【トレースされる男】一の刻印



<オープニング>


「こ、このままでは、私はいつか奴らに殺されてしまう!」
 街並みを作り出す建物の一室で、男が半狂乱気味に叫んだ。一面が白く塗られたその部屋の内装は、その価値は平均以上であると思しき家具類が、行儀良く並べられている。
 最近の出来事を、男は振り返る。四六時中感じる視線、店舗の周囲で頻繁に見られるようになった小動物の死骸。これは明らかにこの私に対する復讐だ! 奴らが直接手を出してくる前に、何らかの手を打たなければ。 
 男の名は、カワデス・スニーク。年は三十前後、この町で古美術商を営む男だ。古美術商とは名乗っているが、この男は真っ当なものから日の目に晒すことが憚れるものまで、手広く扱っている。
 小金持ちであるこの男はそこそこ知名度があり、自警団とのコネもある。この町で暮らしていく分には、何一つ不自由のない身分のはずなのだが、それが崩れつつあった。
 混乱気味に髪を掻き毟るその男の二の腕には、『I』という刺青が刻まれていた。


 冒険者の酒場。
「我が主人がすっかり妄想に取り付かれてしまい、何をするにつけてもビクビクと怯えているのです」
「妄想、ですか?」
 エルフの霊査士・ユリシアの問いに、対面に座る男性が頷いた。男性はフォーマルウェアをきっちりと身に付けており、酒場の喧噪の中で一人、異彩を放っている。
「主人曰く、何者かが四六時中主人のことを見張っており、いつかそいつらに殺されてしまう、とのことで……今は自警団に護衛を頼んでいるのですが、その自警団も信用ならん! と一蹴する始末です。そこで、冒険者の皆さんに、暫く主人の身辺を警護していただき、何事もないことを示して頂きたいのです」
 はぁ……と周りで話に耳を傾けていた冒険者たちは、生返事を返す。
「でも、本当に何もないのなら、俺たちが出向かなくても……」
「いえ、そうとも言えません」
 ユリシアが冒険者の言葉を遮った。
「カワデス様……でしたね、貴方の主人は。その方がおっしゃっていることも、間違いではないかも知れないのです」
 ユリシアはテーブルに置かれた、カワデス・スニークが常時身に付けているという装飾品を手に取った。
「……暗い街角で、一人の男性が、ナイフを手にした男たちに取り囲まれている様子が見えます。身なりからすると、盗賊のようです。襲われている男性は、おそらくカワデス様なのでしょう。このまま何も手を打たなかったら……」
「あんたの主人ってのが、盗賊たちに殺されてしまうってことか。ユリシア、その襲撃が何時なのかはわからないのか?」
「いえ、そこまでは……申し訳ありません」
 冒険者と霊査士のやり取りに、男性は愕然とした表情を浮かべる。
「いや、しかし……これは真剣に、皆さんに護衛をお願いした方が良さそうですね。どうぞ宜しくお願いいたします」
 私もできる限りご協力いたします、と男性は頭を深く下げた。

マスター:tate 紹介ページ
 こんにちは、tate です。
 迫り来るならず者からカワデス氏を護ってください。

 酒場にやってきた男性は、カワデス氏の秘書みたいなものです。何故カワデス氏が盗賊に狙われているのか、男性にも良くわからないようです。商売敵は大勢いますが、そこまでするような相手は知らない、という感じです。
 ユリシアが見た盗賊ですが、人数まではわかりません。40人も50人も大挙して押し寄せることはなさそうですが、お気をつけ下さい。
 盗賊の生死は問いませんが、尋問ができると何かわかるかもしれません。

 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

参加者
紫尾の発破娘・スイシャ(a01547)
大地の歌い手・フェンネル(a02415)
寝惚け眼のナイフ使い・パラノイア(a07036)
エルフの邪猫導士・ノアール(a08401)
風と踊り大地と歌う者・トトノモ(a08672)
両義・シェイ(a12634)
勝利の戦乙女・ビクトリー(a12688)
重歩兵・レアル(a12836)


<リプレイ>

●対話
 エルフの邪猫導士・ノアール(a08401)、風と踊り大地と歌う者・トトノモ(a08672)、螺旋の騎士・ビクトリー(a12688)そして駆け出しアンデットキラー・レアル(a12836)の四人は、カワデス邸の応接間に通されていた。彼らの目の前には、頬がこけた青白い顔の男性が一人。男性の頭髪には、白いものがちらほらと混ざっている。その脇には酒場で顔を合わせた男性が、相変わらずのフォーマルスーツを身に纏い控えている。
「カワデス様。彼らがこの度、護衛を引き受けて下さった冒険者の方々です」
「冒険者だと?」
「そうだ、私たちは貴方の護衛を依頼された冒険者だ。私たちの他に、四名の仲間が外に控えている。希望のグリモアに選ばれた者故、信頼面も安心して貰いたい。大陸最強の戦力として、この花にかけて誓おうではないか」
 頭の花を示しつつ、トトノモが口を開いた。
 頬がこけ憔悴しきった表情を浮かべる男……カワデスは片眉を釣り上げ、目の前の四人を凝視した。みな若い、見た目と実力は比例するものではないが……
「彼らは本当に冒険者なのか? こう言っては失礼だが、そちらのお嬢さんなどはまだまだ子供ではないか」
 カワデスの視線が一度脇の男に流れ、それからノアールを捕らえた。ノアールは居心地悪そうに、もぞもぞと体を動かした。
「それは大丈夫でございます。私が直に出向き護衛を依頼した方々ですから」
 カワデスは眉を顰めながらも、冒険者たちが護衛に付くことを了承した。

「近いうちに、盗賊の一団が貴方を襲撃するという情報が霊査によりわかっています。従って、私たちは貴方の身近に留まり護衛に当たることになります。外出時も同行することになりますが、その旨ご承知ください」
 ビクトリーが簡単に今後の行動方針をカワデスに説明し、頭を下げる。
「あの〜、ちょっとお聞きしてもいいですか? 何で盗賊たちはカワデスさんを狙っているのでしょうか。心当たりがあれば、教えて欲しいです」
 カワデスはノアールに目を向ける。疲れきった冷たい視線だ。
「商売敵だろう。商売柄、何かと敵が多くてね。私の名が知られていることも助長しているのだよ」
「商人が盗賊を雇って、商売敵を潰したりするものなのでしょうか」
 レアルが呟く。カワデスに一瞥されると、レアルは何かまずい事を言っただろうかと、口を手で押さえる。経験の浅い彼は、まだ少し自身の行動に自信が持てないのだ。だがカワデスは、それ以上の反応は見せなかった。少しホッとする。
「それじゃあ、最近一年ぐらいの間に雇った人とかはいませんか?」
 さらにノアールの問いかけが続く。それについては私が、と控えていた男が口を挟んだ。
「基本的に従業員の多くは、ここ一年の間に雇い入れた者ばかりです。一年前、ご一緒に商売をされてきた弟様が独立されまして、その際に新たに多くの者を雇い入れたものですから」
「弟さんがいるんですか」
「ええ、アバリス様とおっしゃいます。今は別の街で店を構えておられますよ」
(「うーん……スパイを見つけるのはちょっと難しそうだなぁ」)
 男の話を聞きながら、ノアールはぼんやりと思った。

●視線
「盗賊団の話なんて聞いて、どうするつもりだい?」
「わたくし、旅の吟遊詩人なのですが詩の題材を探しておりますの。この街の周りで活動をしていた盗賊団のことを、何かご存じないかしら?」
 ハープを手に大地の歌い手・フェンネル(a02415)は、町人たちに柔らかい笑みを向けた。
 フェンネルはユリシアが霊視した盗賊団の情報を求めて、街中へ繰り出していた。街行く人々に声を掛けているのだが、彼女の知りたい統率の取れた盗賊団の話は聞けなかった。かつて小規模な盗賊団が在ったが、一年程前からその動きはぷっつりと途絶えたそうだ。
 具体的な収穫が無いままフェンネルは、周辺の地理と店舗周りを調べていたヒトの翔剣士・シェイ(a12634)と合流する。そして二人は更なる情報を集める為に、店舗の周りで動物たちの姿を探し始めた。
「店の周りは綺麗なんだよ。動物の亡骸があるかなと思っていたのだけど、片付けられているみたいだね。フェンネルさん、動物を見つけたら、夜間に店の周りをうろついている人がいないかどうかを訊ねて欲しいんだ」
「ええ、わかりましたわ」
 フェンネルとシェイは二人掛かりで動物を探し出し、小動物の死骸を置き去りにした人物について訊ねたが、そのような人物を見たという情報は得られなかった。
「ふぅ、なかなか具体的な情報は集まりませんわね……」

 町娘の振りをした紫尾の発破娘・スイシャ(a01547)は、さり気なく周りを見回っている。四六時中視線を感じるというカワデスの言葉から、彼を監視している盗賊がいるはずとの予測をつけての行動だ。
 スイシャを間に挟み、店舗からさらに離れた場所を、紺碧の埋葬者・パラノイア(a07036)が哨戒している。
(「腕の刺青……カワデス殿は、盗賊の仲間だった可能性があるでござる。単身、盗賊たちと接触する等という暴挙に出ないとよいでござるが」)
 のんびりと道を歩く様を装いながらも、周囲に目を光らせるスイシャ。直に、カワデスの店に執拗に視線を送る男の姿を見つけた。その視線は凡庸とした町人よりも数段鋭い、盗賊の一人だろう。パラノイアもその姿に気が付いているようで、スイシャの方を一瞥した。
 彼女たちの視界内だけで、このような賊の姿が三つ。仲間に賊の居場所と数を知らせるため、スイシャはそっとこの場を離れた。

●襲撃
 夜分遅くになり、カワデスがどうしても外せない会合があるからと外出の準備を始めた。側らで護衛に当たっていたビクトリーは急いで、カワデス邸内部で待機している仲間三人を呼び集める。
「何と、今から出かけるのか。夜間の外出は控えるようにと、使用人たちも気を付けさせているというのに」
 トトノモが溜息を吐く。
「仕方がありません、先方にも都合がありますからね」
 カワデスと共に表に出てきた四人に、真っ先にシェイが駆け寄った。これからカワデスに伴い外出する旨を伝えると、シェイも表情を曇らせた。
「ユリシアさんが視たのは、確か暗い街角だったね。くれぐれも明かりの届かない道を通るときは気をつけて」
 あらかじめ周辺の状況を調べていたシェイは、四人に盗賊の襲撃がありそうな街道をいくつか示す。
「わたくしたちも哨戒し、盗賊たちの襲撃に備えますわ。どうかお気をつけて」
 フェンネルの言葉を受け、冒険者たちは各々の役目を果たすため散開した。

 会合からの帰り道、シェイが事前に襲撃を示唆していた小道に入ったときに事件が起こった。突如現れた人影に、カワデスと四人の冒険者は取り囲まれた。対峙する人影は10。
それらが手にするナイフが、カワデスが手にしたカンテラの光を反射する。盗賊たちだ。
「なっ、何奴だ」
 カワデスが声を張り上げる。ビクトリーは素早く敵の得物を確認する。飛び道具は持っていないようだ。レアルが不動の鎧により鎧強度を上げ、カワデスを背後に庇うように体を入れる。
「事情が何であれ、カワデス氏に刃を向けるのなら容赦はしない」
 トトノモが淡く光る蝶を辺り一面に舞い飛ばせるのと共に、敵の態勢が一気に乱れた。突如、味方に殴りかかられた賊は浮き足立つ。しかしその中でも正気を保つ者はナイフを煌かせ、横斬りを繰り出す。
 迫りくる敵に向かって、ノアールは宝珠を掲げニードルスピアを撃つ。無数の針の攻撃にさらされた盗賊たちは目に驚愕の色を浮かべ、次第に後退し始めた。
「な、何だ今のは!」
「先程の男も珍妙な技を使いやがった。……そうか、冒険者か。くそ、ここは退くぞ!」
 盗賊たちが踵を返したところに、スイシャたち四人が遅れて応援にやってきた。
「逃がさないでござるよ」
 スイシャが盗賊の動きを牽制する間に、フェンネルが眠りの歌を奏で、賊を無力化していく。念のためにと、レアルが得物で倒れた賊の影を貫く。フェンネルの歌の呪縛から逃れた盗賊には、ビクトリーの流水撃が襲い掛かった。
 結果的に二人賊を取り逃がしてしまったが、四人を捕縛、残りの四人が物言わぬ骸となった中、冒険者たちはカワデスを無事護りきった。

●確執
 パラノイアとレアルが、ロープでその身を束縛された賊を一人、部屋に連れてきた。その後、パラノイアはまじまじとカワデスの姿を見つめる。パラノイアは事が起こる前に、カワデスと顔を合わせていない。明かりの下で見るカワデスの表情は、憔悴しきってはいるが常人のそれだった。
(「もっと何かに憑かれているような方かと思っていたけれど、意外と普通……」)
 捕縛した盗賊は、夜が明けたら自警団に引き渡す。だがその前に少々尋ねたい事がある。と、冒険者はカワデスが同席する中、盗賊たちに尋問を行うことにしたのだ。
「貴方たちとカワデス氏の関係を話してもらえますか? 何が貴方たちをそのような行動に走らせるのでしょう」
 ビクトリーが簡潔に問いを発する。この問いにはカワデスの方が顔を歪めた。その変化を見逃さなかったノアールが、
「その辺の話は、カワデスさんにも聞いてみたいですね。事情を話してもらえれば、ボクたちはもっとカワデスさんのお役に立てるはずです」
 と、カワデスを牽制する。
「まぁ、とりあえずはあんたの事情を聞かせてもらおうか」
 口を開いたトトノモを始め、冒険者八名が盗賊の周りをきっちりと固めている。逃げ場は元よりない。賊は覚悟を決め、話し始めた。
「俺は、元々この町の近くをテリトリーとしていた盗賊団の一員だった。その辺の村を襲い、食料や物品を頂戴していた。妙な話だが、俺のいた盗賊団はそれなりに節度があった。そのおかげで、微妙なバランスで付近の村に寄生していたのさ」
「……それとカワデス氏が、どのような関係にあるのでござるか?」
「それはな……その男が俺たち盗賊団を売ったのさ! 自警団に!」
 穏やかな口調だった男が、突如激昂する。
「俺たちの頭は処刑され、逃走を繰り返すうちに、うやむやのまま盗賊団は消滅したのさ。俺がアイツを狙うのは、仇討ちだ」
「何を言う! 私は……私は何もしていない」
 椅子から立ち上がったカワデスは、興奮気味に賊に詰め寄る。賊は憎々しげにカワデスを睨みつけると、唾を吐きかけた。
 フェンネルがカワデスにハンカチを差し出した。
「カワデスさん、本当に貴方には何も非がないのですか?」
「私ではない、弟だ……弟に非があるのだ」
「そうやって、お前はいつも他人に責任を擦り付ける。カワデス、いつまで経っても成長のない男だな」
 盗賊は逆手に縛られたまま、徐に立ち上がる。
「連鎖はこれでは終わらないぜ。精々気をつけることだな」
 カワデスを見下し、男は嘲笑った。


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