ドングリと小さな掌



<オープニング>


 二つの小さな人影が、どんどんと森の中に入っていく。それは年端も行かない二人の子供だ。五、六歳ほどの女の子が、それよりさらに頭半分程背の低い男の子の手を引いている。女の子は空いたもう片方の手に、小さなバスケットを下げている。
 その森は二人の家から程近い所にあり、二人にとっても良く知っている場所だ。
「フィおねーちゃん、ドングリいっぱい拾えるといいね!」
「そうだね、いっぱい拾った方がおかあさんも喜んでくれるよね。エニ、おねえちゃんの手を離しちゃダメだよ」
 笑い声を立てながら、二人は木漏れ日が指す森の中の道をテクテクと歩いていく。そして森の奥に姿を消した――


「子供たちが帰ってこないんです」
 女性が一人、冒険者の酒場に駆け込んできた。顔は青ざめ、髪は乱れている。
「まぁまぁ。お茶でも飲んで落ち着いてください」
 女性はヒトの霊査士・リゼルが勧めた茶を素直に受け取り、口をつけた。
「熱っ」
「あらら、熱かったですか?」
 すみません、猫舌なもので……と女性は苦笑を浮かべ、落ち着きを取り戻した所で状況を話し始めた。
「森へ遊びに行ったっきり、二人の子供が帰ってこないのです。子供はフィラーレとエニールと言います。二人が遊びに行った森は普段から良く遊びに行く森で、奥深くにまで足を踏み入れなければ危険な所ではないはずなのですが……」
 話している間に感情が高ぶってきたのか、女性は再びハンカチで目頭を抑えた。
 リゼルは女性……つまりは子供たちの母親から、子供たちの身の回りの品を受け取る。
「……崖の下に、幼い女の子と男の子の姿が視えますね」
「子供たちは無事なのですか!?」
「ええ、今のところは。目立った怪我もないようですよ。崖の周りには、随分と立派な……いや、巨大なブドウの木が生えていますね。蔓や葉がイヤな感じに蠢いています。二人はこのブドウの木から逃げようとして、崖から滑り落ちてしまったのかしら」
「た、大変! 今すぐ助けに行かないと。場所はわかりませんか!?」
「落ち着いてくださいって。ささ、椅子に座って」
 興奮して立ち上がった母親を再度椅子に座らせると、リゼルは冒険者の方を見た。
「このブドウ、近づくと実を飛ばして攻撃してくるみたいね。実の大きさはこれぐらいあるかしら」
 リゼルは両手で、子供の頭ぐらいの大きさの球を作る。
「崖は斜面になっているから、ブドウを何とかすれば子供たちは助けられそうね。それじゃみんな、よろしくね」

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参加者
紅き紋章を描きし乙女・ショコラ(a02448)
調和詠ずる司祭・フィラーゼ(a07184)
独眼の重騎士・ウラジ(a07935)
紅虎・アキラ(a08684)
煌く銀砂・グラリア(a09339)
蛍の守護騎士・ジーク(a10348)
元気でのんきな三毛狐・ミリュエール(a11212)
絆を求める巫女姫・スイ(a13578)
紫空の凪・ヴィアド(a14768)



<リプレイ>

 姉弟が遊びに行った森は、木漏れ日が降り注ぐ明るい森だった。色付き始めた葉が所々の地面を覆っている。時折、鳥の嘶きと木々のざわめきが聞こえるが、それ以外の物音は聞こえない。至って平和だ。
「平和だね……でもこの森のどこかで二人は助けを待っているんだ。早く助けてあげなくちゃ!」
 煌く銀砂・グラリア(a09339)の言葉に、調和詠ずる司祭・フィラーゼ(a07184)も頷いた。
「そうですね。それに、女の子はボクと似た名前なんですよ。何となく親近感を覚えますね。頑張りましょう!」
 光差す森の中に、冒険者たちは足を踏み入れた。

●気が付いたら崖の下にいたんです
 巨大なブドウの木が、一行の行く手を遮る。葉は不自然に揺れ、時折たわわに実ったブドウが顔を覗かせる。事前にリゼルからその大きさの程は聞いていたが……話に聞くのと、実際に対面するのではまた違う。大きい……直撃したら、ただでは済まなさそうだ。それに辺りには、熟しきったブドウが放つ饐えた匂いが立ち込め、ブドウの実の直撃を受けたら精神的にもダメージを受けそうだ。
「食欲の秋らしく、ブドウ狩りと行きたい所ですが……そう楽には狩らせてもらえなさそうですね」
 天使のち時ドキ小悪魔・ショコラ(a02448)は眉間にしわを寄せる。
「子供たちの命が掛かっているからな……リラックスするのもここまでだな」
 吹き抜ける風・ジーク(a10348)は真剣な顔付きで、前方で蠢くブドウの木を睨め付けた。先程まで、ショコラやお気楽極楽冒険者・ミリュエール(a11212)ら女性陣に、「こんなに可愛い子と一緒に仕事ができるなんて、ツイてるね俺は」とか、「本当に可愛いぜ? 何分嘘は嫌いな性質でね」と、満面の笑みで賛辞を述べていた人物とは別人のようだ。いやいや、それだけ気合が入っているということだろう。
 その巨大な実の向こうに、崖が見える。子供たちはあの崖の下にいるのだろう。交戦状態になれば、ブドウの実が子供たちの元にも届くかもしれない。葉や蔓の攻撃範囲も定かではない。そこで冒険者たちは隊を二分し、ブドウの木の駆除と平行して、子供たちの無事を確保することにした。
「こんなに大きゅうて甘そうなブドウを駆除せなならんとは、勿体どすなぁ……でも、子供たちの救出が第一どすえ」
 ブドウ駆除を担当するミリュエールは、ブドウの実が飛んでくる所が早く見たくて、ワクワクしながら攻撃の時を待っている。熟れ過ぎ成長し過ぎなブドウも、ミリュエールの目には素晴らしいデザートに映っているようだ。
「そうや。フィラーゼはん、これ持ってっておくれやす」
 ミリュエールはバックパックから陶器の入れ物を取り出し、フィラーゼに手渡した。
「これは?」
「子供たちの母親から預かった栄養満点のスープどす。子供たちはお腹を空かせてるはずどすえ」
 力強く微笑むミリュエール。フィラーゼは大きく一つ頷くと、それを胸に抱えた。
「援護を頼むぞ」
 独眼の重騎士・ウラジ(a07935)の言葉に、紅虎・アキラ(a08684)と自由の具現者・ヴィアド(a14768)も任せておけ! と胸を叩く。
 仲間の顔を一瞥し、日溜りの中の巫女姫・スイ(a13578)は、リングスラッシャーを出来る限り作り出した。その後ライクアフェザーを使い、ブドウの間隙を突破する準備を整える。
「待ってて……今行くから!」
 スイが大地を蹴った。続いてウラジとフィラーゼが続き、リングスラッシャーたちがブドウに向かって空を滑る。ブドウの木が三人に向かって蔓を伸ばし、実を飛ばし始めた。
 間髪入れず、後陣の仲間たちも飛び出す。ヴィアドがストリームフィールドを展開し、仲間を実の攻撃から守る。羽のような軽やかな身のこなしで、ジークが前線に飛び出すと、グラリアも負けじとブドウの実を避けながら、接近戦を試みる。
「コイツは俺たちが引き受ける、早く行け!」
 ジークが声を張り上げた。

●お顔が怖かったんです、ごめんなさい
 仲間の援護を受け、巨大ブドウの攻撃を潜り抜けて崖の上まで辿りついたスイたち。
「俺が一足先に下りて、子供たちを保護しよう」
 ウラジは手にした槍盾・アダガを地面に突き立て、崖を下り始めた。多少の傾斜がついた森の大地は、ウラジの巨体を支えきるには少々柔らかすぎた。ウラジは結果的にズルズルと滑り落ちる形で、崖の下に降り立った。
 手から滑り落ちたタワーシールドを拾い上げ、ウラジは子供たちの姿を探す。
 二人の子供の姿はすぐに見つかった。二人は崖の下に生える大きな木の根元で、身を寄せ合っていた。
「おお、こんな所にいたのか」
 助けにきたぞ、とウラジが屈み込み手を伸ばすと、男の子……エニールの方がビックリして泣き出した。女の子……フィラーレも真っ青な顔になり、エニールをぎゅっと抱きしめた。
 おいおい、参ったなとウラジが困惑していると、スイそして少し遅れてフィラーゼが崖を降りてきた。スイは泣きじゃくるエニールと、フィラーレを優しく抱きしめた。
「フィちゃん、よく頑張ったね。エニくんもお姉ちゃんを守ろうって頑張ったんだよね。もう大丈夫だよ」
 スイの温かい抱擁に、フィラーレも緊張の糸が切れたのか、ポロポロと涙を零し始めた。
「ロープを縛り付けていたら、遅くなってしまいました。……あらあら、もう大丈夫ですよ。お姉さんたちが助けに来ましたからね」
 フィラーゼは、先にミリュエールから受け取ったスープを小さなカップに注ぎ、子供たちに渡す。子供たちがすんすんと鼻を啜りながらスープに口をつける脇で、フィラーゼは護りの天使を呼び出した。スイもストリームフィールドを展開し、防御を固める。
「さて。上の仲間がブドウを何とかしてくれるまで、俺たちがお前たちを守り抜いて見せるぞ」
 ウラジは鎧進化を使うと、落ちてくるブドウの実から子供たちを守るべく、壁の如く仁王立ちになった。

●ブドウのお化けは怖いです
 三人の仲間が崖の向こうに消えたのを確認すると、冒険者たちは一気に攻勢に出た。
「しゃらくせぇ!」
 アキラは飛んできたブドウの実を、手にした斧で叩き落す。そのまま勢いを殺さず体を返すと、ファイアブレードを木の幹に叩き込んだ。
「植物の分際で、うざってぇんだよ!」
 しかし炎の闘気を制御しきれず、反動で動きが拘束されるアキラ。
「くっ、毒消しの風は!」
「フィラーゼさんが活性化していたはずです」
 後方からショコラの声が飛ぶ。フィラーゼは崖の下だ、アキラは舌打ちをする。
 その隙を待っていたかのように、四方からブドウの蔓がアキラに向かって延びる。蔓がアキラの四肢に絡みつかんとしたその時、グラリアの流水撃がそれらを断ち切り、動きを封じる。
「アキラ、大丈夫?」
「ああ、すまねぇ。ガキどもにピーピー泣かれても困らぁ、とっととやっちまおうぜ」
 アキラは態勢を立て直すと、再び得物に炎の闘気を込め振り上げた。
「お前の実じゃあ……俺のリングには勝てないな」
 ジークが鼻先で笑った瞬間、彼の目の前で、ブドウの葉を攻撃していたリングにその実が直撃、そのままリングは消滅した。
「何! ……ふっ、なかなかやるな」
 盾で飛び散る果汁を防ぐと、更なるダメージを与えるためにジークはスピードラッシュを繰り出す。
「銀狼!」
 後方からは、ショコラが手にしたロッドの先端から銀色に輝く狼が飛び出し、ブドウの木に飛び掛る。
「人に優しくないと、いいワインには成れませんよ!」
 ショコラのすぐ傍では、ヴィアドが幾重もの残像を残しながら得物を振るい、蔓の攻撃から唯一の回復手段を持つショコラを護っている。
「さっさと倒して、ガキを助けてやらんとな! 二人のおかんも心配しとることやし」
「ええ、そうですね」
 蔓からの攻撃が弱まり、少し気持ちの余裕の出てきたヴィアドにブドウの実が直撃する。饐えた果汁が飛び散るのと共に、ヴィアドの体がぐらりと傾く。
「油断してもうた……!」
 片膝をつくヴィアドの背後から、柔らかな光が彼を包み込む。ショコラのヒーリングウェーブは、前方で死力を尽くす仲間の傷もふさいでいく。
「これは、木ぃの根っこを伐らんと終わりまへんなぁ」
 ブドウ本体を叩く仲間の露払いに徹していたミリュエールは、新たに飛んできたブドウの実を一つ、叩き落とす。最初はその勢いに、避けるのが精一杯だったブドウの実も、今では叩き落すことができるほどに威力が弱まってきている。
「一気に決めましょう! 金色に輝く稲妻の闘気よ! 我が覇斧に!」
 グラリアが気合と共に、稲妻をまとわせた愛斧「銀蠍」を振るう。その攻撃に巨大ブドウは一瞬身を震わせ、動きが止まる。そこへ、ジークがスピードラッシュを、アキラがファイアブレードを叩き込む。やがてブドウの木はふるふると力なく葉を震わせ、茶色く変色していった。

●ただいま、おかあさん
 ブドウの木を撃退した冒険者たち、子供たちの無事な姿に口元をほころばせた。
 ロープを束ね直しながら、
「たまたま拾ったロープですけど、実際に役立つ日が来るとは思いませんでしたよ」
 と、ショコラは苦笑を浮かべる。ミリュエールは、地面に落ち、潰れたブドウの実を目の前にへにゃへにゃと膝をつく。
「ああ! これで当分はデザートに困ることはないと思ってたのに……酷いどすえ〜」
 でも成長しすぎた生物は概して大味なもの、これはこれで良かったのかもしれない。
 ジークが子供たちの元にやってくる。
「ブドウのお化けは?」
「大丈夫、もう倒したぜ。怖かっただろ? よく頑張ったな」
 笑顔でそっと頭を撫でる。
 スイとグラリアの二人もやってきた。
「何でフィちゃんとエニくんは森の奥まできちゃったのかな?」
「ん、あのね……」
 フィラーレが持っていたバスケットの蓋を開けた。そこには、大粒のドングリが一杯に入っている。
「ドングリを拾いにきたんだね」
 グラリアの言葉に、うん、とフィラーレが頷く。
「まだドングリ拾っていく?」
 グラリアが尋ねると、ううんこれでいいの、とフィラーレが答えた。
 その様子を見ていたヴィアドは、少しお灸を据えてやったほうがええな、と敢えて怖い顔を作り、二人の子供を覗き込んだ
「お前ら。森の中に遊びに行くのもええけどな、おかんに心配かけたらあかん」
 ジークの腕にしがみつくエニールは、目に涙を溜め、ごめんなさい……とか細い声で謝る。フィラーレはぱっと俯くと頬を膨らませ、口をへの字に曲げた。
 と、ヴィアドの肩がぐいっとグラリアに引っ張られた。
「ヴィアド、怖い顔しないの。二人とも、お母さんの所に戻ったら、心配かけてごめんなさいって謝ろう。そして、とびっきりの笑顔でただいまって言おうね」
「ま、何にせよ無事でよかったな。ほれ、もう泣くなや」
 ヴィアドはエニールの頬を軽く突くと、さぁ行こうでと仲間を帰路へと促した。

 森の入り口まで戻ってくると、そこには子供たちの母親がその帰りを待っていた。母親は冒険者を見つけると、小さく頭を下げた。フィラーレは握っていたグラリアの手をぱっと離し、駆け出した。エニールもジークの腕の中から飛び出すと、二人して母親の胸に飛び込んだ。
「「おかあさーん! ごめんなさーい!」」
 母親は、その胸いっぱいに二人を抱きしめた。
「おかえりなさい」


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参加者:9人
作成日:2004/10/04
得票数:冒険活劇5  戦闘3  ほのぼの9 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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