【リベルダの悩み】巣立ち



<オープニング>


 その日、冒険者の酒場を訪れたのは、すっかりとお馴染みになった孤児院の院長・リベルダ、だけではなく……彼女の隣には、杖を片手にした少年――ブランの姿もあった。
「僕にも関係のある事だから、直接頼みたいってお願いしたんだ」
 そうブランが言う一方。リベルダは冒険者達を見ながら「実はさ……」と口を開く。
「ブランを、東に住んでるガルドって奴の所まで行かせたいんだけど、ちょっと困ってんだよ」

 発端は、遡れば何になるだろうか。
 幼い頃に教わった知識、成長してからもそれが楽しいという気持ち。――大切な人を失った事。その人の為に、贈り物を用意した事……そういった幾つかの事が理由なのだろうが、ハッキリとした事は本人にも解らない。
 けれど、ともあれ……ブランは自分自身について、一つの決断をした。
 ――器用な指先と、物を作るのが好きという気持ち。それらを生かし、職人を目指す為に孤児院を出ると。
「少し前から考えてたんだ。今はこんな風に、杖やみんなの手を借りてるけど……いつまでも、うちでみんなの助けを借り続ける訳にはいかないよなー、って。自分の力でしっかり生きてけるようにならなくちゃって」
 だから、どうしたら良いか考えて……決めたのだとブランは言う。職人としての技術を身につけ、一人前になる事を目指すのだと。
「ブランから、こんな風に言われてな。……真剣に、しっかり考えて出した答えみたいだから、なら、そうさせてやろうと思ってさ。昔、ウチの孤児院で育った奴が、東の村で銀細工をやってるから、そこに預ける事にしたんだよ」
 それがガルドだ。……だが、ブランをいざ連れて行こうとした所で、問題が起きた。ガルドの住む村に向かう為の街道に、盗賊が姿を現したのだ。
「……ガルドの暮らしている村は、他にも多くの職人が暮らしてるんだよ。それも、それなりの腕の職人ばかりがね。で……この盗賊は、そんな職人達が作る品々を狙って、街道を行き来する者達を襲ってるのさ」
 リベルダの言葉を受けつつ、口を開いたのはストライダーの霊査士・キーゼルだった。
「盗賊が現れるような場所を、子供を連れて歩く訳にはいかないからね。君達には、この盗賊を退治して欲しいんだよ。街道を行き来する者が安全に移動できるように……ブランが、無事に村まで行けるようにね」
 キーゼルが言うには、盗賊の数は二十人ほど。半数が前から、半数が後ろから回り込み、包囲しては荷物を奪って逃げていくのだという。彼らは皆、剣を携えているようだが、冒険者にとっては手強い相手ではないだろう。
「……どうやら盗賊達は、子供連れを見かけると、子供を人質にして脅迫までするような、かなり卑劣な連中らしい。そんな奴らがいる場所だから、ブランを一緒に連れて行くのは無理だ。……行こうとしても、行かせられないね」
 キーゼルは、彼にしては珍しく、そう強く主張してから、更に言葉を続ける。
「それに、盗賊さえいなければ、危険らしい危険なんて何も無いような道だから、リベルダ辺りが付き添って連れて行けば十分だしね。……だから、君達はブランの事はあまり気にせずに、盗賊退治に専念して欲しい。とにかく道が安全にならないと、どうにもならないからね。じゃあ、よろしく頼んだよ」
 説明を終えたキーゼルが冒険者達を促す一方。ブランはリベルダと共に「よろしくお願いします」と、彼らに頭を下げた。

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参加者
幸せを求めし白き鷹使い・シャンナ(a00062)
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)
沈黙の剣士・アーネスト(a04779)
大凶導師・メイム(a09124)
軽業拳法使い・ヤイチ(a12330)
白破徒・フィー(a17552)
七式軍装天使・ランペイジ(a18685)


<リプレイ>

●盗賊退治……の前に
「……やれやれ。何処にでもいるものだな、こういう輩は」
 依頼の内容を聞いて、真っ先に口を開いたのは、白き流浪の紋章術士・フィー(a17552)だった。
「美味しい汁だけ吸おうとする輩は、一度痛い目を見ると良い」
 溜息混じりに呟きつつ、どことなく剣呑な色を瞳に浮かべるフィー。その言葉に、大凶導師・メイム(a09124)は頷きつつ、ブランの方を見る。
「ブラン君は職人を目指すのか。自分の目標を持つという事は、とても良い事だ」
 その為にも、悪辣な盗賊達を捕らえねばならぬ――そう思うのはメイムだけでなく。無言で立ち上がった、沈黙の剣士・アーネスト(a04779)も、考えは一緒だ。
(「きっちり始末しないと迷惑だな。それに……折角の門出を、盗賊なんぞに邪魔して貰う訳にもいかんだろ」)
 人に頼りきりにならず、自分の意思でやりたい事を見つけたのだから……ブランの為にも、盗賊は何とかしなければと、そうアーネストは思う。
「ブランさん、ご自分の道を、ご自分の意思で歩き始められたのですね……」
 微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)はブランの姿を見ながら微笑むと、その道を閉ざしてしまうような事はさせないと、小さく拳を握ってガッツポーズを取る。
「職人さん達が、生活の為に作った物を横取りするのは許せないし……何よりブランくんがお世話に成る村ですから、きっちりしっかり終わらせましょう♪」
 幸せを求めし白き鷹使い・シャンナ(a00062)も、にっこりと笑みを浮かべて。冒険者達はそれぞれ、出発前の身支度を整え始める。
「じゃあ、ノソリンを借りて来ますね」
 簡単に打ち合わせを終えた、軽業拳法使い・ヤイチ(a12330)は、今回の『作戦』の為に必要なノソリンと荷車を借りに向かう。
 一方、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は、必要な荷物の調達に向かい……やがて、箱を抱えて戻ったラジスラヴァは、それを整理しながら、ヤイチが運んで来た荷車に載せる。
「風邪を引いた知人に代わり、自分が依頼をお引き受け致します」
 よろしくお願いします、と敬礼しているのは、七式軍装天使・ランペイジ(a18685)だ。そんな彼の様子に、リベルダは律儀だと感心しつつ。その知人の名を聞いて、ブランと「ああ、あの人の……」と頷き合う。
「……なんだ?」
 と、そんなリベルダの手をメイムが取る。困惑するリベルダに、メイムは「安全のまじないでな」と返しつつ、リベルダの指に触れ……「ありがとう」と手を離す。
「……?」
 やはり不思議そうな様子のリベルダだが、まあいいや、と気にするのは止め……準備を整え終え、出発しようとする冒険者達に、改めて「よろしく頼むな」とブランと共に頭を下げる。
(「それにしても……」)
 一方、ちょっとした目的を果たしたメイムは、キーゼルの方へと視線をやる。並大抵な事では態度を崩さない彼が、今回は少し、珍しい態度を見せていたから……それが少し気になって。メイムは「心配なのか?」と、それとなくブランの方を見やりながら問う。
「ああ……まあ、ああいった年頃の子供を、危険な目には合わせたくないと思うのさ」
 そんなキーゼルの返事に、メイムは「そうか」と短く返して、皆を追って酒場を発った。

●街道の盗賊退治
 問題の街道の入口に差し掛かると、冒険者達は一旦足を止めて。メルヴィルが近くにいた雀に、シャンナが連れて来た鷹のハッピーに、それぞれ獣達の歌で語りかける。
 どこかに隠れている人を見かけなかったか、とメルヴィルが問いかける一方。シャンナがハッピーに、盗賊と思われる人の姿が無いか、見て来て欲しいと頼み……メルヴィルもハッピーに「よろしくお願いします、です」と声をかけ、ハッピーは飛び立つ。
 とはいえ、情報を集めるといっても範囲は広い。なかなかこれという話は聞けず、聞けても内容はどこか曖昧で……二人は鳥達との長い会話の末、ようやく、おそらくこの辺りに居るだろう……という場所に目星を付ける。
「では、行きましょう」
 ヤイチは、日の傾き始めた空を見上げつつ、荷車を引くノソリンの手綱を握り、歩き出した。

 冒険者達は今回、囮役を用意し、その囮を盗賊が襲って来た所を、逆に捕縛する……という作戦を立てていた。用意した荷物やノソリンは、旅の商人を装う為のものだ。
 囮になるのは、ヤイチとラジスラヴァの二人。残りの者は、彼らの周囲に潜み、その時を待つ手筈になっている。
「そろそろですね」
 ランペイジは、先程シャンナ達が目星をつけた一角に差し掛かる前に、荷車の側を離れて街道脇に入る。左右には草茂みが広がっていて……そこになら、身を隠せそうだった。
 おそらくは盗賊も、このどこかに潜んで、待ち伏せているのだろう。
 同様に他の冒険者も周囲へと散って。更に一部の冒険者は、ハイドインシャドウを用いて気配を絶つ。
 その間に、囮の二人は他愛のない雑談を交わしながら、ゆっくりと――ハイドインシャドウを使った者でも、後を追える程度の速度で、先へと進む。
「あら……?」
 やがて、ラジスラヴァはふと、周囲の茂みが揺れたのに気付いて声を上げた。直後、あちこちで幾つもの人影が立ち上がり……姿を現すと、一気に二人と荷車、ノソリンを包囲する。
「へへ。痛い目見たくなかったら、その荷物をこっちに寄こしな」
「な、なぁぁ〜……ん……」
 盗賊達が二人を見る一方、臆病な性質のノソリンが怯え、ヤイチは無言で身体を撫でつつ、ノソリンを宥める。
「あなた達は……盗賊、ですね?」
「まあ、そんなトコよ。さあ、その荷物をさっさと……」
 確認するかのように問いかけたラジスラヴァの言葉に、盗賊はにやにやとした笑みと共に頷くが……それを聞いたラジスラヴァは、即座に眠りの歌を紡ぎ始める。
「な、なんだぁいきなり……!?」
 いきなり歌い始めたラジスラヴァの様子に、困惑する男達――と、その直後。別方向から空気を切り裂くような激しい叫び声が響く。それは、ハイドインシャドウで潜んでいたアーネストが、姿を現すのと同時に発した、紅蓮の咆哮によるものだ。
 空気を震わす振動は、幾人もの男達の動きを麻痺させ……一方でラジスラヴァの歌声が、男達を次々と深い眠りの底へと陥れる。
「そこまでです」
 二人のアビリティの範囲外に居た者もいたが、そちらにはランペイジの舞飛ぶ胡蝶が広がり、別の一角ではメルヴィルの眠りの歌が響き、深い眠りへと誘う。
「逃がしません!」
 効果を逃れて、更に逃げようとした者には、シャンナの構えた弓から射られた影縫いの矢が飛び、その足を止める。
「逃がさない、よっ!」
 ヤイチも、投擲型捕獲具『ボーラ』を投げて足止めをすると、更に舞飛ぶ胡蝶によって混乱している者達の方へ向かい。手加減しながら拳を放ち、彼らを順に気絶させ……その間に近付いたメルヴィルが、彼らを眠りへと追いやる。
「意識を取り戻す前に縛ってしまおう」
 メイムは荷車へと近付くと、手前に載せられていた食料を退かし……奥にあったロープを抱えると、盗賊達を縛り上げて回る。
 その側ではラジスラヴァが、怯えているノソリンに付き添って、その気持ちを落ち着かせている。
「大人しくしてくれるかな? ……抵抗するようなら、ある程度の怪我は仕方ないよね〜」
「な、なに……!?」
 一方、影縫いの矢を受けた盗賊の前に立ち、そう笑顔を浮かべたのはフィー。
「心苦しいけど、攻撃するしかないね!」
「ちょ……ま、まて。待った。降伏する、だから――!」
 にっこり笑顔で語る彼女の様子に、盗賊は青くなりながら言い……フィーが「うん、なら良いんだ」と、相変わらず笑ったまま言うと、盗賊はホッと安堵した顔を見せるが……。
「ですが、子供を人質に取るような輩の言葉など、信用できません」
 がつん。
 ランペイジの言葉と共に、見事な音――棒で盗賊を殴打し、気絶させた音――が響き。降伏した彼らもまた、意識を失った所を、厳重に縛り上げられる。
(「ま、これで安全に移動できるだろ」)
 やがて、冒険者達の手によって、盗賊は全員縛り上げられ……そんな彼らの姿を見たアーネストは、そう思うと一息ついた。

●巣立つ日
 盗賊達を全て捕らえた冒険者達は、その身柄を近くの自警団へと預けた。
 一方ではフィーが、盗賊の一人から聞き出した拠点にラジスラヴァと向かうと、見張りに残っていた盗賊を捕らえた上で、彼らが他の人々から奪った品々を回収し。それらも自警団へと託す。
 そうして、一仕事終えた冒険者達は、無事依頼を終えた事を伝える為、リベルダ達のいる孤児院へと足を向けた。
「そうか……」
「皆さん、ありがとうございました。これで……ガルドさんの所に行けるよ。本当にありがとう」
 話を聞いたリベルダは、ホッと胸を撫で下ろし。ブランは冒険者達に礼を言うと、すぐにでも出発をと、既に纏めておいた荷物を取りに向かう。
「ブラン、行っちゃうんだな」
「寂しくなるのです」
 ブランが出発する、という事は、すぐに子供達の間にも伝わって……孤児院の玄関には、彼を見送ろうと子供達が集まって来る。
「……ブランさんが自分でがんばると決めたんです。きっと、立派な細工師になれますね」
 ラジスラヴァは、荷を持って戻って来たブランの前に立つと「がんばってくださいね」と、微笑みながら言葉をかけ。ブランは「うん……」と、大きく頷き返す。
「しっかり将来のことを考えてて。偉いね、ブラン君は」
「偉いなんてことないよ。ただ、こうしたいって思っただけだし」
 フィーの言葉には、ゆっくりと首を振り返して。更に近付いて来たシャンナの方を見る。
「お姉ちゃんも、キーゼルさんと同じ霊査士を目指す事にしたんです。私に才能があるかは判りませんが、必ずなってみせます。ブランくんは職人さんですね! どっちが早く一人前になるか、競争です♪」
「そうなんだ……じゃあ、勝負だね。負けないよ」
 にっこりと笑うシャンナに、ブランも笑みを返して。互いに頷き合うと、ブランは、今度はリベルダや他の子供達と、別れの言葉を交わし始める。
「……きっと大丈夫だと思います、です」
 一方、そんな様子を見ていたメルヴィルは、見送りにと足を運び、同じようにブランの方を見ていたキーゼルに近付いて、声をかける。
 これはブランが自分で選び、決めた事。ずっとキーゼルやリベルダや……皆の姿を見て来た彼が、決めた事なのだから。だから、大丈夫だろうと。
「ん……」
 それでも、どこか心配そうにブランや子供達の姿を見るキーゼルの姿に、メルヴィルは踵を上げ……彼にだけ聞こえるように囁く。
「キーゼルさん、お兄さんというよりも、まるでお父さんみたい……ですよ?」
「……そうかい? うーん……そう見えるのかなぁ、やっぱり……」
 そんな彼女の言葉に、キーゼルは苦笑しつつ漏らす。
「ああ、ブラン君。一つ餞別だ」
 そんな中メイムは、タイミングを計ってブランに近付くと、そっと一つの数字を教える。
「さっき計った、リベルダさんの指のサイズだ。……細工の手順を一通り覚えた時にでも、元気でやっているという便りを添えて、指輪を作って贈ると良いであろう」
 男は筆不精が多いから……と、メイムは一計を案じて、リベルダの指のサイズを調べておいたのだ。
「うん……覚えた。メイム姉さん、ありがとう」
 彼女が伝えた言葉を、ブランは小さく繰り返して覚えると、お礼の言葉を口にする。
「……みんな、元気でね!」
 そして、ブランは改めて皆の顔を見回すと、別れの言葉を口にして……ゆっくりと一歩踏み出す。
「ブラン殿! 行ってらっしゃいませ。自分は応援しています!」
「お、大げさだなぁ……」
 敬礼して見送るランペイジの様子に苦笑しながらも、ブランは二歩、三歩と進み……そんなブランに、子供達は大きく手を振り、声を投げかけながら見送る。
「――またね!」
 ブランは途中で一度だけ振り返って、そう大声で言いながら皆に手を振ると、再び正面を向いて……そのまま真っ直ぐ、村への道を歩いて行った。


マスター:七海真砂 紹介ページ
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作成日:2005/01/30
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