黒桔梗の森〜妖狐奇譚・我は遊歩を望むの章〜



<オープニング>


●妖狐、決断す
「ピクニックの場所、ここに決めたわっ!」
 出てきたばかりの黒桔梗の森を背に、蠱惑の妖狐・ライカはいつになく強い口調で宣言した。隣に佇む朽葉の八咫狐・ルディは諦めたように溜息を付き、ポツリと言う。
「あそこにですか?」
 普通の場所で普通のピクニックでは物足りない。
 何か、刺激的な要素が欲しい。一生の思い出に残るような。
 そんな思いを抱き、ライカはルディを連れてピクニックポイントを探しに黒桔梗の森を探索していた。
 そして疾風怒濤、波乱万丈な苦労の末(残念ながら詳細は割愛するが)。色とりどりの美しい花々が咲き乱れる、この世のものとは思えない程の幻想的な風景に出会った。しかも花畑の傍らには清水が滾々と湧き出る綺麗な泉まであったのだ。
 残念ながら景色を堪能する間もなく、突然襲い掛かってきたモンスターに追われて逃げる羽目になってしまったが。
「あんないい場所を独り占めしてるなんて許せませんの、お仕置きですわ」
「独り占めというか……3匹いましたよ」
「細かい事は後、後! とにかく仲間を集めましょ♪」
 ライカは脳内で親友知人の名簿を辿る。そして幾つかの顔を思い浮かべて嬉しそうに微笑んだ。
「絶対、楽しいですわよ♪」

●妖狐、親しき者を誘う
 数日後……再び黒桔梗の森にて。
「準備は万端。さあ、行きますわよ〜♪」
「……どうして私がここにいる」
「やや? ライカさんが二人!?」
 集まったメンバーに、にっこり笑って出発を促したライカと、その隣でルディに手を引かれたまま憮然と立つストライダーの忍び・エルフォミナが居た。
 どうやら町中を駆け回って仲間を探していた時に、ルディがライカと間違えて連れてきてしまったらしい。
 ……暫くお待ち下さい。
「ホント、そっくりですわね〜♪ ねぇねぇ、エルちゃんには生き別れのお姉さんとかいませんの?」
「……」
「この場合、兄でも可です」
「……」
「ええ、ライカがお兄さんなの!?」
「エルフォミナさんが兄という説も……」
「……わかった、微力ながら手伝わせてもらう。だからその不毛な会話を止めてくれ」
 世の中は広く、深いものだとひとつ知ったエルフォミナだった。

 *<注意>*
 〜モンスターの詳細を記したルディメモより抜粋〜
 ・モンスターは三位一体攻撃をする。外見は「いたち」に酷似。
 ・小いたち(体長1メートルほど):狂戦士系のアビ使用か?
 ・中いたち(体長1メートル50センチほど):忍び系のアビ使用か?
 ・大いたち(体長2メートルほど):医術士系のアビ使用
 小いたちが冒険者の動きを止め、中いたちが攻撃し、大いたちが仲間の回復するものと推察する。

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参加者
朽葉の八咫狐・ルディ(a00300)
黒狗・ミスト(a00792)
蠱惑の妖狐・ライカ(a00857)
焔銅の凶剣・シン(a02227)
銀翼に咲く幸福・ジーニアス(a02228)
八叉銀尾の・ヒエン(a05183)
霊帝・ファントム(a05439)
風の・ハンゾー(a08367)
NPC:紅蓮閼伽・エルフォミナ(a90166)



<リプレイ>

 ――人の通わぬ森の奥に、舞うは花弁。ただ、ひらひらと……咲くは花、散るも花。

●奇襲
 数多のモンスターが闊歩すると云う黒桔梗の森には、躍動する生命の息吹が感じられない。暗く……静かに。大樹が風に葉を鳴らす音だけが、時の過ぎ行く様を映している。
 先ずその静寂を破ったのは、幾つかの土人形達だった。萌えた草花を踏みしめ、圧倒的な美を誇り咲き乱れる花園を行く。
 ゴオォォォ…… 
 風が渦を巻き、花吹雪が舞った。無情に落ちる首、首、首。ドサドサと土に戻った土塊の下僕を足蹴に、立つは3つの異形。外見は鼬に似ているが硬い体毛に覆われた皮膚は硬質的で、後ろ足、前足ともに異常に発達している。尾は血に濡れたような赤色で巨大な鎌の如き形状をしていた。
 三体のモンスターは土塊の中に幾つかの木の実が混在するのに気付いたようだ。身を屈め、確かめるように鼻先を近付けたその時。
 木上から練った気の刃が風を裂いて襲い掛かる。ヒラリと身をかわした中型のモンスターは視界に忽然と現れた紅を感情の無い銀の眼に映した。
 刹那、さらに別方向からも同様の刃が迫る。大型のモンスターが身を捻ると、その隙を突いて小型のモンスターへ忍び寄った黒影が冷気を伴い研ぎ澄まされた白刃を叩き付けた。
「今よ!」
 奇襲に成功したと見るや、蠱惑の妖狐・ライカ(a00857)の鋭い声を合図に隠れていた冒険者達が花園を駆ける。ハイドインシャドウで姿を消していた忍び達も今は姿を現していた。素早く距離を置き武器を構える黒・ミスト(a00792)。大鼬へ弐の太刀を放つべく気を練るのは地陰星・ヒエン(a05183)。赤き布を風になびかせ木上を素早く渡る澪標・ハンゾー(a08367)。
 先手を押さえた冒険者達の狙いは、得意の三位一体を封じる事を意図した敵の分断だった。突如現れた幾つもの生命を見て、モンスターらは唸り声を発して攻撃態勢を取る。それを中心にして戦場が暗黒の光に包まれた。
「何!?」
 驚いたストライダーの忍び・エルフォミナ(a90166)に、アビスフィールドを展開した朽葉の八咫狐・ルディ(a00300)が淡々と言う。
「背水の陣です。全員攻撃に集中し、速やかに闇の領域から逃れてください」
 確かに敵の連携を崩す領域の目安にはなるが、互いの特殊攻撃に掛かり易い状況になった事は果たして五分といえるのだろうか。
「……」
「ったく、ライカの誘いじゃロクな事はねぇと思ってたがな」
 霊帝・ファントム(a05439)は無言で、焔銅の凶剣・シン(a02227)は苦笑を口の端に浮かべ。気合を高めて鎧の形状を進化させた。
 木上から飛び降りたハンゾーが『曼珠沙華』を横薙ぎに振り払うと白刃から放たれた衝撃が中鼬小鼬を僅かに後方へ押し、その隙に二人は二体を相手取る。大鼬の前には盾を構えたライカが軽やかに立った。
 前衛と後衛、自らの役目を悟り位置を取る彼らの、命を賭けた戦いが今、始まる。

●DEAD OR ALIVE!
 激しい戦いが続く中、小鼬型モンスターの体が風音と共に震えだした。アクターネファリウスを構えたシンはそれを予備動作と悟り、素早い牽制攻撃を仕掛ける。
「咆えるな!」
『シャァァァ!!』
 紅蓮の咆哮を使わせまいと巨大な剣を自在に操りながら、小鼬を『領域』から引き離しに掛かった。右に動けば左に寄せ左を避ければミストの飛燕連撃が裂傷を与える。
 二人の攻撃に苛立ったモンスターは大きく跳躍すると頭上を越えようとした。その着地地点にオペ娘・ジーニアス(a02228)が満を持してスキュラフレイム奥義を撃つ。
「ぼうぼうあにまるず、ピクニックふぁいあー!!」
 黒炎を従わせた『獅子』と『山羊』がモンスターに喰らいつき、『蛇』が毒を流し込みながら轟音と共に炎上した。まともに攻撃を受け衝撃に舞った小さな影を追ったシンはふと、風が止んだ事に気付く。
「……!」
 戦いに挑む彼の感覚が全て「危険だ」と訴えている。刹那、敵の姿が刃の塊と化した。尾をはじめ毛と言う毛が逆立ち、その身を凶器へ変える。
「ぐ!」
 ゴォォォォ!!
 攻撃は疾風を起こし、シンをその渦に巻き込んだ。強化された鎧が断続的に金属音を鳴り響かせる。だが無数の刃を受けて尚、狂戦士は揺るがない。
「面白ぇ。お前と俺、どっちの剣が折れるか……試してみるか?」
 己の血飛沫を映した真紅の瞳、その奥に凄まじい色を浮かべ彼は……深く笑ったように見えた。

 ルディの撃ち出した銀狼を一撃で払いのけた中鼬型モンスターは間合いを計って打ち込んできたファントムの攻撃を軽くいなした。体の倍以上はある尾が赤く陽光を反射する。隙無く構えた『禊』を一合、二合。
 ギン……と火花を散らして跳ね返した敵の武器はやはりその尾だった。カラミティを警戒しながらも自身の得意とする間合いを守る彼は、戦いの中でさえ変えない表情を僅かに動かした。
「(狙いは……同じか?)」
 一撃に全てを込める。ならば、一瞬でも隙を見せた方が血華を咲かせるのだろう。
「……」
 朽ちるのは、どちらか。盾『鬼火』が哭いたような気がした。

 領域を彩るのは暗黒の光。仄暗いその色に照らされた大鼬型モンスターは確実に小中鼬から引き離されていった。
 (「これはやりとげねばならぬ事……」)
 『先手必勝』『先の先』を志し、凛とした覚悟を貫くヒエンの飛燕連撃奥義が連続して敵を切り裂き、後方へ押しやる。加減するつもりなど毛頭無かった。例え力を使い尽くそうとも、怒りに猛った巨大な刃が向かってこようとも。
「こっちよ!」
 ライカはヒエンを庇い間に入ると、ライクアフェザーで敵を翻弄した。巨大な尾が風を斬り唸りを上げて襲い来るのもヒラリとかわして。召還していたリングスラッシャーがお返しとばかりに回転しながら大鼬へ向かった。
 キィィィ……ン!
 巨大な尾に斬られ、衝撃波が四散し。それを好機と捉えたライカの足捌きが変化する。超高速剣……ミラージュアタック奥義で一気に領域外へ押し出そうと図った。意図を察したルディのスキュラフレイム奥義がその動きに合わせて撃ち出される。
 風が、動く。
『シャァァァ!』
「くう!!」
 ライカの武器が止まった。ルディのスキュラフレイムは敵の護りの天使に威力を抑えられ、ライカの攻撃は今一歩及ばず。その体には一直線の切り傷が穿たれ、血がとめど無く溢れる。酷薄な獣の瞳が嗤ったような気がした。
「ま、だ、よ!!」
 だが、巨大な尾に斬られたライカは信じられない行動に出た。武器を押し込んだまま、巨体を押す。一歩、二歩……そして。
「てえい!」
 領域から、出たのだ。

●決着
 敵へ癒しの光はもう届かない。その好機を冒険者達が無駄にする筈も無かった。
 ジーニアスのヒーリングウェーブ奥義が仲間の傷を瞬く間に癒す。
 シンの攻撃が一転、激しさを増し、それに気を取られた小鼬は死角に回り込んだミストの動きに気付かなかった。
 ギィン!!
 必殺を狙ったカラミティエッジ奥義が敵の刃に阻まれる。
「浅いか……」
 ゴォォォォ!
 風が唸った。否、それは小鼬の紅蓮の咆哮だったのだ。動きを止められたミストが眉根を寄せる。そこに力を溜め終えたシンが剣に闘気の焔を込めて上段から斬り付けた。モンスターは体中の刃を赤く染め迎えうつ。
 ギィィィン!
「……」
 同じ力を宿した刃と刃がぶつかり鋼の音は烈風を起こして花弁を散らす。ザックリと裂けたシンの肩口から血が噴き出し。
『ガァァ!』
 モンスターが悲鳴を上げた。斬られた体を炎が舐め、折れた刃が煌きながら大地に落ちる。
 ジーニアスの毒消しの風で回復したミストがもがき苦しむ敵に最後の慈悲を向け、黒影の細身剣が静かにその命を絶った……

「同じ忍びのもの同士、技比べと参ろうかっ!」
 ファントムと敵との睨み合いに変化を齎したのは、ハンゾーの一撃だった。新たな敵の出現にモンスターは尾を無造作に振るう。白刃と赤刃が交差し、何合と打ち合っただろうか……風が、吹く。
 一瞬で間合いを詰めたハンゾーが纏う赤布をスルリと取り払い、放った。狙って投じたそれは花弁と共に舞い踊り、敵の視界を遮る。
 その時ファントムの瞳に映ったのは死神が命を抱き去ろうと両腕を差し出した姿だったかも知れない。
 (「死を視ること、帰するが如し」)
 鞘に収められていた『禊』が閃光を放って抜かれた。 此れと決めた攻撃は双方同時に。カラミティエッジはファントムの鎧にある僅かな隙間へ吸い込まれ、居合い斬り奥義はモンスターの胴体を分断する。
 互いから流れた血糊が鮮やかに花を染めた。胴を切り離されて尚も唸りを上げるモンスターへとハンゾーが進み出る。
「『剛まれに柔を制す』……冥土に持ち逝くが良い」
 静謐な声が彼の唇から静かに零れ。カラミティエッジ奥義は的確に穿たれ、涅槃へ誘う介錯となった。
 敵の亡骸を表情の無い双眸に映してファントムはゆっくりと息を吐く。どうやら死神の腕は彼を捉え損ねたようだった。

「ライカ様……!」
 大鼬を押し出した途端、力を失って倒れたライカへヒエンが駆け寄った。エルフォミナの飛燕刃が敵の気を削ぐ間に抱き起こすと。
「……!」
 ぎゅっとライカはヒエンを抱き締めたのだ。
「鼬のばっちい手には触らせません! たとえ、負けてもっ!」
 血に染まった体で君を守ると誓うライカを見る彼女の中に、何か温かいものが生まれる。遠い昔に置いてきた筈の熱を感じた。
「負けはしませぬよ……」
 ルディのスキュラフレイムに喰らい付かれた大鼬へ双刀『阿』『吽』を構えてヒエンは静かに駆けた。間違っても傷を受ける訳にはいかないと考え、エルフォミナの攻撃が当たるのを見越して巨体の死角から舞うように迫る。
 研ぎ澄まされた刃が一閃され……風が、血の香を浚っていく。
 凛と立つ孤影は銀。首の落ちたモンスターの骸をヒエンは只静かに見下ろしていた。

●楽しい? ピクニック
 花々を揺らす柔らかな風が渡っていく。
 動けない程の重傷者が出なかったのは幸いだった。全員が己の力を出し切った結果だろう。それに。
「なんか今日の僕、医術士っぽい?」
 嬉々としながら回復に当たったジーニアスの治療が功を奏したようだ。元気を取り戻し、泉で血を洗い流し終えた仲間にルディが持ってきたお弁当を広げて「どうぞ」と勧める。
「サンドイッチとおにぎり。デザートは団子。量は十分と思います」
「あ、僕もお弁当持ってきたー♪ すっごくきれーな景色☆ オモロかったし、連れてきてくれてありがとーね、ライカ☆」
 ニコニコ笑ってジーニアスは楽しそうにお弁当をつまんだ。
「……」
 その様子を見守るファントムは、目的を忘れてなかったのだなと密かに考えていた。その視線が難しい顔で佇むエルフォミナと寛ぐヒエンにべったり懐いて笑顔全開なライカの間を巡る。
 (「本当に似ているな……外見だけは」)
 こっそり思って。やはり口には出さなかったが。
「邪魔者も排除したことでござるし、のんびり致すかのぉ……」
 すっかり気の抜けた顔でハンゾーは団子をもふっている。ハラリハラリと薄紫の花弁が上から降りてくるのを愛でながら食べる団子もまた、格別だった。
「大樹に咲く花の下でそよぐ華たち(お姉さんたち)……実に良いですね」
 ルディはお土産にする花を摘みながら別の華を愛でているご様子。その呟きに思わず頷くミスト。
「しかしエルフォミナさんは性格も素晴らしいな、惚れそうだ……はっ!?」
「サスケったらもー!」
 シュン。ミストのどんな呟きも逃さぬライカ耳で聞きつけた妖狐が恐るべき速さで背後を取り、その背をどーん!
「えぬじー……!?」
 どぼーん。泉に突き落とされたミストの悲鳴は最後まで聞こえなかった。どうやら違う意味でのNGだったようです。
「……NGワードって何だろうか」
 ぼそりとファントムが洩らした呟きが聞こえた訳でもないだろうが。ライカは咲き誇るどの花よりも艶やかに微笑んだのだった。
「秘密ですわ♪」
 ……それは、妖狐だけが知っている。


マスター:有馬悠 紹介ページ
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ベストヒヨコニスト・ジーニアス(a02228)  2009年12月11日 00時  通報
ライカに誘われた初めてのクエスト。僕の冒険者人生初めてのガチ戦闘でもある。この頃はまだ本当の『恐怖』を知らなかった気がする。ただ、漠然とした怖さは感じていた。怪我人が出なくて良かった、って。