Tour les deux -永久に二人で-



<オープニング>


「もうすぐ、フォーナ感謝祭ですね」
 暖かい紅茶で口を潤す。蒼荊棘の霊査士・ロザリーは蒼い瞳を伏せながら、冒険者たちを見遣る。ゆったりとした動作で、彼女は一枚の用紙をテーブルの上に広げた。

 “Lien d'amour”

 流れるような字体で『二人を結ぶ絆』と言う文字が綴られ、中心には純白のドレスを着た女性と、漆黒のタキシードを着た男性。二人は幸せそうに微笑みながら寄り添っている。背景は濃紺の星空と、月明かりに照らされた美しい一面の雪景色。
 此れと同じものを以前に見たことがある冒険者も居るだろう。聞いたことがある者も居るだろう。知る人ぞ知る美しい雪景色を誇る小さな村の話だ。
「この村で……結婚式が行われるの」
 フォーナの時期に合わせて、と言う恋人達は少なく無いらしい。更に村には結婚式を挙げる為のホールまで作られているらしい。硝子張りの繊細な空間、外には真白く美しい雪景色、其処にランプの優しい輝きが染み入るように広がっていく――そんなホールだと言う。其のホールで、結婚式を控えた恋人達が愛を語らい、ダンスを踊るパーティを、月の綺麗な夜に催す予定であるのだとか。
「……でも、少し困ったことがあるらしくて」
 やはり村にばかり「客」が集中するのを良く思わないのだろう、相変わらず、隣町から嫌がらせに来る者が居るらしいのだ。其処で、ダンスパーティの夜に恋人達に扮してホールに潜入してくれる警護者を探しているのだと言う。
 霊査士は小首を傾げながら、絵の描かれた紙を指先で軽く撫で、其の唇を開いた。
「霊査を試みたのだけれど……
 警護は難しく無いわ。パーティが始まればホールの扉は締め切られる、から……
 最初に、中に不審者を入れないように気を配れば、巧く行くと思うの」

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参加者
笑顔の舞娘・ハツネ(a00196)
ニュー・ダグラス(a02103)
氷輪の影・サンタナ(a03094)
跳ねっ返りエルフの医術士・ミリアム(a03132)
刀幻響・ターカート(a04904)
銀の竪琴・アイシャ(a04915)
天哭・シルヴェストル(a05448)
愛するうさぎ達の医術師・シトロン(a13307)


<リプレイ>

●共にワルツを
 硝子越しに見える綺羅星たち、外に広がる純白の雪原。暖かなランプの明かりが照らし出すダンスホールは、緩やかに上品な音楽が流れている。女の子なら一度は憧れるようなロマンチックな場所。其処は正に夢の中の如しであった。
 御姫様が着るような純白のドレスに身を包み、笑顔の舞娘・ハツネ(a00196)はホールに居た。直ぐ傍には夫である星辰の爪牙・アンリ(a00482)が、紺のタキシードを着込んで佇んでいる。
 依頼に出向く前に挨拶をした霊査士は、自分のことのように目元を緩め、二人を祝福した。以前にも挨拶をされていた為、「御二方にも良きフォーナと為りますように」と祈る仕草で送り出してくれた。
 其れを思い出すと、少なからず気持ちが踊るのを感じる。今日は折角だから、共に過ごせる時間を大切に、ゆっくり踊ろう、とアンリを誘う。
「結婚してからもうすぐ一年……
 これまでを振り返りつつ、これからも一緒に過ごしていく事をフォーナに誓いましょう」
 アンリは穏やかに微笑むと、ハツネに優しくキスをした。
「僕たちの愛は永遠に、だね♪」
 嬉しそうに顔を綻ばせてハツネが言う。

 木漏れ日の医術士・シトロン(a13307)は、確りと入場者らの確認を行い、不審者がホールに入り込んでいないことを確認したうえで、未だ慎重な視線を辺りに向けていた。祝いの日に邪魔など、在っては為らぬことだと思うが故に、である。
 シトロンが纏うのは薄い青のパーティードレス。後ろ裾部分が長めのデザインで、万一の際に動き易いように、と内側にはスリットが隠されている。控えめな装飾は返って上品であり、髪を結ぶリボンだけがいつもの通り。
 其の姿に、正装を着た宵待童話・ウェッジウッド(a13891)も思わず感嘆の息を吐いた。見惚れるように顔をほんのり赤らめる。シトロンはそっと彼に寄り添った。依頼とは言え、少しくらいは楽しんでも良いだろう、と思う。
「何分、田舎の出でダンスには慣れていませんが……」
 宜しければ、と俯きがちにダンスに誘った。誰が其れに否と言えよう。ウェッジウッドはにっこりと笑うと頷いた。ぎこちないながらも、優しいダンスが始められる。

●ステップアップ
 正直なところ正装と言うものは苦手であった。ニュー・ダグラス(a02103)は其れなりに正装をして、パートナーが来るのを待つ。壁に寄りかかり、不審者が居ないかと視線を巡らせ、
「ダグー!」
 ばたばた、と走ってくるエルフの医術士・ミリアム(a03132)を見つけた。女の子らしい期待――褒めて貰えるだろうか、と――に瞳を輝かせてダグラスの目の前で足を止めた。一番上等な服を着て、精一杯のおめかしをして来たつもりだ。綺麗に着飾ったミリアムを見て、ダグラスは目を瞬かせた。
「おぅ、馬子にも衣装だな。しかしまだ……」
 言葉が紡げずに途中で区切る。本人は素直に褒めているつもりらしいが、余り良い褒め言葉とは言えない。案の定ミリアムは顔を真っ赤にして、思いっきり向う脛を蹴り飛ばした。
「いってぇ!?」
 ぷい、とミリアムは顔を背ける。会場をぐるりと見渡せば、知り合いの顔もちらほらとあった。
「わぁ、ハツネさんかわいいなぁ。あぁ、シトロンさんも綺麗。
 アイシャさん……素敵!」
 うっとりとした風に呟く少女を、ダグラスは困ったような瞳で見遣る。
「(あたしもダグと踊りたいなぁ……)」
 少女が小さく小さく呟いた。其れが彼の耳に届いたのかは判らないが、ダグラスもぶつぶつと呟いていた。
「(ダンスのステップが何ざ判んねぇよ……やってらんねぇぜ)」
 正直に言うと照れの方が気持ちとしては大きかった。決してミリアムと踊ることに抵抗があるわけでは無いのだが――
「――メシでもくわねぇか?」
「うひゃあっ!?」
 行き成りミリアムを御姫様抱っこで抱え上げると、其の侭食事が並ぶテーブルの方へと歩き出す。
「あんまり拗ねるなよ。一応プレゼントも用意したんだぜ?
 尤も、まだまだお前には早いかもしれねぇがな」
 最後に余計なことを言ってしまうのは御愛嬌だ。ミリアムは驚いたように目を見開いて、何度もこくこくと頷いた。

●誓いと願い
 刀鏡曲師・ターカート(a04904)と月刃・シルヴェストル(a05448)は、入ろうとする不審者を捕まえ、あっさりと縛り上げることに成功した。後の憂いを無くしてからホールに入ると、其処は既にカップルで溢れていた。けれど、皆が皆、御互いしか見ていないのだから聞こえてくるのは喧騒で無く安らかな管弦の響きだけ。
 シルヴェストルが纏うドレスはターカートが事前に選んでおいたもの。蒼を基調としたドレスは決して華美ではなく、寧ろ上品でさえあるのに露出は微妙に多め。白の手袋には金糸で繊細な装飾を施されている。彼女の銀色の髪に、アクセントとして黒いリボンをターカート自らがつけてやった。滑らかな髪を一度優しく撫でる。
「その……どう、思う……?」
 肌が露出するのを恥らうように身を縮めて、彼女は伺うようにターカートを見遣った。彼はにっこりと笑って、彼女の耳元でそっと囁く。「――当然」
「踊ってもらえるかな?」
 ターカートがシルヴェストルへと手を差し出した。

「シルフ、もっと体を寄せて」
 愛しげにターカートが囁いた。彼女は遠慮がちながらも其の言葉へは従う。二人はフロアの中心で、時を忘れる程に踊り続けた。
「少し休憩しようか?」
 永遠とも思えた時は足を止めてしまえば飛沫の泡のように一瞬で消える。名残惜しいとは思えど、この雪景色を楽しまないのも勿体が無いと思う。シルヴェストルは、硝子越しの景色に、ほう、と息を吐いた。
「……綺麗だ」
 雪景色を見て、ふとシルヴェストルの胸に浮かぶ思いがあった。故郷のことだ。彼女が生まれ育った場所は雪の降る高い山。冬になれば外に出ることも出来ないような閉ざされた地。ぽつり、ぽつりと其れを語る。
「……雪に閉ざされた山で、大概は師父殿と二人きりだった。
 笑うかも知れないが、それが昔の私の『世界』だったのだろうな」
 何だか随分と昔の話をしているようだ、と自嘲にも似た笑みを零す。居た堪れずにターカートは彼女の肩を抱いた。そんな彼を安心させるように、彼女は柔らかな笑みを見せる。
「でも、今年は貴方と二人で………ここが私の居場所だよ」
 ターカートは彼女の身体を抱き寄せるようにして、優しく囁いた。
「これからはずっと……俺と一緒に雪を眺めていこう。シルフが居てくれれば俺は幸せだから」

●Tour les deux
 給仕服を着て受付をしていた碧藍の瞬き・アイシャ(a04915)は、縛られて外に放置された不審者たちの元へ暖かな飲み物を持って行った。
「隣町から来られたのですか? こんなに冷えて……」
 気遣わしげな其の眼差しに、不審者たちも驚いたように瞬きをした。
「……此処に人が集まるのは建物のせいだけではありません…皆様の心が温かくなっているから、ですわ。
 貴方を待っている大切な方の事を思い出してくださいませ」
 ライバルである村の邪魔をするのでは無く、自分たちも目線を変えて挑んでは如何か、と優しく語り掛けるアイシャ。其の微笑みに、隣町の者たちも、何か大切なものを思い出したようであった。

 依頼が片付けば、アイシャはパートナーの姿を探してダンスホールへと踏み入った。落ちて来そうな星空の下、幻想的なランプの灯火の中、アイシャは彼の姿を探す。
 彼女が纏うのは光沢のある滑らかな生地で仕立てられた良質のドレス。生地をたっぷりと使い、胸元と裾にはたっぷりとしたドレープが作られている。クリスタルのアクセサリーを身に着けて、更に綺麗に結い上げ、巻き癖をつけながら垂らされた美しい髪にもきらきらと散りばめられたクリスタルが輝いている。
 多くの人が居るホールで、彼の姿が見つけられずに、彼女の顔を不安が過ぎる。彼に出逢う前の、ひとりきりであった頃のことを思い出してしまう。
「どなたをお探しかえ? 星の輝きのように美しき人」
 そんな時、耳元に甘い囁きが零された。振り返れば其処には優しく微笑んだ氷輪に仇成す・サンタナ(a03094)の姿が在る。彼は黒のタキシードを完璧に着こなして居た。襟から覗くフリル付のシャツも、きっちりと締められた蝶ネクタイも、彼本来の魅力を際立たせている。正に王子様然とした盛装に、思わずアイシャは頬を染めた。
 サンタナは彼女の髪に真っ白な薔薇を差し入れ、如何仕様も無く胸が高鳴るのを抑えながら、彼女の手の甲にそっと口付けた。
「このまま連れ去ってしまいたいところですじゃ」

 星達に包まれて二人は永久とも思える瞬間を過ごす。身体が音楽にあわせて勝手に動く。一頻り踊れば、サンタナは意を決して彼女を外へと誘った。
 燈された火から離れれば其処には静かな夜が在る。綺麗な星空が一層際立つようだった。遠くから聞こえてくる音楽には不思議と現実味が無く、まるで今も夢の中に居るかのよう。
 冷たい雪の世界の中で、其れでも不思議と寒さを感じないのは、横に愛しい人が居るからだろうか。アイシャの唇が自然と想いを紡ぎ始める。
「私が永久に望むのはサンタナ様の幸せです。
 誓いに何も捧げるものなど持っていませんけれど……私の全ては、サンタナ様のもの……」
「アイシャ殿……」
 サンタナの赤い瞳が揺れる。感情が掻き立てられるように波立つのも、恐らくはこの愛しさ故だろう。
「後生ですから、最後までは言わせないで……」
 頬を染めたアイシャが、サンタナの胸へと寄り添うように距離を縮める。其の願いに応えるように、言葉半ばで彼は彼女の唇を奪った。優しい口付けで言葉を遮る。そっと唇を離せば、浮かべていた優しげな微笑を真摯な表情へと変えて。
「――我も冒険者故、何があるかわからぬ身。
 其れでも貴方と共に在りたいという気持ちは抑えられぬ」
 見詰め合う二人に、一拍の間が落ちる。
「我の妻になって下さらぬか?」
 紡がれた其の言葉に、アイシャの頬を涙が伝う。愛しくて堪らない人の胸に身を寄せて、涙で滲んだ声で応える。伝えたい想いが溢れて来て、幸せで胸が苦しいほどにいっぱいだった。
「最期を迎えるその時まで、共に歩みいかなる時も貴方を愛し続けると誓いますわ……」

 美しい銀世界は何処までも広がる。
 煌く綺羅星は何時までも優しく、只管に静かに、二人のことを包んでいた。


マスター:愛染りんご 紹介ページ
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ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:8人
作成日:2004/12/29
得票数:恋愛32  ほのぼの1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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