<リプレイ>
ここはさいはて山脈。 数千の山々が連なる未開の大地。 冒険者達は装備を整え、一路目標の洞窟へ向かっていた。
「山においての観光ルートの整備か……秋に向けての紅葉関係が目的と考えていいのか? それとも単純に頂上を目指せばいいのか?」 「整備よりも先ずは、観光の目玉になるものを見つけないといけませんから、途中で見つかれば楽なんですけどね」」 聖砂の銀獅子オーエン(a00660)からの問いかけにキョロキョロと周りを見ていたテフが答える。 「でもまぁ、今の段階で観光ルートそのものを作り上げるのは難しいから、とりあえずは手を加えることで観光ルートになりえるかどうかだよね」 観察者の目で周囲を見回しながら言うのは戦う商人リフィ(a06275) 「滝登りとか谷底が見える細道とかは……ないよね?」 「それも含めて観光客がこの道を登るとしたら、どこか不便な所や、一般人の足では移動不可能な場所はないか調べておくのも大事でしょうね」 白衣の青兎ウサッペ(a00977)の不安な声に答えたのは外法蜘蛛ジュウゾウ(a03184) 邪魔な石をどけ、足場の不安定な場所を印を残し、後々の開発に備えての調査も兼ねた歩みはゆっくりで、作業を除けば風景を見ながらのピクニックのようだ。
「……テクノさん、何をしているんですか?」 っと少し遅れた自分に向かって掛けられた質問にガニアナンバーゼロテクノ(a10580)は大きく胸を張って答えた 「迷わないように看板なの!」 「看板はわかるけど、その最後のマークは……」 「ボクのマークなの!」 その内にウサッペも混ざってドスドスと目印を付け始めてしまった。 「こっちがアッチで、あそこにコレ〜♪」 「みんなで何かやるのって楽しいのネ♪」 完全にピクニック気分の人間もいるみたいだ……
●景観 朝から登り始めているけれど、目指す洞窟まではもう少し在る、と言う事で、山の中腹、少し開けた場所で休憩を取る。 重い探索道具を降ろし、一息付いていると想いの歌い手ラジスラヴァ(a00451)が持ってきていたお弁当とお茶を取り出して配る。 「はい、どうぞ。人数分あるからね」 「ありがとうございます」 「はい。テクノさんも」 「ボク自分で持って来たの!」 ラジスラヴァが差し出したものを受け取らずに、テクノは自分のリュックからお菓子とお弁当を取り出す。 「……それはなんですか?」 「ネズミのバーベキューなの!」 全員の顔が蒼くなり、縦線が入るけれど、当の本人は気にした風も無く齧り付いていく。 「そ、そうだわ。やっぱり観光地なんだから目玉があった方が良いわよね」 「観光の目玉って何だろう? 単に登山だけ、っていうわけじゃないだろうし……」 「んー。名所なんかどうかな?」 「名所、ですか?」 「そうね……例えば、さっき見えた泉をテフュラスの泉とか、ここをリフィのときめきって呼ぶのはどう?」 「あの、流石にそれは恥ずかしいんだけど」 「それに名所でもなんでもないじゃないですか」 「それは適当な由来とか歌を作ってアピールするから大丈夫よ」 そう言うと、ラジスラヴァはさっさと地図に地名案を書き込み、歌詞を考えているのか時折小さく歌う声が聞こえる。 「自分の名前を地名に付けるとは、流石に恥ずかしいな」 「まぁアピールポイントがあった方が良いというのは納得できますがね」
●洞穴 休憩場所から歩き続け、その洞窟は見えてきた。 高さは背の高い者の頭が擦れるか擦れないかと行ったところ。出口までの距離もありそうな奥の見えない深く長い洞窟。 「それじゃ下僕さん、よろしく〜」 土塊の下僕を作ったウサッペはランタンを持たせて先行させる。 他にランタンを持っている者は数名。みな布を被せたりと、光が漏れないように注意を払いながら洞窟へと入っていく。
洞窟には幾つか分岐があった。 その度に地図は大きく複雑になっていく。 「道を間違えると簡単に迷いそうですね」 地図を書きながら砦跡の黄昏メロス(a08068)がうんざりしたように呟く。 「看板も下が岩で立てられないですし」 「村で道を聞いては来たけど、モンスターがいないか確認のために面倒でも一応全部周らなきゃいけないしね」 崩落と怪物に備えた慎重な足取りで時間のかかっている探索。 暗い道は気持ちまで暗くしてしまうようで。口をついて出る言葉はやっぱりちょっと暗くなる。
「ふむ。岩肌はゴツゴツしていますね。滑りやすくは無いですが、転ぶと大きな怪我になるかもしれませんから何か手を加えて……」 「ジュウゾウさん、ルートのメモですか?」 「えぇ。今この場では気付かない事もあるでしょう。我々には問題の無い場所でも、どこか一般人の足では不便な所や移動不可能な場所はないか、とかね」 「へぇ……なるほど、それもそうですね。私達の視点で見ていると気づきにくいこと……」「……しっ……静かに……!」 小さく上がる制止の声。 「音が、聞こえました」 「何かいるな……みんな、灯りを」 短く端的に伝えるその言葉で、緊張と警戒が広がる。 もう少しで全ルートの制覇、と言うところでの遭遇。運が良いのか悪いのか…… オーエンがランタンを消すのに続いて全員がその火を消し、或いは布で覆い、明かりが漏れないようにする。 残っているのはウサッペの呼び出した土塊の下僕の持つ一つのみ。
深い闇の向こうでその姿の見えない、だけど確実にあるその存在に向かって、土人形はゆっくりと歩いていく。 ゆらゆらと揺れるランタンの明かりに入らないように後ろから付いて行く冒険者達。 一歩、一歩進む子供のような土人形の速度が、緊張の中、恨めしく思えはじめた時。見えてきたのは前後左右へと伸びる十字の角。
いる。
それぞれが手に武器を構え、じりじりと通路との距離を詰めていく。一歩、一歩。 そして十字路に差し掛かる寸前。 右から飛び出してきた影は土塊の下僕の上半身を砕きながら一直線に壁へとぶち当たる。 それはまるで、鎧に身を包んだ巨大なミミズ。洞窟の直径と比してさほど変わり無い大きさの体。 それがゆっくりと体を引き戻し、こちらに顔を向けるが、サイズのためか乱暴に動いた体が洞窟の岩肌をこすり、パラパラと皆の頭に細かい砂の粒が落ちる。 「目は無い、か。光で判断しているわけではないのか?」 「音とか振動とか……後は温度とかですかね?」 「匂いって線もあるんじゃないかしら?」 ゆっくりと鎌首を擡げるミミズ。その体は軽く天井に達して、先ほどよりも少し強い揺れ。 「マズイですね……」 「このまま暴れられたら崩れちゃうかもね」 「でもでもさっきのとっても早かったにゃ!」 「これは参りましたねぇ。走って逃げても追いつかれてしまいそうです」 「ジュウゾウさん、落ち着いてないで何か考えてよー!」 のそり、のそりとゆっくりと体をくねらせて近づくミミズに。 「……一旦、引きましょう」 「追いつかれちゃうよ!」 「いや、そうですね。先程の少し開けた広間のような場所なら全員で掛かれますし……」 「それに広い方があいつが暴れ回っても幾らかはマシってことね」 一斉に駆け出す冒険者。ミミズは少し様子を見たのか、間を置いてから追い掛けてくる。
●ミミズ退治 「着いた! 皆分かれて!」 洞窟内の広場に入り、ぱっと分かれると、危ないタイミングでミミズが入り口に体を現す。 「まだです……体が全部こっちに出るまで……」 呟くメロスの鎧がその姿を変えていく。より彼女が力を振るえるように、より強く、より硬く。 「……行きます!」 そして体全体を広場に入れせ、襲い来るミミズへと一気に接近していく。 「はぁぁぁあ!」 裂帛の気合の元、放たれる兜割りにミミズの装甲にヒビが入る。 るぉぉろぉ……と何処からか悲鳴のような音を立てて体を激しく振わせるミミズ。 「あぁ!? ミミズがジタバタマズイにゃ!?」 「あいつが暴れたら崩れるんだから、どっちにしろマズイの!」 「これ以上暴れる前に、早く倒さなきゃいけないってことよね」 黒い炎が、雷光を纏った刃が。それぞれの全力でミミズを撃ち……
るろろろぉぉろぉ…… っと表現に困る声を上げてのた打ち回り、やがて倒れるミミズ。 「なんとか……倒せたんでしょうか?」 幾度かの攻撃、回復。その遣り取りの果てになんとか倒れた相手を見る。 「起き上がってこないよね?」 慎重に近づいて武器の先でつんつんと突付くけど、動く気配は無い。 「はぁ……死ぬかと思いました」 浮かぶ砕けた笑顔。お互いに微笑みあい、幾つかの怪我はあっても無事であることを確認する。
パラ…… 「後はさっきの十字路を進めば出口のはずです」
パラ……
「はぁ……えーと。一つ聞きたいんだけど。気のせいだよね?」 「気のせいよ。きっと」
パラ……パラパラ……
「お約束過ぎるよね?」 「だ、大丈夫にゃ! 多分。きっとそうにゃ? きっとそうにゃ!?」
パラ……パラパラ……
「げ……下僕さん達、お願い!」 呼び出された土塊の下僕はき規則正しい組み体操のように並ぶと、3段の肩車をして、揺れる天井を支える。 支える。 が、それが最後の駄目押しになったらしい。 下僕達の足元が凹ッと崩れると……足元から生まれたヒビは壁を伝い天井に届き…… ピシピシピシピシ、っと不吉な音を幾つもかき鳴らす。 「に……逃げるぞ!?」 ミミズに追われたときよりもさらに早く。 背後で聞こえる崩壊の音を聞かないようにしながら、必死に走った……
●帰還 「はぁ……はぁはぁ、はぁはぁ……本気で本当に死ぬかと思いました」 さっきと同じようなセリフをずっと深刻な顔で呟く。 洞窟の外、さっきまで鳴り響いていたゴゴゴと言う音や、ドカンという重い何かが壊れる鈍い音も聞こえなくなって初めて安堵の表情とため息が出る。 崩落もようやく止まったようで、細かな揺れも収まった。 「ふむ。これでは観光どころではありませんね」 「観光どころか、通れもしないわよ」 「はぁ……仕方ありません。探索は失敗に終わったと報告しましょう」 「まぁしょうがないよね。それにあのモンスターに出くわす危険を考えたら、こうやって潰れてかえって良かったかもね」 「こわかったよう……滝も谷底が見える細い道も洞窟もいや!」 「あら? あれはなんでしょう?」 メロスが指す先は洞窟の中。崩落した岩の間に見える小さく光るそれは。 「んー。蒼くてピカピカ綺麗にゃ!」 「…………あ……」 そう。テフ自身忘れていたもの。蒼い石。 「やっぱり、ここで取れる物なんでしょうか?」 「何々!? お宝?」 「あ、いえ。この近くで見たことも無い蒼い石が取れるって話をちょっと聞いたことがあって……」 「……よし。これで誤魔化し……もとい、鉱脈があるかもしれないと報告するわよ!」
「ふむ。これはサファイヤの原石ですな……だが、素晴らしく純度が高い」 光に透かせ、細かく細部まで調べ、村で只一人の装飾職人は感嘆の声を漏らす。 「すいません。洞窟は崩落してしまいました。観光のルートには作れそうにありません」 「あ、でもでも。ほら、危険なモンスターを倒したんで、その……」 「分かっておりますじゃ。最初に言いました通り観光資源など乏しいことはわかっておりました。このような未開の地ですからの。モンスターを倒していただいたことだけで感謝してもし足りないくらいですじゃ」 「そうですよ! それに、このサファイヤ……洞窟は危険で掘れないにしても、安全な地盤を選んで掘れば十分な助けになるでしょうから!」 浮かぶ喜びと興奮にそわそわとしながら職人が言うと、それに続けて集まった村人達が一斉に頭を下げる。 「本当に、ありがとうございました。村人で力を合わせて頑張っていきますじゃ」 「あ。いや。本当に私達は……」 「あぁ。いいのいいの。こういう時は照れずに素直に喜んでおけばね」 「そうにゃ! けっかおーらいにゃ!」 自分で決めた目的は達成できなかったけれど……村は笑顔に溢れた。
(めでたしめでたし、なのかな?)

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参加者:8人
作成日:2004/09/13
得票数:冒険活劇3
ほのぼの5
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冒険結果:失敗…
重傷者:なし
死亡者:なし
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