アリシューザの新年会〜初日の出を見に行こう



<オープニング>


「もうすぐ今年も終わり……か」
 霊査士のアリシューザは、年の瀬で忙しい冒険者の酒場のにぎわいを眺めながら、のんびりとキセルをくゆらせる。テーブルの上には、酒を垂らした紅茶がすっかり冷めていた。いつもなら賑やかにつきまとうシフォンは、新年の餅つきに誘われてるからとその準備のために席を外しており、シリアはというと「アリ聞いて! あたしに最近いい人できちゃったみたい!」と一人で浮かれたまま姿を見かけない。まあ、たまには静かな方がいいね……と、すっかり冷めた紅茶を飲み干す。と、隣のテーブルで語り合う冒険者のアベックの会話が聞こえてきた。
「ねえ、初日の出見に行こうよ」
「それいいな……山の上は寒いからな、暖かくしてけよ」
「大丈夫。貴方に暖めてもらうから」
「ったく……のろけやがって」
 不意にアリシューザの脳裏に、冒険者時代にパーティの仲間達と初日の出を見た日の事が甦った。あまりの寒さに、初日の出登山を計画したリーダーに悪態をつく一同。初日の出が見えた瞬間に全員が黙り込み、アリシューザにキスをした恋人の笑顔。仲間の一人が用意した、火傷しそうなほど熱い甘酒をすすりつつ、全員が冒険での無事を祈って……とアリシューザは、愛用の煙草盆の縁にキセルを叩き付けた。
「あたしも、久々に初日の出、見に行こうかね」
 半ば唐突に思いついたアリシューザはおもむろに席を立つと、酒場のマスターにお土産用のお酒を頼むと、着ていくコートはどこへやったかなと記憶を探しつつ、酒場を後にするのであった。

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参加者
NPC:妖煙の姐御霊査士・アリシューザ(a90061)



<リプレイ>

「全員そろったかい?」
 妖煙の姐御霊査士・アリシューザ(a90061)の問いに、頭数をせっせと数えていた暁の傭兵・ラギシエル(a01191)が、答えた。
「えーっと。全員っすね」
 あと数時間で今年一年が終わろうとする今年最後の日の夜。翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)に言わせると、「アリシューザさんの突然な思いつき」な、新年を初日の出と共に迎えようというアリシューザの提案に、二十数名の冒険者たちが集まっていた。目指すは、標高千メートル近い山頂。だが、低く雲が立ち込め、登山道にはガスがかかっていた。
「アリシューザさん……天候がよろしくありませんが、どうしますか?」
 剣難女難・シリュウ(a01390)は、雲行きを見て顔をしかめた。
「山の天気は変わりやすいから、ボクもどちらかというと心配なんだけど」
 悠然とキセルを吹かすアリシューザの様子に、ナタクはシリュウの言葉にうなずく。紫銀の蒼晶華・アオイ(a07743)がにっこりと微笑んだ。
「きっとアリシューザさんには、お考えがおありなのでしょう」
「だといいのですが」
 眠らぬ車輪・ラードルフ(a10362)が答えた時だ。目の前に、白いものが舞った。
「雪……だな」
 蒼浄の牙・ソルディン(a00668)が、煙草に火をつけた。雪はちらちらと舞う程度だったが、全員の首をすくませるには十分だった。
「そろそろ行こうかね。誰か先陣切っとくれ」
「なら、俺たちが行こう。リューシャ、行くぞ」
「え? あ、はい!」
 真っ先に手を上げたのは、冥府の番犬・ヤヨイ(a10090)だった。恋人の、軽やかに跳ねる靴音・リューシャ(a06839)と共に、小雪舞う登山道に入った。アリシューザが、黄金色のファー付毛皮のコートを翻すとヤヨイたちに続いた。
「では、俺たちも行こうか」
「ちょっとした冒険よねー」
 蒼の閃剣・シュウ(a00014)と此岸現想・レビルフィーダ(a06863)がそれに続く。
「さすがアリシューザさん、違うね」
 ナタクはニヤリとすると、登山道に足を踏み入れた。
「こんだけ寒いと、山の上で飲む熱燗も美味いべな」
 背中の背負子に、炭やら七輪やら金網やらを背負った、旅の田舎重騎士・オーレイ(a07266)の言葉に、ぴくりと反応したのはバニーな翔剣士・ミィミー(a00562)。
「それなら話は別よ。行くわ」
「ミィミーは動機が不純ね」
 女装はしないとあれほど騒いでいたはずの、拳で語る医者・ジョゼ(a04564)は女医さん口調でミィミーを見た。
「うるさいわね、アンタに言われたくないわよ」
「お二人はお知り合いなのですか?」
 ヒトの重騎士・フェレック(a18700)が尋ねる。
「カミさんがいるのに、私のダンナに手を出す恋敵よ」
 話が見えないフェレックの耳元で、ジョゼは囁いた。
「坊やが大人になったら、教えてあ・げ・る」
 一人どきまぎして顔を赤くするフェレックの慌てぶりに、一同に笑いが広がる。
「ジョゼも新米からかってないで早く行け。おいてかれるぞ」
 ラギシエルの言葉に、ミィミーたちも動きはじめた。
 かくして、初日の出登山は始まった。

「やっぱり……早朝の山は冷えますね」
 マフラーに顔をうずめながら、灯歌・セルディカ(a04923)が白い息を吐きつつ言った。
「いくら冒険者だからって……」
 朽澄楔・ティキ(a02763)が息を弾ませながら答える。
「思いつきで冬の山に登るなんて、チトきつくないか?」
「まったくだ。冷え性の私にはつらいな」
 ファー付の黒いコートに身を包んだ、紫夜霄を抱く朧なる銀・ネフェル(a02933)が呟いた。
「それにしても、手先が冷えて困るな。まるで氷のようだ」

 気が付くと雪は止み、低く垂れ込めていた雲間を抜けたのか、漆黒の夜空に星の瞬きが戻っていた。星空に気づいて、立ち止まるアリシューザ。
「ん、あねさん、背中押そうか?」
 全身真っ白の防寒服に身を包んだ、真白に閃く空ろ・エスペシャル(a03671)の問いに、アリシューザは苦笑いするとエスペシャルの頭を撫でた。
「ありがとうよ、シャル。ちょっと星を見ただけさ」
 うなずいたエスペシャルの後ろで、小さな悲鳴が挙がった。足を滑らせた、碧藍の瞬き・アイシャ(a04915)を、氷輪に仇成す・サンタナ(a03094)が受け止めた。
「大丈夫かえ、アイシャ?」
「は、はい。大丈夫ですわ」
 優しくアイシャの手を取るサンタナに、微笑むアイシャ。
「あと少しの辛抱ですじゃ」
「はい……きゃっ」
 サンタナがいきなりアイシャを抱きかかえた。
「ここは足場が悪いですじゃ。途中まで……」
 真っ赤になってサンタナの腕の中でうなずくアイシャ。
「ラブラブだな」
「ああ、まったくだ」
 ニュー・ダグラス(a02103)とアイギスの赤壁・バルモルト(a00290)が、ぼそぼそと聞こえるように呟きながら、サンタナの前を通り過ぎていった。サンタナとアイシャは、顔を見合わせてくすくす笑った。

「ヤヨイ、ちょっと待って!」
 息を切らせて立ち止まるリューシャ。
「どうしたリューシャ。山頂はまだ先だぞ」
「私、疲れたよー」
「ったく……」
 ヤヨイはしゃがみこむと背中を見せた。
「おぶされ。早くしろ」
 リューシャはそっとヤヨイにおぶさった。ひょいと立ち上がると、再び力強く登り始める。
「あったかいね」
「ん? なんか言ったか?」
 リューシャはその問いに答えずに、無言で身を寄せた。

「足元、注意してくださいね」
 明告の風・ヒース(a00692)が、陽だまりの風に舞う・シルキス(a00939)の手を取る。
「ね、オウヂ様。今日のボクの恰好どうかなぁ?」
 おずおずと上目遣いで尋ねるシルキスに、ヒースは少しだけ照れたように答えた。
「もちろん! とってもかわいいですよ」
「ホント? ありがとうオウヂ様」
 恥ずかしげに微笑むシルキス。
「こっちもラブラブだな」
「まったくだ。ラブラブだな」
 ダグラスとバルモルトの二人がぼそぼそと聞こえるように通り過ぎ、ヒースとシルキスは真っ赤になってうつむいた。

 突然、視界が開けた。
「俺たちが一番乗りだな」
 呟くヤヨイの背後で、息を切らせて駆け込んで来たのはジョゼ。一足遅れてミィミーがそれに続いた。
「私の勝ちね、ミィミー」
「くっ……か、帰りは負けないわよ!」
 反論するミィミー。
「こ、こんなところで死ぬわけには……」
 首飾りを握り締めたまま、息も絶え絶えの蒼天の守護拳匠・シェード(a10012)。
「頑張ってください。もう少しです」
 セルディカに励まされるように登山道を登るシェード。と、ぽっかりと視界が開け、山頂に到着した。
「わーっ、頂上だ!」
 ヒトの吟遊詩人・ルナ(a18490)が、山頂にたどり着いて喜びの声をあげた。吹き抜ける風に身をすくませるシェード。
「さ、さぶい」

 山頂についた一同を迎えたのは、紫がかった星空だった。
「夜明けが近いね」
 呟くアリシューザの背後では、シュウが焚き火の準備をはじめていた。
「どんど燃やしは、初日の出につきものよ」
 たき火に枯れ枝を放り込むレビルフィーダ。赤々と燃え始める焚き火に、みんなが集まってきた。火をもらったティキが、鍋に雪を溶かして水にすると、持ち込んだ調味料と手近に見つけてきた野草でせっせとスープを作り始める。その横では、七輪の火を起こしたオーレイが、もちを焼き始めた。
「これも、暖めさせてもらっていいか」
 ネフェルが持ち込んだ甘酒が温められ、アオイが一同に飲み物を配り始める。
「見てみて!」
 シルキスがびっくりした声で指差す。全員が、その方向を見たときだった。
 山並みが連なる地平線の向こうから曙光が差し込むと、まばゆいまでの朝陽が、山頂にいる全ての人たちを照らした。
「あけましておめでとうございます、アリシューザさん。いろいろとございましたが、今年もよろしくお願いします」
 シリュウが、アリシューザに微笑むと手にしていた杯を掲げた。それを合図に、あちこちで交わされる新年の挨拶。
「今年もよろしく頼むぞえ?」
 サンタナが、アイシャにそっと口付けした。アイシャはそれに応えると、サンタナにそっと身を寄せた。
「すごいですねぇ」
 初日の出を見つめながら感嘆するシェードに、傍らから甘酒が差し出された。
「どうだ、一杯? 少しきつめだが」
 ネフェルから甘酒を受け取ったシェードが、甘酒を飲んだ。アルコールがきつめなのか、体が火照るくらいだったが、冷えた体を暖めてくれた。
「さて……最初新年の煙草といきましょうか」
 ソルディンが、煙草に火をつけようとした。
「あたしにも、火をおくれ」
 アリシューザの言葉に、ソルディンはキセルに火を入れた。
「今年最初の一服ですね」
「そうだねぇ」
 ソルディンは、紫煙を吐いた。
「あまざけ、おいしいね?」
 エンジェルの紋章術士・エンヤ(a18647)が、振舞われた甘酒をふーふーと覚ましながら飲む。エンヤの隣では、セルディカが同じようにこくこくと甘酒を飲んでいた。顔を見合わせて笑う二人。

 山峰を護る誇り高き獣・ラフティーン(a04085)が甘酒を飲み終えると、意を決してゆっくりと山頂の崖に立った。
「うぉぉぉっ〜、姐さん誕生日おめでとうぉぉぉ!!」
 ラフティーンの絶叫に、アリシューザは甘酒を吹きそうになった。
「新年明けましておめでとうですね姐さん……でと、遅くなりましたけど誕生日プレゼントどぞですよ」
 青磁器の灰皿と、自分の旅団のデザートサービス券の束を手渡すシュウ。
「誕生日おめでとさん。何かいいものをって思ったけど……なかなか思いつかなかったんで」
 ラギシエルが、アリシューザにぬいぐるみを手渡した。
「アリシューザ殿、誕生日おめでとう」
 ネフェルからは、真鍮製でいぶしが施された煙管だった。アリシューザはそれらを大事そうに受け取った。
「ありがとう……気を使わせて悪いね」
 ラフティーンの叫びに触発されたのか、フェレックは同じように崖に立った。何を言うのかと期待する一同の前で、長剣を引き抜くと、目の前に掲げた。朝陽が反射して、刃がひらめく。
「騎士の名誉に誓い、折れず、朽ちず、金剛の強さをもち、心清き騎士になることを誓う!」
 一瞬の沈黙。剣を収めたフェレックが振り返ると、どっと拍手と歓声が沸き起こった。照れくさそうな表情を浮かべるフェレック。
「自分も、今日からまた新しい気持ちで日々を過ごしていきたいですな」
 フェレックの宣誓に、頷くラードルフ。
「お前が重騎士として、立派になれるよう同じ重騎士として応援しよう」
 バルモルトが重々しく言い、やはり重騎士のオーレイが、焼きたてのもちをフェレックに差し出した。
「立派な騎士になるんなら、たーんと食べんといかんよ。おらからのお祝いはこれだ」
 ジョゼがしたり顔で言った。
「いい、坊や? ここにいる武道家のおねぇさんみたいに、『ゴウリュウ殺し』とか『破壊乙女』っていう通り名をもらえるくらい、立派な冒け……」
 ジョゼが言い終わる前に、ナタクの一撃がジョゼの腹に叩き込まれた。おろおろするフェレックに、ナタクがにっこりと笑みを浮かべた。
「すばらしい冒険者になってね。ボクも応援するよ」
 うずくまりながら抗議の声を挙げるジョゼに追い打ちを掛けるように、ミィミーは崖の先端から叫んだ。
「打倒ジョゼフィーヌ!! オカマに旦那取られてたまるかーーーっっ」
 それだけ叫ぶとすっきりしたのか、苦笑いしきりのアオイから、甘酒を受け取ると一気にあおった。
「あー、すっきりした」
「んふふふふふ」
 レビルフィーダがアリシューザににじり寄った。酔っぱらっているのだろう。
「あのねー。あたしね、あなたのこと、好きよ〜。だから、かんぱーい」
 アリシューザの杯に、無理やりお酒を注ぐレビルフィーダ。
「姐さんこっちもどうっすか〜、甘酒もいけるっすけど、こっちもなかなかっすよ〜」
 ラフティーンが、アリシューザが杯を空けるなり、すかさず2杯目を注ぐ。ラギシエルがぼそりと言った。
「ライバル登場だな、シリュウ。うかうかしてっと姐さん持ってかれるぞ」
「ご冗談を」
 微苦笑を浮かべるシリュウ。

 リューシャはヤヨイと共に初日の出を見つめていた。くしゅん、とくしゃみをするリューシャの首に、ヤヨイはそっとマフラーを巻いた。その片方はヤヨイの首にまかれている。
「……あけまして、か。今年もずっと、一緒にいような」

 日の出を身ながら、ヒースはある決意を固めていた。
「シルキスさん」
「オウヂ様、なに?」
 ヒースは、真顔でシルキスに向き合った。きょとんとシルキスもヒースを見上げる。朝陽を浴びるシルキスは、何よりも綺麗だった。
「シルキスさん。貴女が好きです。恋人になってください」
 吐きだすように一気に言うと、ヒースはみるみる赤くなった。シルキスは、ヒースの告白に一瞬戸惑ってから、えっ?と驚き、ヒースの服の裾をつかんだままうつむいてしまった。
「ボクで……いいの?」
「はい。ずっと前から……好きでした」
「ボクも……オウヂ様の……ヒースのことが好きだよ」
 シルキスが顔を上げる。その頬には涙がつたっていた。ヒースは、そっと指先でシルキスの涙をぬぐうと、新しく恋人となった少女に優しくくちづけをすると、抱きしめた。

 ネフェルは一人離れて、日の出を見つめていた。
「美しいな。冷えた空気に映える日の光というものは……」
 潤む瞳から涙がこぼれそうになり、ネフェルはそっと目じりをぬぐう。傍らにいた須王がネフェルを見上げると、ネフェルは何も言わずに須王を撫でた。

「新しい年が、生まれる色だ」
 日の出をじっと見つめるエスペシャルが、一人呟く。太陽が、地平線と離れる頃、エスペシャルは一人口ずさんでいた。

 このよのとびらを ひらいたあなたを
 わたしは なんどでも かんげいしよう
 もういちど うまれなおす このひ
 くりかえせ いくとせ うまれつづけよ

「何の歌ですか?」
 アオイが尋ねた。
「んー? これ? としめぐりの歌」
「あたらしい年のはじまりを、いわうこと……うまれた日を、ことほぐこと」
 エンヤが言った。
「あたらしい一年に、光と風のかごがありますように」
「そうだねぇ。今年1年、あんたたちが無事で帰ってくることを願うよ」
「あねさん……お誕生日おめでとう」
「おたんじょうびおめでとーです、アリシューザおねーさん」
 エスペシャルとエンヤの言葉に、アリシューザはうなずいた。
「おめでとう」

 全ての冒険者たちに、希望のグリモアのご加護のあらんことを。


マスター:氷魚中将 紹介ページ
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作成日:2005/01/10
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