<リプレイ>
●ポニポニする子達 ここはさいはて山脈が見えるかな〜と言う場所。 周りではなぁ〜んなぁ〜んとアレの声がする。 「アレを食する巨大ネコ……もしそれが真実なら、シュールだな」 双剣士・アールシュケル(a00718)の呟くような一言は、若さに似合わない年齢を感じさせる。 「猫の中にはトカゲやイモリを好んで食する嗜好を持った連中がいる。今回の巨大猫がノソリンを餌として見ているのか?」 アーシュケルが思考を纏めるために口に出してみても、なかなかそれは綺麗に整理されてこない。 「さぁ? それはどっかな〜?」 「それとも、ただ単に面白そうな生き物として見ているのか?」 それなら判るがと、時折街で見かけるネコを思い出す。 「う〜ん、それも問題だにゅ」 「どちらかによって取るべき対応手段も変わってくるな……で、さっきからどうしたんだ3人揃って?」 「にゃ?」 アーシュケルのお腹の辺り。 お転婆医術士・チコリ(a00849)、時を彷徨いし深窓ノ妹姫・イヴ(a13724)、 ヒトの吟遊詩人・エリエール(a90116)の3人がにゃごにゃごとネコについて相談していた。何しろこの3人、アーシュケルの視界には入ってこないので、声だけが先程から聞こえていると言った感じだ。 「んと……猫さんをいじめるのは嫌だけど……悪いことするなら……イヴ、メッ……て怒るにゅ!」 「……ああ、いいことだ」 怒ってるぞのポーズなのか、胸の前で二つ、小さな握り拳を作ってみせるイヴの言葉に自分と余りに違う3歳年下の女の子と言う事で、アールシュケルの上半身が揺れるのだが、目眩を感じてばかりはいられない。 「相手は5mの大猫。そろそろ準備をしないといけませんわね」 可愛い猫だと良いのですが……と、呟きながら森に宿りし蒼風・ナーサティルグ(a04210)が拳を固めてふっと思い出したように振り返った。 「エリエールさん、お手伝いお願い出来ますか?」 「うにゃ?」 「エリエールちゃんにもなら、ボクできる〜! ……って、あーエリカより強くなってますぅ。ちょっと悔しいですにゃーショックですにゃー。いいもん、そのうち又抜かすもーんだ、しくしく。いつの間にかエリエールちゃん成長してるしーー!!」 「イヴも、イヴもお仕事するにゅ〜〜!」 ノソリン達に『獣達の歌』で襲われそうな筈なのに全く自覚無しでのんびりなぁんなぁん鳴いているノソリン達に話しかけようというのだ。 出来れば誘導してなるべく目の届く範囲にいれておきたいと言う願いのナーサティルグに、最近失業組の吟遊詩人二人がニャンニャカ言いながら自分がするのだと仕事を求人中だ。 「……3人でかかって頂けるとスムーズかも知れませんわね」 軽く目眩のする二人目、ナーサティルグだが、ここで倒れていては次の仕事にかかれない。 未婚の母親になった気分を味わいながらナーサティルグが3人の吟遊詩人と共にノソリン達をなんなん誘導している間にと、猫達を誘き寄せる餌を準備しなければとナーサティルグの向いた先では、紅き紋章を描きし乙女・ショコラ(a02448)がいそいそと自分の身体くらいの大きさの『何か』を焼いていた。 「猫と言えば〜♪ コタツで丸くな〜る♪ ………って、巨大猫が入れるコタツってどんなのでしょうか?」 普通、焼き物をしながらよそ見をすると焦げてしまうのですが、ショコラが焼いているのはそこんじょそこらにあるナマモノとは桁違い。 「う〜ん、ダメですねぇ。普通の焚き火でも、キャンプファイヤー並みの焚き火でも……」 「……あのさ、ショコラ、それって……」 破滅の獣・レビナス(a17801)がショコラの焼いている『ナマモノ』を指さして一応聞いてみる。 「はい?」 『土塊の下僕』も召喚して、猫用の囮に鰹を焼いていたショコラの手が止まる。 「ちょっと強引ですけどなんとか引っかかってくれます……よね?」 「いや、ちょっと強引とかそう言う問題じゃなくって……何処から?」 ああ、好奇心がレビナスに禁断の質問を唱えさせました。 「乙女の秘密です」 ・ ・ ・ 「そうだったのか」 納得いったという声の色なのは、アールシュケルだ。この世の万物の法則全てを超越した『乙女の秘密』の前に、レビナスは自分の質問が以下に無力化を痛切に感じ、膝を屈していった。 「ところで、早く消えないとチカンさんですよ?」 「あらあら、コノハさんたら」 「わーいピンクピンク〜〜」 ショコラに言われて、ナーサティルグやエリカがはやし立てている方角に目をやると…… 「う゛……」 非常に気まずいものがあった。 ノソリン小屋の一棟に、大地に堕とされた迷子の女神・コノハ(a17298)がいそいそと服を脱いでいる姿があったのだ。 「あら…本当に美味しそうですわね、猫たちにあげてしまうのはもったいないですわね……なんてね」 間が恐いのだが、ナーサティルグの目はかなり本気で、そして優しくコノハを見ている。 「流石は、メインディッシュさんですね」 「と、言う訳だが?」 「あ〜いやいや。俺はただコノハさんを囮にするんだけど……。少し心配だったからな? それだけだぞ。いきなり襲い掛かってきたりしたら……」
じー。
女性陣の視線が痛い。
「席外すから、さ」 とぼとぼと、歩き始めたレビナスの背中に、元気割り増しのコノハの歌が聞こえてくる。 「なぁ〜ん! ネコさん達の〜魔の〜手から〜ノソリン達を守るなぁ〜ん♪ 大丈夫なぁ〜ん、ボク達に任せるなぁ〜ん♪ 今回は囮ー捜査なぁ〜ん♪」 何だか普通に話している風な歌だが、コノハは本気だ。 「ボクがノソリンに変身して、ネコさんを誘惑するなぁ〜ん♪」 本気で誘惑の準備なのか、ダンスを踊り始めたコノハはとっても嬉し恥ずかしそうに見えるのは……たぶんみんなの気持ちが一致しているからだろう。
●ねこーーーーーーーーーーーーーーー!(某お転婆医術士の叫び) 「来たようだ。頼むぞコノハ」 「なぁ〜ん」 聞こえているのか、元コノハなノソリンがなんなん鳴きながら平原を歩き出す。 それを手に汗握りながら、取り敢えず柑橘類の果汁の入った壷を猫数分用意しておいたアールシュケルは万が一に備えて物陰から何時でも飛び出せるように外の様子を窺っている。 「はあぁ〜〜大きな猫ぉ〜〜〜(はぁと)♪ やっぱり、肉球も大きいのよね。楽しみ〜♪」 「……チコリ?」 戻って来て下さいませとナーサティルグに肩を掴まれて、赤い髪の少女は失っていた自我を取り戻す。 「‥‥え、依頼? ナニそれ‥‥‥も、勿論覚えてるわよ。あったり前じゃない!!」 慌てて握り拳をぐっと作ってみるのだが、その手には先程コノハに塗りつけていたマタタビがぎゅっと握り締められていて、余り格好は付かない。 「ちゃんっと、死して屍拾うものなくても、依頼はいかにしても果たすの!」 「それじゃ〜イヴ、猫さんに聞くね〜〜」 「まだまだ。この鰹をかじって油断した所に……」 うっとりと、ショコラの瞳が揺れる。 『拳で語る』を使って、猫と対話を試みる自分を思い描く。 「わたし達が遊んであげますからノソリンを恐がらせちゃダメですよ!」 『にゃ〜わかったにゃ〜』 非常に牧歌的だ。 「いや、それを含めてもだ……連中に通用するかは謎だがね」 一人、自分が真剣に考えているのはもしかして非常にツッコミ所満載なのかとアールシュケルは自問自答してしまう。 「じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜うにゃ」 「ぢ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ふぁ〜あ」 巨大猫を睨み付けて、以前見た巨大猫と似てはしないかと懸命なエリカだが、見つめすぎてしまった為に猫の虜。 真似て睨めっこしていたエリエールに至っては睨み付けるのに飽きて生あくびをこぼしている始末だ。 「おまえら……」 アールシュケルも呆れるのだが、それは彼女達の目の前で起きている牧歌的……いや、もうそう言う範疇を越えている巨大猫と(ヒト)ノソリンのじゃれつく姿で辺りは既に戦闘という張りつめた空気が存在出来ない空間になっていた。 「で、向こうの要求は? 今は遊んでいるだけにしか見えないけど……」 レビナスが嬉しそうに鳴いているコノハを、それでも心配しながら訪ねるとイヴが一歩前に出て歌を歌い出す。 『猫さん……猫さん…・・何がしたいの〜?』 『にゃ〜? まるまるぺたぺた。まるまるぺたぺた、きもちいいにゃ〜〜』 聞いたままを、イヴが訳するより早くにナーサティルグの全身から力が抜けた。 「……いけませんわね。ここは、年長者である私がしっかりしないと……」 決意も新たに一歩前に出るナーサティルグだが、その横には真実の年長者であるショコラが今にも語りかける為に肉球アタックを敢行しているところだった。 「そもそも…貴方達のような体の持ち主にはランドアースでは狭すぎるのです……ワイルドファイア大陸に行けば貴方達にあった食材が転がっているはずで……あの、ショコラ様?!」 素早く、そして軽やかに駆けだしたショコラの拳が唸り、巨大猫の脚部に叩き込まれる。
にょふっつ。
「……」
ぶみっつ。ぽみっつ。むちっつ。むにゅ〜う。 『わたし達が!遊んであげますから! ノソリンを! 恐がらせちゃダメですよ〜!』 連打、連打、連打、連打。 『にゃ、そこ、いい、きもちにゃ〜!』
完全に極まっている彼女の拳は、全くと言っていい程に相手にダメージは与えていない。むしろ、蚤取りが出来ているような気配までするのは抜群に秘密だ。 「喜んでますぅ〜〜」 「君らもな……」 無条件に、にゃんだかとっても気持ちよさそうな巨大猫の声に喜んでいるのはエリカとイヴくらいのものだが、喜びは伝播するものらしい。 「……肉球、触ってもいい?」 瞳を輝かせながら、一歩前に出るチコリの直ぐ身体の下に、テーブル宜しく『にくきう』が差し出される。 「う〜〜〜」 ふにっつ。 押し込んだ。 ふるふるふるふる……ふにゅ。 押さえていたのが、段々力が弱くなって……押し戻される。 「きゃ〜〜〜〜〜〜〜! にくきう! にくきうよ! ねぇねぇイヴ、エリエール、天然よ! もうふあふあの、もほもほの。ぷにんぷにんの、に・く・き・う!」 うっとりと、押し込んだ瞬間を反芻して、天にも昇る心地よさを愉しむチコリに、我先にと少女達が巨大猫の『にくきう』を触る為に周りを囲んでしまう。 「ああ、遊んでる遊んでる……」 寒いのに元気だなと、自分の装備は横に置いて巨大猫と戯れる少女達を見て凄いなと呟くアールシュケル。 「「ああ、遊ばれてる、遊ばれてる……」 「なぁ〜ん? なぁ〜ん!」 のたのたのた。ごろんごろんごろん。 毛糸の玉を転がす猫よろしく、ノソリン姿のヒトノソリン、コノハが巨大猫に弄ばれている。 「危害は加えないのなら……いや、これでも充分に問題があるな……」 どうしたものかと悩むアールシュケルに、ナーサティルグはワイルドファイア行きを勧めてくる。 「行けるかどうかについては当方責任もてませんけれど、こういう巨大生物はあっちの大陸から流れてきてるのでは?」 「肉球……ぷにぷに……良いにゃ……♪」 チコリに続いて『にくきう』の虜になっているイヴ。彼女だけではない。ノンビリした巨大生命猫に、レビナスまでもが誘われてしまっていた。 「……この、感触……抗いがたい……」 お日様ポカポカ良い天気。それに膨らんだ猫の毛の中に、レビナスの身体と意識が吸い込まれていく。 天然100%の毛皮には、冒険者といえども抵抗するには必殺の一撃をかわしきる必要があった。 それに抗する事の出来ない彼女達には、既に巨大猫を誘導してやるくらいにしか出来る事はなかった。 「さぁ! 目指すは巨大なナマモノドラゴンズゲートですわ!」 ピッシと、ナーサティルグが指さす先に、確かに海上に浮かんでいるそこを抜ける事が出来るかどうかなど、今の彼女達には知る由もない。 「……ヴォルガノンに続いてマリンキングボスにまでネコネコ様が……」 だが、それが最善にして、最も危険の少ない方法だ。見送るしかない巨大猫を、万感の想いを馳せながら見つめている。8人の冒険者達は背中だけになって小さくなってゆく背に名残を惜しむのだった。
【おしまい】

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参加者:8人
作成日:2005/01/25
得票数:ほのぼの16
コメディ10
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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