冬の露店街



<オープニング>


●あかいみみ
 寒風が強く、びゅうびゅうと耳を冷やして赤い色へと変えさせてしまう12月。そんな風の吹く外から避難するかのように、冒険者の酒場は何時にも増して盛況だった。
「いやはや、ここまで冷えてくるとは思いませんでした」
 白銀の霊査士・アズヴァル(a90071)も酒場に入ると、身に付けた黒いコートを脱ぎながら酒場のマスターに白湯を頼む。渡されたカップを受け取って手を温めると、今度は赤くなった耳に手を当てて暖める。
 よく見れば他にも耳を赤くしたエルフは酒場のあちこちに居る。長い耳を暖めるエルフは、もしかしたら冬の風物詩なのかも知れない。
「今日は依頼があってきたんかね?」
「いえ、今日はお誘いです」
 マスターが話しかけると、アズヴァルは笑みを見せた。そして冒険者達に声をかける。
「街のある通りで露店がたくさん並んでいるようですよ。街の人達は露店街と呼んで親しんでいるようです」
 露店街はフォーナ感謝祭に家族で過ごしたい者や、想い人と過ごしたい者達が、送りたい品物を手に入れる為にという思いから集まった商人達が集まって、この時期にだけできるものだ。
 余り大きな規模ではないが、稀に珍しい品が見れる事もあるので、街の住民達は露店街を楽しみにしているのだという話だ。
「ケーキやお菓子、串物などを扱うお店も露店を出していて、なかなか賑わっているようですよ。もしお困りの様でしたら行ってみてはどうでしょうね?」
 勿論、私もご一緒しますけれど。アズヴァルは楽しげにそう、言い添えたのだった。

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参加者
NPC:白銀の霊査士・アズヴァル(a90071)



<リプレイ>

●くもりぞら
「カメリアさん、ほら、行こう」
 寒空の下、ロスは団長であるカメリアの手を引いて、露天巡りをしていた。
「そんなに引かなくても平気ですわ。で、荷物は持ってくれるのよね?」
 普段は団長なのにと、カメリアは苦笑する。それと同時に買い物なら荷物して貰おうかなと思っているのは秘密だ。
「じゃ、アレが見たいわ」
 彼女が指差したのは露天の中で一際目立つ、巨大土鍋。
「……何買ってもいいですけど、極力軽い物にしてくださいね」
 どうせ僕が全部持つんだと言う声を出さずに、ロスはちょっと肩を落とした。
 そんな2人の傍を、セトがてくてく歩く。彼女はお兄ちゃんにあげる物を探して、苦手な人ごみを掻き分けて、まさに必死だった。
「あぅ、な、流されちゃうーっ」
 流れに逆らえず、セトは巻き込まれていってしまう。……頑張れ。
「毛糸にしようか、それとも出来合いにしようか……」
 露店街のど真ん中で、リンディはある選択を迫られていた。それはプレゼントをどう手配するかと言う、非常に重要な問題だ。
「手編みだと間に合うか分からないし、かといって出来合いじゃ愛情が……」
 露店で毛糸を見つめ続けるリンディの選択は――

「曇り空なのに随分と人手が多いなあ」
 適当に、あちこち店を覗いてたシェードが道行く人達を見やる。目的の品は宝石箱で、出来るだけ良い物をと思っているのだ。
「あ、これは……いいね。これなら喜んでくれるかな?」
 じっくりと時間をかけて、シェードは落ち着いた調度の箱を手に入れたのだった。
「耳は無事か」
 初っ端から、自分の耳の安全を気にする言葉をティキは吐いた。普段ならば彼の敵が現れるのだが今回は居ないようだ。
「とまあ、それはそれとして。マウサツ流れの品でも見つかればな……」
 辺りを見渡すと人々が忙しなく歩いている。だが、ティキは逆にまったりと過ごす気まんまんなのだった。
 そんなティキから少し離れた所にナガレが居た。勿論、贈り物を探すのが目的なのだが。
「マフラーなんかいいかも」
 何も考えずに歩いていたナガレにようやく閃きが訪れた。あちこちでマフラーを探し始めると、奇妙な物があった。
「鋼糸入り……」
 もしかしたら用途が広いかも知れない。そんな事を考えて、ナガレは購入したのだが。「……鋼糸って、防寒効果なさそうだな」
 肝心な事に後になって気づいたのだった。

「ご一緒いただけて助かりましたわ♪」
「いえ、これくらいお安い御用で」
 ほくほくと満足そうなアティフは、アズヴァルと一緒にホットワインのグラスを手に入れた所だった。
「お店の方、カップルかと間違われてましたね。そのお陰でちょっと得しました」
 実はグラスを見ている2人を、店の親父が勘違いして勝手に品物を値引いてくれたのである。
「スパイスやレモンを加えて、赤ワインをコトコトと……後で作って差し上げますわね」
「体が温まりそうですね。それにしても……」
 いつ雪が降り出してもおかしくない、そんな空模様。

「……こんにちは」
 アズヴァルが1人になった頃を見計らったリツは、彼に声をかけた。
「おや、リツさんですか」
「はい。少しだけお話がしたくて……」
 リツは夏に彼から聞いた事に対して、自分が思う事を伝えた。妹や過去の事を忘れる必要は無いのだと。
「忘れずに今の幸せを大切に育てられたら、それは素晴しい事だと思います」
 彼の返事を待たず、白い手袋をそっとリツは手渡すと、
「……ありがとうございます」
 アズヴァルは手袋をリツの目の前で嵌めて、礼を述べた。

「大丈夫でしたか?」
 エイル達の元に合流したリツにリューシャが一言訊ねると、彼女ははい、と小さく答えた。リツの幸せを祈る彼女はきちんと渡せるか心配していたのだ。
「良かったです……では、これからお店を見て回りましょ?」
 祭りの様な雰囲気に何処と無く嬉しそうな彼女を見てリツは微笑む。
「流石に人で賑わっていますねー……ちょっと一休みしませんか?」
 先程までお買い物をしていたエイルが、クレープの露店を見つけて提案すると、2人は頷いた。丁度現れたシュゼットも同意する。
「そう言えば……私は何を買いましょうかしら」
 5人分、苺クレープの買いながら、エイルはふと先日作ったばかりのドレスを思い出した。次いで、合う靴が無い事も。
「では、私は本を見てきますね」
 戻ってきたエイルからクレープを受け取ったヤトは、彼女達に軽く頭を下げると、徐に有る方向へ足を向けた。何かに誘われる様な、そんな感覚に包まれて。
「この本、でしょうか……?」
 ――露店から出たヤトの手には年月を経た、重厚感のある本があった。

「これは?」
 ヤトが離れた後、シュゼットとエイルはある店に居た。シュゼットはクロッカスの絵がある栞を手にする。
「大切な人なんだ、これを贈りたい人は……」
 僕が僕であることを赦してくれた人へ。
 あなたを信じながらも心配です。かの花が持つ言葉が相手に届けば良いのだけれど。

「はふー、さむさむなのです……」
 段々と空気が冷えてスージーの指先がひんやりとしてくる。先ほどから贈り物を手に入れるのに見て回っているのだが、並ぶ露店の数が多くて困っていた。
「……うー」
 困ったスージーはちょっとぷくーっとふくれ気味。……その後、どうにかお目当ての品物を見つける辺り、結構根性はあるのかも知れない。
「ん、スージーも来てたんか。良かったら一緒に見てまわろ♪」
 手に入れたランプをじっと見ていたスージーの姿を見つけたカガリが小走りに駆けてくる。
「はいです。他に知っている方はいらっしゃるでしょか」
「居ると思うけどなぁ……みんなこの時期はほんわか幸せそうなん♪ 迎える灯りが温かいのはええやんなぁ」
 フォーナの準備で活気付いている周囲を見て、カガリは喜びの笑みを浮かべた。

「……霊査の力は不思議な物です」
 アズヴァルが自分達は総てを見通せる訳ではないと、ファオに説明する。
「先見の力を得る事で私は繰り返さない積りでしたが……やはり間違いだった」
 ファオは自分が贈ったマフラーを首に巻く彼から視線を離さない。
「今の自分は、出会った出来事や選択を経てきたからあるんだと思います」
 楽しい事も辛い事も、一つでも欠けていたら彼を知る事は無かったと。
「私は、今のアズヴァルさんと出会えたのが嬉しいし、感謝もしています」
「だけど、私は無力でした」
 いつもの微笑。
「結果として貴女を守れなかった。それが、辛い」
 ファオはようやく彼の葛藤に触れられた。そして、深々と静かに白い結晶が舞い降り始める――。

「雪かよ。まぁ、らしいっちゃらしいが」
 人ごみに四苦八苦するセリオスは意中の品が見つけられず、少し苛立っていた。
「ん……?」
 彼の目に通りから分かれた細道が止まった。そこにもぽつぽつと露店がある。
「おう、兄ちゃん。暇だったらどうだい」
 道に入ると店の親父に呼び止められた。見れば数々の装飾品が並べられている。
「これを頼む」
「……フォーナかい?」
 セリオスが指差した品を渡して親父が笑みを見せた。セリオスもつられて苦笑する。
「ああ、喜んでもらえるといいんだがな」

 一方、通りではある一人の男が悩んでいた。勿論、この場で悩む男は多数居るのだが。さてこの食欲魔人の場合は――。
「食い物はダメだよな……」
 バルトは焼き鳥を頬張った。他にも串物が握っており、彼女への品を買いに来たとは思えない。
「しかし、いざとなると悩むな……ん?」
 ずっと道に沿って並ぶ露店の中に、ふと気になる店を見つけた。寝具店だ。
「よし。ここで見よう」
 意外と昼寝スキーな彼女の顔を思い浮かんだバルトは、店の主に声をかけた。

「耳、寒そうね」
 ほんのりと赤みが差したキョウマの耳をアイリッシュが触れた。その最中、恥ずかしくなったのか急に手を引っ込める。
「良い品物が見つかると良いですね」
 彼女と2人、半分デート気分でキョウマは足を進めていたが、不意に立ち止まる。そして傍の露店で何やら紙包みを受け取ってきた。
「あら……」
「はい、アイリさん」
 彼からのプレゼントを受け取ると、アイリッシュは頬を染めながら、
「私も後で見つけたらお返ししますね」

「たくさん、たくさんあるのですねー」
 リアはアクセサリーが並ぶ露天をじっと見つめ、あれやこれやと悩んでいた。
「お嬢ちゃん、これどうだい? 愛しい人を想い、女神が流した涙の欠片って云われのある品なんだがね」
 露店の主が悩むリアに一つのペンダントを見せた。暫く悩む素振りをリアが見せると、「おまけにプレートに刻印もしとくよ。どうだい?」
「あら、ここは細工もしてくれるのかしら?」
 アキノが2人の様子を見て、訊ねた。彼女はデザインから手がけてくれる細工師を探していたのだ。
「ああ、やってもいいよ。この子のが先だから待ってくれんか」
「それくらい平気よ、わたしのも気合入れてお願いするわね」
 七草の紋章印。彼女が求める護符は、この後に生み出される。

「そんな顔をしないで下さい、約束は守りますから」
 大小の雑貨を眺めつつ、ヒヅキは笑った。手にした籠には数々の品が入れられている。
「……家族へか」
 トールが訊ねると彼女は軽く頷いて。
「ええ」
 彼女は過去を口にした。病に伏した母を助けようとし、出来なかった事。
「だから、困っている人を助けられるように頑張りたいんです」
 そう口にした彼女を見てトールは僅かに口元を綻ばせる。
「継続は力と言うしな」
 ええ、とヒヅキは頷くと、手にしたマントを彼に渡す。悪目立ちしない色で、防寒向けの品だ。
「私にとって大切な、信頼する仲間ですから」
 彼女から、今見る彼への礼だった。

「どうもピンと来る物がありませんね……」
 一方、人生の転機が訪れてるシトリークも悩んでいた。しみじみと露店で指輪を見て回るが、捗らずに居た。
「ふむ、あれは……」
 そうして目当ての指輪を手に入れた彼が、店から出た瞬間。シトリークは何かにぶつかった。
「きゃっ」
「あ……すみませ、って、アオイさんっ!?」
 運命の悪戯か、彼がぶつかった相手は彼の想い人、アオイだった。突如訪れた出会いに驚き、ばたばたとしてしまう。
「シトリークさんも来てらしたんですね。もし良ければ、お茶をご一緒してくださいませんか?」
 狼狽えた姿に僅かに苦笑いしながら、アオイは出会った偶然に感謝するのだった。

「ふぅ……さむ」
 白い吐息を吐きながら、メロスは温めたワインが入ったカップで暖を取っていた。指が温まると、紅い耳にそっと触れる。
「もう少し鮮やかな色が……うん、このあたりかな」
 露店の前で数々の毛糸を吟味して、これはと思えた物を手に取った。
「これなら、きっと……レイさんにも」
 この毛糸で編まれたマフラーを受け取る彼女の笑顔がメロスの中に浮かんだ。

「ひゃ〜寒いっ」
「そんなに寒いべか?」
 長い耳をぴこぴこさせながら震えるファルアを見て、ウォルグは不思議そうだ。
「やっぱり都会の露店街は違うべなぁ」
「そうだね〜、そうかもね〜」
 感嘆の言葉を漏らす彼に生返事で答えるファルア。ウォルグよりも、彼は食べ物を手に入れる事に夢中らしい。
「……よく食うべなぁ」
 細いファルアの何処に食べ物が入るのか。買った食べ物がどんどん消えていくのを見て、半分呆れながら感心するのだった。この後に2人で贈り物を交換もするのだが、それはまた別のお話と言う事で。
「おう、坊主。彼女にどうだい?」
「か、彼女なんて居ないよっ!」
 不意に露店の親父に呼び止められたレクトは否定をした。だが、彼が連れる鳥のセンドは店の傍に止まって、離れる様子を見せない。
「まあそう言わんでな。こいつどうだ?」
 親父が何やら講釈を始める。取りあえず掻い摘むと、持ち主の危機に助けてくれるという逸話が有るとの事だった。
「……それならいいよ」

「ふむ、これはなかなか面白いものですな」
 人ごみから外れ、モンテは人々を見つめていた。彼らの風体を観察していると、人々が持つ風俗や風習がちらちらと見え隠れするのだ。
 知的欲求が満足した頃、モンテは次の欲求を満たす為に古書の露店はないかと歩き始めた。
「平和ってのはいいもんだねぇ」
 人々が更に賑わう様を見て、スゥードゥナは頷いた。たまには買い物にでもと、ここまで足を運んだのだ。
 だが傭兵上がりの気性が原因か、目が止まるのは使えそうな道具ばかり。それが彼を表す側面なので致し方の無い所か。
「お、こいつは良さそうだな。親父、こいつ頼むわ」

 男は鍋を手にしていた。その鍋は普通の鍋ではなく、長く使われて伝統の旨みが染み込んだ逸品である。
「古物関係なら有ると思ったが、俺の予想は正しかったな」
 その男、サティヴァスは満足げに手に入れた鍋を見つめていた。彼の目的は手に入れた鍋で家族団欒の鍋料理を作る事だった。
 そして、ここにそんな彼を想って、内緒でプレゼントを買いにきたチルチが居た。内緒と言いつつ、ルゥと一緒に来ているのはご愛嬌だ。
「えっとね、さっちゃんにプレゼントしたいなぁ〜ん」
「んー、チルはどんなプレゼントをしたいのです?」
「あのね、てぶくろなんだなぁ〜ん!」
 ルゥは自分と手を繋いでうきうきとするチルチに、変な物を選ばないかと内心ハラハラするが、とりあえず見守る事に決めた。
「すごいの、お店がいっぱ〜い♪」
 イヴの目の前には数々の露店が所狭しと並んでいた。歩きながら、お目当ての店を見つけると早速品定めをする。そうして、彼女が手にしたのは銀の髪飾り。
「これ……おみやげに買ってこう♪」
 ご機嫌で露店を離れたイヴの近くをカヅチが歩いていた。彼もプレゼントを買いに来たのだが、決まらずにぶらぶらとしているのだ。
「ドリアッドの女の子が喜んでくれるようなもの……なかなか難しいな」
 眠そうに見える瞳を見開いて、意識を集中するカヅチ。
「あ、カヅチさん。何かいいものは見つけられましたか?」
 林檎飴をかじりながら、ミルテフィーナがのんびりと声をかけた。カヅチはいや、と首を横に振ってみせる。
「あちらでポプリとか見ましたけど、どうです?」
 彼女の言葉に頷いて、カヅチは教えられた方向へと消えていった。ミルテフィーナもまた、ルゥやイヴの姿を見かけ、そちらへと駆け寄った。

 雪が降る中、ヒカリはキリと一緒に紙袋を手にして帰路についていた。中身はフォーナで使うものやケーキの材料だ。
「……これで少しは温かい、かな?」
 そっとキリは寒さで紅くなった耳に触れる。先程買った焼き芋で温まった彼の指がヒカリには心地良かった。
「……帰りましょうね」
 そう口にして微笑んだヒカリは、耳から手を離させるときゅ、と手を握る。外の空気が刺す様に冷える。空から零れる雪を仰いだキリはそのまま自分の上着のポケットへと差し込んで。
「……えへへ♪」
 ――照れ隠しに微笑んだ。


マスター:石動幸 紹介ページ
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ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:39人
作成日:2004/12/24
得票数:恋愛8  ダーク1  ほのぼの32 
冒険結果:成功!
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