【四人のメダル】ひとちぼっちのファリノス



<オープニング>


「ご紹介いたしましょう、こちらが依頼人、ファリノスさんです」
 ガタと椅子を鳴らして、ひとりの少年が立ち上がった。
 くたくたになった帽子をお腹に、彼は深々と頭をさげながら言った。
「ファリノスです。依頼を持ってきました。ベベウさんは、きっとなんとかしてくれるだろうって言ってくれましたけど、ぼくはまだすごく不安です。どうか……よろしくお願いします!」
 寒さのために赤くなった鼻に、乾いた空気でガサガサになった頬や唇――ファリノスという少年は、自分が天涯孤独の身の上であり、港で荷物の積み下ろしをして生活していると語り、薄明の霊査士・ベベウが薦めた茶と菓子を、めずらしそうに眺めた。
「いいんですか? 本当に? 紅いお茶なんて、久しぶりです」
 ものを詰め込んで大人しくなった少年を、小首を傾げて嬉しそうに見つめていたベベウだったが、ファリノスの前へ自分の皿を滑らせ、その上から消えた菓子が小さな口の中で咀嚼されはじめたのを見ると、冒険者たちに向けて語りだした。
「話せば長くなるのですが……ファリノスさんの一族には、ある奇妙な遺言が伝えられており、その謎を解明することが、われわれの仕事となります。ファリノスさんの祖先は、大陸を旅し、多くの財宝を得た偉大な人物であったそうです。彼は死の間際、自身の長男、次男、長女、そして、我が子も同然に育てていた友人の子を呼び寄せ、それぞれに四枚のメダルを手渡しました。すべてが金で出来た素晴らしい細工の品で、表面には女性の横顔が、裏面には紋章文字が刻まれ、側面にも溝が刻まれていたそうですが、何を意味するのかはわかりません。ですが、一族が困難に見舞われたとき、人々が四枚のメダルを携えて集えば……」
 茶で菓子を流し込んで、ファリノスが口を開いた。まだ、そのまわりには菓子の粉が付着している。
「『大いなる幸せを汝らは得るであろう』……ぼくは、長男の子孫にあたるんです。そう、死んだ母が言ってました。その母も亡くなって、もう二年が経ちます。ぼくにはなにもわからない。ただ、このおとぎ話しかないんです。だけど……ぼくのメダルは野盗に盗まれてしまった。誰から漏れたのか、ぼくが金のメダルを持っているからって、テントに踏み込んできて……」
 悔しさを滲ませながら俯いてしまった少年……その時、ファリノス少年に負けじと、菓子を頬張っていた少女が、口元に散らばっていた破片を手の甲で拭いながら言った。
「じゃあ、そのメダルを持ってる子孫達を探せっていうんだな」
 エンジェルの医術士・ヴィルジニーは言葉が終わるなり、咳き込んだ。急きすぎたようだ。ファリノスが顔を上げて、笑っている。少女も笑顔で返す。
 ヴィルジニーのカップへ、ベベウは身体を伸ばしテーブルを横切って茶を注ぐ。
「ええ、四枚すべてと、その持ち主たちを……永きを経て離れ離れとなっていた一族が再び集うその時が訪れるために」
「離れ離れ……か」
「手掛かりがあまりに少ない、大変な仕事になりますよ」
「霊視でなんとかしろ」
「出来るかぎりは……」
 苦笑するベベウに、ヴィルジニーはまだあどけなさの抜けきらない笑顔を向けている。
 ポットを天板に戻し、ベベウは姿勢を正して言った。
「ファリノスさんから大切なメダルを奪った野盗は、森に潜んでいると思われます。10人ほどの集まりで、盗みや強奪といった悪事を働く、いわばケチな悪党たちです。皆さんにとって、簡単な相手であるとは思うのですが……厄介なことに、その森に不穏が動きがある。悪党たちを捉えるために出かけた、30名近い町の男たちが、まだ帰っていないのです」
 大きな瞳で詰問するヴィルジニーはベベウへ一言だけ差し向ける。
「魔物なの?」
「わかりません。……ただ、森から非常に強い香り……そして、異様なまでの高揚感、踏み荒らされる土といったヴィジョンを感じることはできました」
 真面目な顔で聞いていたファリノスが言った。
「ぼくの知ってるおっさんたちも、まだ帰ってないし、どうかよろしくお願いします」
「それに、君のメダルも」
 そう言うと、ヴィルジニーは白に鮮やかな青い花がちりばめられたマントを翻して、冒険者の酒場から颯爽と去っていった。

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参加者
風色の灰猫・シェイキクス(a00223)
明告の風・ヒース(a00692)
ニュー・ダグラス(a02103)
ねこまっしぐら・ユギ(a04644)
紅・フラト(a07471)
久遠槐・レイ(a07605)
紅は何処往く風・クロス(a10188)
闇夜の夢見師・ルシア(a10548)
闇夜を護る月の刃・カルト(a11886)
白の預言者・ティナ(a13994)
NPC:天水の清かなる伴侶・ヴィルジニー(a90186)



<リプレイ>

「では、盗賊たちも、彼らを追った町人たちも、誰一人として森から帰っていないんだな?」
 灰がかった羊皮紙に羽根ペンを軽やかに走らせながら、ニュー・ダグラス(a02103)が言うと、臙脂の矢羽根を背負った青年、明告の風・ヒース(a00692)が首肯きながら応えた。
「町の人たちが帰らなくなってからは、盗賊たちもなりをひそめているみたいだね」
 愛用の黒いコートにすらりと伸びた身体を包んで、誘ヒ紫蜘・ユギ(a04644)がふたりの会話に加わる。
「町の人たちは、盗賊に捕まってるのかな? なら、まだ対処のしようがあるけど……。強い香り、とやらが原因だとしたら厄介なのよね」
「そうだな」
 短い返答を返しながら、ダグラスが肩にかけていたロープをほぐしていく。その先端がヒースの細い胴を一周し、腰の辺りで固い結び目がこしらえられた。
「あら」
 と陽気に絶句してみせたのは、紅・フラト(a07471)だ。彼女とユギの見合わせた顔からは目を逸らして、ヒースは肩を落としている。ダグラスは、友人を搦め捕ったロープを握り、笑顔で森の入り口へと歩いていった。
 
 風色の灰猫・シェイキクス(a00223)がやって来た。彼はファリノスの姿を認めると、「おう! 元気だな!」と声をかける。涙目の少年が、目元をこすりながら首肯いているのを見て、少し安心しながらシェイキクスは言った。
「大切なもんだしな、絶対に見つけて取り戻してやるぜ!」
 少年を囲む輪が広がる。フラトやダグラスたちが合流していた。
 歩み寄ったヒースの胴から伸びるロープと、その先にある笑顔を順番に眺めて、ファリノスは唖然としている。上着を手にしながら、ヒースは優しく語りかけた。
「必ず取り返してきます……待っていて下さい」
 薄着の少年に肩から服をはおわせて、頭をなでるヒース。ファリノスは照れたような、困惑したような顔をしている。優しくされることに、慣れていないのだ。
 そんなふたり――ロープで繋がる三人――の光景は、黒い瞳に映っていた。けれど、月爻蝶・レイ(a07605)は言葉をかけることなく、暗い森の入り口へと向かう。彼女は想っていた。
(「……頼る人がいないのは辛いよ、ね……力になれればいいな……」)
 
 男はふらふらと覚束ない足取りで、右往左往、小さな円をいくつも描きながら近づいてきて、冒険者たちに助けを求めた。
「たったっ、助けてくれ〜」
 腹に力が入っていない、空気が抜けるような声だった。
「もう、大丈夫ですよ。他の人たちは無事ですか?」
 介抱しながら尋ねたのは、蒼き月光の守人・カルト(a11886)だ。彼は森の小道に残されたわずかな足跡や、折られた下草の葉などを手掛かりに、皆をここまで導いていた。
「はっ、花がぁ〜」
 と言うなり、男は白目を向いて倒れてしまった。疲労のあまり、気を失ってしまったのだ。
 白の預言者・ティナ(a13994)が駆けていく。戻ってきた彼女が手にしていたのは、さきほど渡ったばかりの小川から汲んだ冷たい水だった。男の唇を湿し、意識を取り戻させると、ゆっくりと口へ流し込んでいく。そうしながら、ティナはカルトに考えを伝えた。
「香りはお花? 踏み荒らされている土って……」
 咳き込んだ男の背をやさしく撫でながら、ティナは訊いた。
「ダンスをしてたの……?」
 激しく首肯く男。言葉にはなっていない。
「どういうことですか?」
 カルトの問いに、ティナはこう答えた。
「森にお花が咲いて、その香りでみんなはダンスしてるの。ティナはそう考えたの」
 太陽の申し子・クロス(a10188)も、大人たちの不明には、何らかの大きな力が作用していると考えていた。赤い髪を手櫛で梳かしながら、口を開く。
「警戒しましょう。混乱した人たちが襲ってくるかもしれませんしね」
 地に横たわったままの男は、寝息をたてている。その手足には、無数の擦り傷が残されていた。衣服にも解れが見える。棘の薮にでも飛び込んだのだろうか。
 小さな唇を尖らせながら、闇夜の夢見師・ルシア(a10548)が不安げに言った。
「クロス……はじめての依頼なんだから、気をつけないとだめよ……心配しているんだからぁ……」
「そうですよ」
 と同意を示したカルトだったが、ルシアにとってはこの少年も心配の種のひとつであるらしい。
「……カルト、これ以上怪我したらまた泣くから」 
 
「ありがとう」
 少年たちが少女をなだめている間に、エンジェルの医術士・ヴィルジニーはヒースから口を覆う布地を受け取っていた。光沢のある絹が幾重にも重ねられたものである。
「……ありがとうなぁ〜ん」
 伏し目がちにヒースの顔を見つめ、ティナが礼を言っている。少しひとみしりする性質なのだ。
「これも、入れときなさい」
 そう言うと、フラトはヒースの口元から布地をひっぱって、出来た隙間にハーブの葉を挟んだ。布地と布地の合間に、香草の層ができることで、吸い込む空気が清々しくなる。ティナもヴィルジニーも、フラトに香りたつ緑の葉を挟んでもらった。
「ベベウが見た高揚した状態の確認だな」
 シェイキクスは森の異変に気づいていた。狩人の家で育った彼は、豊かな緑の中に息づいているはずの動物たちが、あまりに姿を見せないことを奇異と感じていたのである。多くの人々がやって来たこともあるのだろう。そして、彼らに高揚感をもたらした、謎の花の関与がある。
 獣達の歌を使い、情報を得ようとしていたフラトも、まずは対象を探しだすことからはじめねばならなかった。
「これは……人数から考えて盗賊たちのものじゃないかな」
 無数の足跡を指し示して、ヒースが言う。ダグラスは視線を足下から、木立が枝を伸ばす上方へと移した。慎重を期するためにも、注意は分散させておかなければならない。
「あれは……」
 おずおずとティナの人差し指が向けられた先には、外壁が朽ちて崩れかけた、一軒の山小屋が傾く姿があった。
「いい? 行くわよ」
 声を潜めながら、フラトが戸口に立つ。長い刃が空を薙ぎ、腐りかけていた戸板が両断された。シェイキクスとダグラスが弓を構え、頭を低く下げたレイとカルトが室内へ斬り込んだ。
「カルトっ!」
 飛び込んできたルシアが目にしたのは、構えを解いた仲間の姿と、室内の閑散とした光景であった。
「アジトらしいな」
 ダグラスの言葉に皆が首肯く。もぬけの殻となっていた室内には、まだ新しい、火を焚いた跡が残されていた。強盗たちが活動の拠点とする場所がここであるならば、強盗たちはもちろん、町を出発した追っ手たちの姿が見られてもおかしくはない。
 がさがさと葉が揺れて、逆さになったユギの顔がのぞく。アジトの外、高い木に登って周囲を遠眼鏡で注視した。その結果は……。
「北に開けた場所があるみたいなの」
 指先に宿らせた青い羽根の小鳥を空へ帰すと、レイが呟いた。
「……たくさんの人間たちが、地面で羽ばたいてるって……」
 
 
 ザッザッザッ。
 地面を踏みならす音が響いている。一定の調子を崩すことなく、ひとりの脱落者を出すこともない。
「ありゃあなんだ?」
「躍らされてるのかな?」
 シェイキクスとヒースの顔に驚きが浮かぶ。
 森の広場に立ち篭める砂礫に包まれて、無数の人々が腕を振り回し、高く上げた足を一斉に降ろす。振動が伝わってくる。
 太った人、年老いた人、見た目で悪党だとわかる人……すべてが、同じ動きを強いられている。とても奇妙な光景だ。
「頼んだぜ」
 ユギとヴィルジニー、ティナがシェイキクスの求めに応じて前に出る。彼らは毒消しの風を揃えて用意していた。
 だが、その前に、ダグラスが握っていたロープを引いた。ヒースがとぼとぼと前方へ、ダグラスはといえば、混乱したヒースが逃げてしまわないように? ロープの先端を腕に巻き付けている。
「ヒースさん、ご武運を、です?」
 ルシアに見送られて、ヒースは歩き、ロープが伸びていく。マスクを外し、冷たい空気に晒された彼の口元がきつく閉じられる。振り返って、ヒースは言った。
「僕に異常があれば、香りにやられた人への対処をそこから割り出して下さい」
 かくして、彼は自らを異常な事態の究明のため捧げたのだった。 
 
 しばらくは何も起こらなかった。だが、ヒースがまさに踊り狂う人々のそばへ近寄った瞬間、皆がターンを決めた。回転する数々の腕によって殴打され、転倒したヒース。ダグラスが身を案じたのか、立ち上がるように促したのか、ロープを強く引いた。
 ヒースは身をよじり、回転しながら立ち上がった。だが、仲間の元へは戻らなかった。舞踏する人々の最前列で、ただひとり切れのよいダンスを――他の人々は疲労困憊していた――披露し始めたのだ。
 ティナがハートのステッキを揮う。すると、踊る人々のステップによって硬く踏みならされた地面が仄かに光を放った。
 そこへ、ユギとヴィルジニーが風を起す。正気に戻ったヒースが、皆に向かって叫んだ。
「踊るみんなの奥に、何か大きな物がいるみたいだよ!」
 彼のロングボウに矢がつがえられる。赤い矢羽根を耳元にまで引き絞り、ヒースの放った矢は宙へ向かったが、鋭い弧の軌跡を描いて踊る人々の頭を越えた。
「援護するぜ、行ってくれ!」
 弓を――ついでに賭事も――教えてくれた師から譲り受けたシャウラ・タラゼドを構え、シェイキクスが皆に伝えた。踊る人々の中には、あまりに陽気な束縛から解放され、地面に倒れている者の姿がある。けれど、大半はまだ踊り続けるばかりだ。
 風を切ったシェイキクスの矢に続いて、レイは踊る人々の側面へと回り込んだ。だが、敵は踊る人々を丸く円とし、その中央に控えているようだ。その時、人々が高く舞い、そして、しゃがみ込んだ。砂礫の向こうに、緑の影が見える。レイは指先に生じさせた刃を投じ、敵は深々と幹を穿たれた。
 ダグラスは未だにしっかりとヒースから伸びるロープを掴んでいた自分に気づき、苦笑しながらジュエルソードを振り抜いた。記述された耀う紋章から、黄金の光があふれ、まるで雨の様となり敵に吹きつけられた。
「ルシア!」
 茶色のカルトの瞳が見つめている。ルシアは首肯くと、術式手套『因果』をはめた小さな手を前方に突き出し、眠りへと誘う歌を唄った。溜息を漏らしながら、人々が地に横たわっていく。やっとの休息なのだろう。
「動きが止まったわ、今よ!」
 風雲ロングソードを抜き放ち、疾風のごとく駆け抜けるフラト。折り重なるようにして倒れる人々の身体を飛び越え、砂のベールで覆われていた敵の身体へと迫る。稲妻を帯びた刀身に確かな手応えが伝わってくる。フラトの瞳に映った相手は、巨大な幹と地表を這う長い根を持つ植物であった。
 顔を覆っていた黒頭巾を投げ捨てて、クロスは両手に双剣『紅陽』と『双牙』を配し、大きな影を持つ魔性の植物へと駆けた。鞭のようにしなる枝をかわし、間合いを詰めた彼は、次々に敵の樹皮を切り裂いていく。
 カルトは短剣を逆手に持ち、敵の後方へと回り込んでいた。右手に『深蒼』、左手に『輝閃』が握られ、その石の刃を冷たく光らせている。植物の側面をカルトが走り抜けた。軋む音を立てながら、植物が枝を振り回している。だが、その幹の根元近く、カルトの腰辺りの高さで、真直ぐな切断面が現われ、とうとう敵は胴を別ち、倒れてしまった。
「や……やったのかな? ……やったぁ〜」
 敵が動かないか確認をしていたルシアだったが、もう大丈夫のようだ。笑顔を浮べて、クロスの背中に飛びついている。ふんわりと抱きついてきた少女への、照れ隠しだったのか、少年は髪へと手を伸ばしていた。
 
 倒れていた人々は、いっせいに喉の渇きと、身体の節々が痛むことを訴えてきた。
 冒険者たちは、彼らに命の危険がないことを安堵していたが、50名を越える人々である。その介抱には苦労していた。
 人々を躍らせていた植物を倒し、人々を無事に解放したとはいえ、目的がまだ残されている。ファリノスのメダルを奪った悪党たちを捕え、少年の宝物を奪い返さねばならない。
 当初、見分けがつかないならすべての人々を縛ってしまうと主張した彼だったが、ヒースが縄目の厳しさについて涙ながらに訴え、若く体力があったせいか話を聞くことができた町の青年の助力を得て、町の人々ではない人間が誰であるのかが判別された。
 ダグラスが羨ましかったわけではないのだろうが、ユギは悪党の親玉らしき人物から伸びる荒縄をしっかりと握っている。
「白状しなさい」
 と鉤爪を光らせながら、案外楽しそうに脅しをかけている。
 そこへ、笑顔のシェイキクスが近づいてきた。さわやかな笑顔に、親玉はほっと安堵の息を吐いたが束の間、口の端をあげて笑う青年は白い歯を光らせて、こう言った。
「正直に吐くなら良し、吐かねぇなら……」
 放たれた矢が、打ち倒された植物の幹に突き刺さり、矢羽根の尾しか見えていない。その威力に、強盗団の成員たちはすくみあがっている。
 レイは、静かに問うた。
「……メダルはどこなの……」
 白状しないばかりか、卑しい笑みすら浮べるひとりの悪党のはなっつらを、レイの拳が掠めた。軽く払われた一撃であるのに鼻を潰され、男が子供のような悲鳴をあげている。
 首を小刻みに振る男へ、ルシアは手を差し出した。ようやく観念したのか、強盗は視線を上着のポケットへと向ける。中にメダルが収まっていた。
 
「誰にとっても、心の拠り所や想い出は大切なものだよね……」
 ヒースからメダルを受け取り、ファリノスの瞳が涙でうるむ。気勢を張っていたが、相当に不安だったのだろう。
「大事なもんは盗まれねぇよう、今度は気ぃつけろよ」
 シェイキクスの言葉にも、少年は珍しく素直に応じている。
「文字を見せてくれねえか?」
 そんなダグラスの求めにも、ファリノスは快く応じてくれた。メダルの側面を指差しながら、まじまじと見つめるダグラスに説明する。
「ここんとこに刻みがあるだろ? 四つ揃ったら読めるんだと思う。そうしたら、お宝が手に入るんだ!」
 喜ぶ少年を、ティナは静かに見つめていたが。そっと歩み寄って言った。
「ひとりじゃないのは楽しいことなの」
「え?」
 ファリノスは驚いている。わけがわからないようだ。
「メダルも大切だけど、ティナには家族はいないけど、義理のおとーさんたちならいたの。だから、ひとりじゃないのは楽しいことなの」
「そういうもんかなぁ……ひとりに家族ねぇ……」
 輝くメダルを見つめながら、やけに神妙な少年であった。
 
 こうして、ひとつのメダルがひとりの後継者の元へと戻った。
 残りはあと3枚、あと3人。


マスター:水原曜 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2005/02/10
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