宝地図屋グレッグ〜巨鳥舞う遺跡



<オープニング>


 ――かの山、空に近き街に、雲を操りし秘宝在り。
 だが心せよ。秘宝を求むる者、遺跡に眠りし者達の怒りに触れん――。

 地図に添付された文章を見、深緑の雑草・カイ(a03487)はため息をついた。
 彼がグレッグから買った古地図はえらく胡散臭いものだったが、
「……その『秘宝』を探しにここまで来る僕達も、相当な物好きですよね……」
 言って仲間達を振り返り、苦笑いを浮かべる。
 山風が吹きつけてくる。涼しい空気が汗に濡れた肌に心地よい。
 眼下を見やれば、昨日宿泊した村が小さく見えている。地図に示された遺跡の場所まではあと一時間といったところか。
 カイ達は流れ落ちる汗を拭うと、疲れた足に力を籠め、再び山頂に向けて歩を進めた。

 山頂にたどり着いた彼らの前にそれまでとは異なる光景が目に入った。山頂にへばりつくように存在する崩れた石の連なりは、明らかに人の手によるものだ。
「……意外と、当たりだったりするんですかね?」
 石畳の道の上に立ったカイが仲間達に問いを発したその時、頭上で空気が音を立てた。
「――!?」
 慌てて頭を振り上げたカイの目に、太陽の光を背にこちらへと急降下する巨大な鳥の姿が飛び込んでくる。
「ここをねぐらにしている巨鳥……確か、麓の村人達はあれを村の守り神として慕っている、と言っていましたっけ」
 殺したくはありませんね。小さく呟き、カイは己の武器を握り締める。そして一歩を踏み出そうとした瞬間、
「――え?」
 踏み締めた足元に、石がずれる感覚が走る。
 同時に石畳は大きく口を開け、カイと仲間達を飲み込んでいった。

「……行ってくれましたか」
 ほう、と大きくため息をついたカイは、崩れた石畳にぽっかりと口を開いた穴の縁に手を伸ばす。
 先程まで飛び回っていた巨鳥は、どこに飛び去ったのか姿が見えない。だが、
「いつ戻ってくるか分からない……」
 眉根を寄せたカイの視線の先には、天井の所々が崩れた、神殿であったと思われる石造りの遺跡がある。不用意に中を歩けば崩落の危険もあるだろう、とカイは判断。それに先程の落とし穴では殆どダメージは無かったが、
「この先にも罠はいくつもありそうですね……『遺跡に眠りし者達の怒り』というのは、この事なのでしょうか」
 一瞬考え込んだカイの耳に、遠く羽ばたきの音が聞こえてくる。どうやら、彼らに考え込んでいる暇はあまり残されていないようだった。

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参加者
バニーな翔剣士・ミィミー(a00562)
招きし堕翼・イル(a01415)
紅蓮と白銀の翔剣士・カイ(a03487)
タイラント女医・ジョゼ(a04564)
黒劒・リエル(a05292)
軽やかに跳ねる靴音・リューシャ(a06839)
冥府の番犬・ヤヨイ(a10090)
月の涙・フェン(a11138)


<リプレイ>

 深緑の雑草・カイ(a03487)の耳に届いた羽ばたきの音は、すぐに巨大な鳥の姿を伴って冒険者たちの頭上に姿を見せた。
 巨鳥は既に急降下体勢。足を下に揃え、爪を開いた獲物を捕獲する姿勢だ。冒険者達は遺跡の天井がある部分へと駆け込もうとするが、明らかに巨鳥が彼らに迫る速度の方が速い。
「私達を食べようっていうのかしら?」
「そこまでしてあげる必要は無いですね……」
 バニーな翔剣士・ミィミー(a00562)の言葉に軽やかに跳ねる靴音・リューシャ(a06839)が応じた。彼女の口から美しい歌声が紡ぎ出されはじめる。響く歌声に刺激されたか、巨鳥はリューシャへと目標を定めると彼女に向かって一直線。
 だが10mの距離まで近づいた瞬間、目に見えてその羽ばたきが鈍くなる。眠りの歌の効果範囲に入ったためだ。
「やった、効いたみたい!」
「……って、ちょっとあれ危ないんじゃない!?」
 喜びの声を上げた黒陽・リエル(a05292)に、焦りの表情で街医者・ジョゼ(a04564)が応じた。
 彼の視線の先を見たリエルの目に、眠ったまま慣性に従ってリューシャへと落下する巨鳥の姿が飛び込んでくる。
「リュ……」
「危ない、リューシャ!」
 リエルの叫びを遮り、横を駆け抜けていく影が一つ。黒い犬尻尾を翻して走るのは冥府の番犬・ヤヨイ(a10090)だ。
 彼は驚きの表情を浮かべたリューシャの腰を抱えると、そのまま数mをいわゆる『お姫様抱っこ』の姿勢で疾走。二人の後方で巨鳥が地面に激突し、砂煙と衝撃音が冒険者たちの横を走りぬけた。
「おお、ヤヨイさん大胆……って、大丈夫ですかね、あの鳥」
「……あ、あんまり心配要らないみたいです!」
 冷や汗を浮かべたカイの横、月の涙・フェン(a11138)が指差す先には落下の衝撃で目を覚ました巨鳥の姿がある。再び冒険者たちへと怒りの視線を向けている巨鳥を見、天翔し・イル(a01415)が一歩を前に進み出た。
「楽しい遺跡探検の前に、時間を取ってられないですよね……」
 呟いた彼女の指先が空中に紋章を描き、その輝きは空中を踏破して巨鳥の頭部に絡みつく。
 次の瞬間、正気を失ったかのように石畳を突付き始めた巨鳥を残し、冒険者達は遺跡の内部へと侵入を果たした。
「ふぅ……入るだけで一苦労だったね」
「帰りもまたあいつの相手しなきゃいけないけどな……」
 ヤヨイの突っ込みに、ミィミーは顔をしかめた。
「まあまあ……それよりヤヨイさん、リューシャさん降ろしてあげたら?」
「あ」
 ジョゼの言葉に腕の中を見下ろせば、リューシャは真っ赤になっていた。


「さてと、鳥もやり過ごせたようですし、宝の地図の真相をさぐりましょう!」
 勢い込んで言うカイに頷いた皆は、隊列を組むと遺跡の探索を開始する。
 先頭を行くのはフェンが呼び出した土塊の下僕、その後ろに少し遅れてヤヨイ。彼の後ろにはリエルが続き、あとの6人は固まって後方を歩いている。
「罠とか解除するのが得意な人、いないものね……」
 ジョゼの言う通り、8人の中にはそれらを得意とする者はいない。故にリエルはヤヨイの肩を叩くと、
「頑張って歩いてね、ヤヨイ」
「お、俺は実験台か!?」
 一同が同意の頷きを返す。嘆息して肩を落としたヤヨイは、前方を進む土塊の下僕の後を追う。
「あの後をついて歩けば大丈夫ですね」
「おう、今のところ大丈……っ!」
 フェンの言葉にヤヨイが頷きかけたその時、彼の足元でカチリと音がした。次の瞬間、石造りの通路が外にあった仕掛けと同様、大きく口を開ける。支えるものを失ったヤヨイの体は、落とし穴へと垂直落下。眼下に目をやれば、犠牲者を待ち侘びていた鋭い槍の穂先が並んで彼を待ち受けている。
「――爆砕!」
 突き出された腕が、落とし穴の側壁を突き破った。自ら作った突起に手を引っ掛け、ヤヨイはなんとか落下を免れる。
「ヤヨイさん!」
「リューシャ、これ!」
 ミィミーが差し出したロープを使い、リューシャ達はヤヨイを穴の外へと引き上げる。
「大丈夫……? すぐ、癒すからね」
「って、そんなに心配しなくても、手に破片がささっただけだぜ……」
 恋人の心配振りに照れたような表情を浮かべたヤヨイは、しかしそのまま治療されるに任せる。二人の様子にほっとした表情を浮かべたフェンは、疑問を投げかけた。
「危なかったですね……でも、なんで土塊の下僕じゃ動かなかったんでしょうか?」
「重さの問題……かな。土塊の下僕じゃ軽すぎたんだわ、きっと」
 彼女の言葉にリエルが応じる。それを聞いたヤヨイは大きくため息をつくと、
「じゃあ、結局発動させて俺が避けるしかないって事か……?」
「いや、そうでもないみたい……っと!」
 リエルが一同の前に進み出た次の瞬間、軽い金属音が遺跡に響く。
 一同の視線の先、リエルの構えた大盾に矢が突き立ち止まっていた。どうやら前方を勝手に歩いていた土塊の下僕が罠を作動させたのが、人間の頭を狙う高さで水平に飛んできたため下僕の頭上を通過したようだ。
「ね?」
 振り返るリエルに、一同は冷や汗で応じた。


 それからしばらく、冒険者達は罠を突破しながら遺跡の中を歩んでいった。多少の手傷を負うこともあったが、ジョゼがその都度癒した為、大したダメージにはなっていない。
 そして彼らは、広間だったと思われる場所に辿りついた。既に天井は風雨に崩れ去り、日の光が遺跡内部を照らしている。石畳の隙間から生えたのであろう植物が繁茂し、それまでの空間とは違う緑の園を生んでいた。
「……なんか一箇所だけ草が生えてないところには近づかない方がいいわね」
 ミィミーの視線の先、壁の一角に草が生えていない部分があった。多分罠があるのだろう、と判断した一行は、そこを避けて広間を調査する事にする。
「これは、いつの時代のものなんでしょうか……?」
 イルが見上げる壁には、遺跡を作った人々が残したと思われる壁画が残されていた。だが、それらも長い年月の間に剥がれ落ち、もはやそこから意味を読み取る事は不可能だ。興味深げにそれをスケッチするイルの横で、冒険者達はこれからの方針を相談する。
「どうも、私はここが怪しいと思うのよね……」
 ジョゼが広げたメモには、彼とイルがマッピングした地図がある。その地図の中央、ぽっかりと空いた空白があった。地理的には遺跡の中央部にあたる場所だ。それに最も近いのは現在彼等がいる通路だが、
「だけど、そこに行く道ってありませんでしたよね?」
「もしかしたら、落とし穴の底から行くとか、隠し通路があるとか……」
 カイの言葉に一同は首をかしげ、一拍おいて草が生えていない壁へと視線を向けた。
「怪しいと感じたら、調べるに限りますね」
 とカイが腰を上げたその時、再び羽ばたきの音が彼らの耳に飛び込んできた。


「――っ!」
 慌てて見上げた頭上から、今度は嘴を下に急降下してくる巨鳥の姿。
「全く、何をそんなに怒っているんだか……」
「分かりませんけどね……行きますよ、ミィミーさん!」
 駆け出した二人の翔剣士が愛用の武器を携え剣舞を舞う。幻惑の剣舞の射程は3m。効果が無ければ確実に啄ばまれるという危険と隣り合わせだ。
 優雅な剣舞でありながら、二人のまなざしは真剣そのもの。と、ぎりぎりの所で巨鳥の動きが止まった。
 幻惑された、巨鳥は嘴を引っ込めると再び空へと舞い上がっていく。
「ふぅ……こちらに敵意が無い事を分かって欲しかったんですが、仕方ありませんね」
「それより、早く探索を終えてここから出て行った方がいいんじゃないですか?」
 イルの言葉に頷き、カイは仲間達の方へと歩き出す。
「んー、これでしょうか?」
「あ、もうちょっと奥まで押し込んでみて」
 先ほどの壁の一角の前に集まった彼らはてんでにそこら中を調べていたが、そのうちにフェンが壁の一角の石がスイッチになっている事を発見していた。力を籠めて石を押し込むと、低い音と共に岩壁が口を開ける。
「隠し通路ですね……!」
「なんだか本物っぽくなってきたじゃない!」
 パン、と手を打ち合わせるリューシャとミィミー。
 冒険者達は再び隊列を組み、現れた通路の中を進む。通路はやや急な傾斜を描き、上方へと続いていた。
「ここまでは鳥も追って来られそうにありませんね」
「幅、狭いしな」
 カイに答えるヤヨイの声も自然と明るくなる。

 そして、通路の最奥。とうとう彼らの前に宝箱が姿を現した。

「まさか、本当にあったなんて……」
「すっごーい! 夢みたい!」
 驚きの声を上げるイルとリューシャの胸中は、全員が一致するところだっただろう。
「ああ、浪漫の涙が……」
「ほら、カイ。泣いてないで早く開けたら?」
 リエルに促され、カイはおずおずと進み出ると宝箱に手をかける。
 そして次の瞬間、期待を込めて見守る皆の前で、軋むような音を立てて『それ』は開いた。
「……へ?」
 カイがきょとんとした表情で自分の手元に目をやった。まだ、私は宝箱を開けていない。じゃあ、今の音は何なんだ?
 その疑問に対する解答は、視線を上げるとすぐに分かった。
 岩だ。
 宝箱の後ろの壁が開き、通路の幅一杯の岩がこちらに向かって転がって来る。
「えー!?」
 慌てて振り返ったカイの後ろ、仲間達が全力で逃げる足音が聞こえて来た。坂の急な傾斜は岩の速度を加速させ、それはもはや止める事など出来ない程だ。
「ヤヨイ、なんとかしてよ!」
「あんなスピードついてるのに蹴りを撃っても、慣性で潰されるだろうが! 無理だって!」
 ジョゼの問いに答えたヤヨイは、リューシャを促し全力疾走。
 後ろの方で何かが岩に轢かれる音がしたが、気にしてはいられなかった。


 一時間後。山を降り行く冒険者たちの姿があった。
「ま、大した怪我をしなくて良かったわね」
「あの罠、どっちかっていうと殺傷目的より秘宝を外に出さないためのものだったみたいね」
 ジョゼとリエルが肩をすくめる。岩に轢かれたのは結局カイだけだったが、彼にしても大怪我でなかったのは不幸中の幸いだろう。むしろ彼が悄然と項垂れているその理由は、
「ああ、折角見つけたのに、岩に潰されるなんて……」
「ま、まあ、カ、カイさん元気出して……楽しかったからいいじゃないですか」
 イルの慰めもどこか空しい。ミィミーはハンカチを取り出すと、
「ほらほら、悔しいのは分かるけど泣くんじゃないわよ」
「こ、これは浪漫の涙です!」
 慌てて涙を拭うカイ。その様子をちらりと振り返り、リューシャはヤヨイに話しかける。
「残念だったけど、楽しかったですね、こういうのも」
「ああ、この景色を見れただけで十分だろ」
 そういうヤヨイの視線の先には、雲のたなびく山々が連なっていた。彼と同じ方向に目を向け、嬉しそうな表情をしたリューシャは、彼の手指を自分のそれと絡め、歩き出す。驚きの表情を浮かべたヤヨイだが、すぐにその表情を笑みに変えると後を追って歩き出した。
「初めての依頼……足手まといにならずに済んだかな? ……疲れたし、『ふぬぬ』で飲みながら考えてみようっと……」
 フェンの呟きは、星の光り始めた空に溶けていった。

 翌日、二日酔いのカイが『ふぬぬ』の休憩室で唸っているのが目撃されたという。


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