【茶話彩々】最後はやっぱり茶がこわい?〜秋の味覚〜



<オープニング>


●世間話と聞き耳男
「そういえば――今ちょうど見頃なのよね、お茶の花」
「そうなんです。私の村では茶の花を天日で乾かして、お茶の材料にするんですよ」
「へぇ〜」
「実は宴で点てるお茶は少し変わっていて、村の名物を混ぜて頂くのが慣わしなんです」
「……へぇ〜」
 背にしたテーブルで交わされるやり取りは、カウンター席でくつろぐ十拍戯剣・グラツィエル(a90144)にも聞こえていた。
 どうやら、近い日取りでその茶を振舞う野点の宴を開くという話の様だ。
 そして、その野点で茶を点てる役を担う、村の御茶点て名人モク婆様が腰を痛めてしまったとかで、ひょろ長の男性は途方に暮れているらしかった。が――
 結局、その件については直接話を聞いた冒険者達が向かう事になったらしい。

 近づく足音。黯き虎魄の霊査士・イャトが隣に座ったのを見て、気安く声をかけてみる。
「なァ。何か、他に依頼は来てねェの?」
「……ある」
 注文を口にするより短い言葉で、淡々と。イャトはグラツィエルに眼を向けもしない。
 思わず言葉に詰まったグラツィエルが返す言葉を考える間に、イャトの言葉は続いていた。
「依頼人はニー・ホイもとい……ホイ・ニー。あの男だ」
「あー……野点の宴を成功させて欲しいって奴なら。もう別の奴らが受けたんじゃねェのか」
 霊査士が視線で指した男を、大きく振り返って確認したグラツィエルは、言いながら疑いの眼差しをイャトに向ける。全く表情を動かさずに彼は言った。
「旬の初物を幾つか、とある村の老婦人の家に届けるのを手伝って欲しい、という依頼だ」
 行くかね。と。
 そこで初めてイャトはグラツィエルに視線を遣す。

●秋の味覚探訪?
 主に村の名物を混ぜて飲むという『花番茶』。
 茶に混ぜる副材料は、村で手に入る物以外はモク婆様が山に入って採って来るのが慣例だった。しかし、その婆様が倒れてしまい今年はそれが望めない。代わりにそれを探しに行く者が必要だ。
 そんな訳で、村で野点の準備に従事する冒険者達と同時進行でもう一組、依頼を受けてくれる冒険者達を探していたらしい。

 霊査士に遅れてカウンター席に移動して来たホイさんは、気圧されたように冒険者達に一礼した。
「ば様の代わりに私が山に行こうと思うのです。ただ、山慣れていないものですから、私だけでは不安で……あの、よろしくお願いします」
「――秋の味覚探訪ってか?」
「ええ。はい、そうですね。裏山には、キノコや芋が自生しています。少し深い所まで行けば栗、林檎や葡萄の樹もあるそうです。……それから、そう! 香茸もそろそろ良い時季なんですよ〜。村に住んでいる私でさえ滅多にお目にかかれませんが、運が良ければ見つけられるかもしれません!」
 手を打って夢見るように一気に説明したホイさんは、冒険者達が黙り込んでいる事に気付くと慌てて口を噤み、俯いて縮こまる。
「すす、スミマセン、つい」
「いやいやいや。イイじゃんイイじゃん。香茸! 蒸し焼きにしてレモンを絞ると旨いんだよな」
 香茸(カオリタケ)。味よし香りよし、知る人ぞ知る秋を代表する茸である。
「引き受けて下さるんですか?」
「モチロンだ!! あ、痛゛ッ」
 秋の珍味が採れると聞けば黙っていられない男が一人。ホイさんの肩を両手で掴み、勢い込んで立ち上がったグラツィエルはメニューボードに額をぶつけている。
 ……大丈夫だろうか。
 一瞬、ホイさんの顔に不安がよぎったのを、他の冒険者達は見逃さない。

 ちなみに。彼の村では、『初物は最初は必ず生でいただく』という風習がある事を冒険者達は後にホイさんから聞く事になる。今ではほとんど、廃れてしまった文化だそうだが。

「浮かれるのも良いが、不自然な栗の木には気を付けろ……」
 静寂。ホイさんを見送り、霊査士がぽつりと零した一言に冒険者達は顔を見合わせた。
「毬栗を飛ばす一本の木が見えた。栗の木と呼ぶには、不自然に『太い』な。近づく者に対して容赦なく毬を飛ばして攻撃するようだ。モク婦人の自由がままならないのは、不幸中の幸いだったのかもしれん」
 今の所、ホイさんがそれに気付いていない事も然り。何事もなければ良いが……
「平気だろ。俺達がついてるんだぜ?」
 掌に拳を打ちつけ、不敵な笑みを浮かべるグラツィエル。彼には何の心配もないらしかった。

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参加者
春霞遼遠・ハル(a00347)
銀翼に咲く幸福・ジーニアス(a02228)
キングスブルー・ライド(a03082)
星影・ルシエラ(a03407)
魔法子猫・ミルミナ(a10750)
春謡・ティトレット(a11702)
楽師・アージェシカ(a12453)
地獄の沙汰も金次第・シロウ(a12485)
空色風花・シルフ(a12921)
茜空の舞剣・エンジュ(a15104)
NPC:十拍戯剣・グラツィエル(a90144)



<リプレイ>

●山中、秋日和
 天気が良い。それだけで、つい浮かれてしまうというのは単純すぎるだろうか。
 しかし、その光景は実に微笑ましく、ともすれば歌声すら聞こえて来るかのようで……

 実際に歌っていたりする。

「きっのこ♪ きっのこ♪ ――あ〜っ!」
 弾む足取りで一団の先を行く魔法子猫・ミルミナ(a10750)が、樹の根元に飛びつく様にしゃがみこむ。
「これ! 食べられるにゃ? 食べられるにゃか?」
 得意げに確保したキノコを採ってしまう前に仲間達を振り返る。
「同盟の食べ物は美味しいと聞いたなぁ〜ん。この袋にいっぱい採るなぁ〜ん!」
 同じく瞳を輝かせてヒトノソリンの武人・エンジュ(a15104)は専用の麻袋を持参する入れ込みよう。見つけたキノコを袋で喰う様に片っ端から採っていく。負けじとミルミナも採取開始。
 もぎっ。ざっくざっく。もぎもぎっ。ざっくざっくざっく……
「キノコにゃ! こっちにはお芋にゃ! にゃっ、間違えたにゃ。樹の根っこにゃ〜」
「ミルミナさん、お芋もキノコも逃げませんから」
 苦笑しながら春雷・ティトレット(a11702)も着々と、籠の中に食べられるキノコを入れて行く。籠はホイさんが村から貸してくれた。ミルミナの収穫も選り分けていると、エンジュが不自然にカサの大きなキノコを持って来る。
「カラフルなキノコ食べられそうかなぁ〜ん?」
 ソイツは見るからに毒々しい色をしていた。
「これは、やめておいた方が…」
「素人目にも、ちょっと……」
 ティトレットが頭を振り、ホイさんは蒼い顔をして後ずさる。山には不慣れだという彼の足元を見守った後、ふりむけばジェニファー・ハル(a00347)は視線を上げて森の彩(いろ)を楽しむ。紅葉し始めた枝葉の間、姿を見せない鳥達の歌声もほのぼのと。平和な光景である。
「香茸、見つかれば最高なんですけどねェ…」
 けど、その前にもう一つ。
「今後のためにも、野暮な栗の木を何とかしなくては」
 目を細めて呟けば、ホイさんも思い出したように森の奥を見た。きっと何処までも続く山道。
「あの……先に行かれた皆さん、大丈夫でしょうか。私達、ここでほのぼのしていて良いんでしょうか」
 今更の様にもっともな事を口にする依頼人。
 ホイさんには道中、雑談ついでに危険な栗の木の存在について話しておいた。
 思った以上に肝が据わっているのか(鈍いのかもしれない)「はあ」だの「ええ」だの、彼の受け答えは拍子抜けするほどあっさりしていて、同行の彼らも今ひとつ実感を持てずにいたが……森の奥に先行した冒険者達がなかなか戻って来ないため、さすがに心配になってきたのだろう。
「ご安心を」
 にこりと微笑む。ハルが見せた余裕に乗じてティトレットも胸を張る。
「大丈夫です、みんなでどうにかしますからっ!」
 自信に満ちた彼女の視線は一度ホイさんの頭上に通り過ぎ、樹上に揺れる赤い実を見つけた。糸を巻き取るようにホイさんへと戻る視線――
「はい」
 ホイさん、解っているのかいないのか、失笑しながら頷いた。冒険者達には敵わない。

 もう一種類の歌声は、獣達へと問いかける。

『毬栗を投げつけてくる栗の木はどこにあるかしら』
 楽師・アージェシカ(a12453)の歌声だ。
『アイツのことかな。ぶつけられたよ、お友達』
『痛いの怖いの危ないの。もうあんなトコには遊びに行かないー』
 鳥達が応えてくれる詞を解し、彼女は問いを重ねる。
『それは何処? 詳しく教えて』

「何処を向いても同じだな。樹、木、樹……」
 登っていた樹を伝い降りながらキングスブルー・ライド(a03082)は言った。
 とはいえ、木の上で見た紅や黄色に色付いた紅葉と緑葉の斑、パッチワークのようなその景色は見ていて飽きない部分もあるのだが。少なくとも今の目当ては景色を愛でる事ではない。
「イガ…落ちてないねぇ」
 ライドと手分けして付近を偵察――散策していた星影・ルシエラ(a03407)が残念そうに呟き、オペ娘・ジーニアス(a02228)は神妙な面持ちで唸る。
「むぅ…難しい依頼だねー」
 十拍戯剣・グラツィエル(a90144)は「そうなのか?」と怪訝な顔。彼を見ながらジーニアスは続けた。
「『グーぱん』と呼ぶか、『エルやん』と呼ぶべきか! 迷うなー」
「悩むんじゃねェ、ンな事で!」
 ウラー! と思わず猛る彼に静粛を促すライドとルシエラが、息を揃えて唇の前に指を立てている。
 頼りはアージェシカと風に舞う歌姫・シルフ(a12921)の獣達の歌。
 気付いたグラツィエルが小さくなってすごすごと木の裏に――往こうとした所で響く、乾いた音と呻き声。
「何処かでやると思ったけど…。大丈夫かしら?」
 予想を裏切らないというか、何と言うか。
 木の陰にうずくまって額を押さえているグラツィエルを横目で見ながらアージェシカは、彼が一応アイガードを着けているのを見て安堵する。その辺りの自覚は本人にもあるらしい。
「行きましょう。栗の木の場所が解ったわ」
「報せに戻るか?」
「場所にもよるが、俺達でさっさと倒しちまえるならその方が良いだろうな」
 医術士っぽい・シロウ(a12485)の返答に、ライドは思い直して頷く。
「それもそうだな。よし、行くか」
 アージェシカの案内に従い、彼らは山道に分け入った。

●大きな栗の木
 齢を重ねた栗の木は太くなる物なのかもしれない。だが、周囲にまだ若い栗の木がたくさん在る中、それは不自然なまでに引き立てられて、目立っている。
「まるでボスだね」
 ジーニアスは的確に表現した。計らずも栗の木達の真ん中にデン、と構える極太は周囲の木を四本束ねてまだ足りないくらいの太い幹。ついそれを『中心』に見てしまうだけの存在感と質量を持っている。
 用心深く一歩を踏み出す冒険者達。
 みしり。
 微かに、枝の先で葉が揺れた様に見えた。風は、無い。
「音起てずに、地面揺らさずに歩くって、難しいかも……」
 大地に巡らされている木の根はきっと冒険者達の動きを察知する。一定の距離を保ったまま、ルシエラとライドは剣に手をかけた。頭に巻いたタオルを締め直したジーニアス、杖を構えてこちらも臨戦態勢。
「よしっ」
 気合を入れて三人はじり、ともう一歩。
 ざわり。
「来る……!」
 三人の後ろから息を飲む声。
 ビュン!!

「ウラァ!」
 もさッ!! ジーニアスが青々とした毬栗を振りかぶる杖で打ち返した!

「オラァ!」
 さふッ!! グラツィエルが負けじと剣を振るって毬栗を叩き斬る!

「無茶すんな!!」
 誰からともなくツッコまれて、ジーニアスは「てへ」と舌を出し後退。
 飛んで来る毬栗を打ち返すばかりではキリがない。栗の木のペースを乱そうとアージェシカが踊るフールダンス♪ だが、枝の動きに変わった所は見られない。
 構わず、栗の木の懐に飛び込み一太刀浴びせるライド。追撃。ルシエラの居合い斬り。
 ぎちり! 刃を受け止めた幹が鳴り、大きく枝がしなって毬栗を周囲に飛ばす。
「くっ……」
 近接で仕掛ける仲間達がその攻撃の余波を受けていない事を、シロウは飛んで来る毬栗をその身に受けながら確認した。
「胴(ボディ)ががら空きだっ!!」
 叫んで放つブラックフレイム。
 幹の周りをライドのリングスラッシャーが舞い、樹皮の表を縦に走る雷はルシエラが叩き込む電刃衝。

 そもそも攻撃は単調だ。粗のある自己防衛術しか持ち合わせない――太いだけの樹が、冒険者達に打ち倒されるまで、そう時間はかからなかった。

 むしろ、地中に張られた根を掘り起こす方が骨の折れる作業だった。
 生命活動を絶たれた栗の木は変異ゆえか、急激に枯れ果てた。おかげで、その作業は多少は楽になったがそれでも。
 似合わない労働の汗を拭いアージェシカは、小さく爆ぜながら燃える栗の木の残骸を見つめている。
「……それで、合流するなりキミ達は一体何を?」
 探り探りのライドの声を受けて動きを止めたのは、集めた落ち葉を火の中に放り込むティトレットと、同じ様にしゃがんで焚き火に掘ったばかりの芋――里芋のようだ――を放り込んでいた依頼人。
「さながら――栗の木と戦い、疲れ傷ついた皆さんの労をねぎらう大自然のおもてなし、でしょうか」
 颯爽とフォローするハル。笑顔ではあるが彼自身、その語尾は上がり調子の疑問形だ。
 そして、『疲れ傷ついた皆さん』以上に瞳を輝かせて焼き芋を待つエンジュの姿も在ったりする。
「楽しみなぁ〜ん」
 言いながら、辺りに散らばっていた栗をイガごと拾って例の袋の中に集めている。
 枝から放り投げられた毬栗は親が枯れても青々とした姿のまま地面に転がっていた。
 丸々と肥えて艶光る大きな実を割れ目から覗かせていて……じゅるり。旨そうではある。
 同じ事を考えたらしいティトレットとミルミナの視線が自然にかち合う。
「この栗は……」
「食べられるのかにゃ?」
 思案所である。
 ふと、賑やかになった焚き火の傍に二人が目を向けると、「風習は大事だよね」とジーニアスに諭され、ホイさんの腕から渡された飛びきり新鮮な(土が付いたままの)里芋を躊躇無くモリモリ喰らうグラツィエルの姿が見えた。
 そんな彼から何故か目を逸らすアージェシカ。やはり、彼は彼女の期待を裏切らなかったらしい。
 再び顔を見合わせるミルミナとティトレット。どちらからともなく。
 やはり、グラッチェさんですか……?

 誰かさんの心の声が聞こえる気がする。
 ――胃腸モ丈夫ソウダシ……

「ここは、美味しい実りのお山なんだよ。オバケ栗さんは、ちゃあんとお山の栄養に生まれ変わってね」
 ルシエラは、炎の中で炭と化す栗の木を見葬(おく)りながら声をかけた。
 オバケ栗の木は、さっそく冒険者達を楽しませてくれているようで。それが何だか少し嬉しい。

●秋の宝物は……
 さて。ちょっとした腹ごしらえも済ませたら。彼らが目指すは『香茸』。
 シルフは動物達にその場所を歌で問う。アージェシカもその片手間に、目にした物をスケッチスケッチ。既にその紙の上にはとりどりの彩が踊っている。収穫の数々である。栗、キノコ、柿。鮮やかな紅の林檎は、通常よりも幾分小さい姫林檎だそうだ。
「よぅーし、グラッチェさんと競争にゃっ!」
 言うなり駆け出したミルミナを、「何ィー!」と叫んで追いかけるグラツィエル。
「グーぱん、エキセントリックー!!」
「何ィー!! 呼び止めるな! 負けちまうだろッ!」
 ミルミナ嬢、12歳です。張り合うグラツィエル、23歳です。エキセントリック……もといジーニアスは。
「大体エキセントリックって、なン……もぐ!」
「見るからに初物だよね。ちょっと紫色で黄色の斑模様が――」
 ズダーン。
「ああっ、グーぱん!!」
 大げさに叫びはしたが、こんな事もあろうかと彼女の準備は完璧です。
 とりあえず、泡を噴いているグラツィエルの顔色がちょっぴり紫色帯びて、地肌の黄色い斑点が浮かび始めるまで観察してみます。
 気のせい気のせい。ではそろそろ毒消しの風を……
「……無茶すんなー」
 眉間を押さえて思わずツッコむシロウもまさか、戦闘以外でこれを使う事になろうとは。風がグラツィエルの身体をそっと包み込み、毒気を抜いてくれるまで……
「高い所はお預けな。休憩休憩」
 ふー、とライドは晴れやかな笑顔で一息。その隣にちょこんと腰を下ろして、ルシエラはマイペースに収穫を広げて見せる。
「見てみてー、胡桃もいっぱい見つけたの〜」
「俺も何か見つけて帰らないとな」
 彼女の収穫を見ながら、シロウは何か思う所があるらしい。密やかに。
 香茸は……?
 地道に探索していたシルフが、戦痕を見つめている。掘り起こされた根っこの大穴。
『秋の宝物には、近づけないの。怖い栗の木がいて〜』
 もし、あの栗の木の根元にそれが生えていたなら……
「やっぱり、駄目になってしまった……でしょうか」
 諦め半分で土に触れた時。少し奥の森の中からミルミナの驚声が響いた。

「みんな、こっちこっち〜! 見つけたにょー、何だかとっても良い匂いがするにゃ〜♪」

 またたびに酔う猫のようにうっとりとした声色。
 グラツィエルを放り出して、冒険者達は一斉にそちらに向かう。アージェシカはゆったりと絵画の記録に何ぞを描き足し筆をおいて立ち上がると、にこやかに告げた。
「ミルミナさんの勝ち、ね」 
「あ゛ー、くそー!」

●お後がよろしいよう……で?
 収穫一杯の籠と袋を担いで村に戻ると、宴の準備は整っていた。丁度、白い花が見頃な茶畑の一角でお茶会にお呼ばれ。
 茸に栗、芋は一旦火を通して食べやすい大きさに刻む。胡桃は砕き、幾つかの果物も刻んでお茶碗に入れてしまう。白く泡立った花番茶の下に具材はほとんど隠れてしまうが、掌にはずっしりとした重みがかかり、確かにその中に秋の味がたっぷり詰まっているのが解る。
 特に、香茸は村の人々にも喜ばれた。この茸は秋の早い時期だけ栗の木の根元に生えるのだと、モク婆さんが茶話として語る。山の木々が紅葉に完全に染まってしまう頃にはもう、そのシーズンを終えているらしい。故に、滅多にお目にかかれないのだそうだ。
 今年は野点の時期を早めた事で、ありつく事ができたという訳である。皆で分けて持ち帰れるほど採れなかったのは残念だが……冒険者達もその場でしっかり味わって帰ることにする。

 お行儀良くした方が良いのかと目いっぱい緊張して臨んだミルミナは、遠慮の分だけ茶碗の底に沈んだ具が残ってしまい、渡された一本のお箸で掻き込みながら顔を真っ赤にしていた。
 決まったスタイルは何もなく、ほんのり塩味の付いたお茶を具と一緒に、ただただ一気に流し込む。
 上品なのか、豪快なのか。塩味なのか甘酸っぱいのか。
 そのどちらも合わせたような不思議なお茶を、皆景色と共に楽しんだ。
「美味しいなぁ〜ん」
 とエンジュは何度もおかわり。美味と美人、美観に満足のシロウとライド。
 楽しげな仲間を眺めながらお茶を味わい、ゆっくり話を聞いている内に、気付けばティトレットは眠ってしまっている。
 穏やかな宴だ。ホイさんもモク婆さんも、満足げな笑みを浮かべていた。

「ハルさんの料理とお菓子も好評だったの〜。ライドさんはこっそりお酒飲んでたよ。ホイさんにお願いしてる所、見ちゃった」
 その時に着た振袖姿のまま、報告に現れたルシエラ。よほど楽しかったのか彼女の話は尽きない。
「そうか。お疲れ様、だな」
 淡々としたイャトの言葉も相変わらず。ルシエラは、愛らしく小首を傾げて袖を持ち上げにっこり。
「可愛い?」
 どうやら感想を訊いているのだと、イャトが思い至るまでたっぷり5秒。
 そこから言葉が口をつくまで更に3秒。
「似合いだ」
 その間全く表情を変えず、瞳を逸らす事も無く、霊査士が返した言葉はその一言だったとか。

 さてはて。
 これからますます寒くなる時節に、温かいお茶は良い共になりそうである。


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星影・ルシエラ(a03407)  2009年12月13日 23時  通報
あー。ここでグラさんとティトと一緒だね♪ライドさんとも遊んでたー♪ 懐かしいなー実りの森♪ 変らなきゃ今も森かなー。
ホイさんち周囲は食べ物も抜群で♪
それと、イャトさんに振袖見せにいけて、ふふ♪
似合いだっても聞けて、しあわせでしたー。
間、とっても、好き。
たぶん、今もかわらず、こんな風に聞いてると思う。
可愛い? 美味しい? 好き?
反応が楽しみでー♪

…メモリアルっていうより、ひとりのろけになってるー☆