<リプレイ>
●寂れ行く、坑道前で 坑道入り口。その手前に作られた、寂れた感じの鉱夫の休憩所兼居住用の小屋に冒険者達はやってきていた。 一ヶ月余り放置された小屋は少し寂しげに見え、久しぶりに訪れた一同を歓迎してくれているようにも見える。 ここに来る途中で合流した、元鉱山の関係者にして、今回の鉱石回収員の男性に対し、とりあえず戦神の末裔・ゼン(a05345)は問いかけた。 「ではまず。坑道の入り口の形状、銀鉱石の場所を大まかでいい、聞かせてもらえますか?」 「入り口は結構広いですよ、七、八人位なら並んで入れます。銀鉱石は、入り口に入ってすぐの場所に詰まれています」 「ふぅ、穴を塞ぐ為の木材と金属板。その他道具一式、外に用意できたぞ」 そこに業の刻印・ヴァイス(a06493)が入ってくる。開かれた扉の向こうには、彼の言うとおり木材、鉄板が無造作に積まれていた。 「よし、んじゃ作戦会議というこうか?」 ヴァイスの手伝いをしていた竜の門に挑む者の武人・ソウリュウ(a17212)が、後から入ってきて言う。 小屋の中にいた他の冒険者が、静かに頷いた。
部屋の中央に置かれた机、それを囲み冒険者達が座る。 「ええと、ボクたちは坑道で銀を持ち出す手伝いをすればいいんだよね?」 まず、確認するように蒼の軌跡・シィール(a17376)。 「そうですね。鉱石は大事ですが、人命を最優先に、気をつけて参りましょう」 蜂蜜たっぷりのホットミルク・セレスティア(a16141)が言い、一同がうなづくと、遠まわしに見守っていた回収員の男達が安堵の息をつく。やはり怖いのだ、モンスターの巣食う坑道に入るのは……。 「厄介なのはモンスターの使う混乱を引き起こす羽音ですね」 「そこでだ、耳栓をして貰いたいんだ」 セレスティアから言葉を引き継ぎ、ソウリュウは耳栓を取り出し、回収員に見せる。 「紅蓮の咆哮という技を使う。その為にも耳栓はしておいて方がいいぞ」 氷結の夜・ラクズ(a14219)に、回収員はお互いに顔を見合わせると頷き、ヴァイス、ラクズ、セレスティアの用意した耳栓をそれぞれ手に取った。 「あと、身振り手振りで合図できるよう、ブロックサインを決めておこう」 「『止まれ』とか『注意』とか、簡単なものですけどね」 ヴァイスの言葉に、セレスティアが片手できる簡単なサインを示した。 「あとは光源か?」 「それなら人数分のランタンを用意した。問題ない」 「ティアも持ってますし、数は十分ですねぇ」 蒼い暗闇・アルフェスト(a12582)に、ラクズと紅雪の執行人・ティアーユ(a09519)は、卓上に持参したランタンとカンテラを並べ答える。 他にも照明を持参した者はおり、数は十分。冒険者は一人一個をもち、回収員にもまわされた。 「……さて、サインを覚え次第、突撃だな」 ゼンが立ち上がる。ティアーユも元気に立ち上がり、小さくガッツポーズを取った。 「困っている方はお助けしなければ! なのですよぅ♪ 『月光』のアクセサリーが欲しいカップルさんもいるでしょうし!」 「そうだ、混乱した際は少々手荒な方法……当て身で止める場合もありえる。すまないが、了承してくれ」 思い出したようにヴァイスの言葉に、 「お手柔らかに……」 回収員達は苦笑して答えた。
●行動開始、銀甲虫の巣窟へ 閉鎖された坑道の前。回収員はとりあえず後方やや離れた位置で待機してもらい、冒険者達は居並ぶ。 「開けている最中に襲われてはかなわないな」 ゼンが呟き、二刀を抜剣する。 確かに開ける間、不慮の事態に備える人間は必要だろう。 ゼンを筆頭に後衛のセレスティア、中距離戦が可能なヴァイス、そしてアルフェスト、シィールが構え。 ヴァイスとラクズ、ソウリュウが頷き合うと一斉に封鎖を解きに掛かる。 まずは鉄板。木材のみになれば、無理やり踏み込むことも出来る。 あらかたの鉄板が取り払われ、僅かに隙間が見え始めた時。坑道の闇に差し込んだ日の光が、銀色の光を反射した! 「居たぞ!」 ヴァイスが叫び、間髪居れず封鎖の隙間に飛燕連撃を放つ。 ギィイィィー! と、甲高い声が響き渡った。 「斬り込む!」 ゼンが双剣を構え、木材のみとなった障害を打ち砕く。 出来た亀裂を、ソウリュウとシィールがさらに広げ、中の様子があらわになった。 目に付いたのは切り裂かれ弱った銀甲虫と、無傷の銀甲虫が三匹! すかさずティアーユとラクズが中に滑り込み、吼えた! 空気の振動を感じるほどの紅蓮の咆哮が、銀甲虫、その全ての動きを止めた。 「これで!」 アルフェストの長剣が弱った甲虫に止めを刺す。 続いて駆け込んだヴァイス、ゼン、ソウリュウ、シィールが身動き取れぬ虫に攻撃を浴びせ、その命を絶った。 「はぅぁ……ティアは虫さん嫌いなのですよぅ……」 銀甲虫の死骸を見て、いかにも嫌そうにティアーユが呟く。 確かに、体液を漏らして倒れるその姿は、生理的嫌悪感を感じずにはいられない。 それでもとりあえずもう目に付く場所に虫は居ない、気配もないようだ。 第一段階は完了。セレスティアは外で待つ回収員に、手を振り合図を送るのだった。
●回収開始、銀甲虫を阻め 坑内に明かりの類は全くなかった。今は、セレスティアが張ったフォーチュンフィールドによる地面からの淡い光と、冒険者達が持ち込んだカンテラやランタンが貴重な光源となっていた。 思った以上にアッサリと片が付いた事に安心したのか、回収員はぞろぞろと坑内に入り込み。積まれていた銀鉱石を運び出し始めた。 「懐かしいな、変わってない」 途中、元ここで働いていた者達が感慨深げに呟いた。 「油断しないでください! 私達が食いとめてはいても、ここはモンスターの巣窟です!」 少々緩んだ回収員の意識を再び引き締めるべく、セレスティアが大きな声で叱咤する。 回収員達は、一瞬呆けたように手を止めると、慌てて耳栓を詰めなおし作業を再開した。 「……来たみたいだ」 ゼンが前方を指差し、合図を送る。同時に松明を前方に放り投げると、光が届いてなかった坑道の奥で、何かが動くのが見えた。 坑道内で一度に並べるのは四人程度。ティアーユ、アルフェスト、ラクズ、シィールが前に出て、ゼン、ソウリュウはそのすぐ後ろ。 ヴァイスが中衛として、少し間をあけて立ち、その後ろには回復役のセレスティアと、ソウリュウに呼ばれ参じたダフネが付く。 「頼むぜ、ダフネ!」 ソウリュウがふと後ろを振り返り声を掛けると、その声は耳栓ゆえ届かないが、ダフネは笑って手を振り答えた。 なお接近した甲虫、数は五匹。 ティアーユ、ラクズが前に出て、紅蓮の咆哮をあげる! 今度は三匹が止まるにとどまった。 前に出た二人の脇を抜けた二匹のうち、片方が突然止まる。次いで、金属を引っかくような嫌な音が周囲に響く! 耳栓をしていたにも関わらず、頭に直接響くような感覚に冒険者達は思わず苦痛の声を出す。 そして、シィールとアルフェストが我を失った。 「クッ……ゥ!」 「アぁ……」 アルフェストが青い水晶のはめ込まれた長剣を手に震える。 シィールは蒼い刃のサーベルを振り上げ、ソウリュウに刃を振り下ろした! 「ガッ!?」 突然の攻撃に動揺し、ソウリュウはその攻撃を僅かに受ける。 反撃する訳にも行かず、僅かに後退するソウリュウの背後から、心地よい風が流れてきた。セレスティアが発動した毒消しの風が、元々の強運とフォーチュンフィールドの助けもあり、二人を即座に混乱から回復させる。 「(……抜かせるわけにはいかない!)」 天井を駆けて来た一匹にヴァイスの飛燕連撃が放たれる。散々に切り刻まれた甲虫は、地面に落ちて動かなくなった。 ダフネのヒーリングウェーブが傷を治し、冒険者は再び攻勢に出る。 「耳栓は効かないか!」 ゼンが耳栓を取るのを見て、他の冒険者も従った。 効果がないと分かった以上、五感の一つを封じるのは不利以外のなにものでもない。 先程混乱させてくれた甲虫を、仕返しとばかりにアルフェストが斬り付け、ソウリュウの二刀が体を引き裂いた。 残るは麻痺した甲虫三匹。が、 「もう動き出したですかぁ!」 ティアーユが慌てて、再び紅蓮の咆哮を発動する。 「大人しくしろ!」 続いたラクズの咆哮で、甲虫は再び動きを止めた。 透かさず前に出たゼンの流水撃が三匹の体力を大きく削ぎ、続いたシィール、アルフェスト、ソウリュウがそれぞれに止めを刺した。
●回収完了、速やかに撤収 「ここは通しませんよ!」 セレスティアの術手袋から放たれた衝撃波が、甲虫を弾き飛ばす。その先にいたティアーユが「キャッ」っと言いながら、手にした巨大剣でその体を叩き切った。 作業開始から結構な時間がたったと思う、相手は散発的に現れるぶん連戦とはならず、合間で回復を受けられる為、大した怪我は無い。しかし疲労は蓄積していく上、アビリティにも限界がある。 結果、前線を抜かれることが多くなり、セレスティアも攻撃に参加する機会が多くなった。 残った一匹をアルフェストは抱えあがるように投げ飛ばし、回収員に声を掛ける。 「まだなのか!?」 「え? えぇと……、もう十分かと!」 「では先に退いて、封鎖の準備を! 私達は後から参ります!」 返事を聞き、セレスティアが指示を飛ばす。回収員達は今持っている分を抱え急ぎ外へ出た。 「あと僅か、時間を稼ぐぞ!」 再び現れた甲虫に対し、ゼンが紅蓮の咆哮を発動する。 更にティアーユ、ラクズもあらん限りの声を上げた。動きを止めた甲虫を一瞥し、冒険者達は徐々に後退を始める。 「皆さん! オーケーです!」 外からの声に、冒険者達は踵を返し外へと走る。 その時、一匹が動き出した! 「ちっ!」 ヴァイスが振り向きざまに飛燕連撃を放つ、さらにシィールがスピードラッシュで向かい撃った。 甲高い断末魔と共に絶命する甲虫を一瞥すると、シィールは全力で外へと駆け出たのだった。
「急げ!」 ゼンは、脱出の際ついでにと持ち出した銀鉱石を放ると、皆を急かしつつ坑道を塞ぎに掛かる。 事前の準備をしっかりしたこともあり、封鎖は迅速に行われ、鉱山の封鎖は妨害も無く成される事となった。 「穴も……無い様だな」 最後まで警戒していたヴァイスも、ホッと息をついた。這い出て来る虫も居ないようだ。 「みんな、怪我はないよね?」 座り込んでいたシィールが、一同を見回す。 回収員も、冒険者も誰一人かける事無く、かすり傷程度の怪我で済んでいた。 互いの無事を確認する一行の中、ラクズはスッと立ち上がり運び出した銀鉱石の山の前に立つ。 「……あとは交渉かな。この数で頷いてくれるかは分からないけど」 少なくても、自分達は自分達の出来る限りで頑張った。その証を、アクセサリーと言う形で欲しい。それは皆が望んでいる。 もし渋られるような事があれば、自分が交渉を行おうとラクズは考えていた。 「おぉ! これはまた、予想以上の量ですね」 と、そこへ依頼人である細工師自身が現われた。 「いや、材料が無くては暇なだけなのでね。しかし、大したもんだ」 「これで、満足ですか?」 ラクズが尋ねると、細工師は嬉々とした表情で頷く。 「あぁ、文句なしだ! そうだ、追加報酬の話は聞いてるか? 是非、君達にも個人的なお礼をしたいのだが」 心配することなど無かった。無我夢中で時間を稼いでいる内に、銀鉱石は十二分に運び出されていたのだ。 「そ、それじゃ、ボク、三日月のペンダントが欲しいな! 初依頼達成の記念と、お守りにしたいんだ」 シィールが元気に言うと、細工師は笑顔で頷く。 「ほぅ、それは俺も作り甲斐があるってもんだ。他のみんなも注文があったら言ってくれ、あとで届けるからな!」 「そ、それじゃ俺は丸まった感じのウサギのアクセサリーを……!」 ソウリュウが細工師に詰め寄る。 その様子に苦笑しながら、他の冒険者も自分の要望を伝えるべく、疲れた体を持ち上げた。

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参加者:8人
作成日:2004/12/21
得票数:冒険活劇19
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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