ミュリン、その村の場所を教えてくれるか?」
「うん。アンデッドは元々村人達だから、1体1体はそんなに強くないけど……全部で25体くらいいるみたいなの。数が多いから……みんな、くれぐれも気をつけてね」
 それに頷き、彼らに簡単な地図を手渡しながら言うミュリンに冒険者達は大丈夫、と言うように笑みを返して。
 彼らは急いで支度を済ませると、依然ムスッとしたままのアヤノを連れて酒場を後にするのだった。

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!注意!
 このシナリオは同盟諸国の命運を掛けた重要なシナリオ(全体シナリオ)となっています。全体シナリオは、通常の依頼よりも危険度が高く、その結果は全体の状況に大きな影響を与えます。
 全体シナリオでは『グリモアエフェクト』と言う特別なグリモアの加護を得る事ができます。このグリモアエフェクトを得たキャラクターは、シナリオ中に1回だけ非常に強力な力(攻撃或いは行動)を発揮する事ができます。

 グリモアエフェクトは参加者全員が『グリモアエフェクトに相応しい行為』を行う事で発揮しやすくなります。
この『グリモアエフェクトに相応しい行為』はシナリオ毎に変化します。
 金狐の霊査士・ミュリン(a90025)の『グリモアエフェクトに相応しい行為』は『献身(devote)』となります。

※グリモアエフェクトについては、図書館の<霊査士>の項目で確認する事ができます。
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参加者
紫色のお気楽狐・ラヴィス(a00063)
月夜に永遠誓いし剣士・カズハ(a00073)
蒼浄の牙・ソルディン(a00668)
舞月の戦華・アリア(a00742)
紅き紋章を描きし乙女・ショコラ(a02448)
暁月の豹牙・ナイジェル(a02553)
星影・ルシエラ(a03407)
緋炎鋼騎・ゴウラン(a05773)
NPC:月夜の剣士・アヤノ(a90093)



<リプレイ>

●宵を待つ村
 その村は、昼間だと言うのに物音一つしない。
 何かが動く気配もなく。
 生活していた跡をそのままに残し、朽ちていく家々。
 その間を、ぬめるような生暖かい風が吹いて。
「かつての村が今ではアンデッドの住処、か。虚しいものだな」
「な、何か薄気味悪いですね……」
 廃墟になりつつある村を見つめて呟く月夜の守護者・カズハ(a00073)の後ろからオドオドと顔を出して辺りの様子を伺う天使のち時ドキ小悪魔・ショコラ(a02448)。
「そりゃあ、アンデッドの大群ですからねぇ。向こうは死者、こっちは死神……ふふ。似合いです♪」
 それに答える微笑む死神・ラヴィス(a00063)は何だか楽しげで。
「死の国か……。アンデッドの仲間入りをすれば行けそうな感じがするな。そうならぬよう最善を尽くす必要はあるがね」
 そして、遠眼鏡で村の様子を伺いつつ苦笑交じりに呟く蒼浄の牙・ソルディン(a00668)と、反応は様々だ。
「……アヤノ? いい加減機嫌を直した方がいいと思うぞ」
 その横で、月夜の剣士・アヤノ(a90093)の顔を覗き込む月華の舞姫・アリア(a00742)。
 出発してから一言も喋らない彼女。仲間達もアヤノを見つめて。
「……皆がアヤノさんを守っています。冒険者の仲間なのだから。互いの背中を守るのは当然の事だね」
「大丈夫。皆アヤノの事を信頼してるし、頼りにもしてるよ……。ただ、アヤノの事が大切だからちょっと心配してしまうだけだよ」
「ごめんなさい……子供っぽいな、私」
 ソルディンとアリアの真摯な言葉に、自分が恥ずかしくなったのか俯くアヤノ。
 それに、ソルディンはいいや、と首を振って続ける。
「焦る気持ちは判らなくもないよ……そうだね。アヤノさんなりに、皆を守る事を考えたら良いと思うよ」
「じゃあ、行こうか。皆で、ここの人達を穏やかに眠れる場所におくってあげような」
「ルシエラも頑張るんだよー!」
 アヤノが真剣な表情で頷いたのを見て、微笑む暁月の豹牙・ナイジェル(a02553)と星影・ルシエラ(a03407)。
 ナイジェルの肩を軽く叩く手と、ルシエラのにぱぱっとした笑顔が、力み過ぎるなと彼女に言っているようで。
「その前に。アヤノちゃん、これだけは肝に命じておきな。今からご対面する奴らが男でも女でも爺さんでも色男でも……そして子供でも、それは形だけのこと。みんな、魂の無い肉の塊にすぎないんだ」
 歩き出そうとしたアヤノを引き止めて緋炎乱舞・ゴウラン(a05773)が呟く。それにはどこか、自分に言い聞かせるような響き。
「情けや迷いは太刀筋を鈍らせ、アンタや仲間の命を危うくすることになるよ。いいね?」
 彼女はそう締めくくると、振り返ることなく歩き出す。
「……先日の怪我は俺の不覚。お前が気にする事じゃない」
 それに頷き、後を追おうとしたアヤノに囁くカズハ。
 その言葉に素直に頷けないのか、彼女は黙ったままで。
「まぁ、甘いんだろうな、俺も。どうも女に怪我させるのは嫌でな」
「……こう言う時くらい女だってことを忘れたらどうだ?」
 苦笑を向けるアヤノに、彼は気にする様子もなく。
「それは無理な相談だな。……それと、あの事は謝るつもりは無いぞ」
 それが何を指しているのかすぐに判って。アヤノの頬が朱に染まる。
「別に謝って欲しいとは思ってない。だけど……」
 初めてだったのに……。
 仲間を追うように歩き始めたカズハの背に向かって呟く。
 それは、湿った風に流され……。

●乱戦
「んー。ちょっくら誘惑して来ようかと思ってたけど……その必要ないみたいだねぇ」
「そんなに魅力的でしたかね。私達♪」
 そんな軽口を叩くゴウランとラヴィスの目線の先にはどこからともなく続々と現れるアンデッド。
「……こりゃまた随分な歓迎振りだ」
 村に入るなり、引き寄せられるように寄って来るそれらに目を細めるソルディン。
「予定変更、かな。ルシエラ、屋内は後回し。こいつらを先に叩く」
「はぁーい!」
 そんな状況でも冷静なナイジェルの声に、ルシエラが元気良くお返事をしつつツインソードを抜き放って。
「……先手必勝! 行きますよ!」
「ハァァアァ!」
 そうしている間にラヴィスと鎧進化をかけたゴウランがアンデッドの群れの中へ深く切り込んで行く。
「俺達も出る。援護頼む!」
 ルシエラを伴って走り出すナイジェルに頷いて。ソルディンが咥えていた煙草をもみ消す。
「任せて下さい〜。でも……恐いのであまり近づけないようにお願いしますね〜」
「大丈夫なのか、ショコラ……」
 そんな彼の背後に隠れるようにしているショコラにアヤノが苦笑を向けて。
「……他人の心配より、まず自分の心配だ。行くぞ!」
「アヤノ。背中は任せた!」
 続いて走り出すカズハとアリア。それにアヤノも続いて……。

 乱戦だった。
 直線的なゴウランと、縦に横に羽のように舞うラヴィスの動きは何だか対象的で。
「……ふふ。貴方達に恨みは無いですけど。あははっ……死んじゃえばいいんだ♪」
 こみ上げて来る笑いを堪えることなく、蠢く影の様に深い紫の刀を振るうラヴィスは既に常軌を逸している。
「全く、無茶するね……!!」
 身軽になると言う理由から、鎧を着けていない割に我が身を省みない彼女に苦笑を向けるゴウラン。
 大上段の構えからの強烈な一撃。大鉄球を振るい、アンデッドの攻撃がラヴィスに届く前に叩き潰す。
「大丈夫ですよー。昔みたいに、ぜーんぶ殺してあげますから♪」
 そう呟くラヴィスが本当に斬りたいものは、過去の己自身。
 それが叶うはずもなく……零れ落ちそうな想いと消えない願いに揺れて、疾る。
 彼女の素早い連撃は残像を伴い、アンデッド達に打ち込まれ。彼らを肉塊へと変えて行く。

「ルシエラ、今回とっても真面目なんだから!」
「はいはい。無茶はするなよ」
 張り切って武器の攻撃力を高めるルシエラに、ナイジェルが笑って。
 彼女の大振りな横凪ぎ。攻撃を受けたアンデッドは大きく身体を傾げつつも倒れず、その腕を大きく振り下ろして。
「させるか……っ」
 何があってもルシエラは必ず護る。
 そう心に誓ったナイジェルから繰り出される破鎧掌。彼の腕から放たれた気をまともに喰らったアンデッドは、数体を巻き込み後方へ大きく吹き飛ぶ。
「あ、ありがとー! ナイジェルさん〜」
「礼は後で聞くよ。来るぞ!」
 こんな時でもお礼を忘れないルシエラに背中を預けて。2人は一撃離脱を繰り返し、確実に敵を仕留めて行き。

「うひゃぁ。気持ち悪いですよぉ!」
 目前に迫って来るアンデッド達を見て思わず顔を顰めるショコラ。
 エプロンや、作業着姿のそれらを見ていると、つい先日までここで普通の生活が営まれていたことが伺えて。
 そして、杖を持つような老人、猫や犬までもが白濁した目を剥いて向かって来る非現実的な光景。
 それは否応なしに生理的嫌悪感を伴った恐怖を呼び起こす。
「恐いなら下がっていて構わないですよ」
 そう呟き、仲間達の戦況を冷静に見つめるソルディン。
 今回のパーティーは前衛職ばかり。戦いにおいては心強いが、乱戦になれば消耗して行くのは間違いない。
 敵を内側に入れぬようにしなければ……。
 彼の振るったアームブレードから生み出される円盤状の衝撃派。それは生き物のように舞い飛び……仲間達の間をすり抜けて来ようとするアンデッド達を次々と切り裂いて行く。
「だ、大丈夫ですよ!」
 そして、慌てて言い返すショコラが描き出す紋章。そこから光が溢れ……幾筋もの光の雨が降り注ぐ。
「その調子だ。続けますよ!」
「……はい!」
 ソルディンの言葉に頷くショコラ。仲間の手薄な所に次々とリングスラッシャーとエンブレムシャワーを打ち込んで行く。

「……大丈夫か?」
 カズハの声でふと我に返るアヤノ。
 見るも無残なアンデッド達の姿に、気がつかぬうちに泣いていたらしい。
「大丈夫だよ」
 そう気丈に答える彼女に、アリアが切なげな笑みを向けて。
 きっとアヤノは、兄のことを思い出していたのだろう。それが判るだけに、やり切れない。
「彼らを早く解放してあげよう……」
 命尽きても天に召されることのない哀れな魂……アンデットになって生かされ続けることはきっと辛いと思うから……。
 祈るようなアリアの言葉に、カズハが無言で頷いて、武器を構え直す。
 解放するには、彼らをもう一度屠るしかない。
 目の前のものがいかな姿だろうと倒す事は躊躇わない。
 アヤノは肉親に剣を振るったのだ。それに比べたら何てことはない……。
「行くぞ!」
 カズハの声に答えるようにアリア、アヤノが同時に踏み込み……一呼吸置いて、アンデッド達の振り下ろされた腕を避け、流れるような動きで凪ぎ払う。
 3人の息の合った攻撃はアンデッド達に次々と吸い込まれるように決まって行く。

「なかなかやるじゃないか」
 微笑みを浮かべて仲間達を見つめるソルディン。
 その間も、攻撃の手は緩めない。
 冒険者達の一撃一撃に飛ばされ、倒れるアンデッド達。
 しかし、既に命の無いそれは、腕を飛ばされ、胸を突かれても止まらない。
「キリがないな……イチかバチか」
 そう呟いたカズハの裂帛の気合が篭った叫び。それは辺りに響き……アンデッド達の動きを止める。
 冒険者達はその好機を逃さず、一気に畳み掛ける。
 一撃、また一撃……。それは、アンデッド達が完全に動きを止めるまで続いた。

●待っていたもの
「全く。ミュリンの霊査もアテにならないね」
「鶏もアンデッド化してるなんて聞いてませんよ〜!」
 犬猫などの家畜を含めたら、『25体』なんて軽く超えていると。
 飛びかかって来た鶏を両断しつつぼやくゴウランに激しく同意するショコラ。
 村に入って来るなり襲って来たアンデッド達を一掃した冒険者達は、村を隅々まで調べ、残存するものを掃討して回っていた。
「残るはここだけか……」
 ソルディンが見上げるのは村の中で一番大きな建物。恐らく、集会場として使われていたであろう場所で。
「はーい! ルシエラまた行って来るよー!」
 それに、元気に挙手をするルシエラ。
 これまでの建物の中の探索、アンデッドの追跡もナイジェルとルシエラが担当し、着実にアンデッド討伐に貢献していた。
「……ルシエラは追跡とかが得意なんだね」
「いや、失礼だけど……ちょっと意外だったものだからね」
 言い難そうに切り出すアヤノとアリアに、ルシエラは……普段とは違う、寂しそうな笑みを浮かべて。
「……うん。ルシエラがこういうの得意なのは、生き延びるのに必要だったからなの。アンデッドの国って聞いて、すこーし思い出しちゃった」
「ああ、全てが死んでしまった場所……。こんな所から逃げてきた昔もあったね」
 彼女の言葉に、遠い目をするナイジェル。
 少し遠い昔。
 彼とルシエラと出会ったのも、こんな場所。
 その時は力がなくて……祖母やみんながアンデッドに変わってしまったと、泣いている彼女を引きずるようにして逃げ出すしかなかった。
「そんなことが……」
 うめくアヤノ。2人の凄惨な過去に、仲間達も言葉を無くす。
 しかし、ルシエラはにっこりと嬉しそうに笑って。
「でもね。今はルシエラ、みんなを止められる。だから行くの」
 今は、逃げないで済むだけの力がある。そのことに感謝して。
「そうだな。じゃあ、行こうか」
 信頼しきった眼差しを向けてくるルシエラの頭を少し撫でて、ナイジェルが最後の廃屋へ向かう。
「これが、最後になるはずだな」
「ああ。しかし、念のために外にも警戒を……」
 考え込むアリアに頷くソルディン。
「待て。……すぐ向こうにいる」
 五感を澄ませ、扉の向こうの気配を読み、その言葉を遮るナイジェルの呟き。
「命に誘われて来たか。……開けたら来るぞ。各員迎撃準備」
 愛刀を抜きつつ言うカズハに応えるように、仲間達もそれぞれの武器を構えて。
「どりゃああ!!」
 気合一発。ドアを破壊するゴウラン。
 巻き上がる煙が治まると、そこには……。
「な……」
「い、いやぁっ」
 恐らく、村が襲われた時にここに逃げ込み、そのまま息絶えたのだろう。
 現れたアンデッドが年端も行かぬ子供ばかりであることに気付いて、凍りつくアヤノとショコラ。
「迷うな! 討て!」
 ゴウランの叫びで我に返るが、どうしても遅れる反応。
 アリアとカズハがとっさに飛び出し、2人を庇い……細い腕が容赦なく襲いかかる。
 そこに駆けつける、蒼と紫の疾風。
 ソルディンの連撃がアンデッドを薙ぎ払い、ラヴィスは素早い動きで……嘲いながら、敵を容赦なく叩き伏せる。
「……アヤノさん、前も言ったでしょ? 『私みたいにならないで』って。それって、こういうことなんですよ?」
 どす黒い返り血を浴び、艶っぽい笑みを浮かべるラヴィス。
 黒く蠢く心。それに引きずられる自分。
「私自身、嫌いですけどねー。こんな自分は」
 自嘲的に呟く彼女に、アヤノは首を横に振って。
「……それでも。ラヴィスは私の大切な友人だよ」
「……お人好しですね。アヤノさんは……」
 その言葉に、ラヴィスは嬉しいのか悲しいのか分からなくなって……。
 そして、なおも何かを求めるようにこちらにやって来る小さなアンデッド達。
「……ゴメン。アタシは坊やのお母さんじゃないんだ。こんなとこで遊んでないで、早くお母さんの所に帰りな……」
「待ってるのは生きてる命じゃなくて、止めてくれる人だったんだよね。遅くなって、ごめんね……」
 彼らに向けて呟くゴウランとルシエラ。それと同時に、思い切り武器を振り下ろす。
 一撃で楽にする。それが自分達に出来る、せめてもの供養。
 再び向かって来るかと、拳を握りしめるナイジェル。
 しかし、崩れ落ちたアンデッドは2度と起き上がることはなかった。

●眠り
 村に、本当の意味での静寂が訪れた。
 アンデッドの掃討が終わると亡骸を埋葬しようと集めて回る冒険者達。
 大人も子供も、犬も猫も……。
 ゴウランは、子供達の亡骸を母親らしき亡骸に寄り添わせてやった。
 こうすることに何の意味があるのかは判らない。
 ただ……この子が安心して眠れればいいと。
 また、偽りの生に引き戻されたりしないように。
 死の国ではなく天に召されるように。
「もう待たなくていいんだよ、おやすみなさい……」
 ちりん、と見送りの鈴をならすルシエラ。
 立ち上る紫色の煙が、冒険者達の祈りを乗せて。
「『地獄の穴』なんて恐ろしい場所が本当にあるのか判らないけれど……。必ず、確かめるから」
 手を合わせるアリアの呟き。カズハの手向けた花が、風に揺れて。
「さて……帰ろうか。何だか飲みたい気分だよ」
 例え屍体でも、子供を殺るのは辛い……そう呟くゴウランに、ナイジェルとソルディンが頷いて。
「付き合うよ」
「奢ってくれるのかい?」
 そんな軽口を叩きながら、帰路につく冒険者達。
 ――勝利の酒の味は、苦いものになりそうだった。


マスター:猫又ものと 紹介ページ
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わからない
参加者:8人
作成日:2004/08/21
得票数:冒険活劇22  戦闘1 
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