【ゲッタウェイ、二人の逃亡者】幸せと悲しみの、小さな白い家



<オープニング>


「このような手紙が届いたのです……マリアシエルが逃げた白い小屋の場所を俺は知っている、もう命はないと思え……」
 薄明の霊査士・ベベウが手にしているのは、粗雑な質の封筒と広げられた手紙である。彼は淡々と続けていく。
「マリアシエルさんは、以前に僕が依頼をお受けしたことのある方。とある強盗団の首領に命を付け狙われていた過去をお持ちです。彼女が執拗に狙われていた理由は、強盗団の首領ガンツを顔を知る唯一の生存者であるということ。ガンツはとても用心深く残虐な悪党で、堅固な組織を有する、危険な相手でした。事件はもう済んだはずだったのです……」
 ここまで述べると、ベベウは手紙を上着のポケットに納めた。
「みなさんには、マリアシエルさんの家を護衛していただきます。ですが、秘密裏に、決して相手に気づかれることなく行われなければなりません。冒険者が護衛に着いていると分かれば、ガンツは決して手出しをしてこないでしょう。ですが、いつか、マリアシエルさんが安心した頃に、蛇のような執拗さで彼女を傷つける……彼は邪な男、苦もなく待ち、やってのけることでしょう。今この時、彼女を不条理な苦しみから解放してさしあげなければ」
 霊査士が珍しく語気を荒げる。と言っても、わずかに語尾が強まっただけなのだが。
「もう一点だけ、皆さんに話しておかなければならないことがあります。それは、エラリイくんという少年が、マリアシエルさんを襲ったこの凶事において果たした役割です。
 マリアシエルさんが、ガンツという悪党の顔を知っていることはお話しました。彼女は、ガンツによって襲撃された店に、住み込みとして働いていました。ガンツの凶事が彼女の命を奪おうとしていた、その時……エラリイ少年が自らを犠牲にしてマリアシエルさんのことを護ったのです。
 マリアシエルさんは、深い傷を負ったエラリイくんと共に、強盗団の追撃をしのぎ、母方の一族が暮らす村へ辿り着きました。そこには、ガンツの手も届かないものと思っていたのですが……」
 ヒトの武人・パオロが言った。
「どこからから、情報が漏れていると?」
 ベベウは静かに首を横に振った。
「いえ、それは考えられません……いや考えてはいけない」弱々しい微笑が浮かぶ。
「ガンツの情報収集能力は非常に高く優れているのでしょう。襲撃先の情報は、間取り、家族構成、その出身や血縁関係に至るまで、詳細に調べ上げてから凶行に臨んでいるようですね」
 ベベウの瞳が伏せられ、上着に向けられる。
 それを、パオロは見逃さなかった。
「その手紙は? 霊視の結果をまだ聞かされていないね」
 首肯くと、ベベウは手の甲を唇に押し当てて考えていたが、灰の瞳に強い光を取り戻し、穏やか口調で語りはじめた。
「そうですね……この手紙を書いた人の名前も、明かしておきましょう。マリアシエルさんの身に降りかかろうとしている危険を、我々に知らせてくれたのは、あのエラリイくんです」 
 パオロが問いを続ける。
「だが、エラリイという少年は、マリアシエルの元から消えたのだろう? それに、彼女に大きな嘘をついていたのだったね。彼はガンツの配下であるという重大な事実を、冒険者にも、もちろん彼女にも隠していた」
「ええ、パオロ、その通りです。だから、エラリイくんは、自ら彼女の元を去ったのです。けれども、彼がガンツから彼女の命を守ったことは事実、そして、今また、マリアシエルさんを守ろうと手紙を書いたことも事実なのです」
「ベベウ、君は……エラリイが悪人じゃないと信じたいみたいだな」
 パオロの言葉に、ベベウはしばらく言葉を失っていたが、唇を開く。
「……ええ、この手紙から伝わってくるもので、最も強い思念は、エラリイくんのマリアシエルさんに対する深い愛情です。彼の過去を、詳しく知ることはできません。なぜ、ガンツの強盗団にいたのか……何か深い事情があってのことなのかもしれません」
 分厚い手の平が、ベベウの肩を叩き、パオロは霊査士の上半身を揺さぶりながら言った。
「私は君が信じることを、君よりも強く信じてみよう。ガンツの魔の手から、マリアシエルを護って見せるし、エラリイのことも……きっと、いい結末が待っているさ」
「そうですね……」ベベウは呟いた。そして、他の冒険者に向かって語りかける。「ガンツがマリアシエルさんの暮らす村へ来るということは、その情報を掴んだエラリイ君がやってくる公算も大きいと考えられます。何か無茶なことをしでかすのではないか……どうしてもそんな予感が拭えません……。どうか、彼のことも護って……いや、二人を救ってください」
 ベベウの言葉が済むなり立ち上がると、カップに残っていた冷えた褐色の液体を飲み干し、パオロは大股で去っていった。

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参加者
縁・イツキ(a00311)
鉄芯・リジュ(a04411)
蒼剣の騎士・ラザナス(a05138)
業の刻印・ヴァイス(a06493)
紫晶氷姫・アオイ(a07743)
闇の獣性が心に巣くう・エンハンス(a08426)
黎明ノ風・エル(a09448)
暁に誓う・アルム(a12387)
お日様とお月様・リド(a12847)
パペットマ・ペット(a14089)
北落師門・ラト(a14693)
熾盛なる大地・グリード(a14902)
NPC:烈日と晦冥の旗手・パオロ(a90141)



<リプレイ>

 明るい朝の日差しが、壁の白を緑の中に際立たせている。
 赤や紫の小さな花弁がちりばめられた蒼穹の頂点に建つ小さな小屋には、マリアシエルという女が暮らしている。
 彼女は命を狙われていたが、今はまだそれを知らない。
 
「悲観することはないと思うのよね」清らかな肌に笑みを浮べて、縁紡ぎ矢・イツキ(a00311)が仲間に語りかける。「今は互いに想いがすれ違っている訳なのだけれど、それは互いを大事に思うからなのよ」
 マリアシエルとエラリイ、二人の運命は奇妙な交差と別離を経て、再び一つとなるのだろうか?
「そのためには、奴を俺たちが……捕えねばな」
 心に闇を持つ者・エンハンス(a08426)が口にした『奴』とは、残虐非道のガンツという名の男のことだ。
 一つにまとめた金の房を右肩にかけて、イツキは薮の中を進んだ。小さな白い家を護るため、周囲を探索しておく。途中、彼女は巨大な包みを倒木の裏側に隠した。後で必要となる、仲間からの預かり物である。
 エンハンスたちとは別行動だったが、神速の繰り手・エル(a09448)も丘を中心に、付近の地形や細かな条件を調べ上げようと、各地点へ足を伸ばしていた。手元の紙に、記号や紋章文字が重ねられ、次第に地図としての体裁が現われてくる。
 村では、月光の魔法騎士・アルム(a12387)が聞き込みにあたっていた。さらさらと輝く髪に光の輪が生じ、同じ色で揺らめく尻尾に、肩からは鞄を提げるという出立ちだ。廃墟や洞窟があるのではというアルムの問いかけに、パイプをくわえた好々爺は首を横に振った。
「おや、あんたアルムじゃないか」 
 そう声をかけたのは、疾駆鉄塊・リジュ(a04411)だ。彼女も村へ入り、情報を集めているところだったのだが、アルムは目の前にいる老婆が、冒険者であることにしばらく気づかなかった。リジュは腰を曲げ、狂戦士の象徴とでもいうべき巨大な刃をイツキに託し、孫の行方を尋ね歩く老人と化けていた。孫とは、エラリイのことである。
「人の恋路を邪魔する奴ァ、ノソリンに蹴られて……ってね。いっちょ盛大に蹴っ飛ばしたろうじゃないさ」
 リジュは威勢のいい台詞を吐くと、笑い声を残して、通りの向こうへと去っていった。
 森から伸びた径が途切れる草原では、白い布地を頭に巻いた長身の商人らしき男が荷物の上に座って、一服している様子がうかがえる。彼は、村へやって来た同業者を捕まえると、二言三言、商売に関わる情報を交換し、「おぬしも気をつけてな」と言葉をかけては送りだしている。
「ふう」
 黒より昏い碧・ラト(a14693)がターバンの隙間に指を差し入れる。緑の髪と百合の花びらを隠し、彼は商人となって、村へ入る者や物資について目を光らせていた。流通という視座から、大人数であろうガンツの強盗団がいかに動くかを捉えようというのである。
 ラトの目の前を、大きな毛糸の帽子を目深に被った少女が通りすぎていく。隠されているのはおでこだけはない。口元も、長いふわふわと編まれたマフラーによって隠されている。てくてくと径を歩き、深き森の呪術師・リド(a12847)はラトに近寄ると言った。
「村で買い物をして、強盗団がいないか捜してみます」
「うむ、気をつけてくだされ」
「はい」
 村に入った冒険者の中には、まったく変装などを行っていない者もあった。蒼剣の騎士・ラザナス(a05138)は人々で賑わう市を訪れ、わざとその身を晒すことで、エラリイの目にとまることを望んでいたのだが……。どうやら、彼の姿に気づいたのは、強盗団のメンバーのようだ。ラザナスは、視線の端で自分の姿を盗み見ようとしている男に気づくと、大きな声で言った。
「いや、ご主人。わたしは夕刻にはこの村を去るのだ。依頼を受けねばならないからね」
 ラザナスの言葉を受けて、その場を立ち去った男たち。彼らはラザナスを観察していたつもりだろうが、実は自分たちが注視されていたとは夢にも思わぬことだろう。
 雑踏の中、野菜を売る天幕の陰に佇んでいた、ヒトの武道家・グリード(a14902)が腰を上げる。彼の背には、鮮やかな緑や赤で絵具の壜が描かれている。画材を扱う商人となっているのだ。長身の彼が爪先を伸ばして、人の波を掻き分けていく男らの行き先を目視する。彼らは村から出ていくようだ。
「あとで、報告だな……」
 呟くと、グリードは村の外れ、マリアシエルの家へと向かっていった。
 
 なだらかな丘を、一頭のノソリンが登っていく。白い耳と尾を持った愛らしい姿に気づいて、白いドアの中からマリアシエルが姿を現した。
 彼女がノソリンの背を撫でていると、そこへ、紺色の帽子やワンピースを身につけた、一人の女性がやって来た。彼女は、紫銀の蒼晶華・アオイ(a07743)と名乗り、マリアシエルに囁いた。
「わたしは、冒険者です。ガンツの件で、こちらに参りましたの……」
 驚いたマリアシエルを、ノソリンが優しく押して、部屋の中へと運んだ。おかしな表情を、どこで誰に見られたものかわからないからであるが……ノソリンがどうしてそんなことを、そして、どうして、白い尾っぽがドアの向こうに消えたのだろう。
「あの……」
 口をつぐむマリアシエルの目の前で、ノソリンが二本足で立ち上がる。現われたのは白い裸身、ほっそりとした少女の姿であった。パペットマ・ペット(a14089)はアオイから衣服を受け取ると、挨拶をする。
「はじめましてなぁ〜ん、ヒトノソリンのペットですなぁ〜ん」
 アオイは驚いたままの女性を椅子に腰掛けさせると、事情を説明した。ガンツがあなたの命を狙っていること、その情報をもたらしてくれたのはエラリイであること。
「エラリイが!? 今はどこにいるんです? 一緒ではないのですか?」
「わからないんです」うな垂れる女性の手をとって、アオイは微笑みかける。「けれど、絶対にまた会えますわ。それまで、待っていてあげてください……。それではご主人様、これから仕事をさせていただきますね、わたしは住み込みのお手伝いさんですから」
 マリアシエルがアオイとシーツを洗っていると、そこへ、ヒトの武人・パオロがやって来た。
「マリアシエルさん、こちらはパオロさん。ガンツの似顔絵を描いていただくようにお願いしていたんです」
 アオイに紹介された武人が、よく陽に焼けた顔に白い歯をのぞかせて笑顔となる。
「はじめまして」
 挨拶もそこそこに、パオロは丘の傾斜に足を伸ばして腰を落ちつかせると、淡々と質問を繰りだしながら、さらさらと紙片にコンテを走らせていった。
 完成した絵は、再びノソリンとなったペットが背負った荷の中に納められ、パオロと共に仲間の元へと運ぶことになった。
 丘を下りてきたパオロとペットとすれ違い、グリードが頭に被っていた帽子をあげて会釈をする。彼は戸口のマリアシエルに頭を下げ、荷を見せると、再びお辞儀をしながら家の中へと入っていった。
 
 村に一軒きりの宿に――といっても、パブの親父が空き部屋を旅人に貸しているだけなのだが――リジュとアルムの姿がある。
 そして、もう一人、青い顔をした少年がいる、エラリイだ。彼は麦わらの山に潜み、そこから這い出ようとしたのだが、重い傷にさわったのか、転倒してしまった。立ち上がるのに手を貸した老婆こそが、リジュだったのである。
「こっからはあたしらの仕事さ、坊や」リジュが言う。「あんたはしっかり生き延びて、あの子を幸せにしてやんな」
 アルムの瞳に憂慮が浮かぶ。
「今の彼女にはエラリイ……君が必要なんだ。もし……彼女の元を去った理由が自らの罪なのなら、君のとる道は二つだ。彼女にすべてを話すのか、最期まで……彼女を騙し続けるのか。でも……騙し続けるのは……辛いはずだよ」
 扉がノックされる。身構えた冒険者たちだが、現われたのはラザナスだった。彼は明いていた椅子に腰掛けると、リジュに瞳で質問してもいいか? と問うた。彼女は首肯き、ラザナスは少年に向き直って口を開いた。
「どうして強盗団に身を置くことになったのか、聞かせてもらえませんか」
 
 
 丘の上の小さな家が、月明かりに晒されて仄かに光っている。
 辺りには不穏な空気が漂っていた。張り詰めているわけでもないが、肌を突き刺すような不快さがある。姿は見えないが、一人の女性の命を奪う狂気が、小さな家を取り囲んでいるのだ。
 なだらかな丘を覆った草花が、わずかに音をたて、揺れている。注視しても、なかなか気づけなかっただろう些細な変化は、ふもとから小屋の裏手へと続き、内から開かれた窓の中へと消えた。
 アオイに出迎えられ、業の刻印・ヴァイス(a06493)はマントを脱いだ。草原の色を模したもので、彼はさらにアビリティを使用することで、夜半の闇に乗じて建物の中にまで辿り着くことができたというわけだ。抱えていた荷物を解き、中から現われた木の断片を彼が組んでいくと、人の上半身が現われる。
「マリアシエル、これはあんたの身代わりだ。窓に立たせておく。悪いが、床で寝てもらうぞ」
 漆黒の帳が降りた丑三つ時を、時機ととらえていたのはヴァイスだけではなかった。村の外れから、三々五々影が這いだしては、同じ方角へと向かっていく。もちろん、マリアシエルの家が建つ丘である。
 男たちは無言のまま、黒いマントの下から白刃を引き抜いた。油を染み込ませた布や、火種を持っている者の姿も見える。マリアシエルもろとも、白い家を焼き尽くすつもりなのだ。
 小さな蒼穹の表面に、黒く蠢くまるで這う虫のような陰が連続する。一人が立ち上がり、火を掲げた。
「させないわよ」
 冷たい空気を、鋭い一矢が割き、男の足下に突き刺さった。木陰から現われたイツキが月光を浴び、弓を構えた姿が浮かび上がっている。
「覚悟しな!」
 イツキに預けていた無銘の鈍刀を右肩に、リジュが紅蓮の咆哮を放つと、複数の強盗たちが身体を強ばらせた。
 丘の全周囲をカバーするように点在していた冒険者たちが、次々に強盗たちに襲いかかる。
「命が惜しかったら大人しく縛に付け……。抵抗されると手加減ができないからな……死ぬぞ」
 エンハンスのフレイルが、手向かった悪党の肩を砕いた。彼の赤い瞳は、遠い彼方をさすらうような、押し黙った視線を悪人たちに突き刺している。
「殺して……楽にするつもりはない」
 小宝珠が煌めき、放たれた衝撃が悪党の腹部を打ち据えると、直撃を受けた男は身を丸めたまま丘を転がり落ちていった。
「さてさて」
 ヒュンヒュンと風を切る音がして、エルの頭上で回転していた何かが投擲された。それは、ロープの両端に重しを付けたもので、地面すれすれを飛ぶと逃走を試みていた悪党の足下に絡みついた。
 リドは、付近にエラリイがやって来ていないか心配していたが、近寄ってきた敵に気づくと、暗闇へワンドを突き出した。心の力が目に見えぬ弾丸となり、敵を吹き飛ばす。
「逃がさない」
 ターバンを外し、髪を晒したラトが、ツァトグァの眼を掲げる。バリバリバリと羽音のような音が周囲を包み込み、無数の針が強盗団の目前にそびえていた木々の表皮を深く穿ち、幹を薙ぎ倒した。
「なぁ〜ん」
 ペットが竹箒を振り回す。生じた圧力が一人の悪党を弾き飛ばす。
 飛んだ身体を、巨躯が受けとめる。怯えた様子の悪党を、その震えから察したグリードだったが、胴に両腕をまわして力を込めると、手足をじたばたと抵抗するのもかまわずに、背面へ放り投げた。鈍い音がして、首から地に叩き付けられた男は、身体をだらりとさせて失神している。
「悪いな、怨め」
 パオロにマリアシエルの護りを任せて、外へ飛びだしたヴァイスが言い放つ。そして、薄刃のスライサーが空を旋回した。バタリと男が倒れる。
「癒しの風よ、我が手足となりて、彼らを癒し給え」
 アオイのしなやかな身体が、丘の上でぼんやりとした明かりを放つ。仄かな光が丘の表面を覆うように広がって、仲間たちの傷を癒した。
 戦闘は終結した。だがそこに、ガンツの姿は見当たらなかった
 
 エンハンスが村へと駆ける。他の仲間たちも、林や街道、ガンツが逃走する可能性のある場所へ散っている。悪党は自らの手を汚すつもりはなかったのだ。だが、その結果を近くで見届けていた可能性はある。
 村の入り口で、二つの影が踊る。
「くっ……」
 大きな影が、小さな影を組み伏し、青く輝く刃が掲げられる。
「はぁ!」
 フレイルが力任せに投げつけられた。鈍く骨の砕ける音がして、大きな影が転倒する。小さな影は……動いていない。
「エラリイ!」
 叫んだエンハンスが、少年の身体を抱きかかえる。
 そこへ、エルが駆けつける。
(「死んだ大切なのを見るのは……嫌だ」)
 ガンツは死んでいた。だが、エラリイの瞳が開かれる。
「おい、意地でも生きてけ」
 エルが拳でこつんと少年の額をうつと、エラリイは弱々しく笑った。
「エラリイ……お前はガンツの居場所を知っていて、刺し違える気だったな……? マリアシエルの傍に居ておけ……それだけで彼女は幸福になるんだぞ」
 穏やかな眼差しを向けて、エンハンスが言うと、少年は首肯いた。
 
 
 カンカンカン。
 甲高い音が、朝の清冽な空気の中、広がっていく。
 ヴァイスが鎚を手に、破損した白い家の壁を修理している。自分で壊してしまった箇所だ。
「なんて言おう? お二人でお幸せに……くらいしか考えつかない」
 釘をヴァイスに手渡しながらリドが悩んでいると、アルムは窓を指差して悪戯っぽく笑った。
 二人が家の中をのぞいてみると、そこにはベッドに眠るエラリイと、付き添っていたのだろう、椅子からベッドへと上半身を横たわらせたマリアシエルの姿があった。
 
 朝日が登る前の深夜、エンハンスが伝えたエラリイの秘密を、マリアシエルは知っていたと言った。エラリイが同郷の懐かしい顔と最初は信じたが、次第に疑い、そんなことなどどうでもよくなったのだと告白した。
 エラリイは、自分がガンツに脅され、騙されていたことを懺悔した。そして、自分の過ちによって多くの人命が失われ、マリアシエルを苦しめたことに涙した。彼は妹をガンツにさらわれ、強盗に加担させられるとは知らずに、働かされていたのである。
 部屋の隅で、静かに耳を傾けていたイツキが口にした言葉に、女と少年は深く首肯いた。すれ違うくらいなら、本当の気持ちで確かめあうべきだ……。
 アオイは、パオロに頼んで描いてもらった二人の肖像を手渡した。
 そこには、彼女が想いをこめた詩が添えられていて……。
 
 過ちを認め新たなる一歩踏み出す、云うは容易
 されどいざとなれば踏鞴を踏む、しかしそこに光り有り
 光は共に新たに道を歩む勇気を与えん
 振り返るなとは云わず、だが光と共に新たな道を切り開く事を願わん


マスター:水原曜 紹介ページ
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