讃岐坊巖空



<オープニング>


 白い頭巾から覗く紅眼は隻眼。頭巾より一対の角が飛び出し、左腕は銀色に鈍く光りいかにも硬そうである。
 右腕に構えしポールアームは『薙刀』と呼ばれるタイプのものだ。
 彼の背中には旗差物が翻っている。紋章とは違う様だが何と書いてあるのか判らない…。
「讃岐坊巖空……」
 六風の・ソルトムーン(a00180)がふと呟いた。
 彼が依然読んだ伝奇小説。それの中に出てきた怪人に、その姿が似通っていたのである。

 身を包む衣には幾本の矢が刺さっているが血は渇き、衣に重ねられた返り血でどす黒く異臭を放っている。
 その矢は冒険者の頃に刺さったものか、森に来てから刺さったものか…今は知る由もなく…。
 爛々と輝く紅眼で正面を見据えたまま、潰れた左目の死角である側を舞い落ちる枯葉を銀色の腕で何気なしに掴む。
 どうやら潰れているからと言って死角という訳ではないらしい。

 巖空はゆっくりと『薙刀』を動かし天地上段の構えをとる。そのまま微動だにせず、此方の動きを伺っている。
「お前は、俺を殺してくれるのか?」 無気力術士・レイオット (a19271)が巖空に向かって無造作に歩を進める。
「あぶないわ、レイオットさん」艶やかに舞う拳の華・アコ(a14384)が二人の間に割って入る。
 アコがゆっくりと構えをとるのに呼応して仲間たちが一斉に動きはじめた。

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参加者
六風の・ソルトムーン(a00180)
壊れた弱者・リューディム(a00279)
凱風の・アゼル(a00468)
邪風の黒騎士・ツキト(a02530)
狂風の・ジョジョ(a12711)
慧眼の静風・キルレイン(a12779)
艶風に舞う煌紫の華・アコ(a14384)
生屍・レイオット(a19271)


<リプレイ>

●遭遇、隻眼の怪人
 讃岐坊厳空。そう六風の・ソルトムーン(a00180)が呼んだ怪人は、只静かに佇んでいた。
 無造作に歩み寄ろうとした戦術魔法士・レイオット(a19271)を、艶やかに舞う拳の華・アコ(a14384)が止め身構える。
「何もかも考えずに済むように……私を追い込んで見せろ。厳空」
 そんなアコを押しやるように、呟きながらレイオットはなお進もうとする。
「(お前が何を求めているのか私は知らない。別段知りたくも無い。これから殺しあうんだ。そんなものが入り込む余地は無いだろう? だから……)」
 普段無気力なレイオットの目に光が宿りつつあった。だがそれは……自虐的な危険な光。
「レイオット、そんなに簡単に死を望まないで下さい……仲間が悲しみます」
 そんなレイオットの目を覗き込み、アコが悲しげに呟いた。
 感情の希薄な目をアコに向けるレイオット。そんな二人の横に、仲間たちが居並ぶ。
「『天地上段の構え』か……向こうから押して来る気は無いみたいだな」
 呟いたソルトムーンは、ただ無言で投擲型捕獲具『ボーラ』をレイオットに手渡す。少し驚いたような顔をして、レイオットも無言でそれを受け取った。
「隻眼と言えども死角は無いものと思います、努々油断なさらぬよう……」
「そりゃ相手は化け物だ、その程度の芸当はしてくるだろうさ。油断なんてしねぇよ」
 厳空の様子を油断無く見据え、全員で生きて生還する手段をと慧眼の静風・キルレイン(a12779)が誰とも無しに言った忠告を、狂風の・ジョジョ(a12711)が口元を歪め受ける。
 無論、誰も油断などしていない。
 凱風の・アゼル(a00468)、やや落ち着きを取り戻したレイオットが土塊の下僕の召喚を行う。
「……死角が無いからといって全方向の同時攻撃に対応できる訳ではあるまい。投擲後に一気に間合いを詰めるぞ!」
 ソルトムーンの号令の元、両端に重石のついた丈夫なロープ『投擲型捕獲具ボーラ』を持つ者達が頭上で音を立て振るい始める。
 ヒュンヒュンと風を切る音のみが空間を制し数刻、開戦は唐突に行われた。

●進撃、疾く進め
「放てぃ! 疾く進め!」
 四つのボーラが宙を舞う。そこで、初めて厳空が動きを見せた。
「……」
 無言のまま手に持った薙刀が振るわれ、巻き起こった風がボーラの勢いを殺す。
 ボーラは軽い音と共に厳空に当たると地に落ちた。
「ナパームで態勢崩しを試みます、巻き込まれ無いようにご注意を!」
 既に駆け出していた仲間に呼びかけ、返事を待たずにキルレインがナパームアローを放つ。
 紅い軌跡を残し飛来した矢は、狙い違わず厳空の足元に突き立ち炸裂。土砂と爆煙を上げる。
 煙を掻き分け厳空に肉薄したソルトムーン。その彼に頭上高くにあった薙刀が振り下ろされる。
「オォォ!」
 腰に控えていたハルバードが地面すれすれの軌跡を描き、居合いの要領で薙刀を迎え撃つ。ガキィン!という硬い音を立て、薙刀とハルバードは共に弾かれた。
「ジッとしていろ!」
 次いで爆煙を抜けたジョジョ。肩に担ぐようにしていた全長二メートルを超える巨大剣が、雷光を纏って厳空の体に向かい滑る様に走る。
 先の激突で一旦体勢を崩しかけた厳空は、無理やり薙刀を引き戻し、地面に突き立てることにより巨大剣の一撃を止めた。
「正気を失って瘴気に憑かれて勝機を気取るな……貴様は私に喰われろ」
 持ち前のスピードで背後に回っていた潤刃の紅雫・リューディム(a00279)が、その隙を見逃す筈も無い。
 飛翔、そして振り上げた足が厳空の鎖骨に振り下ろされる。鉄塊が仕込まれたリューディムの靴『薙砕』を通して、確かな手応えが伝わってきた。
 流れを止める事無く、厳空の薙刀を持つ腕、その反対側に邪風の黒騎士・ツキト(a02530)が回り込み電刃衝を放つ。
 薙ぐように走る雷光。それを薙刀の柄がすくい上げるように弾く!
「やはり、こう来ましたか!」
 接近後の柄による迎撃を予期していたツキトは、歯噛みしながらも弾かれた勢いを利用し後方に下がる。
 その目の前を、鋭利な刃が走り抜けた。
 厳空を中心とし、旋回された薙刀は接近していた前衛班全員に迫る。
 ツキト、リューディムは薙刀の射程外へ飛び退きかわし、ソルトムーンは厳空がしたようにハルバードを突き立て薙刀を弾く。
「チッ!」
「!? スーピー君……」
 が、受け損ねたジョジョと、撹乱の為周囲を駆けていたアゼルの土塊の下僕が巻き込まれた。下僕は只の一撃を受け、土に帰る。
「ジョジョ、退け!」
「応!」
 ソルトムーンの指示にジョジョは応じ後ろに下がる。ジョジョの傷はそれ程深くない。ソルトムーンもそれは分かっているが、僅かな油断が隙となるなら、僅かな傷も無視すべきではない。
「既に傷を負ってはいますが、わたくしにだって出来る事がありましてよ!」
 本来なら前線に居るべきアコ。しかし現在重症の身である彼女は、自身の意思を殺して支援に徹する。
 アコの持つ儀礼用長剣から放たれた暖かな光が、全員の傷を癒した。

 厳空の耐久力は並ではない。
 アゼルのエンブレムシャワーの直撃を受けても微動だにしない。
 レイオットの気高き銀狼も一時を稼ぐに過ぎず、キルレインのホーミングアローも動きを止めるには至らない。
 効いていない訳ではない、只相手の耐久力が高すぎるだけ。
 前衛で戦い続けるソルトムーン、ジョジョ、リューディム、ツキトは致命傷を受ける事は無いものの、致命傷を与える事も出来ない。
「ハッ!」
 ソルトムーンのハルバードが上段より襲い掛かる。両手で薙刀を掲げ受ける厳空だが、その肩をキルレインの貫き通す矢が射抜いた。
 初めて、厳空の体が傾く。
 すかさず先にミラージュアタックを放ち間を取っていたリューディムが、厳空の背後より漆黒のスキュラを放つ!
 爆発音と共に前へと体が傾く厳空。が、怪人はそのままは倒れず、一歩踏み出し留まる。
「ウォォォォォォーーーーーー!」
 その背後で上がるのはジョジョの紅蓮の咆哮。空気を震わせ響く叫びに、されど厳空は居に介さず、正面に居たソルトムーンをなぎ払い前方に飛んだ。
 その先に居るのはキルレイン。
「……! 危ないですわっ! 下がって!!」
 アコの叫びが届く前に、キルレインは後ろに退く。キルレインの代わりに、彼の傍に居たアゼルの土塊の下僕が砕かれた。
 次いで厳空が見るのはアコ。空ろな隻眼が、アコの顔を映した。
「これ以上、仲間の死顔を見るのはごめんだ……!」
 その間に割り込んできたのはツキト。手負いのアコを気にかけていたツキトは真っ先に反応し守らんと前にでる。
「いつまでも調子に乗ってのさばってんじゃねぇー!」
 ツキトに襲い掛からんとする厳空。それより早く、背後から厳空の限界は近いと判断したジョジョが襲いかかった。
 巨大剣は今、ソルトムーンのディバインチャージを受け神々しく輝いている。更に、柄の部分から燃え上がる紅蓮の炎。赤と白の輝きを伴い、ジョジョの一撃が厳空を袈裟切りにした!
「……!!」
 厳空は声を出さない。だが、怪人から只ならぬ威圧感が周囲に広がるのをその場にいる全員が感じた。
「クソ……がぁ!」
 仕留め損なった。ファイアブレードの副作用で動けぬジョジョの前で、厳空が飛ぶ。真っ直ぐ、ツキトに向かって!
「させませんよ!」
「援護を……!」
 ツキトが剣を振りかぶる。そこにかけられるレイオットのディバインチャージ。
 神々しき光を纏った剣が投射され、厳空の体に突き刺さった。剣の柄には鎖。ツキトはその鎖を引き、自ら相手の懐に飛び込む。
 懐に入った敵に長物ではダメージを与え難い。振るわれた薙刀の柄にツキトは跳ね飛ばされるが、それでもあのまま直撃を受けるよりは遥かにダメージは低く抑えられただろう。
 目標をツキトに変え、追撃せんとする厳空。その腹部を、重い一撃が打った。
「……」
 無言の厳空、その腹に次々と埋め込まれる拳。
「確かにジョジョやキルレインの方が私よりも『戦闘』慣れしているかもしれない。でも『殺す』事に関しては……」
 リューディムの呟きは、彼女自身の拳が鳴らす打撲音で他の仲間には届かない。
「言うまでも無く……ね」
 満足したように呟き、腕を止めるリューディム。
 厳空は、自身の得物を地面に突き刺し、止まった。…………永遠に。
「……どうだ、今回は満足のいく戦いができたか?」
 麻痺した体で少し辛そうに、だが笑いながら尋ねるジョジョ。リューディムは彼に向き直り、ただ一度肩を竦めた。

●終焉、明日は我が身と……
「負ければ我らもこの様に何処かで異形を晒す事になるかと思うと、やるせんな」
 互いに全力を出す戦いを経て、ソルトムーン達は厳空を埋葬し、その上に墓標代わりの旗を立てた。
 六風を冠する旗を。
「何に心を残してモンスター化したのか、今となっては分かりませんが、せめて力の限りお相手した事が、せめてもの供養になれば……」
 持参したお神酒を備え、アゼルは静かに祈る。
「……なぁ、アゼル。その酒、余りはねぇのか?」
「ダメですよ。お供え物に手を出しては」
 突然そんな事を言い出したジョジョに、アゼルは非難の視線を向ける。
 ジョジョは薄い笑いを浮かべ肩を竦めると、巨大剣を背に仕舞い、厳空の墓に背を向ける。
「なら、しゃあねぇな。喉乾いたし、酒場にでも行くか。そうそう、アコ、この前の傷はまだ癒えてないのに良く頑張ったな」
「あ、いいえ。余りお役に立て無くて……」
 アコの肩を軽く叩きながら、ジョジョは歩き出す。
「いや、アコの回復無くしてはこの戦い。苦しかったかもしれません」
「でも、無理はしないで下さいよ?」
 謙遜するアコに、キルレインはそんな事は無いと言い、ツキトはその身を心配する。
 森の出口へと向かう仲間達。その背から視線を外し、ソルトムーンは簡素な墓を流し見た。
「何を想いて独歩したるか讃岐坊……。せめてその魂は安らかに……」
 呟き、自分を待ち立ち止まる仲間達の元へ、静かに歩いていくのだった。


マスター:皇弾 紹介ページ
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