【尻尾で愉快な仲間たち】盗賊団が救援活動



<オープニング>


 そこはモンスターに襲われた村。
 幸いにも壊滅にはいたらなかった村の復興作業に勤しむ村人らの前。彼らは突然、現れた。
「手を貸そう」
 名前も告げず、ただひたすらに復興作業を手伝って、彼らはと突然に姿を消したのであった……。

「おかげさまで村を立て直すことも出きました。彼らにどうしてもお礼がしたいのです」
 腰の曲がった老婆の訴えに、霊査士リゼルはふんふんと頷いた。
 心温まる話もあったものだと思いながら、ニッコリ微笑んで、
「判りました。探してみますね」
 引き受ける意思を示したのだった。
 が。
「うーん……その人たち、どうやら盗賊らしいのよね」
 頬を掻きながら、リゼルは告げた。
 村に残されたという彼らの持ち物を霊査して、判明したことだ。
 盗賊が物も取らずに復興援助。あまり、聞かない話だ。
「一応、彼らの居場所は判りました。でも、こっちが冒険者だとわかると、逃げ出しかねないのよね。それと、考えたくない話だけど……村人の善意を逆手にとって、盗みを働く可能性も否めないわ」
 なるほど。お礼をしたいという村人の願いを叶えるには、どちらも避けたい結末だ。
「なるべく穏便に盗賊さんを村へ連れ、万一、彼らが悪事を働いたりしないよう……言い方は悪いけど、監視してちょうだい」
 肩を竦めて、リゼルは、言うのだった。

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参加者
銀星の射撃手・ユイ(a00086)
おきらく女剣士・サトミ(a00434)
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
灰色の貴人・ハルト(a00681)
緑珠の占花・ココ(a04062)
青嵐の歌人・レイディア(a05847)
かみさんに逃げられた・トム(a16045)
スウィートカフェショコラ・セレスティア(a16141)


<リプレイ>

 よく晴れた昼下がり。村の中では「恩人」を迎え入れるための最終チェックが行なわれていた。
「僕たちが冒険者だってコトは、出来れば伏せておいて欲しいの」
「折角の宴を、冒険者という物々しい雰囲気で、恩人の方々に気を使わせてしまうのはあまり良くないですから」
 苦笑交じりに村人にお願いして回る、銀星の射撃手・ユイ(a00086)と青嵐の歌人・レイディア(a05847)。
 盗賊に逃げられないための配慮なのだが、そうとは知らない村人たちは、納得して頷いた。何だか申し訳ないような気も、する。
「居たわよ、美形の人。男らしくてステキよ〜」
「へぇ〜。何だか、楽しみね♪」
 村のお姉様方と一緒に会場の飾り付けを手伝っていたおきらく女剣士・サトミ(a00434)は、何やら不思議な所で意気投合している。
 誘惑する気満々で、「恩人」たちの到着を今か今かと待っていた。

 その、当人等はというと。
「折角村の皆さんがご招待したいと言っています。ご一緒していただけませんか」
 上目遣いでねだるように首を傾げた想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)を筆頭とする勧誘組と、接触していた。
 旅芸人を装った緑珠の占花・ココ(a04062)、ヒトの医術士・セレスティア(a16141)らも、続くようにお願いしている。
「村の皆のお願いだがや。是非、来てくれだべ」
 ついてきてもらった村人たちに相槌を求めながら、トム・トム(a16045)。
 すると、
「ん、お呼ばれしたなら、行こうか?」
 ゆらりと犬の尻尾を揺らした男は、彼より幾らか年下と思われる青年を振り返って、同意を求めた。
 他の4人と、村人、そして冒険者らに見られた青年は、しばし思案してから、
「判った。折角だしな」
 照れくさそうに、承諾するのであった。

「わぁい、僕の勝ちだね♪」
 村の宴会は、復興記念も兼ねているだけあって、皆盛り上がっていた。
 その中で一際注目を浴びているのが、空のジョッキを掲げるユイと、その傍らで突っ伏している鼠尻尾の男だった。
 悪行を防ぐためと場を盛り上げるためとでユイが持ちかけた酒飲み勝負。その、結果だった。
「シリンが潰れた……あんたよく飲むな」
 呆気に取られたように、ユイと同じ狐尻尾の青年が笑う。が、ユイはシリンという名を覚えながら、小首をかしげた。
「ん、まだまだいけるよ?」
 自覚はないが、相当飲んでいるはずのユイ。酔った形跡がないのは、何故だろう。
「よし、次は俺と勝負だ」
 くすくすと笑っていた青年は、手元の酒を掲げて申し出る。
 そこへすかさず、セレスティアが酒を用意して現れる。
「お酒、私が注いでいきますね」
「どっちも頑張れだべ〜」
 準備バッチリというようなセレスティアと、盛り上げてくれるトムとに微笑みかけて。ユイは、再びジョッキを掲げる。
 やがて、二人目の撃沈者を出して、やっぱり小首をかしげているユイの姿が、あったそうな。

「雲間からさす光が見えます…情況は好転していくでしょう…」
 いたって大真面目に、けれど、実際は8割方思い込みである占いを披露するココ。
 そこへ、ひょっこりと小さな顔が覗き込んできた。
「あたしも占ってくれない?」
 気の強そうな微笑が、ココを見据える。
 丁度区切りがついたところだったので、ココはニッコリと笑みを返すと、水晶球を示す。
「はい、喜んで。それでは、お名前を伺っても宜しいですか?」
「ソフィ。年は19。猫ストライダーの可愛い乙女よ」
 占いが好きなのだろうか。聞こうと思ったことは、先んじて言われてしまった。
 くす、と笑い、ココは記憶の名に止める。少女の、その名を。
 そんな輪を遠巻きに眺めながら、レイディアはリュートを爪弾いた。旅芸人を名乗る者らしく、歌を披露していたのだ。
 と、そんなレイディアのローブを引っ張る、小さな手。
 振り返れば少女。そして、両手に幼子を引き連れ、屈託のない笑みを浮かべた少年が。
「サヤ兄ちゃんが踊るのー」
「と、言うわけだからさ、歌って欲しいんだ。いいかな?」
 尋ねる言葉と一緒に、首が傾ぐ。ついでに、小さな兎の尻尾も。
 子供に懐かれているサヤという少年を見ながら、レイディアは微笑ましげにリュートに手をかける。
 冒険者の青年が奏でる歌と、盗賊の少年が辿るステップは、宴の場に賑わいをもたらした。
「……素敵、ですね」
 給仕の手を一度止め、聞き入るように顔を上げて。ラジスラヴァは、そっと思案した。
 村の復興を助けた彼らは何故、急いで村を去ったのだろう。
 単なる思い込みかもしれないが、この村で盗みを働きたくないと思ったのではなかろうか。
 もし、その通りならば。盗賊から足を洗ってもらえるチャンスかも知れない。
 そうであればいい。願いながら、ラジスラヴァは酔い潰れた者を解放していくのであった。

 宴は夜闇を迎えてなお、続く。一人饗宴から外れていた灰色の貴人・ハルト(a00681)は、そこいら中で村人、あるいは冒険者と関わっている盗賊らを見据えながら、軽く嘆息した。
 冒険者らが勧誘に来る前に、自らも盗賊を自称し、仲間として取り入ることが出来た。
 いやに気さくな彼らは、問いに対して口をつぐむことはせず、話だけなら、色々聞けた。が、彼らの目的は、いま一つ掴めなかった。
 極悪非道な悪党というわけでもないが、盗みは既に経験済み。もっとも、それは生きるために。
 肝心の救援活動をした理由は「何となく」ときた。謎の極みだ。
 何がしたいんだか。言うように、もう一度ため息をつけば。気さくな気配に気付く。
「何か用か?」
 どことなく艶っぽい仕草で尋ねれば。現れたのは、犬尻尾の男。確か面子最年長23歳で、スズリという名だったはず。
「ん、ずっと外に居るから、何か出るのかと思ってね。差し入れと、何か手伝えればと」
 人のよい笑みを浮かべ、ハルトの隣に腰掛ける。
 宴席から持ってきた酒を勧められるが、とりあえず、受け取るだけして口はつけなかった。
 酔い潰れてしまっては、仕様もないゆえに。
 そうして、さり気なく監視するつもりでスズリを見る。と、不意に、目が合った。
「ハルト。もしここで盗みでも働こうって言うなら、俺たちから離れて欲しいんだけど」
 肩を竦めて言うスズリに、ハルトは目を見張る。
「ん? 違った? 一人でこそこそしてるから、つい」
 それで、気付いた。監視しているつもりで、監視されていたのだと。
「キミが悪者でも構わないけれどね。うちの団長はイイ人だから。素直に喜ばれてるのに悪いことして帰るなんて、出来ないんだよ。させたくもないしね」
 ますます持って訳がわからない。
「お前たちは、何が目的なんだ?」
 訝しげに尋ねれば、スズリは、ニッコリと笑い、
「慈善活動?」
 そう、言うのであった。

「やっぱりスズリさんかな」
「えー。シリンさんの方が素敵よ」
「サヤ君も可愛いわよね〜」
 誰が誰の言葉だろう。サトミを中心にした井戸端会議的歓談は、男の話で持ちきりだった。
 宴が終わろうとも、それは、変わらなくて。
 結局、朝を迎えて寝入るまで続いたのだった。
 宴会場その場で寝入ってしまった者に毛布をかけていきながら、レイディアは苦笑する。
「後片付けは……」
「静かにやらないといけませんね」
 レイディアの独り言を引き継ぐように言って、鼠尻尾の男――シリンは、おもむろに片付けを始めた。
「昨日、酔い潰れてませんでした?」
「酔いにくくて治りやすいんです」
 なるほど、まさしく酒豪だ。
 ちなみに勝者のユイは、二日酔いで頭を痛めていたりする。
 そんな事を話しながら片付けをしていると、ばったり、唐突に、セレスティアと会った。
「お、おはようございます!」
 赤面しそうになるのを堪えながら、セレスティアは元気いっぱい挨拶をする。
 そんな彼女に、シリンは柔らかい笑みを浮かべ、
「はい、おはようございます」
 ぺこり。礼を返すのであった。

 村人たちは余程騒いだのだろう。朝の早いうちは、皆、眠っていた。
 対し、一部冒険者と盗賊の彼らは、割と早起きだった。
 そんな好条件を確認して、ラジスラヴァは、思い切って尋ねてみた。
「皆さんが盗賊だってことは存じています。ですが皆さんは村の為にがんばってくれました。このまま盗賊をやめてこの村の住民としてやり直してみませんか」
 足を洗うきっかけとなるような、言葉を。
 すると、狐尻尾の青年は驚いたように目を見張り、やがて、苦笑した。
「5人も増えるのは、この村とって厳しいだろう。それに……この村は、いい人ばかりだ。盗賊が住をおいていい場所じゃない。だが、その言葉は後の参考として受け取ろう」
 青年は肩を竦める。それは、断りだ。
 ラジスラヴァは伏目がちに一度俯いたが、やがて、また視線を上げると、
「いずれ、お手伝いさせてください」
 ニコリ、微笑んだ。

「急に無理を言って、すまんかったべ」
「いえ、楽しませて頂きました。ご縁があれば、また」
 トムとシリンが丁寧にお礼を言い合っていた。村人たちも、総出で見送る。
 一人一人に礼を述べるシリンを急かすように青年が呼べば、会釈を残して、街道を行く。
 と、何か思い出したというように、ソフィは数歩戻る。そうして、ココの前に立つと、人目を憚るように顔を寄せた。
「うちの団長のこと、占ってもらえない? 名前はセイン。年は20よ」
 小声で、早口に尋ねるソフィに、ココは真剣な目で水晶球を見つめた。
「ふむ…盗賊とは言え、根っからの悪人という訳でもなさそうですね」
 半分以上は、思い込み。けれど、そこにあるのは占いの結果としてではなく、一種の、信頼と呼ぶべき思いも雑じっているのではなかろうか。
 そうあってほしいという、ココの、願いが……。
 そんな結果に、ソフィは肩を竦めて笑うと、
「当ってるよ、それ」
 唇に弧を描いて、踵を返すのであった。
 そうして、彼らは別れた。きっとまた会うであろうその時を、互いに思い描きながら。


マスター:聖京 紹介ページ
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