キィルスの誕生日〜弦の響きに誘われ



<オープニング>


「そういや、お前誕生日9月やったな」
「……良く覚えてたな。自分のは忘れてた癖に」
「こないだの運動会あったやろ。あの組分けで覚えとったわ」
「お前……」
 冒険者の酒場。キィルスとレィズは大体いつも一緒に酒を酌み交わしてはたわいもない世間話、時にボケツッコミを交わす腐れ縁。
 そう、キィルスの誕生日は9月14日。今年で28歳。三十路への道をまっしぐら。
「28歳、おめっとさん。何かお祝いしちゃろか? ぱーっとパーティでも開くで?」
「一言喧しい。パーッと……なぁ。此処じゃ無い場所、なら」
「へ?」
 キィルスが見せた一通の手紙。それは、とある村の祭りの招待状だった。


 昔々、ハメルの村でネズミやネコやイヌが大量に発生し村人達が大変困った事件が起こった。
 しかし、ふらりと現れた旅の吟遊詩人がリュートを奏で歌を歌うと傍若無人に村を荒らしていた動物達は彼の歌に耳を傾け、素直に言う事を聞いて村より去っていった。
 ハメルの村に伝わる物語。昔恐らく冒険者が獣達の歌で村を救ったと言う事であるが、村人はこの逸話より、その事件の起きた9月の半ばに感謝の意味を込めて祭りを行うようになった。
 犬猫や鳥・兎などの野良動物を近隣より集めて村に放し、その年選ばれた者が楽器を奏でて村を救った勇者の役を演じ、昔の事件に思いを馳せて今の無事を喜び祝う、と言うもの。
 動物達はそのまま希望する者に里子に出す為、飼い主希望者が祭りの見物に来る事も多いらしい。
 そして、その村は何年も前にキィルスととある縁があった。そして、その頃を知る村人は彼に今年の勇者役をお願いしてきたのだ。彼の得意な楽器演奏を、と。


「で、行って勇者役のキィルスを冷やかしつつ、祭り楽しんで、ついでに奴の誕生日を打ち上げパーティで祝おうという一石三鳥な訳や」
 レィズは酒場に集まっている冒険者にそう話をする。
「冷やかさなくて良いさよ! まぁ、演奏っつってもギターソロなだけだけど」
「俺唄ってもエエけど?」
「やかまし。……というか、あの村にはちょっとした思い出もあるから、な……」
 最後の方はボソッと聞こえない声で呟くキィルス。その部分が聞き取れなかったレィズは構わず説明を続ける。
「当日、村には仰山のイヌネコウサギが足下彷徨いてる筈や。昔話と違ごうて悪さはせぇへんから可愛がってやってくれな。気に入った子がおったらそのまま連れ帰って構わへん」
 沢山のイヌネコウサギ。その話に動物好きの目が輝いた気もする。
「一応、祭りのメインは街の中央広場での演奏。ま、ちょっとした儀式みたいなモンやな。それが終わったら宴会や。キィルス囲んでパーッと行くで、パーッと!」
 どう見てもパーッと行きたいのはキィルスよりレィズな気もする。
「ところで、その村と縁があるって言ってたけど?」
 誰かがキィルスに問いかけると、彼はええと、と少し言葉に詰まり苦笑してから答えた。
「ガキの時に、ちょっとだけ滞在……と言うか住んでた時期が、な。一人前になるまでは一カ所に留まる事が無い暮らししてたから。親が傭兵だったしな」
 練習の為にギターを手にとって、キィルスはハメルの村に思いを馳せる。幼い日の記憶と、そしてこれから皆で作る楽しい一時とに。

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参加者
NPC:紅き柘榴の翼剣・キィルス(a90077)



<リプレイ>

 ハメルの村。既に村では各地から集められた小動物がウロウロする姿が散見される。
「ちょっち、名残惜しいですが……」
 旅団で増えた兎を提供する規矩なる錬金術師・フェイルティヒは香水茅・シトラに目配せした。
「はーい、兎さん追加入るよー」
 彼女が籠を開け放つと兎達は一斉に何かに向かって走り出した。
「あれ? 兎さん達一斉に何処行くの!?」
 訳解らず兎達追いかけ出すシトラ。場にはフェイル一人がポツンと残る。
「……いきなり取り残されましたねぇ。どうしましょうか……」
 涙目なのは、多分気のせい。

 一方村中心近くの広場。キィルスの周り集まる人だかり。
「キィルスって、あたしより年上だったんだ……」
 何かショック受けてる闇狐・サルヴィナ。紅ノ牙・アレキサンダーも頷く。
「実は同い年位だと思ってたんですけどね」
「俺より一歳年下なだけだったんだな。そのツラで28は反則だろ……」
 蒼獣鬼・イザークも煙管吹かしつつ言う。散々な言われ様にキィルスも苦笑する。
「……俺、そんなに幼く見えるかねぇ?」
「若作り……いや冗談だ。月日の経つのは早ぇよなぁ」
 三十路一歩手前の野郎共、何故か遠い目。蒼の閃剣・シュウはキィルスの肩叩いて励ます様に、
「ま、男は28歳くらいからが良いんだって……なぁキィルス?」
「ふ、来年はそっちの番さよシュウ」
「それは言わない約束」
 引きつった笑みにシュウも苦笑して答える。
「でも二十台ならまだめでたいですよね?」
 闇夜のパヴァーヌ・シェントはニコッと笑って言う。レィズもウンウン頷いて同意。
「俺等ドリアッドと違って歳取る喜びとかあってもエエやん。生まれた事に感謝やね〜」
 そこにドリアッドの少女が走って来、レィズに突然抱きつく。
「レィズ、久しぶり!」
「ほぇ!?」
 誰かと首傾げるレィズ。少女=妙音媛・アールタラは笑って言う。
「アールタラだよ! 依頼から帰ってきて、寝て起きたら大きくなってた! びっくりした? アルも驚いた!」
「な!? アルやったん!? 急に大きくなってもぉて」
 先日レィズが出した依頼を受け、その経験が彼女の心、そして外見をも成長させ、11歳から17歳に外見を変化させたのだ。
「キィルス初めまして、アルって呼んで! レィズの友達ならアルも友達になれるよね!」
「ああ、宜しくさよ、アル」
 求める握手にキィルスも笑って応え。
 次にやってきたのは鍋、ではなく深閑なる錬金術師・ティーフェ。
「めでたいですのー♪ これをお祝い代わりに差し入れですのー♪」
 持ってきた鍋一杯の金平糖を見せるティエ。中には何やら婚姻届用紙も混ざってる。
「ん、何か紙が……」
 キィルスが埋もれる用紙に手を伸ばした時。
 どどど……!
「キィルス発見ー! 鍋も一緒に発見っ!」
「鍋だー! 鍋は敵ー!」
 加密爾列・アンゲリカと兎追ってたシトラ、目標発見と同時に突撃、兎と共に鍋に総攻撃開始。
「はいはい、鍋には蓋ですねぃ♪」
 銀月の散歩者・レノリアもさり気なく鍋に蓋をして準備万端。
「迷わず鍋ぶれいくっ!」
 アンゲの対鍋専用ゴォルデンハンマァが唸る! 鍋、粉砕。
「酷いですのー! は、婚姻届用紙は無事ですの?」
「無事じゃないみたいですよん」
『めぇぇぇ〜』
 レノが指差す先、通りすがりの山羊達が鍋に群がり金平糖と紙を食っている図。
「くすん……大人しくこの錬金術の粋を結集した全ペット向け餌で動物達を大人しくさせるとするですの……」
 寂しそうなティエの頭撫で、キィルスは動物の集まる広場へ皆と移動した。


「小動物なあ……」
 動物達を前に、探検隊隊長・ワイドリィは苦い顔をして悩んでいた。
「嫌いじゃねぇんだが、なんか昔っから俺は動物に嫌われるんだよなぁ」
「大丈夫、獣達の歌でお話して仲良くなるの〜」
 陽光の後胤・ナルが元気づける様に言い動物の輪の中に入るが、ワイドリィは躊躇する。
「気のせいか、今も此奴等みんな、何か睨んでる様な……ほら、怖くないからそんなに警戒すんな、おい……」
 次の瞬間。ワイドリィは一斉に犬猫の襲撃に遭う。合掌。
「動物と戯れる方、やはり多いですね」
 楽風の・ニューラはその様子を見つめしみじみと呟く。彼女は獣達の歌で通訳業。里子見つけに来た人々のお手伝い。暴れる動物は眠りの歌でお休み♪
 他、アレクは懐かれすぎて犬猫に覆い尽くされ、フェイルも白衣がついた餌の匂いで囲まれ身動き取れない。
 ストライダーの忍び・シンマや漆黒の魔剣士・シュウは普通に動物達と戯れている訳だが動物王国もびっくりな賑わい振り。
『にゃー♪にゃー♪にゃーん♪』
 コーラスの様な猫の鳴き声。見ると幻月の陽炎・クローディアが獣達の歌で色んな音程の猫を集め調教中。
「頑張って下さいね、猫ちゃん達。そしてルシエラ♪」
「うん、ルシエラの音楽隊だよー♪」
 星影・ルシエラも猫尻尾ふりふり、猫音楽隊の指揮を執る。
「考えはったなぁ……猫コーラス隊やなんて」
 クローディアに頼まれレィズも一緒に手伝い。演奏時に村に伝わる歌を一緒に歌ってプレゼント、という訳だ。
「むぅ、お猿さんはいないのね」
 ナルはちょっと残念そうに周囲見渡し、キィルス見つけて声かける。
「ねね、キィルスはこの村にどんな想い出あるの?」
「ん、ああ……」
 突然聞かれて苦笑い。紅き剣閃・ルティスも興味深そうに問いかける。
「親が傭兵だったのよね? この村にはどのくらい滞在したのかしら?」
「あたしは冒険者になるまで島を出た事なかったから、色んな所回ってたキィルスは凄いと思うの。色んな話、聞かせて欲しいな」
「そうさね、この村じゃ……」
 何故か哀愁漂わせつつ語ろうとしたその時。
『わわんっ』『ふにゃーっ』
「のわぁっ!?」
 突然動物達に群がられ潰されるキィルス。獣達の歌でけしかけた張本人、銀露の伶人・レントが彼方で腹抱えて笑ってるのが見えた。


 広場に設営された特別ステージ。もももの紋章術士・アレスは村人と共に準備を手伝っている姿が見える。警備も兼ねているらしい。
「小動物を鎮めて村から連れ出した勇者様、ねぇ」
 朽澄楔・ティキはキィルス見つめながら呟く。
「キィルスが勇者役つーと音楽で魅惑してメロメロにしてお持ち帰りしちまう『小動物』ってーのに違う含みを感じて――」
「ティキ……?」
「イエ、ナンデモナイデス」
 ジト目で問われ、誤魔化すティキ。其処にひょいとシュウが現れ。
「頑張れ〜勇者様〜♪ しっかり楽しませて貰うよ」
「勇者役に呼ばれる程の腕前、堪能させて貰うよ。で、耳から手を離してくれ」
 二人はキィルスにそう告げると騒ぎながら客席に向かう。
 人々が集まった頃、司会の青年はキィルスに向かい一礼して言う。
「勇者様、その楽器の奏でる歌で動物達をお鎮め下さいませ」
 これは村の祭りの儀式。キィルスは小さく頷きギターを構える。
「キィルスさん、演奏がんばですのっ!」
「動物も思わず聴きいってってしまうような演奏……楽しみにしてるから、キィルスも頑張って」
 ティエが、ルティスが応援の言葉をかける。笑みで返すと彼のギターは音を奏でだした。
 最初は静かで長閑な曲。次に続く数曲はポップでリズムカルな演奏。ノリの良さに刺激されたか皆身体動かし踊り出す。
「れっつだんしーんぐ♪」
「踊りますよ!」
 レノリアは軽やかに台に踊り上がり、続くアレクは足もつれコケる。
 多くの村人達も軽やかに踊り、つられた動物達も足下でコロコロ転がる。
 一人の村娘がキィルスの前に躍り出る。目を潤ませもじもじと遠慮深く彼女は問う。
「勇者様、私も一緒に参加させて下さいませ」
「――ん、構わないさよ。ほら、皆と一緒にどうぞさね」
 わざわざ許可必要無いのに。思いながら彼は演奏に集中し、そして一曲終わらせる。
「また解らなかったね♪」
 村娘がジュースを彼に渡す。改めてその顔見て驚くキィルス。清麗なる空牙の娘・オリエだったのだから。
「ひっかかったぁっ!」
「ふふ、このまま演奏する音楽にのせて即興で踊りいかせてもらうよ?」
 悔しそうな表情しつつキィルスは再びギター弾く。今度は村に伝わる歌。伝承の勇者が伝えたとされる曲はアップテンポで激しく。
『♪鳴け 蒼き遠き空に向け 響け 大地の向こうまで』
『♪にゃにゃ、にゃーにゃななー』
 ルシエラの猫声楽隊が合わせて歌い出した。曲に合わせ揺れる尻尾が愛らしい。
 歌の得意なクローディアとレィズも声を高らかに響かせる。レントもテナーのハモりを入れ、村人達も一緒に歌い出す。
 イザークの笛が、アレスのハーモニカが入り、打楽器や笛の音が曲に加わる。
 豪華な演奏となり、曲は賑やかに終わる。巻き起こる拍手。観衆も演奏に加わった者も惜しみなく拍手を贈り、キィルスは嬉しそうに皆に向けて一礼した。
 演奏も終わり皆が宴会場に移動する中、キィルスに司会の青年が親しげに声を掛けた。
「例年にない演奏だったよ。キィ、良い友人持ったね」
「本当に……。セイ、レティにも聞こえたかな」
「ああ、妹は喜んでるよ。キィが来てくれて、演奏してくれた事に」
 青年は静かに笑った。キィルスに招待の手紙を出したのは彼。9月14日は二人の大事な人の、特別な日でもあったのだから……。


『キィルス、誕生日おめでとう〜!』
 皆が一斉に唱和する。流石にキィルスも照れて顔を赤くしている。
「しかし見た目コレで28っちゅーのは詐欺か犯罪だろ」
 タダ飯目当てで宴会に参加しに来た黒錐槍・トールは酔いながら言う。
「もう年齢疑惑否定するのは諦めたさよ……」
「ま、誕生日おめっとさーん♪ プレゼント忘れたんだよなぁ。えーっと、果たし状でも良い? もれなく剃刀も――」
「んな物騒なのいらんっ!」
「ちぇ、つまんねぇの。それじゃ折角来たし食いだめしていくぞー」
 次にワイドリィは酒を手に声かける。
「持ってる中で一番いい酒を持ってきたぜ。飲るよな?」
「勿論♪」
 二つ返事で了承するキィルス。黒氷歌姫・フブキも楽しそうに笑む。
「さぁーって、唄って踊って飲みますわっ♪」
「めでてぇ時にゃこれに限る」
 イザークも一緒に杯を交わす。アンゲリカはキィルスの杯に酒を一杯注ぎ絡み出す。
「キィルス、プレゼント使ってくれてたな〜。嬉しいぞ〜」
 そんな彼女をフブキはフールダンス♪で踊らせる。彼もまた酔ってます。
 うわばみニューラは悪酔いしそうな人から酒を奪って飲みつつ酔い覚ましのカモミールティーも準備。
「お料理いきますよ〜」
 木陰の医術士・シュシュがフォーチュンフィールド展開させながら大きなケーキを運んできた。厨房を借りて一生懸命作っていたらしい。
「うわぁ、綺麗な深紅……」
「イメージ色で作った石榴のムースとゼリーを使った深紅のケーキですよ」
 早速切り分けて一口。甘酸っぱい味が口一杯に広がる。美味。
 シンマも山羊の乳で作ったチーズを振る舞い、サルヴィナが恐ろしくでかいプリンを運んでくる……?
「お祝いにバケツプリンを!」
 バケツサイズ。8Lは有るだろう。思わずキィルスも顔が引きつった。
「キィルスさん、主役なんだからもっと食べて! さぁ、飲んで!!」
 エプロン姿で給仕していたアレクが促す様に巨大スプーンを差し出す。此処はフードファイト会場ではありません。
「嬉しい、さよ。流石に一人じゃ無理だから皆で食おうか」
「ああ、そうしようか。色々世話になって、ありがとな。その、感謝、してるんだぜ?」
 照れ笑いして目を逸らすサルヴィナ。そこにナルが小さな箱をキィルスに差し出す。
「えっと、これ誕生日のプレゼントv」
 中には赤い石のピアス。覗き込んだレィズは感嘆の息漏らす。
「柘榴石と紅玉……左右石違うんやな」
「流石なのね、レィズ。あと、あったかパジャマv 夜はお腹冷やしちゃダメなの」
 渡されたパジャマはパンダ柄。非常に可愛らしい。
「これから寒くなるだろうからねぇ……はいこれ」
 そう言ってシュウが渡したのは――腹巻。皆、イイ歳こいたヘソ出しファッションを見て選んでますか、ねぇ。
「まぁこれだけじゃなく冬服も見立てては来たけどね」
「この格好の上に腹巻だと情けなくて涙出るさよ……」
 他にあると聞いてトホホな表情でキィルスは呟いた。
「私からは柘榴と同じ深紅のマフラーです。すぐに風邪が冷たくなると思うので……」
 シュシュからのマフラー、ふんわりして暖かい。
「やっぱりキィルスには赤が似合うわね♪」
 クローディアが渡すのは真っ赤なブライアーローズの花束。取っては台無しと棘処理はしてない物で。慎重に受け取り綺麗な花をそっと愛でた。
 ニューラからは銀のピック型のペンダント。鎖は邪魔にならぬ様に太く短め、裏には花模様が刻まれて。
 アレスからは木製のオカリナ。いつどこでも演奏が出来る様に。
 さて、魂の現場監督・バートランドは何やら巨大な丸岩を中央に転がしてきてからキィルスに声かける。
「28か……俺がそん位の時にゃもう上のガキがヤンチャしてた頃だ。お前さんもボチボチ身ぃ固める相手とかいねぇのかい?」
「えっ……?」
「へへ……此奴は余計なお世話だったな。良し、野郎共行くぜ!」
 27本の楔打ち込まれた岩。あと一撃で砕けそうだ。
『Break out!!』
 仲間と共に一斉に唱和し、岩に打撃加える。割れた岩の中から出てきた木箱。中を開けると一振りのレイピアが。
「馴染みの鍛冶屋に頼んだ特注品だ。大事にしてくれよ?」
 派手な余興と贈り物。思わず顔が綻んだ。
「アルからはこの歌がプレゼントっ!!」

♪彼方の虹に 夢を紡いで 響きは遥か へ届けと……

 アルの歌声は繊細且つ透明で。皆が聞き惚れ歌に乗る。
 最後の〆にレントの指揮で皆で誕生日を祝う歌を合唱する。

♪はっぴばーすでぃ とぅーゆー

 楽しい誕生会。夢心地の時間が流れていった。


 宴も終盤を迎え。大分静かになった頃。
「れ〜ずぅ〜きぃるす〜……Zzz」
「風邪、ひくで」
 レィズはアールタラを抱えあげるとまだ呑んでたイザークと目が合う。
「可愛え猫やな。懐いてん?」
「いや、気が付いたら膝の上に寝ててな。気に入られたらしい」
 その頃、アフェクトゥスの蕾砦・シエヌは酒を手にキィルスに近づき声かけた。
「やほ〜キィルス、お祝いにきたよん♪」
「お、来てたんだ?」
「演奏も見てたよ。プレゼントと言ってもお酒だけどね。好きな種類解らないから一杯持って来たんだ」
「そいつで二次会でもするか。場所、移動して」
「うゆ?」


 シエヌやナル等と一緒に、村の外れに赴くキィルス。
 季節外れのガーベラが咲く中に小さな墓が一つ。
「今年も祭りは盛況だったさよ、レティ」
 墓石に酒を少し掛け、静かに微笑むキィルス。
 かつて愛し、そして守れなかった少女。
 大事な者を護る力が欲しくて冒険者になった。
 それが10年前。そんな彼の原点が、此処。

『キィ、幸せ?』

 ああ、幸せだよ。沢山の友が側にいるから。

 9月14日。キィルスの誕生日、そして彼女の命日。


マスター:天宮朱那 紹介ページ
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