【リベルダの悩み】プワゾンの音楽会



<オープニング>


「皆さんに、お願いしたい事があるのよ」
 その日、酒場を訪れたのは初老の婦人……孤児院の院長を務めているミネリーだった。
「森に……ね。どこからか移動してきた、グドンの群れが現れたそうなの。このままじゃ森が使えないって聞いて……ああ、これでは皆さんには説明が足りないかしら」
 オロオロとしたミネリーの様子は、それが彼女にとって一大事らしいと示していて。一体何事かと尋ねた冒険者達に、彼女が説明したのは、次のような内容だった。

 西にあるプワゾンの村では、毎年秋になると、音楽会が開かれる。
 音楽会に参加するのは、村の者のみならず。各地からも音楽を嗜む者が集まって、会場となる村外れの森の中で、それぞれ演奏や歌声を披露するのだ。
「ところが、その森にグドンの群れが現れた……と。その話なら聞いてるよ。村の方からも依頼が来てる」
 そんなミネリーの言葉に口を開いたのは、ストライダーの霊査士・キーゼルだ。
「グドンの数は三十匹ほど。食料を求めて彷徨ううちに、森に辿り着いたみたいだね。今は木の実や果物を採って過ごしているようだよ」
 霊視の結果を交えつつ、キーゼルはそう説明すると、このグドンの群れを退治しに行って欲しいと冒険者達に言う。
「この状況じゃ音楽会が開けない……って事もあるけど。何よりも、このままだとグドン達が足を伸ばして、村を襲うって可能性もあるからね。放っておく訳にはいかないだろう」
 だから、すぐにでも森に向かって、このグドンの群れを片付けて欲しい。
 そうキーゼルは冒険者達を見回した。

「ところで……プワゾンの森の事を気にしているってことは……行く予定でも?」
「ええ。音楽会に行こうと考えていたのよ」
 キーゼルの言葉にミネリーは頷くと、リュートを持って赴き、演奏を行うつもりだっだたのだと説明する。
「驚かせたいと思っていたから、子供達には内緒にして、練習していたの。でもグドンが現れたから、このままだと会場が変更になるかも、って聞いて……」
 プワゾンの森は、これまで何十年と音楽会が開かれてきた場所。そこは、歌声や楽器の音色が美しく響く場所で。だからこそ、素敵な音楽を楽しむ事が出来る。
 そんなプワゾンの森での時間を、できれば子供達にも過ごして欲しいと思うから。
 そして……その舞台に、立ちたいと思うから。
「会場を変えれば、音楽会自体は何事もなく開催できるでしょうけど……でも、やっぱり、あの森の中でと思うのよ。だから……」
 プワゾンの森で音楽会が開けるように、どうかお願いします……と、ミネリーは頭を下げる。
「……ああ、そうだわ。キーゼル、あなた音楽会の日に時間が取れるかしら?」
「何故?」
「子供達と一緒に、どうかと思って。皆の事はリベルダに任せてあるけど、あの子一人では手が回らないかもしれないでしょう。それに、あなたが一緒の方が、喜ぶ子もいますものね」
 ふと思い出した様子でそう口にしたミネリーは、他の者達にも「もし都合が付くなら、皆さんも子供達と一緒に過ごして頂けると嬉しいわ」と微笑むのだった。

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参加者
幸せを求めし白き鷹使い・シャンナ(a00062)
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)
風と踊り大地と歌う者・トトノモ(a08672)
大凶導師・メイム(a09124)
軽業拳法使い・ヤイチ(a12330)
角殴・ヒリュウ(a12786)
焔獣・ティム(a12812)
NPC:ストライダーの霊査士・キーゼル(a90046)



<リプレイ>

●酒場前の一幕
(「ミネリーさんに、少しでも生きようと思う気持ちが芽生えてくれたようで、何よりです」)
 依頼を受けた冒険者の一人、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は、そう安堵の表情を漏らしながら、出発のための準備を始めた。
 ラジスラヴァは今回、音楽会へ向かうミネリー達に同行すると決めている。その際に利用する為に……と、同様にミネリー達と同行する、微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)と共に、ノソリンと荷車の手配に向かう。
「1度行ったことがあるから分かるよね?」
 幸せを求めし白き鷹使い・シャンナ(a00062)は、鷹のハッピーに手紙をくくりつけながら語りかける。
 シャンナがハッピーを向かわせようとしているのは、先日訪れたジェリンの暮らす家だ。もしかしたら既に招待状などが送られているかもしれないけれど、念の為に音楽会の事を知らせようと、ハッピーに頼む事にしたのである。
 といっても、ハッピーは狩猟用の鷹。手紙を運ぶ役目に向いているかといえば……少し微妙な所かもしれない。実際に、ハッピーの表情は、どことなく不安そうにも見える。
「……お願いね、ハッピー♪」
 それでも、シャンナはハッピーなら大丈夫なはずだと信じ、その姿を空へ放つ。
「えと、あの、キーゼルさん。一つお願いしても宜しいでしょうか……?」
 四匹のノソリンと荷車を一つ借り受けて戻ったメルヴィルは、キーゼルに声をかけると、これをこっそり運びたいんです……と、いくつかに纏めた荷物を広げる。
「これは?」
「えと、子供達のための楽器……です」
 不思議そうなキーゼルに、メルヴィルは、子供達にも音楽の楽しさを感じて欲しいから……と、それらを用意した理由を話す。荷物の中には様々の種類の楽器が、かなりの数用意されているようだ。
「ん、構わないよ。ただ……手分けしても運ぶのは大変かもしれないから、ある程度は荷車に載せよう」
 運べない事はないが、大荷物を抱えていては子供達に訝られるだろうから……とキーゼルは言うと、半分ほどを荷車に載せ、残りの鞄のうち、より重い物を取る。
(「ぬぅ……」)
 そんな背を見つつ、何やら難しい顔をしているのは、大凶導師・メイム(a09124)。
(「矛盾は承知だが……。こればかりは、なるようにしかならぬか……」)
 シャンナとメルヴィルを交互に見て。矛盾している事を承知しながらも、二人共応援したいという本音を抱えつつ……こればかりは、当事者以外がどうこう出来る物ではないな、と嘆息するメイムだった。

●子供達を連れて
 グドン退治のために、半数ほどの冒険者たちがプワゾンの森へ急ぐ一方。ラジスラヴァ達は、ノソリンに荷車を引かせながら、孤児院を訪れていた。
「……大変そうだなぁ」
 冒険者達が来たのを見て、リベルダが子供達を連れて表に出て来るけれど……小走りで来る者もいれば、非常にゆっくりとした動きの者もいて。軽業拳法使い・ヤイチ(a12330)の目には、この時点でもう、リベルダ一人では手が回らず、大変そうな様子に見えた。
「俺もちょっとお手伝いするかな」
 ヤイチは近付いて来た子供達に挨拶すると、じゃあ……と、過去の冒険で見聞きした事の中から、子供が喜びそうな内容を選んで話し始める。その内容に、子供達はワクワクした様子で耳を傾け……その間に、リベルダや他の冒険者達が、出遅れた子供の元に向かい、ヤイチは彼らが追いつくまで、しばし冒険譚を紡ぐ。
「えと、ブランさん。こちらに乗って下さい、です」
 メルヴィルは、杖を突きつつ歩いて来たブランに声をかけると、荷車の方へと彼を促す。
 この春に大怪我をしたブランは、まだ足に包帯を巻いたまま。といっても状態はかなり良くなったらしく、杖を突きながらなら、ゆっくりと歩けるようになったらしい。
 それでも、この状態で遠くまで歩くのは大変だ。けれど……荷車に乗ってなら。それならば負担も少ないだろうし、一緒に行けるだろうと踏んだのである。
「ミネリーさんも、こちらへどうぞ、です」
 リュートを抱えて出てきたミネリーにも、同じように荷車に乗るよう勧めて。メルヴィルは、子供達の様子は自分達に任せて、今は演奏の事だけを考えて下さいと微笑む。
「じゃあ行きましょうか」
 ラジスラヴァは荷車の残りスペースから、更に乗れそうな人数に見当をつけると、幼い子供達を中心に順番に乗せ、皆に出発を促す。
 そして自らは、はぐれてしまう子供がいないか注意するため最後尾に立つと、プワゾンの村に向けて歩くのだった。

●森に巣食うグドンの群れ
 先行してプワゾンの森に向かった面々は、グドンの居場所を探り動いていた。
「向こうから来ているようだな」
 シャンナと手分けし、獣達の歌で森にいた動物達から話を聞き、情報を集めていたメイムは、その結果からそう判断した。グドンは何ヶ所かで目撃されていたが、戻って行った方向は、どの動物の証言も同じ方角……北西と答えていたから。
(「足跡が向かう方向から、ねぐらの場所を割り出せるかもしれない」)
 千牙・ティム(a12812)は足元に視線を巡らせると、グドンの痕跡を探す。グドン達は食料を探しに出かけ、そして食料を得たあとは、ねぐらに戻って行くはずだから……と、そう考えて。
(「これは……」)
 丹念に地面を探していたティムは、やがて一つの足跡を目にして動きを止める。子供の物に似た無骨な足跡……それはグドンの物だと思われたから。
 ティムは皆にそれを知らせつつ、辺りを確認しながら、ゆっくりと足跡を辿って進み……そして、やがて辿り着く。雨風を避けるかのように、大きな木の下に陣取った、グドン達の元に。
「……ウウウゥッ?」
「ガルル、グルルルルッ」
 冒険者達は、グドンのねぐらを取り囲むと、一気に一網打尽にしようとするが……だが、相手の存在に気付いたのは、冒険者達だけではなかった。グドン達も冒険者達の存在に気付くと、唸り声を上げながら近付いて来る。
「仕方ないね」
 煉獄より生まれし黒炎の牙・ヒリュウ(a12786)は両の拳を握ると、身構えてグドンの初撃を受け止める。――今の攻撃は、避けようと思えば避けられない攻撃ではなかった。けれど、あえて避けるのではなく、攻撃を受け止める事を選んだのは……避ければ、すぐ後ろに生えている木が、傷付くのは間違いなかったからだ。
「折角の音楽会、成功させたいもんね」
 その為には、ただグドンを倒すだけではいけない。森に被害を出さないようにする必要があるから……ヒリュウはそれを第一に考え、グドンの攻撃を己の体で受け止めつつ、適座反撃に出てグドンを押し返す。
「院長も、随分と楽しみにしていたからな」
 風と踊り大地と歌う者・トトノモ(a08672)も、周囲に被害を及ぼさないよう、細心の注意を払いながら、迫るグドンをレザーグローブによる衝撃波で牽制する。
 彼らがグドンの動きを牽制している間に、ティムとシャンナはグドンを挟むような位置に立つと、それぞれ眠りの歌を紡ぎ始める。ゆったりとした歌声が辺りを包み……グドン達を、心地よい眠りへと誘っていく。
「グル……!?」
 一匹、また一匹とグドンが崩れ落ちていく一方。歌声に誘われる事なく正気を保ったグドンは、起きた異変に気付いてか、一歩二歩とジリジリと後退する。
「逃がさないよ」
 そこにヒリュウが詰め寄ると、足を振り上げ、連撃蹴を叩き込む。次々と素早く繰り出される足技の前に、グドンは逃げる事も出来ず……ヒリュウの足がゆっくりと下ろされるのと同時に、グドンはその場に崩れ落ちていく。
「血で穢す訳にはいかぬからな」
 メイムは持参したロープを取り出すと、眠りに落ちたグドン達が目覚めぬうちに、手早く縛り上げていく。ここが森の外ならば、このまま一掃してしまっても構わないけれど……ここでグドンに止めを刺せば、辺りは血に染まり、その香りが周囲に漂うのが目に見えている。
 それでは、音楽会が台無しになりかねない。
「手間はかかるけど、仕方ないだろうな」
 ティムも頷くと、グドンを手早く縛り上げ……そして、冒険者達は手分けをしながら、協力してグドンを全て、森の外へと連れ出すのだった。

●夕暮れの森の音楽会
「特にこれって異変は無さそうだけど……先に行って確認してくるよ」
 やがて、子供達と共にプワゾンの町近くまで到着したヤイチは、遠眼鏡を通して確認するだけでは森の状況が分からないから……と、念の為に、一人先行して森の様子の確認に向かった。
「あ、ヤイチさん」
 その町の入口では、彼らの到着をシャンナ達が待ち受けていて。彼女らの口から、グドンは無事撃退できた事を聞く。
「ティムさんが今も森の中を見回ってますから、もし何かあれば連絡があると思います」
 ならば危険は無いだろう、とヤイチは踏むと、皆の所まで早足で戻り。今度は子供達と共に、町の入口を訪れる。
「音楽会も無事に開催されそうね……良かったわ。皆さん、ありがとう」
 リュートを抱えて荷車から降りたミネリーは、心から安堵しながら、冒険者達に嬉しげな笑みを向けた。

 そして、やがて準備は整って……プワゾンの森で、音楽会の幕が上がる。
「この鷹は、お嬢さんの子だろう?」
 最初の演奏が始まる直前に、森に現れた老婦人……ジェリンが連れていたのは白き鷹。その姿を見たシャンナは、すぐにハッピーへと手を差し伸べる。
「出かけようと森を出て、街道を歩いてたら、その子が飛んで来てねぇ。驚いたよ」
 笑みと共にそうシャンナに告げると、ジェリンはミネリーのいる、演奏者控えの方へと歩いて行く。
「そろそろ演奏が始まるだろう。皆、座ってはどうだ?」
 メイムはそう勧めると、空いていた席を順番に皆へ割り振る。
「ああ、キーゼルさんはそこが空いているな」
 その一環としてキーゼルにも席を勧める……フリをして。メイムが行ったのは……。
「あら?」
「えと……」
 その両隣に、同様にメイムに勧められて着席したのはシャンナとメルヴィル。ついでに言えば、何故かこの三人だけ、他の皆とは少しだけ席が離れていて……。
「……やられた」
 苦笑しながら小さく呟いたキーゼルの声は、ちょうど始まった最初の演奏にかき消された。

 森に響く音色は、とてもとても美しかった。それぞれの演奏者の、それぞれの音色が森に包まれながら広がって……ミネリーがここに拘っていた理由が、音楽の心得の無い者にも、なんとなく分かった。
「あ」
 やがてミネリーが客席の前方に現れ、リュートを構えながら微笑むと、ピンと弦を爪弾く。澄んだ、けれど深みのある音色が、ゆったりとした温かい曲を奏で……耳を傾ける者達を包む。
「こういうのは初めてだけど……いいもん、だな」
 近くの木にもたれ掛かり、演奏を聴いていたティムは、ほうっと感嘆の息を漏らしながら小声で呟く。音楽会、だなんて、今まで体験した事も無かったようなイベントだけれど……宴で歌い騒ぐのとは、また違った良さがあると、そうティムは思う。
「さぁ……」
 そんな中、子供達にそっと声を掛けたのは、すぐ近くの席にいたラジスラヴァだ。彼女の言葉に、子供達は心なしか顔を輝かせると……そっと席を立つ。それぞれの手に楽器を抱えながら。
 ラジスラヴァが考えた事、それは音楽会への飛び入り参加だった。子供達も一緒に参加できるように……と考えて、子供達へと伝えた提案に、盛り上がりこそすれ嫌がった子供は誰もいない。
「さ……」
 舞台脇に移動して……ラジスラヴァの合図と同時に、子供達は舞台に出ると、それぞれ手にした楽器を奏で始める。リュートにトランペット、横笛にオカリナ、カスタネットにハーモニカ……それらはメルヴィルが用意した楽器だ。
「まぁ……」
 子供達の登場に、ミネリーは心から驚いた様子で息を呑み……「まぁ」と笑みを零すと、そのまま演奏を続ける。
「では……」
 更にリュートを手にしたヤイチや、笛を手にしたメルヴィルも加わって。皆で一緒に同じ曲を奏でる。
「……この演奏が、手向けの鎮魂歌になるといいけど……」
 そんな彼らの演奏を、会場から離れ、森の外で聞いていたヒリュウは、手を合わせると祈るように呟く。
 彼の足元には、広範囲に掘り返された土のあと……そこは、先程グドンが埋葬されたばかりの場所だった。

 そしてミネリーたちの演奏は終わり……やがて、音楽会は何事もなく、無事に終わりを迎えた。
 一行は帰路につく準備を整えると、眠りに落ちつつある子供達を連れて、孤児院へと帰る道を行く。
「今日は、とても楽しかったわ……」
 そんな子供達の姿を見つつ、ミネリーは柔らかい表情で目を細めて。とても満足そうな様子で荷車に揺られるうち、やがてゆっくりと瞳を閉ざした。
「……母さん?」
 ふと発せられたその声に、応えることの無いまま――永遠に。


マスター:七海真砂 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2004/09/30
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重傷者:なし
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