宝地図屋グレッグ〜幻レシピが眠る森〜



<オープニング>


●幻のレシピが眠る森
 ――今日もまた、グレッグの地図を頼りに宝探しに向かう冒険者の姿が見える。

 晴天の下、景色の青に映える金髪碧眼の、青年。
 饗宴の思索者・アレクサンドラ(a08403)は、その眼差しに穏やかな色を湛えて同行の仲間達を振り返った。
「いよいよである。地図が確かな道筋を示す物であれば、この先に我々の求める知識が眠っているのだ。見よ! この神秘なる緑の森!」
 森。彼らの目の前に広がるのは、青々とした森である。

 話は数日前に遡る。

●伝説のお菓子
「話によると、そのレシピ本には『ランララ聖花祭の伝説にあるお菓子のレシピ』まで載っているという!」
 アレクサンドラは宝地図屋で買った1枚の地図をテーブルの上に広げ、そこに集まった仲間達の顔を興奮気味に見回した。
 旅団『食卓歓談衆』の居住区の一室、幹事であるアレクサンドラを始め、そこに集まっている面々に木陰の医術士・シュシュ(a09463)がにこやかにお茶を給し、お菓子を配している。くつろぎの一時の出来事。
「これはその幻の料理書の在処を示す地図であるとされる。飽くなき追究……新たな知識との出会いを私は予感する!」
 いつにも増して、きらきらと光を放つアレクサンドラの碧眼。握る拳にも力がこもっている。
 傍から地図を覗き込んでいる蒼の咆哮・ティア(a06427)も、想像を膨らませた。
「幻の料理書…きっと、幻のお菓子だけじゃなくて、カクテルのレシピなんかも載ってるはず。うん、面白そうね」
 探索に乗り気のその表情。
「……これは、まさかとは思うが……」
 資料を集め、地図とにらめっこしながら調べ物をしていた夜駆刀・シュバルツ(a05107)がうめく様に言った。
「うむ? どうかしたかね、シュバルツ?」
 首を傾げるアレクサンドラに続いて、シュシュ達も注目。
「ドリアッドの森に阻まれる可能性があるな。まあ、……ランララ聖花祭がドリアッド達の祭だということを思えば、それも道理かもしれないが」
「うむ。確かに」
 ドリアッドの森に眠る幻のレシピ本。ならば、ドリアッドのお祭に出てくる伝説のお菓子のレシピが載っていると言う話も、真実味を帯びてくる。『3割程度』の確率にも、期待が膨らむ。
「……森、ですか? 図書館ではなく?」
 シュシュがふと、口にした疑問は後々改めて繰り返されることになる。
「行けば解るのだ、諸君!」
 張り切るアレクサンドラ。勿論、探索に同行するかと問われたならば、彼らの答えは「YES」だ。

 いざ往かん、真実の路へ!

●続・幻のレシピが眠る森
 ――という訳で……
 彼らの目の前に広がるのは、青々とした森である。……図書館やレストランではなく?
 辿り着き、実際に目の当たりにしても疑ってしまうのは、情報の出元が『あの』グレッグの宝地図屋であった故か。
「かつて、この地に挑んだ者が己の歩みを刻んだ記録だとグレッグは言った。彼か彼女か、それはともかく、…古人はこの探索の結果幻の料理書を手に入れたのであろうか? 否である。何故なら、現在に至り、幻の料理書を求める者の手にこの地図が託されているからだ!」
 示された道を前に、嬉しくて仕方が無いのかアレクサンドラは地図を片手に両手を広げて天を仰ぐ。
 いざ!

 そして彼らは目の前に横たわる森に、足を踏み入れる。

 ――地図の一点が紅く記され、そこには覚書のような古いメモがある。
『 夜は惑いの右。岩に道標。湖面の月は迷いの左。朝を待つ花の蕾が…… 』
 後に続く言葉は、どうしても読み取れなかった。
 これは、何かの手がかりなのだろうか……?

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参加者
夢想紋章術士・アルテア(a02573)
幾穣望・イングリド(a03908)
夜駆刀・シュバルツ(a05107)
幽明境異・クレア(a05571)
黎明を征く海燕・ティア(a06427)
酔いどれ仲買人・ヴィクト(a06701)
饗宴の思索者・アレクサンドラ(a08403)
木陰の医術士・シュシュ(a09463)


<リプレイ>

●見回せど、森。
 岐路に立つ樹に印を付ける度、祈るように進む新たな途。
 しかし。変わらない風景。
 振り返っても左右を見ても、同じ景色が饗宴の思索者・アレクサンドラ(a08403)の目に映る。
 視界は360度、森、森、森の中である。方位磁石も役に立たない深い森で。
 しかし。不思議と、彼らに「迷途の不安や恐怖」というものはなかった。

「皆、見てみるといい! 生命に充ち満ちた植物達! まさに森の神秘である」
 アレクサンドラが全身で示す森の植物達はまだまだ、緑の盛り。もうじき紅葉の綺麗な季節だが、夏の終わりの渋みを増した深い緑もまた、好し。
「ランララに捧げられたお菓子は、例え詳細なレシピがあったとしても、伝説の少女が作ったものには到底かなわないでしょうね。でも、……それがあるかもしれないと考えるだけでもワクワクしますわ」
 幻の料理書に思いを巡らせ、胸躍らせるのは哉生明・イングリド(a03908)。浪漫である。
「美味しいものだといいな」
 ドリアッドの少女、弾幕決壊・クレア(a05571)は、この森の空気が肌に合うのか楽しげだ。まだ見ぬ料理をいくつか思い浮かべる瞳を、ふと前方に戻す。虚を突かれた様に彼女はゆっくり歩速を緩めた。
 薄暗い緑の中に、一点、ぼんやりとした白。
 路を別つように立つ大きな岩が在る。
 それは、冒険者達の前にようやく形となって現れた風景の変化。
「岩……」
「『道標』、か…?」
 クレアと共に先頭を歩いていた夜駆刀・シュバルツ(a05107)もメモの一節を思い返しながら呟く。そのまま近づき彼は胸丈程の岩の肌に手を触れた。ひやりとした感触が心地良い。
「道標かどうかはまだ解らないが、ここがポイントであることは……」
 アレクサンドラが地図の赤い印を指で弾いて言う。蒼の咆哮・ティア(a06427)が肯くのを見て続けた。
「間違いないようだ」
「『一つ目に辿り着かないと始まらない』。鳥達はそう言ってたわね」
「これが『一つ目の』岩である事を祈るとしよう。――さて」
 天を仰いで苦笑を浮かべ、アレクサンドラが改めて仲間を振り返る。
「ここからが本番だな。皆」

 ここまで来るのに随分、時間がかかってしまった。既に日はだいぶ傾いている。
 じきに、夜は訪れるだろう。
 
●大量のカンテラ、虫除けのテントが一つ。
 基本装備とはいえカンテラやロープ諸々に加えてテントまで担いで歩き通し。息も切れるというものだ。自覚というか、予感はしていたのだが。
「備えあれば……も、こういう時には考え物じゃな」
 敷物の端っこで転がっていたほろ酔い旅商人・ヴィクト(a06701)がようやく気力回復して、むくり、起き上がるなり頬を掻く。藪蚊に喰われたようだ。
「いえいえ、物凄〜く助かってますよ。お疲れ様です」
 テントから申し訳なさそうな笑みと共に顔を出した木陰の医術士・シュシュ(a09463)は、中に安置したお弁当を確認してから敷物の上に身を移す。
「それにしても……」
「うむ。戻って来ぬのう」
 やっぱりと言うか、何と言うか。
 ヴィクトは、火の番をしている紋章描く料理人・アルテア(a02573)に応えて見やる。
 森の奥から戻って来たアレクサンドラも彼らの視線を受けて神妙な面持ちで頭を振った。成果なし。
 彼らは土塊の下僕を付近の探索に放ったのだが――深い森の中、散り散りに歩いて行った下僕達は結局戻っては来なかった。数分が経ち、何処かで消えてしまったのだろう。
「やはり、下僕任せでは無理があるか……ついでに、惑いの右を文字通り『右』に進んでみたのだが……」
 ぐるりとここに戻って来てしまった、とアレクサンドラは肩を竦めた。
 神妙な面持ちのまま顎に手を当て、呟きながらも彼の目は湯気を立てる鍋に釘付けである。
 気付いたアルテアが笑う。道中、食べられそうな植物を採取し仕込んだスープは丁度、頃合だ。
「とにかく、皆が戻って来たら食事だな。シュバルツさんは? 彼も確か『右』だと」
 うむ。と鍋から目を逸らせないままアレクサンドラが頷く。
「例の岩を調べている。『惑いの右、岩に道標』……ん?……む。何か引っかかるな」
 言葉を反復して、首を捻る仕草。
 そろそろ、互いの表情も見え辛くなって来た。シュシュがカンテラに灯を点す。
 彼らが話している間に、テントの中から取り出したお弁当、飲み物の配置が完了。淡い灯に照らされてそれらは一層魅力的に演出されている。
「おなかが空いてはいい考えも浮かばないです、きっと」
 皆、遅いですね〜。辺りによく聞こえるようにシュシュはわざと声を張った。
 大きな火も起こせないこんな場所では、簡単な料理がせいぜい。しかし、日が落ちて急激に辺りの空気が冷える森の中で、温かいスープは最高のご馳走だ。この近くで探索を続けている仲間達に、風が届ける美味しい匂いはきっと言葉以上に効果的なメッセージ。

●夜。メモの解読へ
 腹ごしらえをしながら彼らは、意見を交わしている。
 『夜』と『岩』、見上げる空には『月』が揃い、まだ見つけていないキーワードは『湖』と『花の蕾』。
 ティアとイングリドは森の動物達に、何か知っている事がないかと歌で呼びかけていたのだが――
「この森の動物達は意地悪さんが多いのですわ」
 ロールパンのサンドイッチを味わって飲み下し、紅茶で喉を潤してから、イングリドは息を吐いて苦笑する。
「道を聞いてるだけなのに……何も笑わんでもええやん。なぁ、」
じわじわと感情がこみ上げて来たのか思わず飛び出した言葉を慌てて抑え、ティアは黙り込んだ。
 どんなやり取りが交わされたのかは不明だが、最後は『勿体無いから教えな〜い』と笑われたらしい。
「それでも、解った事もいくつかありますの」
 言葉にならないティアに代わり、イングリドが補足した。
 それによると、『月は泳ぐもの』で、『月が泳ぎ終わる頃、花が目覚め始める』という事、その花は『鳥達の大事な朝ごはん』であるという事。
「…巨大な花か何かで、その中にレシピがある…とかだったら嫌だなぁ」
 黙って話を聞いていたクレアがふと零すと、何人かの思考の淵に巨大な花が咲いたらしい。飲食、頭振り、咳払い、現実への引き返し方はそれぞれであったが。
「人任せで申し訳ないのう」
「右に同じく」
 ヴィクトとアルテアは同じ様にお手上げのポーズ。
「湖は、一体どこにあるんでしょうね〜」
 出来ればそれを昼間の内に見つけておきたかったと思うのは、溜息をつくュシュだけではなかった。
 しかし、時間は冒険者達を待ってはくれないものだ。元々、地図に記されたメモから本格的な探索は夜間になるだろうと考え、『夜営上等』で臨んだ冒険者達ではある。が。――『が』?
(「いやいや。我々の都合で考えては駄目なのだ。何か――大事な事を忘れてはいないだろうか?」)
 地図は――かつて、この地に挑んだ者が己の歩みを刻んだ記録だとグレッグは言った。
 即ち。このメモも。
(「彼、あるいは彼女の身になって、考えるべきなのでは」)
「アレクさん?」
 目を伏せた彼に、集まる視線。それを意識の外に追いやりアレクサンドラは口を開く。
「私は、最初この言葉の意味を『キーワードが指すものを右手、あるいは左手にして進むと迷うのではないか』と考えた」
「俺は、単純にそのまま、『道順を指している』ものと思った」
 結論は同じだが、と自嘲めく苦笑を浮かべたシュバルツにアレクサンドラは頭を振って目を開けた。
「おそらく、それが一番近いのだ。これは、古人の『足跡の記録』なのだから」
 ああ、とシュバルツは目から鱗が落ちるのを感じる。
「『惑い』とは」
 問いかける口調でアレクサンドラが仲間の顔をゆっくり見回した。
「心乱されること……まるで、今のわたくし達のようですわね」
 イングリドが今の己の心境を素直に口にした。応えに手を打ち、アレクサンドラは身を乗り出した。
「そう。古人もきっと同じ心境だったに違いないのだ」
 つまり――『夜は惑いの右』。その方向には意味が無いのだろう。惑いながら右に進んだ。それだけだ。そして元の途に出た。次は何か?
 確信に満ちた目で、アレクサンドラはシュバルツを見つめる。
「シュバルツ。『岩に』何か、導(しるべ)は無かったかね?」

 読み方に気付いてしまえば、後は芋づる式。カンテラを手に冒険者達は立ち上がった。

●『岩に道標』――
 一部が欠けているのは歳月の表れと、言ってしまえばそれまで。
 シュバルツが指す岩の左腹の下方。草やコケに隠れがちの窪みが描く軌道が示した途を信じて進む。幸い、月明かりが足元を照らしてくれている。驚くほどに明るい途だ。
 導かれるように、湖の畔に辿り着いた。森が途切れ、目の前に広がる美しい情景に息を飲んで――
 しばし見惚れる。
「月は……」
 誰とも無く呟かれた言葉に、思わず天を見上げる面々。湖にいち早く視線を戻したヴィクトが応える。
「半分――丁度半分を過ぎたところまで映っておる。『湖面の月は迷いの左』じゃったのう?」
 日毎夜毎に形を変える月。湖の右も左も、その果ては繋がっている陸地。
 イングリドとシュバルツが表情を失い、暫し遠くを見やっている。
 ………。
「ああっ。いかん、何も思い浮かばぬー!」
 前例を元に、素直に考えれば解るかと思ったが何も浮かばない!
 たっぷり数秒考えて頭を抱え、打ちひしがれるヴィクトの肩にアルテアが同士の顔で掌を乗せた。
「鳥達が言っていた『月が泳ぐ』というのはこのことかしら」
 ティアの言葉に、「それだ!」と立ち直る前者の頑張り屋さん達。
「でも、これは……泳ぎ始める、泳ぎ終わる。どっちかしらね…」
「どちらにしても、もう少し時間はありそうです。その間に花を探してみませんか?」
 湖面を見つめるティアにシュシュが言った。
「土塊の下僕の出番か」
 もう一度、今度は望みもありそうだ。土塊の下僕に指示を出し、アルテアとヴィクト、アレクサンドラとイングリドも手分けして辺りの探索に散る。
「照明は……」
 ふと、シュシュが見上げる月は思ったよりも大きく見えて。樹の影にも邪魔されていない湖の周りで花を探すのに、月明かりだけで充分だとは言わないけれど……リーダーの言葉を借りるならかつてこの地に挑んだ『古人』もこの自然の灯りの下でそれを探したのだろうから――
 アビリティは使わず、月明かりに頼る事にする。

 蕾の花は、労することなく見つかった。
 湖の畔に群生する草花のほとんどが同じ種類で、釣鐘状の白い花はユリに似ている。
 まだ若い幼い蕾もある。今にも綻びそうな蕾も、咲き誇る花の隙間にちらほらと見えた。
 それを見つけたクレアが思わず口元を緩めた時。月は湖にその姿を完全に浮かべていた。

●『湖面の月は迷いの左』――
 迷いとは。
「月の軌道を左手に置くなら……右周り。否――ここは月の行く手に向き、左周り、か?」
「ここから左周りなら、沢山花がある方だよ。もうすぐ咲きそうな蕾も沢山」
 思案するアレクサンドラの袖を引いてクレアが助言する。後は、きっと、朝になれば解るはず。
 きっと、『朝を待つ花の蕾が、途を示す』に違いない。
 とうとう答えが揃った。後は確かめるだけだ。
 もうすぐ夜が終わる。長かった。長い一日だった。
 談笑しながら左の岸に歩き始めた仲間の背中を追おうと、アレクサンドラは思う。だが。
 即座に決断できない――『迷い』に、はた、と何かが閃いて――彼は言った。
「違う。右だ」
「右?」
 その場から動かないリーダーを怪訝に振り返り、鸚鵡返しに聞き返す7名。
 要領を得ない彼らの顔を見て確信したアレクサンドラは、右手方向に歩き出す。
「右だ!」
「アレクさん?」
「どういうことじゃ?!」
 そのまま一人、足を速めて駆け出した彼を慌てて追いかける仲間達。

 『迷う』とは。誘惑に負けて誤った道に進んでしまう時にも使われる。
 古人は、多くの花に呼ばれて迷ってしまったのではないか。

 月が湖面を泳ぎ終え、花が開き始める。
 朝までたっぷり時間をかけて開く花は、左右どちらへ進んでも見る事が出来るものだが――右際の花は湖畔から再び森へと、冒険者達を誘った。その先に。
 一軒の小さな家が佇んでいた――

●伝説のレシピ
 家には、ドリアッドの老女が娘と二人で暮らしていた。
 突然の訪問者に驚いた彼女達だが、冒険者達が同じくらい驚いているのを見て思わず表情を和ませ、アレクサンドラが真摯な態度で事情を話すと快く室内に迎え入れてくれた。
「料理書、ではないけれど。ウチのお婆ちゃんは沢山のお料理を知ってるわ。春の花の女神に贈られたお菓子だなんて……嬉しい評判ね」
「えぇと…そのレシピなんだが、見せて貰ったりとかは」
 アルテアが切り出すと、女性は少し考えて老女の耳に何事か耳打ちした。老女が頷き、女性はほっとしたように冒険者達に向き直って素朴な、温かい笑みを浮かべる。
「覚えて帰る? 教えてあげるって、おばあちゃんが」
 思わず顔を見合わせる冒険者達。
 少なくとも、それが書物ではないかもしれない事にアレクサンドラは薄々感づいていた。ゆえに、驚きよりも喜びが勝る。それが伝染したのか、徐々に晴れて行く各々の表情。
 答えは、一つだ。
「ぜひ!」
 冒険者達は声を揃えた。
「……これが使えると良いんだが」
 ちゃっかりシュバルツは花の蜜を集めていた。湖の綺麗な水を詰めた小瓶も揃えて差し出す。
 女性は丸くした瞳を二、三度瞬かせて笑みを深め、彼らをキッチンへと案内する。
「早速始めましょうか」 ――と。

 和気藹々と盛り上がる仲間達を見ながらキッチンの隅で、クレアはこっそり吐息する。
「どうしたの? 皆と一緒に作らないの?」
「私は食べるの専門だし……なにより作ってあげるような人いないもん」
 女性は、勿体無いと微笑んだ。
「将来のために覚えて帰るのも…良いと思うけどな〜?」
「……」
 よくよく見れば、彼女の髪の先に咲いているのはクレアと同じ桜の花。思わず俯くクレアは、なし崩しに女性に腕を引かれて甘い香りの只中、お菓子作りの輪の中へ。その顔はほんのり紅くなっていたかもしれない。

 教えて貰ったのは、二種類のお菓子。アレクサンドラはその時の様子を『紋章筆記』で記録した。
 泡立てた卵白に花の蜜、更に固く角が立つまで泡立てたら、絞り出してオーブンで焼き上げる。砂糖でコーティングした小さな花のお菓子を砕いてトッピングしたメレンゲは、おばあちゃん特製。
 小麦粉に卵と湖水と花の蜜、刻んだ生花を混ぜ込んで、生地を油に直接落として揚げる一口ドーナツ。
 素朴な味わいの小さなお菓子は、伝説の少女を思い起こさずにはいられない。

 森に住む――料理の上手な御婦人と娘さんとの出会い。
 親から子へ、受け継がれるレシピ。まごころを込めて作る菓子や料理。
 それは、伝説に負けるとも劣らない究極のレシピなのかもしれない。


マスター:宇世真 紹介ページ
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わからない
参加者:8人
作成日:2004/09/28
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