内政拡充:新しい村



<オープニング>


●普通に暮らす人々の為に
 現在同盟諸国は、数多の問題を抱えています。
 敵対するソルレオンとの緊張関係は解消されず、セイレーン領やチキンレッグ領との関係も順調とは言えません。
 浮遊大陸ホワイトガーデンでは、最大の敵と目されるピルグリムマザーを倒す事はできましたが予断は許せませんし、楓華列島ではマウサツの姫を救出する事に成功しましたが、今後の動きを予測する事は出来ません。

 この多事多難な現状は、同盟諸国の人々の生活に大きな影を落としています。外征に大きな力を振り向ける事は、内治を疎かにする事に繋がるからです。
 外征にも内政にも全力を尽くすというのは簡単です。
 しかし、無い袖を振る事は誰にもできません。そう、限りある国力をどのような配分で振り分けるか……が重要になるのです。

 死者の祭壇の奥へ向けて大規模な外征を行うか否か。
 円卓の間で行われた票決は、この外征と内政のバランスを問う物でした。
 この会議の結果、内政を重視し国内の安定を図るという方針が採択されたのです。
 この結論が正しい物であったのかどうかは判りません。
 しかし、同盟領に住む人々の生活を護る事は、冒険者の義務の一つであり……少なくとも、間違いである筈はありません。

 同盟領内の内政拡充については、各地の領主が既に取り組みを行っています。
 この取り組みに合わせて、冒険者達にも多くの援助要請が行われています。
 これらは、危険なモンスターの退治などとは違い、普段ならば時間は掛かっても自警団などで対応するような依頼です。
 冒険者の仕事としては役不足の依頼かもしれません。
 しかし、こういった地道な仕事の積み重ねが、人々の小さな幸せを守る事につながるのです。

 冒険者の皆様の、ご助力を期待します。

●大事業の始まり
 そうした地道な仕事に心血を注いでいる中に、マクボォヴという人物がいる。河沿いにある小さな町の町長をしているこの男は、とある大きな事業を計画していた。
 それは、新しい村の建設である。
 相次ぐ戦乱で、家族や住むところを失った人々も多い。同盟各地からそうした人々を集め、安住の地としてもらおうというのである。
 だが実はこの町、大々的な治水事業をすでに行っている。それにくわえて今度の事業ともなれば、大変なことであるが。
「こういった事情ですので……見過ごしてもおけません。それに、新しくできる村はここから上流の、やはり河近くの高台になります。村の生活が安定すれば、そこから治水工事に夫役を出してもらうこともできるでしょう。そうすれば、互いが豊かになれる。決して町の住民に負担をかけるだけにはならないはずです」
 そう言って、町長は計画を語った。

 さて、村の建設はそれはそれとして。
 何故、それに冒険者を必要とするのかというと。
 村を作るというからには、今まで誰も住んでいない土地がそれにあたる。そこには当然にして危険な生物も多く生息しているということだ。
 もちろん、冒険者たちは村に永住するわけにはいかない。だから、将来的にはその村も防壁を築いてその脅威から身を守ることになるだろうが……。とりあえずは近くの森から木を切り出し、防柵を作ることで対処しなければならない。
 その柵は、早急に作らなくてはならない。そしてその間、村人は荒野にあって無防備だ。
「皆さんにはその間、村人を守ってほしいのです」
 町から責任者として派遣されてきた女性(イウェリッズというらしい)が冒険者たちに状況を説明した。
 すでに村の予定地には数十人の男女が入り、建設に取り組んでいるはずである。
 それだけの人数、それだけの広さ、それだけの長い時間、それだけの脅威から、村を守り抜かなければならない。

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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
青嵐の歌人・レイディア(a05847)
生命実る緑風・ヴァリア(a05899)
七草の樹術士・アキノ(a11259)
希望への導き手・フィリア(a11714)
星影の紋章術士・クラウディット(a12702)
幼き眩惑の狐姫・セレス(a16159)
深緋の蛇焔・フォーティス(a16800)


<リプレイ>

●荒れ果てた大地
 イウェリッズという人物は、噂で聞いていたとおり篤実な人物のようだった。
「皆さまのお手を患わせて、申し訳ありません」
 彼女は冒険者を前に、深々と頭を垂れた。
「そんな、とんでもない。私たちの力でお役に立てるのなら……喜んでお手伝いさせていただきます」
「これが完成すれば、救われる人もたくさん増えますものね」
 青嵐の歌人・レイディア(a05847)と運命を拒む新緑なる翼・フィリア(a11714)は口々に言って、慌てて手を振った。
「ありがとうございます。これは失敗することの出来ない事ですから、私も粉骨砕身する所存です」
 そう言ってイウェリッズは視線を巡らせた。一同もそれに合わせ、そちらに目を転じる。
 視線の先には、寒風にさらされる荒野が広がっている。森に抱かれ、河を前にした緑豊かな土地とはいえ、今は人を拒み続ける自然がただ、あるだけである。
 だが、そこで働き続ける人々の姿もまた、目に映る。土を掘り、材木を担ぐ人々こそ、新しい村をここに生み出そうとする者たちだ。
「故郷を失った人たちにとって……ここが新しい故郷になると、いいですね」
 想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は風になびく髪を抑え、しみじみと呟いた。
 さて。人々の営みに思いをはせているのは、ここまで。やらなくてはいけないことはたくさんある。
「新しい村、なんとしてもお守りしましょう」
「帰るところをなくすなんてとても辛いことだもんね。そんなこと、一度でも十分すぎるもの!」
 緑薫る突風の剣士・ヴァリア(a05899)がイウェリッズに向かって頷いてみせると、幼き白銀の舞姫・セレス(a16159)は「まかせて」というように胸をぽんとたたいた。
「では、まず周辺の状況についてわかっていることがあれば、教えてもらおうか……」
 まだ、落ち着いて居られる家屋の1つもない。荒野の邪竜導士・フォーティス(a16800)の言葉で表情を改めた一同は、地面に車座になって座り込んだ。

●森の獣
 冒険者がしなくてはならないことを改めて説明すると、それは「グドン・野生動物の襲撃から村を守ること」である。
「あら、でも材木の切り出しは森で行うんでしょう? だったら、その人たちも危険じゃないかしら?」
「あぁ、そうですね。じゃあ私たちはその方々をお守りしましょう」
 ラジスラヴァとレイディア、そしてフォーティスはそうして、森に出かけることにした。
「いやぁ、そうしていただけると安心です」
 3人とも屈強と呼ぶにはほど遠いが、男たちはほっとした様子で同行を喜んだ。
 安心感も手伝ってか、男たちの作業は順調に進み、次々と材木を集めていく。とりあえず、家屋より優先して柵を作るための物だから、巨木である必要はない。
 ところが、そのとき。
 フォーティスの連れた犬、『忍犬【獅子丸Jr.】』が、唸り声をあげた。
 熊だ!
 茂みを大きく揺らして現れたのは、彼らの背丈以上の大きさの、熊だった。
 まずい。そろそろ熊は冬眠の季節だ。そのぶん、気が立っている!
 村人の中には、山村で暮らしていた者も少なくない。男たちはうろたえたが、それを庇うようにラジスラヴァが進み出た。もちろん、熊を相手に格闘しようとしたわけではない。
「待って、わたしたちは森を荒らしに来たんじゃないの」
 ラジスラヴァは『獣達の歌奥義』に言葉を交ぜ、熊に呼びかける。レイディアもそれに続いた。
「そうです私たちは、森の木を少しだけ分けてもらいにやってきただけ。食料を奪ったりあなたを傷つけたりはしませんよ」
 熊は、それで納得しきったわけでもなかろうが、2人の落ち着いた対処に励まされた村人たちも気を取り直して熊を見据えたため、人間たちに関わることを嫌って森に消えていった。
「やれやれ。手荒なことをせずにすんでよかったな」
 フォーティスは肩をすくめ、しゃがみ込んで愛犬の頭を撫でた。

●一歩ずつ
 村人たちを守るのが役目だが、時間を見つけては彼らの手伝いをする者もいた。
「失敗しないように、失敗しないように気をつけて〜、いち、に、いち、に」
 紋章術士・クラウディット(a12702)が『土塊の下僕奥義』を次々と使っていくと、地面からぼこぼこと湧いて出てきた土人形たちが列を為して、歩き始めた。クラウディットはそれで何をさせようとすることもなく「所定の位置」に移動させる。するとまもなく、効果時間の切れた土人形たちはもとの土塊に還っていった。
 これを押し固めて、防壁にしようというのだ。
「む、やるわね。わたしも負けてられないわ!」
 それを見ていた七草の樹術士・アキノ(a11259)は、負けじと地面に鍬を打ち込み、穴を掘った。掘り続けた。
 とはいえ、揃いも揃えた『土塊の下僕』とはいっても、子供ほどの大きさでしかない。これで作れる防壁の大きさなどたかが知れたものだ。まして、アキノの細腕で掘り進められる穴の深さときたら。
 だから、それに比べると短時間で作ることの出来る柵の完成を当座は急いでいるのであるが。
 しかし、彼女らが一緒になって、力の限り村の建設に寄与している姿は少なからず村人に好感を与えたようである。
 村人を督励して回るイウェリッズの姿を認めたアキノは、
「見た、この人望の厚さを!? この前は勝ちを譲ってあげただけなんだからね!」
 と、反り返った。前々から、敵愾心をありありと燃やしているのだ。
 もっともイウェリッズにしてみれば、冒険者の献身ぶりはとてもありがたいというかなんというか、心から謝意を述べてくれる。
「……張り合いないわね」
 ちょっと、物足りない。アキノは唇を突き出した。
「あ〜。そろそろ見張りを交代しに行かなくちゃいけないかな?」
 クラウディットが日の傾きを見て、声を上げた。知らない間に、ずいぶんと時間がたってしまった。いつも、こんな調子だ。
「でもまぁ、あたしたちの他にも、みんなもいてくれるから大丈夫だよね」
 視界に入る光景は平和そのもの。彼女はそう、気楽に言ったが。

●獣の時間
 夜。村中を振るわせた咆吼は、襲撃の合図だった。
「グドンです〜!」
 見回りをしていたフィリアが、転がるように走って戻ってくる必要さえない。
 獣の時間、夜。グドンどもはそこを狙って襲いかかってきた。群に合図する咆吼は辺り一面を振るわせ、村人たちは震え上がった。
 大がかりな攻撃だ。冒険者たちはすぐさま、応戦の構えを取った。
「それは、大がかりにもなるだろう」
 武器を取りつつ、ヴァリアが皮肉っぽく、笑う。
「もともとこの地にいたのは連中なのだからな。もっとも、奴らは相容れない存在。殲滅させてしまうのが最善だろうがな」
「グドンは森の奥でも生きていけるけれども、人はそうではない。ここしか、生き延びられる地はないと、そう……思っていただければ」
 いつの間にか、イウェリッズが立っていた。だがそれでもヴァリアに焦りはない。むしろ、イウェリッズに聞かせたふしがある。
 村の建設にあたっては、適した土地を探すためにある程度は探索が行われている。が、「適した土地」とは人の手でどうすることも出来ない地理的用件のことを指していて、グドンなどについては考慮されていない。そんな理想的すぎる土地に何者かが住み着いていないわけがなく、また贅沢を言っていられる余裕もないのである。
「ま、いいだろう」
「悪いけど、ボクたちも必死なんだよ!」
 さすがにこの相手と『拳で語る』ことはあるまい。
 ところが、グドンどもの猛攻はさすがの冒険者たちも持て余した。
 もちろん、その強さにではない。グドンとの戦いなど危険とさえ思わない猛者だって、中にはいる。
 だがそれは、1対1での話。倒されても倒されても襲ってくるグドンには、さすがに手を焼く。その数を頼りに襲ってくるのが、グドンのやっかいなところなのである。まして、今の相手は住むところを失うまいと必死なのである。怯まない。
「これはとても……ねぐらを突き止めるどころでは!」
 フィリアは戦局を見守り、焦りをあらわにしていた。
 森に出かけたり村人を手伝ったりと、疲れている者も多い。それはそれで重要なことではあるが、そのぶん村の守りに疎漏を生み出しやすくは、なる。
 村は広い。まして、柵のできあがっていないところも多い村では、全ての方位から易々と攻め寄せてくると言ってよい。もちろん、冒険者たちはそれらの困難にも怯むことなく多種多様のアビリティで……つまりは『懸命に戦う』覚悟を固めてはいたものの、戦い方としては正直すぎた。

●やがて、沃野となる
 グドンどもは冒険者たちに襲いかかる一方で、より奥にいる『メス』らを狙って飛び込んでくる。狼らしい、意外に統率のとれた行動だ。
 クラウディットは悲鳴を上げた。
「だめ……支えきれない! 村の人をお願いエンドリードさん!」
 村人の命が失われてしまってはどうにもならない。夜明けの紋章術士・エンドリード(a12607)は「わかりました!」と頷き、駆け戻った。
 村の周縁でグドンをすべて撃退することはかなわず、他の冒険者たちもじりじりと下がってくる。
 そこで彼らが見たのは、なんと矛を手にしたイウェリッズの姿であった。
「この村を失うわけにはいきません! 皆、武器を! 村人の皆は、中央へ。動いてはいけません!」
 彼女は町からやってきた役人たちに武器を取らせ、防衛の構えであった。
 だが彼女は、武器などほとんど手にしたことなどなかろう。フォーティスが慌てていさめる。
「危険すぎる。死にたいのか!?」
「まさか。ですが、ここで私たちが死を恐れて奥に引っ込み、村人を犠牲にしたとしたら、村人は町を信用出来なくなってしまいます。そうなっては町長に合わせる顔がありません。……もし私が死んだとしても、村人は私たちの誠意を覚えていてくれるでしょう!」
 そう言い残して、役人を率いて手薄であった所に駆け出していく。
「あぁ〜もぉッ! このボケ女! あなたが死んでこの村を誰が面倒見るのよッ!!」
 アキノは舌打ちし、後を追う。

「うぅ……もう駄目、何も見えない……最後のお願い、村を救ったわたしの名を、村の名として……」
「死にやしませんよ、これぐらい」
 フィリアが呆れ果てたため息をつきながら、アキノに『ヒーリングウェーブ奥義』をかけている。向こうでは、レイディアが『癒しの水滴奥義』で役人たちやイウェリッズの傷を癒していた。イウェリッズの二の腕に、決して浅くない傷がある。
 そんな、冒険者やイウェリッズまでも負傷するような激戦の果てに、なんとかグドンを撃退することに成功した。辛勝、といったところだ。
 だが倒したグドンの数も多く、敵が再び攻撃を掛けてくるまでには、柵も完成するだろう。依頼は成功だ。
「グドンの後を追う? ……といっても、それどころじゃない、よね」
 セレスは、大きく息を吐いて座り込んだ。
「まぁ、改めて、だな。改めてグドンを『殲滅』するなら、また呼んでくれ」
「こら、またヴァリアはそんなこと言う……。イウェリッズさん。わたしたちがまた、こちらにおじゃましたとき……そのときに、すてきな村ができあがっていると良いですね」
 ラジスラヴァは、ヴァリアを小突きながら微笑む。
 イウェリッズと、彼女を取り巻くように集まってきた役人も村人も。
「えぇ、必ず」
 頷くイウェリッズと一緒になって、笑顔を見せた。


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作成日:2004/12/07
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