【リベルダの悩み】大切な贈り物



<オープニング>


「君達、時間は空いてるかい?」
 その日、ストライダーの霊査士・キーゼルは、日頃依頼を持ち掛ける時に比べると、幾分か柔らかい表情で問いかけた。
「リベルダの所で、雪のフォーナ感謝祭にちなんで、ささやかだけれどパーティを開くそうなんだよ。で……良かったら、冒険者達にも来て貰えないかって話なのさ」
 新たに院長となったリベルダと、その孤児院で暮らす子供達は、色々な経緯から、冒険者達と多少の縁がある。
 いつも世話になっているし、それに冒険者達が来てくれた方が、子供達も喜ぶだろうから……パーティといっても、本当にささやかな物で。大した事は出来ないけれど……良かったら、遊びがてら来て貰えないだろうか――というのが、リベルダの言らしい。
「今年、子供達は互いに贈り合う為に、編物に挑戦してるから……その辺りを踏まえて色々としてやると、喜ぶかもしれないね」
 最後の仕上げに手を貸してやるとか、君達も何か作って交換会に混ざってみるとか……などと、そうキーゼルは呟く。

「――で。もう一つ……こっちが本題に近いんだけど、頼み事があってさ」
 改めて冒険者達を見やると、キーゼルは口を開いた。……今年も妖精やらないかい? と。
「孤児院には、『一年間いい子にしていると、その子の所に妖精が来て、ご褒美として素敵なプレゼントをくれる』っていう言い伝えがあってね。……まあ、毎年大人が妖精に扮して、子供達にプレゼントを渡してる訳なんだけど……今年もまた、その時期だから、良かったら手伝ってくれないかって話なんだよ」
 子供達にプレゼントを渡すのは夜、子供達がパーティで食堂に集まっている時というのが決まり。
 あとは、登場時の演出や、細かい渡し方は任せるけれど……子供達の夢は壊したくないから、妖精の正体は、出来るだけ気付かれないようにして欲しいというのが、リベルダからの希望だ。
「……君達が妖精役をしてくれたら、きっと、あの子達も喜ぶだろうから。手が空いてたら、頼むよ」
 そう口にしつつ……キーゼルは「どうだい?」と、そう誘いかけるのだった。

マスター:七海真砂 紹介ページ
 今回の内容は『プレゼント交換会を兼ねた、ささやかなパーティへの招待』と、それから『妖精さんへのお誘い』……になっています。
 リベルダや子供達をご存知の方も、そうでない方も、どうか一緒に過ごしてあげて下さいね。
 ちなみに、孤児院に伝わる『妖精』関連の話は、過去のリプレイ(【リベルダの悩み】妖精の伝承)に詳しくありますので、興味のある方は、そちらを確認してみて下さい。

参加者
NPC:ストライダーの霊査士・キーゼル(a90046)



<リプレイ>

「にゃは、みんな久し振りなの〜☆」
 パーティが開かれるその日、天真爛漫な人形遣い・シャラ(a01317)は孤児院を訪れると、毛糸と編棒を手に、子供達の輪の中に加わっていた。
「あー、シャラちゃんだ〜」
「おねーちゃんも編物するの?」
「うん、ボクはミトンを作るね♪」
 周囲の子供達と言葉を交わしつつ、シャラは最後の仕上げ真っ最中の皆と一緒に編物を始める。時には、他の子の編んでいる物を覗き込み、編み方のアドバイスなどもして。賑やかに編物を楽しむ。
「今年も、孤児院の子供達がいい思い出を作れるように……だね」
 一方、去年に続けて孤児院を訪れた、銀鷹の翼・キルシュ(a01318)は、大きな箱を手に台所へと向かう。そんなキルシュの姿に、ちょろちょろと、何をしているのかと子供達が集まって来て。
「ねーねー、それなぁに?」
「ん? 今夜の為の食材だよ」
 箱の中身を気にする子供達に、キルシュは少し蓋を開けて中身を見せる。野菜、お肉、果物……ぎっしりと詰まったそれらに、子供達は皆、ご馳走を思い浮かべ目を輝かせる。
「さ、向こうに行ってなよ。あとはパーティまでのお楽しみさ」
 後ろから、同様に箱を手に歩いて来たキーゼルは、そう子供達に台所の周囲から離れるよう促す。
「はーい」
「楽しみだな〜♪」
 その言葉に、子供達は賑やかに離れていく。どうやら、今年は去年ほど疑いの目は向けられていないらしい。そんな彼らの様子を見つつ、キルシュは台所へと入って。箱を置くと、その中身を取り出す。
「ご苦労さん、買い出しまで引き受けてくれて助かったよ」
 そうで迎えたリベルダに、キルシュは箱の下の方に詰めていた中身を渡す。綺麗にラッピングされたそれは……子供達に渡す為の、ささやかなプレゼント。
 もし見つかっては大変だからと、木箱の中に入れたあと、上に食材を重ねてカモフラージュしたのだ。
「ところで『妖精』の方は……あんた?」
「え。……お、俺はやらないよっ!」
 リベルダは視線を移すと、更にあとから入って来た、蒼の閃剣・シュウ(a00014)の顔を見る。その言葉にシュウは瞬きして呟くと……次の瞬間、ぶんぶんと首を振り大きく否定する。
 その脳裏には、ふわふわぷりてぃな妖精さん……になった自分。そう、いつぞやの悪夢が蘇っていたりしていて……。
「ああ、そうかい? 悪いね、間違えて」
 青くなるシュウだったが、リベルダはあっさりと頷いて。キーゼルから、妖精役はさっきこっそり裏から入れたと聞くと、そちらの方へと向かう。
「………」
 その背を見送りつつ、シュウは「ほ――……っ」と大きく息を吐き出して。間違っても強引に妖精の衣装を着せられるような事にはならず、良かったと安堵する。
「プレゼントは足元に隠しておこう。食材は上だね」
 一方キルシュは運び込んだ荷を整理し。カモフラージュに使った食材は調理台に置く。
「えと、では……」
 その食材に近寄るのは、微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)だ。エプロンを着けると、どんな料理を作ろうかと考え始める。
(「鳥足の照焼き、サンドイッチ、ポテトサラダ、それから……苺の大きなスポンジケーキを……」)
 何を作るか簡単に決めると、メルヴィルは、腕によりをかけて美味しい料理を作ります、と、小さくガッツポーズをして……必要な道具を取り出すと、すぐに調理を始めた。

 一方では、数人の冒険者が、編物を終えた子供達と一緒にパーティの準備に取り掛かっていた。
「クジってこれでいいのか?」
「ん、その調子で頼む」
 大凶導師・メイム(a09124)は、子供達が行うプレゼント交換の準備を行っていた。どれが誰の用意したどんな物なのか、見ただけでは解らないようにする為、メイムは皆が用意したプレゼントを、持参した同じ箱に順番に入れていく。
 その傍ら、暇そうにしていた子供達に声をかけ、クジ作りを頼む。プレゼント交換時には、順番にこれを引いて貰い、同じ番号の付いた箱を配る……という訳だ。
「メイムさん、私の物もお願いします」
 そんなメイムの元に、数名の子供達と一緒に現れたのは、幸せを求めし白き鷹使い・シャンナ(a00062)だ。完成したばかりの品を次々と差し出す子供達に続いて、シャンナが最後に渡したのは、一本のマフラー……それは先日、彼女がこの孤児院で編み始めたものだと、メイムにはすぐ解った。
 ――誰の為に編み始めた物なのか、も。何しろメイムは、渡す機会を作れるよう、彼らが二人きりになれるよう計ろうと、そう考えていた位だったのだから。
「いいのか?」
「はい♪」
 念の為にと確認するメイムに、シャンナは笑顔で頷いて……その姿に「わかった」とメイムはマフラーを受け取り、それを箱の中に入れる。
(「……このマフラーを手にする人が、笑顔でありますように」)
 マフラーの入った箱を見ながら、シャンナはそう願う。
 最初はあの人の為に……と編み始めたマフラーだったけれど。子供達が頑張って編む姿を見るうち、同じように、これを着ける人が暖かい気持ちになれるようにと、そう願いながら編むようになって……シャンナは、完成したマフラーを、交換用に回す事に決めたのだ。
「さ、飾り付けをしましょう♪」
 シャンナは側にいた子供達を振り返ると、そう誘いかけ。紙で飾りを作ると、パーティの場となる食堂に飾り始める。
(「んー……こういう事に不慣れなせいか、気のきいたものが思いつかなかったな……」)
 少し苦笑しつつ、用意したプレゼントを箱に収めるのは、黒炎を纏う双牙・ヒリュウ(a12786)だ。彼が用意したのは、青いハチマキ……喜んで貰えるだろうか、と微かに不安に思いながらも、それをメイムに預け。プレゼント交換の手筈を終えると、パーティの準備の手伝いをと、テーブルを並べる。
「お手伝いなのです〜」
「にーちゃん、これ一緒に並べようぜ」
 そこに、食器を手に何人かの子供が現れて。ヒリュウは彼らと共に、テーブルの上に食器を並べていった。

 そうして部屋の準備が整う頃には、料理の方も完成して……それらが運ばれると、冒険者達を交えながらのパーティが始まった。
「どの歌を歌いましょう?」
 想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は、子供達に尋ねながら、一緒に歌を紡ぐ。冬にちなんだ曲、フォーナ感謝祭の日にちなんだ曲……それらを子供達は次々と挙げて。ラジスラヴァはそれらを一緒に、順番に歌っていく。
 子供達の賑やかな歌声が食堂に響き……料理を囲みながらの楽しい時間は、ゆっくりと過ぎていく。
「おかわりはどう?」
 シュウは手作りのコーンスープを子供達に配る。料理を食べながらスープを啜る子供達の表情は、皆笑顔で……その姿にシュウは笑みを浮かべる。
 交換会に出す訳ではないけれど、これが自分からのプレゼント代わり。引き換えに得たのは……この、子供達の笑顔だ。
「そろそろかな……」
 そんな中、冒険者や孤児院の職員達は、そっと視線だけで囁き合って……タイミングを計ると、そっと灯した明かりを弱め、室内を薄暗くする。
「あれぇ、どうしたの?」
 暗くなる室内に子供達がどうしたのかと見回す中、どこからともなく「あっち」と声が上がる。庭先に繋がる窓、その外では……空から花びらが降っていたから。
 それは、屋根の上で待機していた、朽澄楔・ティキ(a02763)が撒いた物だ。去年やったよしみだ、今年も……と、ティキは花を携えて訪れると、演出の役割を引き受けたのである。
「皆さん、こんばんわ」
 その演出に合わせて現れたのは、妖精に扮した、陽だまりの歌い手・フレル(a00329)とレディ・リーガル(a01921)。更に、星蒼に舞う月華・シアン(a11415)が、静かにオカリナを吹き鳴らしながら、同様に姿を現す。
「一年いい子にしてたみんなに、プレゼントを持って来たで」
 ベールで表情を覆ったリーガルは、抱えていた袋の中からプレゼントの入った袋を一つずつ取り出して、それを子供達に配り始める。そんな妖精達の登場に、子供達は歓声を上げて。嬉しそうに、今年もまた会う事が出来た妖精達を見つめる。
「ありがとう!」
 渡されたプレゼントを、大切そうに両腕で抱える子供達。と、フレルは一つ別の箱を用意すると、交換の為に用意されたプレゼントの方へ近寄る。
「……ここには、気持ちの篭った素敵なプレゼントが、いっぱいありますね。私も参加させて下さい♪」
 フレルは箱を置くと、クジを一枚だけ引いて。書かれていた番号の箱を抱えると「ありがとう」と、にっこり子供達を笑顔で見る。
「次の一年もまた、よい年を。……来年もまた、会えますように」
 シアンは最後の一つとなったプレゼントを渡しながら、にっこりと微笑んで言葉をかけ……その様子を見たメルヴィルは、ヒーリングウェーブを使い体内から淡い光を発する。それは一瞬ではあったが、薄暗い室内では目立ち。皆の視線が彼女の方を向く。
「え、えと……」
 集中する視線に、恥ずかしそうに頬を染めたメルヴィルは「あ……」と、窓の外を指し。その行動に、今度は皆の視線が外を向く。
 そこでは再び花びらが舞う中、淡く光る蝶が漂う姿があった。けれど、その蝶もすぐに消え去り……気付いた時にはもう、妖精の姿はなくなっていた。
「行っちゃった……」
「また来年会えるかな、妖精さん」
「ちゃーんと良い子にしてたら、きっと来てくれるさ。……さ、ほらほら。席に戻んな」
 残念そうにしつつも、子供達はリベルダの言う事を聞いて席に戻る。一方、妖精に扮した三人は、去り際に舞い飛ぶ胡蝶を使ったリーガルを最後尾にしつつ、そのまま孤児院をそっと離れていく。
「見つかったら興ざめやもんね」
 喜んでくれた子供達の顔を思い返しつつ、リーガルもいつしか、笑みを零していた。

 そして、続けてプレゼント交換会が行われ。子供達の手には、他の誰かが用意したプレゼントが、順番に渡った。子供達全員にプレゼントが行き渡った所で、参加した冒険者達もクジを引き。それぞれ、子供達が用意した手袋やマフラーを受け取る。
「あ……星が綺麗ですよ」
 それぞれが受け取ったプレゼントを手に取り、身に着ける中。シャンナはふと顔を上げると、皆を外へと誘う。――今はもういないミネリーが、彼らの笑顔を見る事が出来るようにと。
「ミネリーさん……」
 ラジスラヴァは息を吸い込むと、小さく一つの歌を紡ぎ始める。それはミネリーを偲ぶ歌……紡がれた歌声は、夜空に吸い込まれて消えていく。
「ばーちゃん、空の上から見てんのかな」
「きっと、そうなのですよ」
「うん……」
 響く歌声を聴きながら、子供達は静かに空を見上げ、広がる星を見つめる。
「……キーゼルさん」
 そんな中、シャンナはキーゼルの隣に移ると、静かに口を開く。裏腹に、とてもとても強いものを秘めながら。
「私、霊査士になりたいと思うんです」
 何かを問う訳ではなく、ただ、その意思を伝えるだけ……その言葉に、キーゼルは「そう」と短く応じる。
 自分の道を選ぶのは、最後には必ず自分なのだから。そして、そう決めたのなら……覚悟があるのなら、きっと大丈夫だろうと、そう思うからこそ。
「……決めたなら、それも良いんじゃないかな」
 曖昧な言葉と共に笑うキーゼルだったけれど、その言い回しは、彼にとってはいつもの事だから。シャンナは「はい」と頷き返すと、静かに星空を見上げた。

 それからすぐ、体が冷え切らないうちに……と皆は室内に戻って。そのまま後片付けにかかると、冒険者達は帰る支度を整える。
「あ。そうだ、リベルダお姉ちゃん」
 シャラは先程編んだミトンを取り出すと、帰り際に呼び止めたリベルダに差し出す。
「あたしに?」
「うん。ボクからのプレゼントだよっ☆」
 驚くリベルダにシャラは頷いて。その言葉に、リベルダは「じゃあ頂くよ。ありがとう」と、嬉しそうに笑いながら、ミトンを受け取る。
「………」
 一方、ティキはそっと、小さな鉢植えを玄関口に置く。
 それは、蜜柑の苗木が植えられた物だ。これをどうするかは、見つけた子供達の判断に任せようと、あえて無言で置き、ティキはそのまま帰路につく。
「あの、えと……キーゼルさん」
 キーゼルの背に声をかけ呼び止めると、メルヴィルは、髪のリボンに手をかけて、それを解く。ふわりと髪が広がる中……メルヴィルは、綺麗に折り畳んだ薄手のセーターを差し出す。
「妖精さんではないですけど……お受け取りいただけますでしょうか?」
「…………ありがとう」
 キーゼルは、そう微笑んだメルヴィルの姿とセーターを、数秒ほど黙って見たあと……やがて、いつものように微笑みながら、それを受け取った。


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作成日:2004/12/24
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