水蛇の淵



<オープニング>


 街から遠く離れた渓谷に、長旅を続ける旅人たちが足を休める小さな宿場があった。
 渓谷は深く水をたたえ、清涼な空気と川魚の恵みを旅人たちにもたらしていた。

 しかし、ある時を境に名物である川魚がさっぱり釣れなくなってしまった。
 宿屋の主人たちは毎日釣りに出かけたが、小魚一匹とて針にはかからない。

「これは渓谷の主が怒っているに違いない」
 釣れなくなってしばらくした頃に、そんな噂が旅人たちの間に流れた。
 近頃の旅人はマナーが悪く、渓谷にポンポンとゴミを捨ててゆくような不届き者が後を絶たない。
 そんな風に渓谷を汚された渓谷の主が怒って、魚を全て隠してしまったのだと言うのだ。

「渓谷の主を探して謝ればよいのか?」
 酒場に張り出された「渓谷の魚を取り戻して欲しい」という依頼を見て、冒険者たちは首をひねった。
 主がいると言うのはあくまでも噂。
 噂を頼りに行動は難しい。
「何か、見えるものはないか?」
 冒険者の一人が、霊査士に問う。
「これは、主の仕業ではありませんわ……」
 じっと目を閉じたまま、何かを探るように考え込んでいた霊査士がぽつりぽつりと語る。
「渓谷の上流に、アンデッドの住み着いた場所があるようで、アンデッドを恐れ魚たちは姿を隠してしまったのです。上流に巣食うアンデッドを退治すれば、魚は姿を見せるでしょう」
「なるほど、アンデッドか」
 冒険者たちもそれならば合点が行く。
「どんなアンデッドがいるんだ?」
「アンデッドは一体。大きな水蛇のようです。特別な能力はありませんが、力が強いので巻き付かれると危険です」
 冒険者の問いに答えると、霊査士はゆっくりと目を開いた。
「油断は禁物です。気をつけてくださいね」
 心配そうなその言葉に、冒険者たちは「任せておけ」と笑顔で答えるのだった。

 渓谷に出現した水蛇のアンデッドを退治してください。

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参加者
六風の・ソルトムーン(a00180)
なんて素敵にノルグランド・マリア(a00217)
黄金の牙・シシリー(a00502)
虎焔乱刃・ハクエン(a00733)
妖精弓の射手・シズク(a00786)
蒼天の幻想・トゥバン(a01283)
星刻の牙狩人・セイナ(a01373)
狂狼・ゲイル(a01603)


<リプレイ>

 夏なのに、冷たいと感じるほどの風が谷を渡ってくる。
 かつてはその清涼さで旅人を癒していた風も、今はどこか冷ややかに禍々しい。
 賑わいに溢れていた宿場も、ひっそりと身をひそめるように佇んでいる。

 旅の中継の要所でもあるこの宿場に、再び活気を取り戻すために。
 冒険者たちは、山の奥へと踏み入ってゆくのであった。



「厄介な場所だ。準備するに越したことはない」
 ヒトの武人・ハクエン(a00733)はそう言うと、宿屋で分けてもらった荒縄を冒険者たちに渡した。
「この縄を靴に巻いて滑り止めにするんだ」
 見本に自分の靴に巻いてみせる。
 荒縄はざらざらしているし、水を吸っても摩擦力は弱まらない。滑り止めには格好の代物と言えた。
「宿屋の主人に、この先のルートを聞いてきました。ずっと谷の岩場を登って行くしかないようです」
 ヒトの医術士・マリア(a00217)が宿屋の主人に書いてもらった地図を広げてみせる。
 水蛇が出ると言う淵は、主人たちが釣りに通っていた場所の先なので、かなり詳しく様子が書かれていた。
「この宿場から山道を少し登った先に下に降りる道があって、その後は岩場の沢を歩いて淵に行くそうです」
「岩場を行くのは免れんようだな」
 ハクエンも地図を眺め、できるだけ地理を頭に入れる。
 上流に上がるにつれ水量は減るものだが、上流にある淵の所為で、そこに水が溜まり目的地までは相当の水量があるようだ。
「とにかく現場につくまでは足場に気をつけ慎重に行こう」
 ハクエンの言葉に冒険者たち全員がうなずいたのだった。



「旅人さんはこんな険しい山奥にいるですかねぇ?」
 山道から沢に降りて、岩場に手をかけて歩きながらエルフの牙狩人・セイナ(a01373)の言葉に、ヒトの武人・トゥバン(a01283)は目を丸くした。
「何を言っているのだ? お前は」
「私達のお仕事って、旅人さんを説得してゴミを捨てないようにするのですよね?」
「……」
 トゥバンは黙ってセイナの頭をぐいっと押さえると、そのまま歩みを速めた。
「違うんですか?でも……お魚さんが怒っているのは間違いないでしょ?あううう、無視しないで、トゥバンさん〜!」
 セイナは慌ててトゥバンの後を追ったが、トゥバンは黙々と先を歩いた。
「気をつけてください! この辺はいたる所から水が出ているので足場が悪いですから」
「大丈夫。先頭はボクとゲイルに任せて。マリアちゃんは周囲に気をつけてよ」
 マリアが注意する横を、ひょいっと身軽にストライダーの牙狩人・シズク(a00786)とストライダーの忍び・ゲイル(a01603)が追い抜いてゆく。
 シズクは背には荷物を背負っているが、流石ストライダーというべきか、多少の足場の悪さは上手くフォローしている。
「気をつけてくださいね」
 すいすいと登ってゆく二人をマリアは心配そうに見送った。
「あ! ウサギです!」
 不意に横から声がかかる。
 どうやらセイナが囮にしようと相談していたウサギを見つけたようだ。
 見れば崖の中腹にちょこんとウサギがいるのが見える。
「気をつけろ、セイナ」
 岩場から腕を伸ばして崖の方へと移動するセイナに、トゥバンが声をかける。
 しかし……
「わ! わわっ!」
 セイナはバランスを崩し、岩場から足が離れる。
「セイナっ!」
 セイナを抱きとめようとトゥバンが腕を伸ばしたが、その腕も滑りぬけてセイナは水に落ちてしまった。
「セイナさん!」
 他の冒険者たちも慌ててセイナの落ちたところへ駆け寄る。
 セイナは何とか近くの岩にしがみついていた。
「何やってるんだ、早く上がって来い」
 なかなかそこから動かないセイナに、トゥバンが声をかける。
「トゥバン……さん……」
 セイナは顔色を失ってトゥバンのほうをゆっくりと見上げた。
「へ、へ……」
「へ?」
 トゥバンが何事かと覗き込んだ瞬間、静かだった水面が盛り上がり黒い影が首を上げた。
「!」
 その勢いに弾きとばされたセイナをトゥバンが受け止めたのは奇跡だったかもしれない。
 水蛇はその姿をさらけ出すと同時に、冒険者たちへと襲い掛かったのだ。



「トゥバン! セイナ! こっちへ!」
 ヒトの狂戦士・シシリー(a00502)はセイナの腕を掴むと水面から大きく顔を出している岩の上に引き上げるとジャイアントソードを構えた。
「いきなり出たな水蛇め!」
 シシリーは襲い掛からんと岩場に体を上げた水蛇に迫るが、その強力な鞭のような尾に弾き飛ばされる。
「くっ!」
 シシリーと入れ替わりに飛び出したのはトゥバン。
 しかし、その尾の動きに攻撃を阻まれてしまう。
「まだまだぁっ!」
 トゥバンに負けじとシシリーが再び立ち上がる。
「猪突するな。足場を考え、連携を考えて動け!」
 弾かれてもまだ突進しようとするシシリーを、ヒトの武人・ソルトムーン(a00180)が制す。
 平地であれば狂戦士のその破壊力は頼もしいが、足場の悪いこの場所では諸刃の剣だ。
 相打ちとなっては意味がない。
「こう動き回られては、手分けも出来ん!」
 岩場に上がっても大きくうねり、鞭のように襲いくる水蛇に、ハクエンは唇を噛む。
 刀を当てても弾かれるような大きな衝撃を感じるばかりで、水蛇の動きはかわらない。
「蛇は力が強いです。気をつけてください」
 マリアが蛇の尾に傷ついた者たちに癒しの水滴をかけ治療する。
 人を絞め殺すほどの力で、打ち付けられるのだから衝撃も相当だ。
 しかも、その力は打ち付ける衝撃だけでなく、その反動を利用して蛇は素早く岩場をすり抜けて、冒険者他の側へと回り込む。
「影が捕らえられないですっ……」
 身を引いた岩の上からセイナが影縫いの矢を射掛けようとするが、それもあまりに動きが激しくて絞り込むことが出来なかった。
 前衛にたって戦う者たちが手段はないかと苦戦していると、頭上から声が響いた。

「動きを止めるよっ! みんな離れてっ!」
 シズクは一際大きく迫り出した岩の上から手にしたビンを水蛇に向けて投げつけた。
 ビンは蛇の体に当るとこなごなに砕けたが、水蛇はその程度ではひるまない。
 一つ、二つ……次々とビンをぶつけたが、蛇の動きは止まらず、大きく鎌首を上げ、側にいる前衛の冒険者たちをにらみつけた。
「まだだよっ! これでも食らえっ!」
 シズクは炎の灯った矢・ホーミングアローを放った。
 蛇の体に触れた瞬間、ボウンッとその小さな炎が大きく広がり蛇の体を覆った!
「飛燕刃!」
 炎にひるんだ隙をついて、ゲイルが飛燕刃を繰り出す。
 炎に包まれた体が裂け、腐肉の悪臭が放たれる。
「まだまだぁっ!」
 マッスルチャージで筋力を高めたシシリーがのたうつ水蛇にジャイアントソードを叩き込む!
 蛇は大きく体をくねらし、シシリーとゲイルを弾き飛ばしたが、その動きはその場にとどめられた。
「今だよっ! とどめを!」
 シズクの叫びにソルトムーンがすかさず飛び出す。
「画竜点睛……ここだ!」
 白刃がきらりと輝いた瞬間、全てが決まった。
 ドウッと音を立てて、水蛇の首と胴は綺麗に二つに分かれてしまったのだ。



「酷い……こんな……」
 戦い終わり、水蛇の死体を埋葬してやろうと、淵を覗き込んだ冒険者たちはその惨状に言葉を詰まらせた。
 美しかったのだろう淵は、心無い旅人たちが捨ててゆくゴミで濁りきっていた。
 水蛇は本当にこの淵の主だったのかもしれない。
 こんな惨状の中で、息絶えた無念はさぞや大きなものだっただろう。
「アンデッドの水蛇が死んでも浄化されることのない汚れか……」
 ハクエンがポツリと呟いた言葉が、冒険者たちの胸に重くのしかかる。
「ねぇ、掃除しようよ。油もまだあるし、ここのゴミだけでも水からあげて綺麗にしてあげよう」
 シズクは蛇を退治する用にもってきた油ビンを見せていった。
「そうだな。このままではあまりにも報われまい」
 水蛇の死体を見てから、シシリーはそう言うと水の中へと足を踏み入れた。
 それをきっかけに、他の冒険者たちも胸まで水につかり、ゴミを引き上げ始める。

 その作業は日暮れまで続いたが、お陰で淵はにごりは残るものの昔の姿を少し取り戻したのだった。



「その魂が浄化されんことを……」
 ソルトムーンの言葉に合わせて、冒険者たちは燃え上がる炎の中の水蛇の死体に黙祷をささげる。
「また、この淵はよみがえりますよね……」
 深い淵に水蛇の灰を流してやりながら、マリアが言った。
「もう絶対ゴミなんか捨てないように、みんなにちゃんと言うからね」
 セイナもそう言いながら、そっと灰を流す。
 水蛇は炎に浄化され、淵もまたよみがえる。
 しかし、それは人の手によって荒らされないことが条件だ。
 冒険者たちは、みな、二度とこのようなことが起こらないようにと祈りながら淵を後にした。

 この世界に生きているのは、自分たちだけではないのだから……。


マスター:玄焔 紹介ページ
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