奪われた金品を奪還せよ!



<オープニング>


 冒険者の酒場は、いつもと同じ賑わいを見せている。
 その中に、一人の女性が酒場の開き戸をキィと開けて、静かに入って来た。新顔かと思い、ふと注意を向けた冒険者の一人が眉を少し上げた。
 両手首に霊査の腕輪を付けている、その姿は紛れも無く霊査士であることを示していたからだ。
「あなた達に、盗まれた品の奪還を頼みたいの。引き受けてもらえるかしら?」
「盗品の奪還か。詳しく訊かせてもらおうか」
 霊査士は頷くと、自らの名をステアと名乗った。茶色の髪はボブカットに揃えられており、ブルーアイが柔らかくも、知的な印象を与えている。
「奪われた金品は、全部で4個。盗人達の人数も4人よ」
 ステアは、金品は壊れやすい細工物なので、取り返す際には十分に注意するようにと注意してから、先を続ける。
「盗人の外見は、リーダーのヒト族のガウスが、大柄の体格、黒髪・黒髭で野蛮な目付きをしているわ。後の三人は、ストライダーのリィナスが、猫の尻尾で頬に一筋の刃物の傷が走ってるのが特徴ね。エルフのリグレスは、優男で金髪碧眼の真っ直ぐな長髪、上腕に『交差する剣』の刺青をしているわ。ドリアッドのリースは、少年で、髪のスミレの花と幼い割に狡猾そうな瞳が特徴的と言っていいわね。……四人とも勿論、変装などもする可能性は高いから、注意して頂戴」
 ステアの話によると、四人は、ここから三日ほど北の富豪の家から金品を盗み出して西に向けて、バラバラに逃走中との事だ。途中にある町で、金品を受け渡すか食料などの旅に必要な物を補充するために協力者と会う予定らしいが、協力者の詳細は不明だ。ただ、『盗人達が立ち寄りそうな、胡散臭い場所』に協力者はいるでしょうね、とステアは予想を付け加えた。町には、北西東に門があり、交易の拠点でもあるので比較的自由に往来することが出来る。
 その後、再び解散して、さらに西に逃げ続けるつもりらしい。これは、ドリアッドが仲間にいることから、ドリアッドの森に入ってしまえば、ほとぼりが冷めるまで追っ手を気にせず、悠々と過ごせるからだろう。そうなってしまう前に、金品を取り返さなければならない。
「頭を使う必要がありそうだけど、海千山千の冒険者さん達の活躍に期待させてもらいますね」
 ステアは、微笑んで依頼の準備をする冒険者達を激励した。

マスター:十六夜流 紹介ページ
 奪われた金品を無事に、盗人達の手から取り返して下さい。ステアも申しておりますが、金品は壊れやすいので、取り返す時には十分に注意しましょう。
 金品さえ無事に奪還できるのならば、盗人達の生死は問いませんので参加者の皆さんで相談して下さい。
 それでは、熱いプレイングをお待ちしております。

参加者
蒼の閃剣・シュウ(a00014)
凍華・フレア(a00410)
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
戦神の末裔・ゼン(a05345)
呪通のドリアッド・コーツェル(a06113)
緑薔薇さま・エレナ(a06559)
アフロ凄杉・ベンジャミン(a07564)
医術士・カナタ(a08780)
森の子きのこ・メリル(a10777)
墓標・シャルザーク(a11018)
NPC:青空流れる風と雲・シルフェ(a90179)



<リプレイ>

●承前
「いろんな種族がいる賊たちですね……これで協力者がリザードマンやヒトノソリンだったら、本当に同盟ならではの盗賊と言う感じですね」
 戦神の末裔・ゼン(a05345)は、感心したように呟くと、装備の隠し具合をシルフェに尋ねた。
「ん。短剣と格闘服だから、問題ないな。あとは、ここをこうして……」
 まるで出勤前の働き者の夫のように、シルフェにマントを整えてもらっているゼンは、少し気恥ずかしそうだ。周囲の仲間達からも、ほんわかした視線を向けられてコホンと咳払いをする。
「はい。これで大丈夫。頑張れよ!」
 背中をパンパンと叩いて激励するシルフェに、彼は、追跡も手伝ってもらえないかと問い、承諾を受けると、二人で東門の方角へと向かった。

 そんな二人を(生?)暖かく見送った他の冒険者達は、捜索方法を協議する。
「出入りする所は、二箇所。渡す相手は一人。そこの線を攻めれば良いんじゃないかな?」
 蒼の閃剣・シュウ(a00014)の言葉に、
「ガウスはごっついから、か弱い私には無理ですね。リィナスは足速くって逃げられたら追いつけませんね。リグレスはなんか嫌、と言う事でリースの方を探しに行きますね」
 ちょっぴり我侭を言って悪戯っぽく微笑む、風の魔法騎士・カナタ(a08780)。
「ああ。分かった、これだけは持ってってくれな」
「その場のノリで叫ぶよ……お任せあれ」
 悪戯っ子のように微笑むカナタに、何となく微苦笑を返しながらシュウは、ステアに尋ねて作成しておいた金品の略図を手渡す。
 そして、他の仲間達にも同様のものを渡し終えると、一同は解散して、捜索活動に移った。

●捜索活動開始!
「HA−! 胡散臭いところといえば裏通りの酒場と相場は決まってるネー。さっそく流しのダンサーとして調査を開始ネー」
 アフロ凄杉・ベンジャミン(a07564)は、張り切って捜索を開始した。
「(シュウさん、色仕掛けするって言ってたよねっ。どうするのかなっ、ドキドキ……)」
 そんなちょっぴり、アブナイコトを想像しつつ、路地裏にトコトコと入って行こうとした森の子きのこ・メリル(a10777)は、想像を絶する光景……ある意味、それはもっともな光景を目にして、目を見開いた。
「FU−アフロがつっかえて何処の裏通りも入れないネー。人生には色々障害が多いYO!」
 アフロが支えて裏通りに入れないで、もがいているベンジャミンの姿を目撃してしまったのだ。
「ベンジャミンさん、それは辛いや……」
 込み上げてくる笑いを堪えながら、メリルは大きなというか、むしろ巨大なアフロに比べると余りにも小さな身体を一生懸命動かして、ベンジャミンを助け出した。
「FU−ミステイーク、ネ! 仕方ないから小型アフロに変えて突入ネー」
 そう言って、小型アフロに付け替える作業に移るベンジャミンを尻目に、メリルは必死に笑いを堪えながら、お腹を抱えて笑い出してしまわない内に、足早に路地裏へと入っていった。

 同じような捜索方法だということを確認しあった、ドリアッドの舞踏家・エレナ(a06559)と想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は、捜索を共にしていた。
「え〜と。ちょうど素敵な宝物を手に入れたんで、売り払いたいんですけど、どなたかいい人を知りませんか?」
「それと、私たちお仕事を探しておりますの。良いお仕事を斡旋していただけないでしょうか?」
 色っぽく魅惑的な物腰で問いかけるラジスラヴァに、献身的な雰囲気をかもしだすエレナが息を合わせると、たちまち『上玉が二人、飛び込んできた』との報告を受けたボスの部屋に、二人っきりで通される。
 ボスの意図は、二人には見え見えだったが、敢えてそのように仕向けたのだから、余計な事は言わずに為されるがままに通されたのだ。
 突然、歌を唄い始めたラジスラヴァに怪訝そうな視線を一瞬向けただけで、すぐに眠りこけるボスの姿は部下に見られないで幸いだったのかは知れず……エレナとラジスラヴァの手で縛り上げられた。
 ……その後の、とても言えない濃密な秘密の尋問については敢えて触れないでおこう。

「リースさんは、カナタさんが探すと言ってましたね……予定を変更しますか……ふふ」
 意味深な微笑みを浮かべて言う、極師・コーツェル(a06113)は、保存食を大量に買い込んだ者や最近見かけるようになった、又は、最近になって町に戻ってきた脛に傷のある者の情報を、ホームレスなどに十分な金を積んで聞き出して、ひっそりと仲間達からすら姿を消し、いずこともなく去っていった。

●奪われた金品を奪還せよ!
 調査目的に酒場に入るもDANCEに熱が入ってしまい、本来の目的を忘れて踊り続けているベンジャミン。
「華麗なDANCEだYO−チェケラッ」
 客からのアンコールに応えて、どんどんDANCEを踊っていた……が、彼はハッと気付く。
「ハッ! 危ない危ない、また罠に掛かる所だったネー」
 ……誰も、罠なんか仕掛けてません……残念! というのは置いておいて。彼は、おひねりを貰って路地裏の酒場から飛び出してゆく。

「もしも、リグレスを首尾良く見付けられたら、色仕掛けがいいんじゃないかな?」
 女性陣が各々の目的に散ってしまったので、東門のゼンとシルフェの元に合流したシュウは、二人に問いかけるように確認した。
「……シュウの言う色仕掛けって、俺がやるのか? 全く向いてないと思うぞ……」
「……他に人がいない」
 互いに苦笑を浮かべて言い合う、シュウとシルフェ。
「ま、いっか」
 頭を掻きながら、カラッと天気の変わったような表情でシルフェは承諾した。
「リグレスさんは予定外でしたが、まぁいいでしょう」
 手に持った本に視線を落としながら、ゼンは静かに言って刻を待った。
 ――しばしの後。
「……金髪碧眼のエルフで、両上腕に包帯を巻いていますね」
 通りかかったエルフを見て、ゼンは小声でシュウとシルフェに告げた。
「優男だし、ほぼ間違いないね。――シルフェ、頼むよ」
 シュウの言葉に頷いて、何となくどこ吹く風のように動き出す、シルフェ。
「痛たたた……お腹が……」
 優男のエルフの近くで、うずくまって見せると、
「おお。お嬢さん、どうなされたのですか?」
 瞳キラキラ、白い歯がピカッと光る、その姿。
「(なんか、ムカつく!)」
 そう感じたと同時に、シルフェは、いきなり優男の顔面をグーで殴りつけた。
 経験が浅いとはいえ、冒険者のグーで殴られて、のけ反った優男に、彼女と互いを信頼し合う絆で息の合った連携をとったゼンが短剣を素早く振るい、包帯を切り裂く。――すると、そこには『交差する剣』の刺青。
 ほぼ同時に間合いを詰めたシュウは、それをチラと確認すると当身を入れてリグレスを気絶させて捕縛した。
「これで、一人は確保しましたね」
「後は、優男君が『快く』質問に答えてくれるのに、期待しよう」
 ゼンとシュウは頷き合って、今日は何故か多い『秘密の質問タイム』に入るのであった。

「なんだよ、お前……着いて来るなって……」
 同族のドリアッドということで、頭にターバンを巻いた少年のことも、見え隠れする緑の髪や花弁を頼りに当たりを着けたメリルは、少年をちょこちょこと追いかけていた。
 追い付けなくて転んだフリをして、頭のターバンを引っ張ってみると……スミレの花がこぼれる。目付きといい、間違いないだろう。
「あー、もう、お前トロすぎ!」
 少年は、同い年くらいの少女になんの警戒心も示さずに、さっさとターバンを巻き直した。
「この町に、お友達が少ないんだもんっ……仲良しになろうよっ」
「分かった、分かったから、一先ず、ここで待ってろ。大事な買い物があるんだ」
 メリルに待ってろと言い、一軒のスラム街にある商家へと入ってゆく少年。
「(ここが、協力者さんのお家かなっ? でも、みんなが来ないと……)」
 メリルが思った瞬間、背後から肩を叩かれて、彼女はビクッと振り向いた。
 ――すると、そこにはカナタが立っていた。
「わっ。カナタさんっ」
「私も、リース少年らしき同族を見付けて尾行していましたが、メリルさんが上手くやって下さったので、尾行が得意でない私でも着けて来られましたよ」
 微笑んで言うカナタに、メリルは安堵の表情を向ける。
「私だけではありません……ほら、あそことあそこにも」
 カナタが指し示す方向には、それぞれ、永劫回帰・シャルザーク(a11018)と凍華・フレア(a00410)が雑踏に紛れるようにしてスラムの雰囲気に溶け込んでいた。
 ――その時。
「ボクは変装を見抜くのが得意なのですよ〜♪ さぁ!! 盗んだもの、返して下さい♪」
 シャルザークが言い放ったのは、頬に一筋の傷のあるスボンの後ろが出っ張った青年。シャルザークが変装を見破るのが得意というよりは、彼が大根だったと言った方が正しいかもしれない。
 泡を食って逃げ出そうとする、リィナスに背後からフレアが『賢者宝剣』の平で峰打ちを喰らわせる。取り落としそうになった包みは、シャルザークが素早く引っ手繰ってマントに包んで保護をした。
「気が早い方ですね……こうなっては、私たちもリース少年を捕縛しましょう」
「うんっ」
 カナタとメリルは互いに頷くと、少年の入って行った商家へと突入した。
 すると、すでに中で機会をうかがっていたエレナとラジスラヴァが、二人が入って来るのを見るや、阿吽の呼吸でエレナが協力者の男の影に手を添えるようにして動きを封じ、ラジスラヴァが机の上に置かれた宝石箱を素早く且つ大切に確保する。
 入り口に向けて逃げようとしたリースは、当然、カナタとメリルが逃がすはずも無かった。強硬突破を試みたリースを『何か』がボヨンと弾いて妨害すると、カナタが術手袋『ロザリオ』の手刀で怯ませ動きを止めてから、メリルの大好きな歌が響き渡り、リースは床に倒れ込んだ。
 こうして、リィナスとリースと協力者は哀れ、お縄を頂戴することとなった。
 ちなみに、リースを弾いた『何か』とは……
「うん? この頭? これアフロって言うんだゼ! A・FU・RO。OK? もちろんカツラだけどネ!」
 と言う、ベンジャミンの言葉で説明が付いたような付かないような。
 そして、一通りの捕縛と金品保護劇が終わった頃、リグレスを連行したゼンとシュウ、シルフェが合流して盗人三人が無事捕縛されたことが明らかになった。
「残るは、ガウスですか。ラジスラヴァさんとエレナさんのお話では、まだ現れていないようですから、ここで張り込んでいれば姿を現すでしょう」
 ゼンが、戦いの刻には鬼神の戦いぶりを見せる姿を想像もさせないくらい、静かな声色で告げた。
 ――キィと扉が開き、一同がハッと身構えると……
「こちらは、全て片付きましたよ……。ええ、全て……ふふ」
 入ってきたのは、微笑みを浮かべたコーツェルであった。
「片付けたっていうのは、ガウスのことかい?」
 シュウの問いに、頷いて、奪還した金品を目の前にかざして見せるコーツェル。
 何はともあれ、冒険者達は、無事に四個の金品を奪還できたことにホッと胸を撫で下ろし、或いは喜びを分かち合った。
 後日、四個の金品は無事に持ち主の元へ送り届けられ、捕縛された盗人たちには懲役の刑が執行されたという。
 寒さが続く、この時期に懲役は厳しいかもしれないが、それで彼らが心を入れ替えてくれることを祈るばかりである。


マスター:十六夜流 紹介ページ
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