【運人奪人】Message For Dear〜ロイヤル卵〜



<オープニング>


 それは、何物にも代え難い、譲れない物であるらしい。

「――と言う訳でですねッ! アレが無いと僕、困るんです! 困ってしまうんです!! て言うか、もう、困ってるんです……」
 熱く、拳を固めて連呼していた男が、台詞の終いにはもう意気消沈している。
 テーブルの片隅で肩を小さくして、……泣いているのだろうか、いい年をした大人が。
「………。『オーバル・ロイヤル』という物がある。中に小さな菓子やメッセージを詰めた、卵型のチョコレートギフトだそうだ」
 言葉にならない男の代わりに、あるいはその男を無視する形で、黯き虎魄の霊査士は冒険者に向け淡々と説明をした。相違無しとばかりに大きく頷いている、丸眼鏡の男。――の事は、やはり気にしないようにしているのだろう。見向きもせずにイャトは続ける。
「彼はそのギフト菓子を作る職人で、自ら配達もこなしている」
「それが僕の家系の誇りですから」
 今度は唐突に、誇らしげに、男。どうやら彼の家族もそういった職に就いているらしいが、男の口からそれ以上の身の上話が出てくる前に、静かな声が話を核心に触れさせた。
「――依頼人だ」
 ある程度そんな予感はしていた冒険者達。続けてイャトは卓上に、ことりと卵を置いた。見事なバランスで立つそれを、まじまじと見つめた烈斗酔脚の栗鼠・ヤン(a90106)は顎に手をあて感心の表情。
「へぇ……綺麗なもんねー」
 飴細工の王冠を載せたマーブルカラーの卵は、一見、菓子には見えなかった。表面を覆うキャンディーチップの装飾が灯りを反射して煌き、まるで宝石を眺めているようだ。
「唯一……護り通せた品です」
 男の重い言葉が溜息と共に零れた。
 配達の途中でイタチグドンに襲われ荷物の取り合いをしたというのは、彼が混乱のていでまくし立てていた事であるが半分以上は真実のようだ。
 荷物ごと奪われたオーバル・ロイヤルが今更、無事に戻って来るとは彼も思ってはいないようで、そこは「辛いがもう諦めた」と言う。ただ、作り直すにも道具が要る。
 ――まさか、その道具が……?
 そのまさかと言って良いだろう。彼は、商売道具を常に持ち歩く男であった。
 奪われた荷物の中には代用など出来ない物もあるのかもしれない。
 霊査士が口を開いて告げる言葉は、案の定。
「――さて。このオーバル・ロイヤルを作るための卵型、『エッグ・シェル』の奪還を、お前達に頼みたいのだが……行ってくれるかね?」

 霊視の結果――戦利品を森の奥に持ち帰ったグドン達はそれを随分と気に入り、玩具にして遊んでいるらしい事が判明している。
「アレはかなり面白い軌道を描いて飛ぶようでね」
 そう聞いて、発狂せんばかりに青ざめる依頼人。
「『飛ぶ』……!? そんな、もし乱暴に扱って割れたりしたら……!」
「――ええ!?」
「『ええ!?』って何ですか……!」
 一層顔を青くして依頼人が振り返る先には、乾いた笑い声を発するヤンがいる。
「『ぶん殴って取り返す』とか、物騒なこと言わないで下さいよ? 僕の心臓のためにも!」
「そうね。壊れちゃダメなのよね。壊れやすい物なのね? ヒビが入るくらいでも……」
 図星だったか、慎重に確認する彼女に、しつこいくらいに頷いて「お願いしますよぅ」と依頼人は、また泣きそうだ。顔色はもう紙の様に白くて、今にも卒倒しかねない。
 スーニと名乗ったこの依頼人の男を、ヤンはどこかで見た事があるような気がしていた。
 霊査士は、目を伏せて2人を視界から追い出し、誰へ告げるともなくぽつりと零す。
「奴らは、真っ白でツルツルした物が好きなのかもしれんな。交渉も不可能ではないだろうが、さて」
 ふむ、と軽く指先で弾いたオーバル・ロイヤルが揺れて光を反射した。

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参加者
月穿つ豹の爪牙・セリオス(a00623)
聖砂の銀獅子・オーエン(a00660)
緋の剣士・アルフリード(a00819)
銀翼に咲く幸福・ジーニアス(a02228)
星影・ルシエラ(a03407)
吼えろ・バイケン(a07496)
唸る豪腕・ログナー(a08611)
ぱんつはいてない・スノウ(a14449)
NPC:烈斗酔脚・ヤン(a90106)



<リプレイ>

 蒼白な顔で揺らめく依頼人・スーニの手を取り白灰・ジーニアス(a02228)が彼に約束した絶対の優先事項、「出来うる限り穏便に」。……『穏便に』。
「何故そこで一斉に私を見るのかしら」
 烈斗酔脚の栗鼠・ヤン(a90106)は半眼で、失礼ねーともぼやいたが、自覚が無いのが一番怖い。

 とにもかくにも――各人準備を整え、いざ出発の時。
「ヤン殿ー、ヤン殿ー」
 革製の薄いパンチングミットを装着した両手を、軽く叩き合わせて拳に馴染ませる吼えろ・バイケン(a07496)がそこにいた。成り行きを見守る冒険者達の間に、言葉は要らない。
 ここはひとつ、色々しっかり発散してくれなさい。などと、笑顔が伝えるメッセージ。
 大事な所で暴走されては困るので。

●30頭余りの、余り
 冬の色褪せた緑の森が途切れた先に立ちはだかる岩峰――その岩の裂け目が奴らの住処だった。
 ゴミ捨て場かと思ったそれは、乱雑に積み上げられた彼らの戦利品の数々であるらしい。
 その脇を抜けて岩間を出入りするイタチグドン達の行動を聖砂の銀獅子・オーエン(a00660)と、星影・ルシエラ(a03407)は遠眼鏡を用いて注意深く観察していた。
 広場で寛ぐグドン、岩壁をよじ登って遊ぶグドン、物喰うグドン、子供のグドン……
「足りないな」
「うん。全部じゃないみたいー」
 情報ではグドンの数は30体余り。一人前に満たない子供達を含めて数えても、半数以上が不在である。岩間が特に怪しいが、表にいる以上の数があの奥にいるとは到底思えない。そして、エッグ・シェルの所在は……? 2人は見渡す範囲を広げて他のグドンの姿を探す。――と。

 岩壁に沿う森の中からぞろぞろと、姿を現すイタチグドンの集団を見つけた。

 仲間が歩きながら食い捨てた残飯にさえ飛びつく浅ましさを、いきなり見せ付けている。
 そんな同胞を後目に、先頭のグドンは袋の中から引っ張り出した緑色のスカーフで手を拭き、それを首に巻いて得意げに鼻を上向けご満悦。地面に粗雑に投げ出されたズタ袋から、転げ出た丸パンを追いかけるグドン達がいる。かと思えば袋の中身を引っ掻き出す者も。己の爪が引き裂いて腕に纏わりついたボロボロの布地(色合いからして元は小奇麗なドレスだったのかもしれない)を無造作に打ち捨て、それは作業を続行した。靴、帽子、次々出てくる『町の生活』。
「…『配達中』の事故…か」
 オーエンは何故だか、今更、依頼人が酒場に駆け込んで来た経緯を思い出していた。
 思えば誰一人、その可能性を気にかけてはいなかった事。今となっては不可抗力だが、イタチグドンにも生活がある、という――言葉にすればただそれだけの話。
「さっき帰って来たのが5、足して22だね。それから――」
 それまで単身偵察に臨んでいたジーニアスも、報告の為に合流している。
「もどかしいわね」
 苦々しく呻いて拳を掌に打ちつける音がほぼ同時に響いた。
 いかん、早くもプッツンゲージが上昇再開か。と誰もが思った次の瞬間、ヤンを宥めるルシエラの声が、空気を変える。
「退治の時までは怒るの待っててね? 一番は、エッグ・シェルだよ。ヤンさんも貰ってあげたい人いるでしょ?」
 ひゅ? とヤンは目を丸くした。
 オーバル・ロ、イ、ヤ、ル〜。と、歌う様に言いながら、指を振るルシエラ。
「わ、私は別に……じ、自分用かしらね」
「あれれ、そうなの?」
 一瞬、怒気を散らした乙女トークは、しかし、長くは続かなかった。
「エッグ・シェルの状態が気がかりですね」
 呟く声の主、こぼれ落ちる黄金の雫・スノウ(a14449)が唇を噛み締めている。
 押し黙る冒険者達。奴らの略奪物の扱いは、あまりにも粗暴だ。
 どうするのかに?
 ――後の行動を確認するニュアンスを込めたジーニアスの瞳も、仲間の顔を順に見つめていた。

 つんつん。

 とにかく行かねばなるまい。
 いつまでも隠れていても、グドンの方から挨拶に来てくれる訳ではないのだ。

 つんつんつん。

「でも。あまり、彼らを追い詰めたくはないですから。ほどほどに、気をつけて行きましょう、ね?」
 やっぱり、その……イタチ、というとアレですから。
 とか何とか、言い難そうにぽつぽつと洩らすスノウの顔は紅らみ、青ざめ、その目は最大の警戒対象ヤンへと向けられ――言わんとする事は、冒険者達には痛いほどよく解った。
 グドンが本家と同じ習性を持っているかどうかは不明だが、臭腺から悪臭を放たれるなど、ご勘弁願いたいものである。臭いを着けて帰れば依頼人も泣くだろう(泣くに留まれば良いが)。

 ――つん……、ぐいっ!
 今度こそ確かに引っ張られたポケット。思わずポッケを押さえたジーニアスは眼光鋭くそちらに目を向けて。何処かで落としてしまったらしい『何か』の行方を示す様に、藪の向こうに消えている紐を……! 手繰り寄せるとそれはピンと張り詰め――引っ張られた!!
「お、ぉ、大物ーー!!」
「なんと!? 助太刀致す!」
 くわ! と目を見開き、思わず声を裏返らせたジーニアスの方がじたばた釣り上げられそうな体勢で。釣りに釣られた(?)バイケンが、くわ! と手を貸し、2人がかりで思いっきり紐を引っ張った。

 運命の赤い糸ならぬ、麻の紐が引き合わせる相手は――
 小柄でつぶらな瞳のプリティーさん(仮名)。少々毛深いのが玉に瑕。

●エッグシェルvsムイムイストーン
「……――」
 青空を仰いだ孤独に虚ろうもの・セリオス(a00623)は、何を呟くつもりだったか思い出せずに溜息をついた。歩いている。歩かされている。何か、皮肉めいた言葉だった気もするが、考えるのはやめた。一層惨めになるような気がしたからだ。
「ケク!」
 と背後から高い声。ゲシッと膝裏に蹴りを喰らい、セリオスは体勢を崩しながらも立ち止まらない。後ろからせっつく、小柄で毛深い阿呆のせいで止まれないのである。
「……(野郎……)」
 静かな怒りに拳を揺らしつつ。振り返り様ぶん殴る準備は(とある事情で)とうに出来ていたのだが、未だエッグ・シェルを所持したグドンがどれか解らず、うっかり手を出す事も出来ない。睨みつける視線でイタチグドン達の挙動を見張る。
 とにかく。9名の冒険者は、8頭のイタチグドンに連行されて彼らの集落を引き回されていた。
 ……美しくない、と微かに空気を震わせる緋の剣士・アルフリード(a00819)の声を聞いてしまった唸る豪腕・ログナー(a08611)は反応に窮する。青年の笑顔の影で声がわなないていた事は、指摘しない方が良さそうだ。
「ここには、言葉が通じる相手はいないのかい…」
 アルフリードの気だるい溜息。
 用意して来た鶏肉は現在イタチグドンの手から手へ、頭上を巡っている。
 肉をトスする度に上がる「クキャ」と、嬌声の大合唱を奏でながら。浮かれ過ぎである。人語を解さないのみならず獣達の歌にさえ、ろくに耳を貸さないというのはいかがなものか。上機嫌だという事だけは解ったが、……何処へ連れて行く気だろう。
 広場中を練り歩いている内に、自分達がこのグドン共の『本日の収穫』として見られているらしいと感づいた。どうりで、周りの8頭は何だかお粗末な気がする、色々と。
 やがて、別の集団が進行方向で彼らを待ち構えていた。その中の一頭に、グドンが鶏肉を献上しているのを目の当たりにして、アルフリードは「おや」と瞬く。
 じっと見つめる目と目が合うと、後ろに控えるグドンに鶏肉を渡して彼(?)は近付いて来た。
「人間イラナイ。ミグルミ置イテケ。ウマイモノ」
 やってくるなり両手を揃えてずいと差し出し、そう言ったグドンの首には、風に揺れる緑色のスカーフ。その声を合図にして一気に冒険者を取り囲んだグドン達は先の8頭とは違って、やけに手の早い略奪者達だった。大事な交渉材料を奪われまいと麻袋の口をしっかり掴んでいるスノウだが、グドンも「シュイー!」と威嚇の声を上げて袋の端を離さない。
「解った……だから、少し落ち着こう?」
 片言でも言葉を解する輩と出会い、内心安堵してアルフリードは努めて穏やかに交渉を開始した。
「敵意は無い。約束するよ。話しをしたいんだけど、リーダー……は君で良いのかな」
「ウマイモノ」
「……そう言うと思ってね、土産はそれなりに用意して来たんだ」
 ――と。アルフリードの視線を受けたログナーは、その長身を活かして頭上に退避させていた荷物を胸の高さで探る。
「きゃ、ぁ、ぁ、凄い力ですぅ……!」
 見た目の割に強い力を麻袋を引合う腕に感じたスノウは、次の瞬間悲鳴をあげて思わず袋を手放していた。目の前で爪を振るわれたのだ。バラバラと音を立てて辺りに散らばる真珠に、緑スカーフも気を取られた。ぱっと身を翻したグドンがプラチナに輝くそれを追って大地に跳びつき、ややあって、スノウを肩越しに見上げる口元が妙に膨らんでいる。
「白くてツルツル……お好きですよね?」
「小サイ、ゴリゴリ。不味イ」
 哀しい空気を漂わせて地面を両手で叩き始めたグドンの代わりに、緑スカーフが応えた。
「やはり食べ物が良いのでしょう。こちらではどうです?」
 ログナーが勿体ぶって取り出したのはゆで卵。軽く2、3個、群に向かって投げてやると、すかさずキャッチした要領の良いグドン達は横取り対策なのか口中に隠し、そのままグシャグシャと殻ごと嚼下する。ゆでた卵の食感は初めてだったのか、不思議そうな顔。
 便乗してセリオスは、詰め合わせの外箱ごと卵を投げつけた。小さく毒づく彼は先程、グドンの手をかわそうとしてせっかくの新鮮な卵を幾つかダメにしてしまっていた。箱までしゃぶりつくしかねない勢いに沸くグドン達。どうやら卵は彼らの好物だった様だ。……自身に向けられた幾つかの目にセリオスははっきりと顔をしかめて、生卵まみれの両手を隠した。
「まだまだ沢山あります。いかがですか?」
「……ル」
 ログナーの質問に「要る」と頷いたらしい。意外と素直な緑スカーフも食いっぱぐれ組。アルフリードはもう一押しと笑みを深めた。

 数刻後、グドン達はログナーの手ほどきでゆで卵の殻を剥く事を覚えていた。ジーニアスやオーエンが「投げる物だ(嘘)」と持ち出す皿にも興味を示し始めている。
「えっぐしぇる? ナニ?」
 初めて聞いた単語に一度は首を傾げた緑スカーフだったが、ログナーから直接受け取ったゆで卵のツルツルプニプニした感触に何かを思い出したようだ。
「ソレ、『むいむいすとーん』ナラ解ル」
「俺達にはその『ムイムイストーン』とやらが解らないんだが…」
「形イッショ、色イッショ、…むいむい」
 何か、軟らかい、らしい。その『ムイムイ』加減がやはり微妙に解らなかったが。
 答え様がなくなって彼は首を傾げ、最初の卵を飲み込み、二つ目の卵を真上に放り投げた。卵の動きを追って動く首。地に落ちてひしゃげる卵を何食わぬ様子で拾って口に運び、彼は首のスカーフで手を拭きながら言った。
「勝チ、むいむい」
 何か、よく解らない間に一つの結論が出されたらしい。
「そのムイムイをこれと交換して欲しいでござる」
 面白い飛び方をするのは重心が偏っているから。そう考えたバイケンは、卵型に磨いたガラス玉を白く塗ってそれらしく仕上げて来た。試しに地面の上を転がすと、その変則的な転がり方にグドンの目は釘付けである。思わずといった感じで捉まえたそれをバイケンには返さず懐に入れようとする。バイケンは、あえてそれを止めずにおいて。
「交換が良いでござるな〜」
「………」
 そ知らぬ顔でクドンはログナーに、両手を揃えて催促。用意して来た分が終わってしまったと告げられれば「しゅん」と肩を落として項垂れて、そのままやり過ごそうとする彼のスカーフをルシエラは軽く引っ張った。逃れようとじたばた手を振るグドンの目の前を、再び白い物が通り過ぎて行く。
 バイケンのガラス玉と酷似していたが、今度はサイズがひと回り大きい。グドンが手を出すより先に、ルシエラの手が卵を押さえていた。
「交換してくれたら、これもあげちゃう」
 にこやかなルシエラの言葉に、頭を抱えて葛藤するグドン。
「むいむい……皆、順番待チ。今誰ガ持ッテルカ、オレモ知ラナイ」
「えー!? そんなー……」
「サ、探ス! オレ、探ス」
 打ちひしがれるルシエラの手の動きを目で追い、慌てふためいたグドンは弾かれた様に駆け出した。
 『大きい事』がよほど魅力的だったのか、はたまた『数』に惹かれたのか。勿論、『数』にはその他の土産も含まれるだろう。
 貪欲である事には違いないが、ルシエラが思っていた以上に彼は素直で単純だ。同胞を巻き込みながら、あのグドンは、とうとう住処の入口前に積んである戦利品をひっくり返し始めた。
 もしそんな所から見つかったらば、確実に依頼人は卒倒してしまいそうだが。

 ムイムイ……はおいといて。
 オーエンはこめかみに指を当てて、ぼんやり考えていた。
 壊れ易さとツルツル感では凍った雪も負けそうだ。負けてはいないと思える物をもう一つ彼は知っていたが、今の彼女がいと哀れに見えたので、推薦するのはやめておく事にする。
 普段から手荷物らしい手荷物を持たない彼女は、グドンに狙われる物も他には無い訳で。
 手癖の悪いグドンを相手に、今までキレずに我慢出来ただけでも上出来。
「……ヤン殿ー、は……完全に燃え尽きているでござるな〜」
 水筒を胸にガッチリ抱き締めて護り、虚ろな笑みを浮かべているその眼前で手を振っても無反応。様子は少々気になるが、新しい芸風を身につけたと思えば……いやいや、本当に良いのだろうかそれで。とにかく、完全燃焼は完全燃焼だと、バイケンは前向きに考える事にした。
 しばらくして、たどたどしい片言が遠い場所からムイムイストーン(エッグシェル)の発見を宣言した。どうやら、仔イタチグドンが腹のポケットにしまい込んでいた様だ。続けて何か言っている。
「『投・げ・る』? ま、待っ……ま、某に任せるでござる!!」
 50メートルは軽く越えているように見えるが、グドンは構わず大きく振りかぶっていた。
 装着していたノケット用のミットに拳を打ち込み、地を蹴るバイケン。間に合え脚。
 夕日に白いボール(エッグシェル)の軌道はさながら変化球。祈る様な声援に背中を押され、その時、駆け抜ける黄金色の身体に全てが託された。

 ――Message For Dear.
 今回は、『伝えたいこと』。あるいは、『二つ名』。

 帰還した彼らは、依頼人が過度の心労で発作を起こした事を知る。
 柔らかな布に包まって還って来たエッグ・シェルを、見舞いも兼ねて届けた後日、――
 冒険者の元に届けられたのは、簡素な礼状だった。
 内容は、冒険者達への労いと謝辞、新たな菓子の開発に心血を注いでいるとの近況報告に終始し、エッグ・シェルの事については一切触れられていなかったという。


マスター:宇世真 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2005/02/15
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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星影・ルシエラ(a03407)  2009年12月18日 18時  通報
こわれものは、こわいっ☆
でね、今気がついた(わーい)んだけど、
ヤンさんが?って思ったの、スートさんじゃないの?!☆