≪クレセント・ノイズ≫幸せをひとしずく



<オープニング>



 その洋館の建つ町。
 町外れには大きな木が立っている。
 いつからそこにあるのか、何と言う名の木であるのか、誰も知らない。

――戦に出た恋人を待ち続けた女性が息を引き取る時、哀れに思った神様が彼女を木に変えてやったのだ。
 町で年老いた者の話に耳を傾ければ、そんな話が聞けるだろう。


 深遠を視通せし者・ユイス(a03427)は館への道を歩きながら、何やら考えていた。
「旅団員も増えた事だし、何か親睦会のようなものを催すのも良いかもしれないな……」
 ふと足先、落とした視線に、赤いものが転がる。
「落としましたよ」
 前を歩く子供連れの婦人に、ユイスは赤い林檎を手に声をかけた。
「まあ。ありがとうございます」
 丁寧に礼を言い、婦人はカゴへと受け取った林檎を大事に仕舞う。傍らで、小さな女の子が手を振るのに、同じく手を振り返しながら、ユイスは微笑んだ。

「ええと、どのくらい買えばいいものかな? 普段は館の者に任せているからな……」
 青果店で気まぐれに、先程拾ったのと同じ赤い林檎を求めながらユイスが呟く。
「ふむ、こういう準備を皆でするのも親睦か……」
「お客さん、何かパーティーでも?」
 店主の老人が、林檎を紙袋に詰めながらユイスに話しかけた。
「パーティ……そう、パーティのようなものですね」
 言われて頷くユイスに老人は微かに笑む。
「町外れの丘に、古い、大きな木がたっているのを知ってるかね?」
「木、ですか?」
「そう。昔は福寄せの木と呼ばれて、大事にされとったんじゃが。寂しがり屋の木の下で、楽しく一日一緒に過ごした者は幸せになれると言われてな……」
「へぇ……うん、いいかもしれませんね」
 言い伝えはやがて廃れ、町外れの丘で木は今も寂しく立っていると言う。

 詳しい場所等を老人から聞いたユイスは、林檎の土産を手に、館への道を急ぐのだった。

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参加者
紅き紋章を描きし乙女・ショコラ(a02448)
剣の刃塵降雨・アネット(a03137)
深遠を視通せし者・ユイス(a03427)
冬夜奏鳴・エリーシャ(a03760)
たいがー隊長とその片腕の・ンニャンテ(a04179)
月翔華・マーク(a05390)
氷月の玻璃・シアン(a08409)
至高の光・サルサ(a09812)
麗しの悪の華・リノア(a14446)
翠玉と白金を擁きし識者・デュクセシル(a14991)
NPC:晨明の紋章術士・エマイユ(a90062)



<リプレイ>


「福寄せの木ですかぁ〜。ふぅ〜〜ん……ソレは何か面白そうですねぇ〜☆」
 たいがー艦長とその副官の・ンニャンテ(a04179)は話を聞いてそんな反応。ドリアッドである彼にとって、木はとても近しい存在。翠玉と白金を擁きし識者・デュクセシル(a14991)の横顔をちらりと伺いつつ、ンニャンテは緑に鮮やかに白く咲く花を貰うとカゴへと納めた。


「頼まれたのは……ケーキの材料と…それから」
 剣の光将・アネット(a03137)は頼まれた材料をひとつずつ確認しながらメモを読み上げる。途中で木を飾る為のランタンや星飾りに気を惹かれ、深遠を視通せし者・ユイス(a03427)に手に取ってはこれはどうだろうと尋ねたり。
「果物と飲み物も要りますね……」
 青果店の前で立ち止まり、宵闇の調べを刻みしは円月刀の・リノア(a14446)はいくつかの果物を手に取る。晨明の紋章術士・エマイユ(a90062)も酒店の軒先を覗いて、店主からお勧めのものをいくつか手に取った。
「えっと……鶏肉よし、玉葱よし、クリームよし」
 アネットがもう一度頼まれたものをもう一度確認する。
「外のパーティなら、暖かいものもあった方がいいかもな」
 バター、小麦粉、ミルク。シチューが作れるかな? ユイスは新しくジャガイモをいくつか買い求めると皆を振り返り、館へと戻る事にした。


「わたしの担当はお肉料理ですね」
 アネットから預かった紙袋を厨房のテーブルに広げると、紅き紋章を描きし乙女・ショコラ(a02448)はエプロンを付けてぐいっと腕まくりをする。
「とりあえずリノアには付け合わせのフライドポテトを拍子木切りに切ってもらって、シアンにはポテトサラダに使う茹でたジャガイモを潰してもらうね」
「よーし、頑張ります!」
 氷月の玻璃・シアン(a08409)は皮を剥いたジャガイモを塩水で茹でてザルにあげる。
 リノアは剣のかわりに包丁を手に、洗ったジャガイモをまな板に乗せる。
 すっと息を吸い込み精神を集中させて手を素早く振り降ろすと、ダダダっと轟音が厨房に響いた。
「あぁ〜! リノア〜! いくら冒険者でもポテトを切るのに『スピードラッシュ』なんて使わなくていいよぉ〜」
 鶏に詰める予定の野菜を準備しながら、ショコラが声を上げる。
 反対のテーブルからはどかん、と地を叩くような震動。
「あちゃぁ〜! あっちじゃシアンがジャガイモを潰すのにエンブレムブロウ使ってるし…」
「あっちは大丈夫なのか……?」
 煌く蒼き光・サルサ(a09812)は女性陣の様子を伺いながら、卵を割っていく。
「こっちはこっちで頑張りましょう♪ ……ん? ちょっとソコ、何で『どちらさま?』って顔してるんですか!?」
 緋妖華・マーク(a05390)は野菜を切る手を止めたユイスとショコラに首を傾げてみせた。今日は準備の為に薄いオレンジ色のエプロン、同色のミトンに、邪魔にならないようにと長い髪を後ろで1つにポニーテールにしていた。
……かわいらしいお嬢さんに見えますです。
 とは口に出さずに、ユイスもショコラも自分の作業へと戻る事にした。
「そういえばユイスさんは何を作ってるんですか?」
「……おいしいものが出来上がりますよ。楽しみにしていて下さい」
 ユイスはにこりと笑った。
「さてっとケーキケーキ……」
 マークが泡立て器を手にすると、サルサが横からボールに粉を振り入れる。
「食うのも大好きだけど料理は作るのも大好きだからなっ♪」
「主夫の底力、見せて差し上げましょう♪」


「パーティーか、何が食えるのかな?」
 吐いた息が微かに白く濁る。月華の白焔・エリーシャ(a03760)はアネットから受け取ったランタンをそっと丈夫な枝へと引っ掛ける。
 力仕事を任されたエマイユと共に館から運んで来たのは、飲み物の入った瓶とグラス、取り皿に、立食用に大きなテーブル。
 高くはない丘には、大きな木が一本立っている。しっかりとした枝を選び、エリーシャが木へ登ると、眼窩に街並みが広がった。
 緑を残す枝に、デュクセシルが森から選んで来た花で作ったリースを飾る。
「準備も楽しいものだ……これもパーティーの内なのだろうな」
 呟いたデュクセシルに、アネットが笑顔で頷いた。
 一方こちらは、『木』の表面に手を置き、静かに呟くンニャンテ。
「…悠久なる時の中の友人。我、亡き村を護りし紋官也……其処元の習わしに沿って、友人と楽天の刻を記したい所存……。久方の宴ぞ…我と親愛なる者達に…心を開き給え」
 閉じていた目を開け、頭上を仰ぐと、冬にも青い葉が一枚降りて来るのが見えた。
「……『了承』の返事…確かに」
 ンニャンテはシアンと共にポテトサラダを運んで来たリノア達を、一転笑顔で振り返り、手を振り回した。
「皆さん〜「木」が喜んでくれたですよぉ〜☆」
「本当っ?」
  ごそごそと手荷物の中から、木に飾れるようにと選んで来た大きなリボンをデュクセシルに渡しながら、シアンは顔を上げた。
「デュクセシルさんの花もきれいですよねっ ボクのリボンも喜んでくれるかな…「木」をおしゃれさんにしないとね」
「きっと喜ぶだろう」
 背の高いデュクセシルが花を結びつけた枝へ、リボンを渡して行った。
「………」
 ンニャンテの隣に立ったリノアも何事か胸の中で呟くと、そっと木へと頭を下げた。
 アネットが、ンニャンテの猫達に混ざって丘に寝そべる野うさぎ達を一撫ですると、向こうからユイス達が料理を手にやってくるのが見えた。

「こぉやってグルグル模様を描いてっとぉ……」
 クリームの入った絞り袋を手に、サルサがにっかりと笑う。
 ブッシュドノエルも1つではなく、生クリーム、チョコクリーム、苺クリームの3種類のクリームで味に違いを付けたものを何種類か。
 マークが網にいれた粉砂糖を上から粉雪のように振り掛けると、出来上がり。
「やったなぁマーちゃんっ♪ 完成だっ! みんなのトコにもってこぉ〜ぜ♪」
 ニコニコ顔のサルサに頷くと、マークは手早く大きなカゴへとケーキを並べておいた。


 準備が整うまでと、ふかり、と野うさぎ達と遊んでいたシアンとサルサの目の前。テーブルの上には、種々のご馳走が並べられていく。覆いのかかった大きな器にはメインのローストチキン。今マーク達が置いたのは手作りの菓子達。ユイスのシチューは冷めてしまわないように、厚手の布で鍋全体を覆ってあった。
「一番得意なのはオカリナだけど、サルサがギターをリクエストしてたな。どんな曲がいい?」
 布を敷いた上に腰を下ろし、エリーシャがオカリナを取り出して、いくつか音を鳴らす。柔らかい音は余韻を残して辺りの空気に溶けるように消えて行く。
「リノアさん、二重奏をお願いできますか?」
 愛用のストラヴィニャリウスを手に、ンニャンテがリノアを手招いた。
 2人でヴァイオリンを手に音を合わせ始めると、隅っこでは何やらアネットとエマイユが謎の会談中。
「そうそう、口の力を抜いて『カッ』って」
「………???」
 アネットの説明に首を傾げ困惑顔エマイユ。
「2人で何をやっているんですか?」
 様子を伺っていたショコラの問いに、アネットは首を振って笑う。
「ちょっとエマイユにパーカッションの仕込みを……」
 マークやエリーシャの披露する隣で、2人でBGMとしてぼそぼそとやる予定。だった。
「ショコラさんも一緒にどうですか? みんなで歌うのも楽しいですよ?」
「わたし歌とかダンスとかって苦手なんですよねぇ。それに、歌詞も判らないし」
「そんなのハミングなら問題ナシです♪」
 え〜……と口ごもったショコラに、チェロを構えたユイスが笑った。


 夕闇に、アネットの灯したランタンの灯りが木を彩る。テーブル、草の上にもいくつか置かれたランタンで、丘の上はうっすらと明るく輝いた。
「さてさて、パーティーの始まりですね♪」
 マークが言うと、ショコラがテーブルにかかっていた覆いを取る。エマイユがワインの栓を抜くと、グラスを持った全員で軽く乾杯した。
 シチューの器をショコラから渡されて、アネットもスプーンを手にする。
「……ぼーっとしていると、全てエリーシャ辺りに食べられるような気がするな……」
 隣でシアンもお相伴。
「わ〜チキンも美味しいです♪」
「ポテトも良く潰れてますね。エンブレムブロウでボールがひしゃげた時にはどうしようかと思いましたが…」
 ショコラがしみじみと呟くと、マークの給仕してくれるシチューを受け取った。
「お、ヴァイオリン、ですね」
 リノアとンニャンテが木の下にヴァイオリンを構え、弦を引くと、ゆっくり響きが溢れ出した。周りにはンニャンテの作った土塊達がわらわらと踊り出す。エリーシャは立ち上がると、傍に居たマークとユイスに合図する。
「俺達も踊るか」
「言っておきますが、ダンスは得意な方なんですよ」
 父についてあちこちを巡る間に身に付いた沢山の事。ユイスは尻込みするシアンの手を取ると、大きく一歩を踏み出してリードする。
 緩やかな円舞曲に合わせて踊りの輪が広がる。
「踊るぞっ ……数が数だし、野郎同士でも楽しくなっ」
 笑ったサルサに手を取られると、皆の様子を見守っていたデュクセシルも輪の中に入る。
「おっと?」
「あぁっ! ごめんなさい。また足踏んじゃいました」
「……もう少し、ゆっくりにした方がいいか……?」
 どこかぎこちなくそう言ってショコラに笑顔を見せると、アネットはかりかりと首筋を掻いた。

 奏者交替。
「エリーシャすげぇっ! 上手いなぁ〜っ♪」
 オカリナの伴奏にユイスのチェロと、背後で2人のボイパ。
 温かな音色に合わせてマークの歌声が響く。
 リノアはくるっと回ると、シアンの手を離してパートナーチェンジ。ンニャンテに掌を預けて一礼する。
「人のふれあい……こう言うのもまたいいものだ。和やかな時が過ごせるとは思わなかった」
 木の傍に腰掛けたエマイユと一緒にワインを傾けながら、デュクセシルは2人の描くダンスを穏やかな色の瞳で見守っていた。


 やがて、ランタンの灯りがいっそう浮き立つ様な夜。視界の端に舞う白いものにデュクセシルは手を伸ばした。
「……雪か」
「本当だっ」
 サルサも上を見上げると、舞い落ちるいくつもの雪の行方を目で追い始めた。
「そういえば、もう1つこんな話も聞きましたね」
 ユイスはあの日、店主から聞いた話を思い出す。
「もし、丘に雪が降ったのなら雪硝花と呼ばれる白い花が咲くはずだ、と」
「本当ですか?」
 首を傾げたシアンにユイスは、どうでしょう、と微笑む。
「探してみましょうか?」
 ンニャンテの提案に、雪でうっすらと白くなった地をランタンで照らすエリーシャ達の姿。
「あっ……白い」
 ショコラが上げた声にアネットが目を凝らすと、草の影に、雪ではない白い白い花の姿。思わず伸ばしたその手が、ショコラの手に重なる。
「綺麗だな…」
 エリーシャの手にした小さな小さな花に、マークも目を細めた。
「折角ですし、持ち帰れるようなら、持ち帰って育てることにしましょう」
「根から、ゆっくり。そうです」
 ンニャンテが小さなカップを手に見つめる、傍でデュクセシルは花の周囲を大きく削り取ると、そっとカップへ置いてやった。
「ランタンは明日の朝、外しに来ましょうか」
 このまま、今日は賑やかなままで。そう言ったリノアに、荷物を乗せたテーブルをエマイユと端ずつ持ってエリーシャは頷いた。皆が館へと帰った後も、灯りは木に。「お世話になりました」、と小さく木へ礼を告げるとリノアはンニャンテの背を探す。森へと帰る動物達に礼を言い、手を振っている所だった。
「あなたに……フォーナの祝福を……」
 首元のペンダントに手をやり、木を見上げるとマークは目を閉じた。

「皆さん、とても楽しかったです。また何時か……」
 館へと帰る道。ユイスの言葉にいくつもの頷きが重なった。


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参加者:10人
作成日:2004/12/24
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