父、帰る



<オープニング>


 霊査士のリゼルが、冒険者達に一人の少女を紹介した。
 年の頃は10歳くらいだろうか、少女は涙をぼろぼろ流しながら語り始めた。
「あたしの名前はシュリアって言います。あたしのパパの……ぐすっ……パパの亡き骸を取り返してきて欲しいの」
 シュリアの言葉の意味がわからず、顔を見合わせる冒険者たちに、リゼルが沈痛な表情で、シュリアのかわりに続けた。
「シュリアのお父様は、小さな鉱山の責任者だったんです。数日前にその鉱山で落盤事故が起き、シュリアのお父様は坑夫たちを助けようとして、生き埋めになってしまったの」
 リゼルがちらりと視線を落した。リゼルの手には、シュリアの父親のものとおぼしき割れた眼鏡が握られている。霊査した結果を一同に語った。
「シュリアのお父様は、残念ながら既に亡くなってるわ。その遺体は鉱山の坑道の奥にあり、坑道を支えていた柱と柱の間に挟まれています。遺体のある坑道の落盤現場までは、落盤した坑道とは別のルートで行くことが出来るわ。ただし」
 リゼルは眼鏡を指で押し上げた。
「坑道の中に怪物がいるんです。逃げ出した坑夫の話では、巨大なミミズのような生き物だそうです。今回の落盤事故は、その怪物が坑道の天井を破って突然現れたことが原因で起きたみたいね」
「その怪物ってかなりでかい……のか?」
 冒険者の一人の問いに、リゼルが頷く。
「怪物に襲われた人の話だと、全長は分からないけど、胴回りは3メートルをゆうに越えているみたい。毒などは持っていないようです」
 リゼルが眉間にしわを寄せる。
「はっきり分からないけど、遺体の近くに何かいる気配があるのは確かです」
 シュリアは、真っ赤になった瞳で冒険者を見た。
「パパの亡き骸を取り戻したら、あたしもママもちゃんとしたお葬式をしてあげたいの」
「相手は、知性など持たない怪物だとは思いますが、坑道を簡単に破壊するくらいの力があります。決して油断しないで下さい。坑道の地図は、坑夫たちがくれることになっていますが、案内は付きません。貴方達だけで行く必要があります」
 シュリアは深々と一同に頭を下げた。
「みんなが頼りなの。必ずパパを連れて帰ってきて。お願いします」

マスターからのコメントを見る

参加者
紫宝の探求者・リオ(a00005)
楽風の・ニューラ(a00126)
銀灰狐・フィレス(a00710)
青き運命の竜姫・レイン(a00872)
ニュー・ダグラス(a02103)
小狐・アリア(a02136)
レグルスに吹く爽やかな風・キャロル(a02583)
跳ねっ返りエルフの医術士・ミリアム(a03132)


<リプレイ>

 静まり返った坑道に光が差し込み、光の向こうに、冒険者達のシルエットが浮かび上がる。
「思ったよりひどくないみたいですね」
 ストライダーの武人・アリア(a02136)がランタンをかざすと、坑道一杯に明かりが広がり、アリアの金色スプーンのロザリオがランタンの光で鈍く光った。
「もっとひどいかと思ったがな」
 アリアの隣で、ストライダーの重騎士・フィレス(a00710)が頷いた。出立前、地図をくれた坑夫の話では、「地鳴りのような音がして、ミミズの怪物がいきなり天井をぶち破って現れた」という。坑道は、巨大ミミズの出現がいかに突然だったかを伝えるかのように、坑道を掘る道具や手押し車が散乱していたが、坑道そのものは歩くのにほとんど支障がなかった。
「これなら、思ったよりも早く遺体の元にたどり着けそうですね」
 ヒトの吟遊詩人・ニューラ(a00126)は、見送りに来ていたシュリアを思いだした。唇をぐっと噛みしめて頭を下げたシュリアに、必ず遺体を連れて帰ると宣言したばかりだ。
「お、大きい」
 坑道の側面に大きく開かれた穴をのぞき込み、エルフの医術士・ミリアム(a03132)は声を震わせた。直径3メートル近い穴は、坑道の左右側壁にその闇をのぞかせていた。
「心配するこたぁねえ、ミリアム。出てきたら叩きのめすまでよ」
 巨大ミミズを刺激しないようにと、地味な濃灰色の服を身にまとったエルフの紋章術士・ダグラス(a02103)がミリアムの肩を叩く。
「戦闘してるヒマがあるなら、遺体を回収してとっとと帰ろうよ」
 巨大ミミズ対策に匂い消しの入った袋を下げた、ストライダーの翔剣士・キャロル(a02583)が言った。
「遺体はこの先みたいだね。先に進もうよ」
 ランタンの明かりの下で地図に目を凝らしていたエルフの邪竜導士・リオ(a00005)が坑道の奥を指さした。
「……行き……ましょう」
 エルフの紋章術士・レイン(a00872)のせりふに、一同は坑道を進み始めた。巨大ミミズとの戦闘を考え、先頭はフィレスとアリア、次いでレインとリオ、ニューラとミリアムが続き、キャロルとダグラスがしんがりとなって後方を警戒した。巨大ミミズが音で状況を知ると推測したフィレスの提案で、全員が防具の金具に音を立てにくいように細工したり、足元にすべり止めの細工を施していた。
 落盤して行き止まりとなった坑道の前に、倒れた数本の柱が遺体の胸を押しつぶす恰好で、シュリアの父親の遺体はあった。何事もなく遺体にたどり着いたのでフィレスは拍子抜けした。坑道の天井と床には、巨大ミミズの通った穴の跡が残され、ガレキが坑道の半分近くを塞いでいた。柱の何本かはガレキの中に埋まっており、掘出すのは大仕事のようだった。
「……土塊の下僕に……やらせます」
 レインが土塊の下僕を準備し始める横で、アリアとミリアムが遺体に簡単な祈りを捧げた。ニューラがお酒を取りだしたのを見て、キャロルが口をとがらせた。
「ニューラ、お酒は匂いが残るから、お供えを置いていくのはやめた方がいいよ」
「分かっています」
 ニューラは酒で遺体の口をぬぐった。キャロルとフィレスが周囲を警戒する中、土塊の下僕が柱を一本ずつ静かによけ始めた。ダグラスが柱と柱の間にてこをはさみ、アリアが柱を支えた。傍らで、ニューラは坑道の壁に小さな鈴のついた杭を打ち込んだ。巨大ミミズが近づけば、震動で分かるようにである。ミリアムとリオが、遺体をくるむ布と遺体を運ぶ背負子を用意する。
 柱をよけるのはかなりの手間だったが、なんとか一本目の柱が外れた時だった。
 チリン。
 ニューラの鈴が鳴った。真っ先に反応したのはフィレス。キャロルが目を凝らすようにして坑道の奥に赤茶色の瞳を向ける。 
 チリンチリンチリン。
 鈴が不意に激しく鳴り響くと、坑道のはるか奥でズズーンという地鳴りのような音が響いた。びくりとなるミリアム。リオが厳しい視線で地鳴りのした坑道の奥を見て身構えた。ダグラスが慌てて地面に耳を付ける。
「やべぇ。地鳴りだ。巨大ミミズか?」
 もう一度大きな地鳴りが坑道に響き渡った。その音に、土塊の下僕以外の全員が手を止めた。
「……皆さんは……巨大ミミズの……方を。柱は……土塊の下僕に……やらせます」
 レインだけは表情一つ変えなかった。
「作業、急いだ方がいいかも」
 アリアの言葉に、再び作業に戻るダグラス。3度目の地鳴りが響き渡り、坑道の天井から土が降ってきた。遺体に傷をつけないように慎重に作業をするので、どうしても作業が遅れがちだった。遠雷のような地鳴りと震動を伝える鈴の音が坑道に響き、一同の神経をすり減らした。不安そうに天井を見上げるミリアム。しびれを切らしたリオが尋ねる。
「レイン、まだ?」
「リオ……もう少し……です……」
 土塊の下僕が、遺体を押さえていた最後の一本の柱を持ち上げようとしたが、ガレキに埋まって動かない。てこで柱を支えていたダグラスが見かねて柱に自分の身体を押し込む。
「動け、こん畜生が。アリア、手を貸してくれ!」
 それにアリアが加わって下僕と三人がかりで柱を押すが動かない。
「ボクも手伝うよ!」
 キャロルがそれに加わり、心配そうに見ていたミリアムがさらにそれに加わる。ひときわ大きい地鳴りが立て続けに坑道に響き渡り、ついに鈴が杭ごと落ちた。坑道の空気が震え、柱を持ち上げるダグラスたちに天井から土が容赦なく降ってきた。巨大ミミズがすぐそばに来ていることは明白だった。
「奴が近いな」
「いつでもいいよ」
 フィレスの言葉に、ブラックフレイムをいつでも打てるように身構えるリオ。ニューラも、巨大ミミズの姿を見つけたら、すぐに眠りの歌を歌えるように土煙の中に目を凝らした。
「げほっげほっ」
 土煙に咳き込むミリアム。
「……もう少し……もう少し……頑張れ……」
 レインが呟く。柱を押していたアリアは、いきなり手ごたえが軽くなった。
「やった、外れたよ!」
 叫ぶキャロル。
「ぐすぐすするな! 遺体を早く回収しろッ!」
 フィレスが怒鳴った。ダグラスとキャロルが、広げた布の上に遺体を下ろすと、ミリアムとアリアがすばやくそれを包んだ。キャロルが匂い消しを遺体に挟む。だが、ダグラスが遺体を背負子ごと背負い終える頃には、土煙は晴れて地鳴りは止んでいた。
「あれ?」
 リオは、耳を澄ませた。
「遠ざかったみたいですね」
 ニューラは鈴を拾い上げた。
「長居は無用だよ。急ごうよ!」
 キャロルの言葉に、一同は出口へ向けて坑道を後にした。

 地鳴り一つしない不気味な静寂に包まれた坑道を、出口に急ぐ一同。
「巨大ミミズ野郎はどっか行っちまったか?」
 遺体を背負っているダグラスの言葉に、安堵の表情を浮かべるミリアム。不意に頭上に水滴が落ちて、ミリアムが天井を見上げると、ミリアムの頭上に小さな滝のような水が落ちてきた。
「ミリアム、離れてッ!」
 怒鳴ったのはアリア。次の瞬間、キャロルがミリアムを突き飛ばしていた。それとほぼ同時に、坑道の天井がいきなり崩れると、湧水と共に赤褐色の巨大なミミズの頭が『降って』きた。それはパーティの隊列のほぼど真ん中。遺体を背負っていたダグラスが逃げ遅れ、かま首をもたげるようにしてダグラスに頭を向ける巨大ミミズ。全員が武器を抜き、すかさずニューラが眠りの歌を歌い始めた。
 巨大ミミズは口の部分をもぐもぐと動かして、そこからベッと土を吐きだした。巨大ミミズは、ニューラの歌などお構いなしにダグラスの真横の側壁に頭を突っ込ませると、一同を無視して潜り始めた。が、最後の2メートル近い尾の部分がダグラス目掛けて落ちてきた。
「ぐっ」
 不動の鎧で鎧の強度が上がっていたとはいえ、ダグラスをかばったフィレスに巨大ミミズの一撃はかなり効いた。震動で坑道を支えていた柱が外れ、巨大ミミズの穴に引っ掛かった。巨大ミミズの尻尾が坑道から抜けられず、激しく坑道の床を叩いた。
「落盤しちゃうよ!」
 ミリアムの言葉に、リオとレインが顔を見合わせた。
「……行くよ……リオ」
 リオとレインが同時にブラックフレイムとエンブレムシュートを放つ。巨大ミミズの尾に命中し、動きが鈍くなった。キャロルがライクアフェザーで暴れる巨大ミミズをかわすと攻撃を加え、アリアの居合い斬りが一閃すると、赤褐色の体液が坑道の壁を染め、2メートル近い尻尾が『斬り』落された。巨大ミミズは穴の向こうに消え、斬り落とされた尻尾が体液をまき散らしながら坑道内を激しく暴れたが、リオとレインの2発目のブラックフレイムとエンブレムシュート、ダグラスのエンブレムシュートの集中砲火を浴びて、やっと沈黙した。
「終わった……の?」
 アリアの言葉に、ミリアムに癒しの水滴をもらったフィレスが答えた。
「多分な」
「これでもう、あの巨大ミミズが出てこなければいいのですが」
 ニューラの言葉に、リオが言った。
「尻尾を斬り落とされたから、もう出てこないかもね」
「立てますか、フィレス?」
 ニューラに肩を貸してもらい立ち上がるフィレス。それから半時後、一同が遺体と共に地上に出ると、外はすっかり夕方だった。

 2日後。
 シュリアの父の葬儀がしめやかに行われた。参列者の中に、数名の冒険者達の姿があった。レインは、棺に勿忘草の花を献花した。
「……勿忘草の……花言葉は……『私を忘れないで』……なんです」
 ミリアムが、レインからもらった勿忘草の花を同じように献花する。棺を見つめるシュリアの頭を、アリアはそっと撫でた。シュリアはアリアに抱きついて涙を流した。ニューラが歌う鎮魂歌の中、棺は無事に埋葬された。

 その後、風の便りで巨大ミミズが鉱山に現れたという話は聞かない。


マスター:氷魚中将 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:8人
作成日:2003/10/23
得票数:冒険活劇11  戦闘2  ダーク1  ほのぼの1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。