幻の米、ミスティクイーン



<オープニング>


「巨大スズメ……ですか?」
 冒険者の酒場、どこか胡散臭そうに依頼人を見つめるツキユーの姿がいた。
「はい、ノソリンくらいの大きさで丸々としたのが一羽」
 依頼人の村長の話では、その巨大スズメは空を飛ばずに羽根をバタつかせながら歩いて移動しているらしい。
「自分の体重が重過ぎて飛べないんでしょうね……突然に変異しちゃったスズメも難儀なものです」
 どこかしみじみと漏らすツキユー。
「傍目からみりゃ可愛いモンなんですが、こっちとしてはたまったものじゃないんですよ。稲を食い荒らすんで追い払おうとしても、突進してきて嘴で突き刺そうとしてきますし……」
 村長曰く、稲は村の宝なのだという。
 粘り気が強くふんわりとした炊きあがり、口に入れて一口噛み締めると霧のように甘味が広がるその味を称えて、この村の稲は幻の米『ミスティクイーン』と呼ばれているのだ。
「美味しい上に粘り気が強いので冷めても固くなりにくく、おにぎりなどの携帯保存食にも最適……霊査士さん、大丈夫ですか?」
「あ、はい、大丈夫です。川向こうの霧の女王に手招きをされていただけで」
 ボーッとしていたツキユーは口元のヨダレを拭う。
「……もし、巨大スズメの撃退に成功すればそのお米、もらえちゃったりなんかしちゃったりします?」
 下心丸見えのツキユーの問いに苦笑してうなづく村長。
「ええ、スズメに食われるよりは人様に食べて頂いた方が……」
「わかりました、この命に替えても必ずミスティクイーンを守らせましょう! ……って、どの依頼でもいっつも同じ気持ちではあるんですけどね」
 笑ってごまかすツキユーだった。

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参加者
神速のつまみ食い女帝・ウィンディア(a00356)
ピンクリボンの翔剣士・ミサ(a05541)
饗宴の思索者・アレクサンドラ(a08403)
狩人・ルスト(a10900)
咎狗・ガル(a11201)
時の語り部・ソロン(a11490)
陽気な天気雨・ニコ(a13975)
白く輝く小さな太陽・ラーラ(a14043)
思い出に浸る・ルディン(a14167)
静かなる灰色狼・ハサト(a14660)


<リプレイ>

●巨大スズメ説得作戦
「まず、獣達の歌という動物と会話出来るアビリティで巨大スズメの説得を試みたいと思います」
 村の広場、狩人・ルスト(a10900)の言葉に集まった村人達は不安そうな顔を見せた。
「あの顔に似合わず狂暴なヤツが説得を呑むとは思えないのですが……」
「説得を呑まざるを得ない状況に巨大スズメを追いやる為に、ああしているんですよ」
 ルストの後ろ、黄金色に輝く中にぽっかり浮き出ている田んぼ道では若葉萌えし草原の優風・ウィンディア(a00356)とヒトノソリンの重騎士・ラーラ(a14043)、蒼穹を断つ苛烈の獣・ガル(a11201)がスコップで穴を無心に掘っていた。
「がんばりましょうね〜、ラーラさま」
「がんばるなぁん♪ なぁ〜ん♪ なぁ〜〜ん♪」
 そこへ納屋から借りたスコップを肩に担いでテクテクやってくる陽気な天気雨・ニコ(a13975)。
「普通に掘った方が早いなぁ〜ん……」
 よく見るとニコの両手はほんのり赤くなっている、どうやら爆砕拳で地面を掘ろうとしたのだが思うように成果が上がらなかったようだ。
「なるほど……空が飛べないスズメを穴に落とし込んで命令する訳ですね」
「いえいえ、あくまで『説得』ですよ」
 ルストはにっこり笑ってさりげなく聞く。
「あ、ちなみに……スズメの態度にもよりますが、スズメになんらかの行動を誓約させる見返りにお米を定期的に与えるなんて事は出来ますか?」
「それは無理ですな。ヤツの食い分はバカにならんのですわ」
 答えたのは村長だった。村長は厳しい顔をしてルストの目を見つめた。
「そうですか、わかりました。もし説得に失敗しても、絶対村に被害が及ばないようにしますから」
 笑って視線を外しながら村長から遠ざかっていくルスト。入れ替わるように吹き抜ける風・ルディン(a14167)が、村人達へ危ないので田に近づかないようにと念を押していた。
 ルストへ饗宴の思索者・アレクサンドラ(a08403)が近寄る。
「どうやら難しそうだな?」
「そうですね、巨大スズメが暮らせそうな土地がないか、聞き込みをしておいた方が良いかもしれません」
「ま、此方の出した条件をスズメが呑んだと仮定した場合の話だからな。そう気にしすぎるのも良くない……一つの方面から見過ぎるあまりに他方から見る事を忘れてしまう、そういう事は良くあるものだ」
 アレクサンドラは小難しい事を言いながらルストの肩を軽くポンと叩いてやった。

 一方、田んぼ道では冒険者パワーで大きな穴が完成していた。
「……出れないなぁ〜〜ん、助けてなぁ〜〜ん」
「しょうがないなぁんね?」
「ラーラさま、大丈夫ですか?」
 ウィンディアとニコに両腕を掴まれ穴から引っ張り上げられるラーラ。そこへストライダーの武道家・ハサト(a14660)が藁で編んだゴザを持ってきた。ハサトはゴザを穴の上に被せる。
「よし、出来たぜ。俺が編んだ物だからちょっと目が粗いが……ま、大丈夫だろ」
「仕上げの部分はお任せくださいませね」
 ウィンディアは草を摘み、穴を掘った際に出た土を併せてゴザの上にまぶしていく。しばらくすると一見ではそこに落とし穴があるとわからなくなっていた。
「完成なぁ〜ん。田んぼ道に作っちゃったから、村の人にはちょっと迷惑かもしれないなぁ〜ん」
「なに、村の中に設置するよりスズメの近くに設置した方が結果的に被害は少なくなるはずだ」
 口をへの字に曲げたラーラをフォローしてやるハサト。そこへピンクリボンの翔剣士・ミサ(a05541)が田んぼの奥から駆けて来た。彼女は力仕事や説得も出来ないというので巨大スズメの現在地を探りに行っていた。
「向こうにいたぜ、こんなにでっけえスズメが! すげえ可愛いのな」
 勢い込んで話すミサの横で、ガルはうんうんと頷いた。
「そいつぁ、丸々と太って美味そうな……ジョークだジョーク、そんな睨むなよ」
 ミサにジト目で睨まれ、慌てて弁解するガル。
 ともかく準備は万事整い、冒険者達は作戦を開始するのだった。

●巨大スズメとの邂逅
 田の中、稲穂をついばむ巨大スズメを見下ろしてルディンは靴紐をしっかり結ぼうとする。
 その足は、緊張で震えていた。
「大丈夫か?」
 その横、アレクサンドラの問いかけに引きつった笑みを浮かべるルディン。
「僕、はは、初依頼なモンで」
「なんだ、ンな事で緊張してんのか? 気にすんな、自慢じゃないが俺も初依頼だ!」
 どんと胸を張るミサ。
「聞いた話だとラーラちゃんさんも初依頼らしいなぁ〜ん」
 二人の言葉に緊張が和らいだのか、ルディンは笑顔を浮かべた。
「初依頼の人、僕だけじゃないんですね、安心しました」
「それは良かった、では早速、誘導と参ろうではないか……おーい、こーちーらーだぞー!」
 アレクサンドラは大声を上げると、巨大スズメはその騒音に気付きのっそりと振り返る。
 道端の小石を拾い上げるミサ、そして小石を思い切り投げると見事に巨大スズメの頭に命中した。怒って突進してくる巨大スズメ。意外な速さに慌てて逃げる体勢を作る四人。
「まんもーのお肉もあるなぁんよ」
 田んぼ道へ上がった巨大スズメへニコは肉の切れ端を投げつけて時間を稼ごうとしたが、肉に見向きもせず巨大スズメは突っ込んで来る。
「な、なんで効かないなぁん!?」
「す、スズメは肉を食べないからではないでしょうか!?」
「気合い入れろ、追いつかれっぞ!!」
 全速力で田んぼ道を駆ける四人、あの速度の体当たりをくらったら大変だ。
 直に見えて来る村と仲間達の姿。
「僕の後ろが罠です、避けて通って下さい!」
 出迎えた時の語り部・ソロン(a11490)の両脇を駆け抜けると、ソロンも穴の後ろへと走る。それとほぼ同時に、轟音と共に藁や草が宙を舞った。

「♪ 大丈夫ですか?」
『痛つつつ……なにすんだテメェ! 大丈夫な訳無ぇダロ!』
 ソロンが獣達の歌で語りかけたところ、巨大スズメはそう返してきた。
「♪ まあまあ、まずは冷静に話し合いましょうよ」
『これが冷静でいられるかってんだテメ―――』
 巨大スズメの声が止まる。穴の上から、ニコが美味しそうな目でこちらを覗いていたのだ。
『……用件を聞こうか』
 まず、ソロンは巨大スズメの住みやすい土地を探すから米を食べるのをやめて欲しいと頼んだ。
『その条件を受け入れれば……ここから出してくれるのか?』
「♪ はい、約束してくれるならば」
 しばしの静寂、そして、巨大スズメは言った。
『わかった、約束するから出してくれ』
 その言葉を聞き、ソロンは顔を輝かせて獣達の歌の演奏を止める。
「皆さん、説得は成功しました! スズメさんを引き上げるのを手伝って下さい!」
「本当に、大丈夫なのか?」
 ガルは不審に思いつつも巨大スズメの片翼を引っ掴んで力を込める。
 そうして、巨大スズメが地面に着地すると―――
「いた、痛たたた、いたいですわ〜」
 おもむろに近くにいたウィンディアへ襲いかかった。嘴でつつかれて泣き顔で逃げるウィンディア。
「駄目じゃねぇか! 無駄に知恵をつけやがって、このスズメめ!」
 ウィンディアを追おうとする巨大スズメの腹部にボディブローを見舞うハサト。
 ニコも拳に思いを込めて巨大スズメの顔面を思い切り殴る。
「美味しいお米はみんなのものなぁん♪ 約束を破って一人で食べ尽くしちゃうならおしおきなぁ〜ん♪」
 巨大スズメからの返事はなく、殴られたのが効いたのかその場でよろめいている。
「♪ どういう事ですか!?」
 距離を取り、獣達の歌を歌い直すソロン。ようやくスズメは言葉を発した。
『うるせぇ! 頭ん中になんだか良くわからない音をゴチャゴチャ響かせやがって!』
「なるほど、人間の言葉が理解できない相手には『拳で語る』は通用しないのだな」
「納得してる場合じゃないなぁ〜ん」
 一人納得しているアレクサンドラを後ろに押しやりながら、ラーラは不動の鎧で自らの防御力を高める。
『穴にさえ落ちなけりゃ俺は強いんだ、テメーらなんかに従うかよ!』
 巨大スズメの嘴の一撃をバックステップで避けるミサ、嘴はミサのいた地面を容赦無く抉り取った。
「仕方ありません。ここは迷うことなく敵を倒すことに集中致しましょう」
 ルストは弓に矢をつがえる。そして、迷いを振り切るように矢を放った。
「刀気放出!」
 リングスラッシャーを展開するルディン、円盤の衝撃波は巨大スズメを切り刻み、羽毛を散らしていく。
 確かに巨大スズメは動物という括りの中では強かったが、やはり冒険者の敵ではなかった。
「行くぜ、俺の晩飯!」
 ガルの一撃に血煙をあげて倒れる巨大スズメ、こうして村を脅かす巨大スズメは退治されたのだった。

●夕食は霧の女王と共に
「うーん、なんというかこう、サッパリというより、淡白だな」
 宵闇の頃の村長宅、ガルは焼き鳥を一串引っ掴み、歯を立てて横に引き抜く。
 そして味わうように咀嚼してそう言った。
「大味だなぁ〜ん、本当に煮ても焼いても食えないヤツだなぁ〜ん」
 ニコは巨大スズメのトマト煮に口をつけて舌を出した。
「よく、食べられますね……」
 ルディンは巨大スズメの食べられない部分などを土に埋めて墓を作ってやっていた。
「人は、それぞれですから」
 その言葉とは裏腹にソロンもスズメ料理には一切手を出さずにミスティクイーンを箸でつまんで食べている。仕方が無かったとはいえ動物を倒してしまった事を悔いているのだろう、幻の米の味もあまり堪能していないように見えた。
「そうだ、幻の米ミスティクイーン。一度、食べてみたいと思ってたんです」
 ルディンは気を取り直してお椀に山盛りになったご飯に箸をつける。その旨みを存分に味わう為に何もつけずに白米のままいただく。
 口に米を入れると、ルディンは目を見開いた。よく噛んで飲み込み、一言。
「こんなに美味しい御飯、初めて食べました」
「これがランドアース特産のコメというものか。ふむ噛めば噛むほど口の中に甘味が広がる……興味深いな」
「やっはりお米はおいひいでふわ〜」
 食べながらコメントするハサトやウィンディアとは対称的に無言でガツガツ食べまくるヒトノソリン二人。
「おいしいなぁん」
「おかわりほしいなぁ〜〜ん♪」
 言いながら村人へ空のお椀を同時に差し出すニコとラーラ。
「どっちがどっちのセリフを喋ってんのか全然わかんねぇぜ」
 玉子かけご飯を頬張っていたミサもその勢いにたじろく。
「なぁ〜んと伸びるのがラーラで、伸びないのがニコだな……と、すまないがおにぎりを所望する。土産に持ち帰りたいのである」
「わかりました、そのように手配いたしますな」
 アレクサンドラの要望に二つ返事でうなづく村長、そんな村長へ村人が駆けより、ヒソヒソと耳打ちする。
「村長、このままでは料理に使った米の量が、スズメが1日に食べた米の量を余裕でオーバーしてしまいますが……」
「……明日になれば冒険者も帰る。耐えるんだ、嵐みたいなものだ」
 村人達の受難は、実はもうちょっとだけ続いていた。


マスター:蘇我県 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2004/10/06
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