【注意報発令!】月のうさぎ



<オープニング>


 森に囲まれたアルテ村には『月うさぎ』と呼ばれる可愛い兎がときどき訪れる。
 名前の由来は喉に『紅い三日月型の文様』がある事から付けられたのだが、それ以外は全身がぽわぽわの真っ白な毛をした小型の野ウサギで、村の住人たちにとって彼らとの交流は楽しみのひとつだ。古くは村を開拓した始祖の時代から、それはずっと続いている。
 人に慣れない月うさぎもアルテ村の住人たちは好きなのだろう。気が向くとひょっこり姿を現しては僅かばかりの餌をもらい、少しの間だけ村で過ごしていくのだ。
「気まぐれな友人だと、私の父はそう言っています。村の守り神だと村長さんはおっしゃいます……私もあの子たちが大好きなんです」
「その月うさぎが狙われていると……?」
 ダイアと名乗った依頼人の少女は強く頷いた。不安に目を曇らせ、霊査士の顔をじっと見詰める。
「見慣れない可笑しな格好をした集団が、最近森をうろついているんです。見かけた父が声を掛けたら、突然襲われたと……頭を殴られて、発見された時は酷い怪我でした。……今は床に臥せています」
「それは……災難でしたね」
「あの、これを」
 痛ましげに目を細めた霊査士に、ダイアは泥に汚れたひとつまみの毛玉を差し出した。
「霊査士さんに『見て』もらうようにと村長さんに言われて持って来ました。襲われた父が握っていた物です」
「お預りします」
 遺留品を手にしたヴェインは目を閉じて黙り込んだ。長い沈黙の後、ゆっくりと瞼が開かれる。青い瞳はどこか夢見るように揺らいでいた。
「あの……」
「……ああ、済みません。ええと、依頼はお引き受けしますのでどうかご安心を。きっと冒険者が月うさぎを守ってくれますよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
 ここを訪れて初めて、ダイアの顔に笑顔が浮かんだ。「お待ちしています」と言い残し、吉報を知らせに急いで村へ帰ったダイアを見送って。
 霊査士は何故か長い溜息を付いたのだった。
 
「今回の依頼はあまり時間が有りませんので、手短にお伝えします。アルテ村の周辺に生息する月うさぎをとある盗賊団が狙っています。彼らは森での調査を終え、近く大規模な捕獲を決行するでしょう。……皆さんがこれから直ぐに向かっても、その時間に間に合うかどうか。難しい所ですが……」
「なあ、何でそいつらは月うさぎを捕まえるんだべ?」
 珍しい種類の兎とは言え、盗賊団がわざわざ狙う理由が解らずゴタックが首を傾げて問い掛ける。ちょっと返答に窮したヴェインだったが、ここは見えたままを正直に答える事にした。
「……趣味でしょう」
「しゅみ?」
「盗賊団たちは兎が好きで好きで好きで、兎無しではいられないほど好きなんです。兎を見ているだけで丼飯3杯はいけるくらいに」
「…………」
「彼らは森から月うさぎを一匹残さず強奪して、彼らだけのマイハウスでじっくりみっちり観賞&飼育を行いたいという野望を胸に行動しています。……はぁ」
「ヴェイン……」
 こんな事を何故自分は語っているのか。ヘコんでしまった霊査士の肩を、ゴタックは労わるように叩いた。
「……ともかく。盗賊たちが兎用の罠を仕掛けた場所と狩り場は解りましたので略図に書いてお渡しします。……それと、もうひとつ」
 心底嫌そうな顔でヴェインは付け加えた。
「盗賊たちは全員が『うさぎ着ぐるみ』を着て行動しています。首領に至ってはバニーガールの格好をしているうえに語尾が『ぴょん♪』です……」
 しかも、筋肉盛盛の男たち……。そんなモノが見えてしまった今回の霊査は彼にかなりの精神的ダメージを与えたらしかった。
「……まあ、おかげで発見は容易そうですね。一人残らず捕らえ、月うさぎを守ってあげて下さい。宜しくお願いします」
 気を取り直して頭を下げた霊査士に、冒険者達は戸惑いながらも頷いたのだった。

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参加者
明告の風・ヒース(a00692)
蒼天の幻想・トゥバン(a01283)
柳緑花紅・セイガ(a01345)
星刻の牙狩人・セイナ(a01373)
雪舞小笑・エレアノーラ(a01907)
ニュー・ダグラス(a02103)
剣舞姫・カチェア(a02558)
放浪傭兵稼業・ダウザー(a05769)
NPC:深緑蒼海の武人・ゴタック(a90107)



<リプレイ>

●禁断の兎狩り
 木漏れ日が美しい森の中。うさぎ着ぐるみ姿の筋骨逞しい男が二匹……否二人、囚われの身となっていた。言わずと知れた兎偏愛盗賊団の頬を指先でピタピタ叩くのは明告の風・ヒース(a00692)である。
「貴族の嗜み……兎狩り」
「……い、命だけはお助けを!」
 冷ややかに微笑まれ怯える盗賊にヒースは断固たる口調で言った。
「皮を脱ぎなさい」
 ……数分後。
「何を着ても似合ってしまう僕が憎い……ノンノン、賞賛には及びませんよ」
「仲間に攻撃されねぇように、目印に耳にリボンでも付けておくぜぴょん」
 キュートなウサポーズを披露する白兎黒兎コンビが完成していた。白兎着ぐるみはヒース。黒兎着ぐるみはニュー・ダグラス(a02103)。
「おまいらなぁ……ぴょんとか言うな、そこ!」
 きゅきゅっと漢結びでリボンを付けたダグラスに放浪傭兵稼業・ダウザー(a05769)が軽くラリアットをかます。黒兎さん、美しく放物線を描いて倒れましたが大丈夫。これも一種の友情です。
「ふ、旦那……いいツッコミだぜぴょん!」
 ぐっと親指を立てて黒兎さんは漢笑い。どうやら『ぴょん』は譲れないようです。
「月兎さんにも月兎さんの事情があるんだぴょーーん」
 大きな袋を担いだ白兎さんがぴょんと跳ね、裸のまま逃げようとしていた盗賊二人をバニーキックで蹴り倒す。
 月うさぎの保護は、こんな感じで幕を開けていた。……冒頭から迷走感たっぷりなのは気のせいです。ええ。

 盗賊達が狩場と定めたのは月兎の巣が密集する地帯だった。巣を煙で燻し、飛び出して来た所を罠へ誘導する。網を片手に追う者も居た。
 頬を歓喜の色に染め、ハァハァと息も荒く迫る兎着ぐるみ姿の筋肉盛盛集団。「兎さん待て待て〜♪」等と野太い声で追われる月兎たちは、それはもう必死に逃げた。だが兎を知り尽くした彼らは連携した動きで一匹を追い詰め、網を振り上げる。
 現場に急行した柳緑花紅・セイガ(a01345)が見たのはそんな光景だった。咄嗟に手にした槍をチェインシュートで噴出する。角度斜め45度からの華麗な攻撃は凄まじい勢いで盗賊が持つ巨大な網にヒットした。
「な!? 何者!」
 悲鳴を上げる盗賊に、手元に戻った武器を構えたセイガは不敵に笑った。
「月兎の守護者……なんてな」
「何だと!?」
「やっちまえほにゃらら〜?」
 邪魔者を排除せんと動き出した一群が突然、混乱状態に陥りあらぬ方向に武器を振り始める。舞飛ぶ胡蝶を使った微笑媛・エレアノーラ(a01907)は木陰から姿を現すと、恐怖に硬直している月兎をそっと抱きかかえ、優しく微笑んだ。
『怖くないわよ、もう大丈夫。……林檎は好き?』
 彼女は獣達の歌で話し掛けながら、真っ赤に熟した美味しそうな林檎をそっと差し出した。

●B−Girls☆
 月兎を罠へ追い込む一隊に出会った深緑蒼海の武人・ゴタック(a90107)は単身での苦戦を強いられていた。薙ぎ払うのは簡単だが、殺してしまう訳にはいかない。
「ええい、邪魔するな、このツルツルが!」
「つ、ツルツル!?」
「モコモコしていないお前などいらんわ!」
「い、いらない!?」
 棍棒を片手に襲ってくる数人の攻撃をかわしながらも、ゴタックの心には見えない傷が増えていく。
「そこまでなのですね!」
 凛とした女性の声が木の上から降り注いだ。
 対○愛趣向人型決戦装備(B−Type)通称『ばにーすーつ(黒)』とウサ耳カチューシャは正義の印籠。素顔を仮面に隠した彼女の正体は!?
「太陽さんが許しても月は兔を護るもの!! グリモアに代わってお仕置きなのですね!!」
 にゃ〜ん。と、投げやりに鳴くトラ猫の声に合わせてポーズを決めたのは、星刻の牙狩人・セイナ(a01373)だった。が、ここは正義の使者『ばにーぶらっく』としておきましょう。
「むーんぱわーあろー!」
 掛け声と共に影縫いの矢を射るばにーぶらっく。動きを止められた盗賊を「さあ、今のうちなのですね!!」と励まされたゴタックが取り押さえる。そんな中、木陰からは笛の音が静かに流れていた。
『村を守護せし者達。大切な者達。こっちへこっちへおいで。月の導きと共に……』
 姿は見せず、獣達の歌で月兎を呼ぶのは剣舞姫・カチェア(a02558)……否。
「ばにーほわいと!! 恥かしがっていてはダメなのですね!!」
「いや、しかし団長……」
「だ、団長ではないのですね!? さあ、己を捨てて皆の平和を護らないと!!」
 『ばにーすーつ(白)』を纏ったばにーほわいとは仮面に隠れた素顔を真っ赤にしながらも、ばにーぶらっくに励まされ覚悟を決めた。木陰から姿を現すと盗賊達に向かい毅然と宣言する。足元には声に惹かれた月兎が一匹、寄り添っていた。
「お主達のこの者達への愛情。それは偏愛というものだ。自らの檻に押し込めれば、この者達の生き生きとした姿は二度と見られなくなると思え」
「う、うさぎさ〜ん!」
「疾っ!」
 耳を貸さずに鼻息荒く月兎めがけて突進してくる筋肉盛盛の兎着ぐるみを、ばにーほわいとは疾風の如き峰打ちで退けた。その後、二人の正体に気付かないゴタックは丁寧に礼を伸べ、その場にいた盗賊団全員を縛り上げる事が出来たのだった。

●守れ、男の浪漫!
 ぴょんこぴょんこと踊るような軽い足取りで黒兎と白兎が森を走る。コンビは盗賊に気取られぬよう仲間のフリをし、罠に捕らわれた月兎をどんどん解放して行った。ダウザーは兎捕獲に夢中な盗賊の背後にハイドインシャドウ奥義で忍び寄ってはチョップで気絶させ、お縄にしていく。
「頭〜! 妙な奴らに邪魔されて、兎さんが一匹も捕まえられません!」
「頭と呼ぶなぴょん♪ バニーさんだぴょん! ……妙な奴らぴょん?」
 集合地点で数人の仲間と落ち合ったバニーガール姿の筋肉特盛男こそ、この兎盗賊団の首領バニーさんだった。ぬらてか光る筋肉を盛りっと蠢かせて考え込むバニーさん。
「な、なんという事を!!」
 臥龍の武人・トゥバン(a01283)がその光景を見てガクガクと崩れ落ちる。どさりと投げ出されたのは、彼の手でボコボコに殴られ集合場所を吐かされた盗賊の哀れな姿だった。
「みゅう、貴様よくも同士を! 妙な奴とはこいつぴょんね!」
「いやぁ! 見ちゃったぁぁ〜!」
 更に駆けつけたエレアノーラが壮絶映像に悲鳴を上げる。そんな相手に妙な奴呼ばわりされたトゥバンは、体内に凝縮した怒りを一気に爆発させた。
「てめー。やっちゃいけねー事を俺の前で……」
 ゆらりと立ち上がった彼は仄暗い瘴気を噴出させながら無造作にバニーさんへ近付く。バニーさんはその気迫と闘気にアッサリくるりと踵を返した。
「今日はここまでにしといてやるぴょん!」
「待てぴょん♪ じゃねえよ、感染っちまうじゃねーか!」
 バニーさんの口癖に翻弄されつつも、逃がすまいと後を追うセイガ。拳を握り猛々しく叫ぶは紅蓮の咆哮!
「ぴょ――ん!!」
 ……完全に、感染ってます。
 だが効果は覿面で、バニーさんは丸い兎尻尾の付いた背中を見せたまま固まった。それを見て「頭を救え!」と襲い掛かってきた残りの兎着ぐるみ達は、再び舞った胡蝶の幻惑に我を忘れる。
「えい! えい! えい!」
 それを必殺の『オーブ投げ』で昏倒させていくエレアノーラ。盗賊達の顔面にめり込むその威力はいつもより力がこもってますとも。当然です。
 そして舞台は整った。トゥバンの繰り出す怒りの拳がバニーさんを怒涛のラッシュで叩きのめす。フックフックジャブジャブストレートォ!!
「いいか。うさぎのバニーの本髄は、あのスラッとしなやかに絞まりが在りつつも、それでいて柔らかさを感じさせる脚線美! これだ!! 網があるないで言えばそれはやはり生!!」
 ドカボキグシャメキメショ。豪快な連続の打撃音が森を震撼させる。熱いバニー講座もまた、止まるところを見せない。
「そして、男を惑わせるような優しく絶妙なウィンク! 貴様は何一つなっちゃいねぇ!! それはバニーへの冒涜だ!! お前がバニーを愛して止まぬならば、自らの行為を……悔い改めよ!」
「ぐぁらば!!」
 どごーん!
 最後は強烈な右アッパーが炸裂し、吹っ飛ばされたバニーさんはズザザザザーと顔面で地面を抉り取って事切れた。ああ、いえ、動きました。生きてます。
 そこでダウザーがバニーさんの耳を掴んで引き起こすと、じんわりとした口調で言い聞かせる。
「おまいさんな。いくら好きだからってな。同じカッコしちゃだめだぁいくらなんでも。ありゃあ見るからいーんだろうが! 見ていて幸せな気持ちになんねーか? あの耳バンド、チョーカー、ぴったりフィットなスーツ。あ、網タイツ履くのは間違いなんだぞ。本家はシーム付きストッキングだからな。なのに自分でそのカッコしたら、全然見えねーだろ? 癒されねーだろ? それでも幸せなんか、おまいさんは? あ?」
 相手がバニースーツの為、胸倉を掴めない憤りを感じつつも。ダウザーはじっくりみっちりねっちりもっちりバニーを語る。
 そしてバニー道の奥深さをそれはもう痛いほど知った首領は、三倍に腫れ上がった顔を地面に擦り付けて土下座すると、潔く降伏したのだった。

●大団円
 こうして森に平和は戻った。村人の歓声に迎えられた冒険者達は各々、月兎との交流を楽しんだ。
 バニー講座のメモを確認するセイガの横では子カメサマのプチまろが一匹の仔月兎と寄り添って眠っている。
 エレアノーラの連れてきたリオンとリアラも、彼女の歌で集まってきた月兎達と仲良く遊んでいた。
 その一方では『月よりのウサ使者』だと言い張る白兎は黒兎と共に茂みに「トゥ!」キラン☆ とジャンプして消えていたり。
「って、おまえ等なんつー格好している。餓鬼がやっても恥かし……いっ!?」
「ええい、記憶を無くせ!! この馬鹿者!」
 カチェアの衣装を見て不用意な発言をしたトゥバンは、それはもう、強烈にどつかれてしまったそうな。


マスター:有馬悠 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2004/09/21
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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