内政拡充:壁の穴と賑やかな子供たち



<オープニング>


●普通に暮らす人々の為に
 現在同盟諸国は、数多の問題を抱えています。
 敵対するソルレオンとの緊張関係は解消されず、セイレーン領やチキンレッグ領との関係も順調とは言えません。
 浮遊大陸ホワイトガーデンでは、最大の敵と目されるピルグリムマザーを倒す事はできましたが予断は許せませんし、楓華列島ではマウサツの姫を救出する事に成功しましたが、今後の動きを予測する事は出来ません。

 この多事多難な現状は、同盟諸国の人々の生活に大きな影を落としています。外征に大きな力を振り向ける事は、内治を疎かにする事に繋がるからです。
 外征にも内政にも全力を尽くすというのは簡単です。
 しかし、無い袖を振る事は誰にもできません。そう、限りある国力をどのような配分で振り分けるか……が重要になるのです。

 死者の祭壇の奥へ向けて大規模な外征を行うか否か。
 円卓の間で行われた票決は、この外征と内政のバランスを問う物でした。
 この会議の結果、内政を重視し国内の安定を図るという方針が採択されたのです。
 この結論が正しい物であったのかどうかは判りません。
 しかし、同盟領に住む人々の生活を護る事は、冒険者の義務の一つであり……少なくとも、間違いである筈はありません。

 同盟領内の内政拡充については、各地の領主が既に取り組みを行っています。
 この取り組みに合わせて、冒険者達にも多くの援助要請が行われています。
 これらは、危険なモンスターの退治などとは違い、普段ならば時間は掛かっても自警団などで対応するような依頼です。
 冒険者の仕事としては役不足の依頼かもしれません。
 しかし、こういった地道な仕事の積み重ねが、人々の小さな幸せを守る事につながるのです。

 冒険者の皆様の、ご助力を期待します。

●壁の穴と賑やかな子供たち
「子供の相手は得意かね?」
 黯き虎魄の霊査士・イャトが冒険者達に問うた。
「得意か。そうか、それは良かった」
 一瞬の静寂の後、1人で納得して、というか……話を先に進めたいのだろう。淡々と続けた。

 その街には、身寄りのない子供達を集め扶養・教育する施設がある。
 現在、乳飲み子〜15才までの少年少女が十五名、その孤児院で生活している。
 世話をしているのはサトリという名の、女性。25歳。子供好き。
 だが最近は、慣れぬ赤子の世話に追われてろくに睡眠もとれずにいるらしい。

「さて。依頼は街から。孤児院の壁の補修工事を、お前達に頼みたいという話だ」
「ほしゅうこうじ……」
「うむ。飢えた猪が山から下りて来て、突っ込んだのだ。子供の泣き声に驚いて一目散に逃げたらしく、大事には至らなかったが壁には猪一頭分の風穴が残された」
 食糧庫でなかったのは不幸中の幸いだとサトリも安堵している。
 元々、あまり裕福ではない孤児院での生活。
 街からの援助を受けているとはいえ、十六人が暮らしていくにはそれはギリギリの底辺でしかない。
 それはそれとして。
「幼い子供もいる。これから寒さも増してくる。いち早い修繕を、そして子供らに暖かな食卓を」
 衣服や物資の調達、差し入れも喜ばれるだろう。
 霊査士の言葉に、どうやら慰問も兼ねているらしいと冒険者達は理解した。
「ただし。問題児が若干名……」

 メッシュ:10歳、リーダーシップ過多気味の元気少年。
 ファート:11歳、メッシュの遊び相手、大人しい少年。
 リリィナ:15歳、惚れっぽく、ミーハーな乙女。年上が好き。
 トトニー:1歳、女の子。赤ん坊。

「子供の世話に手がかかると、補修作業がはかどらん。この4人には特に……まぁ、内1人は説明も不要だろうが、対応を怠らぬ事だ。サトリも日常業務の範疇で手伝ってくれるだろう」
 つまり、補修作業の間、邪魔されないよう子供の相手をする者達も必要という事か。
 孤児院の男子の間では『冒険者ごっこ』なる遊びが流行っているそうだ。
 メッシュとファートも日々興じているらしい。配役は……想像できそうだが。
「……ちなみに、イャトは子供の相手は得意なのかね?」
 冒険者の1人が、からかうように訊ねた。
 霊査士は微かに眉を顰めて、無言のままゴブレットを口に運ぶ。
「無駄口は要らん、『補修工事だ』。以上」
 ――得意ではないらしい。

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参加者
凱風の・アゼル(a00468)
北海黒龍王敖炎・オイスター(a01453)
灰夢・フルール(a03146)
ニンジャだったかもしれない・ツキカゲ(a06643)
悠悠自適な牙狩人・デュ(a07545)
銀嶺の月・サイファ(a08110)
白い魔女・ヘレナ(a10287)
混沌の月・アース(a11921)
白鴉・シルヴァ(a13552)
燈導・ソエル(a16489)


<リプレイ>

●賑やかな子供達〜ご挨拶と女の子〜
 それは小さな孤児院の一室。サトリに呼ばれて集まった子供達の大合唱が、冒険者達を出迎えた。
「冒険者だー! すっげー。本物だぜ!」
「初めて見た〜」
「リザードマンだー! すっげー。本物だぜ!」
「初めて見た〜」
「リザードマンの冒険者だー!」
 すげー。本物だー。初めて見たー。
 その三フレーズが様々なパターンで繰り返されているらしい。シンプルな言葉で騒ぐ賑やかな子供達の瞳はキラキラと輝く純粋そのもので、思わず和んでしまう。そして、――
「ごきげんよう、ガキども」
 全てを静寂に導き、静止させたのは灰夢・フルール(a03146)が満面の笑顔で放った一言だった。
「これからお家の修理しますから邪魔しないで下さいね」
 にこやかに続けるフルールは子供達を前に緊張のあまり言動に一部不適切な表現があった事に気付いていない。仲間達の笑顔も凍りつき、子供達は目を丸くしてフルールを見つめていた。
(「…ああ、あまり、見ないで下さい…」)
 フルールは心中で懇願する。子供とどう接すれば良いのか、実はよく解らない。笑顔のまま目眩を起こしそうになりながら彼女は、閃く様に思い出した。
「そうそう、これどうぞ」
 彼女が取り出したのは何の変哲もない絵本だったが、緊張状態の中その動作が唐突過ぎて身構える子供達。

「どうなる事かと思いましたわね」
 まな板を叩く軽快な音、小鍋で暖めているミルクの匂いに包まれて幾人かは台所で作業をしていた。
 赤ん坊トトニーを抱いてあやしながら白い魔女・ヘレナ(a10287)が、慣れた手つきでミルクを用意する混沌の月・アース(a11921)の手元を覗き込み感心したように息を吐く。
 ――みんな、冒険者のお兄さんお姉さんにせーのでお礼を言いましょう。
 それが済んだらお名前とお顔を覚えなくちゃ。
 サトリがてきぱきと言葉で場の空気を回復させた数刻前。さすがに、この家の主である。
「あら、あらあら……」
 ヘレナの腕の中でトトニーがぐずり始めた様だ。目の前で見るリザードマンに驚いたのか……抱っこされる感触やリズムがいつもと違うせいもあるかもしれない。
「ヘレナさん、ありがとうございます。後は私が」
「なかなか難しいものですわね」
 人肌に温めたミルクを哺乳瓶に移し終えたアースが言ってヘレナからトトニーを受け取り、抱き直して哺乳瓶を赤ん坊の口元に寄せた。しばらくぐずっていたトトニーだったが、アースのリズムに馴染んだのかそれとも吸口を口に含んで安心したのか、すっかり大人しくなってミルクを飲み始める。げんきんなものである。
「家事が出来るということは、男性にアピールする一番の武器になります。覚えておいても損はありませんよ」
「はい、おねえさま♪」
「あなたはファミリーの中で一番のお姉さんなんでしょうから……しっかりお手伝いをして、いざという時にはサトリさんを助けてあげて下さい」
「はい、おねえさま♪」
 率先して家事手伝いをする凱風の・アゼル(a00468)の言葉に素直に頷くのは、リリィナだ。肩まで届く金髪をふわふわ揺らして、彼女にべったりと懐いている。その眼差しは恋する乙女さながら。
 ちなみにその潤んだ瞳はつい先ほどまで、挨拶の場で「チャラ〜ン♪」と自ら効果音付きで登場して見せた謎のニンジャ・ツキカゲ(a06643)に「す・て・き」と秋波を送りまくっていたのだが……かと思えば、冬の衣服や毛布を運んで来た悠悠自適な牙狩人・デュ(a07545)に「朴訥なところがイイわー」と飛びついたり。
「きちんとお仕事が出来たら、あとでお化粧の仕方を教えてさしあげますわ」
 と、微笑んだヘレナに「麗しの白リザおねえさま♪」と、崇敬を込めて掌を組み合わせる。
「サト姉はお化粧なんてまだ早いって言うの」
 男も女もリザードマンもOKな彼女の守備範囲に最初は振り回されていた冒険者達も慣れてきた。
「そうですわねー。その場に相応しいメイクを選べるようになるまでは、まだまだと言う所?」
「努力しますわっ」
 この瞳がある限り何でも素直に献身的にやり遂げるリリィナは、普段からサトリの手伝いをしていて台所の使い勝手もよく解っているらしい。と――
「あ、リリィナさん調味料はどこにあるのかな?」
 野菜の下ごしらえを終え、生肉を細かく叩きつつ北海黒竜王・オイスター(a01453)。彼が昼食作りの主幹となって、どうやら得意料理を作るらしい。
 リリィナはきびきびと動き、戸棚からスパイスを取り出して、……『力いっぱい』まな板の横に置いた。
 だん。――静寂。トトニーの表情が「ふぇ」と歪むのを、アースが慌てず騒がずあやしている。
 ちりちりと少女の燃えるような瞳がオイスターを見据えていた。
(「睨まれてる? ボク……」)
 その視線に篭る感情の種類を何となく、知っているような気がする。
「あ、ありがと……」
「どういたしましてっ!」
 語尾に込められた力。苦笑を浮かべながらオイスターは塩胡椒を肉に振る。
「あらあら、リリィナさん……」
「それはレディにあるまじきですわ」
 アゼルとヘレナの声に我に返った少女は、愛らしく振り返り「えへ♪」と誤魔化して淑女よろしく2人に謝罪したのだが。背中を向けられてしまったオイスターは肉団子を捏ねつつ考える。
(「これは、もしかして……もしかしなくても――」)
 ――対抗心。
 同じぐらいの年頃で、しかも男の子には負けられないと。そんな所だろう。

●〜壁の修理と男の子〜
 子供達と一緒に外を駆け回る鬼ごっこ。ツキカゲは建物の裏手にある雑木林に飛び込んで身を隠した。木を隠すには森の中といいます。鎧進化で樹に擬態です。……『かくれんぼ』になってます?
 しかも彼はあっさり子供達に捕まっていた。
「……何故バレましたかっ!?」
「だって、動いてるし」
「はみ出てるし」
 『はみ出てる』? ――手とか足とか、あと頭巾を被った顔とか。
 盲点でした!! とばかりにショックを受けたツキカゲは、しかし平然と立ち直り。
「アナタ方、素質アリマスネ〜」
 感心を片言で表現した。子供達はそんな彼を玩具としか見ていないらしく、未だ鎧進化中のツキカゲによじ登る。重さに負けて倒れた彼を今度は我先にと転がし始めた。
「あぁ〜〜」とか、悲鳴を上げながら本人もどこか楽しげに見えるのは気のせいだろうか。
「あまり遠くに行っちゃ駄目ですよ〜!」
 はしゃぐ子供達をはらはらと見守るサトリ嬢の声に「はーい!」と少年少女は一斉に元気な返事。
 そこで彼女が「冒険者の人を苛めちゃ駄目ですよー」、と言わなかったのは、「彼は大丈夫ですから。いつもあんな感じですから」とか何とか、冒険者達が止めたからだとか何とか……定かではないが。

「僕達がちゃんと面倒を見るよ!」
「そうそ。今日くらいはゆっくり休んでな」
 心配そうにサトリが長く吐息したのを見て、力説するのは虚空の翼を抱く者・ソエル(a16489)。預かっている子供達とそう変わらない年端の少年に慈しむ様な笑顔を返した彼女は、闇夜に羽ばたく白き鴉・シルヴァ(a13552)の気遣いに頭を下げた。
「ありがとうございます。でも、何だか手持ち無沙汰で……」
「それじゃあ、2人でお茶でも……というワケにも行かないんだな〜これが」
 どさくさに紛れて誘おうとしたシルヴァが、壁を補修している仲間達とソエルのジト目を受けて悪びれる素振りで肩を竦める頃には、ソエルはもう子供達を追って走り出している。
「まぁ、俺らに任せてよ」
 そして、休める時にはちゃんと休んでおくこと。サトリは頷く様に小首を傾げながら、微笑んだ。

 壁の補修作業には三名が臨んでいた。フルールがお約束で自らの手を打ちつつ何とか直した骨組みに、内と外からデュと銀嶺の月・サイファ(a08110)が壁土を塗り込んで行く。
「それにしても、あの女の子にはびっくりしただな〜」
 思い出して照れながら、デュは練った土をパテパテと塗っている。リリィナ嬢の突進はそれこそ猪の様だった……とは本人の前では禁句だろう、多分。
「大変、だね」
 問題の彼女は自分よりも年上だが、サイファにも何となくそれは感じられた。今までにやって来た作業員もさぞ苦労したことだろう。気付けば集まっている子供達を「危険ですよ」と遠ざけようとするフルールとは裏腹にデュはほのぼのと少年達を迎えた。危険な事は任せられないが、壁の土を塗るくらいなら体験させて見ても良いだろう。
「やってみるだべか? 泥遊びの延長みたいなもんだべな〜」
 どろどろの土で壁を汚しても怒られない上に、作業が終わればカレーパン。
「カレーパン?」
「白い鱗のお姉ちゃんが、ご褒美だって!」
「ヘレナに言われて来ただか。そうかそうか〜」
 和気藹々。子供達と一緒に壁の修繕は楽しく進んだ。
「皆さん、一休みしませんか」
 頃合を見てお茶の準備に立っていたフルールが、頑張る彼らに声を掛けて休憩を促す。お茶請けにと、アースが運んで来たマフィンやクッキーを、ソエルも一緒にお皿に取り分ける手伝いにやって来た。
「わーい」とはしゃぐ子供達も冒険者もあちこち泥で汚しながら、その表情は充実感に満ちていた。

 子供達が手伝って修繕した壁は、なかなかに味のある有様。

●〜食事とお昼寝、それから〜
 食事が終われば、小さな子達は昼寝の時間。
 歌を歌っていたソエルは、眠っている子供を見つけて声のトーンを落として行く。口の前に指を立てると、ソエルと一緒に歌っていた子供達もそれに気付いて小声になって、内緒話をするように思わず零れる笑い声。アゼルが布団を並べ、デュが眠っている子供達を運び、オイスターは添い寝をしてあげている内に子供達と一緒に眠ってしまった。
 静かにね。毛布を運ぶのを手伝っていたリリィナに、アゼルが視線で告げると少女は溜息を吐く仕草。そして、一枚の毛布を子供とオイスターの上に掛けてやる。
 揺り篭に揺られるトトニーもすっかり安心しきって穏やかな寝息を立てている。
「………」
 己の指を握って離そうとしない小さな手を見つめて、我知らず、表情から余計な力が抜けて行くのをアースは自覚していた。

 別室では、遊び盛りの子供達がツキカゲやシルヴァを振り回している。否。ツキカゲは逆さに引きずられていた。笑い声を上げながら。
「重ッ! つーか何でオレこんなムキになってんだ。ファート、後はお前が何とかしろよなっ」
「え……ぅ、うん」
 リーダーシップ過多の少年はつまり、いじめっ子気質。理不尽な押し付けにも反対を押し通せないファートが渋々頷くのを振り向きもせずに、メッシュは他の子供達を引き連れて別の遊びに行ってしまう。
「行こうぜみんなー」
「ファートはー? 一緒にノケットするんじゃないの?」
「バットもないのに出来ねーだろっ」
 遊び道具の中にあったボールは、柔らかくてよく弾む素材で出来ていた。かっ飛ばせばホームラン間違いなし――だが、バット代わりに出来そうな箒は何故か女子の猛反対に遭って(ヘレナが女の子を連れて後片付けがてらの掃除をしていたのだ)利用不可。
「それはしょうがないですねー。ワタシが代わりに一肌脱ぎましょう」
 そんなこんなで飄々とバットとして名乗り上げたツキカゲを、しょうがないので引きずり始めた少年達だったが、何というか、またノケットとは程遠い遊びになっちゃってる訳で。
「や、まぁ、皆がそれで楽しいなら俺は止めないけどな」
 苦笑しながら腕組傍観していたシルヴァを見たせいかどうか、メッシュがファートに一切合切押し付けてしまったのだった。扉が閉められた室内に、取り残されたファートは律儀にずーるずるとツキカゲを引きずり続けている。今度は誰しもが無言である。
「………」 ………。
「……楽しいですか?」
「お前が言ってやるな」
 ツキカゲにツッコミを入れられたファートがあまりに不憫でシルヴァがツッコミ返した。
 さすがにそれ以上歩けなくなったファートがその場にぺたと力なく座り込み、その時点でツキカゲは起き上がっている。
「かくれんぼでもしましょうか」
「……また?」
 しかも3人で。
 YA!
 ……楽しくない。ぽつり、と少年の小さな呟きが聞こえた気がする。
「まあ。とりあえず、皆のとこ行こうぜ」
 シルヴァはファートの肩に手を置き、「な!」と笑顔で促す。
「ついでに絵の具か何か……描くモンと描かれるモンありったけ、何処にあるか教えてくれよ」
「?」
 きょとんとその笑顔を見つめ返すファートの頭を、くしゃっと撫で付け立ち上がるシルヴァ。

「んっ。と、ひとまずはこんな所で良いのかな」
「そうですね。良いんじゃないでしょうか」
 孤児院内を歩くサイファが発見したのは傾き掛けた窓枠だった。添え木をして釘で留め、軽く叩く。
 フルールも色んな角度から掌をかざし、外からの風が漏れて来ないのを確認して頷いた。
 他にも、どこか直す所はないかと見て回る2人。時間が許す限り、少しでも。

 冒険者が帰り支度を始める頃、呼ばれてやって来たサトリは部屋に入って驚いた。
 壁には所狭しと彼女の似顔絵が貼り付けられている。
 中には赤と青と茶色だけで描かれた抽象画も混じっていたりするが、それを描いた女の子は「これ、さとりー」と無邪気な笑顔で得意げに胸を張るのだ。
「ありがとう……」
 感動して泣き始めたサトリに驚いた子供達が一斉に飛びついて、彼女を慰める。一緒に泣き出しそうな子供達を心配させまいとして笑顔を作った彼女は、両腕に抱えられるだけ子供達を抱きしめた。
 冒険者達はその様子をただただ見守るばかり。
 親がいない子供達。しかし、『家族』の絆はこの孤児院にしっかり根付いているようだ。
「皆でサトリさんを支えて行くのよ。わたし達に言われれるまでも、ないかしら?」
 子供達の目を見てヘレナは頷き、約束の握手を交わす。思った以上にたくましい子供達で安心した。
 今に生き、明日に生きようとしている彼らの偏見のない笑顔に、ヘレナは釣られて満面の笑み。

 一日だけの交流だったが、お互いに得られる物があったと信じたい。

 市場で安く仕入れた野菜と余った食材は、そっくりそのまま置いて来た。
「少しでも、みんなの暮らしが楽になるといいね」
 今日一日で、何が変わるという訳ではないがソエルは願わずにいられない。
「折を見てまた遊びに来ますからね〜♪」
 手を振るツキカゲに、「また振り回してやるっ」と意気込むメッシュの姿は遠い。子供達を連れて冒険者の見送りに出て来たサトリが苦笑しながらメッシュを抑え、深々と一礼する姿が見えた。
 また遊びに来よう。シルヴァも心の中で繰り返す。
「おにいさま、おねえさま、リリィナはずっとお待ちしておりますわ〜!」
 リリィナはハンカチを噛んで別れを惜しみつつ、いつまでも、冒険者達を見送っていた。

 明日からはまたサトリと子供達だけの生活が始まる。生きる為に。


マスター:宇世真 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2004/12/06
得票数:ほのぼの9  コメディ2 
冒険結果:成功!
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