アンディ・フェアの豊かな森



<オープニング>


 流れる水面に、夏の日がまっすぐに降り注ぐ。
 一人の少年が、きらきらと輝いて次々に姿を変えていく小川を、飽きることなく見つめている。
 彼の名は、アンドレアス・フェア。
 家族や友人たちは、アンディと呼んでいる。
 立ち上がると、藍で染められたズボンのお尻に付着した草の葉を払い、少年は裾をまくり始めた。
 水が飛沫をあげる中を、自由に駆け抜けていく。
 彼が向かったのは、森を流れる小さな川が、わずかに蛇行する地点だ。
 そこには、石や枝を組み合わせて造られた小さな堤がある。
 アンディは、お手製のダムに腰をかけると、透明な水が1メートルほどにも水かさを増した中へ両足を差し出した。
「ふぅ〜〜」
 満足げな溜息が漏れる。
 独りだけの、秘密の場所だった。
 
 
 冒険者たちで賑わう、とある街の酒場に男が駆け込んできた。
 カウンターに腰掛けていた少年が、息も絶え絶え、丸い顔を真っ赤に染めている来訪者に水を注いだ木の器を手渡した。
 男が水を飲み干している間に、別の冒険者から促されて、青年が隅のテーブルから腰をあげた。
 渇いた靴音が男に近づく。
 来訪者が顔を上げると、その動作で器からしずくが垂れる。
 薄明の霊査士・ベベウの爪先に、黒い円が現れた。
「どうか、なさったのですか?」
 ベベウの灰色の瞳に見つめられ、男は大きく首肯いた。
 依頼人は霊査士に招かれて、丸い木の机に着いた。
「ご紹介します。こちらは、ギャリー・フェア氏。依頼人です」
 ガタンと大きな音が響き、男は立ち上がって挨拶をする。
「どうぞ、よろしく。私は急いでいます。息子の行方が知れない。森が危ないんです」
 慌てたために、要点が散逸してしまい、的を射ない依頼人へ、ベベウが穏やかに問うた。
「森で、何が起こっているのです?」
「私たちが暮らす村は、森から流れ込む小川を挟むようにして成り立っています。普段は静かな川なんですが、恐ろしい魔物が現れて、川を溯っていったんです。奴は水面を乱暴に見出しながら、長い触手を振り回して、村の家々を破壊して行きました。10ほどの家屋が潰されて、その下敷きになった村人が酷い怪我を負わされました」
 瞳に悲劇を悼む色を浮かべ、ベベウは首肯いた。
 そして、問を続ける。
「魔物は、川を溯り、森へ向かったのですね」
「ええ、そうです。そこには、私の息子アンディがいます。いつも川で遊んでいるんです。森の中には、村へと流れてくる小川に繋がる、いくつものもっと小さな流れがあります。その10程の源流が、村に近い森の中で合わさって、一つの流れとなっているんです。アンディは、その流れのいずれかにいるはずです」
 ベベウは相槌を打ち、ギャリーの語りを彼に任せて続けさせる。
「上流にいるのだろうと思うのですが、アンディは自分が遊ぶ場所を私たちには教えてくれませんでした。子の秘密だったんです。なんとか聞き出せていれば、こんなことにならなかったんでしょうが、あんな魔物がいては我々には森に入ってあの子を捜すことなどできません」
「それは、冒険者の皆さんにお任せすればいいことです。川を溯る魔物についてですが、どのような姿をしていたのですか? 何か、彼の者に関係する品をお持ちいただけていませんか、あれば霊視することができるのですが」
 上着のポケットから、鮮やかな水色の鱗らしきものを取りだしながら、ギャリーは話した。
「魔物の背の高さは、3メートルくらいでした。こんな色の鱗で覆われていて、形はまるで六角形の柱のようで、その周囲から根が伸びるみたいに長い触手が何本も生えているんです。長さは10メートルはありました。それがすごい速度で動き回って、家々を潰していったんです」
 ベベウが鱗を受け取る。そして、目を閉じた。
 霊視が始まる。
「この魔物は……水の流れに沿って移動する行動論理を持つようです。触手が触れる範囲、つまりは自らを中心とする10メートルほどの領域に対して、破壊の限りを尽くします。ギャリーさんたちには見えなかったでしょうが、柱のような胴の上部には、白い目のような器官がありますね……触手以外にも、この目から何らかの攻撃が繰り出されると考えておいたほうが妥当でしょうね。彼の物(かのもの)は、小川を溯って森に入ろうとしています。もしかすると、多くの水が湛えられている場所に向かっているのかもしれません……」
 霊査士の瞳が開かれた。
「皆さんには、急いでいただいたようがよさそうですね。
 森に入り、アンディくんの安全を最優先で行動してください。
 10の源流、そのいずれかを溯れば見つかるはずです。
 子供の秘密……それが、問題を解く鍵となるでしょう。
 森に入れば、水色の魔物との遭遇は避けらません。かなりの力を持った難敵です。くれぐれも単独で対峙するようなことがないように、連携を図った上で対決に臨んでいただきたいと思います。
 それでは、皆さんのご武運をお祈りしています」
「どうかよろしく」
 ギャリー・フェア氏の丸い顔が伏せられた。

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参加者
傭兵上がり・ラスニード(a00008)
荒野の黒鷹・グリット(a00160)
暁の傭兵・ラギシエル(a01191)
狂刻の牙・ウォーレン(a01908)
黒の闘士・デュラン(a04878)
緋炎鋼騎・ゴウラン(a05773)
サイレントシャドウ・ガス(a07813)
青空に浮かぶ龍・ルイ(a07927)
凪影・ナギ(a08272)
鋼鉄の乙女・ジル(a09337)
ストライダーの紋章術士・スウヤ(a09425)
封魔・ハガネ(a09806)


<リプレイ>

 天高い空から足下を、白のレースを隔てて見ることができれば、陽光を浴びて煌めく幾条もの源たる流れが、湿潤な緑に覆われた森を進み、やがて収束して穏やかなひとつの流れとなる様が目に映ったことだろう。
 だが今、人の営みを支える母なる流れには、全身から生えた禍々しい触手による破壊の限りを尽くしながら進む、美しい水色の鱗をてらりとぬめらせる六角柱が屹立していた。
 その魔の手が、豊かに水が湛えられた源流へと迫る。
 
「ここの川と森は綺麗なんだろうね……元の憩いの場に戻したいよ」
 鋼鉄の乙女・ジル(a09337)が漆黒の目に、煌めく水面の散逸する光を受けとめながら漏らすと、荒涼絶地・グリット(a00160)が目深に被った帽子の縁を指先でわずかに持ち上げて言った。
「そうだな……急いで行こうか」
 滑る湿った足下に長い足を突き刺しながら、渦巻く斬風の黒琥・ウォーレン(a01908)は目前に続く緑の壁に目を見やっていた。
(「変わった習性のモンスターだな、アンディを襲う前に確保できるといいんだが」)
 10の源流がひとつの流れとなる地点に冒険者たちは辿り着いた。
 その場所は、湿地となっており、どこからが源流で、どこからが水の張られた草地なのか、一見しただけでは皆目検討がつかない。
 そこで、傭兵上がり・ラスニード(a00008)が、依頼人から受け取った地図を広げる。それには、岩や特別な形の木々を目印として、源流の方角を特定することができる工夫がなされている。
「この地図によると、ギャリーさんが子供の頃に遊んでいた源流は、この流れ。東の方角にあるようですね」
 黒衣をまとった忍びが、しなやかな所作で地図の傍らに現れる。
 一点を指差し、忍者・ハガネ(a09806)が言った。
「まず、水の流れが減っている源流を特定しなければなりませんね」
 その言葉を聞いて、ジルが駆け出した。
「東だねっ!」
 しばらく森を進むと、そこには乾いた地面と、湿った地面が現れていた。
「ふむ……」
 まるで紋章術を詠唱するかのように、合わせた二つの指を鼻先から地面へと向けると、ストライダーの紋章術士・スウヤ(a09425)が言った。
「ここなら、源流が特定できますね」
 言葉を受けて、ラスニードが膝をつき大きな体を折り曲げる。
「このミズゴケ、乾いていますね。間違いない、こちらがせき止められた流れです」
「この川か、急いで行こう」
 颯爽と駆け出すグリットに続き、皆が木立の中へ消えていった。
 
 森を駆け抜ける一団から、途中で三つの影が離れていった。
 源流をその流れのままに溯り、モンスターとの邂逅を目指す本隊とも言える班、それから、源流のアンディ少年がいる地点へ、川の湾曲などを無視してまっすぐに向かっていく先行班である。
 三つの影は、後者に属していた。
 木の枝を踏み砕く乾いた音が連続する。
「こんな時に水遊びたぁ間が悪いとしか言えねぇな……けどな、命だけは助けててやりたいじゃねぇかよ」
 凪し鬼影・ナギ(a08272)が隣を走る冒険者に思いを吐露すると、耳元の赤い飾りを光らせながら、サイレントシャドウ・ガス(a07813)は首肯いた。
「子供……特に男の子は、誰でも自分だけの秘密基地を作りたがるものですからね」
 朽ちた木が横たわり、湿った空気で苔生した岩が転がる悪路だが、冒険者たちは立ち並ぶ柱の間を縫い、疾風のごとく走り抜けていく。
 灰の髪をなびかせ寡黙に駆けていた、暁の傭兵・ラギシエル(a01191)が口を開いた。
「まずい……あれを!」
 ラギシエルの赤い瞳が見つめる先には、明らかに自然との力とは異なる、邪悪な膂力をもってして薙ぎ払われた光のさす空間が開けていた。
 モンスターが、すでに到達している証しだ。
 伸びた枝が遮っていた日の光が広がり、三人を包み込んだ。
 そこには、まるでトルコ石のような美しいブルーに全身を包まれた柱が水面で静かに佇んでいた。
 少年は……は無事だ。
 小さな堤の前でモンスターが立ち止まるそのわずか上流で、遊び疲れたのか彼はすやすやと眠っている。
 異様な光景に、ガスたちは足音を殺しながら近づく。
 ラギシエルの手が伸びて、少年の細い腕を強く掴み、引っぱり上げる。
 少年は怯えた顔をしたが、容赦なく身体を抱え込むと、ラギシエルは言った。
「お前さんの秘密を台無しにして悪いが、今は命の方が大事だ。俺たちの言う事を聞いてくれ、あいつから離れる!」
 柱の怪物は、動きに気付いたようだ。
 たちまち水色の煌めく鱗から、青黒く醜悪な触手が無数に生え、伸びてくる。
 そして、ヒュンヒュンと宙を切り刻みながら、冒険者と少年に向かって来た。 
 柱は水面からわずかに、拳大ほどの距離を空けて浮いている。その真下の水は、白く泡立っていた。
 ナギが庇うように身体を投げ出す。
「坊やの秘密基地に邪魔しちまって悪いが、勘弁してやってくれよ」
 彼がそう言い終わる前に、怪物の触手がナギの身体を痛烈に薙ぎ払った。腰を強く打たれ、ナギの足が宙に浮く。ほぼ水平の軌道でナギの身体が樹木の幹に叩き付けられた。
 ガスの手には小さな笛が握られている。彼はそれを三度、強く吹いた。
 それは、仲間に伝える合図である。
 一度であれば、少年は無事。
 二度であれば、モンスターを発見した。
 三度であれば、それは最悪の可能性を意味していた。つまり、怪物と少年との接触である。
 根とも蛆虫ともとれる怪物の触手が、まるで内から爆発するかのように周囲に広がり蠢いている。
 ナギたちは、少年に源流を下っていくように指示した。いずれ、笛の合図を聞きつけた本体の仲間たちと鉢合わせるはずだ。
 自分たちは……ここでモンスターを食い止めるしかない。
 羽のように舞い、行き交う触手を交わしながら、ラギシエルが距離を詰めようと試みるが、突き出された『ブラッドファイア』の切先は、水色の鱗まであとわずかのところで青黒い触手によって阻まれる。
 逆に距離を保ちながら、ガスの腕が水平に振り抜かれ、その指先から白く輝く刃が投擲されたが、柱の肌には突き刺さらない。蠢く触手に突き刺さった刃の行き先は、誰にも確認できなかった。
 怪物の触手が瞬秒だけ止まる。
 そして、音もなく柱が宙を進んで接近してきた。
 無数の触手が鎌首を持ち上げ、無差別な破壊を欲して襲いかかってくる。
 その攻撃はとても避けきれるものではなかった。三人は、水面に落ち、岩に叩き付けられ、地で土を噛んだ。
 唇を乱雑に手の甲で拭うと、ナギは肩膝をついた姿勢のまま、飛燕連撃を放った。水面ぎりぎりを飛んだ刃は、柱の根元付近に立て続けに突き刺さった。
 根本を狙ったのはまったく偶然だった。しかし、あるいは、ナギのセンスがそうさせたと言えるのかもしれない。
 ナギが無言で仲間に語りかける。彼の瞳は、敵の頂点、白い目に向けられていた。死角がある。
 岩の上からラギシエルが衝撃の輪を召喚し、触手の嵐へ突撃させる。
 さらに、湿地を駆けながら放たれたガスの飛燕連撃が、水飛沫と光を引いてまっすぐ柱へと飛来していく。
「大丈夫ですか」
 声の主は、白雪翼の癒手・ファレア(a00332)。先行班に属しながらもわずかに到着が遅れていたのだ。白衣をまとった彼女の身体から、仄かな癒しの光が広がっていく。
 ラギシエルが相手の懐に到達する。怒濤のごとく繰りだされた剣技が、怪物の水色の鱗を切り刻むとその内側には赤黒い肌が隠されていた。
 距離を保ちながら、ガスは飛燕連撃による攻撃を加えていく。
 六角形の柱が高く浮き、回転し始めた。
 そして、蠢いていた触手が静かに柱へと巻き込まれていくが……それが花開くように巨大な輪を作り出し、冒険者へと迫り来る。鞭のような攻撃が身に加えられていく。
 いかにラギシエルたちが経験豊かな冒険者であっても、わずかな人数でこの怪物と対峙することは危機にほかならない。
 触手を交わし、根元を狙う攻撃を繰りだしてダメージを与えていっても、相手には感情を表現する器官もなければ、血すらも流れない。気持ちがなければ、それが折れることもない。どれだけ、追いつめることができているのかわからない、それが多くなのか、少ないのか。その疑問が、逆に冒険者たちを苦しめていた。
 モンスターの白い目が、黒く濁っていく。すると、水色の鱗にもまるで清らかであった流れに血が流れ込んだように条が伸びていく。
 一瞬、怪物の身体が膨張したように見えた。
 それは、凄まじい勢いでファレアを襲った。
「くっ」
 倒れた仲間を抱きかかえ、ラギシエルは駆けた。
 回復役を失っては仕方がない、傷ついた彼らは撤退を始めた。
 少年の堤は無残にも破壊され、湛えられていた水は溢れている。
 借りを返す時は、必ず来るだろう。
 そう、近いうちに。
 
 水の流れがほとんど失われた小さな源の流れを、黒の闘士・デュラン(a04878)が進んでいた。
 森の構図は頭の中に叩き込んである。その記憶が正しければ、秘密の場所に近いのではないか。
 そう思った瞬間だった。
 笛の音が三度鳴り響く。
 決壊したダムの水に追われるようにして少年が駆けてくる。
 そして、少し遅れ、ボウ……という音が近づいていくる。
 無数の羽音にも似ているし、嵐の夜にも似ていた。
 だが、音の主は美しい肌を晒し、その周囲にみずぼらしい触手を蠢かせる、六角柱の怪物だった。
 傷ついた4人の冒険者たちが、こちらに向かって駆けてくる。
 グリットが疾風のごとく駆ける。仲間たちの間を通り抜ける際には、帽子に手をやり敬意を示すことも忘れない。
 旋風脚で触手を薙ぎ払われ、敵は空で不動となった。その隙をついて、汚れ無き純白の天使・アヤ(a10024)が傷ついた仲間を抱きしめる。
 柱を睨みつけると、グリットは戦闘開始と言わんばかりに、右腕をしならせた。あまりのスピードに指先が見えなかったが、たしかに飛燕連撃が投擲されていた。
「その身に受けろ!」
 グリットの発した掛け声とほぼ同時に、三つの刃が敵の鱗を散らす。
 いつの間にか、グリットと挟撃する形で敵の背後に回り込んでいたのはハガネだ。もっとも、この敵には前後も左右も関係ない。しかし、彼の速度に蠢く触手が対応する前に、高められた気による清冽な刃が柱を捉えていた。
 彼の鍛え抜かれた巨躯には不釣り合いだったかもしれない、そう思わせるほど華奢に見えた『ジュエルソード』が、ラスニードの手によって振り上げられる。銀の刃に、黄金に光り輝く紋章が浮き出ると、それは真一文字に怪物を斬った。
「お手並み拝見」
 ディランは敵の触手を狙っていた。無数の蠢く触手だが、青い稲妻にも似た光をまとわせた『シドファズル』の苛烈な薙ぎ払いが、大人の胴ほどもある束を切り落とした。
「この地を守りたいっ!」
 そう叫ぶと、ジルは『エスパーダ』を大きく振りかぶった。そして、一気に地表を叩く。地表が削られ、アビリティによって顕在化した無数の砂礫が敵から広がる蛆虫どもを蹴散らした。
 砂礫の粉塵と騒音が冷めやらぬ中、ウォーレンが怒号の叫びをあげる。
「止りやがれ!」
 触手の動きが止る。紅蓮の咆哮を受け、水色の怪物はまるで絵画のように静止し、宙で留まっている。
「ウォーレン、無茶したらしばく」
 微笑媛・エレアノーラのヒーリングウェーブが傷つく仲間たちに届いた。
 吹き出された酒の飛沫が光を浴びて煌めく。気合の酒を滴らせた『大鉄球キャッスルクラッシャー』を回転させながら、緋炎乱舞・ゴウラン(a05773)が柱に向かって突っ込んでいく。鍛え抜かれたしなやかな身体が、宙でしなり、鉄球が水色の柱へ打ち込まれる。
「やぁぁっ!」
 モンスターの身体に、半円状の穴が穿たれ、その周囲に貼り付いた水色の鱗にも亀裂が生じている。
 触手が脈打つように動き始める、麻痺が解けたのだ、モンスターが回転を始めた。
 破壊の衝動が冒険者たちに襲いかかり、鞭のようにしなった触手が次々に現れては、身を切り裂いていく。ナギたちも苦しめられた攻撃に、グリットやウォーレンたちも唇を噛む。
「テメェの攻撃なんか、アタシにゃ痛くも痒くもないよっ!それで終りかよっ!」
 術士たちを庇っていたゴウランが気勢をあげる。
 草原に吹く一陣の風・ルイ(a07927)の身体が飛翔する。長くしなやかな褐色の肌が陽射しを受けて美しく浮かぶ。振りかぶったルイの背から、巨大な刃が姿を現し、青白い閃光を放ちながら、怪物の白い目へ真っ直ぐに落とされた。
 モンスターの身体が震え、全身を掻きむしられるように不快な鳴き声を発した。
 柱は……確かに苦しんでいる。
 『セプター』を構えたスウヤの前方に、光り輝く紋章が現れる。そして、その中央から光が溢れ、輝く球状の衝撃となって敵へ飛んだ。数を減らした触手の間を抜けて、衝撃が確実に本体へと到達した。
 そこへ、ラギシエル、ガス、ナギが戦列に復帰する。
 ガスとナギの飛燕連撃が放たれると、翔剣士はまるで刃を従えるかのように飛び、凄まじい突きを見舞った。
 間髪入れずにグリットが続く。左右に上半身をぶれさせるような予想のつかない動きで相手の触手を翻弄すると、彼の身体がひねられ頭よりも高い位置から蹴りが繰りだされる。その反動のままに手の甲が鱗を砕き、それまでは軸となって足が浮かぶと、体重をかけた浴びせ蹴りが柱の根元を砕いた。
「さぁ、今がチャンスだトドメを!」
 ジルのチェインシュートによる援護を受け、三人が突貫する。
 煌めく刀剣、そして、そこに込められたラスニードの心の力。エンブレムブロウが柱のほぼ中央に、まさに激突し、柱がひしゃげる。
 そこへ、焔で腕までを包まれたウォーレンが『アルファイド』を突き刺す。
 漆黒の鞘に収められていた『小太刀』が引き抜かれ、艶めかしいまでに鍛え抜かれた白刃が晒される。それを逆手に持つと、ハガネはカラミティエッジを見舞った。
 水色の柱は大きな音を轟かせて垂直に落ち、源流の中に立ったまま揺らめくこともなく、その破壊的な生を失った。
 
 翌日、町では、復旧の作業が始まっていた。
 おお、という驚きの歓声を浴びながら、ジルが材木を運んでいる。
 瓦礫をどける作業を手伝っていたラギシエルは、そこにほとんど無傷の白いうさぎのぬいぐるみを見つけた。笑顔で駆け寄ってくる少女に、彼はうさぎを手渡すと、彼女は飛びつくように抱きついてくるのだった。
 
「ふふ、懐しいねェ。アタシも子供のころやったコトあるよ、こういうの」
 冒険者たちはアンディの秘密の場所に招待されていた。嬉しそうに束ねた木の枝を水中に横たえているのは、ゴウランだ。
「これでいいのか?」
 胸いっぱいに枝を抱えて、ナギがやってくると、ルイと並んで作業していた少年は嬉しそうに首肯く。
 ダムに、再び水が満ちてくる。
 喜びも希望も一緒に……。


マスター:水原曜 紹介ページ
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