<リプレイ>
●盗賊退治……の前に 「……やれやれ。何処にでもいるものだな、こういう輩は」 依頼の内容を聞いて、真っ先に口を開いたのは、白き流浪の紋章術士・フィー(a17552)だった。 「美味しい汁だけ吸おうとする輩は、一度痛い目を見ると良い」 溜息混じりに呟きつつ、どことなく剣呑な色を瞳に浮かべるフィー。その言葉に、大凶導師・メイム(a09124)は頷きつつ、ブランの方を見る。 「ブラン君は職人を目指すのか。自分の目標を持つという事は、とても良い事だ」 その為にも、悪辣な盗賊達を捕らえねばならぬ――そう思うのはメイムだけでなく。無言で立ち上がった、沈黙の剣士・アーネスト(a04779)も、考えは一緒だ。 (「きっちり始末しないと迷惑だな。それに……折角の門出を、盗賊なんぞに邪魔して貰う訳にもいかんだろ」) 人に頼りきりにならず、自分の意思でやりたい事を見つけたのだから……ブランの為にも、盗賊は何とかしなければと、そうアーネストは思う。 「ブランさん、ご自分の道を、ご自分の意思で歩き始められたのですね……」 微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)はブランの姿を見ながら微笑むと、その道を閉ざしてしまうような事はさせないと、小さく拳を握ってガッツポーズを取る。 「職人さん達が、生活の為に作った物を横取りするのは許せないし……何よりブランくんがお世話に成る村ですから、きっちりしっかり終わらせましょう♪」 幸せを求めし白き鷹使い・シャンナ(a00062)も、にっこりと笑みを浮かべて。冒険者達はそれぞれ、出発前の身支度を整え始める。 「じゃあ、ノソリンを借りて来ますね」 簡単に打ち合わせを終えた、軽業拳法使い・ヤイチ(a12330)は、今回の『作戦』の為に必要なノソリンと荷車を借りに向かう。 一方、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は、必要な荷物の調達に向かい……やがて、箱を抱えて戻ったラジスラヴァは、それを整理しながら、ヤイチが運んで来た荷車に載せる。 「風邪を引いた知人に代わり、自分が依頼をお引き受け致します」 よろしくお願いします、と敬礼しているのは、七式軍装天使・ランペイジ(a18685)だ。そんな彼の様子に、リベルダは律儀だと感心しつつ。その知人の名を聞いて、ブランと「ああ、あの人の……」と頷き合う。 「……なんだ?」 と、そんなリベルダの手をメイムが取る。困惑するリベルダに、メイムは「安全のまじないでな」と返しつつ、リベルダの指に触れ……「ありがとう」と手を離す。 「……?」 やはり不思議そうな様子のリベルダだが、まあいいや、と気にするのは止め……準備を整え終え、出発しようとする冒険者達に、改めて「よろしく頼むな」とブランと共に頭を下げる。 (「それにしても……」) 一方、ちょっとした目的を果たしたメイムは、キーゼルの方へと視線をやる。並大抵な事では態度を崩さない彼が、今回は少し、珍しい態度を見せていたから……それが少し気になって。メイムは「心配なのか?」と、それとなくブランの方を見やりながら問う。 「ああ……まあ、ああいった年頃の子供を、危険な目には合わせたくないと思うのさ」 そんなキーゼルの返事に、メイムは「そうか」と短く返して、皆を追って酒場を発った。
●街道の盗賊退治 問題の街道の入口に差し掛かると、冒険者達は一旦足を止めて。メルヴィルが近くにいた雀に、シャンナが連れて来た鷹のハッピーに、それぞれ獣達の歌で語りかける。 どこかに隠れている人を見かけなかったか、とメルヴィルが問いかける一方。シャンナがハッピーに、盗賊と思われる人の姿が無いか、見て来て欲しいと頼み……メルヴィルもハッピーに「よろしくお願いします、です」と声をかけ、ハッピーは飛び立つ。 とはいえ、情報を集めるといっても範囲は広い。なかなかこれという話は聞けず、聞けても内容はどこか曖昧で……二人は鳥達との長い会話の末、ようやく、おそらくこの辺りに居るだろう……という場所に目星を付ける。 「では、行きましょう」 ヤイチは、日の傾き始めた空を見上げつつ、荷車を引くノソリンの手綱を握り、歩き出した。
冒険者達は今回、囮役を用意し、その囮を盗賊が襲って来た所を、逆に捕縛する……という作戦を立てていた。用意した荷物やノソリンは、旅の商人を装う為のものだ。 囮になるのは、ヤイチとラジスラヴァの二人。残りの者は、彼らの周囲に潜み、その時を待つ手筈になっている。 「そろそろですね」 ランペイジは、先程シャンナ達が目星をつけた一角に差し掛かる前に、荷車の側を離れて街道脇に入る。左右には草茂みが広がっていて……そこになら、身を隠せそうだった。 おそらくは盗賊も、このどこかに潜んで、待ち伏せているのだろう。 同様に他の冒険者も周囲へと散って。更に一部の冒険者は、ハイドインシャドウを用いて気配を絶つ。 その間に、囮の二人は他愛のない雑談を交わしながら、ゆっくりと――ハイドインシャドウを使った者でも、後を追える程度の速度で、先へと進む。 「あら……?」 やがて、ラジスラヴァはふと、周囲の茂みが揺れたのに気付いて声を上げた。直後、あちこちで幾つもの人影が立ち上がり……姿を現すと、一気に二人と荷車、ノソリンを包囲する。 「へへ。痛い目見たくなかったら、その荷物をこっちに寄こしな」 「な、なぁぁ〜……ん……」 盗賊達が二人を見る一方、臆病な性質のノソリンが怯え、ヤイチは無言で身体を撫でつつ、ノソリンを宥める。 「あなた達は……盗賊、ですね?」 「まあ、そんなトコよ。さあ、その荷物をさっさと……」 確認するかのように問いかけたラジスラヴァの言葉に、盗賊はにやにやとした笑みと共に頷くが……それを聞いたラジスラヴァは、即座に眠りの歌を紡ぎ始める。 「な、なんだぁいきなり……!?」 いきなり歌い始めたラジスラヴァの様子に、困惑する男達――と、その直後。別方向から空気を切り裂くような激しい叫び声が響く。それは、ハイドインシャドウで潜んでいたアーネストが、姿を現すのと同時に発した、紅蓮の咆哮によるものだ。 空気を震わす振動は、幾人もの男達の動きを麻痺させ……一方でラジスラヴァの歌声が、男達を次々と深い眠りの底へと陥れる。 「そこまでです」 二人のアビリティの範囲外に居た者もいたが、そちらにはランペイジの舞飛ぶ胡蝶が広がり、別の一角ではメルヴィルの眠りの歌が響き、深い眠りへと誘う。 「逃がしません!」 効果を逃れて、更に逃げようとした者には、シャンナの構えた弓から射られた影縫いの矢が飛び、その足を止める。 「逃がさない、よっ!」 ヤイチも、投擲型捕獲具『ボーラ』を投げて足止めをすると、更に舞飛ぶ胡蝶によって混乱している者達の方へ向かい。手加減しながら拳を放ち、彼らを順に気絶させ……その間に近付いたメルヴィルが、彼らを眠りへと追いやる。 「意識を取り戻す前に縛ってしまおう」 メイムは荷車へと近付くと、手前に載せられていた食料を退かし……奥にあったロープを抱えると、盗賊達を縛り上げて回る。 その側ではラジスラヴァが、怯えているノソリンに付き添って、その気持ちを落ち着かせている。 「大人しくしてくれるかな? ……抵抗するようなら、ある程度の怪我は仕方ないよね〜」 「な、なに……!?」 一方、影縫いの矢を受けた盗賊の前に立ち、そう笑顔を浮かべたのはフィー。 「心苦しいけど、攻撃するしかないね!」 「ちょ……ま、まて。待った。降伏する、だから――!」 にっこり笑顔で語る彼女の様子に、盗賊は青くなりながら言い……フィーが「うん、なら良いんだ」と、相変わらず笑ったまま言うと、盗賊はホッと安堵した顔を見せるが……。 「ですが、子供を人質に取るような輩の言葉など、信用できません」 がつん。 ランペイジの言葉と共に、見事な音――棒で盗賊を殴打し、気絶させた音――が響き。降伏した彼らもまた、意識を失った所を、厳重に縛り上げられる。 (「ま、これで安全に移動できるだろ」) やがて、冒険者達の手によって、盗賊は全員縛り上げられ……そんな彼らの姿を見たアーネストは、そう思うと一息ついた。
●巣立つ日 盗賊達を全て捕らえた冒険者達は、その身柄を近くの自警団へと預けた。 一方ではフィーが、盗賊の一人から聞き出した拠点にラジスラヴァと向かうと、見張りに残っていた盗賊を捕らえた上で、彼らが他の人々から奪った品々を回収し。それらも自警団へと託す。 そうして、一仕事終えた冒険者達は、無事依頼を終えた事を伝える為、リベルダ達のいる孤児院へと足を向けた。 「そうか……」 「皆さん、ありがとうございました。これで……ガルドさんの所に行けるよ。本当にありがとう」 話を聞いたリベルダは、ホッと胸を撫で下ろし。ブランは冒険者達に礼を言うと、すぐにでも出発をと、既に纏めておいた荷物を取りに向かう。 「ブラン、行っちゃうんだな」 「寂しくなるのです」 ブランが出発する、という事は、すぐに子供達の間にも伝わって……孤児院の玄関には、彼を見送ろうと子供達が集まって来る。 「……ブランさんが自分でがんばると決めたんです。きっと、立派な細工師になれますね」 ラジスラヴァは、荷を持って戻って来たブランの前に立つと「がんばってくださいね」と、微笑みながら言葉をかけ。ブランは「うん……」と、大きく頷き返す。 「しっかり将来のことを考えてて。偉いね、ブラン君は」 「偉いなんてことないよ。ただ、こうしたいって思っただけだし」 フィーの言葉には、ゆっくりと首を振り返して。更に近付いて来たシャンナの方を見る。 「お姉ちゃんも、キーゼルさんと同じ霊査士を目指す事にしたんです。私に才能があるかは判りませんが、必ずなってみせます。ブランくんは職人さんですね! どっちが早く一人前になるか、競争です♪」 「そうなんだ……じゃあ、勝負だね。負けないよ」 にっこりと笑うシャンナに、ブランも笑みを返して。互いに頷き合うと、ブランは、今度はリベルダや他の子供達と、別れの言葉を交わし始める。 「……きっと大丈夫だと思います、です」 一方、そんな様子を見ていたメルヴィルは、見送りにと足を運び、同じようにブランの方を見ていたキーゼルに近付いて、声をかける。 これはブランが自分で選び、決めた事。ずっとキーゼルやリベルダや……皆の姿を見て来た彼が、決めた事なのだから。だから、大丈夫だろうと。 「ん……」 それでも、どこか心配そうにブランや子供達の姿を見るキーゼルの姿に、メルヴィルは踵を上げ……彼にだけ聞こえるように囁く。 「キーゼルさん、お兄さんというよりも、まるでお父さんみたい……ですよ?」 「……そうかい? うーん……そう見えるのかなぁ、やっぱり……」 そんな彼女の言葉に、キーゼルは苦笑しつつ漏らす。 「ああ、ブラン君。一つ餞別だ」 そんな中メイムは、タイミングを計ってブランに近付くと、そっと一つの数字を教える。 「さっき計った、リベルダさんの指のサイズだ。……細工の手順を一通り覚えた時にでも、元気でやっているという便りを添えて、指輪を作って贈ると良いであろう」 男は筆不精が多いから……と、メイムは一計を案じて、リベルダの指のサイズを調べておいたのだ。 「うん……覚えた。メイム姉さん、ありがとう」 彼女が伝えた言葉を、ブランは小さく繰り返して覚えると、お礼の言葉を口にする。 「……みんな、元気でね!」 そして、ブランは改めて皆の顔を見回すと、別れの言葉を口にして……ゆっくりと一歩踏み出す。 「ブラン殿! 行ってらっしゃいませ。自分は応援しています!」 「お、大げさだなぁ……」 敬礼して見送るランペイジの様子に苦笑しながらも、ブランは二歩、三歩と進み……そんなブランに、子供達は大きく手を振り、声を投げかけながら見送る。 「――またね!」 ブランは途中で一度だけ振り返って、そう大声で言いながら皆に手を振ると、再び正面を向いて……そのまま真っ直ぐ、村への道を歩いて行った。

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参加者:8人
作成日:2005/01/30
得票数:冒険活劇5
ほのぼの19
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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