<リプレイ>
●リト村目指して 依頼を受けた冒険者たちは、音楽会参加者として、リト村に発った。 村に到着するまでの間、心配はやはり、音楽会を襲うかもしれないアンデッドのこと。 「音楽会に出られる方は頑張ってくださいね。私は会場で警備をしながら皆さんの演奏を楽しませていただきますから」 深淵の蒼・イリス(a00824)も演奏をする趣味を持っていたが、今回の音楽会では聴き手に回ることに決めていた。演奏ができないのは残念だけれど、人の演奏を聴くことも勉強のひとつだ。 音楽会は、演奏家にとっても、そうでない人にとっても、良い音に触れる絶好のチャンスなのだ。 「そのせっかくの音楽会がアンデッドに邪魔されるなど……許せん!」 そう息巻いているエルフの吟遊詩人・アミス(a02464)だったが、その顔色はあまりよろしくない。 死者にかりそめの命が乗り移り村を歩き回る……考えただけで怯えてしまう程度には、アミスはアンデッドが苦手だった。 「見回りの時はボクが一緒について行ってあげるからね」 アミスを手伝うためについてきたヒトの吟遊詩人・ニケー(a00301)がそう言ってアミスを元気づけた。
アンデッドが何体残っているかということは、音楽会を左右する。だから、リト村に到着するとすぐに、冒険者たちはアンデッド退治に携わっていた冒険者が休む宿屋へと向かい、その顛末を尋ねた。 「それなら全部片づけたぜ」 デューイはあっさりと答え、それに対する冒険者たちの反応を面白がるような様子で眺める。 「全部というと、4体とも倒せたということ?」 銀の旋律・ミラ(a00839)が念を押すように確認すると、ティエンがくすりと笑った。 「それも2日でね。今日は1日のんびりさせてもらったよ」 「のんびりしすぎて寝てしまっている人もいますけれど」 ヴェノムが指す所では、クァルとジャムがシェンを枕に、折り重なるようにして眠っていた。2日に渡る夜更かしは、子供にとってはこたえたのだろう。枕にされている方のシェンは、やれやれという様子で壁にもたれている。 「大丈夫だとは思っていたが、2日で完了か。なかなかやるな」 ヒトの邪竜導士・サファイエス(a00618)の言葉に、レイアは少しだけ肩をすくめる。 「あまり戦いたい相手ではなかったけどね」 「ともあれ、こっちの役目は果たした。今度はそっちの番だ」 心置きなく音楽会に専念しろとトゥバンに送り出され、音楽会に参加する冒険者たちは舞台となる会場の下見へ出かけた。
●リト村 夜の音楽会 秋の日暮れは早い。 茜に染まった空を紺の闇が性急に覆い、夕暮れを夜へと塗り替えてゆく。 いつもなら消えていく夕焼けを惜しむ心もあるのだけれど、今日は夜こそが待たれていた時間だ。 観客としての村人も、そしてもちろん演奏家として参加する冒険者も、闇色に閉ざされていく空を、そこに見えてくる星の光を見上げる。 そこに、澄んだフルートの音色が優しく流れてきた。最初は聞こえるか聞こえないかの囁きに似た音色。それが徐々に大きくなり。 野外舞台の真ん中に、灯りがともる。 そこではミラが軽く小首を傾げ、たおやかにフルートを奏でていた。何かを伝えようとしているかのような音色に、旅団宝石小箱から手伝いに来ている紫水晶の歌姫・シーラ(a00220)が、バックコーラスを添えた。 歌と演奏となると歌が主役となることが多いが、この曲はミラのフルートが主役で、シーラの歌声はそれを支える密やかな流れ。 バランスを間違えれば曲自体が台無しになってしまう可能性もあるそれを、2人は息を合わせてやり遂げ、聴衆を演奏会へと導き入れた。 続いて、アミスがニケーと共に登場する。 「ボクがリト村のために作った歌だよぉ〜」 アンデッドの脅威から解放されたアミスは、いかにも楽しそうにそう告げた。ニケーは不釣り合いに大きく見えるリュートを小柄な身体に抱え、アミス作『リト村の秋桜とあなたの想い』を弾き始める。
♪同じように冬が来る けれども私に春が来る いとしいけれど〜 哀しいけれど〜 この秋桜よ あなたに届け〜♪
秋に揺れるコスモスと想いを歌い上げると、アミスはぺこりと頭を下げ、ぱたぱたと退場した。 替わって現れたのは、サファイエスとヒトの翔剣士・ヒカト(a02168)だった。 ヒカトの歌うゴスペルソングを、サファイエスのフルートが彩る。軽やかに弾むその音色が、清浄な歌に明るさを添える。 「あの……せっかくだから皆さんも参加してみませんか?」 ヒカトは会場に呼びかけると、簡単ないくつかの動作を教えた。 聴衆はサファイエスのフルートに合わせ、足を踏みならし、手を叩き、音楽会に参加する。 音楽を聴くのも楽しいけれど、音の中に参加するのはもっと楽しいこと。会場には村人の笑い声がわき起こる。 観客席で手を叩きながら、イリスは周囲の村人の様子を眺め、微笑む。 「何も心配なく音楽会を楽しむことが出来て良かったですね」 「そうだね〜」 エルフの紋章術士・カリュウト(a01353)はのんびりと答えて空を振り仰いだ。 すっかり暗くなった空には満天の星。 外での音楽会は室内と比べて音の響きの点では劣るけれど、その代わりに広がりを感じさせる。 舞台で生まれた音は風に乗り、世界へと広がってゆく。 カリュウトは過ぎゆく秋を思い、小さく呟く。 「秋を送り、星を送り、ヒトを送る……別れはいつだって少しだけ切ないね」
「私は楽師というわけではないのだが……」 ヒトの武人・フォルテシモ(a01235)はそう言いながら舞台へと向かった。歌を本職としているのではないが、この月夜の音楽会の彩りに1曲披露するのも良いだろうと。 フォルテシモの衣装につけられたスペードは、彼女が持つ長剣にちなんでのものだ。 「……かつて聞いた戦士を送る歌を」 ぽつりと言うと、フォルテシモは肺に空気を満たし、歌い出した。
……勲高きもののふ有り 剛剣携え 良弓をとり 敏捷な事 豹の如く 勇猛な事 虎にも勝れり されど今 いくさの庭に 剛剣は折れ 良弓は矢尽き その身は首身分たれ 原野に棄てらる 今はただその名を惜しみ哀しみを謳え せめてその死が安らかであるように せめてその死が安らかであるように……
それは、最期まで戦いの中にあった武人に捧げる歌。 フォルテシモのハスキーヴォイスが歌に陰影を与え、目の前に死に行くもののふがあるかのように思わせる。 歌い終えたフォルテシモは、しんと静まっている会場の様子に、苦笑を漏らした。 「……音楽会で歌うには辛気くさい歌だったか」 が、その言葉の終わらないうちに、会場は大きな拍手に包まれたのだった。
緑と白を織り交ぜた清楚なドレスを身に纏い、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)が舞台に現れる。 アンデッド退治はもう片方の冒険者が成し遂げてくれると信じ、音楽会に専念したため、その衣装も考えつくされたものだ。 ちりん…… 両腕につけた鈴を鳴らすと、ラジスラヴァはアップテンポな恋歌を歌い踊り始めた。ラジスラヴァの動きに合わせ、鈴が軽やかな音を立てる。 1曲目が終わりかけた時、ラジスラヴァはドレスを脱ぎ捨てた。その色っぽい動作に会場がどよめく。 ドレスの下からは、花柄がところどころにあしらわれた淡青色のタンクトップに、スリット入りスカート、腕には長くスリットを入れた袖、という衣装が現れた。タンクトップもスカートもシースルーなため、その下につけた緑のビキニが生地ごしに見えている。 衣装替えが終わるのと合わせ、ラジスラヴァは2曲目に移った。今度は先ほどとはうって変わり、遠く戦に向かった恋人への思いを竪琴の音色に乗せ、切々とバラードで歌い上げる。 光を受け、ラジスラヴァの青い瞳はうるんだように輝いた。 最後の曲は、リト村に古くから伝わる素朴な歌。軽い踊りと共にそれを歌い終えると、ラジスラヴァは音楽会に参加した仲間たちを手招きした。 すべての出演者が舞台に並ぶ。 フィナーレは全員での演奏だ。 「アミス様とは共演のお約束をしていましたし、ニケ様とは共演したいと思っていたんですの」 シーラは竪琴を持つアミスとリュートを抱えたニケーの間に入り、嬉しそうに微笑んだ。 「今度は明るい曲だろうな?」 フォルテシモに訊かれ、ラジスラヴァは頷く。 「ええ。同盟諸国を作った先人をたたえる歌を……」 サファイエスのフルートから前奏が流れ。ミラのフルートは伴奏ではなく旋律を、花びらが舞うように奏で。 そして……全員の歌と音が1つに溶け合った。 それが、リト村今年最後の音楽会。最後の曲……。
●レクイエム 音楽会が終わり、人がいなくなり。 しんと静けさを取り戻した会場に、イリスは1人たたずんでいた。 そっと目を閉じ思い浮かべるのは、今回倒されたアンデッドたちや、リザードマンの犠牲になった人、そしてかつてイリスの命を救ってくれた亡き親友……もう2度と会うことのできない人々のこと。 イリスは音楽会で吹かなかった横笛をそっと唇にあてた。 笛から流れるのは鎮魂の調べ。 命亡き人、生命ある人、すべての上に幸多からんことを願って……。

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参加者:7人
作成日:2003/10/08
得票数:ほのぼの16
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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