コートのお誕生日:おいも夜会



<オープニング>


 草笛の霊査士・コートは今日も酒場で、ほっくほくお芋とカボチャのパイに挑んでいる。もちろんホールまるごと独り占めコースだ。
「コートさまコートさまー」
「ん、いよう、ビアンカでねえか。食うか食うか?」
 そこへやって来たドリアッドの牙狩人・ビアンカは、やってくるなりパイをひとかけ刺したフォークを彼に差し出された。
 思わず受け取ってしまいながら、はっとしたようにもう片方の手を左右に振るビアンカ。
「違うのです、御菓子を頂きに来たのではありませんよ! もぐもぐ……」
 そうは言いつつも頂いたものはしっかり頂いてから、彼女は本題へと話を進めた。
「……それでですね。なぜ今日お尋ねしたかと申しますと、ご相談なのですよ」
「うーん、依頼なら今は入ってないぞう」
「冒険依頼のお話でもありませんったらー。コートさまのお誕生日が近くだとうかがったので、お祝いの会の相談をしようと思いましたの」
 どうやら、暴風怒涛の朱金星・アレクあたりから聞き出してきたものであるらしい。返答を待って眼をきらめかせているビアンカに、コートはぼさっとした髪の毛をかき混ぜた。
「そんなんいらねぇだよー。もうこの年だし、なんか悪ぃしな!」
「なにか召し上がりたいものですとか、お出かけしたいところですとかー、ごらんになりたいものですとか〜……」
 元・自称探検家はへこたれない。指折り数え、なにかないかと全身で訴える。そんな気迫に押されたか、コートはほおばっていたパイを飲み込み、腕組みしてひとっつうなずいた。
「じゃー……芋掘りでも行くか! ちょうど、知り合いのおっちゃんが畑の手伝い探してんだ。おらは行くつもりだっただども、もうちょい人手あると助かるからな!」
「おいも……おさつのおいもですの?」
 大皿パイに目をやって、ビアンカは小首をかしげる。
 コートは勢い良くまた何度かうなずいて、尻尾を楽しげにぱたぱたとさせた。
「うんうん。そいでさ、おすそ分け貰えるってことだから、そいつで芋会でもするだ。なんかこの前、どっかの地方で、芋に顔彫ってランプにしたり、飾ったりする祭りがあるって聞いたんだよな。ちびっこがおとぎばなしのお化けのかっこしてさ、夜になると焚き火の周りで、輪になってぐるぐる踊るんだ。ちょっと楽しそうだろー?」
 からっぽのフォーク片手にコートの話に耳を傾け、ビアンカはいい方向に傾いてきた話をまとめにかかる。
「そしたら、お芋のお食事会にいたしましょう。はらっぱかどこかで、まあるくなって!」
「おおお、いいなーそれ! 芋食うだ芋!」
 今しがたおさつ芋をたっぷりたいらげたばかりだというのに、コートは満面でにかーっと笑う。なんだかんだとは言っても、楽しいことは嫌いではないのだ。美味しいものが絡むのなら、なおさらのこと。
「はい、決まりですの! コートさま、楽しみにしててくださいな」
 結局――お祭りに用いるのは芋ではなくカボチャではないかと指摘するしっかり者は、この場にはいなかったのだった。

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参加者
NPC:草笛の霊査士・コート(a90087)



<リプレイ>

●芋づる式
 首に手ぬぐい、背に負う編み籠。芋掘り準備万端で現れたコート(a90087)に、疾走する矢のごとく突進してくる黒い影があった。
「コート、おたんじょうびおめでとー!」
 どーんと元気いっぱいにとびついて猫尻尾を揺らすのはロアン(a03190)だ。危うく気絶しかけながら、コートはずっこけた手ぬぐいをなおしなおし、ようやっと今日のことを思い出した様子だ。
「おおお、そういやそうだった! ただの芋掘りかと思ってたや」
「十九だよ十九! すっごいな! 今日はいっぱい掘っていっぱい食べようー! ほら、アレクも一緒に掘ろうよってひっぱってきたんだ!」
 勢いに乗せられ、芋につられてやって来たらしいアレク(a90013)は、仏頂面になぜか警戒の色を乗せて辺りを見回していた。まるで何処かから飛来するいがぐりを見逃すまいとしているかのように。
「みんなで芋ほり、楽しみだね♪」
 ズボンの裾を引きずらないよう巻き上げて、こちらもやはり土いじり準備良しのシェイ(a12634)が楽しそうに声を弾ませた。
「さ〜て。爆砕拳でも使って、ザクザク行きますか♪」
「えっ?」
 爆弾発言のリフィ(a06275)は目を丸くしたシェイに向かって、ひとつウィンクしてみせる。
「な〜んて、冗談冗談。普通に掘るよ〜☆ 芋がいたむといけないからね」
 お天気は最高、熱気を程よく冷ます秋風が吹きぬけて、畑仕事ははかどった。
「てるてるさんにお願いしておいた甲斐がありましたわね」
 土塊の下僕をこしらえるため、イングリド(a03908)は畑の土を両手ですくい上げ、柔らかな感触と大地の匂いに目を細める。造られた土人形たちはといえば、冒険者たちが掘り出した芋をせっせと畑の外に運び出していた。
「掘るぜ掘るぜ掘るぜー!!」
 ものすごい勢いで芋づるを引っ張り出しているワスプ(a08884)のような者もいたので、土塊の下僕は良い手伝い要員になっているようだ。
「……で、なんで芋掘り手伝ってるんだ、俺は。今日は確かコートの誕生祝いじゃなかったか?」
「大丈夫なのです。コートさまはきっと、ただのおいも掘りと思っていますのよ」
「それってどうなんだ? ま、いいか……今日はなんもかも忘れて掘るさ。よし!」
 鼻から息を吹き出して、再び高速芋掘りを再開するワスプ。ビアンカ(a90139)はにこにことうなずいて自分も芋のつるを引いた。ところが、なかなかに地中のたからものは顔を出してくれない。様子を見かねたマイト(a12506)が肩を突付いた。
「ビアンカさん、何されてるんですか? ……引くつるを足で踏んでいては、抜ける芋も抜けませんよ」
「あら? まあ、本当なのですね」
 そうしてビアンカが芋を引き出すのを手伝ってやりながら、様子を見ておいて良かったと思うマイトであった。

●芋ランプの怪
「さぁてまずはこれだ。お芋も良いけどみかんもね……という事でコートおめでとう」
「これもあげよう。使用季節限定のような気もするが」
 前触れ無くシュウ(a00014)から手渡された箱の上に、愉快な顔のかぼちゃが乗っかる。落ち葉を集めて回っていたコートは、ほうきを投げ出し、慌てて箱を受け取った。でかでか『ゑひめ』と書かれた木箱には、言葉の通り橙色の果実が一杯詰まっていた。
「みかんみかんみかんみかんー! とかぼちゃ! わはは、ヘンな顔だなあ!」
「そこはかとなく季節限定だな……家の置物にでもするといいさ」
 めだまを輝かせ、かぼちゃの頭を叩くコートに、クレウ(a05563)がにっと笑いかける。シュウはといえば妙に気合の入った音程の鼻歌を奏でつつ、ほうきを持ってどこかへ去って行った。
 急造の屋外厨房では戦争が繰り広げられていた。掘り出されたおさつ芋の泥を手早く丁寧に洗い流すエイル(a00272)の手元を後ろからのぞき込むルティス(a07089)。
「エイルは何を作るの?」
「皆で食べられて……美味しいもので、作るのに時間がかからないもの。スィートポテトはどうかしらと思いましたのですけれど……」
「いいじゃない! 私にも作り方教えて?」
 仲良く御菓子作りを始めた彼女等を横目でちょっと見やって、イツキ(a00311)はヴァイス(a6493)に声をかけた。
「そうそう、すじが残らないように裏ごししてね♪ その間に私は飾り分を切って、と……他のお料理と時間合わせて完成させたいわね♪」
 イツキのパイ作りの助手をつとめるヴァイスは、芋をすりつぶす手を止めないままにうなずき返す。
「誕生日に貰った焼き芋の礼でもないが、美味いもん作るぜ!」
「そうだね。僕もお菓子作るくらいしかできないし……頑張って作って、みんなで一緒に食べよう」
 やはり芋の裏ごし作業をこなしつつ、シェイが穏やかな微笑みを浮かべた。
 一方、喧騒から離れて二人、別の角度から芋に挑む者たちがいた。
 手には彫り物用のナイフ、そしておさつ芋。
「芋に顔彫ってランプにって……またずいぶん緻密な腕が要求される細工物だな」
「彫刻の細工なら任せてほしいところだけど……芋はやわらかいから、ランプは難しいね」
 時折交わされる会話以外は沈黙の中、ティキ(a02763)とリシェル(a13598)は芋に顔を掘り込もうと、刃先を動かしている。元々はコートの勘違いに過ぎなかった芋ランタンが、ここに実現されようとしているのだ。
「ワイルドファイアの巨大芋とかじゃないんだもんな……」
「あぁ、芋ハンコでも作ろうかな」
 会話が繋がっているようで繋がっていない。どうにも不可思議な空間だった。
 
●お芋deフルコース
「コート、お誕生日おめでとう」
「お誕生日おめでとう、コートさん♪」
「こんなでっかくなってまで祝ってもらうのはなんか照れくさいけど……たまには誕生日もいいもんだな!」
 とどこおりなく準備の整った会食の席。コートはどことなく身体をすぼめてお祝いの言葉を受けた。彼の歳を聞いてみて、ルティスは口に手を当て笑った。
「同い年じゃない……まだまだこれからよ。思い切り楽しみましょう?」
「んだな。みんなありがとうなー!」
「それじゃ食べよう食べようー、オレお腹ぺっこぺこ!」
「おー、食べるぞ!」
 なんといっても豪華なのは、掘り立ておさつ芋を使った料理の数々だ。
 スィートポテトや、おいもパイ、一口サイズのおいもレアチーズケーキはもちろんのこと。おなじみのものならばスープやごはん、フリッター。もちろん焼き芋もある。
「ふふふ、焚き火の後のお楽しみーっと……あれ?」
 火勢の弱った第一弾焚き火から、埋めておいた自分用芋を取り出すシュウ。ところがどうも、埋めたときより芋が増えているような気がしてならない。悩んでいると横合いから木の棒が伸びてきて、数個の芋をさらって行った。リフィだ。
「これ、あたしが埋めたやつ〜。ああそうだ、一番大きいのをコートにあげよう」
 少し変わったものではからりと揚げて糖蜜とからめたお菓子や、料理には使わない皮の部分を揚げて砂糖をまぶした『花林糖』など、あらゆる芋料理が揃っていた。
「あの、でっかい魚なんだっけ?」
「鯛みたいだね。しかも尾頭付き。すごいじゃんか!」
 基本的に内陸育ちであるらしいコートが、食卓の中央付近で異彩を放つ魚料理を指差すと、リオン(a05794)が目ざとく魚の種類を見分けて教えてやる。
「生まれた赤ん坊が一生食べることに困らないよう願いを込めて、『お食い初め』という、儀式でもありませんけどね……ちょっとしたおまじないをする地方があるのですよ。そのつもりで今日は奮発をしてみました」
 本物の柿をくりぬいた器に酢和え物を盛った『柿釜』に、いがぐりそっくりの恰好をした栗の揚物――数々の手の込んだ料理を作り上げたニューラは、飲み物のグラスを傾けながらそれぞれの由来や意味合いなどを聞かれるままに説明してやった。マイトがそのひとつずつにうなずき、感心する。
「芋にはそういった調理方法もあったのですね」
「うーん……大きいのにして良かった。たくさん召し上がってくださいね♪」
 シュシュ(a09463)の焼いたケーキは近くに寄るとふかふか甘い良い香りを漂わせる。やさしいお芋の黄色にあたたかい橙が混じるマーブル模様の生地。飾られた木の葉の深い緑色とかぼちゃお化けがケーキを秋景色に仕立てていた。
 久しぶりにこしらえたシチューがまっとうな味をしていることにほっとしたのだろう、エスニャは明るい表情でリシェルがスプーンを口に運ぶのを見守る。
 アリス(a10251)は、自分の食事も上手にこなしながら広い食卓の給仕に走り回っていた。こころなしか、アレクの背後を通り過ぎる時には視線がちょっとだけ彼にうつる。頬のばら色は灯火に照らされているからだろうか。それとも。
「ふふ、私の胃袋はドラゴンズゲートさよ?」
「むーっ。負けねえだ! んがっ? んぐぐ……み、水ー!」
 クレウと大食い対決中だったコートが、まんまと芋をのどにつまらせかけて助けを呼ぶ声が聞こえる。
「あ……はい、ただ今参ります!」
 次に彼の後ろを通りすがるときには遠いところにあるあのお菓子を勧めてみようと、通りすがる度に思いつつ、なかなか言い出せないアリスであった。

●まつり夜更けて
 昼間の疲れもあってか、夜を徹して騒ぎ通すことが出来そうな者はさして残っていなかった。いねむり船の船頭になっている者、仲間と談笑を楽しむ者――会場の片付けにいそしむ者を除いて、ほとんどの参加者が静かな時間を楽しんでいた。
「冒険者ばっかりこんなたくさんどっと来てさ、芋畑のおじさん驚いてたの、面白かったね」
「なのですね♪ コートさまもとっても楽しそうにしてらしゃって、本当によかったのですよ。またちょっと、失敗してしまいましたけれど……」
「失敗は誰にでもあるもの。これからまた頑張れば良いのよね♪」
 なんででしょうと腕組みするビアンカの頭を、お姉さんの優しさでイツキがなでる。彼女が毎回のように何か失敗していることを知っているリオンは、何も言わずにこっそり笑った。
 さて主役であるはずのコートは、いつの間にかその辺の地面に仰向けに転がって寝息を立てていた。おそらくは、エスニャによるお祝い演奏が終わるか、終わらないかの辺りだろう。美しい曲はこころを休ませ、ちょっとの眠りも誘ったのだった。
 ヴァイスに貰った尻尾お手入れセットをさっそく試してみたのか、いつもぼさっとした狸毛がなんとなく整っているようだ。そのキットはどうなったのかというと、シュシュがかぼちゃお化けの刺繍を入れてくれた新緑色のベルトポーチにきちんとしまわれていた。
「おお、その木彫り人形、モデルはコートだな。なかなかやるじぇねえか」
「キミもね。それだけの出来の芋ランプを、この短い時間で良く作ったと思うよ」
 リシェルが贈り物として持って来た手作りの人形を手に、ティキが食事の合間を縫ってこしらえた芋ランプをつないだレイを手に、にやりと顔を見合わせる。
 コートが腕の中に抱えているのは「おっきい口に負けないように!」ロアンがこしらえた大きな木のさじ、イングリドに贈られたやはり大きめの「両手で持ってあたたまれるような」マグカップ、そしてニューラが選んだ朱塗りの器とお箸、蓮華。首には芋おばけのレイがかかり、どんぶりにはちっこいコート人形が加わった。それらを御供によだれをたらしてむにゃむにゃ眠っているのだから、さぞや美味しい夢を見ていることだろう。
「さてと……私も渡しそびれてしまいました、ね」
 食事会の片づけをひと段落つけてから様子を見にやって来たエイルは、もう包装をといてしまった若草色の軽やかな外套をコートに着せ掛けてやる。カードを、どんぶりに入ったコート人形の手前に立てかけた。
 そうして誕生祝いの夜は更けてゆく。おさつ芋と新鮮な土の、幸せな匂いに包まれた夜だった。


マスター:阿木ナツメ 紹介ページ
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