近くの森に潜む恐怖



<オープニング>


「グドン退治の依頼が来ているんだけど、引き受けて貰えないかしら?」
 霊査士のリゼルは、酒場にいた冒険者たちを見回すと声をかける。
「どこですか?」
「西南にあるコトコルトの村よ」
 オレンジジュースを片手にミートパイを食べていたヒトの紋章術士・エルル(a90019)の問いに答えると、リゼルは詳しい事情を話し始めた。

 コトコルトの村は、自然が豊かでのんびりとした穏やかな村。人々は、様々な作物を育てながら日々の生活を送っている。今は実りの秋を迎え、人々は野菜や果物の収穫に精を出している。
 そんなコトコルトの村から程近い森で、グドンが目撃されたのだという。
「その時に目撃されたグドンは一人だけだったけど……もし群れで森に住み着いていたりしたら大変だ、って事で、村の人達が依頼して来たの」
 リゼルは一旦そこで言葉を切ると、一呼吸置いてから、再び語りだす。
「ちょっと調べてみたんだけど……その森には、確かにグドンの群れが住み着いているわ。……グドンが群れで村を襲い、そして滅ぼしてしまう事は、決して珍しい話ではないわ。だから……コトコトルの村がそんな事態に陥る前に、このグドンの群れを退治して欲しいの」
「グドンの数は、どの位ですか?」
 冒険者たちの顔を順に見回しながら依頼するリゼル。それを聞いたエルルは、グドンについての情報を尋ねる。
「人数は三十人くらい。豚の頭を持つグドンだから、見れば一目で分かると思うわ」
「三十人……。グドンって、それなりの知識と協調性があるみたいだから、各個撃破は難しそうね。バラバラに行動していたら、逆に私達の方が囲まれて各個撃破されそうだし……」
 エルルは眉をひそめて唸ると、ミートパイをひとかけら、口の中に放り込む。
「……どうしよう。皆さん、何か良い案、ありますか?」
 そして、エルルは困ったという様子で、他の冒険者達を見るのだった。

マスターからのコメントを見る

参加者
蒼の魔女・カーリー(a00167)
蒼き鳥姫・エステル(a00181)
陽だまりの歌い手・フレル(a00329)
ちっちゃな重騎士・パン(a00909)
濃紺の癒し手見習い・ナロン(a00946)
蟒蛇・トウヤ(a01790)
夕星・オニキス(a02108)
孤高なる呪華・ディープレッド(a02452)
NPC:リボンの紋章術士・エルル(a90019)



<リプレイ>

●準備は万端?
 依頼を引き受けた冒険者達は、コトコルトの村で一軒の家を借りると、グドン退治の準備をしていた。
「分けて貰って来ました」
 そんな家に、野菜や果物が入った籠を抱えて戻って来たのは、ヒトの吟遊詩人・フレル(a00329)とエルフの紋章術士・エステル(a00181)の二人だった。
「グドン退治の為ならって、たくさんの人が協力してくれたわ」
「そうですか。んー……これだけあれば、かなりの物が作れそうです」
 エステルの持つ籠の野菜を手に取りながら、エルフの牙狩人・オニキス(a02108)はニッコリと笑うと、早速調理に入る。
「あ。あと、鶏も一羽頂けました。今お父さんが運んでます」
「なら鶏をメインにした料理を用意してみますです」
 オニキスは用意するメニューを考えると、蒼き邪炎を繰りし者・カーリー(a00167)などに指示を出して、手際よく作業を進めていく。
 彼らが用意している料理は、ただ食べて楽しむための物ではない。美味しい料理の匂いで、グドンを誘き寄せようという作戦なのだ。
「ちょっと可哀相ですけど……でも、村の安全を守るためです」
 エルフの重騎士・パン(a00909)は、足手まといにならないように頑張ると拳を握る。
 その為にも、グドン達が近づいてくるような美味しい料理を作らなければならない。バンは予め採取してきたハーブを取り出すと、より良い匂いがするようにと、それを料理に振りかけていく。
「村の人に話を聞いてきたけど、森の北端に割と開けた場所があるらしいよ。そこでどうだろ?」
 ヒトの医術士・ナロン(a00946)が、村を回って集めて来た情報から提案したのは、そのグドンを誘き寄せる為の場所についてだった。
 村から出来るだけ離れていて、かつ森の近辺という条件に合いそうなのは、そこしかないだろうとナロンは確信していた。
「風向きは……そこなら、丁度良さそうですね。ね、クロちゃん」
 鶏を抱えつつ、空を見上げていたお天気パパさん・スレイドは、ふむと一つ頷くと、足元の黒猫に微笑みかける。
 スレイドは、愛娘のフレルに頼まれ、今日の風向きを予測していた。グドンを誘き寄せるために料理を使うなら、その場所は、森の風上に当たる場所の方が、匂いが流れやすいだろうと考えたからである。
「そうね、ならそこが良いと思うわ。じゃあ……私達は先に行って、祭壇の準備をしましょう」
 エステルは頷くと、野菜屑の入った布袋を掴む。
 彼女が言う祭壇とは、料理同様にグドンをおびき寄せるための物だ。豊作を祝う儀式のための偽祭壇を用意する事で、たくさんの料理が置かれている事が自然に見えるようにしようとしているのである。
「じゃあ、ボクは箱を運ぶか」
 ナロンは積み上げられていた箱のうちのいくつかを両腕で抱え上げると、村人から聞いた場所へと向かって歩き出す。
「じゃあ、私も……」
「うむうむっ♪」
 同じように木箱を運ぼうとしたエルルだが、その動きは、眼前ににょきっと現れたエルフの吟遊詩人・ディープレッド(a02452)によって止まる。
「ん〜。間近で見ると、らぶり〜じゃのう♪」
「え……ひゃっ」
 エルルの顔を眺めていたディープレッドは、不意に両腕を伸ばすと、エルルの体を持ち上げる。その様子は、二人の身長差が30cmある事も手伝ってか、まるで幼い子供を『高い高い』しているかのようだ。
「ディープレッドさぁん」
「おお、すまんすまん」
 困った様子で声を上げるエルルに詫びつつ、彼女を地に下ろすディープレッド。
 と、その口から、一つ呟きが漏れる。
「ふーむ……○○kgって所じゃろうか」
「! な、ななな何故それを……っ!」
 エルルはディープレッドの言葉に硬直すると、慌てた様子で周囲を見回し、他の者が今の言葉を聞いていない事を確かめる。
「おお、当たったか。しかし……ちと、運動した方が良いと思うぞ?」
 ディープレッドはそう告げると外へと出て行き……残されたエルルは木箱を持ち上げると、小走りになりながら、先に出て行ったナロン達を追った。

●グドンを退治せよ
 料理と祭壇の準備の目処が付いた頃、ディープレッドは一人森の中にいた。
「おぬし等の食べ物を奪う、豚顔のグドンは何処におる?♪」
 リュートを奏で、居合わせた動物達に獣達の歌でグドンの居場所を教わりながら、森の奥へ奥へと進み、そして……
「ほう。あれがグドンか」
 グドンの住処に辿り着いたディープレッドは、生まれて始めて見るグドンをしげしげと眺めると、ここまで自分を案内してくれた鼠や雀に、感謝の言葉を載せた旋律を贈る。
「……ダレダ?」
 その歌で誰かが居る事に気付いたらしい。グドンが、ディープレッドのいる方を睨む。
(「言葉を話す事は出来るようじゃな」)
 ディープレッドは、グドンとの会話も獣達の歌を介するつもりでいたが、どうやら、これならば普通に声をかけても通じそうだ。
「わしは、ちょっと散歩の途中でのう。ところで……おぬしら、美味しい食べ物がたくさん食べられる場所を知っておるか?」
「タベモノ? タベモノ、アルノカ?」
「うむ。森の北に、色々な料理があったのじゃ」
 ディープレッドは、その料理がどれだけ美味しそうだったのかを語り、そして、今から行けば、お腹が膨れ上がるほど食べられそうだとグドン達に告げる。
「ウマイモノ、タベニイク!」
「イク、イク!」
「ミンナデ、ゴチソウ、ハライッパイ!」
 口々に言い合い、楽しそうに盛り上がると、早速グドン達は立ち上がり、料理を食べに出発しようとする。
「……キタ、ドコダ?」
「キタ、シラナイ」
「あー、北というのは、向こうの事じゃ」
「ムコウ、ムコウ! ゴチソウ!」
 どうやら、このグドン達は北という方角が解らなかったらしい。ディープレッドが北を指し示すと、グドン達は嬉々として、今度こそ出発していく。
(「どうやら全員で行くようじゃな。ならば……わしは少し距離を取って、その後ろを行くとするかのう」)
 拠点に残るグドンがいるようなら、彼らを仕留めてから戻るつもりでいたディープレッドだったが、その必要は無いらしい。北へと歩いて行くグドン達の背を見失わない程度の距離を取りながら、ディープレッドも祭壇へと向かった。

「タベモノ、オチテル」
「タベモノ、ムコウ」
 グドン達は道すがら、地に点々と落ちている野菜屑を見つけた。
 これはエステルが、彼らを誘き寄せる作戦の一環として、召喚した下僕達と共に撒いた物だ。
 その野菜屑を辿るようにして、クドンの群れが祭壇に到着した時、待機していた冒険者達は、一人を除いて周囲に潜んでいた。
「豚のグドンだからって、こんなに簡単に食べ物の匂いに釣られてくるなんて……まんまじゃん」
「しっ、静かに……」
 思わず毒を吐くカーリーを、エルルは嗜めると、物陰から姿を現すタイミングを計る。
 一方で、一人ストライダーの武道家・トウヤ(a01790)は、見張りの村人に扮しながら、祭壇の傍に腰を下ろしていた。
「タベモノ、クワセロ、ハラヘッタ!」
「ヨコセ、ナグルゾ?」
 食べる邪魔をするなら……と、棒や拳を握ってみせるグドン達。おそらく、過去にこのような方法で人々を怯えさせて、食べ物を奪った経験があるのだろう。だから、今回もこうすれば、食べ物が得られると考えたに違いない。だが……
「そうは、いかないな」
 トウヤは顔色を変えず立ち上がると、身構えて拳から衝撃波を放つ。驚いたのはグドン達だ。痛みに顔を抑える仲間を見ると、顔色を変えて武器を構える。
「下がってください!」
 物陰から飛び出したパンは、グドン達との間に割って入るとトウヤを庇う。次々とグドンの攻撃が飛ぶが、不動の鎧で強度の増したブレストプレートに身を包んだバンには、その攻撃はあまり効かなかった。
「土塊さん、お願い!」
「……はっ!」
 更にエルルが召喚した土塊の下僕が前に出て盾となり、護りの天使を呼び出したナロンが、グドンの攻撃を無効化しながら、逆にグドンへと衝撃波でダメージを与える。
「〜〜〜♪」
 その間にフレルが眠りの歌を辺りに響かせ、周囲にいたグドン達を眠りの淵へと誘う。グドン達は次々と深い眠りへと落ち、地面に崩れ落ちていく。
「ド、ドウシタ!?」
「――影縫いの矢!」
 眠りに抗う事に成功した僅かなグドンは、何事かと慌てながら周囲の仲間を揺すり起こそうとするが、そこにオニキスの矢が飛び、その動きを封じてしまう。
「村の人たちの努力の結晶を、グドンなんかに取られたくないからねっ」
 別のグドンには、カーリーの手から放たれた蛇状の炎が炸裂し、グドンの体を焦がす。
「逃がさないわ!」
 後列にいて眠りの歌から逃れたグドンは、次々と倒れる仲間を見て逃げ出そうとするが、それを阻止しようとしたエステルの手から光の球が放たれ、グドンの背に炸裂する。
「人々の笑顔の為に、絶対に逃がさないですよ!」
 オニキスの影縫いの矢が飛ぶ一方で、逃げるグドンの正面に構えたディープレッドが、竪琴から衝撃波を放ってグドンの足を止める。
「爆砕拳!」
 更に、追いついたトウヤの拳がグドンを一撃の下に地面へと叩きつける。その傍らでは、バンのメイスがグドンを叩きつけ、ナロンのオーブから放たれた衝撃波が、仕留め損なったグドンに止めを刺していく。
「はっ!」
 最後の一体となったグドンに対しても、トウヤの蹴りが放たれ……その場を訪れたグドンは全て地に倒れ、そして、誰一人として動かなくなった。

●戦い終わって
 グドンの始末を終えた後、ナロンは一人、森を眺めていた。
(「今回の依頼は……本当に、こうするしか無かったのか?」)
 グドンは繁殖力の強い生き物だから、僅かな数しかいなかったとしても、物凄い勢いで数を増やす。放っておけば、彼らがコトコルトの村のみならず、この地域の人々に危害を加える事は、感嘆に想像出来る。
 でも……だからといって、滅ぼしてしまうのが最良の方法なのだろうか……そう思うナロンの表情は、かげっていた。
「昔から、綺麗な花には棘があると言うからのう……。それが世の常、人の常という物じゃろうな」
 ナロンと同様に、グドン退治に関して思う所のあったディープレッドは、一人呟きを漏らしていた。
(「人が生きる為にグドンは邪魔のようじゃ。わしが、そうして生きて来たように……邪魔者は消す、生きる為に」)
 それが良いとか悪いとかの問題ではなく、人間とはそういう生き物なのだろうと、そう思いながら。
「一応確認して来ましたけど、やっぱり、グドンはあれで全てみたいです」
 そんな中、森から戻ったバンが、そう皆に告げる。
 彼は、グドンが根城としていた場所を見て回り、生き残りがいないかを確認して来た所だった。
「そう……。もうこれで、心配要らないわ」
 エステルはバンの言葉を受け、グドンが退治された事を聞いて集まった村人達に微笑みかける。
「ああ、良かった」
「皆さん、ありがとうございました。お礼を言っても言いきれません」
 村人達は胸を撫で下ろすと、心からの安堵しながら笑みを浮かべて、冒険者達に感謝の言葉を向ける。
(「冒険者稼業って、別に感謝される為にやる物じゃないけど……」)
 エステルは、そんな人々の様子を見て、胸の奥底から湧き上がって来る物を感じた。
(「……この笑顔を見ると、疲れも吹き飛ぶ位報われた気持ちになれる気がする。私は……人の喜ぶ顔が、見たいのかもしれないな……」)
 その為に頑張ろうという気持ちが、身体の何処かから湧いて来る……そんな気が、エステルはした。
「みんなの笑顔を……守ったんだよね?」
 フレルは、そんな村人達の姿を見ながら、誰に対してでもなく問いを発した。
 村を守るためとはいえ、三十人ものグドンの命を奪ってしまった事は、彼女の顔を曇らせていた。人間の都合だけで、彼らを傷つけてしまったのではないかと……。
 今の自分には、ただ、あのグドン達が安らかに眠れる事を願うしかない。
「……フレル。収穫祭の料理を分けて下さるそうですよ。貰って来ましょうか」
「……うん」
 大きな手が優しく自分の頭を撫でるのを感じたフレルは、俯いていた顔を上げると、精一杯の笑みを浮かべて、その手の主を見上げた。
「エルルちゃん、あたし達も何か食べよ〜☆」
「うん。……でも、どれにしよう?」
「沢山あるから迷っちゃうよね〜。順に行く?」
 カーリーはエルルを誘うと、彼女の腕を引いて収穫祭へと繰り出して行く。スープやサラダ、炒め物や煮物、パイやタルト……目移りしながら、いくつかの料理へと手を伸ばす。
「あれ? エルルちゃん、もう食べないの?」
「うーん……も、もうちょっとだけ……」
「?」
 先のディープレッドとの会話を気にしてか、手の動きが鈍いエルルだったが、美味しい料理を前に耐えるのは難しかったらしい。ついつい美味しそうな食べ物へと手が飛び……エルルは、後で食べた分動くのだと硬く心に誓った。
「さぁて……次の相手は誰だい?」
 その頃、トウヤは人だかりの中にいた。振る舞われたワイン樽の傍に陣取った彼は、通りかかった適当な男を相手に飲み比べを挑み、既に三勝をあげていた。
「あの兄ちゃん、強ぇな」
「かなり飲んでるはずなのに、そんな気配は無いよね」
 酒好きの本領発揮と言わんばかりに、見物者の会話に笑みを浮かべるトウヤ。そして、新たな相手と向き合うと、グラスに再びワインを注ぐ。
(「……まだまだ飲めそうだね」)
 グラスを傾けながら思った通り……トウヤはその日の夜遅くまでワインを飲み続け、しかも翌朝ケロリとした姿で他の者の前に現れた為、コトコルトの村の住民の間では、以降『コトコルトの歴史最強の大酒豪』として、トウヤの事が語り継がれる事になるのだった。


マスター:七海真砂 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:8人
作成日:2003/10/20
得票数:冒険活劇19 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。