シギルの誕生日〜あのひとに花束を



<オープニング>


●あのひとに花束を
「……何だ? シギル。プロポーズか?」
「ああ、実は……って、んなワケねーだろ」
 からかうように笑うヒトの武人・カルロス(a90002)に、ニヤリと笑い返す白夜の射手・シギル(a90122)。
 シギルの手には大きな花束。その似つかわしい組み合わせに、からかわずにはいられなかったのだろう。
 予想通りの返答に、カルロスは豪快に笑って。
「墓参りにしては随分奮発したじゃないか」
「んー。花屋のお嬢さんがね、サービスしてくれたんだ」
「……花屋のお姉さんもユーワクしちゃったの? シギルちゃん」
 カルロスの言葉に何のことはないと言った風情で答えるシギルに、いつからそこにいたのか金狐の霊査士・ミュリン(a90025)が小首を傾げて。
「誘惑なんて心外だな。……って言うか、誰に聞いたそんな言葉」
「んーと。カルロスちゃん」
 苦笑するシギルに、彼女はにっこり笑って即答。
 どういうことかと問い質すべく振り返ると、既に当のカルロスの姿はなく。
「ちっ。逃げたか……。逃げ足の早いオッサンだな。まあ、いい。とにかく行って来る」
 納得がいかないのか、憮然とした表情のシギルだが、そのまま戸口に足を向けて。
「うん。夕方までには戻って来てね!」
 明るく手を振るミュリンに、了解、と短く答えて。
 花束を肩に担ぎ、シギルは酒場を出ようとして……冒険者達の目線に気付く。
「……何だ?」
「あの、シギルさん。その、お話が聞こえちゃったんですけど……お墓参りに行かれるんですか?」
 振り返った彼と目があって。言い辛そうに切り出す冒険者達。
 それに、シギルは何でもないことのように頷いて。
「ああ。友人の命日が近いんでな。花の一つも添えてやってもバチは当たらないだろうと思ってな」
「そうなのか……」
 そう言ったきり黙ってしまった冒険者達に、彼は苦笑を向けて花束を担ぎ直す。
「……何なら一緒に来るか?」
「でも……いいんですか?」
「構わないよ。賑やかな方がアイツも喜ぶだろ」
 その提案に戸惑いを隠せない冒険者達にニヤリと笑みを向けて。そして恭しく頭を下げる。
「さあ、紳士淑女の皆様方をご案内致しましょう……」
 そんなシギルの調子に冒険者達も笑って。
「一体どこに案内して貰えるんだ?」
「ハヤトって言う、死に急いだ馬鹿の墓さ」
 彼らの問いに、依然笑顔で受け答えるシギル。
 しかし、この時だけは。彼の笑みに少しだけ、影が差したような気がした。

●シギルのお誕生日
「カルロスちゃん。もう大丈夫だよ〜」
 シギルが出て行ったのを確認して、声をかけるミュリン。
 すると、どこからともなくカルロスが戻って来て。
「やれやれ……鬼の居ぬ間に何とやら。じゃあ始めるとするか」
「……始めるって何を?」
 腕をまくって、酒樽を運び始めたカルロスに、酒場に残った冒険者達が首を傾げる。
「誕生会の準備さ」
「……誕生会?」
 彼の言葉に、ますます頭にクエスチョンマークを増やす冒険者達。
「あのね。9月の10日がシギルちゃんの誕生日なの♪」
「それで、どうせなら祝ってやろうと言う話になってな」
 ぴっと指を立てて言うミュリンに、カルロスが運搬の手を休めずに続ける。
 要は、お祭り好きなこの2人は、シギルのお誕生会を開こうと画策しているらしい。
「それで、みんなにお願いがあるんだけど……」
「うむ。皆も手伝ってくれないか?」
「ほら。ケーキをたくさん準備したり、お菓子をたくさん準備したりとか色々あるし……」
「そうだな。酒を準備するとか言うのもあるしな」
 人の誕生日だと言うのに、自分達の趣味丸出しのミュリンとカルロスに冒険者達が苦笑する。
 それはそれで問題ないのかもしれないが……主賓の為には何かと手伝ってやった方がいいのかもしれない(ぇ)。
「何より……こう言うことは賑やかな方が楽しいよね♪」
 そして明るく笑うミュリンに、それはそうだ、と冒険者達も頷いて。
「その誕生会はどこでやるんだ?」
「夕涼みには丁度いい季節だしな。外でやろうかと」
「夕涼みか……それはいいね」
 空には満天の星。涼しい風の中での誕生会……カルロスの言葉に冒険者達の顔も綻ぶ。
 そんな彼らの表情を参加表明と受け取ったのか、ミュリンも嬉しそうに微笑んで。
「じゃあ、シギルちゃんが戻って来るまでに準備しちゃおうか!」
「そうだな……って、戻って来るの夕方って言ってたか?」
 元気良く言う彼女に、のんびりと頷くカルロス。
「何だって? ……あまり時間、ないじゃないか!」
 2人の言葉にこうしちゃいられない、と。冒険者達は慌てて誕生会の準備に参加するのだった。

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参加者
NPC:白夜の射手・シギル(a90122)



<リプレイ>

●墓前にて
「ふ〜ん。シギルって男色タラシだったのか……」
「へえ〜。噂は本当だったんだ」
「まあ、そうなんですか。すごいですわね」
「ねーねー。タラシって何〜?」
 ティキの超越した曲解はシェードの思い込みを誘い、更にナナカとフィールの天然ボケを呼び。
 そんな中でも、誕生会の準備は急ピッチで進められて行く。

 一方その頃。
 燃えるような赤い花が咲き乱れる墓場。
 そして、竜の細工が美しい墓標の前で手を合わせる男が1人。
「まぁ……あんな奴なんだが見守って欲しい。もっとも俺なんかよりよっぽど詳しいのだろうけどさ」
 シュウはそう呟くと、傍らの掃除道具を回収しその場を離れて――。

「何か墓参りって雰囲気じゃないけど、墓前位は静かにね?」
 二日酔いに苦しみながら歩くナギに、エイシェルが苦笑を向けて仲間達を振り返る。
 は〜い、と返事をする面々は、確かに墓参りと言うには賑やかで。
「ん? 誰か先に来たのかな」
 初めて見るハヤトの墓。
 綺麗に掃除され、花が供えられているそれにセリオスが首を傾げる。
「アヤノさんが来てたのかもー♪」
 嬉しそうに言うルシエラにイゥロスが薄く笑って、ハーモニカを吹き始める。
 流れ始めた鎮魂歌を合図に、花を供えるシギルとルティス。
 ナイジェルもまた、横に立つルシエラが持つ白百合の花束から一本抜き取り、それを捧げて。
「アヤノは無事だ。幸せに暮らしているから安心してくれ」
「貴方の妹はロクでもない男に捕まったけどね」
「……どうかこれからも見守ってあげて下さい……」
 彼の言葉を継ぐようにして、手を合わせるエイシェルとアリア。
「……会った事は無いがまぁ、飲めや」
 ナギが杯を供え清酒を並々と注ぎ、安らかに……と呟く。
 そしてルシエラも花束を供えると、墓に向かってにっこりと微笑む。
 ふと周りを見渡して、誰も笑っていない事に気がついて。彼女は慌ててナイジェルの腕を引っ張って。
「ねえ、ナイルさん。にこーってしたら、変だったかな? 笑ってご報告、安心すると思うんだけどなー?」
「どうだろうな。俺もハヤトに逢った事がないしな」
 笑うナイジェルに、ガーン! とする彼女。
「シギルさーん! ハヤトさん、ルシエラ変〜って思うかな?」
「いや……喜ぶと思うぞ」
 慌てる彼女の様子に笑いを堪えながら、シギルはその頭を撫でる。
「シギルさんは……ハヤトさんの知り合いだったんだな」
「ああ、いい友人だった」
 呟くアリアに、彼が穏やかな顔で頷いて。
 ハヤト。シギルの友人で、アヤノのたった一人の兄。
 彼が亡くなって、もうすぐ1年。長いようで、傷が癒えるには短い時間。
「……弔いは、いつか行く道の露払いのようなものだと思うの」
 生きて辛いのは終わるけど時の止まった人は悲しませてはいけない、だから笑っていようと……。
 静かな重みがあるニューラの言葉。
「そうだな。アイツの死に後悔がないと言えば嘘になるが……」
「友人を亡くす事の辛さは……少しは判るつもりだけど」
「……思い返して、全部が悲しいままにならなきゃいいな」
 目を閉じたシギルに、ルティスとナギの言葉が続いて。
 そんな仲間達の声を遠くに聞きながら、ボンヤリと墓を見つめるリシェール。
 置いて逝かれるのは勿論辛い。
 でも、それと同じくらい、置いて逝く方も辛かったのではないか……。
 問い掛けるように墓をもう一度見つめるが、答える声はなく。
「……シギル、貴方は幸せな人なのだね」
 スターチスの花を供えた後、微笑みを向けて言うオリエに、シギルが首を傾げて。
「わたしには思い出す想い出さえないから……」
 彼女の微笑みに少し寂しさが混じる。
 スターチス……永遠不変。
 ありはしないと知りながら、人はそれに憧れる。
 過去から続く弛みない時間の流れ。自分は、それから外れていて……。
「思い出なんて、これから作れば良いさ。何なら協力するぞ」
「……そうだね。ありがとう」
 突然真顔で切り返して来た彼に、オリエが少し顔を赤らめて。
「ハヤト。このロクデナシは相変わらずのタラシぶりよ……」
「うむうむ……アヤノの兄と知り合いと言う事は、アヤノにも手を出してた口かぇ?」
「あのなあ……」
 その様子を見て、おもむろに墓に向き直ってそんな事を報告するエイシェルに爆弾発言をするルビーナ。
 疲れた顔をするシギルに仲間達が笑う。
「ええと……そうだ。良かったらその友人の話を聞かせてもらえないだろうか? 時々思い出すのはきっと故人も喜ぶと思うのだけど」
「俺も聞きたいと思ってたんだ」
 オリエとナイジェルの言葉に、少し機嫌を直したシギル。
「アイツな。ドがつくほど真面目で朴念仁で……俺とは正反対だったな」
 それにニューラも微笑み、明るい曲を1曲、とヴィーナをかき鳴らす。
「シギルは、ハヤトにどんな言葉を貰ってきたのかな?」
「あー。そりゃあもう小姑のように煩くてな。小言ばっかりで……」
「ああ……何か想像つくな」
 続く問いに答える彼。それを聞いて可笑しそうに笑う2人……そんなやり取りを、アリーシャは黙って横で見つめる。
 大事な友人……どんな出会いと時間があったのだろう。
 それを少ししか知る事は出来ないけれど、この先のシギルの人生が、素敵なものであれば良いと思う。
「まあ、俺みたいな友人を持ってアイツも不幸だったかもなー」
「そ、そんな事ないと思いますっ」
 おちゃらけて言うシギルに、慌てて返すアリーシャ。
「……死んでなお、見舞ってくれる友人と言うのは良いモノだと思うし。嬉しいと思うぞ?」
 それに、ナギも真顔で答えて。
「そんなもんかね」
 少し引き攣った笑みを浮かべるシギルに、ルビーナが闇笑いを向けて。
 その間も、アリアはじっと彼を見つめる。
 シギルと言う人は、普段は明るいのにどこか壁を作っているように見える。
 良く見るととても寂しい目をしている気がして……。
「気のせいかな……」
 彼女の呟きは、仲間達の声にかき消されて。
「さあ、シギルさん。戻りましょう。皆が待ってますよ」
 彼の手を取り、待っていてもらえるのって素敵ですよね、と微笑んで続けるアリーシャ。
 それにシギルはただ笑って。導かれるままに歩き出した。

●夕涼み
「お。戻って来たみたいだぜ」
 ヴァイスの声に、一斉に仲間達が振り返る。
 刻は夕暮れ。暖かなランタンの光と沢山の草花で飾られた会場はとても美しく。
 そして、美味しそうな料理の数々もまた、テーブルを華やかなものにしていて。
 シギルや仲間達の嬉しそうな顔に、準備に奔走していた4人の顔が綻ぶ。
「おめでと、シギル」
「……シギル、誕生日俺と一緒だったんだな」
 艶っぽく微笑むケイの言葉に、セリオスが思い出したように呟いて。
「あらあら。セリオスさんもおめでとうございます」
「男色タラシと一緒とは、お前もツイてないな」
 優しく言うルナの横から、ティキのいらん一言が聞こえたような気がしたが。
 増えた主賓に、仲間達が沸き立って。2人に次々と祝いの言葉が贈られる。
「さあ、バースデーケーキもありますからね」
「ナナカさーん。ケーキにお名前追加だよー」
 特大のケーキを抱えるナナカの後ろから、チョコペンを持ったフィールが走って来て。
「……こっちはミュリンにとられちゃうかもね」
 そうルティスが言う傍から、リューシャやオリエ、そして彼女が持って来た差し入れにミュリンの手が伸びているのはまあお約束(ぇ)。
「俺からは『プルミエ・ラムール』って言うケーキだ」
 そんな事を呟くイゥロスに去来するのは過去への想い。
 初恋の意があったお菓子に「変わらぬ想い」を上に乗せ。
「今年一年良い年だと良いな! ……と、酒♪ 酒〜♪」
「アンタが今生きてる事を祝って!」
 どーん! と酒瓶を出して盃に注ぐナギとエヴィルマの酒を、シギルは美味しそうに飲み干して。
「皆で飲み明かしだね♪ リシェも勿論呑むよね?」
 便乗して飲んでいるケイに、リシェールが笑みを返す。
「シギルとカルロスの2人って、どこら辺が気があうの?」
「あまり細かい事を気にしないところじゃないか?」
 そして、周囲をまったりと観察しながら言うレネが入れたカクテルを飲みながら、同時に答える2人。
 シギルと軽口を叩きあうカルロスは、彼女が抱いていたイメージと少し違って戸惑ったのだが……そう言う事柄にも対応が出来ると言う事なのだろう。
「さて。宴も酣になって来たところで、メイド服着た主賓による『色男講座』開催だ! お代は見てのお帰りだぞ!」
「待てコラ」
 プレゼントを渡したかと思えば突然とんでもない事を言い出すヴァイスに彼がすかさずツッコむ。
「シギルちーん! お誕生日おめでとーなのだーっ!!」
 そこへ、トマトドレスで可愛らしく決めたロザリンドが駆け込んで来て、トマトハンマーで力の限りシギルをぶっ飛ばし(ぇ)。
 どうやら、感謝の気持ちを拳で語ってみたらしい。
「微笑ましいですねぇ」
「えーと……止めなくて良いんでしょうか」
「放っておきましょ。甘やかすのは良くないわ」
「うむうむ」
 のんびりと言うシェードに、困り顔のルナ。淡々と答えるパオラとまったり微笑むルビーナの目線の先は、飛んで行くシギル。
「……だ、大丈夫ですか?」
 目の前に降って来たシギルを、でっかい冷や汗を流しながら突付くリューシャ。
 色々な人に囲まれている彼に恥ずかしくて近寄れなかった彼女。今がチャンス! とばかりにプレゼントを差し出す。
「お、こりゃいいワインだな。サンキュ」
 シギルから出たお礼の言葉に、彼女は幸せそうに微笑んで。
 それを少し離れた位置から見守っているクウォーツ。そんな彼を、ロザリンドがほっぺをむにゅー! と掴んで引っ張って来る。
「何やってるのだ! クウォちんもさっさと渡してくるのだー!」
 ロザリンドにグイグイと押し出され、いよいよ後がなくなった彼は少し頬を染めて。
 長い棒状のプレゼント。それを押し付けるように手渡し……シギルに頭をくしゃくしゃと撫でられてむくれる。
「ホラ。リシェも行っておいで」
「でも……」
 同様に、ケイに押し出されるリシェール。
 待っていてはダメ、とウィンクする友人に苦笑を返して。
「……やるよ」
「サンキュ」
 プレゼントをぶっきらぼうに投げて渡し、笑みを浮かべるシギルをじっと見つめて。
 彼の優しさを勘違いしたくない。
 けど知りたい、その傷に近付きたい……。
 そんな複雑な想いを乗せて、こつり、とその腕を軽く殴る。
「何言ってもいいけどさ……否定だけは勘弁な」
「……否定はしない。ただ、深入りは止めとけ。傷つくのはお前だ」
 自嘲的に笑うリシェールを居抜くようなシギルの赤い目は、珍しく真剣で――。
「主賓様、ご機嫌いかが?  ……何か欲しい物はある訳?」
 お絞りと水を手渡しながら覗き込んで来るエイシェルに、彼が笑い返して。
「……最も。お主は欲しい物なら難なく全て手に入れそうぢゃがな」
「いや、そうでもない」
「ほう? では、何が望みだ?」
「俺の望み、か。……俺は一体何を望んでるんだろうな?」
 問うたつもりが逆に問い返されて、言葉に詰まるエイシェル。
 コップに映る彼の顔。心にある暗い隙間を、垣間見たような気がして……。
「……飲むか?」
「ああ」
 セリオスに盃を差し出され、受けるシギル。
 暫し続く沈黙。
「……祝われるという事は意外にいいものなのだな」
「そうだな……」
 ポツリと言ったセリオスの言葉に、シギルもしみじみと頷いて。
「何しんみりしてるのよ。お祝いはこれからよ」
「そうだな。飲み比べでもするか!」
 可笑しそうに笑うルティス。それに頷いて、シギルが仲間達を振り返る。
「……言ったね? 後悔しないね?」
 その言葉に、不敵な笑みを浮かべるエヴィルマ。
「もしアタシが先に潰れたら何でも言う事聞いてやるわ」
「その勝負乗った!」
 続いた彼女の言葉尻に乗って、叫ぶニューラ。
「そんな事言って大丈夫なのか?」
「お生憎様。そんじょそこらの男にゃ負けないよ。試してみるかい?」
 冷や汗をかくワスプに、にーっこりと微笑むケイ。
「呑み比べ……ねぇ?」
 あまり乗り気ではないのか、苦笑するシュウの肩を叩く手。
 振り返ると熊……もとい、カルロスが笑っていて。
 彼に何やら耳打ちすると、2人はニヤリと笑う(ぇ)。
 どうやら、共同戦線を張ってシギルに飲ませる事にしたらしい。
「大丈夫だ。安心して逝って来い」
 そう言うティキの手には薬草。
 二日酔いもこれでバッチリ! ……なのか?
「シギルさーん。これも飲んで下さいねっ。特別に作ったんですからね」
 そこへ千鳥足でやって来たのはスカイ。
「うわっ。酒臭いぞお前」
「だって……お墓参りの様子見てたら、悲しくなっちゃってーっ!」
 とにかく。既に出来上がっているらしい(ぇ)。
「……お前、笑うか泣くかどっちかにしろよ」
 そう言いつつ、涙を流すスカイだが肩が笑いを堪えるように震えていて。呆れた顔をするシギルに、怪しい笑みを返す。
「皆さんも飲んでみて下さいよ、美味しいですから〜」
 笑いながら、周りの者達にも酒を振舞う彼。
 それを飲み……何故かシギルや周りの者達が一斉に笑い転げる。
「……っ。こ、これ、『笑いキノコ酒』だっ……」
 ティキが腹を抱えて悶絶しながらもしっかり鑑定。
 色々な意味で、笑いが止まらない状況になりつつある中。
「んー。いい気分♪ 久しぶりに舞ってみようかな?」
 笑いキノコ酒を運良く飲まずに済んだケイの流麗な踊りにニューラの曲が重なって、宴はますます盛り上がる。
「何処に行かれるんですか?」
 その場をこっそり後にしようとするワスプに声をかけるシェード。
「いや、プレゼントを置いたら帰るつもりだったんだ」
 そう答える彼に、シェードが苦笑して。
「そんな事だろうと思いましたよ。もう少し、楽しんで行きませんか」
 折角のお誕生会ですしね、と続いた彼の言葉に、困ったような笑みを返すワスプ。
 それでも差し出された料理を素直に受け取って――。

「……大丈夫?」
「腹筋が痛ぇ……」
 覗き込んで来るパオラに、グッタリとしたまま答えるシギル。
「全くもう……これ、あげるわ」
 包みを彼に差し出すと、パオラはそっと彼の額に口付ける。
「いつも私が背中守ってられる訳でもないしね? お守り付きよ」
「……何だよ。唇じゃないのか?」
「悪戯小僧には額で十分よ」
 用は済んだとばかりに立ち去ろうとする彼女の手を、シギルが掴んで。
「……もう少し飲む。付き合えよ」
「面白い話聞かせてくれるならね」
 安請け合いする彼に、パオラは苦笑しつつも横に腰掛けて……。

 夜の涼しい風が、宴で火照った冒険者達の身体を優しく包む。
 美味しい食事と酒、そして騒いだが故の軽い倦怠感が心地良く。
 満天の星の下、宴会はまだまだ続くのだった。

 余談。飲み比べは女性陣の圧勝でした。


マスター:猫又ものと 紹介ページ
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