Eyes



<オープニング>


●鷹の眼狩り
「非常に厄介な依頼があるんだ。聞いてくれないかな」
 ひどく疲れ気味な独奏霊査士・ニキータ(a90138)は気怠げに話しかける。それでもフィドルの弦を適度に調節しているのは相変わらずの事である。
「事件はとある森林で起こったんだ。ある村の、獣狩りに出かけた狩人達が……むぅ」
 少し言いづらいらしい。
「……20人全員が同じ共通点を持つ死体となって発見された。その全てが首を切断された上に、両目をえぐり取られていたのだ……」
 何ともおぞましくも恐ろしい事件だろうか。人間の仕業とは到底思えない。
「それで、死んだ狩人達の持ち物を霊視して見えたのがモンスターだ。モンスターは男性型と女性型の二体で基本的に共に行動するようだ。しかしどうにも、一度に纏めて相手にするのは少々、都合が悪い事が分かったんだ。そこで、二つに分かれて行動した方が良いと判断したんだ。まぁ、慌てて聞いてくれ」
 落ち着いて聞かせてくれないのか。

●呪千眼
「こっちでは女性型のモンスターについて説明しよう」
 カウンターに座り直しガット弦のフィドルで静かな夢想曲を弾きつつ、説明を始める。
「彼女は、10代前半程の少女の様な外見で全裸だ。おっと、だからといって喜んじゃいけないなぁ。全身という全身が、びっしりと目で覆い尽くされている。腕も、胸も、腰も、脚も、全部が目で覆われている。それに睨まれた狩人達は、動く事すらままなく男性型モンスターの餌食に……」
 そのようなものに睨まれて、体が竦むのは至極当然だろう。
「先ほど、両目をえぐり取られていたと言ったね。男性型モンスターが首を切り飛ばし、その首から眼球を抜き取っていたのが彼女だった。抜き取られた眼球の行方に関してはちょっと、言いたくないな……」
 霊視して何を知ったのかはニキータだけしか知らないが、想像できない事ではないだろう。奏でる夢想曲も、弱々しくなり儚くなる。
「うん、説明を続けよう。例の百目少女は全身は目で覆い尽くされているけど、本来目があるべきところの目は開いてはいないようだね。何故と言われても困るが……兎に角、全身の目には術的な力があると考えた方が良いから、様々な攻撃や事態に備えた方がいいだろうなぁ」
 目に関する執念が、このような異形を生み出したというのだろうか。
「彼女は森の奥深くを徘徊しているようだ。男性型モンスターとはぐれて迷子になっちゃったのかな? 兎に角、村人達は狩人達の死を知ったから、森へと出かけている者は一人もいないのが幸いかな。人死にに気遣うことなく森の中を散策して、逃がすことなく退治して欲しい」
 夢想曲を弾き終えると同時に説明も終えたが、思い出したかのように付け足す。
「あっち側が下手を踏んで、男性型モンスターを逃がしてしまったら非常に厄介なことになりそうだよ。何にせよ、ここで逃がす訳にはいかないだろうなぁ」
 フィドルの弦を緩めつつ、かなり肝心な事を言ったのだった。

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参加者
狂刻の牙・ウォーレン(a01908)
蒼銀葬華・クロノ(a07763)
青空に浮かぶ龍・ルイ(a07927)
幸せと書いてマヨネーズ・フェイ(a13226)
白霆魎月・カイ(a14380)
愚かなる狐・トニック(a15220)


<リプレイ>

●それは守人達が訪れる少し前の事
「狩人たちがやられた場所はわかるか?」
 渦巻く斬風の黒琥・ウォーレン(a01908)は、村の中の適当な家を訊ねていた。村中に漂う奇妙な殺気を肌で感じてはいたが、それを何とかするのは自分たちの依頼ではなかった。
「あああ……あんな、恐ろしい……っ」
「しっかりしろ。俺達はそれを退治しに行くんだ、大体の場所でもいい」
 出発前、独奏霊査士にもう少し詳しい場所を尋ねたのだが、それ以上の事は彼女にも分からなかった。分からなかったから、『森の中を散策して欲しい』と言ったのだった。
「狩人衆が狩り場にしているいつもの場所なら……」
 ウォーレンの気迫に少し押されつつも村人はそう言うが、
「どのくらい歩けばいいんだ、それと方角は?」
 少し時間は掛かったが、大体の事は分かり、6人は森の探索に出かけた。村の方を守るもう片方の仲間達を信じつつ……。
「迷子のモンスターには悪いが退治させてもらう。目に関して情報が少ないのが痛いな……」

●それは怪異な姿の者の事
 森の奥深くを歩き、例の百目少女を捜索する冒険者一行。
「よし……シュンレイ、行ってくれ!」
 鷹の目・ルイ(a07927)は、ペットの大鷲『シュンレイ』を空に放つ。村の様子を上空から偵察してくる事を願い、空へと放った。巨大な翼を羽ばたかせ、瞬く間にシュンレイは村の方角へ飛んでいった。
「全身、目かぁ……あまり想像したくないな……」
 百目少女の姿を探しつつ、乖戻の堕天使・カイ(a14380)は嫌そうに呟いた。独奏霊査士の説明通りの、全身が目で覆われている姿は確かに恐ろしいが、想像するとも言ってられない。嫌でもこれからそれと対峙しなければならないのである。
「百目少女と、運が悪ければカマキリ少年か……」
 久々に冒険者として活動することとなる黒天使・クロノ(a07763)はリハビリを兼ねてこの依頼を選んだのだが、色々あって難儀していた。場合によっては、後者のカマキリ少年とも戦わなければならないのである。
「2人を倒さないと、村の人達が危ないからね。がんばって退治しよう♪」
「まぁ……そう、だな」
 索敵しつつも、夢見る探偵助手・フェイ(a13226)はクロノの言葉に答える。今はカマキリ少年だけが村を襲撃しようとしているらしいが、このまま放置しては百目少女も村にたどり着いて、カマキリ少年と共に村を滅ぼすだろう。
「……目といえば幻ってイメージがあるけど……情報がな……」
 再びぼやくカイ。カマキリ少年の方の情報は確かになっているらしいが、自分たちの標的である百目少女に関しては推測する他無かった。
 その時、同じく探索していたウォーレンが何かを見つけ、静かに呟いた。
「……目玉喰うとはいい趣味をしているよな」
 そして用意していた笛を強く吹いて、仲間達をその存在へと意識させる。
『……!』
 そこにいたのは全裸の少女だった。しかし、屍と化した狩人達から眼球を抜き取っては、キャンディーを舐めるように喰らっていたその存在は明らかに人間とは異なっていた。本来在るべき場所にある目は瞑っていたが、冒険者の存在は、目に見えるかのように感知できた。
 そして冒険者の存在を感知すると、全身に百以上はある目蓋が開き、その肢体を目で覆い尽くした。
「奴の目の動きに気をつけろ!」
 愚かなる狐・トニック(a15220)が、大弓に矢をつがえながら叫んだ。

●それは戦士を見据える呪われし眼の事
 百目少女の、無数の目の内の一つが不気味に輝いた。
 そして、殺傷力を持った光線を冒険者達へと放つ!
「おおかた、こんな物ばかりじゃないんだろうけどなっ」
 攻撃を慎重に受けとめつつ、カイはリングスラッシャーを召喚する。その内の一体は、百目少女目掛けて飛んでいき、その身体を切り刻む。周囲を飛び回るリングスラッシャーに戸惑う百目少女。その隙を狙い、ルイは流水撃を叩き込む。
「その目が武器なら、封じるまでだ!」
 トニックが放つホーミングアローから始まり、
「うまく煙幕が張れるといいな、はっ!!」
 ウォーレンは鎧進化の後、一気に接近して地面に武器を突き立て砂礫を巻き上げる。攻撃としてよりも、文字通り目くらましを期待しての一撃だった。
 巻き上げられる砂煙に戸惑い一瞬、全身の目が閉じた。この隙を許す事はなく、
「早めに倒しておかないと……!」
「コレで目潰し〜っ」
 クロノとフェイの手の平から、二人分のニードルスピアが放たれ、容赦なく百目少女の襲いかかる。百もある目が武器とするなら、極力使えなくすればいいだけだ。
「もう一撃だ!!」
 ウォーレンは素早い身のこなしで百目少女の背後にまわりこむ。
 背中や腰の眼球が睨み付けるが、ウォーレンは再び砂礫陣を放つ。
「リング召喚、用途は援護、始動……!」
 その隙に鎧進化を終えて、もう一体のリングスラッシャーを召喚したカイが接近し、リングスラッシャーと共に爆砕拳で殴りかかる!
『っ!!』
 ダメージに耐えきれず百目少女の半分以上の目が破壊され、動きが鈍くなる。
「やったか?」
 だが、百目少女は一瞬動きを止めた後、姿勢を立て直す。そして、本来在るべきところの目が開いた。それは生気を失い、吸い込まれそうな程に透き通った瞳だった。そしてそれは反撃の狼煙でもあった。
 そして、本来の目が鈍く輝く!
「やはりな……閉じられた目が開いた。注意しろ」
 ウォーレンの台詞と共に冒険者達は武器を構え、次の攻撃に備えた。

●それは誰にも知れぬ二人の絆の事
 ルイは愛用の青龍堰月刀で、太陽の光を反射させて直接、百目少女に日の光を当てようと試みたが、動じる気配は全くなかった。
 そして、百目少女は反撃した。誰もが畏怖すべき視線をルイに向ける。
「うぐっ……!!」
 青龍堰月刀を杖に、片膝をついて何とか姿勢を立てるルイ。その視線には屈服する他無かった。同時に激しい苦痛が襲いかかる。
「ルイ! ……ちっ!」
 トニックは影縫いの矢を放つも、百目少女はその束縛を簡単に解いてしまった。そしてトニックに向けたのは、深い悲しみと嘆きに満ちた眼差しだった。
「な……にっ!?」
 慌てて視線を逸らすが、得体の知れぬ苦痛と共に、自我を失いかける。そしてトニックは仲間に向け、つがえた矢を放つ。
「痛っ……そっちは頼む!!」
「……分かったっ」
 トニックが放った矢を肩に受けつつも、ウォーレンはファイアブレードで斬りかかり、クロノはヒーリングウェーブで仲間の傷を癒す。
 ウォーレンのファイアブレードの威力は絶大だった。だが、まだ与力があるのかウォーレンを睨み返す。それは誰もが凍てつきそうになる程の冷たき視線。
「うぉっ……!」
 身体が凍り付くようになりそうな程の冷たさ。ファイアブレードの麻痺と重なり、ウォーレンは百目少女を前にして動けなくなってしまった。
 そしてウォーレンは百目少女に優しく抱擁される。
「何!?」
 潰しきれずに残された目による視線が、ウォーレンを苛む。そして、百目少女の手がウォーレンの目に伸び掛かったその時、フェイが慌ててスピードラッシュの連撃を叩き込む。
「これ以上は危険だよっ」
「ぐっ……」
 これ以上は危険と見て、ウォーレンは後衛に下がる。慌ててクロノがヒーリングウェーブで回復する。
「これで終わりにしてくれる!」
 カイは、『鋼天剣 【零】』で袈裟から一気に斬りかかる! 視線による反撃はあったが、確かな一撃は百目少女に大きな隙を作るのに十分だった。
「さっきはやってくれたな!」
 そして消沈から覚めたルイが流水撃を放つ。反撃の余地を与えず、正気に返ったトニックが再びホーミングアローを放つ。
「これで……終われ!!」
 正確に狙った上でのホーミングアローの一矢が、百目少女の本来の眼球を貫いた。
『っっっ!!!!』
 声と思えぬ絶叫と共に、百目少女は力尽きて倒れた。だが、安堵する間はなかった。倒れると同時に、カマキリ少年が不意を打つように樹上からトニックに襲いかかる!
「う……わっ!?」
 トニックは一重で攻撃を避ける。不意を狙った攻撃だったが、村で受けたダメージが深くカマキリ少年の動きそのものが鈍っていたが為に、避ける事が出来たのだった。
「ちっ、援軍が来た」
 不意打ちを避けられても、カマキリ少年は攻撃をしようとせずに百目少女の亡骸へと駆け寄った。百目少女が二度と動かぬ事を悟ると、カマキリ少年は襲いかかってきた。その瞳に、怒りを浮かべつつ。
「僕が相手だ、こっちだよっ」
 ライクアフェザーを用いて構えつつ、敢えてカマキリ少年の前に出るフェイ。深手を負って動きが鈍くなってもカマキリ少年の攻撃は的確なものだった。何とか避けつつもツインソードで鎌を受け流す。
「このままではフェイが……!」
 ルイはカマキリ少年に流水撃を放つ。元々から弱っていたカマキリ少年には大きなダメージとなったが、しぶとくもフェイに襲いかかる。
「うわ、マジかよ……召喚、攻撃、始動」
 カイはリングスラッシャーを一気に召喚してカマキリ少年へと攻撃させる。そしてリングスラッシャーと同時に、一気に斬りかかる!
『!!』
 複数のリングスラッシャーとカイの一撃を受け、カマキリ少年は力尽きた。攻撃を少し受けつつも、囮に徹したフェイは安堵しながら皆にこう尋ねた。
「僕、うまく出来たかな?」
 ウォーレンが半ば呆れ気味に答える。
「ああ……良く出来て頑張った。だが、死ぬ気かお前はっ!!」
「うひゃぁっ!?」
 誉められたけれども怒鳴られたフェイだった。

●それは全てを終えし時の事
 百目少女とカマキリ少年を何とか討伐し終え、村へと戻る冒険者達。
 一つの墓を前に、咽び泣く村人がそこにいた。
「……あっちは失敗したと言うことか」
 トニックは静かに呟く。
「……シュンレイ!」
 ルイの元に大鷲のシュンレイが戻ってきた。大鷲の目を持っても、カマキリ少年の動きは追えるものではなかったのかもしれない。
 ストローで血液パックの中身を飲みつつ、カイは言った。
「そういえば百目と蟷螂って元はどんな関係があったんでしょうね……」
 その問いにクロノが答える。
「分からないけど……他人同士じゃないと思うな」
 二体同時に現れたモンスター。それは、戦っている間にも見せたカマキリ少年の行動から見て、赤の他人同士とは思えない。

 仲間同士、恋人同士、兄妹か姉弟……色々と考えられるが、それは誰にも分からなかった。


マスター:壱又捌 紹介ページ
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参加者:6人
作成日:2004/12/15
得票数:戦闘9  ダーク2 
冒険結果:成功!
重傷者:狂刻の牙・ウォーレン(a01908)  青空に浮かぶ龍・ルイ(a07927) 
死亡者:なし
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