<リプレイ>
妖煙の姐御霊査士・アリシューザ(a90090)は、谷が見える墓を訪れていた。それは谷を襲った春の鉄砲水で流された後に、新しく立て直されたばかりだった。 「元気だったかい、ルイス?」 いつもとは違う、鮮やかな深紅に無地のチャイナドレス姿のアリシューザは、墓に酒を掛けると、手を合わせた。不意に、ぱらりと降ってくる天気雨。 「涙雨……っすかねぇ?」 墓参りに同行していた、蒼の閃剣・シュウ(a00014)が傘を開いて、アリシューザの頭上に差した。 「ここに眠っているのは、姐さんの彼氏っすか?」 山峰を護る誇り高き獣・ラフティーン(a04085)の問いに、余計なことを聞くなという顔をする、紅き剣閃・ルティス(a07069)。 「あたしの最初で最後の男さ。かっこつけて死んだけどね」 物言いは乱暴だったが、優しい顔をしてるな、とニュー・ダグラス(a02103)は思った。墓に、畑でとれたスイカとメロンを供えつつ、村人から聞いた話を剣難女難・シリュウ(a01390)は思い出す。 「アリシューザさんは、村を救ってくれたお人じゃ。けんど、あん人はその時に仲間を一人失ったんじゃよ。そん人は、アリシューザさんば救うために、自ら谷底に落ちたという話じゃ。死体は最後まで上がらんかった。そん人は、アリシューザさんの想い人だと聞かされてのぅ。それは不憫でならんかった」 同様の話を村人から聞かされていた、翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)は、目の前で恋人を失うのは、どんな気持ちなのだろうか、と思わずにはいられなかった。
……谷の中腹から一本だけ突き出した樹にぶら下がる冒険者の男女。何事かを言いあい、男は微笑んだ。 「アリ……愛してる」 「ルイスぅぅぅ!」 女武道家の絶叫と共に、笑みを浮かべたまま谷底に消える武人……
その時の様子を、アリシューザはキセル片手に淡々と語った。話を聞きながら、明告の風・ヒース(a00692)の手をぎゅっと握る、陽だまりの風に舞う・シルキス(a00939)。 「アリシューザ様はどうやって乗り越えたの?」 シルキスの問いに、アリシューザは優しく答えた。 「時間が……解決してくれたよ」 「アリシューザさんはもう、大丈夫なりか?」 雪輪に秋草の柄の浴衣を着た、凛花姫・シャルラハ(a05856)の言葉に、シャルラハの頭を撫でるアリシューザ。 「あたしなら、もう大丈夫だよ。いい大人だしね」 気がつくと雨は止み、茜空が広がっていた。 「付きあわせて悪かったね。夜は灯籠流しと出店が出る。みんなで一杯やろうじゃないか」 「もちろん付きあうっすよ、姐さん」 「おお、俺も行くぞ、アリシューザ」 ラフティーンが言い、漢笑いを浮かべるダグラス。アリシューザは、ちらりと墓を一瞥すると、墓を去った。ルティスが、アリシューザの戦友で恋人だった男の墓に、そっと呟いた。 「逝きし者の魂に安らぎと安寧を」
谷に夜のとばりが下りると、晴れた夜空に浮かぶ満月が、河原を優しく照らし出す。河原では灯籠流しが始まり、幻想的な灯がいくつも川面に浮かぶ。 「書ききれねぇよな……こんな小せぇもんに、よ」 蒼獣鬼・イザーク(a10204)は、出店で買った灯籠を見て苦笑する。自分が昔いた、傭兵部隊の紋章である毒蛇の絵を描くと、そっと灯籠を流した。目の前を、いくつもの小さな灯がよぎる。 「蛍……か」
村人たちが思い思いに灯籠を流す中に、破邪顕正・フィル(a00166)の姿があった。出店で買ったひょっとこのお面を頭の横にかぶりながら、戦争で亡くした両親と姉へのメッセージを託した灯籠を川面に浮かべる。 「親父、おふくろ。俺も妹も元気でやってる。だから心配するな」
「その灯籠は誰のためのもの?」 蒼夜・キリ(a00339)の問いに、蛍の・ヒカリ(a00382)が優しく微笑んだ。 「この眼鏡を、持っていた人のものですよ」 眼鏡越しに答えた浴衣姿のヒカリは、そっと灯籠を水面に浮かべた。 「キリさんは?」 「僕は……倒した人達の鎮魂、かな」 灯籠を浮かべる、浴衣姿のキリ。 「アンデットだった人達も好きでなったわけじゃないし……倒してきたモンスターやリザードマンの人達も……謝る事はしないけどゆっくりと休んでね」 心の中で呟くキリ。祈りの言葉を終えたヒカリの肩に、蛍が止まったのを見たキリが、それをそっとつかむと、ヒカリの髪に止めた。
河原で、手酌酒を飲むのは、渦巻く斬風の黒琥・ウォーレン(a01908)。五つの杯に酒を注ぎ、一人杯をあおる。ひときわ大きな灯籠には、酒の小瓶が入っていた。やおら立ち上がり、灯籠を流すウォーレン。 「俺はいろいろあったが、元気でやっているぜ。お前らが好きな酒を手紙代わりに送るから、飲んでくれや」 灯籠を見送ると、ウォーレンは再び河原に腰を下ろし、杯を手に取った。
「死んだヤツに言葉伝えられるってのは粋な計らいだがよ。返事が欲しいなんて思っちまうのは……へへ、いけねぇや」 灯籠を見送りながら、破城槌・バートランド(a02640)は目頭を押さえた。 「灯籠、流したのかい?」 白地に紺の撫子柄の浴衣姿の、華炎女帝・エヴィルマ(a02092)が声を掛けた。浴衣姿に、目を細めるバートランド。 「まあな。そっちは?」 「これからだよ」 そう言うと、灯籠に火を入れた。 「あの頃と比べて、アタシは大分強くなったわよ」 呟きつつ、灯籠を浮かべるエヴィルマ。 「これでもまだ、自分が守らなきゃとか思われてるのかしら?」 「そいつは、あんたのコレか?」 バートランドの問いに、無言で頷くエヴィルマ。 「カミさんに報告は終わったのかい?」 「ああ。フレイヤには随分ごぶさたしちまったからな」 バートランドが、河原に荒ぶる紅風・デューイ(a00099)の姿を見つけた。 「師匠、すまねぇ」 デューイが、流れる灯籠に言う。 「俺だけが、安穏と生き永らえて無様晒してる。けど、必ずあんたの敵は取る。だから、もう少しだけ待ってくれ」 「デューイ!」 デューイが顔を上げると、バートランドとエヴィルマが微笑んでいた。 「お前も灯籠、流したのか?」 「まあ、な」 「それは?」 デューイが手にしていた酒とつまみに、目をやるエヴィルマ。 「俺の師匠の好物だよ。こいつを肴に一杯やるか?」 「いいのかい?」 「その方が師匠も喜ぶさ」 「よし、今晩はみんなで飲もうじゃねぇか」 バートランドの提案に、2人は大きく頷いた。
流す灯籠に、思いを込めるナタク。 「頼りになる仲間とこれからも精一杯頑張っていくから、どうぞ見守っていて下さい」 灯籠にそう告げたナタクは、ふと、川べりに目をやった。灯籠が流れる川面に突き出した、対岸の岩の上で、大声で何かを叫ぶ人影を見つけた。何かを詠唱するような声と共に、突然岩が割れ、人影を急流に飲み込んだ。 「た、大変!」 ナタクは、大慌てで川べりを走った。それから程なく、漆黒の魔剣士・シュウ(a00252)は、ナタクや駆けつけた自警団員たちに、救助された。
バニーな翔剣士・ミィミー(a00562)が、灯籠を手に周囲を見回した。幸い、知りあいらしき姿は見えない。河原に下りると、村人達に混じって灯籠を流し、両親のために少しだけ目をつむって祈った。 「今は、皆がいるから大丈夫。心配しないでね」 祈り終えたミィミーが立ち上がると、河原に下りてくる人影を見て、声をあげた。 「リツじゃない。灯籠流しに来たの?」 万寿菊の絆・リツ(a07264)は、ミィミーに微笑みながら会釈する。リツが見せたのは、夜店で買った蛍の籠だった。 「うわぁ、綺麗ね」 喜ぶミィミーの横で、リツは籠のふたを開けた。中から、1匹、また1匹と蛍が闇夜に消えていく。籠の中に残った最後の1匹をそっと取りだすと、囁いた。 「父上、母上方。こんな愚か者の私を、まだ見守ってくれますか? 蛍よ、どうか、私は息災だと伝えて下さい」 2年前に家を出奔して以来一度も戻っていない、リツの言葉を聞き届けたのか、蛍は飛び立つと闇の中に消えた。無言でそれを見つめる2人。ミィミーが再び河原に目を走らせ、灯籠を流す人込みの中に見知った顔を見つけた。 「知りあいが来てるから、私はここで」 ミィミーが去り、リツが改めて灯籠を流そうとしたときだった。傍らで、灯籠を流す女性がいた。 「主の御魂(みたま)も、彼の地より戻って参りましょうか」 「どなたの灯籠ですか?」 リツが尋ねると、流るる蒼碧と射干玉の雫・メイファ(a08675)は、頭を下げて答えた。 「此度は亡くした主の供養に参らせていただきました。いつまでも悲しんでいる訳ではございませんが、思い出を懐かしむ時間はいただけましょう」 メイファは、そう答えると歌を歌い始めた。歌声は、死者を慰めるかのように響き渡る。と、その旋律に、新たに胡弓の物悲しいメロディが加わった。墨黒の地に白の絞りの蛍柄の浴衣を着た、終焉の月に謳う華・エリオノール(a03631)の弾く胡弓だった。まるで呼応しあうかのように、一つの旋律となり、灯籠の灯を見送る。 河原で、灯籠を流した紫輝の術法師・エルフィード(a00337)が、顔を上げた。 「歌、ですね」 白き一陣の旋風・ロウハート(a04483)の言葉に頷くエルフィード。 「その灯籠は?」 エルフィードの問いに、灯籠を放したロウハートは微笑むばかりだった。 「私は、過去は振り返らない主義なんです」 黒紺の浴衣、蒼の帯姿のエルフィードに、ロウハートは言った。 「私も浴衣着れば良かったですね。そうだ、夜店で一杯やりませんか? シリアさんの話も聞きたいし」 「そういうロウハートさんは、メイさんとうまくいってるんですか?」 「もちろんですよ」 2人は、話ながら河原を後にする。 「風流だねぇ」 アリシューザが、エリオノールの胡弓とメイファの歌声に目を細める。 「火、持ってたら貸してもらえる?」 振り返ると、白き炎の女皇帝・フィリィ(a02169)がキセル片手に立っていた。キセルに火を入れたフィリィが尋ねる。 「蛍、か。死霊の霊魂って言われてるわね。アンタなら、戦友を見つけられる?」 フィリィの問いに、舞い飛ぶ蛍を見つめるアリシューザ。 「あの中のどれかだろうね」 その憂いを帯びた表情に、お日さまの匂い・リトル(a03000)は、大人の女性を見たような気がした。 (「リトもいつかあんな風になりたいのね」) 自分の肩に止まった蛍を見つめながら、リトルは呟いた。 「とっても綺麗なのね」 そんな静寂を破ったのは、深遠なる復讐の赤き竜鬼姫・シュゼット(a02935)だった。 「フィリィ! 夜店に林檎飴売ってたの! 林檎飴! 林檎飴! 買って買って〜」 「あんたの知りあいかい?」 「姪だよ」 フィリィはシュゼットに言った。 「はいはいはい、ガキじゃあるまいし。買ってあげるよ」 「ホント? やったぁ〜」 シュゼットと共に、夜店へと消えるフィリィ。2人を見送ったアリシューザに、声を掛ける者がいた。空を望む者・シエルリード(a02850)だった。 「灯籠は、流したのかい?」 「ええ、さっき流しました」 答えるシエルリード。 「アリシューザさん」 シエルリードは、川に浮かぶ灯籠の灯を見ながら尋ねた。 「その人を喪して、自分を死に駆り立てて逝くほど人を愛したということは、果たして幸せなのか、不幸せなのか……どっちなんだろうね?」 「幸せなんじゃないのかい? あたしはそう思うけどね」 キセルをくゆらせるアリシューザ。 「そう……ですか」 アリシューザは、灯籠流しを見つめるシュウに声を掛けた。 「あんたは灯籠流さないのかい?」 灯籠を流す朽澄楔・ティキ(a02763)を見つつ答えるシュウ。 「文句を言う相手が多すぎてね……さて、夜店でも回りますか。アリシューザ、何か奢りますよ」 「ありがとう。シュウ」 「ごちになるぜ、シュウ」 シュウの背後で、ルティスとティキが笑顔で立っていた。 「さ、行こうぜ」 ティキに引きずられていくシュウを、アリシューザは笑って見送った。
「恋慕いながら、生きる者あれば、死者はその内に生き続ける……か」 「灯籠も流さないで、何してるの?」 灯籠をもてあそんでいた、銀閃の・ウルフェナイト(a04043)の様子に、ミィミーが灯籠を取り上げると、それに火を入れて、川面に放した。 「また、難しいこと考えてたんでしょ? ね、夜店いこ?」 「そうするか」 ウルフェナイトが、ミィミーの浴衣の乱れを直す。 「何か食べたいなー、うるふぱぱ」 「はいはい」 人気がほとんどなくなった河原に降り立つ、二組のカップル。 「誰もいませんね」 軽やかに跳ねる靴音・リューシャ(a06839)が、蛍の舞い飛ぶ河原を見回す。 「灯籠、流すぞ」 冥府の番犬・ヤヨイ(a10090)の言葉で、四つの灯籠が川面に放たれる。それを見つめながら、若葉萌えし草原の優風・ウィンディア(a00356)に、言に現しつくせぬ愚者・セリオス(a00623)が尋ねた。 「ウィンディアは何を願った?」 「秘密、ですわ」 いたずらっぽく微笑むウィンディア。 「セリオスは、何を願いましたの?」 「まあ……こういうことかな」 セリオスがウィンディアの手を握ると、若草色の浴衣姿のウィンディアが、そっとセリオスの肩に寄り添った。 「リューシャは何と願った?」 ヤヨイの言葉に、リューシャは答えた。 「ヤヨイとずっといられますようにって」 「そんなことは、灯籠に願わなくてもいい」 「え?」 「それは、俺が叶える。俺が、一生リューシャの笑顔を護る」 ヤヨイはリューシャを抱き寄せた。頬を染めるリューシャに、そっとくちづけするヤヨイ。ヤヨイの首に手を回したリューシャの手首で、ヤヨイとおそろいのプレスレットが月の光に反射して鈍く輝いた。
河原を、灯籠を見送るカップル。 「ヒース、お前なぁ、もうちょっと頑張れよ!」 漢笑いを浮かべるダグラスの意味不明なセリフと共に、シルキスと送り出されたヒース。灯籠が流れていくのを無言で見つめる。 (「オウヂ様、ボクを置いていかないでね」) ぎゅっとヒースの手を握るシルキス。何も言わずに、ヒースはその手を握りめて、シルキスを引き寄せた。シルキスが目を見開いて見上げた先で、ヒースが微笑んでいた。シルキスはヒースの体にそっと体を寄せた。
深夜。 月だけが見下ろす河原に、死徒・ヨハン(a04720)は一人たたずんでいた。 川面に一つだけ浮かぶ、灯籠の灯。川のせせらぎと共に、ヨハンの胸に去来するものはなんだったのか。死後、アンデッドとして現れた最愛の女性か、それとも彼女の骸を胸に泣いた自分の姿か。帽子を取り、一人瞑目するヨハンは、彼女の遺骨で作られたロザリオを握りしめて呟いた。 「死こそが唯一の救い」
言の葉に 想い重ねて流るるは 淡き夏雪 盆の灯籠 (詠み人 エルフィード)
灯籠流しが終わった翌日。 雷と共に雨が降り、夏は終わりを告げた。
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参加者:35人
作成日:2004/08/29
得票数:恋愛4
ダーク1
ほのぼの19
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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