紅い二つの塔



<オープニング>


 冒険者の酒場、その扉が静かに開かれると、冷たい風と共に一人の男性が暖かく騒がしい室内へ入ってきた。カウンター越しに注文を済ますと、薄明の霊査士・ベベウ・シルヴィアンはこちらにやってくる。
「依頼です」
 酒場の奥に置かれた赤い革の背もたれが付いた椅子に腰掛けるなり、ベベウはこの一言を発した。友人と向きあっていた冒険者は話を止め、彼の姿を認めてテーブルにやってくる者たちもある。
「森の奥に、兄弟の塔と呼ばれる長大な建築物があります。同じ形状をした石造りの塔で、五階建て、その高さは20メートルに及びます。西の塔、そして東の塔は、10メートルの間隔を空けて建てられています。付近には、古くは領主の館がありましたが、今となっては兄弟の塔だけが往時の隆盛をわずかに伝えるのみということです」
 運ばれてきた香る紅い茶を一口含むと、彼は説明を続けた。
「この二つの塔に、魔物が巣くっているのです。どちらか? いえ、片方の塔を占拠しているのではありません。双方を、同時に支配してしまっているのです」
 そう言うなり、彼は胸の内ポケットからメモを取りだし、別のポケットから革で作られた四角い小さな包みをテーブルに広げた。黒い壜の蓋がとられ、茶の香気に混じって、インクの焦げたような匂いが鼻を突く。
 ベベウはなれた手つきで、さらさらと塔の外観を描いた。上へ行くほど先鋭になっていく形状をしており、最上部は槍のごとく尖っている。窓や張り出した屋根といったものはいっさい描かれていなかった。ただ、最上階には壁面が少ない。支える柱が周囲に四本立っているが、あとは吹きさらしなのだという。
「ご覧の通り、一風変わった形状の塔ですね。窓もなければ、屋根もない。どのような用途に使われていたのか、今となっては知る人もいないそうです。ですが、付近の建物が跡しか残していないのに、この塔の作りはとても強固です。内部は木製の床が崩れ落ちているために、筒抜けとなっていますが、螺旋状の階段が健在です。そして、壁面はなめらかさを保ち、美しい白い肌を保っています」
 少し宙に浮いていたベベウの羽ペンが、すうっと紙の上に降りた。そして、二つの塔を繋ぐように黒い線を引いて、それを幾重にも重ねていく。現われたのは、八角形の紋様。それが、二つの塔を繋げていた。
「この蜘蛛の巣に見える線が、二つの塔を同時に支配しているとお話した、今回の相手が作り出した巣のような領域です。魔物は青く透き通った宝石の輝きを持った身体から、透明な糸を吐いてこのようなものを作り、兄と弟の塔を繋げてしまいました。彼のものの形状ですが、美しい裸身の女性を模しており、大きさも我々と変わりないそうです」
 喉を示して素焼きのカップを皿に戻すと、ベベウは言った。
「魔物の作りだした巣に粘性はありません。蜘蛛の巣のように、触れたものを捕える力はないということです。敵は……いえ、彼女は……紋章術師に似た力を持って、八角形の領域に立ち寄ろうとする者を傷つけてゆきます。二つの塔を繋ぎ、その中央で待ち構える美しい相手……彼女を眠りへと誘い、無事に戻られることを期待しています」
 話し終えると、ベベウは立ち去ろうとした。だが、指先をあげたままこちらに振り返る。
「忘れていました。兄弟の塔は、別名が紅い二つの塔というそうなのです。由来は、西方に沈む赤い夕日に照らされた塔が、とても美しいからだとか。ご覧になられたら、感想を聞かせてくださいね」

マスターからのコメントを見る

参加者
櫻塚護・トウマ(a01292)
業の刻印・ヴァイス(a06493)
青空に浮かぶ龍・ルイ(a07927)
贄花・モメント(a09083)
ねずみ尻尾の双剣使い・ロッテ(a10851)
赤の従四・トゥース(a11954)
絶対零度の剃刀・ヨイヤミ(a12048)
博愛の道化師・ナイアス(a12569)
抗いの刃・カスラ(a13107)
愛するうさぎ達の医術師・シトロン(a13307)
紫空の凪・ヴィアド(a14768)
愚かなる狐・トニック(a15220)


<リプレイ>

●ある陽の夕刻に
 空に太陽が沈んでいく、大地との境目を侵食しながらゆっくりと、そして、太古から変わらぬ頑迷さとを持って、迷うことなく着実に。
 深い森の緑に包まれた瓦礫の山に、二つの影のみが、自らの両足で立ち、背を伸ばして首を天に向けて突き出していた。二つの塔と呼ばれる、兄弟の建造物である。
 その麓に辿り着いた冒険者たちは、偉容を眺めながら、ある者は戦慄し、賛嘆し、感傷する。
 薄手のカーディガンを羽織り、緑青色の煌めく髪に白く光る百合を花開かせた少女、死纏百合・モメント(a09083)は桃色の唇を押さえながら言った。
「まるで、血を浴びてるみたい……って、何か戦う前から、不吉な連想しちゃったな……」
 しばらくすれば、血の紅も深さを増すことだろう。彼女の瞳は、彷徨うように二つの塔を求めていたが、すぐ側から聞こえる声に気づいて、視線を黒いコートを着た少年へと移す。
「……また厄介な奴がいたもんだな……」
 天下の酒豪・カスラ(a13107)は右手で黒い髪をかき分けて後ろへ流すと、その手を上着のポケットへぞんざいに放り込んだ。
 彼女は清冽な白さの映える衣を身に着けていて、肩からは茶の鞄を下げていた。小さな作りの鼻に乗せた眼鏡の位置を少し下げて、上目遣いで異様な兄弟を見つめ、木漏れ日の医術士・シトロン(a13307)は言う。
「夕日に紅く染まる二つの塔と、透き通るような幾何学的な糸……透き通った魔物の作り出す芸術品……」
 櫻塚護・トウマ(a01292)が誰彼となく語り聞かせるように呟く。
「美しき魔物が、かつての領主や建物と何らかの関係があったものかどうか……調べるのは感傷なのやもしれぬが、ただ確かなことは、そこに生きていた人たちがいたということ」
 遠景にあっては夕日の赤さに負けていた青さが、塔へと近づくにつれてその存在感を増していく。その中央には、透き通った身体の美女が、しなやかな肢体を横たわらせていた。褥で貴人の帰りを待つ姫のように。
 
 
●青い美女を見上げて
 美しい八角形に編まれた青い条は、大地に屹立する塔と同じ、地面に対して垂直な面を維持している。風が兄弟の塔を吹き抜けて仲違いを試みても、青い巣は揺らぐことなく、地を分けた二人を繋ぎ止める。
 そして、垂直な面に臥せっていた美女が立ち上がる。その足下へ接近していた冒険者たちが、その姿に思わず息を飲むのも仕方ないことだ。彼女は垂直の壁に立ち、落下することもなく、自分を見上げる敵をまっすぐに見つめながら、美しい姿勢のまま巣を降りてくる。
 瞳も唇もない、ただ膨らみを帯びた頬と整えられた指先が、魔物を――彼女を――美しいと感じさせる。その周囲の空気が騒めいて、黄金の光として振れながら満ちると、無数の射線が目映く大地を穿った。
「ん」
 身が黄金の光によって苛まれることを感じながらも、業の刻印・ヴァイス(a06493)は傷ついた背や肩ではなく、別のことを考えていた。赤貧もよい、しかし、それでは動物を飼うことは難しい。しかし、飼えるとすれば何がいいだろうか。だが、それも、瞬秒のことである。すぐに、戦いへと、そこで自らが果たすべき役割について、本能的といってもよい判断が下され、反射的な行動が繰りだされる。彼の指先に生じた刃が、青い美女の胸に小さな穴を穿つ。刃が消えるにつれて、白い濁った箇所が魔物の胴から消える。
 ふわりとした金の毛並みから、豊かで仄かな緑色をした髪が溢れ出ている。すーぱーきぐるみえくせれんとを纏い、博愛の道化師・ナイアス(a12569)はもこもことした容姿で、戦場へと華麗へと躍り出る。蛟麟と呼ぶ杖が揮われ、その先端から黒みを帯びた小さな魔炎が生じる。それは蠢きながら、獅子、山羊、蛇の頭部を生やすと、空を焦がしながら美女の懐へと向かった。ナイアスからの贈り物を抱き締めた青い肌の女性は、予期せぬ品が火球となって爆ぜた後も、変わらずに氷の微笑を湛えている。
 接近した二人とは距離を置き、愚かなる狐・トニック(a15220)は強弓を構える。太陽の位置、塔の影、仲間の動き、そして、魔物の狙いを計算して、彼は矢を放った。狙い通り、振れることなく空を突き進んだ一閃だったが、美女の影を繋ぎ止めることはできなかった。ならばと、トニックは次の矢を弓につがえ、左腕を標的へと向けて伸ばし、羽を掴んだ右手は耳元にまでたぐり寄せる。巣の下方で、魔物が二度目の光を放ち、ヴァイスと標的としては素晴らしく印象的な――もっとも、青い美女が視えていたか否かはわからないのだが――ナイアスが反撃を試みている。そこへ、トニックの放った矢が、美しい孤の軌跡を描いて魔物へと到達する。頭部に直撃を受けた彼女は、天を仰ぎ見えてから俯いた。矢は、彼女のこめかみを削り、しばらく突き刺さったままだったが、はらりと地に落ちた。
 
 
●弟の塔に登り
 ヴァイスたちが魔物から、光の雨という手痛い好意を全身に受け取っていたころ、左右の塔に別れた残りの冒険者たちが、最上階へとうねる螺旋の道を急ぎ、暗闇の中を駆けていた。そこは、陽が差し込まないにも関わらず、不思議なほどに渇いていた。
 頭上にあった紅い光が、目映く大きくなる。トウマは最後の一段を飛ばして、抜け落ちた床を支えていた石造りのきわを足場として、塔の最上部に立った。隣で、白日夢の傀儡士・ヨイヤミ(a12048)が黒く染められた布地の奥で唇をもごもごと動かして、篭った愚痴を呟く。
「つくづく女性にゃ縁が無いのネ、ワタシは」
 悪戯っぽく笑うヨイヤミの瞳が青いことに気づいて、トウマは少しだけ意外な感じがしていた。それが何故かはわからない。仲間たちが揃い、自分も柱に命綱となる荒縄を結びつけると、トウマは言った。
「紅き塔に住まいし青き魔物――いざ、誘わん、黄泉への旅路へ……」
 手すりと呼べばいいのだろうか、塔の周縁のいくらか高くなった部分に、少女が立っている。彼女の名は、ねずみ尻尾の双剣使い・ロッテ(a10851)。揺れる船で育っただけに、高い場所の狭い足場も、揺れることがないから苦にはならない。目深に被った紺の帽子から、明るい灰の髪と元気な黒い瞳がのぞいている。
「兄弟両方欲しいなんてだめっす! 美人さんでも片方にきめるっす!」
 槍がぶんぶんと振り回され、裂かれた宙に衝撃が環となって存在する。それは、左右に空を雷様に刻みながら魔物へと飛来していった。
「HO! HO! ダンスのお相手はコチラデスよん、シースルーの素敵なフロイライン」
 巣の最下部で戦っていた魔物は、ロッテの放ったリングスラッシャーの攻撃を受けて両手で顔を覆い隠しているように見える。そんな彼女に、ヨイヤミは塔から飛びだして巣に片足を引っかけて宙に逆さ吊りとなると、縣糸機巧の揺らめきから、輝く七色の光を伸ばした。橋の丸みを描いて伸びた天弓が、青い美女の肩を打つと、囃し立てるような音色が鳴り響いた。
 魔物が標的を足下から、弟の塔にある冒険者たちに移した。足の付け根にまで延びた、青く澄んだ長い髪を左右にふわりと広げながら、垂直の壁を歩んでくる。突き出されて右手の平から、光り輝く射線が前方へと拡散して、ヴァイスたちに堪え難い痛みを与える。
 ロッテの脇を抜け、青い巣の上で三度跳躍したトウマは、青い美女の側面に位置していた。左手で身を支えながら、右手の指先に複数の刃を顕在化させる。首を振り髪がなびく魔物が、ゆったりとトウマを見た。透けた身体に、弟の塔の紅い肌が映りこんで、何か爛れた傷のような醜さが、美しい曲線を描く魔物から発せられている。やはり、紅い塔と魔物は相容れない存在なのだ。
 飛燕連撃が魔物の肌を傷つける高く澄んだ音を鳴り響かせる間に、シトロンは胸に抱いていた杖を宙へ向けていた。彼女の意識が高められ、心が癒しの力を解放すると、白衣で包まれたシトロンの身体から仄かな優しい光が広がり、戦場に満ちてゆく。術の届くところにあった前衛たちの傷が癒されていった。
 
 
●兄の塔にも登ると
(「強くなるためにも、修羅場ってのは一度経験しなきゃいけない」)
 薄い胸や細い腕を赤い上着で包み、尖った肩を黒いマントで覆い隠した少年は、空へと続いていた螺旋階段が赤い光が満ちると共に途切れ、途端に開けた視界の異常さを感じながら、このようなことを思っていた。灼赫を抱きし陽竜・トゥース(a11954)の脳裏に、そびえる弟の塔、戦う仲間達と青い美女姿が瞬時に刻まれる。中でも、何より強い印象をとなったのは、二つの塔を繋ぐ青い八角形が薄い面であることだった。正面から見れば巨大な巣、しかし、その厚みは八角形を形作るわずかな直径の青い線と同等なのだ。
 青竜偃月刀を構えた青年が、塔から身を乗り出しながら言う。
「落ちたら怪我じゃすまないだろうなぁ。下の仲間たちが上手く受け止めてくれるといいけど……」
 黒い前髪が褐色の肌を多い、赤い瞳にもその穂先を届かせていたが、鷹の目・ルイ(a07927)は眉に沿って中指で髪を払いのけると、武具の長い柄に気で練られた鎖を繋げる。次いで、凄まじい勢いで半月の刃が射出された。しかし、彼の狙いは半分しか達せられなかった。青竜偃月刀は魔物の背に強烈な一撃を浴びせたが、深く食い込むことなく、ルイの手元に戻ってしまった。
「ぶら下がったほうが早いのかな」
 武具を肩に、巣をするすると降りていくルイの姿を追いながら、モメントは力の入った肩を寄せている。
「だ……駄目駄目。あれは蜘蛛じゃない。倒さなきゃいけないモンスターなんだから……」
 白いロープが赤い塔の岩肌に垂れて、少女はゆっくりと降下していった。そんなモメントを、まるで盾となり擁護するかのような動きを見せながら、カスラは梯子を伝うように巣を進んだ。くすんだ布地で覆われた巨大な刀身が、ぬらりとした光を放ちながら少年の頭上に掲げられる。その柄を握る右手からは、白銀の鎖が生じていて、鳳刃絶華と名づけられた刃と結ばれている。重たい一撃が、青い美女の肩を襲った。
「紅の塔に青い敵、色彩的にもよろしないし、排除排除や。はよせんと、夕暮も終わってまうよってな」
 黒眼鏡越しに見た光景と、暗いガラスの板をずらして見た光景の違いに、自由の具現者・ヴィアド(a14768)は口元に笑みを浮べる。再び眼鏡の位置を直し、その際に自分でも気付いていないことだが、左目の下に残された傷跡を人差し指でなでると、彼は神鳴牙と名づけたアームブレードを構えた。そして、気を高め、軽やかさを増した身のこなしで塔から飛び降りていった。垂直の面を横伝いに、それでも素早く移動すると、ヴィアドは振り返った青い美女の首筋に一太刀浴びせた。魔物から透き通った飛沫が広がる。
 細く白い指先が露出した赤い術手袋を重ね、トゥースの閉じられていた瞳が開かれる。冷たい冬の夜明けに似た紫の光が真っ直ぐに見つめた先は、青い肌の魔物。黒い焔の蛇が、彼女へ向かって真っ逆さまに墜ちていく。魔炎は巣も彼女も燃やさなかった。しかし、空を匍匐し、蠢きのたうつ蛇は、見事なまでに魔物に直撃している。
 モメントは手の甲を見遣り、唇を固く噛みしめると、次は指先に気を集中させた。白く澄んだ指先に立て続けに刃が顕れる。少女は飛燕を魔物に向かって投擲した。その時、魔物は巣のほぼ中央に位置していた。地上のナイアスら、弟の塔のロッテたち、そして兄の塔へ登ったモメントの班が、それぞれ青い美女を押していた。あるべき位置へと追いやっていたのだ。美しい裸身から放射状に伸びる青い条にちょうど沿う軌道で、少女の放った刃が魔物に到達した。胸の上部、顎との境に三つの小さな傷が生じる。
 白く穿たれた穴が塞がらずに残っている。青い美女の指先が、窪んだ身体を確かめるように鎖骨のあたりへと伸びる。空いた左手が空へとかざされ、爪先はモメントへ向けられていた。光り輝く渦が起こり、それは球状へと硬く固まる。冷たい氷が立ち昇らせる煙のような白さが、この光球の周囲で揺れていた。
 凄まじい勢いで放たれた渾身の一撃が、ロープを掴んだまま動けないモメントへと向かう。しかし、少女がダメージを覚悟して瞳を閉じたその刹那に、黒い影が視界に飛び込み、禍々しく輝く光を遮った。呻く声が漏れる。
「……守るってのが今回の俺の役目だし、な」
 振り返ったのはカスラだった。
 塔の上からトゥースが叫ぶ。
「今だ! 魔物は弱ってるぜ!」
 地を向いて立つ魔物、その背面、つまりは巣の上方から気合が発せられる。
「仕留めるよっ!」
 飛び降りて宙を舞ったルイの構える武具から、青い白い光が昇っている。それは、閃光となって瞬きながら、魔物の肩口を深く砕く。
 左右の塔、そして、地上からも波のような攻撃が放たれて、八角形の中央で収束する。
「……懐にさえ入れば……」
「早く終わって」
「残念だケド……コレでサヨナラだフロイライン!」
 
 
●美しい一瞬の眺めを得た
 冒険者たちが、二つの塔から伸びる長い影の先端、そのほぼ中央に立っている。視界に、兄弟の赤い塔が収まる位置である。
「へー……思ったより綺麗だ」
「そやな」
 トニックの言葉に、黒眼鏡を外したヴィアドが同意している。
「HO!」という笑いを繰り返しながら、ヨイヤミも声を響かせる。「絶景カナ絶景カナ。彼女もコレに惹かれたのかしらネ」
 ご機嫌な仲間の姿に微笑みつつ、ルイが続ける。
「キレイな夕日だ。でも本に黄昏は大禍時って書いてあったっけ。夕ぐれ時には禍が起きやすいって。だけどどうしても見ていたいよね、この光景を……」
 首肯きながら、トゥースが言う。
「生まれて初めて見る光景……こういう瞬間に、冒険者になって良かったと思うんだよな」
「主を失った巣は、このまま残してもいいかもしれませんね」
 そうナイアスが、篭った体内に冷たい空気を取り入れながら言うと、シトロンが静かに口を開いた。
「あの美しい魔物が、本当に人に害を成すものか、私たちは正しいのか迷ってしまいました」
 わずかな静寂を経て、トウマが呟いた。
「彼の魔物も……彼女も、これでやっと眠ることが出来よう」
「そうですね」
 胸を押さえて瞳を閉じるシトロンの後ろで、まったりと茶を飲んでいたヴァイスに、カスラが別の物を進めている。
「……奇麗な物を見ながら飲むってのも……なかなか、だな」
 そう言うカスラが透明な物で戦友の杯を満たすと、ヴァイスも一言だけ述べる。
「ん、絶景」
 仲違いする二人の塔……兄と弟を、青い美女の残した糸が優しく包み、永年の時を経て、一つと繋ぐように見えた。


マスター:水原曜 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:12人
作成日:2004/11/26
得票数:冒険活劇3  戦闘21 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。