黒桔梗の森〜実戦訓練〜



<オープニング>


 おじいちゃんは軍曹たん・ライナー(a02455)が率いる旅団は、独立遊撃傭兵部隊と謳っている。
 そしてその名に恥じぬよう、所属する者達は日々訓練を積んで来た。
 時には状況を想定したシミュレーションを行い、時には模擬戦闘を行って互いの力を確認し、また磨き上げる。
 だが、そうした訓練だけでは全く意味が無い。いくら能力を磨いたところで、実際の戦いの場でそれらを遺憾なく発揮し、かつ応用出来なくては、そこには欠片ほどの価値も存在しないのである。
 だからこそ彼らは、日々の訓練の成果を確かめ、また実際の状況に生かせるようになるために、訓練のメニューに実戦を採り入れている。
 ――その日、彼らが黒桔梗の森を訪れたのも、そんな実戦訓練の一環だった。

「いつ出くわすかは分からん……気を引き締めておくんじゃぞ?」
 共に森へと足を踏み入れた7人を一度見回して、ライナーは注意を促した。強力なモンスターが数多く棲む森……探索中、いつ何処で戦闘になってもおかしくはないのだ。
 そんな中、一行が相手として目をつけていたのは、以前ここを訪れた者の情報から存在を知った、巨大なサソリである。
 曰く、そのサソリは非常に敏捷かつ頑丈で、生半可な攻撃では歯が立たない上に力も強く、難敵だとの話であった。
 しかし、それが全てという訳ではない……そう直感した一行は、日頃の訓練の成果をぶつけてみるに不足は無い相手だと判断し、一行は黒桔梗の森を訪れたのだ。
 ――それからかれこれ1時間が経とうとしている。
 いつ襲われるか分からないという緊張感を持ち、一同は襲撃を警戒して気を張り詰めてきた。だが、長時間神経を尖らせ集中力を維持するのは大変だ。どうしても、ふとすると気が緩みそうになってくる。
 こういう状況は危ない――ライナーがそう考えていた、その時。
「……!」
 背後から不意に襲い掛かる殺気に、咄嗟に身を捻る。そんな彼の体を数本の針が掠め、そのまま飛んだ針は近くの樹に鋭く突き立った。
 振り返ると、木々の隙間に敵の姿が見えた。
 並の牛以上もあろうかという大きさ。1対の巨大な鋏を構え、そして反り返った尻尾の先は毒々しく変色した――サソリの姿が。

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参加者
愛想義心の朱蓮・ナリュキ(a02194)
薔薇の狂戦士・ライナー(a02455)
黒劒・リエル(a05292)
魔楽師・マルス(a05368)
霊帝・ファントム(a05439)
斬魔刀・ルネ(a06632)
爆炎のカルナバル・ジークリッド(a09974)
赤烏・ソルティーク(a10158)


<リプレイ>

「陣を組んで!」
 敵の姿を認めると同時に黒牙・リエル(a05292)が声を張り上げる。
「今回はリエルが全体の指揮を取ってくれるようじゃな。ならば思う存分前衛で暴れられるわい!」
 薔薇の狂戦士・ライナー(a02455)の言葉に、リエルは自嘲めいた笑みを浮かべた。
「まあ、ここなら羽の生えたのには会わないでしょうし……」
 聞き取れない程の小さな呟き。聞いて貰う事等望んでいない独り言だ。翼を持つ生物が嫌いな彼女は、エンジェルの参入以来それこそ頭の中がぐしゃぐしゃになるまで悩んだ。けれど今ここでは、その分逆に集中して事に当たれそうだった。
「さて、戦闘開始……か」
 そんな彼女を気にする事もなく、その隣に進み出た霊帝・ファントム(a05439)は鎧進化で護りを固める。
「ついに僕達の力を試す時が来たんだね……十分、気を引き締めていかないとね」
 そう呟きながら、音色を操る白ネコ術師・マルス(a05368)は少し下がった位置の右側に立つ。
「さぁ、地獄の訓練に挑戦し続ける傭兵共よ! その成果をここに示せ!」
 敵の正面の位置に立ち、ライナーも声を張り上げた。それに対し、後方に下がった愛想義心の朱蓮・ナリュキ(a02194)は薄らと笑みを浮かべる。
「妾は本来文官扱いなのじゃがの……来たからには妾なりにやらせて貰おうかの」
「私に至っては傭兵に雇われた傭兵ですよ……まあ、やるべき事はちゃんとやらねば」
 彼女に並んで立つ緋燕・ソルティーク(a10158)も微笑み――直後。
「さて、上手く殺ってくださいね、皆さん。……朱の結晶は天で爆ぜ地を焦がす――『朱晶』」
 その言葉と共に杖に仕込まれた剣を抜き放った。エンブレムシャワーが発動し、こちらの出方を窺うように静止していた敵に多数の光弾が降り注ぐ。
 それに合わせ、斬魔刀・ルネ(a06632)は華麗なる衝撃を撃ち込もうと――
「……っと!」
 だが、敵は光弾に打たれながらも尻尾の先から針を飛ばしてきた。横飛びにかわし改めてルネは七色の光を撃ち出したが、タイミングをずらされたそれは容易く回避される。
「話通りの素早さだな……」
 輝煌弓・ジークリッド(a09974)が呆れたように呟く。
「『非常に敏捷かつ頑丈、生半可な攻撃では歯が立たない上に力も強く……』って、ふざけろ!」
 凡そ戦闘に必要な素地が軒並みハイレベルという事ではないか。
「ふん……面白ぇじゃねぇの。これ位の相手なら戦い甲斐もあるってもんだ」
 あくまでルネは強気の笑みを浮かべてみせる。
 そこへ、敵が突っ込んで来る!
「来たな! おらぁ、テメェの相手はこっちだぜ!」
「これを受けてみろ!」
 迫り来る敵に対し、ルネとライナーが二人がかりで紅蓮の咆哮を仕掛けた。敵の動きが止まる。
「行くわよ!」
 彼らに続き、リエルが『月読』を振り翳して駆ける。そこにファントムも続く。二人の行動を起点にして連携攻撃を仕掛けていくのが狙いだった。
 しかし、リエルが攻撃を仕掛けようとしたその時……敵は突如、鋏を振り翳す。
「……!」
 振り下ろされる巨大な鋏を、彼女は咄嗟に大型盾『守歌』で受け止めた。それでも突き抜けてくる衝撃がとても痛い。
 敵の動きを止められたのは僅かの間でしかなかったのだ。そして問題は、攻撃を繋げられなかった事。直後にファントムが居合斬りを放つが、鋭いその一撃はしかし紙一重でかわされてしまう。
 そこへ、マルスが振り翳した『ダンス・マカブル』から華麗なる衝撃を放つ。敵が居合斬りをかわした所へ七色の光が命中し、ファンファーレが鳴り響く。流石にタイミングを合わせた連続攻撃は避け切れる物ではないらしい……が、その一撃だけでは敵は揺るがない。彼に向けられた尻尾の先が微かに震える。
「この……!」
 続けて放たれたジークリッドの影縫いの矢は、狙い過たず敵の影を射抜いた。しかし、敵には傷一つ付かず、動きもまた止まらない。――針が放たれる!
「くッ」
 マルスにはそれを避ける事が出来なかった。針が突き刺さり、血がしぶく。
「やれやれ……回復してやるのじゃ」
 後ろに控えていたナリュキがヒーリングウェーブを放つ。先程負ったリエルのダメージも癒え、マルスの受けた傷も塞がっていく。
 だが……傷が塞がっても、彼は体を動かせなかった。
(「これは……!」)
 やはり敵の飛ばす針は只の針ではなかったのだ。それによって撃ち込まれた毒が体の自由を奪い、少しずつ蝕んでいく。
「これはいかんのぅ……」
 困ったようにナリュキが呟き、ソルティークも微かに唸る。こういうケースは想定していなかったため、誰も毒消しの風を用意して来ていないのだ。となると、マルス本人が毒に打ち勝つことを期待するしか……
 と、敵が鋏を振り上げて動き出した。――未だ動けないマルスを襲わせる訳には行かない。
「緋の燕は天を駆け地を舞う――『緋燕』――鬼、もといサソリさん、こちらです」
 牽制するようにエンブレムシュートを放つソルティーク。攻撃はかわされるが、これで注意を逸らすことが出来る。
 その瞬間を逃さず、稲妻を纏ったリエルの『月読』が叩きつけられた。
 電刃衝……刃が初めて敵に命中する。ガキィッと音が鳴る。
(「硬い!」)
 斬るには至らず、甲を叩いた衝撃で手が一瞬痺れる。……だが、攻撃の好機。
「軍曹!」
「応!」
 彼女に続き、ライナーが巨大剣を叩きつける。が、ただの斬撃は僅かに甲に食い込むに留まってしまう。
 彼が用意した攻撃技はファイアブレードのみ……確かに一撃は大きいが、反動のせいでリスクが大きい技だ。しかも誰も毒消しの風を持っていないこの状況、倒し切れる見込みもなく撃てる物ではなかったのだ。
 それは攻撃の手の緩みとなり、敵の反撃を許す。――巨大な鋏が胴に叩きつけられ、あまりの痛打にライナーは一撃で意識を持っていかれそうになる。
「ええい、しっかりせぬか!」
 即座にヒーリングウェーブを放つナリュキ。折角与えた傷を治す彼女の方へ、敵の注意が一瞬逸れた。
 それを見て、横からルネが華麗なる衝撃を放つ。それを咄嗟に飛び退って避けようとした所を――
「隙ありだ!」
 ジークリッドの放ったホーミングアローに撃たれ、かわしきれず衝撃までも命中した。
 立て続けに攻撃を受けた敵が、鬱陶しそうに鋏を振り回す。懐に飛び込むには厄介な攻撃。しかし、好機とばかりに飛び込んだファントムはそれを『鬼灯』で受け止める。
「どうした……こんな攻めで満足か?」
 強気に呟くファントム。しかし、優秀な防御力に鎧進化があってなお、突き抜けた衝撃は馬鹿にはならず。
「くらえ!」
 勝負を決めにかかり、鋏を払い除けざまに放った鋭い一撃――2度目の居合斬りも、すんでの所で飛び退った敵には直撃を避けられてしまう。
(「後一回で打ち止めか……」)
 内心で舌打ちをし、彼は敵を見据えた。一連の攻撃でダメージは着実に蓄積したが、まだ倒れそうにはない。
 と、集中攻撃が一瞬止んだ隙を突いて、敵は針を乱射する。
「……!」
 当たれば麻痺毒に冒されかねないと分かっている針をくらう訳にはいかず、一同は散開して針を避ける。
「うお……ッ!」
 射線を見切ろうとしていたライナーだったが乱射される針には対応しきれない。当たりかけた物を剣で弾き、辛うじて襲い来る針から逃れる。
「そんなのじゃ俺を倒すことなんてできねぇぜ……しかし、厄介な針だな!」
 回避しながらルネが舌打ちする。この状況では反撃に移れない。
 そうしている隙に、敵は後方へと飛び退っていく。ジークリッドが狙い撃とうとしたが、木陰に隠れられ見失ってしまった。
(「仕留め切れなかった……」)
 一瞬浮かんだ思いを胸の奥に押し込み、考える。逃げたとは思えない。まだ戦いは続いている――ならば、もう一度畳み掛けるチャンスは来る筈だった。
「さて、どう仕掛けてくるかしら……」
 リエルが半ば楽しそうに呟いたその時、頭上でガサリと樹が揺れた。
「上じゃ!」
 見上げてナリュキが叫ぶ。
 いつの間にか樹上に上がっていた敵が飛翔していた。巨大な鋏を振り被り落下してくる。その標的は――マルス!
(「冗談じゃないよ……!」)
 背筋に寒気が走った。もしもまともにくらったら――
(「……動いてくれ!」)
 必死になって体に力を込める。
「マルス!」
 誰かが叫んだ。
 次の瞬間――地響きが起こった。
 それに紛れるように……ファンファーレの音。
 振り下ろされ地を抉った鋏の下に、マルスの姿はなかった。下ではなく、すぐ隣に。麻痺からの回復が辛うじて間に合い、飛び退きざまに華麗なる衝撃を撃ち込んだのだった。
 だが、敵も黙ってはいない。着地した敵は体勢を立て直し尾を震わせ始める。と……
「おっと、そうはさせないぜ!」
 マルスへの攻撃の際に敵の後ろへ回り込んでいたルネが、尻尾に取り付き、爆砕拳を叩き込んだ。どうしても威力に欠ける一撃。
 しかし、敵は尻尾に取り付いた彼が無性に気になるようだった。大きく尻尾を振り回し、彼を振り落とそうとする。
 ――絶対的にして、最大の隙。
「狙撃兵に不可能はない……セィッ!」
 狙い澄ました貫き通す矢がジークリッドの輝煌弓レベリオンから放たれた。それには頑丈な甲など何の意味もなさない。放たれた矢は……その勢いのままに、敵の体をまさしく貫通した。
 体液を撒き散らし、敵の体が大きく揺らぐ。……決着をつけるチャンス!
「悶え苦しんで、散ってもらいますよ」
 ソルティークの放つエンブレムシャワーが敵を打ち据える。
 そこへリエルとライナーが斬り込む!
「決めるわよ!」
 叩きつけられる電刃衝。全く効かない訳ではないのだ、僅かの間敵は痺れる。その瞬間、今度こそ逃さない。
「この×××め! 貴様はわしの炎で浄化してくれる!」
 口汚い罵声を浴びせつつ、ライナーは炎を纏った巨大剣を叩きつける。ファイアブレード……その強烈な一撃は敵を深く抉った。
 が……敵の動きはまだ止まらない。
(「何……!」)
 仕留め切れなかったのだ。巨大な鋏が振り上げられる。だが反動で麻痺したライナーにはそれを避ける術は――
「……もう一撃だ」
 そこへ。
 ファントムが『禊』を振るった。
 もう一撃だけ残されていた居合斬り――渾身の力を込めて放たれたそれが、敵の頭を断つ。
「死を視る事、帰するが如し……これまでだ」
 崩れ倒れる敵に向かい彼は呟く。それが戦闘の終わりを告げた。

「無事に勝利出来たのは良いとするにしてもだ。これで満足の行く戦いぶりだったと思うか、貴様ら!」
 戦闘後。
 手を後ろに組み並んで立たされた団員達に、ライナーは指を突きつけながら声を張り上げていた。傭兵部隊の鬼軍曹としての愛の説教だ。
「戦う相手の実力・起こる状況が事前に完璧に分かっている実戦など存在せん! いかなる状況が発生し得るかを想定し、そして対応出来るようにしておかねばならん! いいか、それを理解し実現出来ないうちは、貴様らはこの世で最低の――」
「ええい、うるさいのじゃ!」
「うおっ!?」
 と、後ろから飛びついたナリュキによって鬼軍曹様のお説教は強制的に打ち切られる。
「何じゃナリュキ」
「こんな所で延々話を聞かされる身にもなってみい。お腹が空いてかなわんのじゃ。かといって食べ物もないからのぅ……」
 そして彼女はにぱっと笑った。
「食べ物ないから汝を頂くのじゃ。妾の本気は此処からじゃ、きっちりしごいてやるから覚悟せい♪」
「おぉぉ!?」
 ナリュキにじゃれ付かれてまんざらでもない様子の鬼軍曹ならぬライナー。
「多数のモンスターが潜む森だけに、長々と留まるのは得策ではないと思うのだがな……」
「まぁ、暫くは放っておいてもいいんじゃないかな?」
 溜息をつくファントムに軽く笑ってみせたマルスは、何気なく敵モンスターの死体を見詰め、呟いた。
「これ、お約束って事で取り合えず食べてみようか? どこかの地方だと普通に食すらしいしね」
「……モンスターって元は人間だろ? 本気か?」
 想像して、ジークリッドが半目になる。
「でも、何かの材料には使える物があるかもしれませんね。あ、鋏を流用して篭手なんて面白いかも……ですねぇ」
 ソルティークは色々と考えながら楽しそうに呟き。
「……サソリの針が禍避けのお守りになるって、本当かしらね?」
 針の一本を手にし、リエルは呟いていた。その様子は冗談とも本気ともつかず……ややあって。
「それじゃ、私は先に帰るわ。まだもう少し考えたいし、街の方には戻らないから……」
 そう言って彼女は去っていった。
「……俺たちも帰らないとな」
 その後姿をルネは暫し見送っていたが、やがてそう言うと、モンスターの死体に目を移し。
「お前、スゲェ強かったよ。いい戦いだったぜ……」
 そう、呟いたのだった。


マスター:御司俊 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2005/01/18
得票数:戦闘22 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
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