<リプレイ>
森の中にひっそりと建つ館に、音もなく忍び寄る人影。 天速星・メイプル(a02143)は、破られた1階の窓から中をのぞき込んだ。鼻を突く焦げ臭い匂いと、屋敷の厨房から上がりはじめていた煙に、青ざめるメイプル。ドアに近づき、ドアノブをそっと回してみる。鍵は掛かっていなかった。 「今少し……お待ち下さい」 メイプルは館を見上げた。 「ご主人様を想うあなた方の気持ち……消させはしません」
「おらとアスコットの2人で、一気に3階へ向かうだ。みんなは、ウーズの方を頼むだよ」 「貴殿らが頼みだ。私たちが3階に到着するまで、なんとか紅いウーズを食い止めてくれ」 神の黄昏に舞う乙女・アイリッシュ(a12290)の言葉に、微笑を浮かべて頷く、陽光の翼剣・アスコット(a11579)。 「厨房は任せておいて下さい」 ドリアッドの重騎士・ミカ(a05562)の言葉に、博愛の道化師・ナイアス(a12569)が言った。 「煙が上がっているようです。時間がありませんよ」 「言われなくても分かってらぁ。行くぜ!」 「あ、待ちなさい、ガルさん!」 月虹樹の花・ジュナ(a04047)の制止も聞かず、蒼穹を断つ苛烈の獣・ガル(a11201)が、ドアを開け放った。 「まあ、元気があってよろしいですね」 宵闇月虹・シス(a10844)がのんびりと言いながら、それに続く。 「だから……んもう」 慌ててそれに続くジュナ。
「おぉーい! 返事してけろー!」 オーレイが、四人が立てこもっている部屋があるという窓の下から、大声で怒鳴った。 「助けに来ただぞぉっ! 聞こえていたら返事をしてけろー!!」 オーレイは再び怒鳴った。しかし、窓が開く様子はなかった。 「返事、ありませんね」 アスコットが端正な顔をしかめた。 「紅のウーズに、みんなやられちゃったんじゃ……」 赤い風・セナ(a07132)が呟く。 「ふむ。メイドさんたちに、窓ば開けて貰おうと思ったが……仕方ないべな」 オーレイは斧を構えた。 「私が先に行きます」 「気をつけるだよ?」 「ああ、待ちやぁ!」 セナたちの周囲が柔らかな光に包まれ、フォーチュンフィールドが広がった。アスコットがチェインシュートを放つ。1発目は、壁に命中したものの突き刺さるに到らず、外れた。オーレイが続いてチャレンジするが、これも外れた。3回目の挑戦で、アスコットのチェインシュートが3階の壁に突き刺さった。次の瞬間、アスコットはチェーンに引き上げられた。 「ち!」 必死の形相で、アスコットが窓のバルコニーにぶら下がった。 「アスコット!」 悲鳴を挙げるセナ。バルコニーになんとかよじ登り、窓を強く叩クアスコット。引かれていたレースのカーテンの向こうから現れた老執事が、びっくりした表情でアスコットを見つめる。すぐに窓が開くと、アスコットは恭しく一礼した。 「アスコットと申します。フェートン卿と皆さんを助けに上がりました」 バルコニーからロープが垂らされる。 「んじゃ、おらも行くだよ」 「オーレイ、幸運を! みんなが駆けつけるまで、踏ん張りやぁ」 セナは3階へと登っていくオーレイを見送ると、厨房へと走っていった。
「お邪魔しますね」 ミカは厨房に飛び込んだ。かまどの上では、鍋から激しく煙が上がっていた。 「げほっげほっ!」 せき込むナイアス。 「ナイアス!」 煙の向こうから飛んできた薄赤色の触手を、ミカは斧で叩き潰した。見ると、かまどの正面で小さいウーズが触手を伸ばしている。 「私たちの邪魔をする者は、容赦しません!」 ナイアスのニードルスピアがウーズの体を次々と貫くと、ウーズは動かなくなった。手元にあった水桶を取り上げたナイアスを、ミカが止めた。 「いけません! 水を掛けたらますます炎が大きくなります! そこにあるテーブルクロスを濡らして鍋の口をふさいで下さい!」 ナイアスは濡れたテーブルクロスを鍋の上にかぶせた。その瞬間、煙は消えた。ミカが、隣で煙を上げていた別の鍋に濡れタオルを無理やり被せると、鎮火に成功した。 「やれやれ……ですね」 ナイアスが安堵したその時だった。頭上から何かが「降って」来た。 「ミカさん!」 ミカに覆いかぶさるようにして、別のウーズが襲いかかった。必死にウーズを振りほどこうとするミカ。身構えたナイアスだが、ミカが邪魔してニードルスピアが撃てない。と、ナイアスの目の前を銀狼が駆け抜けた。それは、ウーズをねじ伏せると、ミカから引きはがした。 「セナさん!」 「遅れてすまにゃあ」 ウインクするセナ。ナイアスはウーズにスキュラフレイムを撃った。黒い炎の中でのたうつウーズに、ミカがとどめの一撃を振り下ろすと、ウーズは動かなくなった。 「厨房はこれで大丈夫のようですね」 ナイアスが厨房を見回した。 「もう1匹の雑魚ウーズは、ここにはいないがや?」 「いないようですね。2階に向かったみんなが心配です。急ぎましょう」 厨房を飛び出すミカたち。
「ウーズはどこだ?」 先頭切って2階へ駆け上がったガルが見たのは、3階へ続く階段全体を覆うかのように、その体を広げる紫色のウーズだった。ガルを見るなり、紫ウーズは素早い動きで触手を突きだした。まともに攻撃を食らって、ガルが階段を転げ落ちた。その横でショーテルを身構えたジュナが、紫ウーズ目掛けて突進する。 「シス、アイリッシュ、援護して!」 「承知した!」 「援護します!」 シスの放ったニードルスピアが触手を引き裂き、次々と紫ウーズの体を貫いた。アイリッシュの放ったリングスラッシャーが紫ウーズに命中する。 「一撃……必殺!」 ジュナのショーテルに紋章が浮かび上がり、ショーテルの一撃が紫ウーズに叩き付けられた。紫ウーズが、反撃とばかりに触手を突きだした。ジュナはそれをステップでかわす。だが、ウーズは階段から動こうとしない。 「普通の攻撃じゃ無理だな」 アイリッシュが歯ぎしりする。 「みんな、お待たせだみゃあ!」 セナたちが駆け込んできた。 「厨房はいいのですか?」 シスの言葉に頷くミカ。 「みんな、時間がない」 アルビレオが言った。 「俺とガルがウーズに突っ込む。その間に、メイプルとセナとアイリッシュ、それとミカ、お前らは3階に行け」 「え?」 メイプルがアルビレオを見た。 「こいつは、生半可に階段から引きずり下ろそうとしても無理だ。3階にはオーレイとアスコットしかいない。そして、3階には別のウーズがいる」 「へへ、そうこなくっちゃな」 ガルが、両手に付けたフィストガントレットを鳴らす。 「時間……ないんですものね」 シスの目が細くなった。 「援護は私にお任せ下さい」 「私も援護するわ」 ミカが一歩前に出る。 「女性ばかりに戦わせては、冒険者の名折れですね」 ナイアスが言った。 「私たち術士で援護します。アルビレオさんは一斉に攻撃して下さい」 全員が、紫ウーズを見上げた。
「下がるだよ!」 ドアに何かを叩き付ける音がした。メイドたちが体を震わせ、オーレイとアスコットが前に出た。 「下にいるみんなは、まだ来ないだか?」 「相手が相手ですから、てこずってるかもしれません」 saber-toothed tigerの柄に手をかけたまま、身構えるアスコット。 「なら、おらたちだけで紅ウーズを片づけんといかんだな」 「冒険者様……」 メイドの呼びかけに、アスコットは微笑んだ。 「心配しないで下さい。貴方達は、私が命に代えても守ります。貴方のご主人もね」 ドアの向こうで、何かが粘るようないやらしい音が響き、再びドアを激しく叩いた。掛けられた鍵がきしむ。オーレイは、ちらりとフェートン卿を見た。杖を握りしめたまま、椅子の上で微動だにしない。 「こん人……肝が座っとるだな」 「ガル、行くぞ?」 「おうよ!」 アルビレオは、じりじりと紫ウーズとの間合いを図る。紫ウーズは、体から伸ばした数本の触手を、アルビレオたちを威嚇するかのように振り回す。 「勝負は1回キリよ。コンビネーションを合わせて、一気に決めるわ」 ジュナの瞳が、眼鏡の向こうですっと細くなった。 「ドリアードが、ウーズ如きに負けるわけにいかないもの」 「行きます!」 シスの鈴蛍琥珀が舞い、ニードルスピアを次々と放った。それと同時に飛び出したのはアイリッシュ。 「そこをどきなさい! まかり通る!!」 飛んできた触手を、アイリッシュはミリオンジェノサイダーで斬って捨てた。 「この程度の動きで、私に触れられると思うな!」 セナが気高き銀狼を放った。だが、銀狼は触手に弾かれて消えた。 「は、外れたぎゃあ!」 セナの銀狼に気を取られた隙をついて、ガルが紫ウーズの懐に飛び込んだ。 「往生ぉ…せいやぁぁぁぁぁ!!」 ガルのソードラッシュが、次々と叩き付けられた。大きくうねる紫ウーズ。そこへナイアスがスキュラフレイムを撃った。黒い炎が炸裂し、紫ウーズの体を大きく引き裂いた。 「邪魔だ、どけぇ!!」 アルビレオが踏み込んだ。星煌剣が交錯すると、ミラージュアタックがウーズの体に命中した。だが、紫ウーズは大きくその体を引き起こすと、ガルとアルビレオを突き飛ばした。 「メイプル、行きなさい!」 ジュナが叫ぶと同時に、紫ウーズ目掛けて飛び込んだ。ひときわ大きいウーズの触手の一撃が、アルビレオに振り下ろされる瞬間、ミカが受け止めた。 「天速星の名に賭けて……行きます!」 メイプルが、一気にウーズの脇を駆け抜けた。アイリッシュとセナがその後に続いた。 「きゃっ!」 ミカが耐えきれなくなって突き飛ばされた。ジュナのエンブレムブロウが、深々と紫ウーズの体を貫き、その巨体を大きく震わせた。 「お願いだ……間に合ってくれ」 口から血を滴らせながら、、アルビレオがゆっくりと立ち上がると、紫ウーズをにらみつけた。
「下がって! ウーズが来るだ」 オーレイの叫びと共にドアが吹き飛び、毒々しいまでに紅色のウーズが、ドアを踏み越えて中に侵入してきた。 「させないッ!」 アスコットが紅ウーズ目掛けて突っ込んだ。saber-toothed tigerの刃が一閃するや、紅ウーズの体を斬った。オーレイが、渾身の力を込めてアクスを振り下ろす。 「おらの大地斬、受けてみるだよ!」 紅ウーズの体がひときわ大きくうねり、ダメージを与えたかに見えた。だが、紅ウーズの体が「跳ね」た。 「ぐはっ!」 壁に叩き付けられるオーレイ。 「オーレイさん!」 「おらに構うな! フェートンさんたちば守るだ!」 ウーズの触手が、オーレイに叩き付けられた。鮮血を吐いて、崩れ落ちるオーレイ。メイドたちが、部屋の隅に追いやられた。それでも、メイドたちはほうきを握りしめたまま、フェートン卿の側から離れようとしない。 「僕一人で……どこまでやれるか」 アスコットが呟いたときだ。紅ウーズの周囲に、何かが閃くと、それはウーズの触手を全て切裂いた。 「待たせたぎゃあ!」 セナだった。その隣で、ミッドナイトチョーカーを構えるメイプルが、にっこりと微笑んだ。 「間に合ったみたいですね」 「セナはオーレイを! 紅ウーズよ、私たちが相手だ!」 アイリッシュのスピードラッシュが、次々とウーズに命中する。アスコットの一撃が紅ウーズに命中し、大きく体を震わせた紅ウーズが、メイプル目掛けて襲いかかる。メイプルはウーズの攻撃をかわすと、渾身の一撃を叩き込んだ。 「お見事だがや」 セナから癒しの水滴を貰ったオーレイが呟いた。メイプルのカラミティエッジは、紅ウーズを真っ二つに引き裂いた。紅ウーズは、触手を弱々しく蠢かせていたが、そのまま崩れ落ちた。
「もう一度、突撃するしかないわね」 ジュナの呟きに頷くアルビレオ。 「メイプルたちは、フェートンさんの元にたどり着けたのでしょうか?」 ナイアスの言葉に、微笑むシス。 「勝ったみたいですよ?」 「え?」 廊下を走ってくる音がして、メイプルが3階から叫んだ。 「フェートンさんたちはみんな無事ですッ!」 「なら、こっちもそろそろ決めねえとな」 ガルが再び構える。 「ではお客様、そろそろお帰り頂きましょうか!」 ナイアスが、スキュラフレイムを撃った。紫ウーズのど真ん中に命中し、その体をぶち抜いた。触手を伸ばそうとするが、その勢いは弱かった。 「もらった!」 ガルが紫ウーズに一撃を叩き込む。 「そこだ!」 アルビレオのミラージュアタックが一閃すると、紫ウーズの体が崩れはじめた。 「とどめよ!」 ジュナの一撃が命中すると、紫ウーズは階段上で崩れ落ちていく。ミカがとどめの一撃を与えると、紫ウーズはそのまま粘液の塊を残したまま動かなくなった。 「やっと……仕留めた」 がくりと膝をつくアルビレオ。 「大丈夫ですか? 今……癒します」 駆け寄ったシスが微笑み、柔らかな光がアルビレオを包み込んだ。
「旦那様ぁぁぁ」 メイドたちが抱きあって泣いていた。 「美人が台なしですよ? ほらほら、涙をふいて」 ナイアスが優しい笑みと共に、メイドたちを慰める。 「ありがとう。みんなに代わってお礼を言わせてくれたまえ」 フェートン卿の言葉に、アイリッシュが恭しく一礼した。 「ご無事で何よりでした。我々が外へお連れします」 アルビレオがフェートン卿を背負い、メイドたちと共に屋敷を出ようとしたときだった。 「なーんか、私たち忘れてるような気がするみゃあ」 セナが言った。 「最後の1匹か?」 ガルの言葉に、全員の顔から笑みが消えた。 「急いでここを出た方がいいわ」 ジュナがそう言ったときだ。 「上よ!」 ミカが怒鳴った。はっとなったアルビレオが頭上を見上げる。廊下の天井からしみ出るように現れた半透明のウーズが、アルビレオ目掛けて落ちてきた。 「アルビレオ!」 ガルが、アルビレオをフェートン卿ごと突き飛ばした。ガルが飛びずさるようにしてウーズをかわすと、半透明のウーズは、一同のど真ん中に落っこちた。 「ちっ!」 ウーズが触手をメイドたちに突きだそうとしたその時、ナイアスのスキュラフレイムが炸裂し、半透明のウーズは跡形もなく消えた。 「女性に手を出すことは、この私が許しませんよ」 髪をかき上げたナイアスが、メイドたちに微笑んだ。 「もう大丈夫ですよ?」 「なんか……キザですね、ナイアスさん」 シスがくすくす笑った。 「さあ、帰りましょう。みんな無事で……本当に良かったわ」 ジュナの言葉に全員が大きく頷いた。 「これ、掃除大変だがや」 「お屋敷は、私たちが一生懸命お掃除致しますのでご安心下さい」 セナの言葉に、メイドが微笑んだ。
それからほどなく、フェートン卿の屋敷では、修理の槌音と、モップ片手に忙しく走り回るメイドたちの姿があったという。

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参加者:11人
作成日:2004/11/20
得票数:冒険活劇2
戦闘21
ミステリ1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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