ドリアッド方面先遣隊:闇夜の潜伏者



<オープニング>


●勝利の為に必要な事
 その日、旅団の長を集めた円卓の間で一つの決定が行われた。
『レグルス及びドリアッドの国へ大規模な救援を派遣する』
 僅差で可決されたこの決定を受けて、同盟諸国では大規模な遠征を行う為の準備が慌しく始まった。
 だが、同盟諸国が列強種族と正面決戦を行った例は無く、その準備には少なからぬ時間が必要であった。

「レグルスに関しては、この遅れは致命的とはならないと思います」
 ユリシアは集まった冒険者達にそう告げた。
 レグルス周辺の民衆がリザードマンによって苦しめられ、今この時も命を落とそうとしている。
 これを捨て置く事は冒険者として許し難い事ではある。
 だが……、
「大作戦の発動を敵に気付かれない為にも、レグルス方面については現状のまま放置する事が望ましいのかもしれません」
 冒険者は自らの民を守る者。……だが大の虫小の虫という言葉もある。
 列強種族との戦いの中、明日1000人を救う為に今日の100人には目を瞑らなければならない事は否定できない事実なのだろう。
 そう説明するとユリシアは決意を秘めた眼差しで、あなた達を見渡すと話を続けた。
「しかし、ドリアッドの国は放置する訳にはいかないのです。救援が到着する前に聖域が陥落してしまえば、今回の作戦は失敗となってしまうのですから」と。
 確かに、ベルフラウが無事辿り着いた事から、ドリアッド達の士気は高まっただろう。
 援軍の当ての無い篭城戦ほど絶望的な戦いはなかったのだから。
 しかし、それだけで耐え切れる筈も無い。
「そう、救援の本隊が到着するまでリザードマン軍の侵攻を抑える必要があるのです。それも、より直接的な方法で……」
 そしてユリシアが語ったのは、勝利の為に必要な作戦依頼であり、常の冒険依頼とは大きく違ったものであった。
「このような依頼を出す事は、心苦しくもあるのですが……同盟の勝利の為、どうぞ宜しくお願いいたします」
 そういうと、ユリシアは深く深く頭を下げた。

●闇夜の潜伏者
「あなた達には……闇夜の中で、列強種族の冒険者達の虚を突く作戦。つまりは作戦行動中のリザードマンを、直接叩いて貰います」
 けわしい口調で、冒険者達にユリシアは話す。
 敵の虚を突いて攻め入る事に、汚い手段と口にする者もいる。
 しかし、時には冒険者達も非情にならなければならないのである。ユリシア自身も冒険者達に、非情になってこの作戦を遂行して欲しい、と話しているのだ。
 そしてユリシアは、ドリアッドの国の全体地図を出す。
 地図には、リザードマンが攻め落としたドリアッドの集落が印で記されている。それを見るとドリアッドの聖域に、着実に侵攻の手が広がっているのが良く分かった。
 指を伝わらせ、彼女が指した場所は……ドリアッドの聖域に近い、印の付けられた集落、そしてそこに至る森林地帯。
「あなた達が狙うリザードマン達は、攻め落とされた集落に向かうリザードマン達です。彼らは攻め落とされた集落に居る仲間と合流する為に移動中しています。既に支配下の集落へ向かうという事から、彼らは油断をしている事が十分に予測されます。そんな彼らを闇夜に紛れて打撃を与える事。リザードマン達が聖域へ攻め入る時間を少しでも稼いで下さい」
 ユリシアは続けて、リザードマンの勢力を話す。
「リザードマンの数は12人位だと思いますが、本当の数は分かりません。しかし夜という時間……うまくいけばその大多数を無力化する事も可能でしょう。彼らはドリアッドの若い女を一緒に連れて行っていますが、彼女達が反乱するなどとは微塵(みじん)も思っては居ない筈です」
「集落には取り残されたドリアッドも数名残っている筈です。ですが、この作戦は、リザードマン達に打撃を与える事を最大の目標として下さい」
「彼らの居る森林は、深い森で視界もほとんどありません。彼らは松明を手に集落へと向かっています。そして足場もかなり悪い状態です……リザードマンが体制を整う前に、多くのダメージをリザードマン達に与え、そして離脱する……電撃作戦をお願いします。リザードマン達も愚かではありません。支配された集落の仲間達に助けを求めに走り、仲間達を連れて戻ってくるのは十分にありえます。その時まで残っていたら……貴方達に逃げ道は無くなるのですから」
 ユリシアの最後の言葉の真意……作戦の失敗は、その身に危険が及ぶ事を暗に示していた。


!注意!
 このシナリオは同盟諸国の命運を掛けた重要なシナリオ(全体シナリオ)となっています。全体シナリオは、通常の依頼よりも危険度が高く、その結果は全体の状況に大きな影響を与えます。
 全体シナリオでは『グリモアエフェクト』と言う特別なグリモアの加護を得る事ができます。このグリモアエフェクトを得たキャラクターは、シナリオ中に1回だけ非常に強力な力(攻撃或いは行動)を発揮する事ができます。

 グリモアエフェクトは参加者全員が『グリモアエフェクトに相応しい行為』を行う事で発揮しやすくなります。
この『グリモアエフェクトに相応しい行為』はシナリオ毎に変化します。
 霊査士ユリシアの『グリモアエフェクトに相応しい行為』は『heartless(非情)』となります。
 情に流されず任務を全うできるように頑張っていきましょう。

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参加者
緋き風の舞姫・ハルカ(a00118)
木漏れ日を揺らす風姫・ナナ(a00225)
水月・ルシール(a00620)
鋼鉄の護り手・バルト(a01466)
ストライダーの吟遊詩人・フロル(a01622)
焔風の・アガート(a01736)
小朋友・フィオリーナ(a02140)
闇に光を求める邪竜導士・ラディリヤ(a02903)


<リプレイ>

●偵察
 朝。朝もやがドリアッドの住む森を包んでいる。
 その朝もやの中、一人の影が動いていた。
「……あそこ、ね」
 木漏れ日を揺らす風姫・ナナ(a00225)は、ドリアッドの集落へ向けて進軍するリザードマンの部隊を探していた。
 木の上を次々と飛び移り、その集団を見つけ出すナナ。
 ある程度近付いて、望遠鏡からリザードマンの集団を確認する。
 ドリアッドの数は5人。そしてその前後をリザードマンが3つの層となって囲んでいるという隊列である。
 そのドリアッドの顔は、もう諦めた風の表情だ。彼女達は、今後一生周りのリザードマン達に奉仕する事を決定付けられてしまっているのだから。
 望遠鏡で敵の姿を確認し終えると、ナナは独り呟く。
「ゴメンね……本当は、皆助けたい。でも……」
 その後の言葉をナナは飲み込むと、仲間達の元へと急いで戻っていった。

「という訳で、隊列はこんな感じだったわ」
 ナナが仲間達へと敵の隊列を報告する。鋼鉄の護り手・バルト(a01466)は顎に手を当てて考えた。
「ふむ……ナナ、ご苦労様。部隊の構成が分かれば、作戦を立てるのが楽になるからな」
「ええ……そうね。でも、もうドリアッドの人達は諦め顔だったわ。どうにか助けたいけれど……」
「だが今回の作戦は、非情になれ、だろ?」
 ストライダーの武人・アガート(a01736)がナナの言葉を遮ってそう話す。
「アガート……」
「全て俺に任せておけ。俺が全てのリザードマンを倒してやる。ドリアッドも出来る限りは助けようとはするが……まぁ、期待しないでくれ。俺はこの身を掛けて、絶対にリザードマン達をぶちのめしてやるぜ」
「でも貴方が死んじゃ、意味が無いんだよ?」
「分かってるよ、自分から死を選びはしないぜ」
 小朋友・フィオリーナ(a02140)の言葉に、クールに微笑むアガート。
 そんなアガートに、ナナは。
「……分かってるわ。分かってる……でも……」
 再びナナは言葉を飲み込み、頬をパンと叩く。迷いを振り切るように。
「私がどうこう言っていてもしょうがないわね。私達はユリシアに非情になれと言われてこの依頼に参加した。だからこそ……この依頼、ドリアッドを犠牲にしてでも成功させなきゃ」
「でも……非情になれと言われても、私にはすぐには無理です。……ドリアッド、助けたいです……」
 ストライダーの吟遊詩人・フロル(a01622)がぽつりと呟く。誰もがこの事を、心の底では希望しているのだ。

●潜伏者
「そろそろ集落だな、ふぅ……同盟諸国のやつらがうろちょろしているって噂を聞いたものだが、誰も襲ってきやしねえ。同盟諸国の奴らは俺達の強さに恐れをなして逃げたのかもな、へっへっへ」
 リザードマンの下碑た声が森の中に響く。
 まるで自分の所有物の物かのように、ドリアッドの若い女性達を扱うリザードマン。そんな憎らしいリザードマンの振る舞いに拳を震わせながら、冒険者達は木の上や木陰に息を潜めていた。
「あと……もう少し。あともう少しで、挟撃出来る位置に入るわ……」
 緋き風の舞姫・ハルカ(a00118)が小さくそう呟く。
 着実に作戦位置へと近付いてくるリザードマン。もう少し、あと少し……。
「今だ、行くぞっ!」
「……当たってっ!」
 リザードマンが足を踏み入れたと共に、バルトの合図。
 作戦位置に足を踏み入れたリザードマンへ、ナナが貫き通す矢を放った。
 暗闇の中から襲い掛かる弓矢。リザードマンの後方から放たれた弓矢は、風を切り裂く音と共に後方二層目のリザードマンの肩へと突き刺さる。
「くっ! 誰だっ!」
 仲間の肩に刺さった透き通る矢を見て、リザードマン達は立ち止まって周囲を見渡す。
 その時、闇夜の中からバルトとアガートの二人が突然姿を現す。
 リザードマンの虚を、完全に突いた形になった。
「死ねっ!」
「ゴールが近くて油断しすぎなんかじゃないのかっ!」
 バルトのメイスがリザードマンの頭上から降りかかり、アガートの長剣が明りを持つリザードマンの手を襲う。
 明りを持ったリザードマンの手から、松明が振り落とされる。
 周囲に突然の暗闇が広がる。僅かな月明かりを頼りにするしかないものの、それは敵も相手も同じ事だ。
「うぬぅ……こっちだ、殺せっ!」
 リーダー格のリザードマンが、全ての注意を後方へと向け、洗われたバルトとアガートの殲滅を命じる。
 そんなリザードマンに、アガートは不敵に笑う。
「へへ……敵は後ろからじゃないんだぜ」
「何っ……伝令っ!」
 その言葉に、リザードマンの伝令役の一人が、集落の仲間を呼び寄せに前方へと走り出す。
 しかし、その時。
「助けを呼ばれては困ります……そこで大人しくして下さい」
「命が惜しかったら、森へ逃れろっ!」
「みんな眠っちゃってっ!」
 ハルカとエルフの邪竜導士・ラディリヤ(a02903)の声が上から響く。
 ハルカは武器・SilverRainを、木の上からリザードマンへと放つ。
 雨のような鋼糸が降り注ぎ、リザードマンの体を傷付けていく。
 その雨の中をラディリヤが駆け抜けていき、リザードマンの伝令に短剣で一太刀を喰らわせる。
 そしてフロルの眠りの歌が、続けざまにリザードマンを次々と眠りへといざなう。
 前方にも後方にも敵が現れた現状。挟撃を受け、まんまと自分達は術中に嵌められた、とリザードマン達は気付く。
 伝令も倒れたこの状況。リザードマンのリーダーは。
「くっ……仕方ない!」
 リーダーは大声を張り上げる。集落まで届く程に。
「ふっ……これで増援が来る筈さ……。あとは増援が来るまで、お前達を迎え撃つだけだ」
「くっ……もっと眠って、みんな、眠っちゃえっ!」
 更に眠りの歌を掛けるフロル。
 まだ起きているリザードマンに対し、フィオリーナは小柄な体を生かし、その懐へ飛び込み爆砕拳をその胴体に叩き込んで朦朧とさせると、すぐさま離脱する。
 ラディリヤも、復讐者の血痕を使い、敵と戦い自分のダメージをそのまま敵に跳ね返すと、着実にダメージを重ねていった。
 最初はリザードマンの方の数が多かった筈である。しかし今立っているリザードマンの数は冒険者の数よりも少ない。
 だが、リザードマン達はドリアッドという盾がいる。
 仲間達を蹴って起こす時に、近くのドリアッドの手を引いて盾にしたリザードマン達。
「へへ……これでてめえらも手を出せないだろう!」
「くっ……やっぱり汚いよ!」
「何とでも言えよ。戦闘には汚い事も付物だぜ?」
「そうだな、それじゃ遠慮なくやらせて貰うぜ!」
 アガートの言葉に呼応するかのように、その長剣が淡く光り始める。
(「……これが……グリモアの力……何だか力が沸いてきた気がするぜっ!」)
 アガートはそう呟くと、ドリアッドの盾に怯む事無くその太刀をバルトと共に振り下ろす。バルトのメイスも同じく光り輝いていた。
 しかし、もう時間が無い。リザードマンの仲間達の足音が着実に近付いてくる。
「……みんなを、失いたくない」
 エルフの紋章術士・ルシール(a00620)が作り出した土塊の下僕が、リザードマンの側方の草むらを揺らし、続けざまに投石を行う。
 前後左右からの攻撃に、リザードマン達はドリアッドの盾を使いながら自分の身を守るので精一杯であった。
「あいつだけに集中しろ! 散らばるんじゃない!」
 リザードマンのリーダーが、冒険者の一人に狙いを集中させる。それはアガート。
 リザードマン達は、アガートへと攻撃を一気に集中させる。取り囲まないように仲間達がアビリティや武器を使用する為に、軽い傷は負うものの酷いけがは負わずに済んでいた。
 しかしその時。
「前方から増援が来るようだ。そろそろ退き時だぞ」
 ラディリヤが、エルフの夜目を通じてそう感じとる。
 バルトへと叫ぶと、バルトはラディリヤの言葉を受けて笛を吹く。
 笛の音が、冒険者達の逃げる合図。仲間達はその笛の音と共に森の中へと姿を消していく。
 しかしバルトだけは逃げようとはしなかった。仲間達の尻につき、追っ手を振り払うため。そして。
「お前、逃げろっ!」
 バルドが、リザードマンが僅かに目を離していた、ドリアッドの若い女性二人を逃がそうとしていた。
「逃がさんっ!」
 逃がそうと、後ろを向いたバルト。態勢を立て直したリザードマンが渾身の一撃を浴びせかける。
「ぐぁぁっ!」
「バルトさんっ!!」
 ルシールは叫び、土塊の下僕をバルトとリザードマンの間に呼び出す。
 リザードマンが土塊の下僕に手間取っている間に、ルシールはバルトの所へと駆け寄る。
「バルトさんっ」
「……大丈夫だ、行くぜ」
 バルトは傷を負った場所を押さえながら、森の中へと消えていった。

『パシィィィンッ!』
 森の外で、張り手の音が響く。
 叩いたのはルシール、叩かれたのはバルト。
「ルシール……」
「……馬鹿! 心配……したんだからっ!」
 ルシールは、涙を流しながら怒っていた。
 死ぬ気でドリアッドを助けようとしたのは分かる。でも……彼自身も大けがを負ってしまったから。
「わりぃ、こういう性格なんでな……諦めてくれよ」
「バルト……そんな、諦めないよっ! 私、私……バルトを失いたくないもん」
「分かったよ……すまなかった」
 バルトは静かに、ルシールの肩を叩いた。
 一方、助け出されたドリアッド達も泣いていた。
 残りの三人は助けられなかった。きっと今頃……。
「……今は、耐えてください。必ず、ドリアッドの皆さんを助けて見せますから」
 唇をかみ締めながら、そう答えるしかないハルカ。ナナも、手をぐっと握り締めると。
「ずっと……負けられないの。助けられるほど……ナナの腕は広くないもの……でも、でも絶対に……」
 二人の言葉を聞いて、最後にラディリヤはドリアッドの二人に告げる。
「貴様達からすれば、非情、だと思うだろうな。その誹り、我は進んで受けようぞ」
 泣き続けるドリアッド達。彼女達の平穏の日々はまだ遠い。


マスター:幾夜緋琉 紹介ページ
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重傷者:鋼鉄の護り手・バルト(a01466) 
死亡者:なし
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