≪西森の砦アイギス≫【流沙】盗賊達の足跡



<オープニング>


 アイギス住民の視線を集めて、3人のリザードマンが訪れたのは、元盗賊団のリーダー・リルヴェット失踪から5日目。少しだけ落ち着きを取り戻し、実家へ戻る段取りを立て始めたバフラ翁の孫娘・シャーリーが、彼らの姿を見て悲鳴を上げて倒れるという事態になり……護衛士団内では少々の混乱を生じた。
 ――彼女を襲ったのがリザードマンだったということだろうか……?
 シャーリーはガタガタと震えながら毛布に包まって、寝台に小さくなってしまい、リザードマン達は不機嫌になった。
「人の顔を見て倒れるとは、一体、どういうことだ?」
「これだからドリアッドは……」
 不満げなやり取りを、アイギスの霊査士・アリス(a90066)が遮る。
「ごめんなさい。あの人は事件に巻き込まれた直後で……精神的に不安定なの。許してあげてね。……ところで、何か御用があったのではないの? 私が護衛士団の団長をしてるアリスです。承るわ」
 ヒト族の彼女の当たり柔らかい雰囲気に、リザードマン達は少しだけ機嫌を直し、用件を述べ始めた。曰く、
「私達はそれぞれ、リザードマン領の隣り合う村で長をしています。合同の申し出、と受け取って下さい」
「……先の戦の前後まで、ドリアッド領との国境を中心に盗賊が出ておったのだ。彼らは全てドリアッドで、盗みをすると、この……森の中へと逃げ込んでしまい、リザードマンの冒険者達でも行方を追えないままだった。……だが、戦後しばらくで鳴りをひそめ、我等は安心していたのだ。――このアイギスで討伐されたのだろう……とな」
「しかし、奴等らしい盗賊が、つい先日また現れたんだっ!」
 落ち着いた男の言を継いだ1人は、怒りを露にする。
「奴等の森へ逃げる手口は同じ。その上、今回は盗みだけに飽き足らず、殺しまで……っ!」
 襲われたのは、どうやらこの男が長をする村らしい。彼の名はサーザという。
 襲われ、逃げ遅れた村人は、全て殺されるか重傷を負わされるかしており、村は今、酷い有様だと言う。隣村の者達も事を重大視し、即座に討伐要請をすることだけを取り決めして、3人はアイギスへやって来たのだ。
「待って。お話にある盗賊なら、もう討伐済みよ。建設中だった砦での労役を課して、反省もさせたし……」
「殺してないのかっ?! 労役だけで放り出したと……?!」
 アリスの言葉に、サーザは語気を荒くする。
「やったのはそいつ等に違いない! あんな奴等を殺さずに済ませたから……っ」
 言いながらアリスへ詰め寄ろうとするを、護衛士達が抑える前に、リザードマンの1人が手で制した。
「目撃者が、『やったのはドリアッドだった』と言っている。以前の盗賊と同じかどうかはまだ言い切れぬかもしれんが、我等は時間をかけて確かめることは出来ない。待てば、次に殺されるのは周りの村々に住む者達かもしれんのだからな」
 そうして、彼らは襲われた村人達の衣服などをごそりと置くと、アイギスに留まる気などさらさらないと言うように足早に出て行った。
 後には、溜息を1つ落としたアリスと、居合わせて考え込むことになった護衛士達がいた。

 護衛士達が霊視の結果を待っていると、難しい顔をしてアリスが戻って来た。気分が悪そうなのは、血生臭い光景も視えてしまったからだろう。
「結論から言うとね、よく視えなかったわ……」
 余計なものは沢山視えたらしく、アリスは嘆息する。
「人が倒れて、血が飛ぶような情景以外には……クロッカスの花ぐらい……」
 失踪したリルヴェットの髪を飾る花もクロッカスだったが、12分の1の確率を思えば……彼の仕業と断言するにはまだ早いだろう。リザードマンの村長達から知らされた手口は、以前と同じところもあれば違うところもある。殺しにまで及んでいるのが、その1つだ。
「基本は、巡回の強化で対応したいと思うの。特に、国境周辺の森の中を警備に当たってもらえないかしら。どことは断言できないのだけれど、確かに、森の中に何かあるの。何者かとの遭遇戦も有り得るから気をつけてね」
 ひと呼吸おくと、アリスは続ける。
「……それから、襲われたというリザードマン領の村にも、2〜3人割いて、聞き込みや負傷者の治療をお願いしたいと思うわ。相当、ドリアッドに対する心象が悪くなっているようだし、シャーリーさんがリザードマンを見て悲鳴を上げたことが被害に遭った村や周辺に広まったら、その勢いは加速するでしょう。誰が行っておくかも重要になるから、人選には気をつけてね。こちらにはクウガさんにも同行してもらえるよう、頼んでおくわ」
 アイギスを訪れたリザードマンの村長3人が、「あの娘は何だ」「我等を見て悲鳴を上げて倒れるとは……」などと不満を漏らしながら去って行った所為で、彼らを注視していたアイギス住民達にも、砦であった事の次第は漏れ始めている。リザードマン領だけでなく、アイギス内部でもケアは必要かもしれないが……それは、残る護衛士達の仕事だ。
「よろしくお願いね」
 アリスはそう締めくくって頭を下げた。

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参加者
フェイクスター・レスター(a00080)
赫風・バーミリオン(a00184)
アイギスの赤壁・バルモルト(a00290)
星射抜く赫き十字架・プミニヤ(a00584)
在散漂夢・レイク(a00873)
鋼鉄の護り手・バルト(a01466)
氷輪の影・サンタナ(a03094)
沈黙の予言者・ミスティア(a04143)
銀の竪琴・アイシャ(a04915)
休まない翼・シルヴィア(a07172)
NPC:護りの魔箭・クウガ(a90135)



<リプレイ>

「位置関係が重要と思いますのじゃ」
 氷輪に仇成す・サンタナ(a03094)は拙い手で地図を描く。
 その出来ばえを覗き込み、後で清書したら失礼だろうか……と、沈黙の予言者・ミスティア(a04143)は少しばかり悩み、そこへアイギスの赤壁・バルモルト(a00290)が来て、共にサーザが長を務める村・ディールへと出立するリザードマンの牙狩人・クウガ(a90135)達に声をかけた。
「俺達は先に出よう……」
 考え事をしている風なのは、今しがたシャーリーに尋ねたことへの返答が気になったから。「私が聞いておくから」と、アリスが質問を預かった為、彼女を襲ったのがリザードマンだったかは……まだ分からない。
「サンタナ様、森の警備をよろしくお願いします」
「分かっておるのじゃ。さて、探知機代わりに動物も用意して……」
 笑みを返したサンタナの次の台詞に、声をかけた碧藍の瞬き・アイシャ(a04915)は、はらはらと泣き出しそうな顔になった。彼の飼いハムが、懐から顔を覗かせていたのだ。
「サンタナ様、まさか、そのハムスター……」
「……?! い、いや、これは違うのじゃっ」
 フェイクスター・レスター(a00080)や戒剣刹夢・レイク(a00873)までがしのび笑いを漏らし、焦ったサンタナは、これからは迂闊なことは言うまいと心に誓って、ハムを置いて出ることにする。
「アリスちゃんが動物虐待を知ったら悲しむにゃよ〜? ということで、私が森で動物の様子には気をつけておくから、それでいいのね」
 欠食淑女・プミニヤ(a00584)は笑いながら、追い打ちなのかフォローなのか分からない発言をするのだった。

 鋼鉄の護り手・バルト(a01466)が合図の確認をし、ミスティア達を送り出した後。
 手製の地図には、国境付近のリザードマン領の村、元盗賊のリルヴェット配下の男達から聞き込んだ、盗みに入ったことのある経路とアジトの位置、それに、シャーリーが襲われた地点の情報など、様々なものが書き込まれた。
 意図を察して、休まない翼・シルヴィア(a07172)は森の中の情報をなるべく正確になるよう修正を加え、赫色の風・バーミリオン(a00184)も前の依頼での情報をつき合わせる。
 そうして、出来上がった地図を元に、残りの皆で森の警備に出る。
「あの者達、焦らないといいが……」
 森を前に、ふと気になるように街を振り返ったシルヴィアは小さく呟く。
 リルヴェット捜索を続けていた元盗賊の男達に、シルヴィアは、この先は自分達に任せるよう言い置いてきた。だが、仲間が安否不明では、気にするなと言っても無理があるだろう。
 ただ、気になったのは、盗賊仲間はこれまで欠けた者はいない。つまり……霊視で視えた『クロッカスの花』の持ち主がリルヴェットだとしたら、一体、この短期間に誰を仲間にし、盗みや殺しを働いたというのか。
「あいつ等も先走るほど馬鹿じゃないだろう。仮にも元盗賊だしな、危険な匂いは感じていると思うぜ?」
 図体はデカいが気配りは細やかなバルトが、彼女にそう声をかける。
「ああ。そうだな……」
 森にはリルヴェットもいるに違いないと、警戒に赴く護衛士達も望みを託している。
「……見つかると良いな」
 シルヴィアは『何が』とは言わなかったが、バーミリオンは唇を引き結び、レイクは目を伏せた。
「怪我をしているようだしね……」
「リルヴェットさんは犯人じゃないって信じてるの」
 レスターに目で同意を求めたバーミリオンは、「きっとね」と返された言葉に強く頷いた。
「これから街道を逸れるぞ。はぐれないようにな?」
 シルヴィアが声をかけ、森を分け入るように進むと、ついて行く他の護衛士達には方向感覚も狂ってくる気がした。彼らは、国境付近の森の中でも特にディール村に近い、中央から北にかけての一帯へ向かう。
 サンタナは、シルヴィアと足元に気を配り、バルトは木々や草むらの様子を注視する。人の足跡は複数あって、森としか見えないそこが、ドリアッド達の利用する小道らしいと気付いた。
 そして残りの者達は、順に獣達の歌で見かけた動物達に問いかけながら。
『怖くて近づけない場所は無いかにゃ〜?♪』
『何かおかしなことは無かったかい?♪』
 動物達は首を傾げたり、『向こうに人がいるの』と返したりする。
 旅人はドリアッドの案内連れで分かり易い街道を通ることが多い。時おり行き逢うのは、森の中の小径を行き来するのに慣れた近隣のドリアッド達。
「私達はアイギス護衛士にゃ。立ち止まって、ここに居る事情を聞かせて欲しいにゃ」
 彼らに、警戒を解かずにプミニヤが申し出ると、大抵は隣りで睨みをきかせるレスターやバルト達に怯えつつ、「何だか物々しいね?」と差し出された彼女の手を握り返してくる。彼らは、ケイザンから狩りに出てきたという村人や、さいはて山脈の方からアイギスへ仕入れに来た者などだった。
「怪我をしたドリアッドの男性を見なかったろうか? 髪の花はクロッカスのはずなんだが……」
 レイクの問いにも、彼らは首を傾げる。
「森で人探し? 大変ねぇ」
「道を逸れてしまったんなら、簡単には見つからないと思うが……」
 人々の返しはもっともで、護衛士達は肩を落とした。そう簡単には行かないということか。
 異常の無いことを確認すると、ドリアッド達を先へ通してやる。
「最近、色々事件が起きてるみたいだし、気を付けてねっ」
 別れ際にバーミリオンが言うと、「ああ、物騒になってきたからか……」と常に無い警戒に納得したような呟きが聞こえた。
 その小径すらも逸れると、人の足跡も無くなる。代わりに動物達が増えた。盗賊達のアジトだった場所も経由したが、そこにも異常はない。
「今、どの辺りだ?」
 全く分からなくなったと、バルトは菓子を口に放り込みながら尋ねる。
「緊張感がないのねっ バルトちゃ……むぐっ!」
 仁王立ちで怒るプミニヤの口にもポイッと放り込み、バルトは「腹が減っては……」などと言い訳する。
「むぐ……まったく、もうっ」
 結局、全員で小腹を満たしてしまったりした小休止の後。
「もう森の外れに近いと思う。少し北上しよう」
 サンタナの開いた地図を見て、この辺り……と示すと、シルヴィアは行き先を定めた。

 追跡なども得手ではないし、獣達の歌も用意していなかったレイクは、自然、仲間達より周囲の気配に敏感だった。
「この辺りに人の足跡があるのは変かのぅ?」
「普通は通らないと思うが」
「さっき『人』を見かけたって、鹿ちゃんから聞いたのね。ただの人ならいいにゃけど……」
 サンタナとシルヴィアのやり取りにプミニヤが言い添えるのを、レイクは口元に指を当てる仕草で止める。レスターは仲間を手招き、レイクの注視する右方向へ目を凝らした。
 深い森の中に、何かがいる。
 サンタナはハイドインシャドウで気配を消して木陰に潜み、チラと様子を窺ったが、彼の夜目にも捉えられない。
 ガサリと音がして、それは動き始める。間を置かず、木漏れ陽の中に複数の緑の髪が見え、護衛士達に向かって襲いかかってきた。
「体温が……っ」
 バーミリオンがハッとする。
「やはり、また……」
「アンデッドか?!」
 レスターの言葉じりを取り、レイクはエルフ達に確認を急ぐ厳しい声を上げた。彼の手は土塊の下僕を作りだしている。
「そうじゃっ!」
 サンタナが攻撃を促すように放った飛燕連撃と、バーミリオンの紅蓮の咆哮が口火を切る。バルトは鎧進化をかけて前へ出、後退したプミニヤとシルヴィアは、揃って影縫いの魔矢をつがえた。
 咆哮に抵抗を見せ、バーミリオンの腕を掠った凶器のごとく尖った爪は、身体に痺れを残す。
「毒を持ってる!」
 声に応じて、ヒヅキの癒しを秘めた風が森を吹き抜ける。
 数は10体ほど。咆哮の届かなかった者は、ただ生者への憎しみを露に飛び出してくる。下僕2体が蹴散らされ、バルトが代わって押し留める。更に影縫いで仕留められる2体……それらの動きを、レスターとレイクは目で追った。
 空に紋章が描かれ、双方から放たれるエンブレムシャワーに、次々と倒れるアンデッド達。
 どれも、まだ生前の面影を残すような、一見すると生者に間違われそうな腐乱状態――それもドリアッドばかり。ただ、花までは枯れ落ちて確認できない者も多く、近付けば饐えた匂いもする。
 場所がドリアッド領の森の中なのだから、ドリアッドのアンデッドが出ることは不思議ではないが。9体いる全てがドリアッドだったは……偶然だろうか。
 即死を免れた者達が蠢き立ち上がるのを、プミニヤ達の魔矢が貫き、バルトとバーミリオンの剣が薙ぐ。
「ただのアンデッドだったみたいにゃ?」
 プミニヤは眉を寄せた。アンデッドが何か画策するなどあり得ない。アイギスの一連の事件に関連性があるなら、背後に何かがいるはずなのに……と。
「村の方は……?」
「見てくるかのぅ?」
 気にかけたレスターに、遠眼鏡を持っていたサンタナがシルヴィアと出て行く。
「なんか、よく分からなくなってきたの……」
 自分は役に立てているのかと、バーミリオンが呟く。
「ただ……これは、サーザの村の件を霊視したアリスが視たものだ。無関係ではない、ということだろう?」
 返すレスターも、答えの出ない事件への苛立ちを抱えている。
「情報として手にしたものを、読み解かなきゃならないってことだろう。……さあ、霊視に使えそうなもんを集めておこうぜ」
 バルトが言い、念のため、残った皆で周囲も調べて回ったが、アンデッドが溜まっていたらしい場所に大きな木の洞と根で出来た窟があったくらいで、他には何も見当たらなかった。 
 彼らが気に留めていたクロッカスの花も……。


 久しぶりに故郷に戻ったからか、クウガは緊張が解けた様子で歩いていた。
「こちらに来てから生き生きしていますね」
 ミスティアが笑いながら聞くと、ぼけらっとした返事が返る。
「やっぱり生まれ故郷は気ぃ張らなくていいだよ。……あ、アイギスが嫌っちゅう訳ではないんだどもっ」
 焦る様子に、バルモルトも苦笑する。
「ちゃんと分かっていますよ」
 アイシャににこっと笑みを向けられて、クウガはワタワタし始めた。……サンタナが居なくて良かった。
 護衛士達は、アイギス住民よりもひと足早く種族の隔てを乗り越えた様子で、ディール村に着いた。
 だが、彼らが村に入ろうとすると、「『余所者』は入るな」と警戒心も露に迫られた。入口で鍬を構える村人2人は、ひと目見て相手が冒険者と分かっても、それだけでは足りぬと言う様子だ。特に、ドリアッドのミスティアとアイシャに厳しい視線が向けられる。
「おら達はアイギスの護衛士だがや。こっちの村から盗賊の被害に遭ったって訴えがあったと聞いたでさ、皆で怪我人の治療に来ただよ」
 治療と聞いて、1人がハッと鍬を引く。
「確かに依頼は出したはずだが」
 もう1人は躊躇っているが、鍬を引いた男は身内に怪我人が居る様子で、「本当か?」と問い返してくる。
「うちのかみさんが酷い怪我なんだ。薬草なんかじゃ間に合わなくて……」
「おいっ だが、ドリアッドもいるんだぞ? そいつ等に殺されたらどうするっ?!」
 クウガがフォローしようとするが、「お前も『そっち』の仲間だろう」と一蹴される。
 酷い言われように、ミスティアもアイシャも、怒りを覚える前に悲しくなった。
 このところ続いている事件は、罪も無い人々が殺され怪我をしてばかり。憎むべきものは、本当は他にあるのではないだろうか。
「迷ったまま時間を潰しては双方の為にならない。まずは長に決断を仰いでもらえないか?」
 怒りを理性で抑え、ヒト族のバルモルトが言う。
「お願いするだよ」
 クウガも慌てて言い挿すと、村人2人は言い分に納得した様子で村の中に入って行った。

 程なくして許可は下りたが、ドリアッド2人には村人の監視が付いた。
 その状況に文句を言っても始まらない。ミスティアとアイシャは辛抱強く堪える。
 バルモルトは、入口で会った男に自分の家に来てくれと頼まれ、彼の妻の怪我を癒すのが最初の仕事になった。
 村内部は、まだ流された血も拭いきれていないような有様だった。さすがに、手配が間に合わず死体が放置されるようなことはなかったが、それだけが済んでいる状態とも言える。そして、怪我人は大人も子供も区別無い。
 村人達がなかなかアイシャ達に寄り付こうとしない中、怪我をした我が子愛しさで進み出たリザードマンの母親がいた。
 アイシャが癒しの水滴を施そうとすると、怪我をした腕を差し出した子供は泣きじゃくり、母親はカタカタと震えてその子を抱きしめていた。それが、アビリティで傷が癒されると、母子は暫くどう反応して良いか分からないように呆け、ハッと気付いて「ありがとう」を何度も繰り返した。
 そうして、ミスティアにも。
「さあ、軽い怪我の方はどうぞ近くへ。纏めて治療しますから」
 淡い光は、そろそろと集まった村人達を照らして傷を癒す。
 最初は襲われた状況を聞き込める状態ではなかったが、治療が進むにつれ、村人達の反応も良くなってくる。
「襲われた時、どんな状況だったか、聞いても構いませんか……?」
 ミスティアが問うと、村人達は少しずつ話してくれた。
 『盗賊達は夕闇と共に現れ、村の端の家から襲っていった』『外に居た者や、騒ぎに気付いて外に出た者は、ことごとく刃の犠牲になった』『捕られた物は、鍋や着古した衣類など、大した物ではなかった家も多い』など、盗賊としてはおかしな箇所がある。
 だが、多少の『おかしな部分』は、当事者にとって大きな問題ではなかった。だから、『盗賊が』『人殺しまで』という訴えになったらしい。
 バルモルトとアイシャの聞き込みでも、同じような矛盾点は見つかった。
「スープでも作って、皆さんが落ち着かれるように致しましょう。きちんと食事を取るゆとりもなかったでございましょう?」
 アイシャの提案に、村の女達は「そうだね」と頷き合い、その晩は村の寄り合い所に皆が集まり、温かなスープが卓に並んだのだった。

 翌日も、バルモルトとアイシャはそこで復旧作業を手伝い、ミスティアはクウガと他2つの村を回った。ディール村ほどではないが、そこもドリアッドへの視線は厳しい。クウガの御陰で何とか村長に会うと、彼なりに、リザードマンに含むところは無いと説明した。
「どうか、それだけは分かっていて下さい」
 そしてバルモルトも。サーザにだけ、これまでアイギスに持ち込まれた事件を説明し、
「もしかすると……ドリアッドとリザードマンの関係を、誰かが壊そうと煽動しているのかもしれない。くれぐれも慎重に行動をお願いしたい」
 そう言い残した。

 推測でしか語れないのは、彼らにとっても歯がゆいこと。察してくれとは言わないが、心に留めておいて欲しいと願った。
 彼らの帰路で、森は、境界を示すようにざわめいていた。


マスター:北原みなみ 紹介ページ
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