【尻尾で愉快な仲間たち】盗賊団が盗難被害



<オープニング>


 いたって平和で活気に溢れた町。そこに、自称盗賊団の一員である彼らはいた。
「あら、そっちも終わってたの?」
「えぇ、丁度いい時間でしたので、お迎えに上がりましたよ」
「優しいのねぇ、シリンは」
 冗談めかして笑いながら、ソフィは佇むシリンに並ぼうとした。
 と。
「おっと、ごめんよ」
 とん、と軽い音を立てて、シリンと肩をぶつけた男。
 すれ違ったその男を、ソフィは一瞬目で追ってから、シリンに並ぶが……。
「……どうしたの、シリン」
 彼は、胸元に手を宛がい、そこに視線を落としていた。
「………やられました」
 にこりと、微笑んで。シリンは今し方別れたばかりでもう姿の見えない男の残像を、睨みつけた。
「あなたは戻っていてください。すぐに、戻りますから」
 告げて、シリンは男の後を追うように、その場を去るのであった。

「と、いうわけ。ぼんやりしてるから、シリン、大切にしてるものスられちゃったのよ。で、シリンのこと、追っかけて手伝ってあげてくんないかな、って」
 ため息をついて、ついでに猫の尻尾も項垂れさせて、ソフィはそう言った。
 それを受け、霊査士リゼルはふと、小首を傾げる。
「経緯は何となくわかったけど、一つだけいいですか?」
「いいわよ」
「大切にしてるものって、何ですか?」
 尋ねたリゼルの言葉に、ソフィは、小さく苦笑した。
「それが知らないのよ。シリンが大事にしてるものがあるっていうのは知ってるの。でも、何かは知らないのよねー。、仲間内ではそれが何かは聞かないことにしてるっていうのも原因だけど」
 再びため息をついて、椅子にかけなおすソフィ。どこか、残念そうにも見える表情だ。
「ホントはあたしが行きたいんだけどね、あたし達には見せたくないものかもしれないじゃない? 行くわけには行かないのよ。だから、お願い。あたしの変わりにシリンのこと手伝ってあげて」
 リゼルの手を握りしめ、ソフィは真剣な目で訴えてくる。
 それを、見据えて。リゼルは一つ、頷いた。

 それから後。
 リゼルの霊査によってスリの男が数名の仲間とともに付近の空家を根城にしていることと、シリンが現在その空家付近にて機会を伺っているらしいことが判り。
「あ、言い忘れてたけど、今回のことセインには絶対内緒でお願い。仕事の帰りだったから、ばれちゃったら困るのよ」
 ソフィの言葉によって、新たな注意事項が加わるので、あった。

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参加者
銀星の射撃手・ユイ(a00086)
おきらく女剣士・サトミ(a00434)
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
しっぽ自慢の・リコ(a01735)
緑珠の占花・ココ(a04062)
青嵐の歌人・レイディア(a05847)
茜空の舞剣・エンジュ(a15104)
渡り鳥・ヨアフ(a17868)


<リプレイ>

 見上げれば空。見下ろせば小屋。覗き込めば、品のなさそうな顔。
 ちょっとした怒りによる偏見を多大に含んだ物見だが、そんな気分で、シリンはため息をついていた。
「中の様子はどう?」
「どうといわれましても、ちょっと人数が多いですかねぇ、ぐらいですか」
 間。
 普通に忍び寄って話し掛けてきたおきらく女剣士・サトミ(a00434)に、普通に答えるシリン。
 そうしてから、驚いたように彼女を見やるのであった。
「サトミさん……どうして、ここに……?」
「ソフィさんに頼まれて、シリンさんのこと手伝いに来たの。宜しくね?」
 知った顔が突然現れたことに驚いているらしいシリンに、やっぱり普通に笑うサトミの背後から。今度は、知らない顔が。
「霊査によるとあなた大切なものを盗られましたね。女性の大切なものを奪うなんて許せないわ」
 上級職霊査忍び・リコ(a01735)である。霊査と断言する彼女の言葉を反芻し、ちょっぴり複雑そうな顔をしたが、あえて何も言わず、シリンは了承だけを、返した。
 すると、ひょこり、これまた知った顔が、覗いた。
 想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)と、銀星の射撃手・ユイ(a00086)だった。
「シリンさんも出来れば人にご自分でケリをつけたかったでしょうけど……」
「悪いコトする人達はちゃんと捕まえなきゃね。だから、僕達の出番でもあるんだよ〜」
 ラジスラヴァの言葉を継ぎ、意気込み露に告げれば、シリンは、くすくすと笑ってユイを見る。
「私も、悪いコトをする人ですよ?」
 出てきたのは、自嘲を含んだ皮肉。
 けれど、ユイはきょとんとしてから、むぅ、と唸って、
「シリンさん達はいい人達だからいいの」
 告げるのは、説得力皆無の言い分。
 だが、それも、ユイなりの信頼と人の良さがあるからこそ、言える台詞。
「スリさん達はまかせて〜♪」
 笑うユイに、シリンは笑みだけを返していた。

「ふ〜ん、自称ドロボウなぁん? 泥棒らしくない泥棒なぁ〜ん」
 突入から奪還までの作戦を確認し直していた、最中。風渡りの・エンジュ(a15104)は、どこか訝しげな目で、シリンを見て言った。
「確かに、盗品を全て返している、と言うのも物好きなことだよね」
 渡り鳥・ヨアフ(a17868)もまた、観察するような目でシリンを見ている。
 故郷の集落を脅かす盗賊を敵視しているエンジュや、最近すりに会ったばかりで憤慨しているヨアフにとっては、まぁ、自称で風変わりとはいえ、『盗賊』という存在に完全に肯定的にはなれない。
 シリンという存在を完全に否定することも、無論、しないが。
 自覚も理解もしているようで、シリンは二人の目を見て軽く肩を竦めるだけ。
「盗賊をしているのには……理由が、ありますから。ですよね」
 弁明の一つさえ仕様としないシリンに変わり、青嵐の歌人・レイディア(a05847)は苦笑しながら、こっそりとシリンに耳打ちする。
「宜しければシリンさんからサヤ君に「申し訳ありません」と伝えてくださいませんか?」
 自分の不用意な言葉で不愉快な思いをさせてしまっただろう、彼に。
 けれど、シリンはやっぱり肩を竦めて、苦笑する。
「……あなたが望むのなら。ですが、サヤは気にしていませんでしたよ?」
 そんな、ささやかなやり取りをいくらか交わした後。
「シリンさんの大切なもの、壊しちゃうといけないから、形だけでも教えて欲しいなぁ〜」
 ふと沸いた問い。やっぱり気になる「宝物」の正体を、サトミはさり気なく、尋ねてみた。
 が、シリンは苦笑を零すばかりで、口を開こうとは、しない。やっぱり、教えてはくれないようだ。
「……どうしても仰ることが出来ないというなら、無理にとは言いませんよ」
 しばし流れた沈黙を打ち切るように、緑珠の占花・ココ(a04062)はにこり、首を傾げるように言う。
「心配なさらずとも、私の占いでは、取り返せると出ておりますよ」
 そうして、シリンを見つめ、たおやかな笑みを零すのであった。

「それではまず、私がシャドウロックをかけてきますね」
 なんだかんだで始まりました、奪還作戦。
 リコは待機する冒険者たちから離れ、ハイドインシャドウで小屋に近付くと、正面以外の全ての入口を塞ぐ。
 それを確認すると、次に動いたのはレイディアとヨアフ。
 リコと入れ違うように小屋に忍びより、万一を考えて、窓付近で待機だ。
「それじゃ、僕らも行こうか」
 恋人から貰ったヨーヨーを握り締めると、ユイは突入班である仲間を振り返る。
 頷きを交わして、いざ、突入だ。
 先陣を切ったユイは、影縫いの矢を放ち、目の前のスリ達の動きを縛る。
「な、何だお前等…ッ」
「冒険者か!」
 サトミはスリどもを見据えると、剣を抜いた。彼等に関わってから初めての、戦闘だ。
「正解、よ!」
 幻惑の剣舞が、スリ達の意識を惑わせる。
 逃げようにも、裏口は開かないわ窓にはヨアフの土塊の下僕が群がっているわで、叶わない。
 小屋の中は瞬く間に混乱の坩堝と化した。
「すさまじいですねぇ。帰ったら皆に自慢しちゃいたいですね」
 暢気な感想を漏らしつつ、シリンはさてと彼等に続こうとする。なかなか勇敢というか何というか。
「戦闘中は安全な後にいて欲しいなぁ〜ん」
 そんなシリンの服をくいくいと引っ張るエンジュ。
 けれど、そんな彼女を見据えて。シリンは強気に笑う。
「折角のご厚意はありがたいですけど、本当に壊されることがあっても困りますから」
「あなたが壊れるのも、困ったことですよ」
 言っても聞くまいということは、彼の微笑が語っているが、故に。リコはシリンに君を守ると誓うを展開させておく。
「お怪我をなさった際はおまかせくださいね」
 癒しの準備を万全にしながら、ココもまた送り出す。
「シリンさん」
 最後に。突入しようとするシリンを呼び止めたラジスラヴァ。
 振り返れば、首を傾げた彼女と目が合う。
「もしかして、シリンさんの宝物って盗賊団の皆さんが盗賊団を始めるきっかけに何か関係あるんじゃないですか? もし差し障りがなかったら、盗賊団を始める理由を教えて戴けませんか?」
 問いかけに、シリンは逡巡するような表情を見せ、
「サヤから、聞いたはずです。私の大切にしているものは、盗賊を始める理由にはなりえませんよ」
 苦笑じみた笑いを零すのであった。
 いざ小屋へ入ってみると。冒険者の一方的ながさ入れ状態であった。
 生で見る冒険者の戦いは、やはり、一般人にとっては結構すさまじいのである。
 こそこそと奥に無造作に詰まれた盗品の山へ向かう最中にも、下手をすれば巻き添えを食ってしまいそうな気も、するほど。
 最終的には、レイディアの眠りの歌で一網打尽にしてしまったのだが、思わず、拍手を送りたくなってしまったシリンだったそうな。

 ぐるぐる、ぎゅ。
 眠ったスリ一味をロープで巻いて、縛り。そんな作業が、地味に繰り返されている。
 がさがさ、がた。
 整理する気も無かったらしい物品の山を、少しずつ漁る作業が、やっぱり地味に繰り返されている。
「全く……迷惑極まりないね……」
 のびたスリ達の額に怒りと嫌悪を込めて、「私はスリです」と書き殴るヨアフの傍ら。エンジュはスられた物の山をぐるりと見渡す。
「これはスリたちと一緒に役場に届ければいいかなぁ〜ん?」
「その辺りが無難、でしょうね」
 同じようにしながら、リコはチラリ、半ばガラクタの山となったそこを漁っているシリンを見る。
「……あった……」
 きゅっ、と握り締めて、シリンはそれを、元の、懐の中に収める。
 背中に隠されて見えなかったそれの正体がやっぱり気になって。
 ユイはそっとシリンに歩み寄ると、じぃっと見ながら、見せてはくれまいかと尋ねてみる。
「絶対ナイショにするからッ! 」
 ふと見れば、サトミも傍らで教えて〜と視線で訴えてきている。
「ダメ、とは言いませんけど……今更出すのも、恥ずかしいものでして……」
 頬を掻きながら苦笑するシリンを一瞥だけすると、ココはこっそり、それが何かを占ってみた。
「……固くて、温かくて、さり気ない……」
 ぽつ、ぽつと、独り言のように呟くのを、シリンはそっと振り返る。
 顔を上げたココは、そんなシリンと、視線を合わせて。
「形以上の、もの……」
 最後に、そう、告げた。
 一瞬だけ黙したシリンは、サトミと、ユイと、それから、ココを見つめて。
「貴方の占いはよく当りますね」
 にこりと、微笑む。
「占いのお礼に、一言だけ。答えは、ただのロケットペンダントです」
 けれどやっぱり、
「中身は内緒ですけど。恥ずかしいですから、ね」
 くすくすと、謎を残すのであった。


マスター:聖京 紹介ページ
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