土竜打ち



<オープニング>


「土竜打ち?」
 冒険者の酒場。霊査士リィーンは正面に座る中年の男性にそう問いかけた。
 男性は「はい」と頷くと、水を一口飲み話し始めた。
「ウチの村では、新年の行事として行う小さな祭りみたいなモンです。その年の豊作を祈ると共に、木の棒で地面を叩いて、モグラを追っ払う。ウチは農業で村が成り立ってるんで、モグラの被害はバカに出来んのです」
「それで……なにかあったんですね?」
「はい。土竜打ちの最中、突然地面が陥没して何人かがはまりまして……。穴は浅く幸い怪我は無かったんですが、何事かと調べてみると、どうもモグラが掘った穴みたいなんです。更に調べてみると、どうも普通でない数のモグラが集まっているようで。退治しようと試みれば、逆に威嚇される始末」
 話を聞きながら、リィーンは中年男性が持参した木の棒を手に取った。
「それに、普通より一回り大きい白いモグラが目撃されまして。その棒は、白いモグラを退治しようとした際、その爪で折られたんです」
 リィーンが意識を集中する。暫くの間を置いた後、リィーンは眉をしかめて棒をテーブルの上に戻した。
「分かりました。早速依頼を出しましょう」

「みんな依頼よ。内容は害獣討伐。相手は変異した白いモグラ二匹と、その配下モグラが多数。人的被害は出ていないけど、周辺の植物の被害が酷いわ、このままでは農業で成り立ってる村の存亡に関わる。手早く変異した白いモグラを討ってちょうだい」
 白モグラの知能はやや高く、配下モグラを組織立って行動させている。だが所詮は白モグラに集められ従っているだけの普通のモグラだ。指揮官たる白モグラを討てば、元の生息地に戻る。
「どうぞお願いします。お礼に、村で取れた野菜を使った鍋も振舞いますので」
 モグラが生息するのは、その土壌が良質な証拠でもある。野菜もさぞ美味しいだろう。
 依頼人の男性が深々と頭を下げた。

マスターからのコメントを見る

参加者
界廻る選定の志・エルス(a01321)
業の刻印・ヴァイス(a06493)
白色のココロ・アリサ(a12096)
香る椿に口付けを・フェレク(a15683)
天界咲華・ミカエル(a16768)
返事がない・アンスヘルム(a17961)
緑風奏でし碧眼の守護櫻花・ミスティー(a18740)
不規則な秒針・レジィ(a18984)


<リプレイ>

●穴だらけの村
「……あらぁ?」
 碧衣の聖魔導師・ミスティー(a18740)は突如呟くと、同時にピョンと横に飛びのいた。
「ん、どした?……のぁ!?」
 その様子を不思議そうに見た不殺の剣士・エルス(a01321)。いきなり足元が抜け、片足が膝まではまってしまった。
「あ、大丈夫ですか?」
 慌てて刀剣使い・アンスヘルム(a17961)が手を貸し、足を引抜く。
「ビックリしたぁ……」
「盛り上がった土がこちらに来たので、避けたんですよぉ。大丈夫ですかぁ?」
 目を大きく開いて呟くエルス。ミスティーはのんびりとエルスの問いに答えた。

「これは、予想以上だな」
 周囲を見回し、業の刻印・ヴァイス(a06493)が呟いた。
 農村にとっての土竜被害は馬鹿にならない、それが組織立って行動するとなれば、一寸きつい戦いなるとも覚悟していたのだが……。
 戦場となるであろう村の中は穴や、盛り上がった土がアチラコチラに見え、平坦な場所の方が少ないという有様だ。
 モグラ達が常時使用しているトンネルを探りたかったが、この状況ではそれも難しそうだった。
「後で土を均して差し上げないと、村の方々も困るでしょうね……」
 元からそのつもりではあったのだが、あんまりな状況に不思議の探求者・アリサ(a12096)が呟くと、他の冒険者も頷き同意した。

「さて……今回はそれほど厄介ではないけれど、難しい依頼みたいだね」
 村の様子を垣間見て、銀嶺の精霊王・ミカエル(a16768)は思わず呟いた。
 今、冒険者達は村長の家にいる。しっかりとした土台を持つ家は、土竜の被害にあうことの無い、この村の数少ない安全地帯となっていた。
「とにかく準備だ。鎧を着ている奴はこれを隙間に差し込め。少しは音を消せるだろう」
 そう言って、ヴァイスが布を取り出す。更には匂いを誤魔化す為の草汁と、なにやらモゾモゾと動く麻袋。
「それは?」
「蛙とか、虫の幼虫とか……モグラの餌だな」
 アンスヘルムの問いに、ヴァイスは平然と答えた。
「用意されてたんですか、ではそれをオレの『土塊の下僕』の持たせましょう」
「ああ、自由に使ってくれ」
 肩書きだけの冒険者・レジィ(a18984)の提案に頷き、ヴァイスは麻袋を放ってよこした。
 本当は村人に頼んで餌を調達しようとしていたレジィだが、あるならそれで手間は省ける。最も、この村周辺の幼虫、ミミズの類はとっくにモグラに食い尽くされた後。村人に用意するのは無理だったのだが。
「あと籠と……子供サイズの服を二人分、貸してもらえますか?」
 村人が頷き、奥の部屋に引っ込む。
「あぁ、退治の最中はあんまり動かないで、家の中にいてね」
 椿を護る白銀の風・フェレク(a15683)の言葉に、村人達はコクコク頷いた。
「そういえば、被害はどんな感じですかぁ?」
「今は冬ですし、元から畑にはそれほど……。ただ、このままでは種植えの時期に影響が」
「そんな話を聞いたら、村の人達や植物などの為にも、頑張らなきゃいけませんねぇ」
 ミスティーの質問に答えるも、悲痛な面持ちで俯く村人。ミスティーはあえておどけた口調で笑って見せるのだった。

「さてと……準備はこんなものか?」
 ヴァイスが一同を見渡し、確認をとる。
「はい」
 レジィが答え、冒険者達は立ち上がった。
「さて、いきますか!」
「村の作物を荒らすなんて許せません! 悪い動物にはおしおきですよ!」
 意気揚々とフェレクが、決意も新たにアリサが扉へと向かう。
「大丈夫じゃろうか?」
 不安そうにしている村長に、ミカエルはニッコリと諭すように言った。
「大丈夫ですよ。白モグラは必ず仕留めますから」
――例え、自分達が傷ついても
 口には出さないが、そう決意して。
 その言葉に村長、そして集まってきた村人達は少なからず安心した。

●土竜打ち
 冒険者達は一旦村の外へと出た。どうやら村全体が土竜のテリトリーになっていると判断したからだ。
「さて……皆、行くよ?」
 ミカエルの言葉を合図に、作戦は始まった。

「この籠を持って、この服を着て、あそこに向かって歩く。白いモグラが出たら、ゆっくり戻る。いいね?」
 レジィは呼び出した土塊の下僕二体に、手早く指示を出すと村人に借りた服を着せ、モグラの餌を入れた籠を持たせ、村の中心に向かって歩かせた。
「さて、風上を取ってみましたが、どれだけ効果がありますかね」
 下僕の背を見送りながら、アンスヘルムは呟く。
 嗅覚と、聴覚が優れるというモグラに対する為、様々な策を練ったのだ。少しでも効果があると望みたい所だが……。
「……来る!」
 ミスティーが呟き、冒険者達が下僕を改めて凝視した。下僕の横手、土が盛り上がり迫って行っているのが分かる。
「お、動いてる、動いてる♪」
 小声で楽しそうに言うフェレク。が、次の瞬間、突如開いた穴に下僕の半身が埋まった。あれでは逃げられない! もがく下僕は、突然土に戻った。
 籠が落ち、幼虫や蛙が散乱。モグラは地中からソレを捕まえようと蠢く。
「行くぞ!」
 ヴァイスが前に出た。アンスヘルム、レジィ、フェレク、エルスが続く!
「皆、頑張ってねぇん♪」
 呑気に声援の声をかけるミスティー。無論、回復アビリティの準備は出来ている。
「アリサさん、お願いします」
 ミカエルが自分の身長以上の白き長弓を構え、傍らのアリサに声をかける。アリサは小さく頷くとディバインチャージを発動した。
 長弓が姿を複雑に変え、白い輝きを纏う。
 ミカエル自身は、紅く透き通った矢を生み出し、弓に番え放つ。矢は紅い軌跡を残しつつ、土塊の下僕がはまった落とし穴へと突き立ち、爆発を起こした!
 途端、土砂が吹き飛ぶ。モグラにより地面が緩くなっていた影響だ。
 十数匹のモグラと、白い一匹のモグラが宙を舞った。
 ソレを確認したヴァイスの飛燕連撃が白モグラを激しく打つ。 更にフェレクが接近し、電刃衝の一撃を叩き込んだ。
 致命傷にも、麻痺にも至らなかったが、重症を負った白モグラは慌ててトンネル内に逃げようとする。が、レジィが新たに召喚していた土塊の下僕が、その入り口を塞いだ。
 白モグラはその爪を大きく振るう。その一撃で下僕は土に戻ったが、その隙が命取りだった。
 すとっ、と小さな音を立てて白モグラの影に矢が突き刺さる。身動きが取れなくなった白モグラ。その命運は尽きたも同然。
「悪いな、だがこれも村のため、悪く思うなよっ!」
 再び、フェレクの斧が雷光を纏った。

 アンスヘルムが発動した眠りの歌は、所詮ただのモグラに過ぎない配下には抜群の効果を見せた。地面の下が静かになる。しかし、配下モグラの数は多い。効果範囲から逃れたモグラの為、アンスヘルムは歌い続けた。
「当ったるっかな〜?」
 少し楽しげに、エルスはモグラの相手をしていた。
 落とし穴はモグラの動きをよく見れば見切れない事はない。時折、顔を出すモグラは峰打ちで無力化していった。
 ふと、白モグラの方を見れば、ミカエルの影縫いの矢が突き立った所。これでアチラは終わったと、エルスがミカエル達の方を見る。そして、盛り上がる土がミカエル達に向かっているのを見た。
「そりゃマズイって! ミカエル!」

「はい?」
 エルスの声に反応して、彼はやっと迫ってくるものに気付いた。
 ミカエルとミスティーは即座に反応することが出来た、だがアリサは僅かに反応が遅れてしまう。
「きゃっ!」
 足元に穴が開き、右足がはまってしまった。抜けようと動くアリサに目に、白いモノが映る。暗いトンネルから姿を表したのは、鋭い爪を持った大きな白いモグラだ。
「大丈夫ですか!」
 駆けつけたアンスヘルムがアリサの手を取り強引に穴から引抜く。白モグラは穴から飛び出て追いすがり、アリサ目掛けて爪を振り下ろした!
「させるかって!」
 その爪は、間一髪アリサと白モグラの間に滑り込んだエルスを引き裂く。
 ガードは間に合ったものの、想像以上のダメージにエルスは思わず顔をしかめた。
「誰も……誰も死なせないよ!」
 すかさずミスティーが魔力を解放し、癒しの波動を放つ。エルスの傷は見る間に塞がった。
「!? ……させん!」
 白モグラを屠り、背後の騒動に気付いたヴァイスが放つ飛燕連撃が新たな白モグラを切り裂く、「ヂュィ!」と妙な悲鳴を上げる白モグラ。
「この!」
 立ち直ったエルスのスピードラッシュが放たれ、レジィの剛鬼投げが決まる。次いでアンスヘルムが止めを刺すべく白モグラへ駆け寄った。
「これで、終わらせてください!」
 アリサのディバインチャージが再び発動し、アンスヘルムの太刀の形状を変える。
 残像を残すスピードで駆け、神々しき姿を持った太刀を振り下ろし、白モグラの命運を断ち切った。

 指揮官たる白モグラが敗れ、配下のモグラは混乱していた。
 どうするべきなのか? どうすればいいのか? っと、突然爆発音と共に地面が振動する。数匹のモグラが土と共に地上に放り出された。
「邪魔ですから、退いてくださいね? それとも死にたいですか?」
 ナパームアローを放った姿勢のまま、ミカエルはニッコリと笑い言い放つ。
 言葉は通じなくとも、その冷たい殺意を感じたモグラは、やっと自身がなすべき事に気付いた。それすなわち「逃走」。
 数分のうちに、集まっていたモグラは散り散りに去っていったのだった。

●鍋料理 in 穴埋めた村
「終わり、だね。ご苦労様、皆さん」
 ミカエルが清々しい笑顔を浮かべ、へたり込んでいる冒険者達に労いの言葉をかけた。
「お疲れ様です……正直、土竜退治より、ならし作業の方が疲れましたよ」
 レジィが苦笑しながら答えた。
 土竜退治を終えた冒険者達は、アリサの提案のもと村の地面をならす作業をかって出たのだった。おかげで日は暮れ、夜の帳が落ちかけている。
 ちなみに提案者のアリサはならし作業が終わった後、鍋料理の手伝いに行ってしまっている。よく働く女性だった。
「そういえば、ヴァイスとエルスさんはどうしたんでしょ〜?」
 ふと、人数が足りない事に気付いたミスティーの問いに、フェレクがダルそうに答える。
「ん〜? ヴァイスさんは、麻袋担いでどっか行ったぜ〜。エルスは鍋の手伝い。『ま、期待して待っててくださいよ〜っと♪』って言ってたぞ。……それより早く、鍋食いたい」
 大袈裟にぐったりするフェレク。そこにアリサの声が聞こえて来た。
「皆さ〜ん! 出来ましたよ〜!」

「うわ、美味そうだ〜♪ 頂きます!!」
 家に招き入れられたフェレクは、早速鍋に飛びついた。
「ん、美味いよ〜♪ 幸せだ〜♪」
「だろ〜、伊達に食いしん坊やってないぜ。自分で上手いモン作る為に頑張ったからな!」
 エルスはそんなフェレクの様子を嬉しそうに見ながら、自身も鍋をガツガツ食らう。
 多めに作った筈なのに、かなりの勢いで鍋は減っていった。
「美味ひい物ふぁらいふらへも……んっ……入っちゃう♪ お代わりぃ!」
「口に物入れて喋っちゃ駄目ですよ」
 ミスティーも、その小柄な体の何処にそんなに入るのかという勢いで、鍋をパクつく。アリサは苦笑しながら代わりをよそい、ミスティーに渡した。

「どうも、ご苦労様でした。ならし作業までして頂いて……」
「いいえ、如何なる物でも依頼である以上全力をだすものです。それに、皆無事だったんですからそれで良いじゃないですか」
 村長の礼に、ミカエルは微笑んで答える。
「依頼は土竜退治だけでしたけど、私達冒険者には、それ以前に皆さんの笑顔を守る使命がありますもの。当然ですよ」
 アリサもこちらを向き、微笑む。
「冒険者の使命……か」
 そんな二人を、レジィは交互に見つめ呟いた。

 盛り上がってきた鍋パーティーに、賑やかな事が少々苦手なアンスヘルムはこっそりと抜け出した。
 と、暗がりに動く影を見つけ、背後から声を掛ける。
「お疲れ様です、ヴァイスさん」
「ん……あぁ。お疲れ」
 ヴァイスは土に汚れた手を叩きながら、立ち上がった。
 彼の足元にあるのは、アリサが作った土竜の墓。そこにコンモリと、新たな山が出来ていた。
「何匹ですか?」
「十数匹。恨みは無いが、仕方あるまい」
 戦闘後、全てのモグラが去ったかと言えばそうではない。ヴァイスはならし作業の中、見つけたモグラを捕らえていた。
 そして作業が終わった後、女子供に見せられないと、一人村を離れて処理したのだ。
「さて、俺もご相伴に与ろう」
 肩を竦め、明かりの漏れる家へと入っていくヴァイス。
「あ、お疲れ様〜♪」
 明るいフェレクの声が外まで響く。
 アンスヘルムは小さく笑い、暫し星空を眺めるのだった。


マスター:皇弾 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:8人
作成日:2005/01/14
得票数:冒険活劇1  戦闘2  ほのぼの9 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。