銀色の騎士



<オープニング>


「モンスター退治、の依頼や」
 翡翠の霊査士・レィズはそう言って酒場に集まる冒険者を見回した。
「とある森。先日、木こり二人の遺体が発見された。一人は滅多刺し、もう一人は心臓を一突きやった」
 霊査した所。敵は銀色に輝く鎧のようなモンスター。鎧と言うとゴツゴツしたイメージがあるだろうが、このモンスターはスマートなフォルムを有したモノ。
 身長2.5mの細身の鎧は固く防御に優れており。優れているのはそれだけでなく、剣の腕も相当のモノ。
「身体の大きさに見合った針のように細い剣。その剣技は翔剣士の技に至極似とる」
 木こりの一人はスピードラッシュの様な技によって連続で突かれ、滅多刺しにされたらしい。また、素早い動きは侮れず、そこから繰り出される強烈な一撃は回避も難しいだろう。
「幸い、そのモンスターは森の中を徘徊しとって未だ人里に降りてくる気配はあらへん。だからと言って放って置く道理もないし、今後考えるとなぁ」
 実際森に生活の糧を求める人々に被害が出ている。そして近い将来人里に出てこないとは限らない。
「森の中にちょっと開けた場所があるんやわ。木こりが襲われた場所なんやけど、徘徊ルートに含まれとるみたいでそこ行けばほぼ確実に遭遇出来るやろ」
 銀色の騎士の如きモンスター。もしかしたら、まだ他にも一つか二つ、技を有しているかも可能性がある。が、そこまでは戦ってみないコトには解らない。
「さて、こいつと勝負してみたい奴はおるん?」
 そう言って、レィズはニッと笑いかけた。

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参加者
紅ノ牙・アレキサンダー(a03374)
錫蘭肉桂・シンナム(a04618)
天衣無縫・ストライク(a06399)
業の刻印・ヴァイス(a06493)
妙音媛・アールタラ(a10556)
桃百合の四葉姫・メルクゥリオ(a13895)
艶風に舞う煌紫の華・アコ(a14384)
青嵐の拳・イェル(a15615)


<リプレイ>

「ごめん、レィズ! トーン預かってて!!」
「のわっ!?」
 妙音媛・アールタラ(a10556)は有無を言わさず子兎をレィズに押しつけた。流石のレィズも突然で驚いたのか。動く子兎抱き抱えるのにやや苦戦。
「……ま、エエけど」
「ちゃんと迎えに帰ってくるから! だからお願い!」
 ペコリと頭下げてアルは言う。大事な友達の兎を預け、必ず戻る。それは彼女なりの決意の表明らしい。それを察してレィズはしゃあないな、と苦笑した。
「怪我せんと戻ってき。エエな?」
 提供できる情報を全部出した霊査士の残る役目は、皆の無事を祈り、帰還を迎えるのみ。
 兎抱いた彼は、戦いに赴く冒険者達を笑って見送った。

「銀色の騎士かぁ……何かかっこいーよな」
 森の中を歩みながら青嵐の拳・イェル(a15615)はぼそっと呟いた。それ聞いて魅惑の艶舞姫・アコ(a14384)は拳をバキバキ鳴らしながら憤慨して言う。
「ま、不謹慎な! 相手は森を、安全を脅かす輩でしてよ? 天が許してもわたくしが許しません事よ!」
「あ、いや、悪い奴だって事は解ってるよ? けど、モンスターって事は元々冒険者って事で、つまり俺等の先輩だったって事で……」
 アコの剣幕に圧倒され、慌てて追加して言うイェル。その言葉に業の刻印・ヴァイス(a06493)は冷静な声を発した。
「どんな冒険者だったのかは知らんが、付近の住民の安全の為に……殺す」
「その通りですわ。木こりや町の人々が安心出来る様に退治致しましてよ!」
 敵に対して余計な感情を交えず、一般人の安全を第一に考えるヴァイスとアコ。モンスターに怨みがある訳ではない。只、その存在はあまりに危険故なのだ。
「狩りならば致し方ないとしましても、無駄に血を流す行為は許されませんから……。鎧さんには悪いのですが、これ以上被害を出される訳にも……」
 清純なる乙女の祈り・メルクゥリオ(a13895)もそう告げる。
「そうか……そうだよな。全力でぶっ潰すのが礼儀、なんだろうな? っしゃ!」
 イェルは納得しながら両の拳を打ち合わせ、自身に気合いを入れた。
 その彼の様子見て少し安心したメルクゥは改めて一緒に依頼に行く者達を見渡す。心強い仲間ばかりだ。
「……はぅぅ……めるくぅ、小さいなのぉ……」
 ――違った。彼女は自分より遙かに背の高い仲間を見上げてちょっとショック。2mを越す仲間に2.5mの敵。自分があまりに小さすぎる。
「ぅみゅ……どうやったら皆さんみたいにおおきくなれるなのぉ?」
「メルクゥ、元気出す!」
 彼女の呟き聞こえたアルがポンと肩叩いて言う。
「アル、こないだ依頼成功させたら大きくなった! レィズは経験で心が成長したからって言ってた! きっとメルクゥも経験で心も体も大きくなる!」
 同じドリアッドの言葉。個人差はあれど、経験は心を成長させる要因になるだろう。
 依頼を成功させたらもしかしたら……そんな期待を胸に、決意を新たにして。

「えっと……こんなもんでどうですかね?」
 紅ノ牙・アレキサンダー(a03374)はロープを結びながらヴァイスに問いかけた。
 森の中の小さな広場。木こり達が木を切り出した為に出来た場所は戦闘を行うには充分な広さがあった。冒険者達は徘徊する鎧騎士が現れる前に罠をしかけ始めたのだった。
 アコが持ってきた鋏とロープを用い、ヴァイスはロープの片側を木に結ぶ。戦闘の際には反対側を引っ張って敵の足を引っかけバランスを崩そうという物。
「あと、敵の進行方向の木の間にワイヤー張って……」
「進行方向って、どっちなんだ?」
 土塊の下僕に地面掘らせていた錫蘭肉桂・シンナム(a04618)は自信満々なアレクに問うた。
 そこそこ広い広場の中心に木が何本も立っていては、それは広場とは言わないだろう。木と木の間に罠張るとすれば、広場の周囲の木々となる。360°見回して、敵は何処を通過し、そしてどう誘き寄せて通過させるのか。全てに罠を張るのも現実的では無いだろう。
「ここで頑張りすぎると後の戦闘に響くからな、俺の教訓だ。メインは罠じゃなく、俺等自身が戦う事だろう?」
 罠を過信して製作に体力を奪われては元も子もない。以前それを身を持って知ったシンナムは苦笑しながら足場を悪くする様土塊を働かせていた。
「相手のスピードを罠で殺せれば良いけどな。イザって時は俺のスピードも対応するぜ?」
 微笑絶やさぬ灰銀の流拳・ストライク(a06399)は罠が破られた時を想定しながら笑って言う。緩い表情だが本人は至って真剣だ。
 皆が罠を仕掛けている間、メルクゥは此処で亡くなった木こり達の冥福を祈ってレクイエムを静かに歌い出す。
「貴方方の仇はわたくし達がとります。どうか……どうか安らかにお眠り下さい」
「でも、無理はするなよ?」
 シンナムは作業しながらメルクゥを気遣って言う。彼女は先の依頼で受けた傷がまだ完全に癒えていない。
「えと……はい、精一杯頑張ります♪」
 彼女は心配無用、と笑顔で頷いた。
「あれは……!?」
 高い木に登って周囲の警戒に当たっていたイェルが声を上げる。遠眼鏡で見た向こう、鳥が突然木々から空に舞う。動物達が進路を開くが如く騒ぎ、ざわめく。
「来た、みたいだな」
 ストライクは不敵に笑うと皆に目配せする。やって来る方向を踏まえ、アルが事前に確保した場所に身を潜め、敵を待つ。
 やがて、数分もしない内に。銀光した長身の鎧が姿を現した。

「さぁ、覚悟なさいっ! 特別にわたくしの拳の舞をご覧に入れて差し上げますわ!!」
 そう高らかに叫んでアコは前に躍り出た。挑発する様な彼女を銀鎧は目敏く見つけ、手にした細剣を構えてゆらりと進み出す。
 次いでアレク・ストライク・イェルも彼女の後ろに付き、前衛4人が正面から鎧と対峙する。残りの4人は後ろにて身を潜め、そのまま様子を見て支援する形となろう。
 そしてアコが動く。仕掛けた罠に誘導する様に彼女は足場の悪くなった地を移動する。
 鎧が剣を引いた。猛然と連撃開始。ラッシュでアコに突っ込む!
(「今だ!」)
 潜んでいたヴァイスがロープの端を引いた。ピン、とロープは地面の上で張り、銀鎧の足に引っかからんとするも……

 ブチィッッ!!

 ロープが切れた。モンスターの強靱な脚力はロープをまるで蜘蛛の糸の如く、あっさりと断ち切ってしまったのだ。
 倒れる筈が向かってくる銀鎧。倒れた隙を狙ってワイルドラッシュを叩き込むつもりだったアコは状況把握するまでの数瞬、足が止まる。
「止まれ!」
 距離置いて見ていたシンナムは前衛より判断も早かった。紋章を描くとそこから現れる気高き銀狼が銀鎧に飛びかかる! 鎧のラッシュ攻撃は二撃ほどアコに突き刺さるが、そこで中断。敵は銀狼に組み伏せられる。
「アコ様、大丈夫ですか?」
「ええ、この様な掠り傷で弱音は吐いていられません事よ」
 この隙に急いで鎧から距離を置いたアコは後衛のメルクゥに癒しの水滴を受けながら不敵に笑ってみせた。
「罠程度に引っかかる程甘い相手じゃないって事、か」
 ストライクは目を細めて唇の端を吊り上げた。笑っている? 否、目は怒りの輝き有している。
 ストライクとイェルは鎧進化を、アレクは武具の魂を用いる。それにアコ含む4人は頷き合いながら再び敵を前にする。
「みんな、がんばって!!」
「鎧のみのモンスター……急所は無いかと思っていたが、心攻撃には弱そうだ。アールタラ、援護するぞ」
「うん! アル、頑張る!」
 気高き銀狼が効果を発揮した事にシンナムは敵の弱みを悟り、アルに目配せする。
 1体と4人が広場の中央で翔る様に動く。足場を悪くしたのも余り通用していないのは、その身軽な動きのせいか。重そうな鎧を身につけている割に、羽根のような身軽さ。
 だが、アルの歌声が敵を蹌踉めかせる。眠りの歌だ。そしてそこにシンナムの銀狼が再び食らい付く。一瞬止まる、動き。
「連続で行くぜ!」
 ストライクが声を上げる。最初にイェルは大鉄球構えて突撃し、全力で撃ちかかる!
「死合おうぜ、先輩! お互い全力でさぁ!」
 ガスンッッ!
 鉄球が物凄い音を上げて鎧騎士にブチ当たる。その衝撃にガードした鎧の表面が凹んだかにも見える。
 ついでストライクが敵の懐でワイルドラッシュを叩き込み、アレクの武器が電刃衝の雷を孕んで唸り上げる!
 だが……
(「あまり、効いてないか!?」)
 手応えを感じない。全くダメージを与えてない訳ではないのだが、強靱な鎧の防御を突破するに足りない。
「ぐっ!?」「うぁっ!?」
 鎧は銀狼を振り払い、近づいてきた者には容赦なく反撃を。レイピアの鋭い突きがストライクとアレクを襲う。
 鎧進化を使っていたストライクは然したるダメージを受けずに済む。が、極めて軽装のアレクには強烈すぎる一撃だった。
 鋭利な針がまるで貫通したかの様に。
「アレク!!」
 ヴァイスが走り、飛燕連撃を遠距離から鎧に浴びせる。上半身に当たる攻撃。煩いとでも言う様に鎧の注意が彼に向き、黙れと言うかの様にヴァイスに向けて突きを入れてきた。
 が、ヴァイスはそれを盾を上手く使っていなし、避けた。事前の情報より、敵の攻撃は突きがメインと判断。しかも、技攻撃主体であるのを見越した彼の装備もまた、対技攻撃仕様だった。
 互いの攻撃が致命打にならぬ戦い。敵の動きを阻害する様な動きは前衛をその間建て直す為。
 アレクの胸から流れ出る血。幸い心臓を貫いてはいないが、動ける物でも無い。メルクゥが必死で回復するが、間に合わないと悟り命の抱擁に切り替える。
「……ぶっ潰す!」
 激昂したイェルはヴァイスと交える銀鎧に単身突撃開始。慌ててストライクとアコもフォローに走る。
「壊れろぉぉぉッ!」
 バキィィィッッ!!
 鎧は何か割れる様な音と共に吹き飛んだ。破鎧掌だ!
 地面に一度仰向けに倒れた銀鎧はすぐさま立ち上がる、も。
 ごふっ。顔の口に当たる場所から体液を噴き出した。見ると今攻撃を受けた部分の銀光した外骨格が砕け、赤々しい肉が晒されている。硬すぎるが故に防御無視の衝撃に破壊したらしい。
「その手が有ったか……!」
 防御無視で相手に必殺の一撃が入った。後は敵の体力を完膚無きまでに削るのみ!
「はぁっ!!」
「行きましてよ!!」
 再び連携の開始。アルの眠りの歌が響く中、シンナムの銀狼が飛びかかり、そこにストライクのワイルドラッシュが、アコの旋空脚が叩き込まれていく!
 心の弱い鎧は術士二人の用いる拘束から逃れぬまま、皆の打撃に文字通り削られていく。
 銀色の鋭く美しかった鎧も、もはや傷だらけで光を失っていく。
 やがて、ガクンと鎧は長身の膝を付く。剣を握りしめたまま、頭を垂れて動かなくなる。
「……倒した、のか?」
「いや、まだ油断は……」
 動かない鎧。彼らは少し様子を見る。

 息絶えた――?

 ――ガシャン!
 鎧の目が最後の最後で強く赤く輝く。そして剣を前に突き出した。強く、強く、遠くに!
 鎧の視線の先にはこの中で尤もか弱くしかも最初から重傷の身であるメルクゥがいた。
 そして、突き出された剣は彼女に向かって、射出された!
「土塊よ!」
 後衛と言う立場上、離れた位置にいたシンナムはその動きに気が付き、残りの土塊の下僕を喚びだして盾と成した。
 巨大な針が土塊人形を砕いて尚、メルクゥに向かって飛ぶ。
「メルクゥ!」
 彼女を気に掛けていたアルは彼女に抱き飛びついた。二人が倒れ飛んだその斜め上を掠めて行く剣の刀身。
 ザシュッ!
 遠くの木の幹に突き刺さった刀身。最期の隠し技、と言った所か。
 そして銀鎧を改めて確認する。
 モンスターはその戦いに満足したかの様に、その活動を永遠に終わらせていた。

「念の為、だがな」
 シンナムの提案で鎧は完全に破壊して埋める事となった。鎧は甲虫の外骨格の様に肉を覆う皮膚の様な物だったらしく。鎧部分だけを粉々にして広場の一角に埋めた。
 幹に刺さった刀身をイェルは引き抜いて墓に立てる。鎧騎士の墓標となろう。
 イェルはその墓標を拳でガツンと叩いて、一礼した。
「いい死合いだったぜ、先輩」

「ただいま!! アル、頑張ったよ!!」
「のわぁっ!?」
 酒場に戻ってきた一行。アルは早速レィズに報告しながら突撃をかます。
「森で生活する方々にも報告して参りましたわ。これで安心して森に出入り出来ますわね」
 アコが微笑んで言う。アルに子兎返しながら、レィズは笑って頷いた。
「気が利くなぁ、おおきに」
「また何かあったらお声お掛け下さいませね♪」
「さぁさぁ皆さん! 今日は俺が奢りますから遠慮なく飲んで食って下さい!」
 そこに騒がしくアレクが料理を前に言う。そんな彼をヴァイスとシンナムが小突いて言った。
「重傷者は」「大人しくしてろ」
「まぁまぁ、疲れたときは……甘いもの、です♪」
 窘めながらメルクゥは持参したチョコクッキーを振る舞った。
 年若い冒険者達。彼らはまた一つの経験と共に成長していく事であろう。


マスター:天宮朱那 紹介ページ
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作成日:2004/11/15
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