時間を止めて



<オープニング>


「……………」
 酒場のテーブル席、ツキユーがぼーっと小さな砂時計を見つめていた。
「……ああ、終わってしまいました」
 ツキユーの手により砂時計は引っくり返されると、また重力に惹かれて白い砂をさらさらと零し始めた。
「………っと、冒険者の方ですか。依頼ですね、少々お待ちを」
 ツキユーは席を立ち、一人の男を連れてきた。よれよれのシャツに不精ヒゲを生やした30過ぎの中年男性だ。がっしりした体格をして、肌は小麦色に焼けていた。
「この方が今回の依頼人、砂時計職人のクラックさんです」
「どうも、クラックです。よろしく」
 クラックは無造作に手を差し出して冒険者に握手を求める。その手は無骨で大きく、とても砂時計など小さくて細かいものを作れそうには思えなかった。
 冒険者達の表情を察してフォローするツキユー。
「先程私が眺めていたこの砂時計もクラックさんの作品なんですよ」
「実際に目の前で砂時計のひとつでも作って見せられれば、私が砂時計職人だと信じてもらえるかも知れないんですが……実は、砂時計が作る事が出来ない状態になってしまったんですよ」
 見かけのわりに礼儀正しいクラックの説明によると、彼は良質の砂を求めてある海岸の近くに小屋を立てて居を構えたのだが、その海岸に最近トドグドンが棲みついてしまったのだという。
「霊査して見たところ、トドグドンの数は15から20。海岸の岩場にある洞窟を根城にしているようですね」
「砂時計を作るのにあの海岸の砂は色良し、湿気なし、粒揃いと三拍子揃っているんです。海岸を旅してやっとこれだけの砂と巡り会えたんです、どうかお願いします!」
 クラックはそう言って、トドグドンの退治を冒険者に頼むのだった。

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参加者
青灰の紋章術士・ユエルダ(a04920)
兄萌妹・フルル(a05046)
夜に疾る星・フィナ(a08578)
陽海兎・アルヴァール(a09304)
眠らぬ車輪・ラードルフ(a10362)
運命の担い手・ロック(a11077)
赤雷・ハロルド(a12289)
天藍閃耀・リオネル(a12301)
ヒトの剣聖・ジュダス(a12538)
慧眼の静風・キルレイン(a12779)


<リプレイ>

●それぞれの立場
 海岸、空も高い昼。
「それじゃ、行ってくるよ」
 天藍色的影・リオネル(a12301)は靴の裏に噛ませるように細いロープを幾回か巻き付け、ザクザクと砂浜を踏んで滑り止めの効果がある事を確認すると遠眼鏡片手にソロソロと岩場へ近づいて行く。
「行ってらっしゃい。偵察頑張ってね〜」
 手を振って見送る青灰の紋章術士・ユエルダ(a04920)。
 彼等冒険者はリオネルがハイドインシャドウを使って偵察する事を知っていた為にその後ろ姿に気付く事が出来たが、偵察の事実を知らない者が傍からその光景を見た場合、虚空へ向かって手を振るユエルダに何事かと思うだろう。
「砂時計の砂にも、向き不向きと言うのはあるんですなぁ」
 砂浜に待機し、偵察報告を待つ間は暇な残りの冒険者。ヒトの翔剣士・ラードルフ(a10362)はおもむろに砂浜の砂を掬って呟く。砂は手の平からサラサラと滑り落ち、風に流されていった。
「あぁ、それと忘れる所でした。リオネル君のように靴の滑り止めを用意したんですよ。岩場も波の飛沫や苔で滑りやすくなっているかも知れませんし」
 ポンと手を叩き、懐にぶら下げた袋から平べったい物体を取り出す。草で編まれたサンダルのようなものだ。
「これを靴の底に装着すればいいのか?」
 滑り止めを一つつまみ上げ、胡散臭そうに目の前で滑り止めをプラプラさせるストライダーの武道家・ロック(a11077)。素人の手編みなのでサンダルの目は粗いが、無いよりはマシだろうといったところか。
「へえ……自分で編んだんです、これ? 凄いですね」
 滑り止めをしげしげと見つめる陽灼兎・アルヴァール(a09304)の目は道具屋の生まれのそれになっていた。
「いやいや、なんとなく作ってみたくなっただけですよ。トドグドン退治の為、転ばぬ先の靴底です」
「あ、うん……そうだね」
 のんびりと微笑むラードルフの言葉に一瞬顔を曇らせるアルヴァール。その葛藤を見逃さなかった神の眼を授かりし慧眼の・キルレイン(a12779)はおもむろに口を開く。
「念の為におさらいしますと、今回の依頼の目的はトドグドンの殲滅……で皆さん、よろしいですね?」
「ああ、繁殖力の強いグドンの事だ。下手に逃がすともっと数が増えて、まず付近の村を襲いだすだろうしな」
 拳の骨をペキパキと鳴らす駆け出しの武道家・ハロルド(a12289)。
「そうなんだよね、けど……」
 アルヴァールはトドグドンの立場から物事を考えていた。グドンを逃がしては周りまわって自分達の為にならない事を理屈ではわかっていても納得が出来ない状態なのだろう。
 キルレインとハロルドは優しく諭す。
「どんなに易しい依頼でも、冒険者同士の意思を一つに出来なければその依頼は途端に大きな壁となり、冒険者の前に立ちはだかるでしょう……わかって、下さいますね?」
「それに、向こうはアルヴァールほどこっちを思いやってくれないだろうしな。やらなきゃ、やられるぜ?」
 しばしの逡巡の後に、吹っ切るようにアルヴァールは首を縦に振った。
「よっし、それじゃ全滅させる方向で再決定だ。クラックさんが心配することなく、砂時計を作れるようにしないとな!」
「あと、トドグドンが海に逃げないように注意しないとだよ」
 ぴょこんと会話に入って来る兄萌妹・フルル(a05046)。
「そうですね、海に入られても不利になるから、なるべく海側から倒す、だったかな」
 ユエルダもうなづく。トドグドンとはただ単に人間のような身体にトドの頭が乗っかっているだけで別段泳ぎが上手い訳でもないのだが、地上に比べ冒険者の動きも鈍る水中で戦う事はあまり得策ではないだろう。
「あと、血で砂が汚れるかも知れないから砂浜で戦わない、ですよね」
 夜に疾る星・フィナ(a08578)に真剣な顔で同意するのは背徳の使徒・ジュダス(a12538)
「ああ、砂を汚した事で依頼人に何を言われるか解かった物ではないからな」
「あんまり文句とか、言わなそうな人だったけどね〜」
 声の主はいつのまにか帰還していたリオネルだった。リオネルは早速偵察の成果を報告する。
「洞窟の入り口に4匹ほど見張りというか、寝転がってたよ。暑くてバテてるみたい」
「なんだかなぁ……それじゃみんな行こうか〜」
 ポリポリと頬を掻くユエルダ。一同は、慎重に進軍を再開するのだった。

●奇襲待ち伏せ誘き出し
「…………?!」
 ひんやりとした岩場に寝そべっていた1匹のトドグドンは、自らの体のすぐ脇に矢がスタッと突き刺さるのに気付き、身をよじって逃げようとした。
「無駄ですわよ」
 岩陰から一斉に飛び出してくる冒険者達。フィナはトドグドンの影を狙ったのだ、身動きの取れないトドグドンをジュダスの持つ巨大剣が襲った。
「逃がさないんだよっ!!」
 フルルの雄叫びにも似た咆哮。新たに2匹のトドグドンの動きを止める。
 残った1匹は慌てて仲間を呼ぼうと冒険者達に背を向けて洞窟へ駆け込もうとするが、背中から血煙を上げてどうと倒れこんだ。
「厚いのは面の皮だけなのかな」
 ラードルフは口早に言い残して、シミターを振って血と脂を飛ばし落としながら麻痺しているトドグドン達との戦いへ飛びこんでいった。
(「ごめんなさい、後で供養してあげるから」)
 アルヴァールは心の内で呟きながらトドグドンへ足払いをかける。前のめりに倒れてくるトドグドンの顔めがけて間髪入れずサッカーボールキックを見舞う。
 連撃蹴は見事に決まり、アルヴァールの足にしっかりとした手応えを残してトドグドンは動かなくなった。
 残りの1匹もロック達に討ち取られ、冒険者達は洞窟へ突入する組と入り口に待機する組に分かれた。
「私達が来たのと逆の砂浜に足跡が6匹分残ってたんだ。波に消されてないとこを見ると外出してるトドグドンもいるみたい。待機組も気を抜けないね」
「外に居なければ楽できたんですけどねぇ……」
 リオネルの報告にため息を漏らしつつ、ユエルダへ緊急報告用の呼子を手渡すラードルフ。
「6対3なら単純に考えれば、一人あたり2体倒せばいい計算になるけど、そう簡単にはいかないよな……」
 苦笑いを浮かべるハロルド。リオネル、ラードルフ、ハロルドの三人が待機組の予定だったが、そこにジュダスも待機組に入ると言い出した。
「洞窟内にはこの無駄にでかい鉄の塊を振りまわせるほどの空間がないようだ。存分に戦える外に回らせてくれ」
「そうですね、賛成します。数的な事もありますし、洞窟を崩す可能性のある攻撃は控えた方が良いですからね」
 キルレインの言葉にギクリとするナパームアローを使おうとしていたフィナと破鎧掌でグドンを壁に叩きつけようとしていたアルヴァール。お互いに顔を見合わせてエヘヘと笑った。

 とにもかくにも、洞窟内を進み始めた六人。
「……大丈夫です、奥の角までグドンはいませんわ」
 先頭を行くフィナの言葉にマントで覆っていたカンテラで辺りを照らし始めるユエルダ。通路は人が二人通れる程の幅、高さも人の二人分程の高さだ。天井から垂れた水滴が首筋に当たり、ユエルダはビクッとする。
 しばらく行くと、フィナは固まった人数が部屋の中にいるのをエルフの夜目で感知した。
「どうしよっか? 一気に突入してボクの紅蓮の咆哮で動きを止めるとか」
「そうだな……効くかどうかはわからないが、ここで咆哮してみたらどうだろう。効けば良いし、効かなくても通路に誘い出し、一匹ずつ相手にする事が出来る」
 冒険者達はロックの案を採用しフルルは胸を逸らし大きく息を吸った。
「わぁーーっっ!!!」

 その頃、入り口では―――
「始まったようだな……この叫びで洞窟崩れたりしたら嫌だよな」
 ハロルドは洞窟を振り返る。フルルの叫びは反響して入り口にまで届いていた。
「それじゃあ、こちらも始めるとするか」
 ジュダスの言葉。
 その眼には魚を獲った帰りの6匹のトドグドン達がやってくるのが映っていた。
「へえ、この海はあんな魚が獲れるんですね」
 呑気な事を言いつつも、腰の得物に素早く手を伸ばしているラードルフ。
「洞窟組に負けてらんないね、みんな行くよ!」
「おう!」
 それぞれを武器を構えた四人は、血気盛んにトドグドン達へ飛び掛っていった。

●動き出す砂
「はい、出来ましたよ。あとは入れる砂の量を調整すれば完了です」
「わーっ、お昼寝トドグドンだ! 可愛いな」
 デフォルメされたトドグドンの姿が模された砂時計の木組みにリオネルはかぶりつきになる。
「彫刻、ちょっと頑張りました。でも、依頼を解決して頂いた冒険者様の頼みですからね。犬でも猫でもなんでも彫りますよ」
「有難いですが、猫は勘弁して下さい……」
 仕事も終わり、微笑みながら両手と首を振ってやんわりと拒絶するジュダス。
「あ、猫、お嫌いでしたか? いやあすいません。久し振りの仕事で張り切ってしまっていました」
 太い腕で頭の後ろを掻くクラック。その顔は笑っていた。
 結局、ただでさえ優位は数だけだったトドグドンが分散して現れた事により、あっさりと依頼は解決に向かった。トドグドンに負わされた傷もユエルダとリオネルにより回復され、こうして冒険者達は誰一人欠ける事なく成功報告を兼ねて海岸沿いのクラック宅を訪れている。
「死骸の処理、終わりました」
 アルヴァールがふらりとクラック宅へ戻ってきた。
 腐臭で他のグドンが集まって来ても困るのでトドグドン達の死体を洞窟の奥で火葬にし、灰を海に流してきたのだ。その顔は、すこしやり切れなそうだ。
「お兄様……」
「お兄ちゃん……」
 海の見える窓際では物思いにふけるフィナと、なんとなく兄と聞いて黙っていられないフルルがそれを真似している。
「う〜ん、男のロマンだね〜」
 部屋の中、ところ狭しと並べられているクラックの作品を眺めながらうんうんと腕組みしているのはユエルダ。アルヴァールもクラックの砂時計を作る手先を食い入るように見学しだした。
「なんだか見られてると思うと、ちょっとやりにくいですね」
「あ、自分は木を黒いものにして欲しいんですけど」
「わかりました、じゃあラードルフさんのは皮を剥いでいない黒木を使いましょう」
 そのやりとりを聞いて黄昏ていたフィナも注文をつける。
「あ、私は実用的な砂時計が欲しいです。お料理に使えるもの」
「はいはい、では三個セットにしましょう。それぞれが1分、3分、5分計れます。組み合わせれば2分でも4分でも計れますよ」
 ニコニコ顔で要求を呑んでいくクラック。
 冒険者達は思い思いの砂時計を作ってもらい、クラック宅を後にするのだった。


マスター:蘇我県 紹介ページ
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ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:10人
作成日:2004/09/04
得票数:冒険活劇8  ダーク1  ほのぼの8 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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